様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代) 作:夜風ミシェル
クィディッチシーズンの到来である。
そして明日は、ハリーの初戦でもある。
「いいかい、ハリー。相手はいけ好かないスリザリンだ。殺意を持って試合に臨んでね」
「ウッドと同じこと言ってて草」
「スニッチも敵の玉も握り潰しちゃえ!」
「ロン⋯⋯?中の人変わった?」
「自分は常識人です」みたいな顔して後退するハリー。さらに詰め寄ろうとしたら、ハーマイオニーが割って入った。
「やめなさいロン。ハリーは緊張してるんだから」
「そうそう」
ここぞとばかりにハーマイオニーの後ろに隠れるハリーだけど、その顔はどう見ても緊張してなかった。
でも、ハーマイオニーにはそれが分からないようで、深くため息をついた。
「全く。ロンったら、自分の課題も一人でできないくせに、人のことには口を突っ込むんだから」
「う⋯⋯」
ぐうの音も出ない。
トロールの一件以来、僕たちは急速に仲良くなった。ハーマイオニーの高飛車な物言いは鳴りを潜め、色々と手伝ってくれるようになった。元々世話好きだったのだろう。
僕としても、課題に手を貸してくれるハーマイオニーの存在はありがたかった。
「平伏します、ハーマイオニー様」
「いきなり何よ⋯⋯」
「僕のことも崇めてよ」
「うるさいぞハリー」
「即答、酷い」
常日頃から崇め奉られたい欲の強い男がなんか泣いてた。
そして彼は、再び泣くことになる。
ハリーははりきって『クィディッチ今昔』という本を読んでいたが、通りがかりのスネイプに言いがかりを付けられたのだ。「図書館の本は外に持ち出してはならない」とかなんとか。
多分、スネイプはハロウィンの日に醜態を晒したのが恥ずかしいんだろう。プライドを取り戻すためにこんな難癖をつけてきたに違いない。
本を取り返しに行ったハリーが慌てた様子で寮に戻ってきたのは、夜が深まりつつある頃だった。
「本、返してもらえた?」
「それどころじゃないんだ」
ハリーは、先ほど見たという事柄を全て話した。
「ハロウィンの日、スネイプが足に怪我をしてたのは君たちも知ってるよね?」
「うん、痛そうだなって思ったけど⋯⋯」
「あれ、三頭犬にやられたみたいなんだ。ほら、あの。四階廊下を守ってるやつに」
⋯⋯三頭犬?
僕とハーマイオニーは顔を見合わせた。
「「何の話?」」
「えっ?⋯⋯⋯⋯あ」
「しまった」と言いたげな表情のハリーに、ハーマイオニーが詰め寄った。
「四階廊下って、確か出入りが禁じられてたはずよね?あら、ハリー?」
「⋯⋯あー、オーケー、聞かなかったことに⋯⋯」
「できるわけないわよね」
そりゃそうだ。
ハリーは項垂れた。
「三頭犬⋯⋯ケルベロスは、何かを守るために配置されたんだ。足元に扉があって、そこを通らせないようにしてる」
「詳しいわね。流石、校則を破っただけあるわ」
「⋯⋯⋯⋯そ、そっすねー」
「目ぇ逸らしてんじゃないわよ」
「はい、すみません。ハーマイオニー様」
ハリーは、ハーマイオニーに平伏した。なんて情けない姿なんだ。一応君、英雄だとかなんとか呼ばれてますよね?
もう見ていられなくなったので、僕は、さりげなく話を逸らすことにした。
「ま、まぁまぁ!明日はハリーの初戦だよ。そろそろ寝た方がいいよね、うん!」
「ちょっと!」
僕はハリーの背中を押すと、ハーマイオニーの追跡から逃れるように男子部屋に入った。
*****
試合当日は、快晴だった。うーん、幸先いいね。
僕たちは競技場に向かった。ハリーは、選手控え室だ。頑張ってほしい。
試合の準備を待っていると、競技場いっぱいに大声が響き渡った。
『レディース&ジェントルマン!ついにこの日がやって来た!グリフィンドール対スリザリン!そしてそして、かの有名人、ハリー・ポッターも参戦だ!どう思いますマクゴナガル教授』
『そうですね、勝ち確でしょう』
『おおっと自信満々だ!流石、ハリーを選手にするためにあらゆる手段を講じた女だ。噂では、頑なに認めないスネイプをとある秘密で脅したとかなんとか聞きますけど、そこのところどうなんでしょうか?』
『なんの話でしょう。冗談は顔だけにしなさい』
『ははは⋯⋯。冗談ですよね?あ、ちなみに僕の名前はリー・ジョーダンです。マクゴナガル先生と共に実況を務めさせてもらいます。よろしく!』
自然な流れで自己紹介を差し込むその手腕に、僕はすっかり感心してしまった。
「凄まじい語りだったね。台本?」
「無粋な詮索はやめましょう。そろそろ開始かしら?」
ハーマイオニーの予想通り、選手がぞろぞろとスタジアムに並び始める。
そして、フーチのホイッスルが試合開始を告げた。
『さぁさぁ、勝負の始まりだ!』
マントを靡かせ、プレイヤーは一斉に空へと旅立った。
「あ、ハグリッドだ」
グリフィンドールの観客席にふらっと現れた巨体に、僕は手を振る。すると、それに気付いたハグリッドが近付いてきて、「詰めてくれ」と席に座った。
「今はどんな感じだ?」
「ハリーは上空で待機してる。まぁ、シーカーは狙われやすいからね」
それに、スニッチは動きが速い。体力を温存しておかないと、追いつけなくなるだろう。
「ハリー、頑張れーーー!!」
大声で叫ぶと、それが聞こえたのか、ハリーは親指を立てる。いや集中してくれ。
『ポッター選手、非常に余裕そうだ!そこに容赦なく叩き込まれるブラッジャー!おお、難なく躱しました』
『流石ですね』
『これにはマクゴナガル先生もにっこり。⋯⋯っておお?どうやらスニッチを見つけたようです!一気に降下していきます』
僕は目を凝らす。だが、スニッチを追えたのは一瞬だけだった。双眼鏡を持ってるハグリッドも、諦めて匙を投げた。
ハリーは凄まじい速度で飛んでいるが、突如、その態勢が崩れた。
『危ない!ポッター選手、箒から落ちそうになります!これは一体、どういうことだ?』
先ほどまでの安定感はどこへやら、ハリーは必死に箒にしがみつくことしかできていなかった。箒のコントロールができなくなったのだろう。でも、どうしてこんな突然に?
「ハリーの飛行術は天賦の才よ。あんなふうになるなんて考えられない。となると、誰かの妨害⋯⋯?」
ぶつぶつ呟いていたハーマイオニーは、何かに気付いたような顔をすると、ハグリッドから双眼鏡を奪い取った。
「見て、スネイプが何か唱えてるわ!」
「え?」
「ちょっと邪魔してくる」
言うや否や、ハーマイオニーは観客の間を縫ってスネイプに近付く。
そして、ローブの裾に火を付けた。その躊躇いの無さと言ったら!空いた口が塞がらないよ。
一番やべーのはハーマイオニーだったかもしれねぇ⋯⋯と震えつつ、ハリーの様子を窺う。
箒の暴走はすっかり落ち着いていた。やっぱり、スネイプが呪いを掛けてたんだ。
でも⋯⋯どうして?
*****
試合はグリフィンドールの勝利。だが、喜びに浸るのもそこそこに、僕たちはハグリッドの小屋に集まっていた。
「スネイプが」
「ハリーをガン見で」
「呪ってた」
一句かますと、ハグリッドは嘆息した。
「息ぴったりだな。でも、そんなことはありえん」
「いいえ、だって私がスネイプに火を付けたら、ハリーの箒が落ち着いたのよ?どう考えたってスネイプが犯人じゃない!」
「ちょっと待て。スネイプに火を付けた⋯⋯?お前さん、何やってんだ?」
うーん正論。でもハーマイオニーは、挫けない。
「そこは重要じゃないわよ!」
「重要だろうが!スネイプ、泣くぞ?」
「勝手に泣いてなさい!」
「⋯⋯と、とにかく、スネイプはそんなことせん。話は終わりだ。早く帰って──」
「話を聞いてくれないなら、あなたの髭を燃やす」
「──くれと思ったけど、やっぱり、うん、帰らないでいいな、はい⋯⋯」
ハリーがこそっと僕に囁く。
「なんて酷い会話なんだ。ハーマイオニー、こんなキャラだったっけ⋯⋯」
「恐らく、君の影響をモロに食らってるね」
「?」
ハリーよ、どうしてそんな、『純粋に意味が分からない』とでも言いたげな顔ができるんだ?
脅されたハグリッドは、仕方なく話を促す。
「なんでスネイプ先生が、そんなことせにゃならん?」
「スネイプは、ハリーのことが嫌いなの!授業でもしょっちゅうネチネチ絡むし!そのくせこの間、女装したハリーにときめいてたし!」
「前半はともかく、後半の話はなんなんだ。文脈がおかしいぞ」
「つ、つまり⋯⋯愛憎入り混じってるってことじゃないかしら?こ、殺したいくらい愛してる⋯⋯?」
ハーマイオニーは何を言ってんだ?成人男性のこじらせは、かなり⋯⋯キツいな⋯⋯(これでもかなり言葉を選んでる)。
自分で言いながらハーマイオニーも顔面蒼白である。ハリーは白目を剥いていた。
「さっきから話がおかしくないか。それだけでスネイプを犯人扱い?お前さん、ちょっとそれは無理があるんじゃ⋯⋯」
うぐ、と言葉に詰まるハーマイオニー。少しだけ躊躇ってから、こんなことを言い出した。
「スネイプは足を怪我してる。あれは⋯⋯四階廊下にいる三頭犬にやられたらしいの。ハリーが言うには、三頭犬は何かを守るように配置されてたって。あ、怪しいと思わない?」
「よ、四階!?どうしてそこに行っちまったんだ!」
ハグリッドは分かりやすいくらいに動揺した。視線が落ち着きを失っている。
なんだか、推理小説みたいで面白くなってきた。僕も、ふと思ったことを言ってみる。
「そういえば、確かグリンゴッツからホグワーツに移された品があるんだよね?三頭犬が守ってるのってそれじゃないか?」
「⋯⋯何よ、それ」
そういえば、ハーマイオニーは知らないんだった。僕は、ダンブルドアの頼みでハグリッドが銀行から何かを持ち出した話を聞かせた。するとハーマイオニーの目が、キランッと光る。
「スネイプはトロール騒ぎに乗じて四階に隠された物を盗みに行った。きっとすごく重大な何かをね。けれどあえなく失敗した。そして、なぜかハリーに愛憎を向けて殺そうとしている、と」
「あ、愛憎の下りは譲れないんだ」
なんというか、想像力が豊かだなぁ⋯⋯。
ハグリッドは勢いよく首を横に振った。
「ハーマイオニー、お前さんは間違っとる!スネイプはハリーを呪ったりせん。それにフラッフィーが守っとる物に首を突っ込むな!あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの────」
「ニコラス・フラメル?」
僕は思わず口を挟んだ。そして、しまったと後悔した。あんなにペラペラと喋っていたハグリッドが、慌てた様子で口を閉ざしてしまったからだ。
机の下で、ハーマイオニーに足を踏んづけられた。「黙っとけボケカス!」という意味だろう。酷い。
「と、とにかく!お前さんたちは危険なことに関わっちゃいけねぇ!ほら、早く帰れ」
そして僕たちは追い出された。
得たものといえば、『ニコラス・フラメル』という名前だけ。
ハーマイオニーに尋ねてみたが、彼女も知らないらしい。
「図書室に行きましょう。手掛かりはそこにあるはずよ」
こうして、僕たちの長い図書室ライフが幕を開けた。
*****
クリスマス休暇に入った。
ハーマイオニーは帰省するみたいだけど、僕とハリーはホグワーツに残る。
「二人とも。ニコラス・フラメルのこと調べておいてね!」
「「はーい」」
内心、図書室に篭りっぱなしっていうのに疲れていたから、あんまりやる気はないけれど。
僕たちはハーマイオニーを見送って、寮に戻った。すると、ばったりフレッドとジョージに出くわして、誘われるがままに雪遊びをすることになった。
「食らえ、ロニー坊や」
「必殺・」
「「スネイプアタァァァック!!」」
ダサい技名だ。そのくせ妙に素早い動きで雪玉が投げられたから、避けることもできず僕は倒れ込む。
「うへぇ⋯⋯ってなんかこの雪玉、ねちゃっとしてる⋯⋯」
服を払っても、雪が付いたままだ。⋯⋯この双子、何か細工を施したな。
「ふ、弟よ」
「それは、かのスネイプ教授のように粘着質で、」
「一度目をつけられたら終わりなのさ」
「あ、あとスネイプのベトベトヘアーを模してる」
「最悪だぁ⋯⋯」
僕はげんなりして呟く。
今度の標的はハリーだ。
「君にはこれを」
「マクゴナガルアタック!」
「うおおお、避ける、避けてみせる!」
「もう当たってますよ、ハリーさん」
挟み撃ちという容赦ない戦法に、あえなくハリーは負けた。
「いたっ。ちょっと硬すぎじゃない?⋯⋯って、チョコレート?」
真っ二つに割れた雪玉の中から出てきたのは、アーモンドチョコレートだった。
「マクゴナガル女史はお堅い」
「でも、本当は優しい」
「「それを模したのさ」」
ホグワーツで悪戯ばっかりしてるのに、退学にはならない二人が言うと重みが違うな。なんだかんだマクゴナガルは、フレッドとジョージのことを可愛がってるんだ。
「さ、残りの雪玉も消費しなきゃな。⋯⋯と、お?クィレル先生じゃないですかやだー」
「ひぇっ⋯⋯」
偶々通り過ぎたクィレルは、双子に声をかけられてビビっていた。まぁ、一番の被害者だもんな、あの先生。
「クィレルせんせー、遊びましょー!」
にっこり笑顔で、フレッドは逃げ出したクィレルに雪玉を投げた。背を向けていたため、雪玉はクィレルの後頭部に直撃。ナイスコントロールだ。
それを見たハリーは、妙に生き生きし始める。僕には分かるぞ。こいつ、絶対に碌でもないことを言い始める!
「おっしゃ、ロン!的当てゲームしよう!クィレル先生の後頭部に当てた回数で勝負だ!」
「人の心とかないんか?」
『例のあの人』に倫理観もアバダされたっぽかった。
次回投稿 2/4(水)
ちょっと不親切だなと思ったので、説明を。
実はこの小説、本来ならば付けるべきタグを意図的に隠しています。その理由はずばり、『タグがネタバレになってしまうから』というものです。その要素が地雷という方がいらっしゃったら申し訳ありませんが、この状態で突っ走ります。お付き合いいただけたら幸いです。尚、必須タグではありません。