ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います 作:can'tPayPay
ゼノスの風邪が完治した翌朝。
アリナはいつも以上に気合を入れて「鉄の笑顔」を完成させ、ギルドの窓口に降臨していた。しかし、彼女には一つ、致命的な計算違いがあった。
(――……死ね。死ね死ね死ね。なんで朝から同僚の受付嬢たちが、クンクンと鼻を鳴らしながら私の周りをうろついてるのよ。不気味だわ、あんたたちの鼻腔を今すぐ事務用ホッチキスで封印してやりたいわ!!)
「……ねえ、アリナさん。今日、なんだかいつもと違う香りがしない?」
「ええ。なんていうか……すごく落ち着く、清潔なリネンのような、それでいて少し……男性的な……」
アリナの笑顔が、一瞬だけ石像のように固まった。
(――……っ! しまったわ!! 昨夜、弱ってるゼノスを抱きしめながら看病して、そのまま彼の胸で寝落ちしたからだわ!! 私の制服に、ゼノスの家の……いいえ、ゼノス自身の匂いが染み付いてるんだわ!!)
アリナの「聖域」に、無遠慮な詮索の目が向けられる。
「もしかして、アリナさん……ついに素敵な騎士様でも捕まえたの?」
「教えてくださいよ、どこの英雄様なんです?」
(英雄? 笑わせないで。私の隣にいるのは、世界で一番冴えない、でも世界で一番有能な、私だけの事務員よ! あんたたちみたいな無能に、ゼノスの良さを1ミリでも分からせてたまるもんですか!!)
【午後の受付:波乱の香り】
騒ぎは収まるどころか、窓口に並ぶ冒険者たちにまで飛び火した。
「おいアリナちゃん、今日はなんだか色っぽい香りがするな。俺と今夜、一曲どうだ?」
デレデレと鼻の下を伸ばすCランク冒険者が、カウンター越しにアリナの手に触れようとした、その時。
カツ、と乾いた音がして、アリナの視界に一枚の「備品発注書」が差し込まれた。
「失礼します。……お客様。受付嬢の業務を妨害する行為は、ギルド規約第12条により、報酬の10%カット対象となります。……あ、アリナさん。インクの補充が必要ですね。僕が裏でやっておきますから、あなたは少し席を外してください」
死んだ魚の目をしたゼノスが、いつの間にかアリナの背後に立っていた。
「まあ、ゼノスさん。助かりますわ(微笑)」
(――ナイスよゼノス! 今すぐその男の鼻をこの発注書で削ぎ落としてやって!! それと、あんたの匂いのせいで私がピンチなのよ、どうにかしなさいよ!!)
ゼノスはアリナとすれ違いざま、彼女の肩を自分の体で隠すようにして、周囲の視線を遮った。そして、同僚たちにも聞こえるような、極めて事務的なトーンで告げた。
「……アリナさん。今朝、備品庫に強力な『防虫・防カビ剤』を撒きました。リネン系の強い香りが衣服に残りやすいので、他の皆さんも気をつけてください」
「「「ああ……! あの新しい防虫剤の匂いだったのね!」」」
ゼノスの完璧な「公式声明」により、ギルド内の疑惑は一瞬で霧散した。
【定時後:二人の要塞にて】
「――もーー! 心臓が止まるかと思ったわよ!!」
帰宅するなり、アリナは制服のジャケットを脱ぎ捨ててゼノスに詰め寄った。
「あなたの匂いが私からするなんて、もはや隠匿(ガード)がガバガバじゃない! ゼノスのせいよ、あんたの匂いが魅力的すぎるのがいけないのよ! 責任取って、今すぐこの匂いの上書きをしなさい!!」
「……上書き? 掃除でもするのか?」
「違うわよ、この鈍感事務員!!」
アリナはゼノスの胸に顔を埋め、彼の新しいシャツに自分の匂いを擦り付けるように暴れた。
「……こうして、私の匂いもゼノスに移してやるわ。そうすれば、明日からギルドの女たちがあなたに近づこうとしても、『あ、ゼノスさんからアリナさんの匂いがする……!』ってなって、誰も手出しできなくなるんだから!!」
「……はは。それじゃ、僕たちの関係を公表してるようなものじゃないか」
ゼノスは困ったように笑いながらも、アリナの腰を引き寄せ、彼女のうなじに鼻を寄せた。
「……でも、いいよ。……僕の匂いが君についてるの、実は、嫌じゃなかったんだ。……誰にも渡したくないっていう、僕の独占欲を代弁してくれてるみたいで」
「……。……なっ……!!」
不意打ちの殺し文句に、アリナの顔が沸騰したように赤くなる。
「……卑怯よ。……あんた、風邪を引いてから、ちょっとだけ甘やかし方が過剰になってない?」
「そうかな。……大切な共犯者が、他の男に鼻の下を伸ばされるのは、事務的に見て『非常に不愉快』だからね」
ゼノスはアリナの顎を持ち上げ、優しく、しかし有無を言わせない強さで唇を重ねた。
「……ん。……。……もう、勝手にして。……明日も、明後日も、私の匂いは全部ゼノスのものなんだから」
窓口での疑惑も、世間の目も、この家のドアを閉めれば関係ない。
二人は互いの移り香を愛おしむように、深い闇の中へと溶け込んでいくのだった。
【次のステップ】
第11話では、ギルドの**「大掃除&断捨離」**イベントが発生!
アリナが隠し持っていた「処刑人時代の予備の武器(ガラクタ)」をゼノスがうっかり捨てそうになり、アリナがパニックに!
「思い出の品を捨てられないアリナ」と「断捨離マシンのゼノス」による、家事観の衝突回
以上を妄想中
どれ書くかは決まってない