ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います   作:can'tPayPay

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第19話:深夜の肝試しと、深淵の処刑場

 

「――あの『特設事務室』には、夜な夜な女のすすり泣きと、男の低い呪文が聞こえるらしいぜ……」

「壁の修理屋が見たんだ。机には獣に引き裂かれたような跡があり、空気は異様に熱く、甘い腐敗臭が漂っていたってな!」

ギルドの新人冒険者たちの間で広まった「幽霊騒動」。

血気盛んな三人の新人が、名を上げるために夜の事務室へ忍び込むことを決意しました。彼らはまだ知りませんでした。そこが幽霊よりも恐ろしい、**「共犯者の巣窟」**であることを。

午前2時:侵入者と「魔女」の目覚め

カチリ、とピッキングで扉が開く。

「……おい、真っ暗だぞ。本当に幽霊なんて出るのかよ」

三人が震えながら部屋に足を踏み入れた瞬間、背後の扉が「バタン!」と音を立てて閉まり、同時に強力な封鎖結界が展開されました。

「――死ね。今すぐ自分の愚かさを呪いながら、心臓の鼓動を永久に停止させなさい」

暗闇から響いたのは、鈴の音のように美しい、けれど絶対的な「死」を予感させる冷徹な声。

月光が差し込んだ窓辺に、アリナが立っていました。

その瞳は赤く不気味に発光し、手には夜の闇を物質化したような、禍々しい**戦槌が握られています。

「ひ、ひぃっ! 出た、魔女だ!!」

「魔女? 失礼ね。私はただの、**『睡眠時間を邪魔されて、最高に機嫌が悪い受付嬢』**よ」

アリナが一歩踏み出すごとに、床が圧力でピキピキと悲鳴を上げます。彼女から放たれる殺気は、新人の未熟な精神を粉砕するには十分すぎるものでした。

影の支配者:魔王の事務処理

「アリナ、あまり怖がらせるな。彼らの心拍数が上がりすぎて、床を汚されたら掃除が大変だ」

デスクの椅子がゆっくりと回転しました。

そこに座っていたのは、眼鏡に月光を反射させたゼノス。彼は手に持った「不可視の糸」をピアノ線のように弾き、侵入者たちの首筋に、冷たい死の感触を這わせました。

「……ゼ、ゼノスさん!? なんであんたがこんな時間に……」

「……。……見ての通り、残務整理だよ。……それと、僕の『大切なパートナー』との時間を邪魔されたことに対する、事務的な報復の準備だ」

ゼノスの背後から、無数の魔力の触手が影のように伸び、部屋中を埋め尽くします。

新人たちが目撃したのは、幽霊などという生温いものではありませんでした。

王都を守る聖女と、それを支える事務員。その皮を剥いだ下に隠されていた、**「世界を裏から支配する魔王と魔女」**の真の姿。

「……さて。不法侵入、備品の損壊未遂、そして……僕たちの密談を盗み聞きしようとした罪。……アリナ、どう処理(わから)せる?」

「そうね。……まずはその生意気な記憶を、私の槌で物理的に『消去』してあげましょうか。……その後、一生ギルドの地下トイレ掃除をノーギルド(無報酬)でこなす契約書にサインさせるのはどう?」

「……いい案だ。修正(デリート)の準備はできているよ」

翌朝:静かなギルド

翌朝。ギルドのロビーには、死んだような顔で猛然とトイレ掃除に励む三人の新人の姿がありました。彼らは昨夜の記憶を失っていましたが、ただ一つ、**「特設事務室には絶対に関わってはいけない」**という本能的な恐怖だけが魂に刻み込まれていました。

「――あら、新人さんたち。朝から精が出ますわね(微笑)」

アリナがいつもの「完璧な聖女」の笑顔で通り過ぎます。

その後ろを、いつも通り淡々と歩くゼノス。

「……アリナさん、昨夜の『特別残業』のせいで、少しだけ肩が凝っていませんか? 後で個室で、マッサージという名の『調整』をしましょう」

「……。……そうね。あんたの指先で、しっかり責任取ってもらうわ」

二人の視線が絡み合い、火花を散らします。

幽霊騒動は幕を閉じ、事務室は再び、誰にも踏み込めない二人だけの「甘く危険な要塞」へと戻っていくのでした。

 

 

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