ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います 作:can'tPayPay
懐かしい木の扉。乱雑に貼られた依頼書。そして、相変わらず無謀な依頼を持ってくる、知った顔の脳筋冒険者たち。
アリナがかつて「定時退勤」のために血道を上げたその場所に、彼女は再び立っていた。
(――死ね。死ね死ね死ね! 結局戻ってくるなんて。でも……。以前の私とは、決定的に違うことが一つだけあるわ)
アリナが視線を横に向けると、そこには慣れた手つきで事務机を整頓するゼノスの姿があった。
「……ゼノスさん。ここが私の『原点』よ。王都に比べれば不便だし、冒険者の質も、控えめに言って『ゴミ』の山だけど……」
「……。……いい場所だね、アリナ。君が独りでどれだけ苦労してきたか、この古びた帳簿の乱れを見ただけで理解できるよ。……大丈夫。これからは、僕がこのギルドの『毒』をすべて濾過してあげる」
ゼノスは事務用の眼鏡をかけ直し、冷徹な微笑みを浮かべた。
第7ギルドの衝撃:最強の「新人」
「おいおい! アリナちゃんが帰ってきたってマジかよ!」
「しかも、なんだあの隣にいるヒョロい優男は? アリナちゃんの新しい助手か?」
かつてアリナに叩きのめされたことも忘れた冒険者たちが、下卑た笑いを浮かべて窓口に集まってきた。
一人の屈強な戦士が、ゼノスの机をドンドンと叩く。
「へっ、新人事務員さんよぉ。アリナちゃんにばっかりいい顔させねぇで、俺たちの『ランク外』の無謀な依頼も、サッサと受理しやがれ!」
アリナの額に青筋が浮かぶ。戦槌を顕現させようとしたその瞬間――ゼノスの指先が、スッと書類を差し出した。
「……。……冒険者コード8821。過去三ヶ月の依頼達成率12%。……。……あなたの実力でその依頼を受ければ、生存確率は0.03%以下です。……死にたいのであれば、ギルドの裏手にあるゴミ捨て場で勝手にどうぞ。受理印を突くインクの無駄です」
「……あ、あぁ!? てめぇ、何様だ!!」
戦士がゼノスの胸ぐらを掴もうとした瞬間、ゼノスは目にも止まらぬ速さで男の指を「事務用ペン」で弾き、同時に彼の足元にある『床の影』を操作して、その動きを完全に封じた。
「……。……僕は、アリナさんの時間を一秒たりとも無駄にさせないために、ここにいる『共犯者』です。……次、その汚い手で彼女の視界を遮ったら、……あなたの冒険者資格どころか、存在そのものを『紛失』扱いにしますよ?」
ゼノスの瞳が、琥珀色の深淵に沈む。
その圧倒的な「格」の違いに、ギルド中が静まり返った。
黄昏の帰り道:二人だけの風景
業務終了。定時の鐘が鳴る。
アリナとゼノスは、かつてアリナが独りで歩いた、夕暮れに染まる街路を並んで歩いていた。
「……ふふ。……あんなに静まり返った第7ギルド、初めて見たわ。……あんた、本当に馴染むのが早いわね」
「……。……君が守ってきた場所だからね。……。……アリナ。これからは、君が魔神を殴り殺す必要はない。……僕が、魔神が現れる前に、その存在を『事務的に抹消』しておくから」
ゼノスは、アリナの肩を抱き寄せた。
アリナは少し照れたように毒を吐きながらも、その温もりに身を委ねる。
「……いいわよ。……。……でも、たまには私にも暴れさせてよね? ストレスが溜まるんだから」
「……ああ。その時は、僕が特等席で見届けよう。……そして、返り血を拭うのは僕の役目だ」
原作の舞台、第7ギルド。
かつての孤独な「処刑人」は、今や最強の「共犯者」という伴侶を得て、より残酷に、より甘く、その日常を蹂躙し始めるのだった。
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