様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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二話同時投稿。


7.冒険の結果

 

 

 フラッフィーはぐっすり眠っていた。近くにはハープがあり、美しい旋律を奏でている。だが、魔法が切れたらフラッフィーはすぐに目を覚ますだろう。

 

「⋯⋯ね、ここで僕が歌い始めたら、フラッフィーは起きると思う?」

「そんな危ない賭けはしないわよ。ほら、ハリー。あれ、持ってきたんでしょ?」

 

 ハリーは渋々、ローブから横笛──確か、ハグリッドからのクリスマスプレゼントだ──を取り出す。そしてたどたどしく吹いた。

 

「テッレ〜テレッレ〜テッテ〜テ、テッレレレ〜レ〜レ〜♪」

 

 笛を吹きながら、ハリーはフラッフィーに近付く。そして、フラッフィーが眠っていることを確認すると、僕たちを手招きした。

 ハリーの足元には、隠し扉があった。その先を見通すことはできない。

 ここはレディーファーストということでね、うん。ハーマイオニーに行ってもらおう。決して、怖いとかじゃないんだけどね、もちのロン。

 

「⋯⋯ハーマイオニー、先に──っておおおぉぉぉい!?」

 

 瞬間、ハーマイオニーに背中を蹴飛ばされた。容赦ないな。

 僕はそのまま落下していく。

 衝撃に備えて身を固めると同時に、何かが体に触れた。

 

「痛く、ないな⋯⋯。何だろ、これ?」

 

 ペタペタと触っても、よく分からない。そうこうしているうちに、ハーマイオニーの「大丈夫ー?」という質問が上から降ってきた。

 

「うん、なんか柔らかいものがあるから怪我はしないよ!」

「分かったわ、行きます!」

 

 ハーマイオニー、ハリーと続けて落下した。

 遠くで、フラッフィーがけたたましく吠える声がする。音楽がなくなって、すぐに目覚めたようだ。

 

「⋯⋯ん?」

 

 不意に何かが足首に絡まって、僕は思わず声を上げた。何これ⋯⋯蔓?

 気付いたときには既に、腕や胴体にも固く、紐状の何かが巻き付いていた。

 

「うわあぁぁぁぁ!?た、助けて⋯⋯!」

「落ち着いて!」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。

 

「私、知ってるわ──『悪魔の罠』よ!」

「へぇ、流石だね!名前を知れて、僕も嬉しいよ!」

 

 僕は、首を絞めようとしてくる蔓を払った。名前なんか知ったって、どうしようもないじゃないか!

 ハーマイオニーは「黙って!」とキレると、必死に対抗策を思い出そうとする。

 そして叫んだ。

 

「そう、火よ!⋯⋯でも、薪がないわ!」

「何言ってんだ!君はそれでも魔女か?」

「あっ⋯⋯」

 

 本当に⋯⋯しっかりしてくれ、ハーマイオニー。

 ハーマイオニーはさっと杖を取り出すと、杖先から炎を噴射した。

 蔓がのけ反るように伸縮し、僕たちは『悪魔の罠』から解放された。

 

「はあっ⋯⋯死ぬかと思った」

「情けないわね⋯⋯」

 

 ハーマイオニーが呆れたようにため息をついた。そして、次の道へと足を運んだ。

 そこは、一本道だった。奥に進むにつれて、羽の音が大きくなる。

 ひらけた空間に出ると同時に、僕は眩しさに目を細めた。天井近くを、キラキラした小鳥たちが舞っている。奥には木製の扉があったけど、そこはアロホモラでも開かなかった。

 ハリーが天井を眺めた。

 

「あれ⋯⋯鳥じゃないな。よーく見ると、鍵だ」

「ほんとだ」

 

 小鳥だと思っていたものは、どうやら羽のついた鍵だったらしい。通りで、チリンチリンという金属音がするわけだ。

 部屋には箒が置いてある。なるほど、あの鍵の中にある正解を捕まえろってことか。

 僕は鍵穴を観察した。

 

「大きくて昔風の鍵を探すんだ。多分、取っ手と同じ銀製」

「了解」

 

 言うや否やハリーは箒に跨った。そしてあっという間に鍵を捕まえると、それを鍵穴に差し込んだ。流石、天才的シーカー。「よく一発でいけたね。すごいな」と褒めると、ハリーは満足したようにふふんっ、と胸を張った。

 次の部屋は、これまた奇妙な内装だった。

 眼前には、大きなチェス盤と駒。白陣営と黒陣営に分かれている。

 

「これ⋯⋯どうしたらいいのかしら」

「見ての通りさ。僕たちは、チェスで勝たないといけない」

 

 僕はナイトに近付いた。手で触れると、馬は蹄で地面を掻き、騎士が僕の方に顔を向ける。

 

「先に進むには、僕たち、チェスをしないといけないんですよね?」

 

 訊くと、騎士は深く頷いた。やっぱりね。

 僕はしばらく考える。

 ハリーもハーマイオニーも、僕ほどチェスが得意ってわけじゃない。ここは僕に任せてもらおう。

 

「ハリー、君はビショップの代わりを。ハーマイオニーはルークに」

「ロンは?」

「僕はナイトになる」

 

 僕の発言を聞いて、ナイトが持ち場を離れた。代わりに僕がそこに立つ。

 それぞれが持ち場についたところで、ゲームスタートだ。

 こちらは黒陣営。先手は、向こうだ。

 まず、白のポーンが二つ前に進む。

 僕は自陣の駒に指示を出した。

 しばらくは平和だった。

 

 ──でも、これは魔法使いのチェス。

 

 僕と対になっているナイトが取られた。いや、正確にはビショップを取るために『取らせた』んだけど、ハーマイオニーは引き攣った悲鳴を上げた。

 目の前で白のクイーンが黒のナイトを床に叩き付け、チェス盤の外に引きずり出したからだ。

 生身の人間が耐えられる所業じゃない。ハリーもハーマイオニーも、どちらも取らせるわけにはいかなかった。

 二人に危険が及ぶから、どうしても最短でチェックメイトすることはできない。でも、ここでモタモタしていたら、スネイプに時間的余裕を与えることになる。

 考えろ、次はどうすれば──。

 

「やっぱり、これしかない」

 

 僕は二人を見た。

 

「僕が取られるしかない」

「駄目よ!」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。ハリーは唇を噛んで、じっと僕を見つめている。

 

「僕が前進する。すると、クイーンが僕を取る。ハリー、それで君が動けるようになるから、キングにチェックメイトを掛けるんだ!」

「⋯⋯分かったよ、ロン」

 

 ハリーは眉を寄せて、力なく頷いた。

 僕は、微笑む。

 

「絶対にスネイプを止めるんだぞ、ハリー」

 

 そう言い残して、僕は前に出た。

 すかさずクイーンが飛びかかろうとしてくる。

 振り下ろされる真っ白の腕が、眼前に

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 目が覚めた。ここはどこ。僕は⋯⋯ベッドの上にいる?

 体を起こした瞬間、カーテンがさっと引かれた。

 

「目覚めたようですね!まずは栄養剤を飲みなさい」

「え、マダム・ポンフリー?じゃあここは医務室⋯⋯」

「早よ飲め」

 

 口に液体が突っ込まれた。無味無臭。美味しくはない。

 「どうしてここにいるのか、分かります?」とポンフリーに問われ、僕は記憶を辿る。

 

「⋯⋯えっと、僕はチェスで取られて⋯⋯気を失った?」

「そうです。記憶ははっきりしているようですね」

 

 ポンフリーはふぅ、と息を吐いた。それから、眦を決した。

 

「全く。子どもが賢者の石を守ろうだなんて無謀すぎます!何を考えているのですか!」

「す、すみません⋯⋯」

 

 あまりの剣幕に、僕は言い返す力もなく項垂れた。それで溜飲が下がったのか、ポンフリーは突然笑い出した。

 

「ですがまぁ、すごいですね。あなたは見ていないと思いますけど、あなたを殴ったクイーンが、その後どうなったか分かりますか?」

「え?⋯⋯分かりません」

「半壊しました」

「え?」

「半壊しました」

「⋯⋯石でできた駒が?」

「半壊しました」

 

 ポンフリーは繰り返した。ちょっと意味が分からない。なぜ?普通、僕の方が半壊になるのでは?

 

「あなたを殴った方の腕が、なぜか粉々になりました。その上、あなたは無傷です。よほどの石頭なんですね」

「え、こわぁ⋯⋯。それ、最早人間じゃないと思うんですが⋯⋯」

 

 僕は頭を撫でた。痛むところはない。やべぇな、自分。

 

「⋯⋯ってそんなことより!ハリーとハーマイオニーは!?」

「無事ですよ。既に寮に帰ってます。今頃はベッドの上で、冒険を思い返しているでしょうね」

 

 良かった、怪我はないみたいだ。僕は安堵のため息を漏らした。

 医務室の時計を見る。どうやら、僕が気を失っていたのはほんの一時間程度だったらしい。

 

「念の為今夜はここで休んでもらいますけれど、明後日には退院です。自分の石頭に感謝ですね」

「ははは⋯⋯」

 

 笑うしかなかった。

 次の日、ハリーが見舞いに来てくれた。ハーマイオニーは、ちょっとタイミングが合わなかったらしい。

 

「クィレルだったんだ⋯⋯」

 

 開口一番、ハリーはそんなことを言った。

 

「賢者の石を狙ってたのは、スネイプじゃなくてクィレルだったんだ」

「そ、そんなわけなくない?ハリーに呪いをかけてたじゃん!」

「呪いじゃなくて、反対呪文だったんだ。呪いをかけてたのはクィレルで、スネイプは僕を守ってたらしい」

「マジかよ」

 

 くそ、騙された!なぁにが『素敵なお召し物ですね』だよ!媚びるんじゃなかった!あとスネイプ、紛らわしすぎだろ!

 

「なんでクィレルは賢者の石を欲しがってたのさ」

「それは⋯⋯ヴォルデモートのため、だって」

「⋯⋯え?」

 

 驚きに固まる僕に構わず、ハリーは語った。

 曰く、クィレルの後頭部には『例のあの人』が寄生していて、彼を復活させるために石を求めていたのだとか。

 

「これが本当の『ダブルフェイス』だねっ⭐︎」

「何ちょっとうまいこと言ってんだよ!そんなことよりなんで!?あの人は、君が滅ぼしたんじゃなかったのか?」

「ヴォルデモートは死んでなかった。肉体は失ったけれど、まだ生きていたんだ」

「嘘、だろ?」

 

 冗談であってほしかった。けれどもハリーはいたって真面目な顔で、僕は、信じざるを得なかった。

 

「⋯⋯『例のあの人』はどうなったの?」

「クィレルから離れて、魂だけが逃げてった。賢者の石は、無事だよ」

「そっか。それは⋯⋯良かった」

 

 違う、と思った。僕が言うべきなのは、こんなことじゃなくて。

 両親を殺した仇を、みすみす逃すことになったハリーに向けて、何か言わなくちゃならなかったのに。

 でも、なんて言えばいいのか分からなかった。⋯⋯僕には何も言えなかった。両親が生きていて、大勢の家族と一緒に暮らしている僕──。ハリーの対極のような僕が何を言ったって、それは哀れみでしかない。

 

「は、ハリー⋯⋯」

「ん?」

「⋯⋯よく、頑張ったね」

 

 ごくありふれた台詞だったけど、ハリーはにっこり笑った。

 

「君もチェスで大活躍したじゃないか!僕の次に頑張ってたよ、ロン」

「『次』か⋯⋯。いや、こういうときはさ?『君が一番頑張ってたよ』とか言うもんじゃないの?」

 

 悲しいかな、うちのハリーさんに社交辞令という概念は存在しないようだ。

 それと、『思いやり』もないようだった。

 

「ちなみになんだけど、あのチェス。誰か一人が参加するだけで良かったらしいよ」

「え?」

「だってほら、クィレルにしろスネイプにしろ、プレイヤーは一人でしょ?むしろ三人でやった方が、難易度爆上がり⋯⋯」

「⋯⋯やめてっ!もう何も言わないで!」

 

 僕は布団にくるまった。でも、容赦ないハリーは布団を引っ剥がすと、耳元で囁いてくる。

 

「『絶対にスネイプを止めるんだぞ、ハリー』⋯⋯いやぁ、盛大にかっこつけたよねぇ」

「やめろぉぉっ!!」

「犯人はスネイプじゃかったし、チェスで無駄に散っていったし⋯⋯。その上、石よりも硬い頭で反撃したし。ロン、君にはお笑いの才能があるよ」

「こ、こいつ⋯⋯!」

 

 なんでや!君だってスネイプが犯人って思ってたやろがい!てかチェスのルールも分かるわけねぇーだろ!

 僕はハリーを睨み付けた。本人はそれを軽く受け流すと、クスクスと笑う。

 

「ま、自己犠牲なんてやるもんじゃないよねってことで。いい教訓だね、ロン」

「⋯⋯もう絶対に、君を守ったりしないからな」

「ああ、是非そうしてくれ」

 

 ハリーは目を細めて、憎たらしいくらい優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

*****

 

 退院後も色々と忙しかった。

 ハリーはレイブンクローとの試合があって、なんとか勝利をもぎ取った。結果、クィディッチの寮対抗杯はグリフィンドールが優勝。その日は朝までどんちゃん騒ぎが続いた。

 ⋯⋯でも、残念ながら寮対抗杯はスリザリンのものとなった。まぁ、スリザリン贔屓の教師がいるからね。他寮より得点が多いってのは当然か。

 学年末パーティーの緑色の飾りを忌々しく思いながら、僕は席に座った。

 

「また一年が過ぎた!」

 

 ざわめく大広間を、ダンブルドアは一瞬で静かにさせた。

 

「皆がご馳走にかぶりつく前に、少々儂の戯言に耳を貸してもらおう。皆、今年も勉学に励み、様々なことを頭に詰め込んだことじゃろう。じゃが、新学年を迎える前に君たちの頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」

 

 後半、結構な毒舌である。

 ダンブルドアは、生徒一人一人の顔を見回した。

 

「さて、ここで寮対抗杯の表彰を行うことにする。四位、ハッフルパフ352点。三位、レイブンクロー426点。二位、グリフィンドール462点。そして一位、スリザリン512点。スリザリンはよくやった。ついでに加点じゃ。ドラコ・マルフォイ!」

「!?」

 

 スリザリンの席で、マルフォイがグラスを取り落としそうになったのが見えた。

 

「寮の垣根を超えた協力に、スリザリンに十点を与える!」

 

 スリザリンの席から、嵐のような歓声が沸き起こった。僕は苦々しく、それを見つめる。なんだ、ダンブルドアはドラゴンのこと知ってたのか。そりゃ確かに、あいつは協力してくれたけどさ⋯⋯。僕はちょっぴり不満だった。

 風向きが変わったのは、「じゃが、最近の出来事も勘定に入れねばならぬな」というダンブルドアの言葉からだった。

 

「ロナルド・ウィーズリー!」

「えっ!?」

 

 突然の名指しに、僕は背筋を伸ばした。ダンブルドアはにこやかに微笑み、口を開く。

 

「類を見ない最高のチェスゲームを称え、グリフィンドールに二十点を与える」

 

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。ぽかん、と口が開いたままの僕に、同級生やパーシーが次々と笑顔を向ける。

 

「次に、ハーマイオニー・グレンジャー!炎に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに二十点を与える」

 

 ハーマイオニーが顔を真っ赤にした。

 

「ハリー・ポッター!その純然たる精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに二十点を与える」

 

 ハリーはにっこりと笑って、僕の背中を叩いた。

 ようやく実感が湧いてきた。えっと、これで六十点加点だから⋯⋯。グリフィンドールが、522点。スリザリンも522点。え?これって⋯⋯。

 

「ちと、飾り付けを変えねばならんのぉ」

 

 ダンブルドアが杖を振ると同時に、緑一色だった飾りに、鮮やかな赤が生えた。

 グリフィンドールとスリザリンの同時優勝なんて、前代未聞だった。大広間は歓声に満ちて、誰もが頬を上気させていた。

 

「やった、一位だよロン!僕たちの活躍が、グリフィンドールを一位にしたんだ!」

 

 ハリーも本当に嬉しそうで、このときばかりは僕も、スリザリンのことなんて忘れて笑顔になった。全く。ハリーも僕も、調子がいいんだから。

 僕たちはグラスを掲げた。

 蝋燭の火に反射して、グラスが一際強く輝きを放った。

 

 

 




賢者の石編終了。
大筋は原作通りだったので新鮮さはなかったかもしれませんが、次は激しく変化します。良ければ続きも読んでください。
以下、主要キャラ紹介。

ハリー⋯とにかくやかましい。◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。
ロン⋯ツッコミ役。ペットがおっさんとかいう不憫枠でもある。
ハーマイオニー⋯薪がないわ!(原作屈指の迷言)
マルフォイ⋯ハリーは友達!
スネイプ⋯はわわ!
ダンブルドア⋯飾り付けを変えねば。
クィレル⋯ ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。
フラメル夫妻⋯もう少し長く生きることにしたらしい。

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