ファーストを1ミリも知らない俺が介入したせいで、宇宙世紀の歴史がおかしくなったかも   作:フェルトファン

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第2話 失敗作って、いろんなロマンが詰まっているから良いんだよ

ツィマット社

 

 ジオニック社やMIP社と共にジオンの重工業を支えた一つの企業会社であり、モビルスーツの推進装置の開発を得意とした開発会社でもある。主力としてヅダ、ドム、ギャン、そしてゴッグなど数々のMSを開発した経歴もある。実績こそあるものの他の企業の後塵を拝してしまい、物語(原作)の中ではどこか()()()()()として扱われがちであった。

 

 しかしそんなツィマッド社に、とある一人の少年が足を踏み入れる。

 

 

 

 

<イオリ・サカイside>

 

 なんやかんや色々あってラルさんからモビルスーツ開発の仕事に関わる許可をもらった俺は、開発企業であるツィマッド社へと辿り着いた。そして俺は会社の関係者らしい研究員と対面し、今は研究施設の中へ案内されているところだ。

 

「いや〜、まさかこの時期にアルバイト希望者が来るなんて思わなかったよ。最初は遅めの入社希望者かなと考えたんだけど、とある人物からの紹介だって聞かされてさ。しかもその人物があのランバ・ラル大尉から直接の頼み事だと所長から聞かされて、正直びっくりしちゃったよ!」

 

「はぁ…そうっすか。」

 

「どんな人が来るのか緊張してたけど、まさか君みたいな子供が来るとは……あっ、ごめん!別に失望してるわけじゃなくて、ただ驚いただけで…」

 

「あの……期待させちゃったなら、なんかすんません。」

 

「いやいやいや、君が謝る必要なんて全然ないよ!」

 

 一応言っておくけど俺はもう14になったばかりだぞ……いや冷静に考えれば、まだ子供って言われりゃ子供だよな。それはそれとして俺としてはさっさとMS開発に関わりたくて仕方がないが、今はラルさんからの条件を守らなきゃいけないんだよな……正直クソめんどくせぇけど。

 

『良いかイオリ、俺からの条件をよく覚えておけ━━

 

 

その1、ツィマッド社の人達に迷惑をかけない

その2、目立たない事

その3、絶対に馬鹿な真似をするな

 

 

この条件を守ってくれるのなら、お前を行かせてやる。とにかく余計なことだけはするなよ、絶対だぞ。』

 

 思い返してみると、何故か最後の方だけは異様に念を押された気がする。ハッキリ言って誰かの命令通りに動くのはあまり好きじゃないが、ようやくモビルスーツ開発に関われる場所へ来られたんだ。今は余計なことをせず、前世で学生時代に経験したアルバイト感覚で普通に働けばいい。そう考えているうちに施設の一室と思われる部屋の前へと着いた。

 

「えっと……それじゃイオリ君って呼べばいいんだよね。実は今のツィマッドはかなり忙しい時期に入っていて、新人の面倒を見る余裕があんまりないんだよね。まぁ正直に言うと、ちょっと事情があって会社の信頼がピンチでさ……」

 

 出迎えた社員は申し訳なさそうに頭をかきながら笑っているけど、俺からしたら笑えなかった。

 つーか会社の信頼がピンチって、一体何があったんだ?ここの会社大丈夫かよ、なんか別の意味で心配なんだけど。

 

「サクッと仕事を始めちゃうけど、分かんないことがあったら遠慮せずにどんどん聞いてくれていいからね。」

 

「お、オッス....」

 

 最初からMS開発に関係する仕事ができる訳ないとは分かっていたけど、こうして雑用から始まるのはやっぱり癪だ。それでも俺は内心のモヤモヤを隠しつつ、言われた通り仕事を覚えることに集中する。ちなみに俺が任されたのは、アルバイトとかでよくありそうな作業とデスクワークだった。とはいえ前世ではサラリーマンとして働いていた経験があり、業務そのものに苦戦はない。作業を淡々とこなしつつ、気づけば三時間ほど経っていたが━━━なんというか、つまらなさ過ぎる。

 

 ツィマッド社の人達は丁寧に仕事を教えてくれるし、同じデスクワーク担当の社員らも親切だった。もちろん何の面接も無くここで働かせるってだけで、ありがたいと思っている。ただやっている仕事はあまりにも普通すぎで、前世とはほとんど変わらない。それに俺がパソコンでのデータ収集や書類作成をあっという間に終わらせて報告すると、先輩社員が目を丸くした。

 

『えぇ、もう終わったの!?早いね〜、もしかしたら将来は優秀な事務処理担当だよ!』

 

 いや俺はMS開発に関する仕事をしたいっつーの。

 

 ちなみに仕事中でこっそり聞いた話なんだが、どうやらツィマッド社はジオニック社が開発した“ザク”のライセンス生産を行っているらしい。ならば少しくらい見学できないかと思い遠回しに聞いてみたのだが、向こうも忙しくてそれどころではないと申し訳なさそうな表情で却下された。

 

 だぁ〜畜生、これじゃ何のためにツィマッド社に入ったのか分からないじゃないか。二、三日我慢すれば見学できるかもしれないが、俺としては一刻も早くMSがどう開発されているのか見たくて仕方がない。どうにかして見られないかと真剣に考えていると、一人の社員が困った様子で唸っていた。

 

「う〜ん……どうしようこれ……」

 

「あの、何か困りごとっすか?」

 

「実はこの資料を第七施設研究所に届けたいんだけどさ……今やっている仕事も今日中に終わらせなきゃいけなくて……」

 

 ━━あれ、もしかしてチャンスでは?

 

「よかったらそれ、俺が届けに行きましょうか?」

 

「えぇ!?でも君が行く必要なんて――」

 

「一応作業も終わってるっぽいし、それに俺こう見えて暇なんで……」

 

「そうかい……じゃあ任せてもいいかな?」

 

うっしゃ、キタコレ!!

 

 俺は素早く資料を受け取り、颯爽と届け先へ向かった。場所は一応把握しているから迷うことなく到着し、その場にいた研究員に資料を渡す。もちろんただ届け物をしに向かっているだけでなく、こっそりMS開発してる場所へ向こうと企んでいる。もちろんどこにあるかなんて知らないが、ここは開発会社なんだしどこかにあるはずだ。もし勝手に動いているのがバレたら、“迷っちゃいました!”と言って謝ればいい。とにかく今は、ライセンス生産されているであろうザクを少しでもこの目で見たい。絶対に探してやる━━

 

 

 

 

 

 

 そう言っておきながら数分後、結局モビルスーツらしき姿は一つも見つからなかった。それに戻る道すら分からなくなり━━━俺はガチで迷子になっていた

 

 「ヤベェ……戻る道って、どっちだっけ?」

 

 あれから色々と探索している内に、いつの間にかMS格納庫っぽい場所へ辿り着いたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。内心ガッカリした俺は元いた事務所へ戻ろうとするが、肝心な帰り道すら覚えていなかった。

 

「最悪すぎる、マジでここどこなんだ……」

 

 急いで戻りたいのに戻れず、むしろ自分はどうやってやってここに辿り着いたのかすら分からない。こんなところでウロウロしていたらサボっていると疑われるかもしれないし、バイト初日でいきなりクビなんて洒落にならんぞ。

 

 とにかく今は急いで事務所に戻らねばと、適当に歩いていた道中━━格納庫の奥に一機のMSが鎮座していたのが目に入った。

 

「いや、モビルスーツあるんかい!」

 

 ついさっきまで落胆していた気持ちは一瞬で驚きと興奮に塗り替えられ、俺は思わず駆け寄る。しかしその機体に目を向けた瞬間、俺は違和感を感じた。

 

「……これMSだよな?」

 

 目の前にいるのは確かにMSだろうけど、少なくともジオニック社の開発データにあった()()()()()()()()。体型はよりスマートで直線的で角張った装甲。モノアイらしきものはあるが頭部は不気味な突起が目立ち、どこか異形じみている。俺はファーストガンダムの物語は全く知らないが、それでもドムやゲルググといった機体が登場する事くらいは知っている。

 

 だがこのMSに関しては、見覚えがない。近くに機体データがないか探し、刻まれていた文字が載っているプレートを見つける。

 

「多分これだな、型式番号EMS-04ヅダ……ヅダ?」

 

 いや知らんない機体だな。多少の知識があればある程度のMSを把握しているつもりだが、ここに来て見たこともない機体が出てくるとは思わなかった。もしこれが外伝作品にしか登場しない機体だったら、完全にお手上げだぞ。

 

 他に何か情報はないかと周囲を探し回ろうとしていたら、不意に近くで物が落ちる音と小さな悲鳴が聞こえた。

 

イタタタ〜……あぁ!せっかくまとめた資料がバラバラに!」

 

 咄嗟に物陰へ身を隠し、そっと様子を窺う。

 

 そこにいたのは多分俺と同じくらいの年齢であろう一人の少女だった。黒髪で小柄、気弱そうな雰囲気の眼鏡をかけていて、どこか小動物的な印象を受ける。いわゆる美少女な眼鏡っ娘ってやつだ。身長は若干俺より低いかもしれないが、胸のサイズはなかなか立派d──いや何を見ているんだ俺。

 

 それから眼鏡の少女は泣き言を漏らしながら、未だに地面に散らばった大量の資料を必死に拾い集めている。このまま隠れてやり過ごどうという選択肢もあったんだが……あ〜もう、仕方がねーな。

 

「なぁ、手を貸そうk─━」

 

ぴゃぁあああ!?

 

 何故か罪悪感を感じた俺は思わず声をかけ、それに反応した彼女は勢い良く飛び跳ねった......いやそこまで驚くか?こっそり声をかけた俺が悪いと言えば悪いかもしれないけど、とりあえず地面に落ちている資料を拾うか。

 

「一応先に言っておくけど、どれかどれなのかは分からねーからこの箱に詰め込むぞ。」

 

「へ……あ、いえその……お、お願いします……」

 

 返事はところどころ歯切れが悪いが、とりあえず俺はそこら辺に落ちていた資料を拾い上げる。中身は専門用語だらけで正直ぱっと見ただけじゃ何が書いてあるのかさっぱり分からないが、とりあえずたまたま見つけた段ボール箱に資料を詰め込んだ。それから何とか一枚も欠けることなく拾い終えると、眼鏡っ娘はほっとした様子で慌てて俺の前に頭を下げた。

 

「あ、あの!手伝っていただき、ありがとうございました!」

 

「別にそこまで礼を言わなくていいっすよ。俺、こう見えて暇なんで…」

 

「で、でも……助かりましたし……それにどうしてここに?一応ここは一般の方以外、立ち入り禁止なんですけど……」

 

 ━━マジか、よくここまで来れたな俺。仕方ねぇ、とりあえず予定通り適当に誤魔化すか。

 

「何というか……一応俺、バイト初日なんすけど。道に迷っちゃって、それで事務所に戻る道も分からなくなりまして〜」

 

「まぁそうだったんですね!あれ……ということは、もしかしてこの時期に珍しく入ってきたアルバイトの方って……」

 

「多分俺っすね。ちなみに俺はイオリ・サカイって言います。」

 

「そ、そうだったんですか!知らなくてすみません!」

 

 慌てた様子で謝罪をする彼女は、少し姿勢を正して自身を名乗ろうとする。

 

「自分はミア……ミア・ブリンクマンです!年齢は十四歳、それと自慢ではないのですが……MSの技術関係者でありまして!」

 

 なんだろう、妙に物語で登場しそうな重要人物っぽい名前だな……まぁそれはさておきだ。この娘、今M()S()()()()()()()って言わなかったか?

 

「MSの技術関係者って……」

 

「い、いえ! 別に特別というわけじゃないんですけど……一応、小さい頃からいろいろな研究に関わってきた経験がありまして……もちろんMSの研究も少しだけ……」

 

「……タメ口ですみませんでした、ブリンクマンさん。」

 

「い、いきなり“さん”付けはなんてやめてください!それに見た感じお互い同い年ですし、私の事はミアって呼んで構いませんので!両親はツィマッド社の上席研究員なんですけど……そのことについても全然気にしなくていいですから!」

 

 いや気になるわ。

 

 上席研究員って、それ普通に会社のお偉いさんじゃねぇか。つまりこの娘……ミア先輩って、エリートコース一直線のお嬢様ってことだろ。正直色々と聞きたいことは山ほどあるが、今はそれどころじゃない。とりあえず、さっさとここから出たいし。

 

「そ、そうっすか……ところでミア先輩、ここから事務所へもどりt──」

 

ヅダ!こんなところにいたんですね!」

 

 声をかけようとした瞬間、先輩がいきなり大声を上げた。何事かと思い彼女の視線の先を追ってみると、そこにあったのはさっきから気になって仕方がなかったあのMSだ。

 

「あの先輩、もしかしてコイツを知っているんっすか?」

 

「はい!なんせツィマッド社が開発した初のモビルスーツですから!」

 

 そう言った瞬間、彼女の目がキラキラと輝いた。

 

「あ、もしかして気になります?」

 

 早口気味に問いかけられ、その熱量に一歩引きそうになる。いやその目はやめて欲しいんだけど、ここで断るのもなんだか悪いし……

 

「お、おう……」

 

「わかりました!それではヅダについて、色々と説明しますね!」

 

 満面の笑みでそう言い放ち、勢いよく言葉を続ける。

 

「まず開発が始まった経緯なんですが、それは今から━━」

 

 あ〜これは多分あれだな……話は大分クッソ長くなるやつだわ。

 

 

<イオリ・サカイside end>

 

 

△▽△▽△

 

 

EMS-04 ヅダ

 

 ミノフスキー粒子散布下における戦場での有視界による近接戦闘の有効性が明らかになったことを受けた当時のジオン当局は、地球連邦との戦いに備えようと複数の軍需企業に対し新兵器の開発を依頼する。この要請に応じたツィマッド社は自社の得意とする技術を活かし、宇宙空間での機動性と推力を最優先に設計したモビルスーツの開発を行った。同じく開発していた試作型エンジン━━通称木星エンジンを搭載したMSが誕生した━━それがEMS-04 ヅダである。

 


 それから時は宇宙世紀0075年初頭となり、ジオニック社が当時開発したYMS-05 ザクと共に、制式採用機を賭けたコンペティションに挑む。ヅダの格闘性能と飛行性能の双方においてはザクを凌駕しており、一見すれば採用されていても何ら不思議ではない性能━━━がしかし、飛行試験中にヅダは突如として空中分解を起こし機体は喪失。同時に搭乗していたテストパイロットが死亡するという重大事故が発生してしまう。

 

 事故の原因は大推力に高加速に加え、さらにAMBACシステムを併用したことで機体に想定以上の負荷がかかっていたことが判明。また、機体強度が木星エンジンの性能に耐えきれないという致命的な欠陥も発覚する。更に調査を続けた結果、()()()()()()()()()()()()()1().()8()()を超えているという報告も上がる。連邦との戦いで物量を重視するジオンにとっては、この問題をとても無視できなかった。

 

 選考の結果として、安価で信頼と汎用性に優れたザクが正式採用機として決定される事となった。これを境にツィマッド社の評価は徐々に低下し、ヅダは“開発競争に敗れた失敗作”として扱われ、格納庫の奥深くへと封じ込められることとなった。

 

「これが開発競争の最中に暴走事故を起こし、欠陥機の烙印を押されてしまったことで“悲しきモビルスーツ”とも呼ばれているのです……」

 

 説明を終えたミアは、小さく息を吐いた。同じツィマッド社であるテストパイロットが飛行中に命を落とした悲惨な事件は起きてしまった。そして何より、かつて大きな期待を背負っていたこの機体が今では薄暗い格納庫の奥で忘れ去られていると言う悲しい末路。それを思い出すたびに、同じ技術者である彼女にとっても胸を痛む話だった。

 

 一方、そんなイオリはヅダを見て……

 

いやこれただの欠陥品じゃねーか

 

 ━━と、容赦のない一言を口に出してしまう。

 

「た、確かにそうかもしれませんけど……それでもツィマッド社が本気で開発したMSなんです…」

 

「高い金かけて完成した結果、空中分解って完全に失敗してるだろ。」

 

 ぐさりと、目に見えない鋭い刃物が心に突き刺された。もちろん悪気はないと思うかもしれないが、正直ミアは少し傷ついている。

 

「……確かにイオリさんの言うとおり、欠陥品かもしれません……」

 

 設計ミスも事故が起きたのも事実であると誤魔化す事無く語りかけ、彼女は顔を上げる。

 

「でもヅダは、限界まで推力を引き上げるという思想のもとで設計された機体です。木星エンジンの理論推力は、当時の常識を大きく超えていました。もし機体強度さえ追いついていれば、この子はザクを遥かに上回る機動性能を持つ機体になっていたかもしれないんです!」

 

 やがてミアは歩みながらヅダの装甲にそっと触れ、真剣そのものとなった瞳をする彼女は言葉を続ける。

 

「それにこの子は失敗作なんかじゃありません……まだ未完成だったばかりのMSです。」

 

 イオリはしばらく黙って彼女の言葉を聞き、再びヅダの方へ視線を見上げる。

 

「ふ〜ん……でもなんか残念だよな、()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「え……か、かっこいい?」

 

「だってこの無骨なフォルム、なんかロマンっぽくて良いし。しかもコイツザクより速くて強い可能性があったんだろ?一回でいいから、こいつが本気で動くとこ見てみてーよなぁ〜」

 

 何気ない間の抜けた言葉だったが、今まで知り合った人々の反応とは違かった。特にヅダを“かっこいい”と言ったのは初めてかもしれないが、その言葉だけでミアの胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

「あ、あの……!」

 

 気づけば彼女は端末を差し出していた。

 

「これは当時の映像記録とヅダの設計データです。もしよければ……見てもらっても構いませんから!」

 

「えマジで、いいんすかそれ……てか先輩、この大量の資料をどっかに届ける途中じゃなかったのでは?」

 

「へぇ……あ、あぁぁああああ〜!!!そうだった〜!!!

 

 ついさっき仕事を完全に忘れてしまい事にようやく思い出したミアは、顔を真っ赤にして慌ている。その後二人は何とか格納庫を後にし、それぞれの目的地へと急ぐことになるのだった。

 

 

△▽△▽△

 

 

<イオリ・サカイside again>

 

 戻るのが遅かったからこっぴどく怒られた━━━なんてことなく、むしろ逆に心配されていたくらいだ。どうやら俺がこっそりツィマッド社を辞めたんじゃないかと、少しソワソワしていたらしい。ちなみにMSのコンペで敗けた影響なのかわ分からないけど、その日から突然出社しなくなった社員が増えたと同時に退職の電話が殺到したとか……なんか思っていたより信用失いかけているなこの会社。

 

 それから何やかんやあって定時になったが、俺は未だ事務所で一人残っていた。別に帰りたくないわけじゃないけど、正直()()()()()()()()()()()。前世でサラリーマンを経験していたあの疲労感というか、仕事をしている実感がどうにも足りない。もちろん今の俺はただ事務所にただボーっと座っている訳でもないから、時間の暇つぶしとして使い捨ての紙に落書きをしている。

 

「あれイオリさん、まだ帰っていなかったのですか?」

 

 絵を描いているときに、再びミア先輩が声をかけてやってきた。

 

「先輩……そっちもまだ帰らないんすか?」

 

「えぇ、両親の残りの仕事を少し手伝っていて……あれ?イオリさん、その紙は……」

 

 不思議そうに俺の手元をじっと見つめ、紙にはついさっきデータを見せて貰ったヅダが描かれている。

 

「その何つーかあれだ、一応ヅダの絵を描いてただけっすけど……よかったら見ます?」

 

「ヅダの……はいぜひお願いします!」

 

 そう言って差し出すと、先輩は一枚一枚を丁寧に見始めた。何枚もあるから流石に流し見するかと思ったが、意外にも真剣だ。

 

「す、すごいです!こんなに綺麗な絵を見たのは初めて……イオリさんって絵がお上手なんですね!」

 

 子供のように目を輝かせて言われ、絵を褒められたのなんて小学生以来だ。それと今さらそんなことを言われると……むず痒くて恥ずかしいな。

 

「そんな大したもんじゃないっすよ。先輩がヅダのデータくれたから、なんとなく描きたくなっただけで。」

 

「でも本当に素敵です!私なんて小さい頃から鉛筆で絵を描くのが難しくて━━━」

 

 やがてとある一枚を見た瞬間、()()()()()()()()()()()()()()。しかも明らかに表情が変わっていて、驚愕しているようにも見える。

 

「あの先輩、急にどう━━━「イオリさん、なんてことをしているのですか!?」……は?」

 

 突然の叱責に俺は思わず間の抜けた声を出してしまう。いやいやいや、いきなりすぎてこっちも何がどうなってるのか全然分からないんだけど……もしかして俺なんかやらかした?

 

「これです、これ!このエンジンの絵ですよ!」

 

 そう言って彼女が突きつけてきたのは一枚のラフスケッチ……あぁこれか。ヅダが“失敗作”扱いされているって聞いて、なんとなく“ここをこうすればマシになるんじゃね?”ってノリで描いたやつだ。まぁだけでそれは半分冗談で、ほぼ思いつきで描いただけなんだけど。

 

「一応これは描いた絵だけ何っすけど……もしかして俺が何かをいけない事をしたから怒っていm……」

 

怒っていません!むしろ凄く驚いているんです!この推力制御の分散構造……それに補助フレームの再配置!もし理論通りなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!それにこの案……エンジンの性能をさらに引き出せる可能性があります!」

 

 なんか急に早口言葉で解説しているっぽいけど、そんなに大層なこと描いたっけ俺?

 

「イオリさん……これはとんでもない進化案になるかもしれませんよ!

 

 先輩は目を輝かせてまくし立てているけど、何を言っているのか正直よく分からない。でもとりあえず、“凄い”ってことだけは分かった……いやちょっと待て。俺はそこまで考えていないし、ほぼ遊び半分で描いただけだぞ。

 

「じゃ〜俺は帰るんで……明日もまたよろしくおねが━━「イオリさん一緒に来てください!」……は?」

 

「この案をすぐに両親や所長さんに検証しないと!もしかしたらヅダを改善できるかもしれないんです!」

 

「いや、ちょっとま━━!」

 

 ぐいっと腕を掴まれ、そのまま引っ張られる……つーか力強っ!?見た目に反してパワー系かこの娘!?というか何が何だがさっぱりなんですけどぉ!?それに何で俺まで、せめて説明だけでもしれくれませんか先輩〜!

 

 

<イオリ・サカイside end>

 

 

△▽△▽△

 

 

 そこからミアは紙に描かれている絵を説明し、それを目にした彼女の両親と所長は目を大きく見開くほど驚愕する。同じくツィマッド社の職員達も確認した途端に驚き、むしろ何故かやる気を増していた。ついさっきま沈みかけていたツィマッド社の空気は一変し、社内に漂っていた閉塞感は消えた代わりに開発熱が満ちていく。

 

 ちなみにイオリは彼らの会話に理解できておらず、まるでどこぞの()()()のように呆然と立ち尽くしていた。

 

 しかしこの時の彼はまだ知らない。本来なら今後の物語(原作)の展開に誕生するはずだったドムリックドム、そしてギャン()()F()()()()()()()()()()()()で動き出してしまったことを……

 

 






速報:アルバイト初日で、歴史を大きく動かしてしまった。

ヅダって……なんか良いすよね(伝わってほしい)。

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