ファーストを1ミリも知らない俺が介入したせいで、宇宙世紀の歴史がおかしくなったかも   作:フェルトファン

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第5話 一人が戦場で無双するのは、大体異世界転生あるあるな展開

 

 

時は宇宙世紀0079━━━1月15日から16日

 

 ルウム宙域にて、ジオン公国軍と地球連邦軍が対峙する。

 

 事の発端は、先の一週間戦争に遡る。


 早期講和を狙ったジオン公国は、南米の連邦軍本部ジャブローを標的としたコロニー落とし作戦を決行した。しかしこの作戦は失敗に終わってしまい、目標を外れたコロニーはオーストラリア大陸へ落下し人類総人口の約25%にあたる30億人が死亡。さらに大陸の地形すら変えるほどの甚大な被害をもたらした。それでもジオン公国は講和を諦めず、次なる一手として新たな作戦を開始する。

 

 第二のコロニー落としを狙おうとジオン軍はルウム宙域へ進出する。一方その動きを察知した連邦軍は名将レビル率いる艦隊は全ての戦力を集結し、迎撃に向かった。これにジオンの名将であるドズル・ザビ中将は二度目のコロニー落としを試みるも、連邦の大艦隊の接近により作戦を中断。これによりサイド5のスペースコロニー群である『ルウム』周辺宙域にて両軍の全戦力が正面から激突する大規模戦闘の火蓋が切られる。

 

 戦端が開かれると同時に、ドズル率いるジオン艦隊はティアンム艦隊へ攻撃を開始する。しかし、数で大きく劣るジオン軍にとって正面からの勝利は困難だった。やがて戦力を消耗したジオン軍は一時撤退し、それを好機と見たティアンム艦隊は追撃に移る━━しかしそれは()()()()()()()()()()()()

 

 ミノフスキー粒子の散布によって姿を隠したジオン軍は、敵を誘い込むための偽装撤退を行っていた。ティアンム艦隊を率いる連邦軍を欺くための芝居でありながら、その真の狙いは連邦軍主力レビル艦隊であった。ティアンム艦隊を上手く引き離したジオン軍はレビル中将率いる本隊へとすぐに進路を変えたと同時に、ジオンの特別強襲大隊……モビルスーツ部隊を投入した。

 

 最初の奇襲の一斉射によりレビル中将が乗る旗艦《アナンケ》が被弾し、続いて後方に潜んでいたMS部隊によって多数の連邦艦隊を次々と撃沈される。指揮系統を失った連邦軍は一気に混乱へ陥り、ジオン軍は一気に優位へと転じる。それでも連邦軍は未だに反撃し続け、異変を察知したティアンム艦隊もレビル艦隊との合流を図ろうと急いでいる。

 

 しかしこの時、本来の物語(原作)には存在しないイレギュラーが乱入するのだった。

 

 

 

 

 ジオン軍の策略によって遠ざかれたてしまい急いでレビル艦隊へと戻ろうとする地球連邦軍の旗艦《タイタン》を率いるティアンムは、険しい表情をしていた。

 

「敵の情報はこちらである程度掴んでいるはずが……まさかこのような手に乗せられるとは!」

 

 相手の策に嵌められた自らの判断を内心で悔やみつつも、指揮官としての冷静さは失わないティアンムはすぐさまクルーたちに指示を飛ばす。そして急ぎながらも移動している途中で、前方にレビル率いる艦隊の姿が見えてきた。しかも既にジオンのモビルスーツ部隊と交戦している様子が確認できる。

 

「提督!レビル中将の艦隊を確認しました!」

 

「小癪な策に乗せられはしたが二度目はない……全艦に通達!戦闘空域に入り次第、即座に戦闘体制に移行s━━━」

 

 ティアンムがクルーや将官達に新たな指示を出そうとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「━━━ッ!?何事だ!」

 

「だ、第七戦艦戦隊に被害を確認!」

 

「上部構造物に損傷! 敵の攻撃と思われます!」

 

 矢継ぎ早に報告が飛び交うも、ティアンムはそれを聞きながら冷静に状況を分析しようとする。

 

「ついにこちら側にもジオンの連中がやって来たか……全艦に伝達!即座に戦闘態勢に━━「三番艦が攻撃されました!」……なに?」

 

「ご、五番艦にも被弾を確認!」

 

「輸送船も見えない攻撃を受けてしまい、多数の戦闘機がロスト!」

 

「偵察隊より報告!敵影、依然確認できず!」

 

 将校からの報告に、ティアンムは思わず言葉を失う。外へ視線を向けると、先ほどまで整然としていた艦隊が次々と炎に包まれていくのが見えた。しかし、肝心のMSの姿はどこにも見当たらない。

 

 そして事態は、さらに悪化する。

 

《こちら第十二艦隊!至急、援護を要請する……頼む!》

 

「て、敵はどこにいる!?現状を報告しろ!」

 

《艦内に火災発生!誰か消火を……う、うわぁぁッ!!

 

「別の艦隊でも炎上を確認しました!」

 

《敵が見えない!そちらでも確認できていないのか!?》

 

「こちらでも視認できていないんだ!引き続き索敵を━━!」

 

《セイバーフィッシュを十機……いや、全機出してくれ!このままでは持たない!》

 

「数はこちらが上のはずなのに……ふざけるな畜生!情報担当は何をしているんだ!」

 

《誰か……救援を……このままでは艦がっ》

 

「アルファ……アルファ、応答しろ!アルファ!?

 

 艦内にいる部下と通信越しで必死に声をかける同じ連邦軍から不安と困惑、そして動揺の声が混じり合っていた。そのせいで艦内の空気が一気に張り詰める。視界の先では味方艦が次々と爆炎に包まれていき、何に攻撃されているのかも分からないまま戦力が削られていく。そんな異常とも呼べる光景を前に、ティアンムは息を呑み込んだ。

 

「何が……一体何が起こっているというのだ……」

 

「て、提督……まだ未確定ではありますが、敵影を確認しました……」

 

「手口は不明でも数が分かれば十分だ……それで、敵は何機だ?」

 

「それが……い、一機だけです」

 

「……は?

 

「敵は一機……()()()()()()()()()()()です!」

 

 思わず聞き返したティアンムの表情が、わずかに曇る。数が予想よりも少ないとはいえ、たった一機の敵がここまで被害を出しているという事実が受け入れがたい。確認のためにさらに問いただそうとしたその瞬間、艦内に鋭い警報が鳴り響く。

 

「せ、接近警報!?」

 

「━━━ッ!しまっ……」

 

 急いで回避指示を出そうと声を上げていたら、周囲で爆発が連続する旗艦《タイタン》の艦体が激しく揺れる。衝撃に耐えきれずブリッジの要員たちは次々と体勢を崩してしまい、同じくティアンムも足を取られて床へと叩きつけられる。

 

「ひ、被害を確認!」

 

「各所で火災発生しており、損傷が大きく消火が追いつきません!」

 

 混乱の中から報告が飛び交うも、困惑が続いていて情報が回ってこない。そんな状況でもティアンムは歯を食いしばり、なんとか無理やり体を起こした。

 

「敵の情報を何としてでも掴むんだ!たとえ被害が出ようと数はこちらが上d…「提督!青いMSがレビル艦隊の方へ向かっています!」━━何だと!?

 

 部下からの報告に反応してしまうティアンムは、咄嗟に外へ目を向ける。そこには味方艦を次々と撃破していたであろう青いMSは方向を変えながら背部にある『()()()()()()』が噴射し、高速移動でその場から離脱していく姿が目に入る。しかもその速度はあまりにも常識を外れており、肉眼で追うのも困難なほどであった。

 

「ぜ……全艦隊に通達!ただちに追撃しろ!アレを通せてしまえば、味方の戦力が一気に減るぞ!」

 

「ダメです!先ほどの攻撃で通信システムがダウンしています!」

 

 最悪のタイミングで情報を伝える術を断たれてしまい、ただ見送ることしかできないティアンムは奥歯を噛みしめる。

 

「じ、ジオンの連中め……一体どんな手を使って、あのようなとんでもないを生み出してしまったのだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 もちろんそんなMSを一切知らないジオン軍は、依然としてレビル率いる連邦軍艦隊との激戦を繰り広げていた。MS部隊の投入によって戦況は一気に覆り、現在の戦場は明らかにジオン側が優勢である。その最前線にジオン公国宇宙軍旗艦ムサイ級巡洋艦《ファルメル》の艦橋では、ドズル・ザビ中将が次々と指示を飛ばしていた。

 

「第三艦隊は左翼を押し上げろ!MS部隊は敵旗艦への攻撃を継続し、ここで連邦の指揮系統を一気に叩くのだ!」

 

 圧倒的な勢いで戦況を掌握しつつあるドズルだったが、そんな彼の元に一人の士官が慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「ど、ドズル閣下!未確認のモビルスーツがこちらへ高速接近しています!」

 

「しかも速度が異常で……通常のザクⅡの機動性能を大きく上回っています!」

 

「構わん。どうせシャアの赤いザクだろう。」

 

「い、いえ……入ってきた情報によれば、青いMSとのことです。」

 

 戦闘中にもかかわらず艦橋には微かな動揺が走し、クルーたちは困惑しながら各種データを確認している。だが、ドズルだけは別の意味でとある言葉に引っかかっていた。

 

「……青だと?」

 

 特殊なカラーリングといえば自身の部下であるシャアの赤いザクⅡや古くから信頼が大きいマツナガの白いザクⅡが戦場に参加していることは把握しているが、青いMSとなると話は別だった。しかしドズルの脳裏に浮かんだ人物は、一人しかいない。

 

「ランバ・ラル……今さらこの後に及んで参加する気になったというのか?」

 

 低く呟いたドズルの表情には、複雑な感情が滲んでいた。ラル家の人間でありながら政治的には対立関係にあるダイクン派なのだが、その実力だけは高く評価している。しかし先のコロニー落とし作戦を巡って激しく対立して以降、二人の関係は絶交状態だった。

 

「俺の命令を散々拒否していたあの男が、今さら戻ってきて俺の機嫌でも取るつもりか…………いやだが、あの男がそんな小物な真似をするとは思えん……」

 

 ラルの性格をよく知るからこそドズルは違和感を覚え、さらに情報を確認しようとしたその時だった。

 

「ドズル閣下!敵の連邦艦隊が次々と爆沈しています!」

 

「味方からの報告では“見えない何か”が攻撃しているのを見たと……」

 

「なんだこれ……本当にモビルスーツなのか……いくらなんでも速すぎるぞ!」

 

 艦内では驚きの声が次々と上がり、何がそこまで驚くのか未だに分かっていないドズル自身も困惑を隠せなかった。そんな中、一人の士官が声を張り上げた。

 

「あ、青いMSを確認!5時方向です!」

 

 新たな報告を聞いた瞬間、ドズルは即座に視線を向ける。そこで目にしたのは、戦場を裂くような速度で突き進む一機の青いMSが高速移動している。敵艦隊へ向かって一直線に突撃するその姿は、ザクとは完全に別物だった。

 

「おい……あのMSは一体なんなのだ!?」

 

「はっ!そ、それが我々にも分かりません!識別コードも反応なしです!」

 

 戦場に突如として現れた青いMSは、高速機動を維持したまま()()()()()()()()()()()()()()を連邦艦隊へ向けて発射する。放たれたロケット弾は正確無比に戦艦のメインエンジンへ直撃した瞬間、凄まじい爆炎と共に艦体が四散した。

 

 もちろん黙って撃たれるだけではない連邦軍の各艦が一斉砲撃を開始するが、青いMSはその攻撃の全てを嘲笑うかのように回避していく。

 

《み、味方の艦が……くそったれ!なんで当たらない!?》

 

《落ち着け!数ではこちらが勝っている!》

 

 連邦軍の宇宙戦闘機セイバーフィッシュ隊は敵を追撃しようとするも、青いMSの速度は異常だった。ついさっきまで戦っていたザクⅡとの加速は大きく違っていて、追いつけることも難しかった。それでもなんとか必死に食らいつき、ミサイルランチャーを構えて照準を合わようとしてその瞬間━━━青いMSのバックパックから動き出した二本のサブアームがそれぞれ二丁のザク・マシンガンを装備し、後方からやって来る戦闘機に向けて発砲した。

 

《な、なんだと……うわぁぁぁ!?

 

《あんな所に武器を隠しt……ぐわぁぁ!!

 

《アイツ、後ろに目でも付いているのか━━ぎゃああぁ!?

 

 本体は前を向いたままであるにもかかわらず、後方から追撃していたセイバーフィッシュは次々と撃墜されていく。その間にもサブアームは素早く予備弾倉を取り出し、ジャイアント・バズへ再装填を完了。青いMSは高速移動を維持したまま、再び連邦艦隊へ照準を合わせた。

 

《お、おい……今の見えたか?》

 

《いや……全然見えなかった。つーか、あれ本当にモビルスーツなのか……?》

 

 同じ戦場で活躍するジオンのパイロット達も、その光景を目撃し言葉を失っていた。自分達が操縦するMSとはまるで比べられないほどの機動力を持っており、敵艦である連邦のマゼラン級戦艦そしてサラミス級巡洋艦は次々と炎上していく。更に戦場の各所で爆発が連鎖していくようになり、まるで戦場そのものを蹂躙する怪物のように連邦軍の戦力を次々に減っていく。

 

 更にジャイアント・バズの直撃を受けた一隻の連邦艦が操舵系統を破壊されてしまった艦体はメインエンジンから炎を噴き出しながら制御不能となり、そのまま味方艦へ激突した。やがて爆発に紛れるように接近した青いMSは()()()()()()()()()()()()()を敵艦のメインブリッジ付近へ深々と突き刺し、直後に艦橋ごと内部から爆散。

 

 さらに間髪入れず近距離にいた別の艦へシュツルムファウストを撃ち込み、その艦もまた大破炎上した。

 

 それをまるで作業のように淡々と繰り返していく。目の前で繰り広げられる圧倒的な破壊の光景に、ジオン兵たちは誰一人として言葉を発せなかった。そして、その異様な存在感は当然ながら前線で戦うエースパイロットたちの目にも映っていた。

 

「あのモビルスーツは一体……」

 

 後に“白狼”の異名で恐れられることになるシン・マツナガは、敵艦隊を蹂躙する青いMSを見つめながら驚きを隠せずにいた。

 

「ははっ……マジかよ。あんなのアリか?」

 

 同じく後に“真紅の稲妻”として名を轟かせるジョニー・ライデンも目撃し、苦笑するしかなかった。自身が操縦するザクとは比較にならない機動性能で、むしろ同じMSなのかと疑うばかり。

 

「ほぅ……ザク以外にあれほどの速度を出せるMSが存在していたとはな……」

 

 そして後に“赤い彗星”としてその名を宇宙に轟かせるシャア・アズナブルもまた、青いMSへ強い興味を抱いていた。通常の三倍とも称される自身の赤いザクⅡもそうだが、そのシャアの目から見てもあの青いMSの性能は明らかに異常だった。

 

 戦場の別宙域では、三機の黒いザクⅡが連携しながら連邦艦隊を攻撃していた。そのパイロット達もまた、青い閃光が戦場を駆け抜ける姿を視界に捉える。後に“黒い三連星”として恐れられるガイアオルテガマッシュの三人もまた、正体不明の青いMSへ視線を向けていた。

 

「おいおい……まさかアレ、ラル大尉じゃねぇだろうな?」

 

「あの野郎〜今さらノコノコ戻ってきやがったのか!」

 

 最初に口を開いたマッシュが半ば呆れたように呟き、続いてオルテガが不満げに怒鳴る。しかしガイアだけは、すぐに否定した。

 

「いや違う………あのランバ・ラルがする動きじゃねぇ。」

 

 軍からの長い付き合いゆえに、ガイアはラルの戦闘スタイルをよく知っている。しかしあの青いMSの動きは異質で、速すぎる上に動きそのものが読めないくらいだった。そんな時に丁度近づいてくる青いMSを目撃したオルテカは、文句の一つや二つ言おうと通信を飛ばした。

 

「おいテメェ!全身が目立ちまくってる青いヤツ!」

 

 呼びかけに気付いたのか、青いMSはモノアイをゆっくりとオルテカのザクへ向ける。

 

「テメェ所属はどこだぁ!?それから名前を言え!」

 

 しかし返答はなく、ただ無言のまま三機を見つめているだけだった。それが気に入らないのか、オルテカは更に苛立った声を荒げる。

 

「こ……この野郎!黙ってねぇーでなんとか言えやゴラァ

 

 まるで恫喝するような怒声を張り上げるオルテガが通信越しでありながら声を上げ続ける中、ガイアとマッシュの黒いザクⅡが左右から徐々に距離を詰めていく。その瞬間に青いMSは突如として急加速し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「━━は?」」」

 

 三人は思わず間の抜けた声を漏らしてしまい、視認した時には目の前まで迫ってくる。それ気に付いた三人は慌てて回避行動を取るも、距離からして間に合わない。“激突してしまう!”と誰もが思った次の瞬間、青いMSは隙間をギリギリ回避しながら通過していった。

 

「あ……あのクソ野郎!俺たちにぶつける気かぁ!?」

 

「それよりもなんなんだあの速度は……下手をすれば、俺たちのザクより速いぞ!」

 

 ━━と二人が驚く中、異変に気付いたマッシュは慌てた様子で驚愕の声を上げる。

 

「ない……ない………どこに消えやがった!?

 

「どうしたマッシュ!?」

 

「俺のライフルがねぇーんだ畜生!確かこの手に装備していたはず………まさかアイツ!

 

 マッシュが使っている装備『MS用対艦ライフルASR-78』は、艦艇への攻撃を目的とした大火力兵装の大型ライフルである。しかしそのライフルはいつの間にかマッシュのザクから消えており、つい先ほど高速接近してきた青いMSが素早い動きで奪い去っていたのだった。

 

 気付いた時には既に遅く、青いMSは別働の敵艦隊へ向けて急速接近する。しかもよりにもよって、ガイア達がこれから獲物として狙っていたマゼラン改級戦術指揮艦《アナンケ》の方へ向かっていく。そしてその艦には、地球連邦軍最高司令官である一人の男……ヨハン・インブラム・レビルが座乗している。

 

 

 

 

 

「れ、レビル将軍!青いMSの動きが異常です!」

 

「なんだあれは……速すぎて目で追えない!」

 

「クソッタレ!レーダーさえ正常でいてくれたら……ッ!」

 

 一方その頃、旗艦《アナンケ》の艦内では上官やクルー達の怒号にも似た報告が飛び交っていた。次々と届く悲鳴じみた声を聞きながら、地球連邦軍最高司令官であるレビルは険しい表情をしていた。

 

「まさかここまで一方的に戦力を削られるとは……ジオンのモビルスーツ、恐るべし。」

 

「ですな……しかし司令官、我々にとって最も危機を抱かなくてはいけないのがあの青いMSです。たった一機で戦場を掻き乱し、被害をここまで拡大させています……」

 

 ジオンによるモビルスーツ部隊に対抗しなければならない矢先、突如として現れた青いMSによって連邦側の戦力が一気に削られてしまう。これには流石のレビルも驚きを隠せず、いまだに対抗策が一つも浮かび上がらない。もはやこれ以上の戦いは長引きもできないと考えた時、警報アラームが鳴り響く。

 

「ぜ、0時方向より高速接近反応!」

 

「モビルスーツです!真正面から……青いモビルスーツが突っ込んできます!」

 

 クルーからの報告を受けたレビルは、即座に正面モニターへ視線を向けた。そこにはマッシュのザクから奪い取った対艦ライフルを構えたまま、凄まじい速度で接近してくる青いMSの姿が映し出されていた。その異様な光景にレビルだけでなく、周囲の士官達も息を呑む。

 

「まさかこの艦のメインブリッジを狙うつもりか……な、何をボーッとしている!直ちに敵を迎撃しろ!」

 

「りょ、了解!前方敵機に対し砲撃開始!」

 

 命令を受けたクルー達は、艦に搭載された各種火器を一斉に作動させる。対空機銃、ミサイル、そして副砲群による攻撃は一斉に放たれた。しかしそんな青いMSはライフルを構えた姿勢を崩さぬまま、アナンケから放たれ砲撃を次々と回避していく。もちろん砲撃管制を任されている連邦兵達も決して未熟ではなく、むしろ連邦軍の中でも優秀な部類である。だがそれでも当たらず、照準を合わせる度に青いMSは紙一重で回避してみせる。

 

「えぇ〜い何をしている!?さっさと撃ち落とさんか!」

 

「ダメです!敵の動きが速すぎて照準が追いつきません!」

 

 艦橋内に焦燥が広がる中、レビルは鋭い声を張り上げた。

 

「落ち着け!敵の動きを読みつつ回避の瞬間を狙い、メガ粒子砲で叩き込むのだ!」

 

 司令官としての威厳ある声に、混乱しかけていたクルー達も徐々に冷静さを取り戻していく。砲撃管制官達は必死に照準を調整し、高速機動を続ける青いMSの動きを追い続けた。

 

「も、目標を捕捉!照準固定します!」

 

「よぉし!メガ粒子砲、発射!」

 

 上官の号令と共に巨大な砲口内部へ高エネルギーのメガ粒子が収束していくと同時に、青いMSは抱えていた対艦ライフルの引き金を引いた。そして放たれた一発のライフル弾は一直線に《アナンケ》の方へと突き進み、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして直後、砲口内部で凄まじいエネルギー暴走が発生してしまう。

 

 制御不能となったメガ粒子が内部機構を焼き尽くし、主砲塔そのものが大爆発を起こす。加えて爆炎と衝撃波が艦体を激しく揺らし、《アナンケ》の各所で誘爆が連鎖していった。

 

「ひ、被害確認!艦内から被害を確認」

 

「第3エンジン損傷!第4エンジンにもダメージ発生!」

 

「しょ、消化だ!早く消化するのだ!」

 

 主砲の爆発によって《アナンケ》全体が激しく震動し、艦内は一瞬にして混乱へ包まれた。各所で火花が散り、警報音が鳴り響く中、周囲のクルー達は悲鳴混じりの声を上げる。この異常事態に流石のレビルでさえも動揺を隠せず、困惑するのだった。

 

「まさかこの瞬間を狙って、わざと接近してきたというのか━━うおぉっ!?

 

 直後、更なる衝撃が艦を襲う。猛烈な揺れによって、メインブリッジにいた士官やクルー達は次々と床へ投げ出された。レビルもまた艦長席から崩れ落ち激しく身体を打ち付けてしまったが、それでも司令官としての立場を保とうと必死に立ち上がる。

 

「━━━ッ!」

 

 だが顔を上げたその瞬間、メインブリッジの巨大な窓の向こう側に青いMSが静かに佇んでいた。それはまるで獲物を観察するかのように、単眼のモノアイが妖しく輝いている。ジオン軍が投入したMSという兵器の存在自体は、レビル自身もそれなりに情報を把握している。しかし突如として乱入してきた青いMSは、彼にとってもはや()()()()()だった。

 

 ザクとは比較にならない機動力に戦艦の砲火すら無意味にする異常な回避能力に、たった一機で艦隊を混乱へ陥れる圧倒的戦闘力に加えている。もはや連邦軍が保有する既存戦力では歯が立たないと思えてしまうくらいの化け物じみた存在が、今まさにレビルのいるメインブリッジの目前へ到達していた。

 

……ありえない……こんなはずでは……ありえない!

 

 レビルは思わず息を呑み込む。恐怖すら滲ませた表情のまま硬直する彼を前に、青いMSは腰部からヒート・サーベルを引き抜く。赤熱化した刃が不気味な光を放ち、メインブリッジへ突き刺そうとしたその時━━━━横合いから連邦軍のセイバーフィッシュ隊が接近し、即座に攻撃を開始する。

 

 敵からの攻撃にいち早く察知した青いMSは、高速移動すると同時に《アナンケ》から即座に離脱する。噴射炎を迸らせながら急加速し、向かってきたセイバーフィッシュの攻撃を紙一重で回避を見せる。一方、危機一髪のところで運良く生き残ったレビルはその場へ崩れ落ちるように膝をつく。目の前では青いMSが戦闘機隊を相手に縦横無尽の機動戦を繰り広げていく中、慌てた様子で士官達がレビルの元へ駆け寄る。

 

「レビル将軍!ご無事ですか!?」

 

「主砲システム完全停止……各所で誘爆発生。この艦はもう長く持ちませんぞ。」

 

「作戦指揮権はロドニー・カニンガン准将へ委任した。ともかく、今は将軍の脱出を最優先だ!」

 

 士官達は口々に報告を飛ばしながら、レビルを避難させようと必死に動き回る。しかし当の本人には彼らの声がほとんど届いておらず、その視線にはただ一機の青いMSへ釘付けになっていた。

 

あれはダメだ……存在してはならん……あんなものが戦場に現れていいはずがない……

 

 誰にも聞き取れぬほど小さな声に、レビルは震える声で呟く。そしてこの時、彼の脳裏には決して消えることのない恐怖が刻み込まれてしまう。

 

 

 

 

 

「ま……マジでやりやがった……」

 

 眼前で繰り広げられた光景を見つめながら、ガイアは呆然と呟いた。たった一機で連邦軍旗艦へ突撃し、艦隊を半壊状態へ追い込んだ青いMS。その常識外れの戦いぶりに流石のガイアも言葉を失っていた一方、オルテガとマッシュは別の意味で苛立ちを募らせていた。

 

「あの青い野郎……俺達の獲物を横取りしやがってぇ〜!」

 

「しかも俺のライフルまで勝手に使いやがったんだぞ!クソがぁッ!!」

 

 獲物を奪われた怒りをぶちまける二人。するとその時、戦闘機隊を振り切った青いMSが再びガイア達の元へ接近してきた。

 

「おいテメェ!よくも好き勝手やってくれやg━━━うぉっ!?

 

 青いMSは減速することなく、マッシュのザクへ対艦ライフルを適当に放り投げる。慌てて受け取った次の瞬間には、既に機体は凄まじい加速で宙域の彼方へ飛び去っていた。

 

「あっ!おい待てごr……畜生!アイツ速すぎるだろ!」

 

「一言も喋らず消えやがって……クソッタレが、ぶち殺してやる!」

 

 怒号を飛ばすオルテガとマッシュだが、ガイアはすぐに鋭く制した。

 

「マッシュ!オルテガ!今はあんな奴に構ってる場合じゃねぇ!敵の大将首を捕らえるのが先だ!」

 

 ガイアの言葉に二人は不満げに舌打ちするも、優先しなければならない事を思い出す。

 

「……チッ」

 

「後で絶対探し出してやるからな……」

 

 渋々ながらも怒りを押し殺し、黒い三機のザクは大破寸前の《アナンケ》へ向けて進路を変えるのだった。

 

 

 

 

 

 突如として戦場へ乱入した青いMSの存在は、ジオン軍旗艦であるグワジン級宇宙戦艦《グレート・デギン》にも既に伝わっていた。その戦闘映像を眺めながら、ガルマ・ザビは唖然とした表情を浮かべる。

 

「な、なんというモビルスーツだ……」

 

 ガルマ自身もMSに関する基礎知識は持っているが、あの青いMSだけは別格だった。肉眼で追うことすら困難な機動性能に、戦艦の砲撃網を容易く突破する異常な加速力。それは既存のザクを遥かに凌駕する存在にしか見えなかった。当然ながらそのような機体の情報を知らされていないガルマは、傍らに控える情報担当士官へ鋭い視線を向ける。

 

「おい!あれは一体なんだ!?ザクではないのか!?」

 

「も、申し訳ございません.....急いでデータを探っていますが、まだなにも分からなくて...」

 

「分からないだと?貴様、それでも情報担当か!

 

 未知の存在への焦りだろうか、ガルマは思わず怒声を浴びせた。しかしそんな彼にジオン公国の公王でるデギン・ソド・ザビが低く威厳ある声で割って入る。

 

「落ち着かんかガルマ、見苦しいぞ。」

 

「ですがお父様!いいえ……父上、申し訳ございません....」

 

「あの青いMSが何者であれ、少なくとも現時点では我らの敵ではない事だけは確かだ。」

 

「ですが父上……所属不明のMSである以上、危険性はないとは限らないかと……」

 

「もし敵であるならば、既に我が軍艦隊にも被害が出ておるだろう。」

 

 デギンは静かに戦況モニターへ視線を向け、そこに映るのは混乱しているであろう連邦艦隊の姿だった。

 

「とにかく、今この戦場で我が軍は優位な位置となっている。ここで新たな情報を加えればそれこそ混乱するだろうよ。」

 

 あくまで重要なのは戦の勝敗であると、デギンは余計な情報は追加しないと判断していた。しかしガルマだけは、あの青いMSに関して脳裏から離れない。情報もない存在感に、得体の知れぬ不気味さを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青いMSが次々と連邦軍艦隊へ襲撃を仕掛ける中、エース部隊を除く一般兵達はその光景を呆然と見つめることしかできなかった。誰もが、あのMSの異常な機動性能に戦慄している。同時に、その正体を知る者は誰一人として存在しない━━━ただ一人を除いて。

 

「まさかあれは……ヅダなのか?」

 

 ━━と、同じくザクⅡを操縦する一人の技術者エリオット・レムは青いMSがヅダであると知り、驚きを隠せなかった。かつて主力MSによるコンペティションが行われていた当時、ジオニック社が当時開発したYMS-05 ザクのテストパイロットとしてコンペに挑んでいた。しかしその時に競争していたツィマッド社が開発したEMS-04 ヅダの性能を目にし、負けたと思い込んでいた。しかし不慮な事故が起こり、結果としてジオニック社のザクが採用されることになった。それでもなお、エリオットの中では“ヅダの性能は本物だった”という確信が消えていない。

 

「何故ヅダがここに……いやそれよりも、なんて速さだ!」

 

 姿は大きく変わっているが、機動力などに関してはエリオットが知るヅダではなかった。コンペの時よりも明らかに進化しており、もはやMSの領域を超えているのではないかと疑う。

 

「あの異常な機動に尋常じゃない加速性能……ツィマッド社は、一体どんな技術であんな化け物を生み出したんだ……!?」

 

 戦場であることすら忘れ、エリオットは純粋な技術者としてヅダへ目を奪われていた。だが、この時の彼はまだ知らない。そのMSを操縦しているのが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 そして時は、ほんの数分前の出来事に遡る。

 

 

 

△▽△▽△

 

 

<イオリ・サカイ side>

 

 とりあえず貨物船に紛れ込み、ヅダと共にルウム宙域近辺まで辿り着くことはできたが……にしても妙に長く感じたな。実際には数時間程度しか経っていないはずなのに、体感だと一ヶ月くらいかかった気分だな*1……まぁそれはともかく。こうして目的地にも到着したことだし、コイツの性能を試すには絶好の機会ってわけだ。ちなみに今の俺は、当然ながらヅダのコックピットの中にいる。

 

《な、なぁ……やっぱりやめた方がいいって!いくらなんでも、流石にこれは無茶だ!》

 

 通信越しに聞こえてくるのは、ついさっきまでヅダの情報を横流ししようとしたサカグチとかいうオッサンの情けない声が聞こえてくる。まぁ言ってしまえば、ただのモブ中のモブって感じの人だな。つーか、まだビビってんのかよ。

 

「あのさぁ〜、いい加減腹括れって。せっかくここまで来たんだから、どうせなら楽しまないと損っすよ〜?」

 

楽しめるか!?それに目と鼻の先には、戦場なんだぞ!しかも我々は正式な命令もなく、勝手に戦闘へ介入しようとしているん!もはや完全に重罪だぞ!?》

 

「硬いこと言うなってオッサン、要はバレなきゃ問題ねーんだよ。」

 

《いや、しかし……「それによ、アンタがコイツ(ヅダ)の情報横流ししてた証拠を俺が持っているんだぞ〜」……ち、畜生っ

 

 脅すのはあんまり趣味じゃないけど、こうでもしないとコイツ動いてくれねぇんだよなぁ。まぁ悪いとは思うが、最後まで付き合ってくれ。そんなやり取りをしているうちに、貨物船のハッチがゆっくりと開放されていく。漆黒の宇宙と、ルウム宙域の戦火が視界いっぱいに広がっていた。

 

「よっし、とりあえず暴れてみますか━━━

 

《ど、どうした!?》

 

「……やっべ、そいやコイツの名前まだ決めてなかったわ」

 

《━━そ、そんなの今どうでもいいだろぉ!?出るならさっさと早く出ろ!!

 

 いやいやいや、結構大事だろ名前はよ。とはいえ、“ヅダ”をそのままってのも何か味気ない。例えばヅダⅡ……いや、普通すぎるな。それならヅダ改……うーん、これもなんだかパンチが足りないな〜。もっとこう、“驚き”とか“常識外れ”みたいな響きが欲しい……驚き……アメイジング……

 

「よし、決まったぞ。」

 

 このMSと出会ってから遅くなったが、ようやくしっくり来る名前を思いついた俺は操縦桿を強く握り締める。

 

「そんじゃ気を取り直して行きますか……イオリ・サカイ、ヅダアメイジング!いくぜぇッ!!」

 

 

<イオリ・サカイ side end>

 

 

 

 

 

EMS-04A

ヅダアメイジング

 

全高:17.6m

本体重量:62.8t

出力:1350kW

推力:62400kg

 

【武装】

・ジャイアント・バズ

・ヒート・サーベル

・ザク・マシンガン×2

・シュツルム・ファウスト×4

 

 EMS-04ヅダをベースに、機体崩壊の原因となっていた各部フレーム強度や推進制御システムを徹底的に改修した高機動試験型モビルスーツ。更に試作型《流体パルスアクセレーター》を搭載したことで脚部の反応速度と瞬間的な加速性能が飛躍的に向上し、従来のモビルスーツを遥かに凌駕する異常な高機動戦闘を可能としている。

 

 背部バックパックには二基のサブアームユニットを増設したことにより、複数兵装の同時運用に加え戦闘中の武装交換や予備弾倉の迅速な補給を実現した。その性能は一年戦争初期に存在するモビルスーツとしては明らかに規格外であり、戦艦級火力を正面突破するほどの突破力を誇る。

 

 さらに、後年に開発されるモビルスーツ技術の概念すら一部先取りしているとも言われており、ヅダアメイジングはまさに“ツィマッド社技術の集大成”とも呼ぶべき機体である。

 

 

 

*1
作者「大変遅くなって、すみませんでした」




ヅダを魔改造しようとした結果、一年戦争初期戦に登場してはならない化け物クラスになちゃったけど……やりすぎたかこれ(震)

ちなみに主人公のせいで活躍を奪われてしまった黒い三連星ですが、ちゃんと原作通りレビル将軍を捕縛しています。

次回からルウム戦役後編に入ります。まだまだ先になる思いますが、次回もお付き合いいただけると幸いです。

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