ファーストを1ミリも知らない俺が介入したせいで、宇宙世紀の歴史がおかしくなったかも 作:フェルトファン
リアルの都合で思ってたより忙しく、投稿もなかなか進めませんでしたがなんとか書けました。
※オリキャラは登場しますが、苦手な方はどうかご了承ください。
<イオリ・サカイside>
前回までのあらすじ……いやなんか説明するのもめんどくさいな。
まぁぶっちゃけ簡単に言えば、酒場に帰ったら何故かラルさんが完全に酔い潰れていた。
「い゛ぃぃい〜か覚えておけ小僧ぉ〜!奴らザビ家はスペースノイドの独立なんて綺麗事を言っておきながら、やってることはただの人殺しだぁ〜!」
「わかったわかった……もう何回も聞いたって。」
「そんな連中の為に戦う奴らは正真正銘の馬鹿野郎だ!あいつらはな……ザビ家がどれほどのものか、何も分かっちゃいないんだぁ……!」
肩をがっしり掴まれながら怒鳴られているが……つーか酒くせぇ。ここまで派手に酔い潰れているラルさんを見るのは何気に初めてかもしれない。普段は渋くて落ち着いた人なのに、今じゃ完全にヤケ酒モードだ。というかこれあれだな、どう見ても
「なぁラルさん、もうその辺でやめた方が……」
「何を言うか小僧ぉ!まだまだ飲み足り━━う゛っ!」
「うわちょっ……言わんこちゃない!」
━━その後、俺とハモンさんでどうにかラルさんを落ち着かせることに成功した。なお本人はまだ飲もうとしていたが、ハモンさんがきっちり止めてくれたおかげで今はソファの上ででぐったりと寝ている。ひと息ついた俺は、ハモンさんに渡されたジュースを飲みながらカウンター席に腰を下ろす。
「ごめんなさいねイオリ……あの人はその、少し色々あったのよ。」
「いやまぁ……別にそこまで気にしてないっすけど……」
あの様子を見る限り俺の知らないところで何かあっただろうな。
ちなみにこれは後で聞いた話なんだが、“コロニーを地球に落とす作戦”に反対したラルさんは上官さんと喧嘩していたらしい。その結果、大尉へ降格された上で予備役に回された。つーかコロニーを地球に落とすって、普通に考えてヤバすぎるだろ。ガンダムXの世界線なのかここは?*1
そんなことをぼんやり考えていると、不意にカウンター奥のテレビから大きな声が流れてきた。
《明後日、我々スペースノイドの歴史は大きく変わるでしょう!今もなお、勇敢なるジオンの兵たちはルウムへと向かっています!共に新たな歴史を刻みましょう……ジーク・ジオン!!》
「何が“歴史を刻みましょう”ですか……都合の良い言葉を使って━━」
俺が呑気にテレビを眺めていると、不意にハモンさんの低い声が耳に届いた。しかもつい先までの穏やかな雰囲気とは一変、どこか押し殺したような響きだった。
「スペースノイド独立の為という言葉を都合よく使っておきながら……コロニーを地球に落として。それに……
言葉が途中で途切れ、“はっ”と我に返ったハモンさんは小さく首を振った。
「ただの独り言よ……忘れてちょうだい。」
何処か納得いかない顔をしたまま手にグラスを抱え、テレビから視線を離れる。なんだろうな………途中から微妙な空気が流れているし、それになんか気まずいな。それにさっきの言葉………気にならないと言うのは嘘になるど、問いかけたところで答えれくれねーよな。
後でパソコンを使って調べてみるかと、俺はその場から自身の部屋へ向かおうと考えていたその時……
「イオリ」
静かに呼び止められる。振り返るとハモンさんはグラスを見つめたままこちらを見ようともしないが、それでも構わずぽつりと口を開いた。
「今さらだけど……あなたは賢い子よ」
き、急にどうしたいきなり……なんか逆に恥ずいんですけど。
「だからこれだけは約束してちょうだい。MSの開発に関わるのはいい……けど、自分から危険な戦場へ行こうだなんて考えないで……」
━━と、そう言い残すと再び酒を口にする。そっから結局何の会話も繋がらないまま時間が過ぎ、気が付けば部屋に戻っていた俺はそのままベッドに寝込んだ。そしてついさっき聞かされたあの言葉………正直まだ理解できていなかったけど、気になり過ぎてその日の夜は何故か眠れなかった。
そんなこんなで翌日の昼、ツィマッド社から突然呼び出しの電話がかかってきた。
話を聞くと
しかもある程度無茶な操作をしても、まるでそれに追従するかのように機体がついてくる。下手をすれば本気で動かしても壊れないんじゃないかと、そんな感触に気を良くしていた俺は夢中になってヅダを動かし続けていた。
やがてひと通りテストを終え格納庫へ戻ってコックピットから降りると、何処か興奮しているかのような表情をしているミア先輩がこっちに駆け寄ってきた。
「お疲れ様ですイオリさん!どうでした、新しいヅダの方は!」
「いやなんか……す、すごい!とにかくこう………なんかすごいぞこのヅダ!」
多分俺は今、驚きのあまりにIQがめっちゃ下がっているかもしれない。それはそうと、つい昨日までの性能とは真逆なんだけど……もしかして何か仕込んだか?
「その顔はやはり気になるますよね!もちろんご説明しますよ!」
そう言って先輩は嬉しそうに興奮すると、俺の返事を待つ事なくそのまま解説を始めた。
「まずはイオリさんの操縦に合わせるために、私が考えた
「お、おぅ……」
「これでイオリさんの動きに追従できるようになり、ヅダの運動性能も格段に引き上げられました!し・か・も、通常のパイロットよりも反応速度は早く、恐らくイオリさんにしか扱えないかもしれません!」
な、なるほど………ちょっと何を言っているのかよく分からんけど、要するに“なんか凄く強くなった”ってことだよな。
確かにこうして改めて機体を見上げると、さっきは気づかなかった変化がちらほら目に入る。運動性を重視したのか、腕部や太もも部分の装甲は以前より細身に再設計されているし、頭部には見慣れないブレードアンテナまで追加されていた。
そしてなにより、カラーリングまでも変わっている。色は関しては別にそう変わる訳ないだろと最初はそう思ったが、どこか
「あの……なんで青いんすか?」
「これはツィマッド社が開発したMSでありながら、
「せ、専用機…?」
「ここまでヅダを改良できたのは、イオリさんのおかげです!私達ツィマッド社はそのお礼として、特別な専用機を仕上げました!もちろん父と母、それに所長の許可もいただいています!」
──いやそれ、流石にちょっと大袈裟過ぎじゃね?
自分でこう言っちゃあれなんだけどさ、一応まだパイロットの免許を持っていないただのアルバイトだぞ。それにさっきの流体なんちゃらといい、俺の操縦に合わせて調整したっていうのも含めて……いやまぁ嬉しいちゃ嬉しいけど、逆になんか申し訳ないな。
「それとですね!このヅダの背部に搭載しているバックパックシステムには、2本のサブアームが追加されています!イオリさんの提案を元に開発したもので多少時間はかかりましたが、実用化には問題ありません!何より注目するのはランドセル上部から展開する構造になっており、予備武装の保持はもちろん戦闘中の武装変更にも対応可能です!これによって戦闘中でも柔軟なサポートがで━━」
「ちょいちょいちょい一旦ストップ。顔がえらいことになってるぞ先輩。」
「はっ━━!?ご、ごめんなさい!癖でつい興奮を……」
怖ぇよ……まぁでもちょっと面白かった。それにしても俺が軽いノリで出した案がこうして形になってるのは、正直驚いたな。
ちなみに以前俺が提案したこのバックパック、簡単に言えば武装をまとめて収納できるようにして必要な時に上部からサブアームで引き出して使う仕組みになっている。まぁイメージとしては、武器庫を背負ってるようなもんだ。ちなみにこのアイデアを思いついたのは、前世で観た“サンダーボルト”に登場するザクがきっかけだ。あれを初めて目にした当時の記憶を思い出した俺は、“これ普通に便利じゃね?”って思ったんだよな。
この展開ギミックならバックパックに複数の武装を収納できるし、サブアームを使えば武器の保持や受け渡しも可能。さっき興奮気味だった先輩が言っていた通り、戦闘中の補給にもかなり便利だろう……リユース・P・デバイス?んなもん付いている訳ねーだろあんな人の心もないサイコパスな胸糞システム。仮にあったとしても俺は絶対に搭載しないからな。
そんなこんなで頭の中からあれこれ考えている俺が先輩に何か言いかけようとした時、格納庫に設置されたテレビから突然大音量の演説が流れ出してくる。
《我が同胞1億5千万の栄えあるジオン国民よ、戦いはこれから始まるのだ!一糸乱れぬ隊伍を組んで、前へ進もうではないか!共に、勝利の日まで!》
━━と、画面から眉のない坊主頭のオッサン*2がやたら熱のこもった声で叫んでいた。その映像を目にした周囲の社員達もざわつき始めるが、俺に関しては演説しているオッサンの眉がないのに違和感を持ってそれどころじゃなかった。先輩の方をちらりと見ると、いつもの様子とは明らかに違うとと言わんばかりにどこか険しい表情を浮かべている。
「なんか、連邦と本格的にやり合うって感じっすね先輩。」
「そうですね……これ以上、悪い状況にならなければいいですか………」
「なぁ、もし間に合ってたらヅダも戦いに参加でき──「それはダメです!」……る?」
「あ……す、すみません突然!何というかその……この子を戦わせたくないというか……も、もちろんツィマッド社やジオンの為に活躍してくれるのは嬉しいはずなんですけど……その……いざっと言う時に、あまり危険な場所へ行かせたくないと言いますか……」
言葉を探すように視線を泳がせる先輩の表情を見て、なんとなく察した。それにこの娘は多分、あんまり戦争好きじゃないってすぐに分かる。
今思い返せば、ずっと放置されていた機体を何度も何度も改修してやっとここまで大きく生まれ変わる事ができた。ようやく形になったMSを戦場へ送り出し、上手くいけば大きな活躍するかもしれないけれど……同時に敵からの攻撃で壊れるかもしれない事態も有り得る。それにこう言っちゃ申し訳ないけれど、先輩はジオンと連邦の戦いが始まるのは好きじゃないって事だけすぐに分かってしまう━━━そりゃ、複雑そうな表情にもなるよ。
「なんかその……すんません、変なこと言っちまって」
「い、いいえ!そんな、気にしてません!それに
「……え?」
「あっ……あぁぁ、ご、ごめんなさい突然!別にそう見えていたというわけではなくて、その……って私は何を言っているんでしょう!いくらなんでも失礼すぎますよね!す、すみません、今のは忘れてください!」
いやそこまで慌てて謝らなくてもいいだろ……つーか、俺ってそんな風に見えてたのか?
まぁ確かにジオンと連邦が喧嘩しようが、戦争がどうなるとか……正直なところ全く興味がねーんだわ。んなことよりもどうやってMSを作るのか、その仕組みの方がよっぽど気になる。それにどうやって戦うのかもちょっと興味がある。一応シミュレーションや操縦テストは何度もやってきたけどさ、あれはあれでどうにも味気ないんだよな〜。どこか作り物っぽくて正直あんまり面白くないというか。だったらいっそ本物の戦場で──ってか俺……今結構ヤバいこと考えてなかったか?
それからヅダについてあれこれ語り合った後、特に大きな変化もなく今日は様子見ということで作業は一旦終了。そしてそのまま帰宅した俺は、部屋に戻るなりベッドへと倒れ込む──が正直暇すぎる。とりあえずゲームでもやるかと遊んでいたが、十分も経たず何故か飽きた。もちろん他にやる事もなく、気がつけば天井にあるシミの数を数えているばかり。
「だぁ〜マジで暇過ぎる……こんな事ならツィマッド社に残ってりゃよかった……」
━━とは言ったものの今さら戻るのも面倒くさいし、しかも今日に限って何故かラルさんもハモンさんもいないし……そう言えば、ジオンが連邦に本格的な喧嘩を仕掛けるのっていつだっけ?検索検索っと……あった。
「ってか、明日じゃねーか。」
まぁぶっちゃけどっちが勝とうがあんまり深く考えていないけど、そもそもファーストをちゃんと見てないから今の連邦がどんな状況なのかもよく知らない。ただ、時系列的に考えると──数年後には『Zガンダム』でティターンズなんていうヤベー組を作っていたし、『閃光のハサウェイ』の頃には組織自体がだいぶ腐っているからな。それなら今の時点でも大分マシじゃない可能性はあるな──まぁそれもどうでもいいけどね。
「でも……正直、ちょっと興味あるんだよな〜」
勝ち負けなんてどっちでもいいが、俺個人的な意見としてはMSを使って実戦してみたいって気持ちがいっぱいだ。それに連邦のMSと戦ってみたいし、実際この目でも見てみたい。けど冷静に考えれば俺はただの民間人であり、軍人でもなければ戦場に出る理由もない。仮に行けたとしても、俺専用のMSなんて都合よくあるわけ━━━
「あるじゃねーか………とっておきの
けど待てよ、ラルさん達にバレたら間違いなく殺されるかもしれねーし……まぁ
「あ゛ぁ〜もうメンドクセェ〜………とりあえず操縦できそうな奴を適当に探して拐うか。」
自分で言うのもあれだが、この時の俺はマジで頭イカれているかもしれない……
<イオリ・サカイside end>
△▽△▽△
時刻は深夜1時過ぎ……
その時間帯のツィマッド社内は静まり返り、所長を含め社員の姿や夜勤で働く社員の姿も誰一人もいなかった。あと数時間後にルウム付近で決戦が起きるという理由で、全員が既に帰宅していた。もちろん誰もいないMS格納庫も完全に消灯されているが、
デスクの上に置かれているパソコンの画面に向かい、一人の研究員が必死の形相でキーボードを叩いていた。顔には苛立ちが浮かび、まるで罵声を飲み込んでいるかのように歪んでいる。
「━━━ふざけるな……ふざけるな………」
低く吐き捨てる声が、静寂に包まれた格納庫に響いた。
「せっかくこの私が大きく活躍できると思ってここまでやってきたというのに……プライベートも捨ててまで、我が社の為と思いここまでやってこれたのに……ちくしょう……畜生っ!」
ぶつぶつと愚痴や怒りの言葉を吐き出す一人の男性職員でもあるサカグチは、ツィマッド社に所属する研究員の一人である。
主力MSコンペでの敗北以降、ツィマッド社の評判は徐々に下がってゆく時の頃だった。もはや会社的に危険な状況であるにもかかわらず、サカグチは会社の信頼を立て直そうと懸命に働き続けてきた。そしてヅダを超える新型MSの開発案も、必死に練り続けていた。もちろん時間はかかったが、それでも“ツィマッド社の未来を守れるのは自分しかいない”とそう信じていた。
しかし、たった一人の少年が現れてからその全てを否定される形へと変わる。
「アイツが来てから私の居場所は奪われたも同然だ……あのクソガキさぇいなければっ!」
吐き捨てる言葉には、隠しきれない苛立ちと憎悪が滲んでいた。そしてサカグチ自身にとって最も憎き少年━━━イオリに対し、怒りと不満をぶつけた。そもそもここまで強い敵意を持っているのは、不慮の事故をきっかけにコンペで敗北したヅダの改修案を提示した日からだった。
直接見たわけではないが、ヅダの運用試験の記録映像を目にした時には言葉を失った。コンペの時とは比べられないほど明らかに進化しており、その性能はジオニック社で開発したザクすら凌駕していると理解してしまう。この一件でサカグチの新型MS開発プランも意味を失ってしまい、関係していた数人スタッフ達もそのプランについてすっかり忘れてかけている。
更に社員達は揃いも揃ってイオリに対し、“間違いなく天才だ!”と口々に称賛した。
だからこそ許せなかった。まだ十代の子供が、自分を遥かに上回る才能を持っているという現実を━━━
「ふ……フフフ……まぁそれでもいいさ。ヅダのデータさえ手に入れれば問題はない……何より
本来なら企業機密の漏洩は決して許されない行為だが、今の彼にとってそんなことはどうでもよかった。ツィマッド社の為に尽くす意思はすでに消え失せており、残っているのは踏みにじられたプライドへの怒りだけだった。サカグチは不気味な笑みを浮かべながら、ヅダに関するデータへと手を伸ばす。
「よし……これで、後ははこのUSBを差し込めb「あれれ〜?なんでまだ研究員がいるんだ〜?」━━━っ!?」
誰もいないはずの格納庫に場違いな軽い声が響き、サカグチは息を呑み反射的に振り返った。そこに立っていたのは、よりにもよってつい先ほどまで自分が最も憎んでいた相手である。
「なんでここに小僧g……イ、イオリ君。こ、こんなところで何をしているんだね……?」
「いやまぁ〜ただ忘れ物取りに来ただけっすけど……てか、アンタ誰?」
「さ、サカグチという者だよ。ほら、ヅダの開発にも関わっていてね……」
「あぁ〜いたようないなかったような……悪ぃなオッサン、あんま覚えてねーわ。」
呑気にそう言い放つイオリに、サカグチのこめかみがぴくりと跳ねる。怒りは確かに込み上げていたが、それを無理やり押し殺し引きつった笑みを浮かべた。
「(相変わらず年上に対してなんて態度だ……だが、今はデータさえ手に入れば……!)さ、さぁ!もうこんな遅い時間だし、早く帰らないと━━」
「なぁアンタ、コイツのデータ盗んでどっかの会社に売るつもりだろ。」
あまりにも平然と、何気ない調子で言い放たれたその一言。驚きのあまりにサカグチの思考は一瞬で真っ白になる。
「な、何を言っているだ君は……私がそ、そんな馬鹿な事をするわけ━━」
「いやだって、映画とかでよくあるあるな展開だよ。内部の人間がさ、敵の組織に情報を流してあれやこれや予想外な展開が起きるとか...ああいうの知らねぇか?」
軽く肩をすくめながらまるで冗談を言っているように語るも、サカグチにとってそれどころではなかった。
「そ、それは……君の妄想だ! だいたい、この私がジオニック社にMSの情報を漏洩するわけが――」
「おいおいおい、俺さっき“どっかの会社”って言っただけでジオニックなんて一言も出してねぇぞ〜」
「━━ッ……な、なら証拠はあるのかい?私がMSの情報を流そうとする証拠を!」
言葉が詰まり、自分で口を滑らせたことに気づいたサカグチの顔色が一気に変わる。そんな表情を見てイオリはわざとらしく首をかしげ、ニヤリと笑う。
「はい出た〜真犯人が言いがちなセリフランキング上位のやつ〜まぁ、証拠って言えるかは微妙だけどさ……なぁアンタ。昨日までのデータが保存できてなかったら困ることってあるよな?」
「き、急になんの話をしている…?」
「昔の話なんだけどさ、ゲームのセーブし忘れてデータ全部吹っ飛ばしたことあってマジで絶望したんだぜ。だからそれ以来からデータを保存するって大事だなって思ってさ。」
「だからなんの話だ!?」
「ぶっちゃけ言っちゃえば、さっきからアンタが使ってるそのパソコンをちょいと仕掛けを入れたんだ。
もはや言い訳をする余地すらなく、サカグチは言葉を失っていた。それでもなんとか誤魔化そうと頭を回そうとするが、困惑と焦りで思考はまとまらない。そんな様子を見るのにも飽きたイオリは、退屈そうな表情でため息を吐く。
「ハァ〜……なぁアンタ、なんでわざわざこんな面倒で馬鹿な事をやっているわけ?」
「面倒………馬鹿だと……」
「別にアンタの事情なんて一ミリも知らないんだけど、こういうのやめた方がいいぞ。あとで絶対後悔するし、それに給料や職場に不満があるなら上司さんに言えばいいだろ。無理なら弁護士にでも相談すれb「ふざけるな」………あぁん?」
ぽつりと絞り出すような声が漏れ、俯いたまま“ギリッ”と歯を食いしばる音が静寂に響く。
「ふざけるな……なんの努力も知らないただの小僧に何が分かる!!!」
サカグチは勢いよく顔を上げ、その表情にははもはや理知的な研究員のそれではなかった。
目は血走り、口元は歪みきっている。
「さっきから何なんだ貴様はぁ!!!突然現れては好き勝手やりおって……そしてそれを全部……全部持っていきやがって!!私がどれだけ積み上げてきたと思っている!?寝る間も惜しんで研究して、ようやく掴みかけたものを……貴様みたいなガキが全部踏み潰したんだぞ!!」
怒りに任せ机を乱暴に叩きつけ、その衝撃で机の上に置いてある物は下に落ちてしまった。
「天才だと……そんなものはただの偶然だろうが!!一度うまくいったくらいで調子に乗るな!!才能だけでどうにかなるほど甘くない、努力してきた人間が報われるべきなんだ!だから私は間違っていない!評価されないこの会社の方が間違っているんだよ!!」
荒い息で怒りが籠った言葉を吐き捨て、叫びは未だに止まらない。
「ならば、正しく評価してくれる場所へ行くのは当然だろうがァ!!!」
吐き出すだけ吐き出し、サカグチは荒い呼吸を吸ったり吐いたりと何度も繰り返す。その姿を前にイオリは数秒だけ黙り込み、壁にもたれたままゆっくりと口を開く。
「あっそ………だから何?」
しかしそれは、あまりにも軽い一言だった。
「正直さ、アンタの話……クソ長ぇんだよ。つーか何を言っているのか全然分かんなかったし。」
「なっ……!?」
「努力がどうとか、会社がどうとか、結局アンタはただ子供に負けたのが気に入らねぇだけだろ。」
「こ、この………生意気に言っておきながら!!!」
更に膨れ上がった怒りにサカグチは怒鳴りながら距離を詰め、そのままイオリの胸ぐらを乱暴に掴み上げる。もはや大人としての矜持は消え失せ、怒りに飲まれて理性を失いかけていた。
「さっきから黙って聞いておれば、なんだその口は!?」
「ちょいちょい……落ち着けってオッサン。」
「そもそもの原因は、貴様のせいだ!貴様みたいな世間知らずの小僧が来てから私の立場はっ!」
「わ〜かったからとりあえず一旦落ちついt」
「今更怖がりおったか!?言っておくが、お前みたいなただのガキがなんでもできると思い込むn」
「おいテメェ、一回その手を離せよ」
━━と、静かに言葉を吐き出した瞬間にその場の空気が一気に凍りつく。胸ぐらを掴んでいながら怖がっている様子もないその眼差しは、いともたやすくサカグチの口を黙らせた。
「別に信用しろとは言えねーが、俺はこう見えてここの会社にスッゲー感謝しているんだぜ。それに俺は今、テメーの事が嫌いなんだよ。」
表情には怒りはないが、冷たい目でじっと見つめ続けている。
「正直に言ってアンタが俺の事をどう思うがなんてどうでもいいけどさ、自分とこの会社を裏切るなんざそりゃないでしょ。大体、そんなに悔しかったら本気で俺を驚かすくらいのMSを一つや二つ開発してみせろよ。こんなクソつまんねーすんなよ……
───マジで殺すぞお前」
声の温度が下がった瞬間、その場の空気が一気に凍りついた。
未だに首筋を掴んでいるのにも関わらず、その瞳には人間を値踏みする肉食獣の恐ろしくそして底の見えない昏い殺意。
まだ10代である少年の奥底に、別の“恐ろしい何か”が潜んでいると無意識に浮かぶ。
「………ッ!!」
そんな眼を見たサカグチは恐れてしまったのか、掴んでいた手を咄嗟に離してしまう。だが、こちらを見つめるその鋭い目先から逃れられない。
「ヒィ━━っ」
喉の奥から情けない悲鳴が漏れ、頭から汗が滝のように流れる。そして自身の足は、まるで岩のように動かない。ただ見られているだけなのに、一歩でも動けば首を断たれるような錯覚に囚われる。目には見えない殺気の圧が、身体を縫い止めてしまう。
”殺される”と内心でそう思い込んでおり、言葉も出ずただただじっとその場から動けないままだった。
「はぁ………まぁいいや。」
“トン”と、伊織が地面を軽く足で叩いた瞬間、張り詰めていた空気が嘘のように霧散した。ついさっきまで恐ろしく襲われる殺気に囚われたサカグチはその場に崩れ落ちると同時に力なく尻餅をつきてしまう。
「たくよぉ……時間がねーっつーのに、こんな茶番をする暇もねぇんだよ。」
ぶつぶつと呟きながらイオリは歩み寄るも、先ほどまでの恐怖が抜けていないサカグチは思わず身を引いてしまう。だがイオリは気にする様子もなく、淡々と続けた。
「なぁオッサン……要するにアンタは有名になりたいんだろ?」
「……は?」
「ならさ、これからやること手伝え。全部終わったら、その手柄……アンタのもんにしてやるよ。」
突然何を言っているのか意味が理解できず、呆然とするサカグチを無視したまま早に指示を出そうとする。
「とりあえず使えそうな貨物船を探して、そんで今からコイツを乗せるぞ。もちろん使えそうな武器も全部持っていくからな。スラスターの調整も確認するから、このリストのパーツ集めといてくれ。それと時間なんだか……二時間……いや、せめて一時間以内に準備するぞ。後、試作型のヒート・サーベルの発熱時間が問題なんだが……移動中に俺が調整しておくからそこは問題n━━」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!いきなり何を言って……」
いきなり語りかける言葉に追いつけないまま困惑するサカグチの前に顔を近づけたイオリは、彼の肩を軽く掴んだ。
「心配するなオッサン。安全は保証できねぇけど……ちょっとだけ俺が考えた作戦に付き合くれよ先輩」
“それにアンタ、貨物船の操縦できるだろ?”と満面な笑みで浮かべるイオリ。
しかしそれはサカグチにとって、どこか
オリキャラ紹介
サカグチ……30代前半の穏やかな男性職員であり、ツィマッド社の社員でもある。元々は会社の為に必死に頑張っていたが、イオリが来てから態度は一変。自身よりも天才的な頭脳(そう思い込んでいるだけ)を持つ少年に嫉妬したのか、逆恨みとしてヅダのデータを盗んでそれをジオニック社に売ろうと裏で考えていた。
しかしそれもよりによってイオリに見つかってしまったが、“とある条件”を持ちかけられたことで交渉は一旦成立。しかし後に起きるルウム戦役での戦いで、この時の彼はものすごく後悔するのだった。
※という感じの設定ですが、ぶっちゃけ言えばどこにでもいるモブキャラです。
主人公君の思考はここからいろんな意味で頭のネジがぶっ飛んでしまうので、今後どうなるのか楽しみですね〜(笑)
次回からいよいよルウム戦に介入します。また時間はかかると思いますが、次回もお付き合いいただけると幸いです。