ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので定時に帰ろうと思います 作:can'tPayPay
ジェイドがどう頑張ってもキャラ崩壊するので
基本デュオで進めていきます
二人以外はほぼモブです
王都に帰還したその日。ギルドの窓口を閉めたアリナは、もはや歩く呪詛の塊と化していた。
「――お疲れ様でございました。お気をつけて(訳:二度とその面見せるな、海に帰って塩水にでも浸かってろボケカスが!!)」
最後の冒険者を笑顔で追い出した瞬間、アリナの表情筋が物理的な音を立てて崩壊する。彼女は音速で更衣室へ駆け込み、制服を脱ぎ捨ててゼノスのアパートへ殴り込んだ。
バァン!! と景気よくドアを蹴破る勢いで入室した彼女は、キッチンに立つゼノスの背中にダイブした。
「……もう、無理。死ぬ。全人類滅びればいいのに。特に『白銀』の連中! あいつら、私の有給と定時と精神衛生をなんだと思ってるわけ!? 私の貴重な夏休みを、あのドロドロしたクラーケンの粘液で汚した罪は万死に値するわよ!!」
「おかえり、アリナ。はい、まずはこれ。精神安定剤(イチゴのババロア)だよ」
ゼノスは背中にしがみついたままのアリナを慣れた様子で引き剥がすと、彼女をソファに放り込み、スプーンを口に突っ込んだ。
「……んぐ。……はぁぁ、甘さが脳に染み渡るわぁ……」
一口で猛毒が30%ほど浄化される。しかし、アリナの毒舌は止まらない。
「聞いてる、ゼノス!? ジェイドのあの『正義の味方です』って顔! 盾を構えて『守ります』なんて言っちゃって、私が後ろでどれだけ必死にクラーケンの触手を粉砕してたか一ミリも気づいてないのよ! あいつの盾に、今度こっそり『私はバカです』って刻んでやりたいわ!」
「はは、それはちょっと面白いけど我慢しようね。ジェイドさんも、アリナさんを傷つけたくない一心なんだから」
「その『一心』が重いのよ! 善意の押し売りは残業代よりタチが悪いの! 私は、誰かを守りたいんじゃなくて、定時に帰ってゼノスの膝で寝転がりたいだけなの!!」
アリナはゼノスの腰に腕を回し、ぐりぐりと頭を押し付けた。
外では誰にも見せない、獣のような甘え方。
「……ねえ、ゼノス。あいつら、絶対私たちのこと疑ってる。特にあの魔導士の女(ララ)。あいつの目、絶対『こいつら何か隠してる』って確信してるわよ。……いっそのこと、記憶消しちゃおうか? 神器で頭を軽くパーンって……」
「ダメだよ。アリナが犯罪者になったら、僕の美味しいご飯が食べられなくなるだろ?」
ゼノスが彼女の顎をクイッと持ち上げ、視線を合わせる。
その穏やかな、けれど全てを見透かしたような琥珀色の瞳に見つめられると、アリナの荒れ狂う心音は、魔法のように静まっていく。
「……ズルいわ、ゼノス。そうやって、私をこの平穏の中に繋ぎ止めるんだから」
「君が望んだ平穏だよ、アリナ。……さあ、毒を吐ききったら、お風呂に入っておいで。君の好きな香りの入浴剤、用意してあるから」
「……一緒に入る?」
「それは、君の毒が完全に抜けてからだね」
「……ケチ。……大好き」
アリナは最後にもう一度、ゼノスの首筋に深く顔を埋めてその香りを吸い込んだ。
明日、またあの地獄のような「笑顔の仮面」を被るための充電。ゼノスという解毒剤なしでは、彼女の世界はとっくにハンマーで粉砕されていたに違いない。