様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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二話同時投稿。


6.規則破りは大勢で

 

 僕の不安は的中した。

 ハグリッドは法を犯して、ドラゴンを育てようとしていた。なんでも、パブで男から貰ったらしい。前々からドラゴンを育ててみたかったと言うハグリッドは、それはもうはしゃいでいた。

 

「どうしよう⋯⋯」

「隠すしかないじゃない。ハグリッドを犯罪者にはしたくないわ」

 

 そんな僕たちの悩みも知らずに、ハグリッドはウキウキしていた。

 そしてある朝、ヘドウィグが手紙を届けてくれた。差出人はハグリッド。

 ドラゴンがもうすぐ産まれる──。

 ドラゴンなんて、男の子の夢だしね。悩みなんかすっかり忘れてワクワクしちゃう。

 

「今すぐ行かなくちゃ。ドラゴンの卵が孵化するところなんて、滅多に見られないよ」

「授業があるでしょ」

「サボれば⋯⋯いえ、あの、冗談です。休み時間に行きます!」

 

 ハーマイオニーの顔を見て、僕は慌てて言い直した。するとハリーが、「黙って!」と目配せする。

 マルフォイが、立ち聞きしていた。

 奴は、気まずそうな顔をしてこちらをちらちら見る。それから、決心したように歩み寄ってきた。

 

「話が、聞こえてきたんだけど⋯⋯」

「聞こえたんじゃなくて、聞いてたんだろ?盗み聞きは良くないって、君んちのママは教えてくれなかったのか?」

「落ち着きたまえロン。この僕に免じて、ね」

「ちょっと意味が分からないけど⋯⋯」

 

 ハリーは僕の肩に手を置いて、マルフォイに向き合う。

 

「全部聞いてた?」

「ああ。ドラゴンが産まれるんだろう?」

 

 マルフォイは眉を顰めた。

 

「分かってるだろ。ドラゴンを勝手に育てるのは違法だ。君は、危ないことをしている。ハグリッドが勝手にやってたとはいえ、それを隠蔽すれば、君にも類が及ぶ」

「正論言われて困るフォイ」

「ふざけてるのか、ウィーズリー」

「すみません、黙るフォイ笑」

「このっ⋯⋯!」

「ああん?やんのか」

 

 お互いに掴みかかろうとしたら、ハリーが割って入った。

 

「やめてっ!僕のために争わないで!」

「「別にそういうわけじゃないです」」

 

 声がハモった。何だか気まずくなって、マルフォイから視線を逸らす。

 

「⋯⋯と、とにかく!早く大人に相談するべきだ」

「んふふー、ドラコってば、僕たちのことを心配してくれてるんだね」

「ちっがーう!ハリーが退学になるのを避けたいだけだ!」

 

 マルフォイは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 癪だけど、こいつの言ってることは正解なんだよな⋯⋯。でも、学校に相談したらハグリッドは犯罪者になっちゃう。

 頭を捻って唸っていたら、ある名案を思いついた。

 

「チャーリー⋯⋯ドラゴンの研究をしてる兄に、助けてもらおう!」

 

 

 

 

 

 チャーリーに手紙を出すと、すぐに返事が来た。

 兄は、喜んで引き受けてくれた。

 

「チャーリーの友達がこっちに来るみたいだから、その人たちに渡せばいいんだって。でも、ドラゴンって違法だし、バレないようにしないといけない。土曜日の夜中、ホグワーツの塔で落ち合うことになってるから、皆、気をつけよう」

「分かったわ」

 

 ハーマイオニーが頷く横で、ハグリッドは大泣きしていた。

 

「うっ⋯⋯うっ⋯⋯のーばぁとぉー!別れるなんて嫌だぁぁぁ!」

 

 ハグリッドは、最初と比べると随分大きくなったドラゴン──ノーバートを抱きしめながら首を横に振る。

 悲しいけど、仕方ない。それがノーバートのためでもある。

 

「透明マントで隠せるのはノーバートと、子ども二人くらい。ハグリッドは⋯⋯流石に無理だね」

「誰が行く?」

「うーんそうだねぇ⋯⋯僕とドラコかな?」

「待て待て待て待て待て」

 

 しれっとハグリッドの小屋に着いてきたマルフォイが、ハリーの脳天に手刀を食らわせる。

 

「どうして僕が!校則違反、法律違反をしてまでそんなことしなくちゃ──」

「ドラコ⋯⋯僕たち、友達だよね?」

「友達と書いて共犯者と読む感じだろそれぇ!僕は絶対、手伝わないからな──!」

 

 

 

 

 

 無事にノーバートは送り届けられた。

 マルフォイは語る。「生きた心地がしなかった」、と──。

 

 

 

*****

 

 一難去って、また一難。

 今度は試験だ。筆記と実技、両方をこなさなくてはならない。

 試験が近くなると、流石の僕も悠長にはしていられなかった。ぶっちゃけ、賢者の石よりも大事だしね。悪い成績を取ったら、ママになんて言われるか⋯⋯。考えただけでも、恐ろしい。

 ガクブルで迎えた試験当日。

 全てを出し切った僕は、抜け殻と化していた。

 

「案外難しくなかったわね」

「ハーマイオニー⋯⋯正気か?」

 

 ハーマイオニーは、人間をやめている(褒め言葉)。

 僕は空を仰いで祈った。

 

「ああ、せめて半分は取れてますように⋯⋯。あるいは、先生が採点ミスしてくれますように⋯⋯」

「最低な願い事ね。やめなさいよ」

 

 眦を吊り上げるハーマイオニー。その顔面に、影が落ちた。

 空を見れば、梟が飛んでいた。口には、手紙を咥えている。

 それを見たハリーが、突然立ち上がった。

 

「ハグリッドのところに行かなくちゃ」

「え?」

「おかしいと思わない?ハグリッドはドラゴンが欲しかった。でも、ドラゴンの所有は法律で禁じられてる。それなのに、そんな彼のところに、偶々ドラゴンの卵を持った人が来た?偶然なんかじゃない!」

「つまり⋯⋯」

 

 ハーマイオニーの顔から、血の気が引いた。

 

「ハグリッドから、フラッフィーの話を聞き出すための餌だったってこと!」

 

 僕たちは大慌てで、ハグリッドの小屋に向かった。

 ハグリッドは小屋の前で豆を剥いていた。僕たちに気がつくとにっこりして、「お茶でも飲むか?」と手を広げる。でも、それどころじゃなかった。

 僕はハグリッドに問いかけた。

 

「ハグリッド、パブでドラゴンの卵を貰ったときの話をしてほしいんだけど」

「え?まぁ、構わんが⋯⋯」

 

 必死な形相の僕らに囲まれて、ハグリッドは少し緊張しているみたいだった。だからか、ハリーは心底優しく質問を投げかける。

 

「卵をくれた人に、ホグワーツの話した?」

「話したかもしれん。俺が番人やっとることとか、毎日動物の世話をしちょるとか⋯⋯」

 

 ハグリッドは、唸りながら答える。だいぶアルコールが回っていたようで、記憶がはっきりしないのだろう。

 ドラゴンの卵は、賭けの景品として話題に上がったらしい。

 

「でも、ドラゴンは世話が大変だ。ちゃあんと世話ができる奴じゃないと渡せないって⋯⋯。だから、言ってやった。『三頭犬に比べりゃ、ドラゴンなんて簡単だ』ってね」

 

 ⋯⋯この後の展開が、目に浮かぶようだった。

 酩酊して、気が抜けたハグリッド。目の前には、ずっと欲しかったドラゴンを持ってる人がいる。

 浮かれないわけがない。

 

「三頭犬のこと、訊かれた?」

「ん?ああ。そう簡単にお目にかかれるもんじゃねぇからな。フラッフィーにゃ、音楽を聴かせれば一瞬で眠るって言ったら、感心してたな⋯⋯」

 

 そこでハグリッドは、『しまった!』という顔になる。だけどもう、何もかもが遅かった。

 

「⋯⋯いいかい、ロン、ハーマイオニー。ハグリッドには、秘密を教えちゃ駄目だよ。恋愛相談とかした暁には、ホグワーツ中に広まってる」

 

 僕とハーマイオニーは神妙に頷いた。それは、今の話を聞けば分かるよ、うん。

 

「ま、待っとくれ!い、今のは忘れて──」

「忘れられるわけがないんだよなぁ⋯⋯」

 

 ハグリッド、口が軽すぎる問題。

 僕たちは無言で、ホグワーツ城に戻った。

 玄関ホールに着くと、ハーマイオニーが口を開いた。

 

「どう⋯⋯する?」

「ダンブルドア先生に言わなくちゃ」

「うんうん、そうしよう。あとハグリッドに機密情報を教えんなって言わなきゃ」

 

 三人で話していると、不意に声を掛けられた。

 

「こんなところで何をしているんです?」

 

 マクゴナガルだ。

 僕たちは顔を見合わせると、先生に向き合う。

 

「あの、校長先生にお会いしたいんです」

「校長に?なぜですか」

「⋯⋯それは、言えません」

 

 ハリーか俯くと、マクゴナガルはますます視線を鋭くさせた。

 

「校長は、十分ほど前にお出かけになりました。魔法省からふくろう便を受け取ったからです」

「なんてことだ。この僕が、校長を必要としているときにいないなんて!」

「言ってる場合か」

 

 こんなときでもハリーはハリーだった。

 代わりにハーマイオニーが、真面目に話す。

 

「⋯⋯賢者の石のことで、お話ししたいことがあります」

「⋯⋯!」

 

 マクゴナガルは、手に持っていた本を取り落とした。あんまりにも予想外すぎたのだろう。

 

「ど、どうしてそれを知って⋯⋯」

「誰かが石を盗もうとしています。ダンブルドア先生にお伝えしないと!」

 

 先生は一度目を瞑ると、息を吐いた。そして冷静さを取り戻す。

 

「賢者の石の守りは万全です。ホグワーツに勤める者たちが協力しているのですから。安心なさい」

「いや、ですが⋯⋯」

「話は終わりです。折角の天気ですから、外に行きなさい」

 

 先生は雑に話を打ち切ると、足元の本を拾う。

 そして、僕たちに目もくれず歩き去った。

 

「⋯⋯信じてくれないね」

「他の先生に話してみるのはどうかしら」

 

 ハーマイオニーはそう提案するけど、微妙だった。誰も信じないだろう。『守りは固い』と信じているのだから。

 かくなる上は。

 

「守ろう、僕たちの手で!」

 

 ハリーは声高に言い放った。

 乱れた前髪の隙間から、稲妻型の傷が覗く。

 その姿は最高に、主人公だった。

 

「犯人が仕掛けるなら今夜だ。ダンブルドアを追い払ったのも、きっとそいつの作戦だよ」

「でも、私たちにできることは──」

 

 ハーマイオニーが息を呑んだ。

 僕たちは後ろを振り返って、同じように驚愕した。

 スネイプが、そこに突っ立っていたからだ。

 

「こ、こんにちはー!今日も素敵なお召し物ですねー」

 

 命知らずなハリー。それで誤魔化せると思ってんの?

 スネイプは眉間の皺をますます深くさせた。

 

「ふん⋯⋯。クィレルと同じように褒めても無駄だ」

「⋯⋯⋯⋯?」

 

 あれ、こいつ何でクィレルに言った言葉を知ってるんだ?壁にスネイプあり、障子にスネイプありってことか。え、こわぁ⋯⋯。

 

「もっと注意深くなってほしいものだな。こんなふうに固まってこそこそとしていては、何かを企んでいるように見られて当然だ」

 

 こいつに言われるなんて、一生の不覚!そんなことを思いつつも、一応神妙な顔はしておくけど。

 僕たちは軽く頭を下げると、そそくさと退散しようとする。

 

「ポッター、警告はしておく。余計な真似をしたら、我輩直々に退学処分を下す」

「分かりました。我輩、気を付けます!」

 

 ハリーは揶揄うようにそう言って、僕たちの腕を引っ張った。

 スネイプの姿が見えなくなってから、ハリーは囁いた。

 

「とりあえず寮に戻ろう。日中に手を出すほど犯人も命知らずじゃない」

 

 

 

 

 

 寮に戻ると、僕たちは話し合いを始めた。

 夜に寮を抜け出して、先に石を手に入れる。そんな計画を立てたハリーに、ハーマイオニーが突っ掛かったからだ。

 

「寮を抜け出すなんて駄目よ!退学になってもおかしくない。それに、いくらなんでも、私たちでどうにかできる問題じゃないわ」

「じゃあ、このまま犯人を見逃すって?ありえないね!」

「ロンの言う通りだよ」

 

 ハリーは胸を張った。

 

「日和ってる奴いる?いねぇよなぁ!」

「うるっさいわね!」

「い゛たあああぁぁぁいっ!」

 

 ハーマイオニーに辞書でどつかれ、ハリーは陸に上がった魚のようにピチピチ跳ねる。全然『無敵のハリー』じゃなくて笑う。

 床でピチピチしながら、ハリーはきりっとした顔を作った。

 

「なるほど、つまりハーマイオニーは賢者の石が盗まれてもいいって言うんだね?賢者の石を得た者はほぼ無敵。悪人の手に渡ったら取り返しがつかないってのに。あー、一体どんなことが起きるんだろー?」

「そうは言ってないわよ!」

「じゃあ、人任せにせず、僕たちが守るしかないよね?」

「⋯⋯そうね」

 

 折れるの早、と思ったけど、僕は何も言わなかった。ハリーみたいに殴られたくなかったからだ。ハーマイオニーさん怖いっす。ふえぇ⋯⋯。

 僕たちは気もそぞろに夕食を食べ終えると、談話室から人がいなくなるのを待って、透明マントを羽織った。

 そして、足音を立てないように注意しながら四階に向かった。道中、ミセス・ノリスやピーブズと出会っちゃったけど、何とか乗り切った。

 件の部屋の扉は僅かに開いていて、既に侵入されたことを示していた。

 

「⋯⋯なんか、今更ながら怖くなってきた。だってスネイプだろ?闇の魔術を平然と使いそう」

「うーん、まぁ⋯⋯。奥で待ってるのはダブルフェイスだしね」

 

 ダブルフェイス⋯⋯。表の顔は教師、裏の顔は盗人ってことか。

 ハリーは躊躇いを見せず、扉を押した。

 

 

 

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