ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います 作:can'tPayPay
浴室での熱いひとときを終え、二人は寝室で静かな時間を過ごしていました。
窓の外では、懐かしい第7ギルドの街並みが夜の静寂に沈んでいます。アリナはゼノスの腕の中で、彼の胸元に指先で円を描きながら、ふとした疑問を口にしました。
「……ねえ、ゼノス。あんた、考えたことある?」
「何をだい、アリナ」
「……私たちの、その……『先』のことよ。……もし、万が一にでも、私とあんたの間に……その、……『小さな共犯者』ができちゃったら、どうするつもり?」
アリナの声は、いつもの毒舌が嘘のように微かに震えていました。
最強の処刑人として、数多の魔神を屠ってきた彼女。けれど、自分の中から生まれるかもしれない「新しい命」という未知の概念には、どうしようもない戸惑いを感じていたのです。
ゼノスの回答:事務的、かつ狂信的な愛
ゼノスは少しだけ沈黙した後、アリナの髪を愛おしそうに撫でました。その瞳は、冗談を言っているようには見えません。
「……。……そうだね。事務的に考えれば、リスク管理が必要だ。……君の体調、出産時の安全確保、そして生まれた後の教育環境……。王都の最高医官を拉致してくる必要もあるし、ギルドの地下には、世界で最も安全な託児用の結界を張らなければならない」
「……拉致って。相変わらず極端ね、あんたは」
「……。……でもね、アリナ。本心を言えば……僕は、君に似た小さな存在が、僕たちの隣にいる未来を、拒絶なんてできない。……むしろ、その子が君の瞳を持って生まれてくるなら、僕はその子のために、この世界の秩序をもう一度書き換えてもいいと思っている」
ゼノスはアリナをさらに強く抱き寄せ、彼女の耳元で低く囁きました。
「……ただ、一つだけ困ったことがある」
「……何よ」
「……僕は、君を独占したい。……たとえ我が子であっても、君の愛を僕から奪う存在になるなら、僕はそいつに嫉妬して、……事務員として失格な振る舞いをしてしまうかもしれない」
共犯者の誓い:血の継承
アリナはゼノスの言葉を聞いて、フッと短く笑いました。
「……。……バカね。……嫉妬なんて、私の方がするに決まってるじゃない。……あんたのその有能な指先が、私以外の誰かを優先してケアするなんて、……たとえ自分の子供でも許さないわよ」
アリナはゼノスの顔を両手で挟み、じっと見つめました。
「……でも、もしそうなったら。……世界で一番性格の悪い処刑人と、世界で一番執着心の強い事務員に育てられるんだもの。……とんでもない『魔王』が誕生しそうね」
「……。……いいじゃないか。……二人で育てよう、アリナ。……君が剣を教え、僕が世界の裏側を教える。……僕たちの『毒』を色濃く継いだ、最高の傑作をね」
ゼノスはアリナの額に、誓いのような口づけを落としました。
今はまだ、遠い未来の話。
けれど、二人の間には、ただの愛を超えた「血の絆」への覚悟が、静かに、そして確かに芽生えていました。
「……約束よ、ゼノス。……子供ができても、あんたの『一番』は、永遠に私なんだから」
「……ああ。……それは、世界の理(ことわり)よりも動かない事実だよ、アリナ」
二人は再び、深い口づけを交わしました。
第7ギルドの夜は更けていきますが、二人の物語は、新しい命の予感さえも飲み込んで、さらに深く、濃密に続いていくのでした。