ファーストを1ミリも知らない俺が介入したせいで、宇宙世紀の歴史がおかしくなったかも 作:フェルトファン
ネタバレは決して言いませんが、感想を言えば……すごいものを見れた(語尾力)
<ランバ・ラルside>
イオリ・サカイ……このサイド3では数少ない日系人の少年であり、現在は俺とハモンで面倒を見ている。一応言っておくが、あの小僧は俺の息子でもなければ誰かから預かっている子供でもない。もちろん血の繋がりなど一切なく、言ってしまえば
地球で実の父であるジンバ・ラルが暗殺されたと知った直後、俺はハモンの酒場に身を置き酒浸りで用心棒まがいの真似事をしていた。どこか生きる気力も張り合いも失い、ただ日々をやり過ごしていた頃だ。ある日、気分転換にふらりと街中で散歩をしていた時、誰かと肩がぶつかった。同時に、懐に伸びてきた手の気配に気づく━━
違法な店や犯罪が潜むこの街では、珍しくもない。反射的に財布を盗もうする手を掴んだが、そこで俺は思わず目を見開いた。何故ならその盗人の正体は、
それがイオリで、その日は俺と小僧との最初で最悪な出会いでもある。
『は〜な〜せ〜このクソ髭親父〜!!!』
『うるさい!いいから黙ってついてこい!』
最近ズムシティ内では金目の物が盗まれるという噂を耳にしていたが、まさかこんな年端もいかぬ子供がスリやっているとは流石に予想外だった。普通なら警察に突き出して終わりだが、何故か俺はそうしない。後々面倒になると分かっていながらも、
『離せぇゴラァ!テメェ、マジでぶっ飛ばすぞぉ!』
『落ち着け!別に何かをするつもりはないし、一旦お前と話をするだけだ。今は場所を変えて━━━』
『嘘つけやぁ!どうせあれだろ、
『そんな馬鹿げた趣味あるわけないだろこのクソガキ!!!というか、どこでそんな卑猥な言葉を覚えた!?』
何度説明しても疑うばかりだから、仕方なく半ば強引に引っ張りながら移動する羽目になった。道中でも暴れたり訳の分からん言葉を吐き続ける始末だが、俺より小さい身体のくせにやたらと力がある。何の説明もなくいきなり連れていく俺も悪いが、途中から俺を完全に変質者扱いし始めたのに腹が立った。それからようやく人目のない場所へ辿り着くも、久々の疲労が一気に押し寄せてきていた。
『ハァ……ハァ……少しは一旦落ち着け!俺はお前に何かをするつもりもないし、警察に引き渡すつもりない!』
『分かったぞ!さては暗い場所で
未だに変質者扱いをやめないものだから、迷わず小僧の頭に拳骨を食らわせる。ここまで俺を苛立たせたのは久々だが━━皮肉にも、そのおかげで酒の酔いが一気に身体から抜け落ちた。
『とりあえず一応聞くが小僧、どうして金目の物を盗もうとする?』
「はぁ?なんで知り合いでもないオッサンに話さねーいk『言わないなら本当に警察へ突き出すぞ。』━━うぐ……か、金が欲しかったからだ……飯とか何も食えねーし。』
意外とあっさり答えてくれたが、正直なところ驚きはしなかった。似たような事情で犯罪に手を染める者は、この街では珍しくない。しかしこんなまだ十代にもなっていない小僧には、あまりにも早すぎる。俺は、諭すように言葉を続ける。
『だいたい察しがつく……それでもだ、こんな馬鹿な真似は今すぐやめろ。いずれ取り返しのつかない事になるぞ。とりあえず親御さんと話をしたいから、家まで案内してくれ。』
『………』
『おいどうした黙り込んで?もしかして知られるのが嫌なのk『いねーよ』………は?』
『だからいねーって……家が無いからそこら辺の路上で生活してたし。つーか親も、なんかもう死んでいるらしいから。』
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず黙り込んでしまう。小僧の口からは誤魔化しておらず、嘘をついている様子も見えなかった。
『ちょっと待て、
『だから知らねーって言ってんだろ。俺が元々住んでいた施設のセンセーから親は既に死んだって聞いただけだし、それに俺はその親って奴らに捨てられたかも。まっ、その施設はクソつまんねー場所だったからこっそり抜け出したけどな。』
嫌でも分かってしまった……この小僧は孤児で、その施設というのはおそらく孤児院だろう。深い事情を抱え道を踏み外す者は多いこの街では、珍しくない。
『それはなんだ……すまなかった。』
『いいよ別にもう慣れてるから……それにもう帰ってもいいだろ?オッサンの財布なんかもう取らねぇから。』
そう言いながら、そのまま立ち去ろうとする。盗みを働いた理由も聞け、これ以上問い詰める言葉も見つからない。しかし何故だろうか……その小さな背中を目にした俺は、何故か彼を放ってはおけないと感じた。まるで、
『おい小僧、名は何だ?』
『………イオリ……つーか、別に聞かなくていいd『そうかなら行くぞ。』━━は?』
名を告げた直後、俺は小僧━━━イオリの首筋の後ろを掴み、そのまま引き摺るように引っ張った。
『お、おいオッサン!さっき俺を警察に引き渡さないって言ってたんじゃないのかよ!?』
『安心しろ、嘘は言っていない。それにお前は帰る場所がないのだろ、だったら
『━━は、はぁ!?いきなり何言ってんだクソ髭親父!アンタやっぱり
これ以上誤解を招かない為に、俺は再びイオリの頭に拳骨を落とした。このままハモンが経営する酒場へ向かい、こいつの世話をするつもりだが……正直、なぜこんなことをしているのか自分でも分からない。“放っておけ、どうせ後々面倒なことになるぞ”と頭の中ではそんな否定的な言葉が浮かんでくる。それでもその言葉に否定するかのように俺の身体は勝手に動いた━━これがお人好しというやつかもしれない。
それからクラブ・エデンに辿り着き、小僧が入る事前に自身の恋人であるハモンとバーテンダーであるクランプに早速事情を説明する。最初は驚きながらも何とか世話するようにできないかと必死に説得しようとするが、思ったよりあっさり受け入れてくれた。やがてイオリを招き入り、先にクランプの紹介を済ませた。それからハモンの紹介もしようとしたら……
『なぁオッサン、そこにいる
初対面にも関わらずいきなりとんでもない爆弾を投下しやがった。その一言に俺とクランプは固まってしまい、恐る恐るハモンの方へ視線を向けた。
『あらなにその顔、別に気にしていませんよ。今どきの子供って、こういう冗談も言いますもん……それはそうと、
一瞬だけ胸を撫で下ろしかけたのも束の間、笑っていない笑みを浮かべるハモンが暴言を吐くその姿に背筋が凍りつく。俺とクランプは慌てて止めにかかり、彼女を落ち着かせようと必死だった。後になって思い返せば、あの時のハモンの笑顔ほど恐ろしいものは今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。
話をまとまった事で、イオリは俺達の元で育つことになった。念のため勉学も教えさせたが、子供を教育した経験などない俺やハモンにとって最初は何もかもが手探りばかり。俺は不器用だったが、ハモンに関しては早くの慣れていた。小僧も最初こそ反抗的だったが勉学の覚えは思った以上に早く、特に機械への興味が増している。暇さえあれば整備書や機械工学の本を読み漁るくらい夢中だった。
しかし成長するにつれて頭が良くなるどころか、こいつはとんでもない
例えば、営業中にハモンへしつこく言い寄る迷惑客の酒に下剤を混ぜたり。理不尽なクレームをつけてくる客の車に小細工を仕掛け、軽い爆発事故を起こさせたり。ガラの悪い女から個人情報を聞き出し、ネット上にバラしたり━━などなど。もはや悪ガキというより、妙に頭の切れる大のイタズラ好きな天才になってしまった。
それから時が過ぎ、俺はドズル・ザビのモビルスーツ開発計画にテストパイロットとして雇われることになった。もちろん最初は断ろうかと躊躇していたが、金が必要だった為に迷う暇もなかった。そうして何度目か分からないMSの運用テストを終え、俺はいつものように店へ戻った夜。その日に限って珍しく帰りが遅かったイオリが夕飯を食っていた時、丁度酒を飲もうとする俺にいきなり声をかけてきた。
「モビルスーツって、知ってるか?」
━━と、何気ない口調で語るその言葉に、酒を飲もうとした俺の手が止まってしまう。
そもそもMSは、連邦との戦いに備えて極秘裏に進められている新兵器で表には一切公開されていない。この場でその存在を知っているのは、俺とハモンだけのはず。だというのに、関係者でもないイオリの口から何故そのような言葉を知っているのかは不思議で仕方がない。
内心の動揺を押し殺しつつ、俺は平然とした様子で何故知っているのかを尋ねる。そしてイオリは“見知らぬ人から盗み聞きした”と答えてくれたが、どこか誤魔化しているようにも聞こえる。だが俺はそれ以上踏み込めず、ただ『忘れろ』と言うしかなかった。それから特に言及する事もしないイオリは夜食を食い終えると、自分の部屋へ戻っていった……というか、一瞬だけ迷っているようにも見えた気もするが。
「貴方……あの子……」
イオリがいなくなり、この場には俺とハモンだけが残った。彼女なんか不安げな表情を隠せず、言いたい事が山ほどあると言わんばかりでいた。
「心配するな、どうせアイツの聞き間違いだろ。」
「そうかもしれないけど……だ、だけど……」
「とにかく、今は様子見だ。」
一応そう伝えておいたものの、俺もアイツの事が気になって仕方がなかった。そして翌日、イオリの様子は明らかに変わっていた。
毎日どこかへ出かけては帰りは遅く、食事もろくに取らずに部屋へと戻って何かをこっそり調べたりていた。念の為タチ*1に尾行させたところ、どうやら毎日同じ図書館で何かを必死に調べているらしい。いやそもそもあいつはバカで頭は良いが、そこまで勉強熱心な性格ではないはず。俺も気になっているがMS開発の仕事でそれどころではなく、イオリの事はハモンたちに任せるしかなかった。
やがて丁度一週間が過ぎた頃。俺は酒場で久々に酒を飲みながえあ束の間の休日を過ごそうとしていた時、ハモンが寄ってくる。
「イオリの事なんだけど……ここ最近、
「ブフッ━━!?」
彼女の口から語られた言葉に反応し、口に含んでいた酒を思わず吹き出してしまった。
「ゲホッ!ゴホッ!は……ハモン、念の為に聞くがまさか……」
「残念ながらほとんど事実よ。それにあの子、ジオニックのセキュリティを……最上級権限の人間しか入れない層まで、あっさり突破していたわ。」
何をやっているんだあの大馬鹿者。
いつかバカをしでかすとは思っていたが、まさかそこまでするとは想定外だ.....と言うアイツ、いつに間にハッキング技術を習得していたのだ?そう疑問を抱いていた俺の前に、ふとハモンが
「これはあの子のなんですけど...中を見たらきっと貴方も驚きますよ。」
それはイオリの画帳であり、暇な時さえあればよく絵を描いていた。手に取ると表紙には『第一回チキチキ俺様のMS記録!!』と書かれているが、本気なのかふざけているのか相変わらず何考えているのか分からない小僧だ。
しかし何故ハモンがこれを俺に見せるのか未だ分からぬが、とりあえず気軽にページを捲った瞬間━━━俺は思わず息を呑み込んだ。
「こ、これは━━!?」
驚愕しながらもページを捲り続けていたら、中にはMSの設計図らしき絵が一枚一枚ぎっしりと描かれている。おそらくジオニック内のデータから盗んだ設計図を書き写したと思うが、とても書き写した思えないくらい丁寧に描かれていた。説明文まで添えられており、何なら俺が
「ねぇ、イオリの事なんだけど………一旦開発に関する仕事をさせみたらどうでしょう?」
夢中になりかけそうになった俺は、ハモンの声でようやく意識が現実へ戻る。いやちょっと待て、そもそも今何といった━━?
「一応貴方も知っていると思いますけど、イオリはもう既に十四ですし、そろそろ社会見学をさせても悪くないと思いますよ。」
「ハモン……お前、自分で何を言っているのか分かっているのか!?」
俺の聞き間違いでなければ、ハモンはアイツをMS開発に関わらせても良いと言っている。確かにアイツは大の機械好きだし、バカではあるが一応才能もある。しかし、だからこそ反対だ。
「もちろん本格な仕事ではなく、あくまでもお手伝い……言うなればアルバイトみたいなものよ。それに“子供はいずれ自然と成長する”と言う言葉もよく聞くでしょう。」
「いやそれは...た、確かにそうかもしれないが、だからと言って...」
「多少はバカな事をするかもしれませんが、あの子には少し冒険を経験させた方がいいですよ。それとも
反論しかけた俺は、ハモンの口から語られたその言葉に思わず黙り込んだ。
父ジンバ・ラルが暗殺されてから、
思い返せば、アイツを学校へ行かせた事も無かったな。危険が訪れるかも知れない思い、信頼できる部下たちに勉学を教えさせてきたが……今頃になって思えば、同じ年頃の子供と話している姿を見たことがない。普通に学校へ通わせていれば友達もできたのではないかと、少しだけ後悔が胸を刺していた。
「イオリを守りたいという気持ちは分かるけど、少し縛り過ぎだと思いましよ。」
「それは………まぁ、そうかもしれないが……」
正直まだ納得しきれないが、一応ハモンの提案を受け入れる事にした。とはいえ、ジオニック社で働かせることには今でも反対だ。あのごろつきども*2に目をつけられるのも厄介だが、ザビ家に関われば嫌な予感しかしない。だからって“MS開発の仕事はできない”言ったら、アイツは間違いなく勝手に行動して何かやらかすのも想像できる。
「なら、ツィマッド社はどうでしょうか?」
どうすれば良いのかと悩む俺の前に、ハモンがジオニックとは別の重工業企業の名を口にした。確かにツィマッドもMS開発を進めているが、以前ジオニックと開発競争で対立し敗北していたはず*3。何でも
「今のジオンは主力MSを担うジオニックに目を向けていて、連邦との戦いに備える為に忙しいはず。対してツィマッドは先のコンペで存在感は薄くなりましたが……今も懸命に開発していると言う情報も耳にしています。そこでならあの子が目立つ行動をしなければ、貴方が心配するようにザビ家に目をつけられる危険も少ないでしょう。」
彼女の言葉を聞き、“さすが俺が愛した女だ”と言う感想しか浮かばんかった。だが、今はアイツの真意を聞きたい━━━
それから俺はイオリを客席へ呼び、これまで隠していたことを知っていると告げた。案の定驚いた表情で誤魔化そうとするも、俺が画帳を見せた途端に黙り込んだ。やがて俺は“モビルスーツの秘密を知ってどうするつもりだ?”と問いかけたら、アイツは“働いてみたい”と答える。しかしそれでは未だに納得ができず、俺は再び問いかける。
次の瞬間、アイツは堰を切ったように怒鳴り返してくる。
「つーかラルさんも隠してじゃねーか!なんで教えてくれねーんだよ!そっちだってMSの開発を手伝ってるの、俺に黙っていやg……「イオリ」━━ッ」
ハモンの鋭い声で、奴は我に返った。“隠していた”……か、確かに俺も何も言わず隠し続けていた。それが原因で、危ない橋を渡りかけたのかもしれない。やり方は最悪だが、イオリの目にはMS開発に関わりたいという熱が宿っているようにも見えていた。
「お前の言いたい事はよく分かった……俺からの条件を守ってくれるのなら、MS開発に関わる仕事をさせてやってもいいぞ。」
俺は深く息を吐きながらそう告げると、イオリの目が輝いた。ジオニックで働けると期待しているのだろうけど、一応先に行っておく━━悪いがお前の期待通りにはならないぞ。
「じゃあ……俺もジオニックで働いてm━━━」
「残念ながらお前が行くのは、ツィマッド社だ。」
正直俺は未だ完全に賛成しているわけではないが、とりあえず今は様子見だ。できればこれ以上、馬鹿な真似はしてくれるなよ……
主人公、イオリ・サカイのガンダム知識について軽く説明します。
前世では元々アナザーシリーズとビルドシリーズをよく見るタイプですが、最近では宇宙世紀シリーズに興味を持つ。ただしファーストだけは見ておらず一年戦争の内容も時系列も皆無。モビルスーツに関してはある程度なら知識はあるが、ほとんどはネットで調べている。
もちろん一年戦争の裏で活躍していたブルーやイグルーなど、番外編は全く知りません。
ちなみにサンボルは一応完結まで読んでいたが、“これがファーストじゃねーの?”と勘違いし、前世のガノタにブチぶられたとか。