ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います   作:can'tPayPay

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まだまだ行くぞ



過去編:出会い編:第3話「共犯者の契約」

 

「……『共犯契約』?」

アリナは戦槌を消し、怪訝な表情でゼノスを睨みつけた。

「そう。君の正体は僕が守る。ギルドの上層部も、王都の騎士団も、僕が書類の迷宮に放り込んで、君の影すら踏ませないようにしてあげる。……その代わり、君は僕の隣で、完璧な受付嬢を演じ続けてくれ」

ゼノスは懐から一通の書類を取り出した。それは、ギルドの正式なフォーマットを模した、二人のための極秘契約書だった。

「君の事務能力は、このギルドで唯一、僕のスピードに付いてこれる。君がいれば、僕の仕事も早く終わる。……つまり、二人で組めば、最強の『定時退勤コンビ』になれるってことだ」

(――……。なにこの男。最高じゃない。私の正体を隠してくれるだけじゃなく、仕事の効率化まで約束するっていうの?)

アリナの心の中で、これまでの不信感が急速に期待へと変わっていく。

「……いいわ。その契約、乗ってあげる。でも、言っておくけど、私はあなたの部下になるつもりはないわよ」

「わかってる。対等なパートナー……いや、共犯者だ」

その夜、二人は地下倉庫で初めて握手を交わした。

その手の温もりが、アリナには驚くほど心地よかった。いつも独りで戦い、独りで毒を吐き、独りで疲弊していた彼女にとって、初めて現れた「自分と同じ側の人間」。

数週間後、二人の関係は急速に、そして密やかに深まっていった。

仕事中は「アリナさん」「ゼノスさん」と呼び合う冷徹な同僚。だが、一歩外に出れば、アリナはゼノスにしか見せない「毒舌全開の素顔」を解禁するようになった。

「――ねえ、ゼノス! 今日のあの冒険者、マジで絶滅案件よ! 私のペンを勝手に使った挙句、インクをこぼしたのよ!? 万死に値するわ!!」

「はは、お疲れ様。その男の依頼履歴は、僕が『不備』として差し戻しておいたから、明日にはもう来ないよ」

「……。……ふふ。あなた、本当に性格悪いわね。最高」

アリナはゼノスの腕に飛びつき、彼の首筋に顔を埋めた。

ゼノスの服からは、古い紙の匂いと、少しだけ甘いお香の香りがする。

「……ねえ、ゼノス。私、決めたわ。あなたを一生離さない。私の平穏な生活のために、あなたはずっと私の隣で、私の盾になって、私を甘やかしなさい」

「……命令だね。いいよ。君のワガママに付き合うのは、もう慣れた」

ゼノスはアリナの腰を抱き寄せ、彼女の頭を優しく撫でる。

それは、偽りの笑顔に疲れた処刑人が、ようやく見つけた「安息の地」だった。

「……ゼノス、大好き。……さあ、帰ったら美味しいもの作って。今日は私の大好きな、あの店のケーキも買っておいたんでしょうね?」

「もちろん。……君の機嫌を損ねたら、僕の命がいくつあっても足りないからね」

二人は夕闇に染まる王都の街を、寄り添いながら歩き出す。

完璧な受付嬢と、有能な裏方。その真実の姿は、この夜の帳の中にだけ、甘く毒々しく溶け込んでいるのだった。

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