ふと目覚めると私は海の上に立っていた。
おかしい、何故私は目覚めるという人間の知覚を持っているのだ?何故私は生身でしかも海自に二本の足で立っているのだ?何故私はあの鋼鉄の身体を失っているのだ?何故私はこの様な思考が出来るのだ?そして…
「此処はいったい何処なのだ?」
それが彼女がこの世界で発した初めての言葉である。
とにかく周囲の索敵と移動を開始せねば、と彼女は思った。彼女が元いた世界では比類なき力を振るう超常の兵器達のらなかでも最強と謳われ、事実彼女一人で一個艦隊を消滅させている。
だが、自我というものに初めて目覚め肉体という脆弱な檻に囚われている彼女は初めての世界で何もかもが初体験のなか、不安と孤独を持て余していた。
「つっ!」
彼女のレーダーに反応があった、数は6内二隻は重巡、三隻の駆逐艦に一隻の戦艦で構成されている。
彼女の反応は素早かった、自身の艤装(これは元いた世界にはなく、この世界で得た初めてのものだったが、手足を動かすが如く自然に展開していた)兵装機関共に異常なし。衛生とのリンクが無い以外無線索敵異常なし。
戦闘行動を行うための全ては、彼女に自然に備わっていることだ。
IFFにも反応なし、全周囲無線での呼びかけにも応じないどころか単縦陣を組み、戦闘速度でこちらに向かって来る。
彼女の口は自然と持ち上がり、目はまるで欲しいオモチャを貰った子供の様に輝く。
躊躇う必要は無い、それはこの世界に来る以前から彼女がもつたったひとつの意識。
純粋な敵意と溢れんばかりの闘争本能と破壊衝動である。
彼女の艤装についている兵装が全て仰角を上げ、その砲口を天に向ける。
それは見るものがいればこう思っただろう、海上に立つ摩天楼と。
「ヴォルケンクラッツァー、これより殲滅を開始する」
瞬間、80㎝の主砲が火を噴き轟音が大気に木霊する、敵は水平線の遥か彼方の向こう側。
だが不敵に歪められた彼女の微笑は確かな手応えを感じた。
レーダー上では既に2つの反応が消えていた。初弾から二発も命中。反応から重巡に駆逐艦を仕留めた事が分かった。
続いて主砲斉射3連、彼女が撃ち終わった後海上は又元の静寂を取り戻していた。僅か斉射四回、それだけで戦艦と重巡を有する艦隊を一方的に嬲り全滅させた。
そこに彼女を熱くさせる血の闘争はなく、唯々無感動な勝利だけであった。
この世界で深海悽艦と呼ばれる存在とのファーストコンタクトは散文的な結果に終わった。
深海悽艦の全滅と彼女の勝利として。