様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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5.ニコラス・フラメルと知らないおっさん

 

 休暇と言えども、ずっと遊べるってわけじゃない。チェスでハリーをこてんぱんにした後は、真面目に教科書と向き合った。休暇明けに提出する課題がいくつかあるからだ。

 

「ま、こんなものかな」

 

 先に宿題を終わらせたハリーが立ち上がる。

 

「じゃ、僕はこの透明マントで散歩してくるから。あとは頑張れ」

「羨ましすぎる⋯⋯」

 

 僕は、ハリーが手に持っている透明マントを見つめた。

 それは、ハリー宛のクリスマスプレゼントだ。差出人は不明。でも、どうやらハリーの父親の知り合いらしい。手紙にはそう書いてあった。

 取り残された僕は、一人きりの談話室でソファに倒れ込んだ。

 

「⋯⋯つかれたー。ていうかさ、手伝ってくれてもいいと思わない?スキャバーズ」

 

 僕は、自分のペットのネズミにそう話しかけた。するとスキャバーズは、僕を慰めるかのように顔をスリスリしてきた。可愛い。

 

「よーし、ちょっと楽しいことしよう!えーっと、ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 

 杖を振ると、スキャバーズの体がふよふよと浮上した。そのまま左右に揺らしてやると、スキャバーズは驚いたように手足をバタバタさせた。

 

「おっと、ごめんごめん。降ろすよ」

 

 僕は魔法を解いた。でも、スキャバーズは浮いたままだ。あ、あれ?

 

「おかしいな、解けない。え、ちょっと待ってね?」

 

 この前、トロールの棍棒に使ったときは勝手に切れたのに。今度はその逆?まずい、魔力が不安定すぎる。

 いや待って、確か魔法を強制的に終了させる呪文があったはずだ。僕は必死に、呪文学の教科書をめくった。

 確か発展として、このあたりに載ってたはず⋯⋯。

 

「あった!フィニート・インカンターテム!」

 

 落下予測地点にクッションを滑らせながら、僕は再び杖を振った。するとどうだろう、スキャバーズは大きな物音を響かせながら落下した。

 

 

 そう、ネズミがクッションの上に落ちたにしては、あまりにも大きすぎる音と共に。

 

 

「⋯⋯え?」

 

 僕は瞬きを繰り返した。

 そこにいたのは、ネズミのスキャバーズではなかった。

 少々薄汚れた、割と太ってるおっさんだった。

 おっさんは、不気味な笑みを浮かべながら「や、やぁ⋯⋯」と片手を挙げた。

 気まずいくらいの沈黙が訪れて、再びおっさんは口を開く。

 

「あ、あなたは元気ですか?」

「はい、私は元気です。ありがとう。あなたはどうですか」

「私も元気です」

「なるほど、それはいいですね」

 

 へぇ⋯⋯元気なんだ⋯⋯いいことやんけ⋯⋯。

 翻訳を繰り返した文章みたいな、中身のない会話を繰り広げたあたりで、僕は正気に戻った。

 

「う、うわあああああああああぁぁっ!!だ、誰かっ!不審者が──」

「さ、叫ばないで!」

 

 おっさんは俊敏な身のこなしで僕の口を押さえた。そのままソファに押し倒されて、僕はもうパニック!

 

「て、抵抗しないで!こっちには、杖があるんだから!」

 

 いつの間にか僕の杖は奪い取られていて、本当の絶体絶命!終わった⋯⋯。

 

「大人しくして。そう、僕に身を委ねて⋯⋯」

 

 キモいキモいキモい。

 おっさんは荒い息を隠さない。ああまずいです神様、僕の、僕の童貞の危機が迫ってます!闇祓いを呼んでくれ!

 マジでやられる五秒前!

 

「ちょ、ジタバタしないで。別に君を殺したりしないから!」

「んーんんんんんっ!?(こ、殺すより酷いことしようとしてる!?)」

「これからも、良き主人とペットでいるために必要な措置を施すだけだから!」

「んっん⋯⋯?(ペット⋯⋯?)」

 

 そういえば、スキャバーズが見当たらない。その代わりの如く現れたのが、このおっさん⋯⋯。

 かつてないレベルで回転する脳みそが、ある答えを導き出す。

 最悪だ。知りたくなかった。死にたくなった。

 

 

 スキャバーズの正体は、このおっさ

 

 

「オブリビエイト!」

 

 

 

 

 

 

 

「ほわあああああああっ!?」

 

 自分の悲鳴で、目が覚めた。

 目の前には、書きかけの羊皮紙。どうやら宿題の途中で眠ってしまったようだ。時計を見ると、およそ一時間が経過していた。

 僕は、自分の左胸に手をやった。激しい脈動が続いている。

 なんか、すごい嫌なものを見た気が⋯⋯。あ、悪夢?思い出せない⋯⋯。

 

「いや、やめよう!思い出さない方が幸せなことだってある!」

 

 僕は頭をぶんぶん振った。本能が、『思い出すな!』と全身に訴えているような気がしたからだ。

 不意に、服の裾を何かに引っ張られた。見れば、スキャバーズだ。その口に、紙を咥えている。

 

「⋯⋯偉人カード?」

 

 蛙チョコレートのおまけカードだ。僕の大事なコレクションで、ダンブルドアがウィンクしている。

 僕は何気なくカードをひっくり返した。

 

「これって⋯⋯!」

 

 

*****

 

「『近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究』⋯⋯なるほどね、こんなところに名前が載ってたなんて」

 

 休暇明け。

 世紀の大発見に、ハーマイオニーも目を丸くしていた。

 僕は胸を張る。

 

「すごいだろ?スキャバーズのお陰なんだ」

「へぇ⋯⋯スキャバーズの」

 

 ハリーは、緑の瞳をスキャバーズに向けた。じっとりと見つめられ、スキャバーズはそそくさと教科書の影に隠れる。

 

「怯えてるじゃんか。⋯⋯それで、ニコラス・フラメルってのは誰なの?」

「賢者の石を創り出した人よ」

 

 手元の本を読みながら、ハーマイオニーは簡潔に答えた。

 賢者の石。

 それは、あらゆるものを黄金に変え、不老不死となる命の水を生み出す源。

 

「それを、スネイプは狙ってるのよ!」

「なるほどね。確かに、それなら誰でも欲しくなるよね」

「⋯⋯」

 

 なぜかハリーは無言で、じっと僕を見つめている。

 

「ハリー?どした?」

「⋯⋯いや、何でもないよ。えっとつまり、三頭犬が守ってるのは賢者の石ってわけだね」

「そうなるね」

 

 なんだか、すごいことを知ってしまった。興奮する僕に、ハリーは冷静に告げた。

 

「ま、知ったところで僕たちにできることはないけどね。目の前の宿題をやるだけさ。あと僕は、クィディッチの練習もあるし」

「次の試合は、ハッフルパフが相手なんだよね?しかも審判がスネイプ。⋯⋯まずくない?」

「まぁ、大丈夫だよ。審判って忙しいし、僕に何かする余裕なんてない」

「そうかなぁ⋯⋯」

 

 心配だったけど、ハリーの言う通りだった。 

 スネイプは特に手を出したりはしなかったのだ。

 試合はハリーがスニッチをさくっと獲って終了。寮対抗杯に優勝する可能性が高くなって、談話室は大盛り上がりしていた。

 でも正直、僕たちにとってはそれどころじゃなかった。

 

「僕たちは正しかったんだ」

 

 ハリーは僕とハーマイオニーを人気のない教室に誘うと、開口一番そんなことを言った。

 

「賢者の石を手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたんだ」

「なんですって?」

 

 ハーマイオニーが驚いたような声を上げた。

 

「スネイプは、フラッフィーを出し抜く方法を知ってるか訊いてた。それから、クィレルの魔法についても。多分、フラッフィー以外にも石を守る何かがあって、スネイプはそれを何とかしないと石を盗めないんだ」

「それじゃあ、賢者の石が安全なのは、クィレル先生がスネイプに対抗できるうちだけってこと?」

「そんなんじゃ、石はすぐになくなるな」

 

 はっきり言って、気弱なクィレルがスネイプに耐えられるとは思わなかった。

 でも、予想に反して、クィレルは粘りを見せた。

 フラッフィーの唸り声はまだ聞こえる。つまり、石の守りはまだ破られていない。

 クィレル先生⋯⋯いつも馬鹿にしてごめんね。実はすごい人だったんだ。尊敬する。そういう意味を込めて、僕は、クィレルの授業を真面目に聞くようにした。しっかり頷いて、聞いてることをアピールする。

 

「クィレル先生、今日も素敵なお召し物ですね」

「え?あ、あああありがとう⋯⋯」

 

 戸惑うクィレルに、僕は笑顔を返した。

 クィレルのどもりを揶揄う奴は、さりげなく窘めるようにした。

 

「何だよロン。今更先生に媚びを売るなんて。単位目的?」

「そんな下衆じゃねぇよ!」

 

 思わずディーンに噛みついてしまい、ハリーに宥められた。

 

「落ち着いて!ごめんねディーン。ロンは最近、クィレルの強火オタになったから⋯⋯」

「えっ⋯⋯」

「誤解しか生まない発言はやめろ!」

 

 ディーンの引いた様子に耐えられず、僕は慌てて否定した。

 そんな僕の首根っこを掴む人がいる。

 

「クィレルのファンやってる場合じゃないわ。勉強よ、試験は迫ってきてるのよ!」

「まだ試験は先のことだろ?」

「勉強勉強勉強勉強勉強死刑死刑死刑勉強勉強勉強」

「大変申し訳御座いません。厳しく改善指導致します」

「大変申し訳御座いません。即指導致します」

「大変申し訳御座いません。指導徹底致します」

 

 勉強勉強勉強勉強勉強⋯⋯最早呪いの言葉か何か?ってくらい、ハーマイオニーは勉強に取り憑かれていた。

 彼女は、僕たちにもそれを強制する。ディーンはさりげなく逃げた。クソが。

 

「うへぇ⋯⋯。もう無理だぁ」

 

 図書館の座席で天を仰ぐと、ハグリッドと目が合った。図書館で会うなんて珍しい。

 

「ハグリッド!ここで何してるの?」

「ああ、いやちょっとな⋯⋯」

 

 ハグリッドは、本を隠すように背中に回す。それから眉を顰めて、「お前さんたちは何してるんだ。まさかまだニコラス・フラメルを⋯⋯」と問いただすので、僕は胸を張った。

 

「そんなのとっくに分かったよ。あの犬が守ってるのは賢者のい──」

「シーーっ!」

 

 ハグリッドは口の前に人差し指を立てた。そうか、これは言いふらしちゃまずいね。

 ハグリッドは決まり悪そうに周囲を伺い、「話したいなら小屋でな」と言って、手に持っていた本を棚に戻す。

 そして図書館を出た。

 何の本を読んでいたんだろう。賢者の石に関係があるのかな?

 僕は、さっきまでハグリッドが立っていた本棚の前に行った。

 

「⋯⋯ドラゴン?」

 

 ハグリッドは、ドラゴンの本を読んでいたらしい。

 ドラゴン⋯⋯ハグリッド⋯⋯。

 嫌な予感しか、しなかった。

 

 




次回投稿 2/8(日)
スキャバーズ「お詫びにニコラス・フラメル教えてあげるから⋯⋯。許してロン⋯⋯」
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