様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代) 作:夜風ミシェル
僕の不安は的中した。
ハグリッドは法を犯して、ドラゴンを育てようとしていた。なんでも、パブで男から貰ったらしい。前々からドラゴンを育ててみたかったと言うハグリッドは、それはもうはしゃいでいた。
「どうしよう⋯⋯」
「隠すしかないじゃない。ハグリッドを犯罪者にはしたくないわ」
そんな僕たちの悩みも知らずに、ハグリッドはウキウキしていた。
そしてある朝、ヘドウィグが手紙を届けてくれた。差出人はハグリッド。
ドラゴンがもうすぐ産まれる──。
ドラゴンなんて、男の子の夢だしね。悩みなんかすっかり忘れてワクワクしちゃう。
「今すぐ行かなくちゃ。ドラゴンの卵が孵化するところなんて、滅多に見られないよ」
「授業があるでしょ」
「サボれば⋯⋯いえ、あの、冗談です。休み時間に行きます!」
ハーマイオニーの顔を見て、僕は慌てて言い直した。するとハリーが、「黙って!」と目配せする。
マルフォイが、立ち聞きしていた。
奴は、気まずそうな顔をしてこちらをちらちら見る。それから、決心したように歩み寄ってきた。
「話が、聞こえてきたんだけど⋯⋯」
「聞こえたんじゃなくて、聞いてたんだろ?盗み聞きは良くないって、君んちのママは教えてくれなかったのか?」
「落ち着きたまえロン。この僕に免じて、ね」
「ちょっと意味が分からないけど⋯⋯」
ハリーは僕の肩に手を置いて、マルフォイに向き合う。
「全部聞いてた?」
「ああ。ドラゴンが産まれるんだろう?」
マルフォイは眉を顰めた。
「分かってるだろ。ドラゴンを勝手に育てるのは違法だ。君は、危ないことをしている。ハグリッドが勝手にやってたとはいえ、それを隠蔽すれば、君にも類が及ぶ」
「正論言われて困るフォイ」
「ふざけてるのか、ウィーズリー」
「すみません、黙るフォイ笑」
「このっ⋯⋯!」
「ああん?やんのか」
お互いに掴みかかろうとしたら、ハリーが割って入った。
「やめてっ!僕のために争わないで!」
「「別にそういうわけじゃないです」」
声がハモった。何だか気まずくなって、マルフォイから視線を逸らす。
「⋯⋯と、とにかく!早く大人に相談するべきだ」
「んふふー、ドラコってば、僕たちのことを心配してくれてるんだね」
「ちっがーう!ハリーが退学になるのを避けたいだけだ!」
マルフォイは顔を真っ赤にして叫ぶ。
癪だけど、こいつの言ってることは正解なんだよな⋯⋯。でも、学校に相談したらハグリッドは犯罪者になっちゃう。
頭を捻って唸っていたら、ある名案を思いついた。
「チャーリー⋯⋯ドラゴンの研究をしてる兄に、助けてもらおう!」
チャーリーに手紙を出すと、すぐに返事が来た。
兄は、喜んで引き受けてくれた。
「チャーリーの友達がこっちに来るみたいだから、その人たちに渡せばいいんだって。でも、ドラゴンって違法だし、バレないようにしないといけない。土曜日の夜中、ホグワーツの塔で落ち合うことになってるから、皆、気をつけよう」
「分かったわ」
ハーマイオニーが頷く横で、ハグリッドは大泣きしていた。
「うっ⋯⋯うっ⋯⋯のーばぁとぉー!別れるなんて嫌だぁぁぁ!」
ハグリッドは、最初と比べると随分大きくなったドラゴン──ノーバートを抱きしめながら首を横に振る。
悲しいけど、仕方ない。それがノーバートのためでもある。
「透明マントで隠せるのはノーバートと、子ども二人くらい。ハグリッドは⋯⋯流石に無理だね」
「誰が行く?」
「うーんそうだねぇ⋯⋯僕とドラコかな?」
「待て待て待て待て待て」
しれっとハグリッドの小屋に着いてきたマルフォイが、ハリーの脳天に手刀を食らわせる。
「どうして僕が!校則違反、法律違反をしてまでそんなことしなくちゃ──」
「ドラコ⋯⋯僕たち、友達だよね?」
「友達と書いて共犯者と読む感じだろそれぇ!僕は絶対、手伝わないからな──!」
無事にノーバートは送り届けられた。
マルフォイは語る。「生きた心地がしなかった」、と──。
*****
一難去って、また一難。
今度は試験だ。筆記と実技、両方をこなさなくてはならない。
試験が近くなると、流石の僕も悠長にはしていられなかった。ぶっちゃけ、賢者の石よりも大事だしね。悪い成績を取ったら、ママになんて言われるか⋯⋯。考えただけでも、恐ろしい。
ガクブルで迎えた試験当日。
全てを出し切った僕は、抜け殻と化していた。
「案外難しくなかったわね」
「ハーマイオニー⋯⋯正気か?」
ハーマイオニーは、人間をやめている(褒め言葉)。
僕は空を仰いで祈った。
「ああ、せめて半分は取れてますように⋯⋯。あるいは、先生が採点ミスしてくれますように⋯⋯」
「最低な願い事ね。やめなさいよ」
眦を吊り上げるハーマイオニー。その顔面に、影が落ちた。
空を見れば、梟が飛んでいた。口には、手紙を咥えている。
それを見たハリーが、突然立ち上がった。
「ハグリッドのところに行かなくちゃ」
「え?」
「おかしいと思わない?ハグリッドはドラゴンが欲しかった。でも、ドラゴンの所有は法律で禁じられてる。それなのに、そんな彼のところに、偶々ドラゴンの卵を持った人が来た?偶然なんかじゃない!」
「つまり⋯⋯」
ハーマイオニーの顔から、血の気が引いた。
「ハグリッドから、フラッフィーの話を聞き出すための餌だったってこと!」
僕たちは大慌てで、ハグリッドの小屋に向かった。
ハグリッドは小屋の前で豆を剥いていた。僕たちに気がつくとにっこりして、「お茶でも飲むか?」と手を広げる。でも、それどころじゃなかった。
僕はハグリッドに問いかけた。
「ハグリッド、パブでドラゴンの卵を貰ったときの話をしてほしいんだけど」
「え?まぁ、構わんが⋯⋯」
必死な形相の僕らに囲まれて、ハグリッドは少し緊張しているみたいだった。だからか、ハリーは心底優しく質問を投げかける。
「卵をくれた人に、ホグワーツの話した?」
「話したかもしれん。俺が番人やっとることとか、毎日動物の世話をしちょるとか⋯⋯」
ハグリッドは、唸りながら答える。だいぶアルコールが回っていたようで、記憶がはっきりしないのだろう。
ドラゴンの卵は、賭けの景品として話題に上がったらしい。
「でも、ドラゴンは世話が大変だ。ちゃあんと世話ができる奴じゃないと渡せないって⋯⋯。だから、言ってやった。『三頭犬に比べりゃ、ドラゴンなんて簡単だ』ってね」
⋯⋯この後の展開が、目に浮かぶようだった。
酩酊して、気が抜けたハグリッド。目の前には、ずっと欲しかったドラゴンを持ってる人がいる。
浮かれないわけがない。
「三頭犬のこと、訊かれた?」
「ん?ああ。そう簡単にお目にかかれるもんじゃねぇからな。フラッフィーにゃ、音楽を聴かせれば一瞬で眠るって言ったら、感心してたな⋯⋯」
そこでハグリッドは、『しまった!』という顔になる。だけどもう、何もかもが遅かった。
「⋯⋯いいかい、ロン、ハーマイオニー。ハグリッドには、秘密を教えちゃ駄目だよ。恋愛相談とかした暁には、ホグワーツ中に広まってる」
僕とハーマイオニーは神妙に頷いた。それは、今の話を聞けば分かるよ、うん。
「ま、待っとくれ!い、今のは忘れて──」
「忘れられるわけがないんだよなぁ⋯⋯」
ハグリッド、口が軽すぎる問題。
僕たちは無言で、ホグワーツ城に戻った。
玄関ホールに着くと、ハーマイオニーが口を開いた。
「どう⋯⋯する?」
「ダンブルドア先生に言わなくちゃ」
「うんうん、そうしよう。あとハグリッドに機密情報を教えんなって言わなきゃ」
三人で話していると、不意に声を掛けられた。
「こんなところで何をしているんです?」
マクゴナガルだ。
僕たちは顔を見合わせると、先生に向き合う。
「あの、校長先生にお会いしたいんです」
「校長に?なぜですか」
「⋯⋯それは、言えません」
ハリーか俯くと、マクゴナガルはますます視線を鋭くさせた。
「校長は、十分ほど前にお出かけになりました。魔法省からふくろう便を受け取ったからです」
「なんてことだ。この僕が、校長を必要としているときにいないなんて!」
「言ってる場合か」
こんなときでもハリーはハリーだった。
代わりにハーマイオニーが、真面目に話す。
「⋯⋯賢者の石のことで、お話ししたいことがあります」
「⋯⋯!」
マクゴナガルは、手に持っていた本を取り落とした。あんまりにも予想外すぎたのだろう。
「ど、どうしてそれを知って⋯⋯」
「誰かが石を盗もうとしています。ダンブルドア先生にお伝えしないと!」
先生は一度目を瞑ると、息を吐いた。そして冷静さを取り戻す。
「賢者の石の守りは万全です。ホグワーツに勤める者たちが協力しているのですから。安心なさい」
「いや、ですが⋯⋯」
「話は終わりです。折角の天気ですから、外に行きなさい」
先生は雑に話を打ち切ると、足元の本を拾う。
そして、僕たちに目もくれず歩き去った。
「⋯⋯信じてくれないね」
「他の先生に話してみるのはどうかしら」
ハーマイオニーはそう提案するけど、微妙だった。誰も信じないだろう。『守りは固い』と信じているのだから。
かくなる上は。
「守ろう、僕たちの手で!」
ハリーは声高に言い放った。
乱れた前髪の隙間から、稲妻型の傷が覗く。
その姿は最高に、主人公だった。
「犯人が仕掛けるなら今夜だ。ダンブルドアを追い払ったのも、きっとそいつの作戦だよ」
「でも、私たちにできることは──」
ハーマイオニーが息を呑んだ。
僕たちは後ろを振り返って、同じように驚愕した。
スネイプが、そこに突っ立っていたからだ。
「こ、こんにちはー!今日も素敵なお召し物ですねー」
命知らずなハリー。それで誤魔化せると思ってんの?
スネイプは眉間の皺をますます深くさせた。
「ふん⋯⋯。クィレルと同じように褒めても無駄だ」
「⋯⋯⋯⋯?」
あれ、こいつ何でクィレルに言った言葉を知ってるんだ?壁にスネイプあり、障子にスネイプありってことか。え、こわぁ⋯⋯。
「もっと注意深くなってほしいものだな。こんなふうに固まってこそこそとしていては、何かを企んでいるように見られて当然だ」
こいつに言われるなんて、一生の不覚!そんなことを思いつつも、一応神妙な顔はしておくけど。
僕たちは軽く頭を下げると、そそくさと退散しようとする。
「ポッター、警告はしておく。余計な真似をしたら、我輩直々に退学処分を下す」
「分かりました。我輩、気を付けます!」
ハリーは揶揄うようにそう言って、僕たちの腕を引っ張った。
スネイプの姿が見えなくなってから、ハリーは囁いた。
「とりあえず寮に戻ろう。日中に手を出すほど犯人も命知らずじゃない」
寮に戻ると、僕たちは話し合いを始めた。
夜に寮を抜け出して、先に石を手に入れる。そんな計画を立てたハリーに、ハーマイオニーが突っ掛かったからだ。
「寮を抜け出すなんて駄目よ!退学になってもおかしくない。それに、いくらなんでも、私たちでどうにかできる問題じゃないわ」
「じゃあ、このまま犯人を見逃すって?ありえないね!」
「ロンの言う通りだよ」
ハリーは胸を張った。
「日和ってる奴いる?いねぇよなぁ!」
「うるっさいわね!」
「い゛たあああぁぁぁいっ!」
ハーマイオニーに辞書でどつかれ、ハリーは陸に上がった魚のようにピチピチ跳ねる。全然『無敵のハリー』じゃなくて笑う。
床でピチピチしながら、ハリーはきりっとした顔を作った。
「なるほど、つまりハーマイオニーは賢者の石が盗まれてもいいって言うんだね?賢者の石を得た者はほぼ無敵。悪人の手に渡ったら取り返しがつかないってのに。あー、一体どんなことが起きるんだろー?」
「そうは言ってないわよ!」
「じゃあ、人任せにせず、僕たちが守るしかないよね?」
「⋯⋯そうね」
折れるの早、と思ったけど、僕は何も言わなかった。ハリーみたいに殴られたくなかったからだ。ハーマイオニーさん怖いっす。ふえぇ⋯⋯。
僕たちは気もそぞろに夕食を食べ終えると、談話室から人がいなくなるのを待って、透明マントを羽織った。
そして、足音を立てないように注意しながら四階に向かった。道中、ミセス・ノリスやピーブズと出会っちゃったけど、何とか乗り切った。
件の部屋の扉は僅かに開いていて、既に侵入されたことを示していた。
「⋯⋯なんか、今更ながら怖くなってきた。だってスネイプだろ?闇の魔術を平然と使いそう」
「うーん、まぁ⋯⋯。奥で待ってるのはダブルフェイスだしね」
ダブルフェイス⋯⋯。表の顔は教師、裏の顔は盗人ってことか。
ハリーは躊躇いを見せず、扉を押した。