ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います   作:can'tPayPay

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第17話:深淵の番人と、静かなる虐殺

 

特設事務室での甘い時間は、不快な「振動」によって打ち切られた。

王都の結界を無力化し、ギルド最上階へと転移してきたのは、大陸全土に指名手配されている暗殺集団『忘却の徒(レテ)』の精鋭五名。彼らの狙いは、理事会崩壊の黒幕と目される「有能すぎる事務員」ゼノスの抹殺だった。

「……死ね。今すぐ分子レベルで分解されて、宇宙の塵に変わればいいのに」

アリナが温度のない声で吐き捨てた。

執務室の窓ガラスが衝撃波で粉々に砕け散り、静寂が殺気に塗り替えられる。

「アリナ、下がっていろとは言わない。……だが、三分だ。三分以内に片付けないと、午後のコーヒーが冷めてしまう」

ゼノスは眼鏡を外し、デスクの引き出しから「事務用ではない」黒い万年筆を取り出した。

処刑人の舞踏

「――ギルドの備品を壊した罪、その命で精算なさい!!」

アリナが虚空から引き抜いたのは、純白の輝きを放つ巨大な戦槌。

彼女が踏み込んだ瞬間、石床が蜘蛛の巣状に砕け、最前線の暗殺者が反応する間もなく頭部を粉砕された。

「一人」

冷徹なカウント。

暗殺者の一人が影に潜り、アリナの背後から毒刃を突き出す。しかし、そこには、目にも止まらぬ速さで展開された「不可視の魔力糸」が張り巡らされていた。

「……捕まえたよ」

影の中から引きずり出された暗殺者の四肢を、ゼノスの糸が容赦なく締め上げる。ミシミシと骨が軋む音が密室に響く。

「二人。……アリナ、左から火属性の術式が来る。座標 x=15, y=42 に向けて一撃(パニッシュメント)を」

「了解!!」

アリナはゼノスの指示を疑うことなく、指示された虚空へと戦槌を全力で叩きつけた。

直後、そこに出現しようとしていた火球が、爆発の余地すら与えられず、アリナの暴力的な質量によって「現象」ごと圧殺された。

事務員の「消去」

「……バケモノめ!」

残る三人が同時に禁忌魔法の詠唱を開始する。

だが、ゼノスは動じない。彼は手にした万年筆で、空中に「数式」を書き殴った。

それは魔法の構成を根底から書き換える、事務員特有の「論理的な解体」。

「……君たちの詠唱には、三箇所の論理的欠陥がある。……ゆえに、その魔法は発動しない」

ゼノスが指をパチンと鳴らした瞬間、暗殺者たちが練り上げた魔力が暴走し、彼ら自身の体内を焼き尽くした。

「が、あぁぁぁっ!?」

悶え苦しむ彼らの前に、アリナが影を落として立つ。その瞳には、かつて「一級処刑人」として恐れられた無慈悲な光が宿っていた。

「……さようなら。……ゴミは、ゴミ箱へ行くのが事務の基本よ」

アリナの戦槌が最後の一撃を振り下ろす。

凄まじい衝撃波が部屋を揺らし、暗殺者たちは影も残さず消滅した。

戦い(しごと)の後の余熱

静寂が戻った。

壊れた家具、砕けた壁。しかし、ゼノスのデスクの上にある「次に処理すべき書類」だけは、一滴の返り血も浴びず、一ミリのズレもなく整然と並んでいる。

「……ふぅ。……ねえ、ゼノス。三分を五秒過ぎたわよ。どう責任取ってくれるの?」

アリナは戦槌を消し、乱れた呼吸を整えながら、ゼノスの胸に顔を埋めた。

ゼノスは彼女を強く抱き寄せ、その背中をなぞる。

「……すまない。計算外の術式があった。……お詫びに、今夜は君が満足するまで、僕が君の『処理』に専念しよう」

「……当たり前よ。……全く、せっかくの密室デートが台無しだわ。……ねえ、ゼノス。さっさと片付けて、お茶にしましょう。……冷めたコーヒーなんて、事務員失格なんだから」

「……ああ、了解したよ。アリナ」

二人は壊れた部屋の中で、何事もなかったかのように掃除を開始した。

最強の盾と、最強の矛。

二人が揃っている限り、この「特設事務室」は世界で最も安全で、そして最も危険な断罪の場となるのだった。

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