様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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3.スネイプ(とついでにトロール)イチコロ作戦

 

 ハリーはグリフィンドールだけど、マルフォイとそれなりに仲がいい。その影響か、スリザリン生もハリーには少しだけ優しいし、ちょっとだけ話すこともある。

 それが絶対ダメってことじゃないんだけど、僕からしたらやっぱり⋯⋯なんかなぁ⋯⋯。

 と、いう内容を婉曲的に伝えたところ、ハリーは「男の嫉妬は醜いよ」とウィンクをしてきた。

 

「しょうがないだろ?僕ってば人気者だから」

「それはそうなんだけど、自分で言うなよ」

 

 ハリーはこんなだけど、それが面白いのか、誰からも好かれている。ネームバリューだけじゃなくて、そこはすごいなって思う。

 それに比べて彼女は⋯⋯と、僕は視線を右側に向ける。そこには、本を読みながら朝食を取るハーマイオニーの姿がある。

 ハーマイオニーはガリ勉だ。いつもあんな感じだから、碌に友達もいない。それに、上から目線で話してくる感じも良くない。

 ハーマイオニーの嫌な感じは、早速今日の授業で発揮された。

 

「ウィンガディアム・レヴィオサー!」

 

 僕は杖を振った。しかし、何も起こらない。おかしいな?

 

「おかしいのはあなたの口よ」

 

 隣のハーマイオニーが鼻を鳴らす。

 

「発音が間違ってるもの。正しくはレヴィオーサ、あなたのはレヴィオサー」

 

 僕はむっとして言い返した。

 

「そんなによくご存じなら、是非君にやってみてほしいね!」

「いいわよ、ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 

 すると、机の上の羽がふわりと浮き上がった。

 フリットウィックが大きな拍手をして、クラス中の視線がハーマイオニーに向く。

 

「皆さん、グレンジャーさんがやりましたよ!」

 

 ハーマイオニーは自慢げに僕を見る。その目が僕を馬鹿にしているようで、猛烈に腹が立った。自分が人よりできるからって何だよ!

 授業後、僕はハリーと並んで歩きながら不平不満をぶつけた。

 

「何だよあいつ。人を馬鹿にして。そんなんだから、友達が一人もいないんだよ」

「あー⋯⋯」

 

 ハリーが微妙な顔をした瞬間、後ろからやって来たハーマイオニーが肩にぶつかり、そして通り過ぎていった。

 

「⋯⋯泣いてたね、ハーマイオニー」

「構うもんか」

「⋯⋯本当に?」

 

 ハリーの緑色の瞳と真っ直ぐにぶつかり、少し決まりが悪い。でも、僕は間違ってない⋯⋯はずだし⋯⋯。

 

「そ、そんなことより!今日はハロウィンだろ?パーティー楽しみだな」

 

 僕は無理やりテンションを上げて駆け出した。

 

 

*****

 

 ハロウィンのご馳走は、本当にすごかった。家じゃこんなに食べられないし。

 

「ハロウィンってすごいね!たらふく食べよっと。あ、君の分も載せてあげるよ」

「うん、ありがとう」

 

 僕がハリーの分も取り分けていると、突然、ハリーがガサゴソと鞄を漁り始めた。そして、ウィッグを取り出す。

 

「そうそう、仮装するの忘れてたよ。せっかく準備してたのに」

「仮装って⋯⋯それ?」

 

 僕は、ハリーが装着した赤毛のウィッグを指差した。それは肩を優に超える長さで、

 

「で、眼鏡を外せば⋯⋯よし、完璧!」

 

 赤毛に緑目という美少女が完成した。中身は変わらずハリーなのに、見た目が変わるだけで僕の心臓はビートを刻む。

 

「わぁ、ロンの肌が髪の毛と同じ色だね!」

「その見た目で僕に微笑まないで。惚れる」

「え、うん⋯⋯?」

 

 落ち着け僕!あれはハリー・ポッターさんだぞ。組み分け帽子にチョコを突っ込んだ男だぞ。

 よし、落ち着いた。

 

「なんで急に女装を?」

「悪戯だよ。名付けて、『スネイプイチコロ作戦』」

「は?」

 

 何をおっしゃられているんですかね?

 

「スネイプの好みは赤毛、緑目と聞いて」

「誰から聞いたのさそれは」

 

 どうやらハリーは、スネイプのハートを盗むつもりらしかった。余計に意味が分からない!

 スネイプはマクゴナガルと話していて、ハリーには見向きもしていない。それなのにハリーは、「まあまあ、見るタイミングはすぐ来るよ」と意味深に笑うだけだ。

 

「そしてロンよ」

「なに?」

「唐突な尿意が僕を襲う!」

「知るか!」

「連れションしてほしい」

「一人で行けよ」

「こんなハロウィンの日に!?一人でトイレ!?悲しすぎるとは思わないかい?」

「用を足すくらいなら別にいいと思うけど?」

「ちなみに今、ハーマイオニーはトイレで泣いているよ」

 

 「え」という間抜けな声が僕の口から漏れた。ハーマイオニー⋯⋯?僕のせい、だよね⋯⋯。

 一瞬だけ見えた、ハーマイオニーの涙が脳内をよぎる。

 

「⋯⋯君のトイレに付き合ってあげるよ」

 

 僕は席を立った。

 

 

*****

 

「やぁ、ハーマイオニー。僕だよ僕」

「⋯⋯誰よ」

「ハリー・ポッターと残念な男、ロン・ウィーズリーだよ」

「⋯⋯」

 

 個室の中で、ハーマイオニーが鼻をすする音がした。

 

「何しに来たのよ、こんな⋯⋯女子トイレまで」

 

 ハリーが無言で、僕の脛を蹴る。ハーマイオニーと話せ、ということだろう。

 

「あー、その⋯⋯言い過ぎたことを、謝りに来たと言いますか⋯⋯なんというか⋯⋯」

「⋯⋯いいえ、もういいわよ。どうせ、私に泣かれると面倒だから、仕方なく来たんでしょう」

「そんなんじゃない!僕は、謝りたいんだ。本当に、ごめん。君は、僕の間違いを指摘しただけなのに⋯⋯」

「⋯⋯」

「だいたい、仕方なく謝るんだったら、わざわざ女子トイレに入るとかいう通報待ったなしの行動はしないよ!」

 

 隣でハリーがぶふぉっと吹き出した。汚いな。

 それに釣られたのか、個室からもふふっという笑い声が聞こえてきた。

 

「なので、その⋯⋯許してくれるなら、早くトイレから出てきてくれないかな?あんまりにも気まずくて⋯⋯」

「あと十五分くらいは篭ろうかしら。あなたへの罰としてね」

「ほんとにやめてください。ごめんなさい、反省してます」

 

 早口で言い募ると、個室の扉が開かれた。そして中から、涙目のハーマイオニーが出てくる。

 

「私も、ごめんなさい。上から目線に言ってしまって。言い方には、気を付けるわ」

「⋯⋯うん、ごめん」

 

 とここでハリーが、人数分のグラスにかぼちゃジュースを注いだ。⋯⋯待って、どっから出てきた?

 

「よし。仲直りもしたところで、僕らの友情に乾杯!」

「「乾杯!」」

 

 なんとなくグラスを合わせたところで、ふと我に返った。

 

「って、なんでトイレで乾杯してるのさ。大広間に戻ろうよ」

「いやいや、ここでやることに意義があるんだよ。僕たちの友情は、女子トイレで始まったんだし」

「⋯⋯なんか、嫌ね」

 

 ハーマイオニーが顔を顰めた。そして、ふとハリーを見て言った。

 

「あなたはどうして女装をしてるの?」

 

 至極真っ当な疑問だ。

 「それはねぇ〜、」とハリーが説明を始めようとしたタイミングで、トイレの外から、何か大きな音がした。⋯⋯人が来た?それにしては、なんか音が大きすぎる気がする。

 いや、なんにせよ、女子トイレにいることが誰かに見られたら困る!目が合った瞬間、死を覚悟せねばなるまい。そう、社会的な死──。

 「やあ」みたいな感じで顔を見せたのは、トロールだった。

 

「仲間になりたそうに、こちらを見ている」

「⋯⋯そんなわけないだろハリィィィィー!!」

 

 社会的どころではないッ!あるのは、肉体的死のみッ!

 

「お、おおおおちちちつきなさい!」

「あまりの恐怖に、ハーマイオニーがクィレル化した」

「冷静に実況しないでハリー」

 

 絶体絶命の状況だった。それなのにハリーは余裕な顔で、僕に囁く。

 

「ロン、君ならできる」

「ここに来て他力本願かよ」

「トロールの棍棒に向かって、ウィンレヴィするんだ」

「ウィンレヴィって何だよ。分かんねーよ」

 

 『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』の略だと気付いたときには、棍棒が上から降ってきていた。

 

「総員、回避ぃぃぃぃっ!」

 

 僕たちは慌てて横に転がった。へしゃげた便器の破片が足元に飛来し、心臓が縮み上がる。

 僕は杖を取り出し、「なんとかなれーっ!」の精神で振り回す。

 

「う、ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!」

 

 トロールの手から棍棒が離れ、ふよふよと天井まで浮き上がる。

 だが、そこで魔法が切れた。しょうがないよ、一年生だもの。

 重力に従って、棍棒は真下──つまり、トロールの脳天目掛けて落下した。

 白目を剥いて倒れるトロール。

 僕は恐る恐るトロールに近付いた。

 

「⋯⋯意識は、ないね」

「これ⋯⋯死んだの?」

 

 ハーマイオニーが震える声で囁く。

 まさか、とは思うけど、トロールは微塵も動かない。

 ハリーが顔を覆って、泣き真似を始める。

 

「ぐすん、ぐすん。アズカバンでも頑張ってね、会いに行ってあげるから」

「え、僕犯罪者になっちゃったの?」

「だ、大丈夫よ!トロールに人権なんてないから!」

 

 ハーマイオニーが少々やべー発言をかましたところで、バタバタと先生たちが駆けつけてきた。

 

「姿が見えないので探しに来たら⋯⋯これはどういうことですか!」

「ああ、マクゴナガル先生⋯⋯。今はあなたの怒号でさえも愛おしいです」

「⋯⋯彼は頭でも打ったんですか?」

 

 キショいことを言うハリーに、マクゴナガルは冷え冷えとした目線を返した。尚、頭を打ったのはトロールの方だけど。

 トロールを確認していたスネイプが立ち上がった。その足に、何やら傷があるのを僕は見逃さなかった。

 

「気絶している。貴様らがやったのか?⋯⋯って、はわわ!」

 

 はわわ?

 

 突然スネイプの口から発せられた、あまりにもスネイプからは程遠い言葉に、僕は首を傾げた。

 スネイプは一点を見つめて固まっている。その視線を辿ると、ハリーに行き着いた。

 そう、赤毛で、かつ眼鏡を外し、その緑色の瞳を惜しげもなくスネイプに向けているハリー・ポッターである。

 

「セブルス?どうしたんですセブルス」

 

 怪訝に思ったマクゴナガルが問いかけるも、スネイプは答えない。いや、答えられないと言った方が正確か。

 スネイプは、およそ生徒に向けるべきではない感情を──はっきり言えば、恋慕の念をその顔に浮かべていた。

 そのことに気付いて、僕はこう思った。

 

 え、キモ。

 

「⋯⋯セブルスが遥か遠くに行ってしまいましたので、私が話しますけれど。運が悪ければ、そこに転がっていたのはあなたたちだったんですよ?どうしてパーティーを抜けて、こんなところにいたのですか?」

 

 僕は全てを──ハーマイオニーを泣かせたことを話そうとした。しかし、それを制したのはハーマイオニーだ。

 

「みんな、私を探しに来たんです⋯⋯。わ、私、ハロウィンだから浮かれて食べ過ぎてしまって⋯⋯それを彼らが、心配して」

「食べ過ぎ」

 

 ハーマイオニーの口から飛び出た言い訳を、マクゴナガルは鸚鵡返しして固まる。そして、咳払いをした。

 

「⋯⋯それは仕方ないですね。では、トロールと対決したその勇敢さを讃えて、一人五点差し上げます」

 

 思わぬ得点に、僕たちは顔を見合わせた。

 

「それからミス・グレンジャー。食べ過ぎには注意しなさい」

「⋯⋯はい」

 

 ハーマイオニーは恥ずかしそうに顔を伏せた。僕を庇うために、あんな嘘をつくなんて⋯⋯。

 

「甘いですぞ」

 

 自我を取り戻したスネイプは、気難しそうに鼻を鳴らした。

 

「目立ちたがり屋のポッターは、怖いもの見たさでトロールを探しに来たに決まっている。グリフィンドールから二十点げん、」

「おっと、目にゴミが!」

 

 スネイプの言葉を遮るように、大声を上げるハリー。そして、片目を瞑った。

 すなわち、ウインクである。

 

「はわわ!」

 

 スネイプは心臓を押さえて鳴き声を上げた。心底気持ち悪いなと思いましたね、はい。

 

「セブルス?⋯⋯駄目ですね、気絶してます」

 

 マクゴナガルの顔もドン引きしてた。

 

「えー、まぁ⋯⋯皆さんは寮に戻りなさい。トロールとセブルスの処理はこちらでしますので」

 

 しれっとスネイプも処理されそうで草。

 

 

 




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