落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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七星剣武祭前に日常回。
 
あとがきにアンケートがありますので、是非ご回答ください。
各話タイトルについてのアンケートです。
 


七星剣武祭編
第十三話


 

 

 破軍学園壁新聞      文責:日下部加々美

 キャラクタートピックス

 

甘木悠(AMAGI YUU)

 

【所属】 破軍学園二年一組*1

【伐刀者ランク】A

【伐刀絶技】《内政不干渉(デリクトデューティー)

【二つ名】 《天譴》

【人物概要】 七星剣王で最も努力しなかった男

 

【攻撃力】A

【防御力】A

【魔力量】A

【魔力制御】A

【身体能力】A

【運】A

 

『かがみんチェック!』

 小学生が盛りつけたバイキングの皿みたいなステータス!

 我らが破軍学園を代表する《七星剣王》。

 全くもって戦闘向きでは無い伐刀絶技でありながら、その二つ名の由来となった圧倒的なカウンタースタイルで、一年生ながら七星の頂に立った超一流騎士です。今年度は、戦闘スタイルをガラッと変えてきましたね!

 ……彼の評判については、あまり芳しいとは言えないので……。文屋(ブンヤ)としては少々、責任を感じたりします。成果を出した人は、正しく評価されるべきですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、暁学園に『学生寮』という物は無い。

 

 まあ、当然だ。有るわけがない。

 学生数も少ないし、そもそも暁学園メンバーが同じ寮で仲良く暮らしている所など想像もできない。黒鉄王馬が『シャンプーが切れてしまったので貸してくれないか』とか尋ねてきたら爆笑しちゃうと思う。

 

 その為、王馬や多々良、平賀などの独自の拠点を持つ生徒たちはそこで生活し、俺のように寝泊まりする場所が無い人間(実家は遠いし、破軍の学生寮にはもう通えないし)は、総理の伝手でホテルを用意してもらっている。

 

 朝から晩までホテル暮らし。たまに総理に呼び出されては、暁学園メンバーで計画の話し合いをする日々。そういう生活を送っていて、しみじみと実感したことがある。

 

 

「おはようございます(蚊の鳴くような声)」

「騒々しき太陽……(おはよー)」

 

 

「「「「「「おはようございます、甘木様」」」」」」

 

 

「ヒュッ…」

 

 上流階級の人間とは、とんでもなく羽振りが良い。

 

 あからさまに高級な、都内の一等地に建てられたこのホテル。

 そこのワンフロアが、なんと丸ごと貸し切りにされているのだ。

 

 俺、風祭凛奈、サラ・ブラッドリリー、シャルロット・コルデー。あとライオン(スフィンクス)。この四人と一匹を接遇するためだけに、ホテル側の人員が惜しみなく大量に注ぎ込まれている。

 

 頭がおかしくなりそうだ。

 ずらりと豪勢な料理が並べられた朝食ビュッフェ。一列に並んで挨拶してくるスタッフたち。大浴場は常に貸し切りだし、ベッドはふかふかだし、そもそも用意された部屋だってスイートルーム。一人には広すぎて、部屋の半分はまだ未使用のままだ。

 

「気が狂う^~」

 

 人を育てる 一番むごい方法はの 早くから美食させ 女を与えて 虎児じゃ竜じゃとおだてあげて育てるのじゃ 立派な馬鹿殿さまになるわ 

 

 こんないい暮らしをしてたらダメになってしまう。

 

 俺の目の前で、シェフがオムレツを焼いてくれている。これがめっちゃくちゃ旨いのだ。本当に、意味が分からないレベルでうまい。マクドナルドのビッグマックが好物だった貧乏舌の高校生に食わせていい味ではない。逆に、シェフはこんな小童(こわっぱ)に料理をふるまう事を不満に思ったりしないのだろうか。

 

「『神の怒り(ロッズ・フロム・ゴッド)』よ、こちらへ来ると良い」

「ッス……」

 

 全スタッフに見守られながらベーコンやトースト等を取り、チョイチョイと手招きする風祭さんの誘導に従って彼女の向かいに座る。

 

 美少女の上に財閥令嬢(権力者)という、俺の弱点をダブルで併せ持ったお方だ。4倍弱点。緊張するが、誘われた以上無視するのも無礼である。

 

朝餉(あさげ)の時に貴様と我の時間軸(タイムライン)が交錯するとはな。これは天文学的確率の奇跡か、それとも世界のバグか……?」

「『朝ごはんが一緒の時間なの珍しいねー』と、お嬢様は申しております」

「アッヘヘ……いやー、たまたま早起きしたんで。風祭さんはいつも早いですよね」

「くくく、我の体内時計(ザ・クロック)は正確無比よ」

 

 風祭さんはそう笑いながら、カチャカチャ品よくナイフとフォークを使ってウインナーを口に運ぶ。

 

「逆に、サラさんを見かけた事ってない気がしますね。朝食に限らず、生活のあらゆる面で」

「……ククク……まぁ、ぇー……ククク………」

「『奴は放っておくと食事も摂らんし風呂にも入らんからな』と、お嬢様に代わり申し上げます」

「あー……な、成程……げ、芸術家気質ですもんね」

「ウム……正直我もちょっとどうなのと思ったりするが、しかし傑作への執念は賞賛されるべき物よ」

「あはは……」

 

 だいぶ……だいぶ、上手く話せているんじゃないか……!?

 成長している。初対面辺りの、『はい!! 仰る通りです!!!』を繰り返すマシーンと化していたころと比べると雲泥の差だ。

 

「お代わりお()ぎいたします」

「うむ」

 

 会話の合間に、シャルロットさんがそう言って風祭さんのカップに紅茶を注ぐ。

 両者ともに『それが当然』とばかりに慣れ切った様子。今更ながら、上流階級の人って凄いな。世話をさせるのに慣れきっているし、礼儀作法(テーブルマナー)も完璧に綺麗だ。

 

 不慣れな物を使って風祭さんの前で食事をこぼす訳にもいかないので、対する俺は使い慣れた箸で食事を摂っている。へへっすいやせん、あっしは薄汚ねぇ平民あがりでやんして……。

 

「……気にすることはありません。礼儀(マナー)の根幹とは敬意。甘木様は一番大切な、お嬢様への敬意という物が出来ております。であれば、細かな作法はさほど重要ではないかと」

「あっ、ありがとうございます……」

「いえ。差し出がましい事を申しました」

 

 緊張しているのが伝わったのか、メイドのシャルロットさんがそうフォローしてくれる。

 この人も凄いんだよな……瀟洒というか、常に凛としてるというか。

 

 以前、多々良が『テメェ、あたしと《天譴》で態度違いすぎねェ?』と聞き、『はい。私は甘木様とあなたで態度を変えていますよ』と返されて何も言えなくなっていた。彼女の中の順位としては、風祭さん>>>>(超えられない壁>>>>俺>>>>(超えられない壁)>>>>その他 って感じらしい。逆に俺は何をしたんだよ。

 

「お嬢様に敬意を払う相手には、私もまた敬意を払う。当然の事です」

「うむ。よく分からんがとにかくヨシ。食事とは生の喜び、美食とは楽しんでこそよ。なに、貴様なら手で喰ってもよいぞ」

「バーバリアンだと思われてます? 俺」

 

 あっでも風祭さんにそう言われたらホントに手で食った方が良いのかな……。

 こう、冗談をあえてホントにやる事で忠実さを示す的な……。

 

 己の手と料理を交互に見比べる。マ、マジでいくか……?

 

 

「おはよっすー」

 

 

 俺がそう葛藤していると、レストラン内にそんな気の抜けた声が響いた。

 

「む、新顔(ニューフェイス)! 貴様、我らが同胞なりや?」

「是非に及ばずっす」

 

 合ってるのか合ってないのかよく分からない返しをする新入者。

 こ、このギャルっぽい声は……!

 

「桃井!!!!」

「どもどもー。先輩、なんかお久しぶりっすね」

 

 ピンク色の髪をボブにし、着崩した制服とルーズソックスを身にまとう少女。

 ゲーム部元部員、桃井新香が満を持して現れたのだった。生きとったんかいワレェ!

 

 嬉しい。暁学園では欠片も姿が見えないし総理に聞いても濁されるし、かと言って襲撃時にも居なかったしで、マジでどうなったのか分からなかったのだ。

 

「生きワレ!!」

「声でかっ。ばりばり生きてましたよー。ま、先輩、『前夜祭』お疲れ様でしたっす。自分がいなくて寂しかったすかー? ……あ、これはこれは風祭様……へへっ、自分も相席よろしいっすか……?」

「寛恕する(いいよー)」

「うひー、ありがとうございますっす」

 

 既にサラダなどを皿に取っていた桃井が、ぺこりと頭を下げてから俺の隣へと着席する。

 

「では改めて……初めまして、風祭さん。暁学園新入生の桃井新香です」

「よい、楽にせよ。貴様……我の邪神教書(データブック)に記載があるぞ。破軍学園を裏切り、かの《天譴》の友人として特例的に暁学園の席を与えられた存在。クク……利に聡い背教者(ユダ)、というわけか……?」

「いやいや。自分はほら、先輩との友情を信じて決断したわけでして。裏切るとかとはちょっと違うっすよー」

「ククク……“オレの考えじゃユダは裏切り者じゃない”、という訳か……」

「クロロ=ルシルフル?」

「貴女もフルネームで突っ込むタイプなのですか、とお嬢様に代わり申しあげておきます」

 

 凄い。席があっという間に女性で埋め尽くされた。3:1だ。

 桃井はさすがのコミュ力で、あっという間に馴染んでしまったように見える。

 

 こうなると、俺は何も口を挟むことが出来ない。

 今まで何処に居たのかとか聞きたいんだけどね、俺もね。それをこの(かしま)しい空間で口に出すタイミングがつかめない。まあ、後でラインとかで聞けばいいか……。

 

「あ、爪可愛いっすねー。黒に赤のラインかー、ゴシック系に合わせてっすか?」

「む! う、うむ。これは我が忠臣(シャルロット)にやってもらったやつでな。結構我も気に入ってるやつなのだ」

「かわいー! 良いっすねー、自分は動物飼う都合上爪とか弄りにくくてー……」

 

「…………(曖昧に微笑んでいる)」

 

 俺に縁遠い世界の話をしているなぁ。

 会話は断絶された。もはや俺はきゃいきゃいと騒ぐ女子たちの傍でニコニコしながら、シェフが焼いてくれた絶品オムレツをほおばる事しか出来ない。お陰様で毎日の朝食が彩られております!

 

「クク……しかし貴様、我の邪言を看破するとはな。さては暗黒書典に精通しているな?」

「結構幅広くオタクなタイプっすねー。『黄昏の魔眼使い』も読んでるっすよ。風祭さんの服もそれリスペクトっすよね?」

「ッ!!! 貴様、"真の仲間"か……!?」

 

 あ、このフレンチトーストも旨いな。

 高いバターってこんな美味しいのか。別物みたいだ。

 

「あ、先輩も漫画詳しいっすよー。ね、先輩!」

「アッホヒ」

「むむむ! なんと《天譴》、貴様もか! 確かに以前、我の真言に正確な対抗詠唱を返していたような記憶が……」

 

 背景の一部として食事を楽しんでいると、桃井からそう唐突に話しかけられた。

 お、お前……気を遣ってくれたのか!? ありがとう!!

 

「ね、先輩も黄昏読んでるっすよね?」

「あっ、俺も『黄昏の魔眼使い』は結構愛読してます、ね……」

「き、貴様ー! この我を謀りおったのか!? もっと早く言ってくれれば、沢山沢山語りたい事があったものを……!! ねね、誰が好きなの!? 私はねー、やっぱこの眼帯の元となった―――」

「エッアッ、自分はやっぱ王道にヒロインが一番好きで―――」

 

 同好の士を見つけてよほど嬉しいのか、風祭さんがそう勢い込んで語り始める。

 

「ライバルのキャラが――――台詞回しが――――伏線回収が――――作者の鷹柳先生はホントに天才で―――」

「うんうんうんうんはいはいはいはい」

 

 加速していく風祭さんの喋りに、必死でついていく。

 凄い熱量だ。演説の才能を感じる気がしなくもない。まくし立てる事が重要ってちょび髭のおじさんも言ってた気がするし。

 

 

「あっははは。あ、シャルロットさんはどうなんすか? 風祭さんのメイドさんなら、やっぱ同じように詳しいんすか?」

「―――貴方。同業の気配がしますね」

「……………。あはははは。風祭さんとは、適度に仲良くしたいだけっすよ」

「そのようですね。では、"適度に"お願いします」

 

 

 助けて、桃井!!

 そう思って、何かシャルロットさんと仲良く話している彼女へ視線を送る。あっこっち見てねえわ。もうダメです。

 

「それでねそれでね! 風祭グループの資金を使って現在アニメ化計画を進めててね! やっぱ作画良いところにお願いしたいから、ufotableさんかMAPPAさんか迷ってて――――」

「……お嬢様。そろそろニチアサの時間かと」

「あっヤバい! ……こほん。では諸君、我は日課の邪教儀式があるため、ここで失礼する。むぐむぐぐ、さらば!!」

 

 シャルロットさんがそう告げると、風祭さんは慌ててクロワッサンを詰め込み、ダッシュで部屋へと向かっていった。マ、マナーが……。

 

「……嵐のような人だったな」

「っすねー……」

 

 でも、なんか悪い気にはならなかったから不思議だ。愛嬌というか何と言うか、あれも風祭財閥直伝の人心掌握術なのかもしれん。権力者が庶民的に接してくれると嬉しくなる的な。

 

 嵐は去り、後には俺と桃井が残された。

 あとキビキビと皿を片していく大量のホテルスタッフ。

 

「……というか桃井。マジでどこ行ってたんだ?」

 

 なんにせよ無事で良かったが、これまでの動向が普通に気になる。

 

「シャルロットさんと同業って言ってたけど、それ関係?」

「あー……アハハ。そりゃ、()()()話しても先輩には聞こえるっすよねー。まあ、自分も手に職付けようと頑張ってたって感じっすよ」

「あー。同業ってのは、メイド……というか、秘書的な仕事に就こうとしてるって事?」

「そうそう、そんな感じっす。やっぱ、寄らば大樹の陰っすからねー」

 

 モグモグとサラダを咀嚼しながら、桃井がそう語る。『……これ激ウマっすね』と呟くその表情は、全くもって気楽な物だった。実際、桃井のコミュ力ならどこでも就職できそう。頭の回転もバカ速かったもんな。

 

「なるほどね……総理にお願いして、秘書教室(?)的な物を紹介してもらってた感じか? だから暁学園への合流が遅くなった、と。おかげで俺はめちゃくちゃ肩身が狭かったよ」

「へっへへへ。自分が居なくて寂しかったっすか、先輩ー?」

「寂しかった……というか、シンプルに心配だったよ。破軍襲撃の時も、桃井が居ないか確認してから校舎を斬ったんだからな」

「おおお……気遣いの仕方が大怪獣っすねぇ」

 

 そう言って、桃井が楽し気に笑う。

 でも実際本当に、瓦礫に潰されて怪我人が出ないよう細かく斬ったりと、割と気を配ったりはしていたのだ。途中でバスは乱入してくるし、"新宮寺先生来るならエエか!" と気を抜いた結果、最後には怪獣大決戦が起こったりするし、あんまり意味のない頑張りだった気もするが。

 

「映像見たっすよー。破軍学園、廃墟を超えて更地になってたっすねぇ」

「……ねー……。あれ再建出来んのかな……」

「伐刀者が手伝うなら余裕っすよー。バリケードあったでしょ? ああいう、建築に応用できる異能ってのは結構多いっすから」

「かなぁ……」

「まあまあ、そう落ち込まずに。ちょっと、まあ、あの《夜叉姫》とガチバトルしてたのは肝が冷えたっすけど……そのおかげで、自分は暁学園に来れたんで。もう先輩に()()()()()かけようとする人は居ないっすから。うち一人(幸運)は心折れたし、もう一人(人形)は他の執着を見つけましたから」

「ん? ちょっかい?」

「そうそう。先輩じゃなくて、()()()()()を狙うような卑劣漢もいたかもしれないっすからねー。……ま、もう全ては過去の話っす」

 

 どこか遠い所を眺めながら、桃井が良く分からない事を言う。

 

 微妙に何が言いたいのかよく分からんが……"暁学園の《解放軍》関係者にいじめられそうで怖いので、今まで来れなかった"って理解で良いのだろうか。

 そりゃそうだ。『《七星剣王》の友人枠』っていう直球のコネ入学だもんなぁ。

 

「多々良とか平賀とか、嬉々として絡みそうだもんな……」

「そうそう、その辺りっす。そういう、関わるだけでこっちが損をする奴ってのは居るんすよ。そういう奴を避けるため、別の所でお仕事してたって訳っす」

「仕事?」

「あ、間違えた。研修っす。ま、研修も仕事みたいなもんなんで。で、目途(めど)も付いたし、先輩が怪獣的パワーを見せつけたお陰で私がお(つぼね)にイビられる心配も無くなったしで、やっとこさ暁学園に本格入学と相成ったって訳っすよー」

 

 なるほどね。

 

 これは、俺が考え無しだったかもしれん。そりゃまぁ、特別扱いされてる奴にはやっかみとか嫌がらせとか色々あるよな。その矛先が俺じゃなくて桃井に行くのも、まあ有り得そうな事だ。破軍襲撃だけを見て暁学園へ誘ったが、その後もちゃんと考えておくべきだった。

 

「ごめんな。なんか、困った事があったら言ってくれよな……? 微力ながら力になるからさ」

「えっへへへ。先輩からの好感度が身に染みるっすねー。具体的にはどう頑張るんすか?」

「……………」

「アッハハハ! そういう時は嘘でもいいからなんか言っとくんすよ、もう!」

 

 笑いながら、桃井が俺の肩をパシパシと叩く。

 

 ……桃井が解消できない人間トラブルを、俺がどうにかできるビジョンが浮かばない。

 総理にお願いして、ホテルの一室を新ゲーム部部室として使わせてもらうとか……? こう、新たな居場所的な感じで。

 

「あー、おもしろ。別に気にしなくていいっすよ、もう片付いた問題なんで」

「そ、そう?」

「そうっすそうっす。へへへ……むしろ、これからは私が先輩の力になるっすよー。ちゃんとサポートしますから」

「オッホヒ」

 

 叩くのを止め、俺の肩を細い指先ですりすりと撫でながら桃井がそう言う。

 

 だからさぁ!!!!!!!!!!

 お前のそういう気安い感じがゲーム部部員を狂わせてるんとちゃうんけ!?!?!?!!?

 

 いい加減にしろよ……!! 俺に青春ラブコメを過ごす素養があると思うな!? 相手が明確に好意を明示してくれないと怖くて踏み込めねぇんだよ、ライン際を攻めようとするな!!

 

「……グアちゃんが、久々に会いたいって言ってたっすよー。ね……私の部屋、来ます?」

「アッヘヘ、じゃぁ行こうかな……」

 

 俺の肩に指を立てたまま、桃井が顔を俺の耳に近づけてそう囁いた。

 

 やめろやめろやめろ!!

 単にホテルの一室なのに『私の部屋』とか意識させる言い方をするな!! いやホテルの一室って言い方もダメだわ。八方ふさがりか?

 

 陽の当たる(陽キャの)世界ではこれが普通なのか? それとも俺が恐れすぎているのか。そんな答えの出ぬ疑問を抱きながら、俺は桃井に手を引っ張られていったのだった。手が小さいよー。 

 

 

 

 ……部屋は完全に飼育部屋と化しており、グアちゃんは相変わらずサバンナ気質の畜生だった。

 

 "あのライオン(スフィンクス)から身を護るにはどうすればいいか"を徹底的に相談され、『ああ、イグアナからしたらそりゃ怖いよなぁ……』と奇妙な納得を得た以外に特別なイベントは何もなかった。分からん!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 『前夜祭』作戦は無事に終了した。

 

 《夜叉姫》西京寧音の参戦は月影獏牙にとっても全くの予想外で、彼女が全力を出した結果、破軍学園に壊滅的な被害が出るというアクシデントはあったが……まあ、それも『アクシデント』の範疇でおさまる出来事だ。

 

 そんな(おり)、ある夜のこと。月影獏牙は官邸の自室へ人を招き、共に酒を嗜んでいた。

 

 

「《連盟》との交渉打ち切り、《同盟》への参加打診……まだまだ仕事は山積みですが。『前夜祭』計画については、ひとまず成功と言っていいでしょう。改めて、協力にお礼申し上げます―――()()()()

 

「んっふっふ……いえ、いえ。全ては月影総理のご慧眼あってのもの……。非力非才の身ですが、これからも粉骨砕身ご尽力いたしますとも」

 

 

 ブランデーを傾けながら、月影の内通相手―――倫理委員会委員長、赤座守がそう返す。

 

 かの名家、黒鉄家に連なる分家の血筋。

 倫理委員会とは、《連盟》において薄暗い仕事を統括する暗部のような物。決して陽に当たらず、むしろ地下深くに潜る組織だ。その組織を統括する赤座守が、なぜ月影と内通しているのか。

 

 一言で言えば、それは《天譴》甘木悠のせいという事になる。

 

 破軍学園監査中、たまたま《天譴》の模擬戦を観戦した事。

 それが、彼の辿る道筋を大きく変えた。

 

 一目見て分かるその異才。上に昇り詰めるための材料に飢えていた赤座は、即座に甘木へ接触した。『赤座守の秘蔵っ子』という題目で彼を『特別招集』へ捻じ込み、その成果を以て、大いに自らの影響力を向上させてきたのだ。

 

 赤座守は《連盟》において、最も早く魔剣(甘木悠)を見出した人物であった。

 

 よって、甘木悠を取り込もうとしていた月影獏牙が、赤座と接触するのはある種必然であった。

 陽の当たらぬ暗部ではなく、もっと輝かしい『広報部長』などの出世コースへ異動させる……いや。赤座の働きによっては、それ以上のポストを用意することを条件に、月影は赤座を買収した。彼の人物像や、今まで与えてきた報酬額、目上の人間への彼の従順さ等は、実際に話を聞かなければ分からない事だったからだ。

 

「んっふっふ……倫理委員会のつまらん仕事には飽き飽きしていましたからねぇ。知っていますか? あの《落第騎士(ワーストワン)》を七星剣武祭に出すなとか、そういう下らない仕事がもう少しで私に任されるところだったんですよォ? 全くもって馬鹿らしい……そういう"せせこましい事"をするために、私は連盟の席を頂いているわけでは無いのです」

「ははは。貴方の後釜が、《狩人》桐原静矢をけしかけた件ですね。結果的にそれが彼のレートを急上昇させてしまい、むしろ《七星剣武祭》出場を決定付けてしまったとか」

「ええ。ま、後釜が無能なのは私としては喜ばしかったですがね……。まったく、『()()()()()』を鵜吞みにするから痛い目に遭うのです」

 

 Fランク騎士、黒鉄一輝。

 彼の存在は、一輝の実父である《連盟》日本支部長の黒鉄厳からすれば(ゆる)し難い物だった。

 理由は単純。彼の存在が、魔導騎士の秩序を乱すからだ。

 

 魔力による防護も碌に出来ない。不意打ちの拳銃一つで致命傷を負う。そういう人間が騎士として前線に出るのは不合理であり、ましてやそれに憧れた人間が騎士を目指し始めるのは有害でさえある。それが黒鉄厳の考えだ。彼にとって最も重要なのは世界の秩序であり、息子への情はそれに比べ大きく劣る。

 

 よって、《落第騎士(ワーストワン)》黒鉄一輝への様々な妨害が赤座に命じられており、一年生時の留年を懸けた決闘騒動もその一環であった。

 

「―――くだらない。黒鉄支部長も、つくづく目が鈍っておられる。耄碌されましたなぁ」

 

 そう言って、赤座は人を小馬鹿にした薄汚い笑みを浮かべながらナッツをボリボリと噛んだ。

 

 

「Fランク騎士の活躍が人を駆り立てる? 才能の無い人間が騎士を目指し始める?

 

 

 ははは――――有り得ませんよ。《天譴》が居れば」

 

 

 そう言って笑う彼の眼は、一切の疑いがない、黒く澄み切った物だった。

 

 黒鉄巌は、《落第騎士》が勝ち上がる事による努力信仰の過熱を懸念している。"彼がやれるなら自分も"と、未来ある若者が身を持ち崩すことはあってはならない、と。

 赤座守の考えは全く正反対だ。《天譴》が居る限り、そのような事は起こりようがない。あの絶対的な才能を前にして、努力だ何だと戯言を吐き続けられる訳が無い、と。

 

 むしろ魔導騎士たちの心が()()()()()のを防ぐため、《落第騎士(ワーストワン)》には程々に勝ち上がってもらった方が良いくらいである。才能の差を認めすぎて、一切努力しなくなってもそれはそれで困るから。ちょうど現在の破軍学園のように、実現不可能な事をうだうだと言いながら精神鍛錬にでも励んでくれた方が、まだ国防にとって有益だ。そう、赤座守は考えている。

 

「ふふふ。赤座さんは《天譴》を信用していらっしゃいますね」

「んっふっふ……ええ、まあ。いわば彼のファンですからなぁ、私は」

「ははは……ささ、もう一杯どうぞ」

 

 適当な相槌を打ちつつ、月影は内心戦々恐々(せんせんきょうきょう)としながらこう考えた。

 

 

「(―――魔剣に魅入られたな)」

 

 

 (赤座)は一種の狂信者だ。

 権力者にとってあまりに都合の良い《天譴》という剣を振るい続けた結果、力に酔って足元が見えなくなっている。

 

 甘木悠の力は、決して無駄遣い出来る物ではない。彼のモチベーションは『金銭』だからだ。 

 彼への報酬総計が『一生働かなくても良い金額』に達した瞬間、月影は二度と彼という刃を振るう事が出来なくなる。《天譴》はもう、日本滅亡の(きわ)(きわ)まで二度と動かないだろう。いや、敵に国外脱出の手段さえも用意されれば、その時になっても動いてくれるかどうか。

 

 赤座守の姿は、未来(もしも)の月影だ。

 魔剣に使用回数制限がある事を忘れ、むやみやたらと濫用(らんよう)すれば、いつか手痛いしっぺ返しを食らう。

 

 国内を統括しきっている月影獏牙の影響力は種々に及ぶ。究極の所、《連盟》日本支部長である黒鉄巌さえ、彼の()()()()なのだ。その下部組織の一員である赤座守と、直接コンタクトを取るメリットは極めて薄い。

 

 しかし月影は、こうして赤座と二人で吞む機会を定期的に設けていた。

 彼の姿を見て、己の戒めとする為だ。赤座には知る由もない理由ではあったが。

 

 

 

「……それで。トーナメントはどうなりましたか?」

「ああ、ハイハイ。結論から申し上げますと、『暁学園』側からの操作はほぼ失敗に終わりましたな。《連盟》はいたくキレておられる。当然ですが」

 

 そう言って、赤座が一枚の大きな紙をテーブルへ広げる。

 赤座が独自ルートで入手した、《七星剣武祭》の暫定トーナメント表だ。

 

「……ふむ。『暁学園』メンバーが固められましたね」

「ですねぇ。こちらで掴めた裏金だけでも凄まじい額です。実際に使われたのはそれ以上でしょう。《連盟》はなりふり構わず来ましたなぁ。『国際交流』として、連盟の息がかかった海外の伐刀者を参加させようとする動きもあったようですよ」

「ほう。握りつぶして頂けましたか?」

「もちろん。しかし、審判への干渉は避けられませんでした。恐らくそれこそが彼らの本命―――ところどころ、我々暁学園に不利な判定が出る事は避けられませんな」

 

 とんとん、と互いにトーナメント表を叩きながら、これまでに行われてきた暗闘を纏め合う。

 

 《連盟》と暁学園の双方が行った、己にとって都合の良いトーナメント表の操作。

 結果、《連盟》の勝利。

 

 《連盟》の息がかかった海外伐刀者の招聘(しょうへい)

 結果、暁学園の妨害成功。

 

 《連盟》の息がかかった審判団の組成。多額の裏金が費やされた渾身の政治策。

 結果、妨害失敗。《連盟》の勝利。

 

 

()()二敗、一引き分け……と言ったところですかね」

「勝利と言って差し支え無いのでは? ()()を通せた時点でゲームセットでしょう」

 

 

 そう言って、赤座がトーナメント表の一角を軽く指で叩く。

 

 

 そこに記された、【暁学園 甘木悠】の文字を。

 

 

()()()()()を通せました。『実力不均衡』『殿堂入り』だ何だの言って、彼を排除しようとする連盟の動きを完全に封殺した。倫理委員会のほぼ総力を使って、ここだけは確実に獲れるようにしましたからねぇ」

「……ええ、確かに。《連盟》と我々は、互いに互いの本命を通しあった。あとは、切った札の威力が勝敗を決める。その点で言えば、《天譴》以上のカードなど存在しない」

「おっしゃる通り。審判? はは、好きに言わせておけばよろしい。どうせ、彼相手に一合持つ相手など居ないのですから」

 

 そう言って、赤座はグフグフと嫌らしく笑った。

 

 《夜叉姫》と《天譴》による馬鹿げた戦闘痕を見て、《連盟》が取ろうとした奇策。

 『甘木悠をKOK(King of Knights)A級リーグへ移籍させる』事で、《七星剣武祭》への参加を封じる鬼手。

 

 それを封殺できた事が面白くて堪らないのだ。

 

 KOKリーグとは連盟加盟国の魔導騎士が腕を競い合う、世界で最も注目度の高いリーグ戦だ。その中でも最高峰であるA級リーグに参加するには、二つのルートがある。一つは、所属国の国内(ナショナル)リーグで優勝する事。もう一つは、加盟国のうち三つの国から推薦を受ける事。

 

 《連盟》は、このルールを悪用しようとした。《連盟》加盟国から推薦を出させることで、甘木悠を()()()()A級リーグ騎士とする。当然、既にA級リーグ相当の騎士が学生の切磋琢磨の場である《七星剣武祭》に出る事は主旨に沿わないので、禁止とする。そういう嵌め手を使おうとしたのだ。

 

「連盟もなかなかの鬼手(きしゅ)を考えたものですが……んふふ。まあ、無駄なあがきでしたねぇ」

「ですが、もし実現出来ていれば恐ろしい策でした。改めて、赤座さんや倫理委員会の方々には頭が上がりませんね」

「いえいえいえ。このような時の為の組織ですから。役割を果たしただけですとも」

 

 いくら黒鉄家といえど分家であり、伐刀者としてもさほどの物ではない赤座守。

 彼は、周囲への嫌がらせだけでのし上がってきたような存在だ。責任逃れ、難癖、手柄の横取り、隠蔽、阿諛追従。ありとあらゆる卑劣が彼の周囲にあった。また、それを行使する事が当然、または美徳とされるような腐った職場で彼は生きてきた。

 

 だからこそ、彼にはある嗅覚が備わった。

 経験は人を変える。戦争に明け暮れた《砂漠の死神(ハブーブ)》に、殺気を感知する第六感が備わったように。列車事故に遭った《浪速の星》に、死を察知する嗅覚が備わったように。それらと比べるのも失礼なほどの超劣化版として、赤座守には『相手の嫌がる事』を察する能力が備わった。

 

 相手がしてきそうな買収ルート。そして逆に、此方(こちら)がどう仕掛ければ相手が最も嫌がるか。そういう物を敏感に察知し、赤座は《天譴》甘木悠のA級リーグ昇格を見事に防ぐ事が出来た。

 

「……既に、《七星剣武祭》開催まで間もない。これ以上の政治工作は時間的にも間に合わない。

 ―――政治戦のターンは終わりです。ここからは再び、暁学園の生徒たちが武威を示す番。どこまでも原始的な、暴力が物を言う局面(ターン)がやってきます」

「ええ、事前工作は此処までです。んっふっふ……《連盟》と日本国の代理戦争の決着は、学生の手に委ねられました」

 

 『戦争とは、外交の一形態である』。

 とあるプロイセンの軍事思想家はそう述べた。

 

 既に、連盟と日本、両者における交渉は決裂した。言葉を尽くす局面は終わった。

 外交は次のフェーズへと移り変わったのだ。国家という暴力装置の性能を比べる、学生騎士間の代理戦争が幕を開ける。

 

 《雷切》が雪辱を果たすのか。

 《紅蓮の皇女》がヴァーミリオンの威を示すのか。

 《落第騎士(ワーストワン)》が、その身一つで全てを覆す英雄譚(キャバルリィ)を謳い上げるのか。

 

 浪速の星が、風の剣帝が、深海の魔女(ローレライ)が、天眼が、鬼火が、凶運(バッドラック)が、万華鏡(カレイドスコープ)が、不転が、魔獣使い(ビーストテイマー)が、道化師が、剣士殺し(ソードイーター)が、白衣の騎士が、鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)が、氷の冷笑が――――――。

 

 誰もが、一途に優勝を目指している。

 国の思惑など知った事か。割れた世論、世間からのプレッシャーなどが(おも)しになるものか。

 

 日本の命運、連盟の思惑、全てが、彼らにとってどうでも良い些事に過ぎない。彼らはただ、勝利だけを求めている。

 

 

 誰が、《天譴》に―――あの天の高みへ届くのか。

 32人の参加者に、無理だと諦めたり、嫉妬したりする者は一人も居ない。

 わずかでも可能性があれば、それを掴んでみせる。可能性がないなら、創り出してみせる。

 

 そういう決意を胸に抱いた、心技体を兼ね備えた学生騎士たちだ。

 

 

「結果の分かっている勝負だとは思いますが……んふふ、愚かさとは若者の特権ですなぁ」

「……我々が鉄火場に立つわけではありません。それなのに慢心してしまっては、彼らにも《天譴》にも失礼ですよ」

「おっと。これは失礼、んっふっふ……」

 

 

 闇の中、赤座が腹を揺らしてぐふぐふと笑う。

 賽は投げられた。事態は既に背後に居る政務者たちの手を離れ、矢は真っ直ぐに放たれた。

 

 

 ―――《七星剣武祭》の開催まで、あと三日。

 

 

 

*1
暁学園移籍前の発行




 
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