俺と私の文フリTS顛末記   作:深海くじら

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第∞話 大局~遥かな視座と望まざる予感

「長老よ、どう対処するつもりなのじゃ? あの世界線から漏れ出た記憶の欠片は、外包バブルにまで散逸してしまった。()()が気づくのは時間の問題ぞよ。それどころか、もうすでに捕捉されているやもしれん」

 長老と呼ばれた翁は腕を組んだまま沈黙している。

 話しかけていた老人は長老の反応が薄いのに腹を立て、肩をそびやかして怒声をあげた。

「そもそも単一時空の重なった時間軸に、なぜに二人ものウォッチャーが派遣されとるのじゃ!? こんなことは、一万年にわたる本計画で過去に一度も無かったはず。長老よ。これはもう、あんた個人の失態で片付けられる事態ではないぞよ!」

 一番若い委員の女性がほうれい線を震わせながら反論した。

「落ち着いてください。少なくとも現時点で、この件に対する()()の動きは観測されていません。まだ、なにか起こったというわけではないのです」

「時間の問題じゃ」

 さきほどの老人が吐き捨てた。

 偉丈夫の壮年が老人の言葉を継ぐ。

「その通り。なにかあってからでは遅いのだ。ただでさえ人間の残る世界線は少ない。我々がウォッチャーやエージェントを派遣できる人類残存世界線は十万を切っていて、しかもその半数が絶滅寸前(レッドデータ)となっているのが現状だ。そんな状態なのに、数少ないグリーンデータで撒き餌のような記憶流出を引き起こすだなんて……」

「すべての世界線から人類が消えてしまえば、イマジンを糧とする我々も生きてはいけなくなるのじゃぞ。そのような大事な世界にへっぽこな新米を送り込みよって。しかも、よりによって二人も」

「あの二人の配備はたしかに私たちの差配ミスです。あの世界線にウォッチャーを二名も置く必要はなかった。ただこのような軽微な差配ミスは今回がはじめてというわけではなく、過去にも複数回記録されています。問題は、その二人が出会い、不手際な相互干渉まで行なってしまったこと……」

 女性委員の語尾が力なく消えた。

「被守護個体もろとも強制排除することはできないのですか?」

 無言だった老婦人が抑揚のない口調で尋ねてきた。

「それは無理です。少なくともこちらから直接、他の世界線に干渉することはできませんし、守護職派遣中のウォッチャーに指示等のかたちで働きかけることも不可能です。というか、それができれば個別派遣などという非効率な手段をとる必要なんてないはず」

「散逸記憶の回収は」

「回収は不能ですが、捕捉されたものに関してはノイズを乗せて背景化させました。ですので、それらから()()に人類の存在を疑われることはありません。ただ、網から漏れたものもいくつかは……」

「つまり我々は、被守護個体が寿命を終えるまでへっぽこどもの帰投すら求められず、漏れ流れてしまった被守護個体の記憶断片が()()に見つからないよう祈りながら怯えるしかない、ということか」

 投げ出すようにつぶやかれた老人の台詞を最後に、全員が押し黙った。

 

 那由多の世界線を統べる唯一無二の世界。荒れ果てた死の惑星(ほし)と化しているその地球の、ごくごく僅かに残る隔離された生活圏の片隅で長々と行われていた会議は、長老と呼ばれる老妖精の宣言で、ようやくひとつの結論を得た。

「要監視守護の棲む時空に新たな妖精(ウォッチャー)を送り込み、監視体制を強化する。その要員には、不測事態にも自律で対処できる仲介者(エージェント)レベルの人材を選び、要監視守護二名およびその被守護個体の動向を監視するとともに、あの世界線における()()の侵略の兆候を探り、火種に備える。それでいいかな」

 

 <了>

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