ラインハットのヘンリー王子に憑依転生してパパスを救う 作:拓拓
ラインハットを飛び出してから数日。
俺は険しい山道を越え、魔物の群れを蹴散らしながら、大陸を南下していた。
レベルは18に到達していた。
ベギラマの閃光が山賊ウルフの群れを焼き払い、イオの爆発がオークを吹き飛ばす。
道中の村や関所はすべて立ち寄り、「場所」を記憶に刻み込んだ。これでいつでも飛んでこれる。
そして、ついに視界が開けた。
潮の香りを含んだ風が吹き抜ける。
眼下に広がるのは、活気溢れる巨大な港町――ポートセルミだ。
「でかいな……」
無数の船が行き交い、市場の喧騒がここまで聞こえてくるようだ。
俺はフードを目深に被り、町へと降りていった。
港の桟橋は、荷積みをする労働者や船乗りたちでごった返していた。
その中で、ひときわ目を引く一団がいた。
豪華な装飾が施された馬車と、質の良い服を着た護衛たち。
馬車の紋章には見覚えがある。サラボナの大富豪、ルドマン家のものだ。
「おいおい、困ったな……この人数じゃ心もとないぞ」
「海賊が出るって噂だ。もっと腕の立つ傭兵はいないのか?」
護衛のリーダーらしき男が、苛立った様子で部下を怒鳴りつけている。
どうやら人手不足らしい。
俺はニヤリと笑い、馬車の方へと近づいていった。
馬車の窓から、二人の少女が退屈そうに外を眺めているのが見えた。
一人は、透き通るような青い髪をなびかせた、清楚な美少女。
もう一人は、漆黒の髪を派手に巻き、豪奢なドレスを纏った強気な美少女。
フローラと、デボラだ。
ビンゴ。やはりこの時期、彼女たちはここにいた。
「ねえ、いつ出発するの? 退屈でカビが生えそうなんだけど」
「お姉様、そんな言い方は……。でも、確かに遅いですわね」
デボラの不機嫌そうな声と、フローラの鈴のような声。
俺は深呼吸を一回し、努めて「生意気だが腕の立つ子供」の顔を作って、護衛たちの前へ躍り出た。
「お困りのようですね」
「あ? なんだ坊主、ここは遊び場じゃ……」
護衛の男が「邪魔だ」とばかりに、無造作に手を伸ばしてきた。
その刹那。
世界がスローモーションに見える。レベル18の神経速度にとって、男の動きはあくびが出るほど遅い。
俺は男の懐へ滑り込むと同時に、男が腰に佩いていた剣の柄を掴んだ。
「え?」
男が間の抜けた声を上げるよりも速く。
――スラリ。
涼やかな金属音と共に、俺は男の剣を抜き放ちながら、流れるような動作でその背後へと回り込んだ。
そして、切っ先を男の首筋、動脈の真上にピタリと添えた。
誰も反応できない神速の早業。
男は自分の剣を奪われたことすら気づかず、首元の冷たい感触にようやく硬直した。
「敵だったら、もう死んでますよ」
「なっ!?」
「護衛が足りないんでしょう? 俺を雇いませんか。食費とサラボナまでの片道切符だけでいい」
男が驚愕の表情で俺を見下ろす。
周囲の空気が凍りついた。子供だと思って油断していた屈強な傭兵が、一瞬で制圧されたのだ。
「てめぇ……何者だ」
「ただの通りすがりの旅人さ。でも、腕は保証するよ」
俺は手を離し、不敵に笑って見せた。
馬車の窓から、デボラが興味深そうにこちらを見ているのが分かった。
「ふーん。生意気な小魚ね。……おい、その子を連れて行きなさい。退屈しのぎにはなりそうよ」
「し、しかしデボラお嬢様! こんな子供を……」
「私の命令が聞けないの?」
デボラの一睨みで、護衛たちは「は、はいっ!」と直立不動になった。
さすがだ、デボラ様。幼いながらにしてその貫禄。
「決まりだな」
俺は肩をすくめ、隊列の末尾に加わった。
こうして俺は、ルドマン家の商隊の「押しかけ護衛」として、サラボナへの道中を共にすることになった。
ルドマン家の自家用船「シルク・ド・ソレイユ号」は、ポートセルミの港を滑るように出港した。
内海を渡り、対岸のサラボナへ向かう船旅だ。
海は穏やかで、カモメが帆柱の上で羽を休めている。
だが、俺の安息は長くは続かなかった。
「ねえ、退屈よ。小魚」
甲板で海風に当たっていた俺の背中に、不機嫌そうな声が降ってきた。
振り返ると、日傘をさしたデボラが、気だるげに手すりに寄りかかっている。
「ヘンリーです、デボラお嬢様」
「名前なんてどうでもいいわ。私を楽しませなさいと言っているの。……そうね」
デボラは意地悪く口角を上げると、自分の耳につけていた豪奢なルビーのイヤリングを外した。
そして、あろうことかそれを海面に向かって放り投げたのだ。
「あっ! 手が滑ってしまったわ」
「……は?」
「あれ、お気に入りの宝石なの。拾ってきてくれる? もし拾えたら、あんたを雑巾係から下僕に昇格させてあげる」
無茶苦茶だ。
船は進んでいる。イヤリングはすでに波間に消え、海の底へと沈んでいっているはずだ。
常人なら「無理です」と断るか、飛び込んで溺れるのがオチだろう。
デボラもそれを分かっていて、俺が慌てふためく様を楽しもうとしているのだ。
だが、相手が悪かったな。
「……仰せのままに」
俺はマントとブーツを脱ぎ捨てると、一礼してから躊躇なく手すりを乗り越え、海へとダイブした。
あくまで優雅に、執事のように。
――ザブンッ!!
冷たい海水が全身を包む。
目を開ける。塩水が染みるが、レベル18の肉体は痛覚すら制御できる。
視界の悪い海中。だが、俺の動体視力は、海藻の揺らめきの中に沈んでいく紅い煌めきを捉えていた。
(見つけた……潜行!)
俺は身体を捻り、マーマンのような速度で海底へと突き進んだ。
水圧が増す。だが、鍛え上げられた筋肉の鎧にとっては、心地よい加圧トレーニング程度だ。
俺は砂地に着底する寸前でイヤリングを掴み取ると、海底を蹴って急浮上した。
甲板では、デボラが少しだけ心配そうな顔で海面を覗き込んでいた。
まさか本当に飛び込むとは思っていなかったのだろう。
「……バカじゃないの。死んだらどうするつも――」
――バシュッ!!
水しぶきと共に、俺はイルカのように海面から飛び出し、甲板の手すりに着地した。
全身ずぶ濡れの水も滴るいい男(7歳)の登場だ。
「ただいま戻りました、お嬢様」
俺は濡れた髪をかき上げ、手のひらの上のルビーを差し出した。
デボラが目を丸くして、言葉を失っている。
「……あんた、人間?」
「優秀な下僕、とお呼びください」
「……ふん。水臭いから近寄らないでよ」
デボラは乱暴にイヤリングをひったくると、プイと顔を背けた。
だが、その耳が微かに赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。
どうやら「合格」は貰えたらしい。
その後、俺は船員にタオルを借り、濡れた体を拭いて服を着直した。
日が傾き、風が強くなってきた頃。
船が揺れ始めた。
内海とはいえ、潮の流れが速い海域に入ったようだ。
「……うぅ……」
船室の方から、弱々しい声が聞こえてきた。
俺が様子を見に行くと、一等客室のソファで、フローラが青ざめた顔をしてぐったりとしていた。
船酔いだ。
侍女がオロオロと背中をさすっているが、あまり効果がないようだ。
「失礼します」
俺は部屋に入り、侍女に代わってフローラの隣に膝をついた。
「ヘ、ヘンリーさん……ごめんなさい、無様なところを……」
「喋らなくていいです。深呼吸をして」
俺は懐から、厨房の氷で冷やした手ぬぐいを取り出し、彼女の額に当てた。
そして、手首にある「
レベル18の指先は、筋肉の張り具合から最適な圧力を瞬時に計算できる。
さらに、微弱な「ホイミ」の魔力を指先から流し込み、乱れた自律神経を整えていく。
「……ぁ……」
フローラの呼吸が、次第に落ち着いてくる。
こわばっていた肩の力が抜け、顔に赤みが戻ってきた。
「楽になりましたか?」
「はい……不思議。波の揺れが、遠くに感じます」
フローラが薄く目を開け、俺を見つめた。
その瞳は潤んでいて、守護欲を掻き立てられる破壊力がある。
彼女は俺の手を、自分の両手でそっと包み込んだ。
「ヘンリーさんの手、大きくて温かいですね。……なんだか、お兄様がいたら、こんな感じだったのでしょうか」
「お兄様、ですか」
「はい。私、ずっと頼れるお兄様に憧れていたんです。……ふふ、出会ったばかりのヘンリーさんに言うことじゃありませんね」
フローラが可憐に微笑む。
その笑顔に、俺の胸の奥がキュンと音を立てた。
やばい。この姉妹、属性が違いすぎて攻略難易度が高すぎる。
デボラのツンデレと、フローラの天然癒やし。
リュカ、お前よく将来ここから一人を選べたな。
「……光栄です。サラボナに着くまで、俺が貴女の兄代わりになりましょう」
「はい……頼りにしていますね、お兄様」
こうして、俺はサラボナへの航海の中で、未来の花嫁候補たちとの距離を――物理的にも精神的にも縮めていった。
だが、海の旅は優雅なばかりではない。
サラボナまであと半日という海域に差し掛かった頃、事態は急変した。
――バシャバシャバシャッ!!
突然、海面が沸騰したかのように泡立ち、無数の白い触手が甲板に雪崩れ込んできたのだ。
半透明のブヨブヨした身体に、黄色い麻痺毒を含んだ触手。
「しびれくらげ」の大群だ。
「うわあああっ! な、なんだこの数は!?」
「ぐあああっ! 身体が、動か……ッ!」
甲板にいた船員たちが、次々と触手に薙ぎ払われ、悲鳴を上げて倒れ伏す。
毒の回りは早い。屈強な海の男たちが、瞬く間に痙攣して動けなくなっていく。
「きゃあああっ!」
「な、なによこれ! 気持ち悪いわね!」
フローラとデボラが身を寄せ合い、壁際に追い詰められる。
数匹のくらげが、無防備な少女たちに狙いを定め、触手を伸ばした。
「――下がっててください、お嬢様方」
俺は二人の前に立ちはだかり、マントを翻した。
焦る必要はない。
レベル18の魔法戦士にとって、この程度の群れは「経験値の塊」でしかない。
「吹き飛べ! ……『イオ』!」
俺は空中に魔法陣を描き、爆発の呪文を解き放った。
——ドォォォォンッ!!
甲板の上空で炸裂した閃光と衝撃波が、群がるくらげたちを吹き飛ばす。
ブヨブヨした身体が空中で弾け飛び、海へと散っていく。
「す、すごい……」
フローラが息を呑む。
だが、まだ終わらない。爆風を耐え抜いた数匹が、死角から飛びかかってくる。
俺は腰の剣を抜き放ち、残心もそこそこに踏み込んだ。
「遅い!」
――ザシュッ! ザザシュッ!
鋼の剣が銀色の軌跡を描き、残りのくらげを正確に切り刻む。
毒の触手が俺の頬をかすめるが、今の俺の回避能力と耐性には届かない。
わずか数十秒。
甲板を埋め尽くしていた魔物の群れは、光の粒子となって消滅した。
静寂が戻る。
俺は剣についた粘液を振り払い、鞘に納めてから振り返った。
「お怪我はありませんか?」
「ヘ、ヘンリーさん……」
フローラが震える足で駆け寄り、俺の腕にすがりついた。その瞳には、恐怖ではなく、英雄を見るような熱い色が宿っている。
「ありがとうございます……! あんな魔法まで使えるなんて……本当に、魔法使いの騎士様みたいでした」
「ふん。……まあ、少しは見直してあげるわ」
デボラも腕を組みながら近づいてきた。素直じゃないが、その口元は微かに緩んでいる。
彼女は倒れている船員たちを一瞥し、それから俺を真っ直ぐに見た。
「あんたがいなかったら、今頃私たちは毒まみれだったわね。……礼を言うわ。ご苦労だったわね、下僕」
「もったいないお言葉です」
俺が恭しく一礼すると、デボラは「フンッ」と鼻を鳴らして顔を背けたが、その耳はやっぱり赤かった。
こうして、俺は姉妹の信頼を、ついでに船員たちの感謝も――完全に勝ち取った。
やがて、水平線の向こうに、花の香りに包まれた美しい街並みが見えてきた。
サラボナだ。
ルドマンの屋敷、そして「天空の盾」が眠る場所。
♢
サラボナの港に降り立つと、そこは花の香りで満ちていた。
潮風と混じり合う、甘く優雅な香り。
石畳は磨かれ、行き交う人々もどこか品が良い。ポートセルミの喧騒とは違い、富裕層の余裕が街全体を包んでいる。
「やっと着いたわ。船旅も悪くなかったけど、やっぱり陸が一番ね」
デボラが日傘を開き、大きく伸びをする。
その横で、フローラが少し残念そうに海を振り返った。
「そうですか? 私は、もう少しヘンリーさんのお話を聞いていたかったですけれど」
「……あんたね。こいつはただの傭兵よ。いつまでも構ってないの」
デボラが憎まれ口を叩くが、その視線がチラリと俺に向いているのを、レベル18の動体視力は見逃さない。
俺は苦笑いしながら、荷物を担ぎ直した。
「さあ、お屋敷までお送りします。それが契約ですから」
俺たちは街を歩き、丘の上に建つ巨大な屋敷へと向かった。
ルドマンの屋敷。
ゲーム内でも屈指の豪邸だが、実物は圧巻だ。広大な庭園、白亜の壁、そして門を守る私兵たちの鋭い眼光。
だが、お嬢様たちの帰還を知ると、門番たちは慌てて敬礼し、重厚な鉄扉を開け放った。
「おかえりなさいませ! 旦那様がお待ちです!」
屋敷のホールに入ると、恰幅の良い、髭を蓄えた男が階段を降りてくるところだった。
サラボナの主、ルドマンだ。
威厳と愛嬌を同居させたその顔に、安堵の色が浮かぶ。
「おお、フローラ! デボラ! よくぞ無事で戻った!」
「お父様!」
「パパ、大げさよ。……まあ、変なクラゲには襲われたけどね」
親子が再会を喜ぶ中、俺は静かに一歩下がって気配を消そうとした。
だが、希代の大商人の目は節穴ではなかった。
「……そちらの少年が、例の『凄腕の傭兵』かね?」
ルドマンの視線が、俺を射抜く。
鋭い。値踏みするような、それでいて底知れない温かみのある目だ。
「はっ。旅の剣士、ヘンリーと申します」
「ヘンリー……か。ふむ」
ルドマンは顎髭を撫でながら、俺の剣、立ち姿、そして目をじっくりと観察した。
数秒の沈黙。冷や汗が背中を伝う。
やがて、彼はニカっと豪快に笑った。
「いい目をしている。ただの子供ではないな。……まるで、一国の王子のような気品すら感じるぞ?」
心臓が止まるかと思った。
カマをかけられたのか? それとも本気で勘付いているのか?
俺はポーカーフェイスを維持し、肩をすくめて見せた。
「買いかぶりすぎです、旦那様。俺はただの、通りすがりの冒険者ですよ」
「はっはっは! そうかそうか。まあ、そういうことにしておこう。……時にヘンリー君。急ぐ旅でなければ、数日ほど当家に滞在してはいかがかな? 娘たちも君を気に入っているようだ」
断る理由はなかった。
むしろ好都合だ。俺には、この大富豪に頼みたいことがあったのだから。
◇
それから数日間、俺はルドマン邸の客として過ごした。
フローラは事あるごとに俺の元へやってきては、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。お茶を入れてくれたり、旅の話をせがんだり。その姿は、憧れのお兄様に接する妹のようで、俺の荒んだ心を存分に癒やしてくれた。
一方のデボラは、「下僕としての素質があるかテストしてあげる」と称して、俺を買い物に付き合わせたり、庭の池掃除(という名の水遊び)に巻き込んだりした。文句を言いながらも、俺の姿が見えなくなると不機嫌になるあたり、実に分かりやすいツンデレ姫だった。
そしてある夜。
俺はルドマンの書斎を訪れた。
「……なるほど。報酬の代わりに、装備品を譲って欲しいと?」
重厚な机の向こうで、ルドマンが葉巻をくゆらせながら俺を見据える。
「はい。『きせきのつるぎ』、『しんぴのよろい』、そして『星降る腕輪』。……ご存知ですよね?」
俺が名を挙げると、ルドマンの眉がピクリと動いた。
どれも一介の武器屋には並ばない、世界的な秘宝クラスの武具だ。
特に『しんぴのよろい』は、装備者の傷を自動で癒やす国宝級の代物。原作では結婚祝いとして贈られる品でもある。
ルドマンは「メダル王」とも知己があるという噂の大商人だ。コネクションはあるはずだ。
「ふむ……。確かに、私はそれらの品の入手ルートを知っている。倉庫に眠っているものもある」
ルドマンは煙を吐き出し、鋭い眼光で俺を射抜いた。
「だがな、ヘンリー君。君は腕が立つ。娘たちの命の恩人でもある。信用はしているよ。だが……『信頼』はまだできない」
「信頼、ですか」
「ああ。それらは強大な力を持つ武具だ。どこの馬の骨とも知れぬ……失礼、素性の知れぬ少年に、ホイと渡せるものではない。それが商人の、いや、人の道というものだ」
正論だ。
7歳児がいきなり核兵器をくれと言っているようなものだ。断られて当然。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「では、どうすれば信頼していただけますか?」
俺が食い下がると、ルドマンはニヤリと口角を上げた。
それは、商談を楽しむ商人の顔だった。
「いいだろう。君の実力と覚悟、試させてもらおうか」
ルドマンは引き出しから古い地図を取り出し、二箇所に赤丸をつけた。
「死の火山に眠る『炎のリング』。そして、滝の洞窟に沈む『水のリング』。……この二つの指輪を持ってきなさい」
「は……?」
俺は絶句した。
炎のリングと、水のリング。
それは、原作において結婚イベントのために主人公が集めることになる、結婚指輪の対となる重要アイテムだ。
それを、今? 10年も前倒しで?
「何だその顔は。無理だと言うのかね?」
「い、いえ……。しかし、それは……」
「これらは古より伝わる秘宝だ。これを手に入れられるだけの実力と運の持ち主ならば、私も喜んで蔵を開放しよう」
ルドマンは「まあ、子供には無理だろうがね」と言いたげに笑った。
諦めさせるための方便。体の良い厄介払い。
だが。
(……どうせ必要になる)
俺は瞬時に計算した。
魔界へ至る門を開くため、あるいは伝説の勇者の装備を揃えるため、これらのリングはいずれ必要になる。
それが10年後か、今かの違いでしかない。
ならば、今やる。
最強装備を手に入れ、さらに物語のキーアイテムまで確保できるなら、一石二鳥だ。
「……分かりました。取ってきましょう」
俺が即答すると、ルドマンは目を見開いた。
「本気か? 死の火山は灼熱地獄、滝の洞窟は迷宮だぞ。死ぬかもしれんのだぞ」
「死にませんよ。俺は、欲しいものは必ず手に入れる主義なんで」
俺は不敵に笑い、地図をひったくった。