俺と私の文フリTS顛末記   作:深海くじら

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第9話 指針~安楽椅子分析官はかく語りき

「知りませんか、一ノ瀬みう先生。去年、公募で準大賞獲った作品がコミカライズされた書籍化作家さんで、コミックスの方はもう四巻まで出てるはず。三年だかそこら前にカクヨムデビューされた女流作家さんで、僕も二年前くらいから相互フォローになってます。スペースもやってるって話なんだけど、そっちはたまにしかやらないらしくて、まだお話は聞けてないんですよね」

 いんかむげいんはまくしたてる勢いで滔々と言葉を連ねる。だがTS事案で頭がいっぱいの三人には他所の作家の来歴なんて正直どうでもいい。聞き流す三人に頓着しないいんかむげいんの話は、まだ終わらない。

「年齢不詳なとこがあって、まだ高校生って説もあれば二十代後半って説も。ただスペース聴いたことのある人のポストによると、アニメの声優みたいな可愛いらしい声だったそうなので、女性ってのは間違いないでしょう。あー、会いたかったなあ。今日はそれが一番の楽しみだったのになあ」

『アニメの声優みたいな声』に千百閒が食いついた。

「それって、今のくじらさんみたいな声ってこと?」

「いや、だから僕は聞いたことないんですって。あー、返す返すも残念。あ、でも本は売ってましたよ。新作の中編。本人が来られないお詫びだかなんだかで、千二百円で告知されてたのが特別価格の千円で。得しちゃったな。あ、でも二百円高くてもやっぱり本人に会えた方がよかったな。うーむ、残念無念」

 放っておくと永遠に一ノ瀬みうネタが続きそうないんかむげいんに、業を煮やしたくじらがストップをかけた。

「いんかむさんの一ノ瀬みう愛は充分伝わったから、そろそろこっちの本題に戻りましょうよ。いんかむさんがいない間に俺たちこの子のプロファイリングやってたんですよ」

 自分を指さしながらそう言うくじらに、いんかむげいんは「どんなキャラになったかお聞きしましょう」と応じてきた。

「では列挙する感じで。

 ①年の頃は二十歳前後の女性。これに関しては異存無いですよね。

 ②声質はかなり高めで、活舌はたぶん悪くない。いわゆるアニメ声です。

 ③髪はショートで少し茶色がかってる。おそらく地毛です。

 ④見た目はかなり美人。やや可愛い系に振ってるかも。

 ⑤陰キャである可能性大。見た目とのギャップがありそう。

 ⑥笑顔が下手。表情筋が固く、細かいニュアンスを伝えるのが苦手。

 ⑦自己顕示欲が低め。容姿に似合わず自撮りインスタが無い。

 ⑧インドア派と思われる。運動不足、体力不足が目立ちます。

 といったところ。千百閒さん、宮部さん、補足があったらよろしくお願いします」

 二人が首を振るところまで見てから、いんかむげいんは口を開いた。

「なるほど。この短い時間でそこまで要素を見つけ出すとは、すごいですね。お三人方、さすがです。で、この情報はひとかげさんに送りました?」

 顔を見合わせる三人。一様に首を横に振る。

「これだけ出揃ったのなら、ここはもう安楽椅子分析官(ロッキングチェアアナライザー)を召喚すべき段階でしょ」

 

――――

拝見しました。

①③④の外見的特徴と②の声質の件はとりあえず置いとくとして、⑤~⑧を確度が高い要素だとすると、この女性が万博に行く可能性はかなり低い気がします。

ここには上がってませんが、京都以東の乗車で三連休中日の午前十一時前新大阪着の『こだま』という中途半端さも、万博の線を除外する理由になるでしょう。

確認は取れていないのでこれは仮定でしかないのですが、もしも女性が一人旅だった場合、明確な目的が必要と考えます。いわゆる慶弔も考えられないわけではありませんが、それを言い出すときりがないからここでは除外。それ以外の目的として考えられるのは、音楽ライブやスポーツイベント等のいわゆる推し活。それと参加型イベント、すなわち文フリなどです。

陰キャ、運動不足、インドア、さらに表情に乏しいことを加味すると、いまみなさんがいるインテックス大阪文学フリマ会場が彼女の目的地である可能性はかなり高い、というのが僕の見立てです。それも一般来場者ではなく、出店者として。

乱暴なふるいに掛けた我田引水と言ってしまえばそれまでですが、かなりいい線なんじゃないかな。

――――

 

 ひとかげとかげから送り返されてきたDMチャットは、くじらたちを大いに驚かせた。広い会場いっぱいにひしめき合う出店テーブルではあるものの、所詮屋内のこと。数は知れている。

「それって、くじらさんが一人で首検分して回ったとしても、二時間あればいけるんじゃね?」

「それだけじゃないですよ。くじら氏のオリジナルボディを纏う向こうにしても、自分の身体を探しているはず。おそらくは、今のくじら氏以上の切実さを持って」

 千百閒と宮部の言葉にくじらも大きく頷いた。二度、三度。

「どうせ今すぐ他の行動を取れるわけでもないし、ここはひとかげさんの見立てに乗ってみようと思う。いんかむさん、宮部さん、千百閒さん。店番もあるだろうからローテーションでかまわないけど、俺と一緒に場内を歩いてもらえないかな。見落としは可能な限り避けたいから」

 くじら=美少女からのこの要望を断る男なぞ、この場所にいるはずはなかった。

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