落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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第十四話

  

 

 

 《七星剣武祭》は毎年、大阪の埋め立て地に存在する『湾岸ドーム』で行われる。

 

 開発失敗のせいで生まれたゴーストタウンを、少しでも活用しようという行政の涙ぐましい努力の成果だ。普段はさびれたビル群も、《七星剣武祭》の際は露店がずらずらと立ち並び、観光客でひしめき合う活気あふれた都市になる。

 

 特に今年は、『暁学園』のお陰で国内の関心が非常に高い。また、外国の皇女である『ステラ・ヴァーミリオン』が参加するとあって海外からも注目が集まっている。

 周辺の宿泊施設はあっという間に埋まり、既に会場周辺は異様な熱気に包まれていた。もちろん、交通ダイヤの乱れ等の影響を受けないよう、出場選手たちには選手宿舎としてホテルが提供される。

 

 そして、今日は《七星剣武祭》開催2日前。

 親睦を深めるため、選手宿舎に滞在する選手たちを招いたパーティーが開催されていた。

 

 

「―――と、言ってもなぁ。去年と比べてちと寂しすぎやせんか? 半分くらいしかおらんやん」

 

 

 そう言って、《浪速の星》諸星雄大は気だるげに軽食のサンドイッチを口に放り込んだ。

 

 突如として現れた新勢力『暁学園』に、彼らの襲撃によって壊滅的被害を受けた破軍学園。両学園の所属選手が()()()()しているのだ。他校においても棄権が相次いだため、例年通りの規模で用意されたレセプションルームは少々がらんとしていた。

 

「おもんなっ。《天譴》とか、もうこのホテルにはおるんやろ?

 じゃあ出て来てくれてもええやん。ワイ寂しいわぁ」

 

 諸星雄大は、去年の《七星剣武祭》決勝において《天譴》甘木悠に敗北を喫している。

 攻撃を散々に透かされ、捌かれ、絶対の自信を持っていた槍技『ほうき星』を放った瞬間、交錯間際に斬り捨てられた。

 

 去年の《七星剣武祭》中でも特に観客受けが良く、視聴率も高かった一戦であったが、諸星はそこに隠された欺瞞に気が付いていた。

 

「……去年のアレ。完全に同時やったから誰も気付いてへんが、アレは奴の霊装、《自在天(じざいてん)》で斬ったんとちゃう。斬り傷に違和感があった。日本刀やない、もっと細っそいモンで斬られた傷やった。その辺りのタネを、今日答え合わせしたかったちゅうんに……」

 

 このパーティーは単なる親睦の場ではない。伐刀者たちが互いの腹を探り合い、手札を暴き合う前哨戦の場だ。少なくとも、諸星雄大はそう考えている。

 しかし、その前哨戦も相手が居なければどうしようもない。溜め息をついてレセプションルームの壁にもたれ掛かる諸星に、人影が近づいた。

 

 

「暁学園の生徒なら、開始当初は参加していたらしいですよ。『目当ての人物が居ない』と、すぐさま自室へ帰っていったらしいですが」

 

 

 襟元までボタンを留め、制服を微塵も崩さずカッチリと着こなす姿勢の良い眼鏡の男。

 武曲学園三年、城ヶ崎白夜(じょうがさき びゃくや)である。

 

「目当ての人物ゥ? 何やねんな、そんなんこの《浪速の星》がいくらでもお相手したるっちゅうんに……。ワイ、これでも地元ではスター扱いやで?」

「残念でしたねえ。その二人は両方とも美少女だったらしいですが、ちょっと(ゆう)は好みに合わなかったみたいで」

「カーッ、見る目のないやっちゃで! ……まあええわ。で、その『お目当て』っちゅうんは誰やってん」

 

 大袈裟に天を仰ぐようなリアクションを取った後、諸星が平坦な声でそう尋ねる。

 額に当てた指の隙間から覗く双眸は、敵の動向を探ろうという計算高さに満ちていた。

 

「《落第騎士(ワーストワン)》、黒鉄一輝。今年度から頭角を現した選手ですね」

「ほー……。向こうの選抜戦で《速度中毒(ランナーズハイ)》やら《城砕き(デストロイヤー)》を破った奴やな」

「ええ。……ちなみに。彼を含めた『破軍学園』の代表メンバーは、誰一人出席していませんよ」

「…………」

 

 無言のまま、諸星が会場を睥睨する。

 黒鉄一輝。東堂刀華。ステラ・ヴァーミリオン。黒鉄珠雫。今年度の破軍学園代表メンバー達。パーティーをすっぽかした彼らは今、一体何をやっているのか。

 

 諸星雄大の情報網には、一つ、興味深い情報が引っ掛かっている。

 

 

「……今年の破軍コーチには、あの《夜叉姫》西京寧音が着任した……。

 なるほどなぁ。ギリのギリまで、『最後の追い込み』やっとるって訳か」

 

 

 ガリ、と骨付き肉を骨ごと噛みながら諸星がそう零す。

 

 そのまま食べ終えた料理を近場に居たウェイターに渡し、『ごっそさんでした!』と礼儀正しく一礼してから出口へきびすを返した。

 

「……聞くまでもありませんが、何処へ?」

「言うまでもないやろ。開戦直前、敵さんが戦力の増強に努めてるんや。なら黙っとる訳にも行かんやろ……こっちも対策打たなアカン」

「疲労を溜めると本番に響きますよ」

「分かっとるわい。そんなアホな真似、ワイはやらん。……が、そんなアホな真似やっとる破軍学園の奴らを見くびるのは、もっとアホのする事や。部屋で試合映像見返して、イメトレしとく」

 

 城ケ崎の忠告に、諸星は落ち着いた様子でそう返す。

 

 《七星剣武祭》二日前の今は、本来なら身体から疲労を抜き、己をベストコンディションへ仕上げていくべき時期だ。そんな時期に付け焼刃の修行など、かえって逆効果になり兼ねない、浅はかな判断のはず。

 

 だが。超一流の伐刀者である《雷切》ら破軍学園の生徒が、そんな初歩的な事に気付いていない訳が無い。ならば、そこには何らかの、無茶を断行するだけの理屈・勝算があるのだ。相手が爆発的な成長を遂げる事を予測し、対策を練っておく事は当然の義務とさえ言えた。

 

「ってなわけで、シロ(白夜)ちゃーん♡ 分析手伝ってくれるとワイ嬉しいんやけど……♡」

「オ゛エ゛ッ。手伝いますから、その気色の悪い猫なで声止めてください。殺しますよ」

「えっ厳しっ……なんやねんな、おちゃめなジョークやのに……」

 

 精神・技術共に既に円熟しており、別世界において"『将』として最も優れている"と連盟日本支部長に称される男。諸星雄大は、そう気安いやり取りをしながら己の部屋へと歩いて行った。

 

 

 

 《七星剣武祭》の開催は間近。

 全ての陣営が、優勝を目指してそれぞれの時を過ごしている。

 

 

 

「黒鉄、試合数少ないのう……。剣術がエグ上手いのは分かったけど、これっぽっちのデータじゃぜんっぜん足りんわ」

「破軍は前年度『能力値制』でしたからね。去年の黒鉄は模擬戦にも殆ど出ていないのでは?」

「ほーん、一回顔見て話しておきたいなぁ。もしどっかで会えたら、ウチの『一番星(お好み焼き屋)』誘ってみるか?」

 

 諸星達のように、敵の分析・予測に時間を費やす者たち。

 

 

 

「モグモグモグモグモグモグ……がっははははは、旨い旨い! この料理が楽しみで来とるべさ!!」

「食べ過ぎじゃなーい? よくそんなに入るわねぇ、どう考えても加我くんの胃より食べた分の体積の方が大きいじゃない」

「なんのなんの、鍛えてたらそれぐらい当然だべよぉ」

 

 あくまで己のペースを崩さず、会場の料理を堪能して英気を養う者たち。

 

 

 

「―――ッ、あ゛ぁ……っ!!」

「あ、黒鉄もへばった? じゃあ全員、3分だけ休憩な。おいジジイ、その間うちの相手しろよ」

「ほっほ……あの修行嫌いだった小娘がのう。変われば変わるもんじゃて」

「まーねー。しばらく腑抜けてたから、その分の錆落としまでキッチリ頼むぜ……!」

 

 《夜叉姫》と《闘神》。日本を代表する二名の伐刀者に、地獄の特訓を課されている者たちも。

 

 

 全ての伐刀者が、それぞれのやり方で前へ進もうとしている。

 

 《天譴》を頂点として、煌びやかに輝く星々のような眩い才能たち。

 世間において『黄金世代』と呼ばれる彼らは、皆一様に切磋琢磨して実力を向上させていた。

 

 

 そして。

 

 《天譴》甘木悠においても、それは例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 親睦を深めるため、選手宿舎に滞在する選手たちを招いたパーティーが開催されているらしい。

 

 へえ。

 そう……。興味ないね。

 

『えー、出席しないんすか?』

「で、出る訳なくない……? こちとら破軍学園襲撃犯だぞ。東堂会長とか居たらどんな顔すればいいんだよ」

 

 現在、俺は大阪の湾岸ドーム付近に用意された選手用宿舎の部屋の中。

 突然桃井から電話がかかってきたため、内心緊張しながら通話している最中だ。

 

 桃井は出場選手じゃないので、現在は東京で待機中。

 よって、今行われているであろうパーティーは一人たりとも友人の居ない、参加する意義が一切見いだせない物となっていた。じゃあ行くわけないじゃん。

 

「去年もアホつまんなかったしな。料理がおいしい以外に何の利点も無かった」

『あー……目に浮かぶっすねぇ。壁の隅で料理を食べ切った後、こっそり一人寂しく部屋に帰っていく先輩の姿が……』

「だって他校に知り合いなんて居ないし……」

『その知り合いを作る場のはずなんすけどねぇ』

 

 やかましい。

 

「桃井が居ればなぁ。話せる相手が居る分、まだマシだったんだろうけど」

『いやー、申し訳ないっす。ま、ちゃんと観戦には行きますから。()()()()()も大分治ったし、一緒に応援しに行くっすよ』

「あ、マジ? 良かった良かった」

 

 《解放軍(リベリオン)》の凶手、多々良幽衣は《七星剣武祭》に不参加となった。

 元々、『出場選手枠』の問題はあったのだ。一校につき、代表選手は"6名まで"。それに対し、各学園から戦力を引き抜いた暁学園は7名 (+桃井1名)。よって、どうしても誰かがあぶれる予定ではあった。

 

 俺と西京さんの大怪獣バトルに巻き込まれて重傷を負った多々良は、まあ言ってしまえばその不参加枠に『ちょうどいい』という事になった。傷自体は治るだろうが、病み上がりでは力を十全に発揮できるか怪しい、という理由だ。めちゃくちゃ申し訳なかったのだが、意外にも多々良自身は『ヘタ打ったのはコッチだからな』と静かに受け入れてくれた。

 

「というか、東京(そっち)って今多々良と桃井の二人だけなの? 気まずさがヤバそう」

『そんな事無いっすよー。あんがい価値観が合うというか、意外と付き合いやすい人っす』

「コミュ力凄すぎだろ……」

 

 桃井って就活で無双しそうだよな。

 普通に美人だし、大企業とかメガバンに一発で通りそう。羨ましい……。

 

 

『というか、じゃあ先輩はこれから何やるんすかー? 暇でしょ、どうせ特訓とかしないんだし』

「うーん。いや、俺も出来ればゆっくりしたいんだけど……。

 ちょっと、新技開発しなくちゃダメなんだよ。()()()()()を感じててな」

『は?』

 

 

 電話の気配で桃井が真顔になった気配がする。

 しかし、これはマジの話だ。別に冗談で言っている訳ではない。

 

 以前の破軍襲撃では、俺が西京さんの力量を見誤り、なおかつ対処に手間取ったせいでとんでもない被害が出た。破軍学園が瓦礫どころかチリも残らねぇくらいの更地になった一因は、俺の実力不足にあるのだ。残りは俺の迂闊さと西京さんのヒャッハー。

 

「"非殺傷技"が俺には不足していると痛感したね。そのせいで、最終的には拳で殴り合う羽目になっちゃったし。もうちょっと使い勝手の良い技術(もの)を考えないとダメだわ」

『へぇー……すごい、やっぱ人間の欲望って限りが無いんすねぇ』

「どういう意味?」

 

 視線斬り。魔力斬り。あと《幻想形態》。

 俺の手札で使いやすい物はこの3つだけだ。この三種の神器を対策されてしまうと、ちょっと、まあ、もう対戦相手を絶対に殺すしかなくなってしまう。

 

「普段使いできる便利な技が、西京さんには全部対策されちゃったからさあ。破軍学園のコーチらしいし、対策法を共有されたら絶対困るじゃん?」

 

 なので、今こそ新技開発の時なのだ。

 努力や鍛錬というのは俺が最も忌み嫌う概念だが、"仕事に支障をきたすかもしれない"となれば、流石に多少は頑張る。

 

 国防やぞ国防。いくら何でも、面倒くささが人命を上回る事は無い。

 

『いや、学生騎士を高く見積もりすぎな気が……そもそも、月影総理は最悪の場合、恐らく殺人さえ許容しうる……いや、いやいや。い……良い事っすね、先輩!! 仕事熱心なのは評価点高いっすよ! 総理の覚えがめでたくなるっす!』

「お、でしょ? 取りあえず西京さんとの戦いで思いついた事があるからさぁ。今ちょうど暇だし試してみようかなって」

 

 まず間違いなく出来ると思っているが、練習しておくに越したことは無いからな。

 

『……うーん……魔剣の取り回しがどんどん向上していく……。これ、コレに慣れたら慣れたで絶対別の問題が発生する奴っすよねぇ。政治家として劣化しそう……』

「桃井?」

『あ、いえいえ。ちなみに先輩、その新技ってアレっすか? 西京さんとの戦いで見せた、あの伐刀絶技関連?』

「あー……いや、アレとはまた別の奴」

 

 破軍襲撃で俺が見せた伐刀絶技は、当たり前だがその後月影総理から滅茶苦茶突っ込まれた。

 『因果干渉系無効化(デリクトデューティー)のちょっとした応用です』と誤魔化しているが、正直声が震えるわ眼を合わせられないわで、誤魔化せているとは夢にも思えない。

 

 だが、事情が事情。生まれてこの方、ずっと秘匿している伐刀絶技だ。

 本当の事を伝えるには、まだ総理との信頼度が足りなかった。申し訳ないが。

 

 絆ポイントをLv.5まで上げて、マテリアルを閲覧してくれ!

 

「まあ、まだ思い付きの段階だし。全然試合で使わない可能性もあるからさ。観戦のちょっとしたお楽しみにしておいてくれ」

『無理~~~。一応確認っすけど、観客とかは巻き込まない系っすよね? 湾岸ドームが更地になったりしないっすよね? 暁学園は別に稀代の虐殺者として名を残したい訳じゃないんすから、その辺り一応頭に入れて貰わないと、マジで国民向けのイメージ戦略に苦労するんすからね?』

「まぁまぁ。大丈夫大丈夫、マジで対人向けだから」

 

 怒涛の勢いで質問を繰り出して来る桃井。これ、こんだけ引っ張って使う機会無くて終わったら逆に恥ずかしい奴だな……。

 

『頼むっすよー。先輩、一般向けには"寒門出の成り上がりサクセスストーリー"として広報されてるんすから』

「それ恥ずかしいからやめてほしいんだよな……俺のお母さんに取材が来たんだぞ、『七星剣王を育てた母の教育術!』みたいな感じで。(なん)もねぇよ、未だに伐刀者(ブレイザー)の事、"伐倒者"って誤字してライン送ってくんのに」

『あっはははは。いやー、先輩の人格形成には一役買ってる気がするっすけどねぇ』

 

 話しながら、霊装の《自在天(じざいてん)》を出して魔力を形成する。

 捏ねて、混ぜて、動かして、ぐん、と回して……。

 

 ……うん。普通に出来るなこれ。

 

 思いついたら案外簡単というか、発想の問題だったな。コロンブスの卵的な感じ。

 そのまま数度試して、なんか不安だったのでもう数回試してみる。全て成功。

 

「あ、終わった」

『ん? 何がっすかー?』

「新技開発。やってみたら普通に出来た。ミスりようも無いし、特訓終了で良いわこれ」

『えぇ……?』

 

 電話の奥で桃井が困惑する気配。

 あ。しまったな、言わなきゃ良かった。

 

「ご、ごめん……。なんか『新技開発するぞ!』とか意気込んでたのに……イキったつもりは無いんだ、ただやってみたら案外簡単に出来ただけで……」

 

 生まれて初めて、同級生の女子と電話で長話しているのだ。

 女子に"凄い"と思われたい浅はかな欲求、恰好(かっこう)を付けたい俺の醜い欲が出て来てしまった。

 

 桃井からしたら普通に唐突というか、会話の流れが意味不明だったはず。

 こんなにさっさと終わるなら"新技開発するぞ!" とか言わなきゃ良かったし、もう言っちゃったなら成功出来ても黙っておくべきだった。意外にも簡単に終わったから、つい口を突いて出てしまって……。

 

『……いや、まぁ……もう、それならこっちから言える事は何も無いっすけど……凄すぎて。と、取り敢えず、人死にが大量に出るような奴じゃないんすよね?』

「大丈夫大丈夫。結構地味な技だから」

『その軽さが逆に不安を煽るっすね~……。まあ、それなら良いっすよ。何だかんだ、こと戦闘に関しては先輩はピカイチなんで。信頼してるっすよ』

「オヒ、あ、ありがとう……」

 

 やめろ!!!!! 俺は人に褒められ慣れて無いんだ!!!!!!!!!!

 

『ん~~~? 今なんか変な声が聞こえたっすね~?』

「か、堪忍してください桃井様……」

『こんなもんでいちいち動揺してたら今後がキツいっすよー? 将来が心配っすねぇ。優勝したら褒め殺しにしてやるから覚悟しとけっす』

「へへ……えっへへ……」

 

 余裕たっぷりにそうからかってくる桃井に、笑いとも媚び売りともつかぬモニョモニョした声を返す。からかうなよだからさぁ!!!!!!!! そうやって純情な男子を何人告白させてきた!???!? 吐かんかい!!!!!!!!!!!!

 

『ま、とにかく。先輩の《七星剣武祭》優勝、めっちゃ応援してるっすからねー!』

「うす……」

 

 自慢にさえなっていない、良く分からない何かをかましてきた男に対しこの言葉。

 桃井の気遣いが心に染み渡るぜ。

 

 これ、《七星剣武祭》優勝できなかったらめっちゃ凹むだろうな……。頑張ろう。

 

『じゃ、また明後日、本番でお会いしましょうっす~!』

「はい、はーい……と」

  

 電話を切り、配られたトーナメント表を見つめる。

 なんとはなしに、作為らしき物を感じなくもない組み合わせである。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 暁学園、トーナメントの左上に偏り過ぎ問題。

 

「……絶対、どこかで暁生徒とぶつかっちゃうよなぁ」

 

 一応、事前の想定では暁同士がぶつかった際は優勝の見込みが高い方へ勝ちを譲る事となっている。そのため、前年度の《七星剣王》である俺は、どの暁生徒にぶつかっても強く当たって後は流れで……つまり、八百長で勝てる筋書き(シナリオ)ではある。

 

 しかし、最近学習したが、八百長とは兎に角バレやすいもの(東堂会長参照)。俺の演技力は言わずもがなだが、他の暁生徒だって上手く負けてくれるかは怪しい物だ。

 

「王馬と……あと、紫乃宮かな。トーナメントで当たりそうなのは。憂鬱~」

 

 紫乃宮天音。異能、《過剰なる女神の寵愛(ネームレスグローリー)》。

 『願ったことが叶う』というとんでもない能力の持ち主だ。

 

 彼がいるならもっとトーナメント表も上手く行きそうな物だが、効果範囲に限りがあるとかだろうか。もしくは、この組み合わせが何だかんだで最も成功しやすいとか。総理が紫乃宮以外の戦力を引き入れている事を考えると、恐らく前者なのだろうが。

 

 何故かめっちゃくちゃ嫌われてたから、俺への嫌がらせで暁学園を巻き込んだ自爆を敢行した可能性もある。これに関しては本当になぜ……? 因果干渉系は俺に効きが悪いが、それでもなんか運が悪くなった気がして憂鬱だ。

 

 

「えーと……加我恋司さん、王馬、ステラ・ヴァーミリオン、紫乃宮、諸星さん……って感じかな? 俺の対戦相手は」

 

 

 トーナメント表を見ながら、何となく対戦相手の見当をつける。

 《浪速の星》諸星雄大さんは去年戦ったことのある学生騎士だ。『魔力破壊』を体現する概念干渉系能力者で、無効化系(キャンセラー)としてほぼ最高峰に位置する異能の持ち主。

 

 去年の決勝戦が諸星さん相手で、結構白熱した戦いになった。

 攻撃を捌いたり避けたりした後、《幻想形態》にした《自在天》の軌跡を沿うように視線で斬ったのだ。TVの視聴率はかなり良かったらしい。

 あれをもう一回やって盛り上げた後に『暁学園』の意義を改めてアピール出来たら、なかなか国民受けも良くなりそうだ。

 

 となると、結構相手の技を受けた方が見栄えが良いのか? プロレスのように、ちょっとずつ手札を出し惜しみしながら切っていけば、『暁学園』の強さを観客に見せつけられるかも―――。

 

 

「―――いや」

 

 

 ……などと考えた所で、ふと我に返る。

 これはダメだな。散々色んな人に言われておきながら、また『手加減』をしようとしていた。

 

「違うな。負けるのが一番論外なんだよ」

 

 見栄えのいい試合をしたいとか、そんな事にかまけて負けるのが一番最悪だ。

 相手を無駄に舐めていた。もしその結果、足をすくわれたら目も当てられない。

 

 いくら試合がヒエッヒエになろうが、視線斬りも魔力斬りも躊躇なく使う。使い勝手の良い新技は幾つか開発したが、それが出せなくたって別に構いやしないのだ。

 

 どんな塩試合だろうが、勝てればいい。

 

 

 

 最悪の最悪、本当にどうしようもなくなったら。

 最後の手段として、《選別する楽園(レマ・サバクタニ)》も解禁しよう。

 

 

 

 ほんっとうに嫌だが……選抜戦からずっと、《実像形態》の使用許可は出されていたのだ。

 手加減するなと色んな人から散々に言われてきたし、何より、俺の個人的な心情で仕事にマイナスの影響を与えるのは人として最低だ。

 

 将来的に()()()()仕事もするのが魔導騎士だ、割り切ろう。

 

「……コンビニ行くか……」

 

 憂鬱な事を考えてストレスが溜まった。甘いものが食べたい。

 というか、よく考えたら夕食もまだ食べれていなかった。未だにパーティーは続いているらしく、最上階のレセプションルームでは学生騎士たちが楽しそうに騒いでいる。で、出会いたくねぇ……。

 

 こっそりと誰にも見つからないようにコンビニへ行き、俺は少し惨めな気持ちで部屋に戻ったのだった。パーティー料理だけは食べたかったぜ。

 

 

 

 その後。

 

 

 

 当たり前といえば当たり前だが、特に何もイベントは起こらなかった。

 俺は2日間ずっと部屋でゲームをしていたが、誰も訪ねてくるわけも無く、偶然誰かと出会うみたいなハプニングも一切無かった。

 

 なんか……ある所にはあったらしいね。そういうイベントが。

 

 桃井から聞いたよ。

 

 王馬と黒鉄 (先に出会った影響でこっちを黒鉄と呼んでしまう。いまさら一輝とか下の名前で呼べねぇ……)が出会って一揉めしたり、現地入りした多々良が破軍学園生徒に毒殺(!?)を仕掛けて、バレて一触即発になり、そこを《浪速の星》諸星雄大が通りがかって、騒動を収めたとか。そこから諸星さんと破軍生徒たちが仲良くなり、彼の経営するお好み焼き屋『一番星』に行くことになったとか。

 

 その後の事はさすがに桃井も知らないらしいが、きっと仲良くなったのだろう。諸星さんが昔大怪我をして一度は引退した話(結構有名だ)とかをして、互いに『負けへんで』『こっちこそ』みたいな会話をしたのだろう。

 

 

 俺には、特にそういうイベントは一切なかった。

 Pokemon Uniteでマスターボール(ランク)になって、俺の休日は終わった。

 

 

 別に、他所(よそ)がどうしてようが俺には関係ないはずで。

 俺としては極めて充実した休日だったはずなのだが。

 

 "友人が多くて性格も良いイケメン"という想像の埒外にある生物(黒鉄)に、思わず畏怖を抱いてしまうのも仕方の無い事だろう。黒鉄のイベント力というかバイタリティというか、コミュニケーションを一切物怖じしない力が凄い。俺がその立場だったら絶対『一番星』とか行かない。気まずいし。

 

 黒鉄、外交官とかで大成しそうだよな。というか、ベンチャー起業しても政治家に立候補しても、大抵の道で成功しそう。黒鉄(コイツ)が伐刀者やってるのって、実は日本の損失なんじゃないか?

 

 とにかく。

 

 

 そんな訳で(つつが)なく日々は過ぎ、《七星剣武祭》当日となった。

 

 

『先輩起きてるっすか~! ちゃんと早起きして準備しなきゃダメっすよー(スタンプ)』

 

 ポコン、という音と共にスマホの画面にLINEの通知が来る。 

 

「起きてるよ、と……これ、こっちもスタンプ送った方が良いのか……?」

 

 眩しい朝日を浴びながら、おっかなびっくりLINEを返す。

 何というか、《七星剣武祭》前後になってから桃井の距離の詰め方が凄い。他のゲーム部員に知られたら部が割れそうな気がする。いや、これくらいはギャル界隈では普通なのか? 分からん。

 

「……まあいいや。よし、行くか」

 

 一応TVに出るので、シャワーを浴び、髪をセットする等して (微差だが) 見だしなみを整え、部屋のドアを開ける。

 

 北斗七星の名を与えられた七つの学園。

 北海道『禄存学園』、東北地方『巨門学園』、北関東『貪狼学園』、南関東『破軍学園』、近畿中部地方『武曲学園』、中国四国地方『廉貞学園』、九州沖縄地方『文曲学園』。

 

 そしてそれを吞み込まんとする、夜明けを告げる新たなる学園。

 『暁学園』。

 

 参加選手は三十二人。

 トーナメント制、開催期間五日。

 

 

 ―――第六十二回《七星剣武祭》が、その幕を上げた。

 

 

 一回戦の相手は、《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)加我恋司(かがれんじ)

 相手にとって不足なし、というやつだ。

 




  
 甘木悠
【能力名】:《選別する楽園(レマ・サバクタニ)
【伐刀絶技】:《不可戒律(ノリ・メ・タンゲレ)》、《災禍・第一項(プラガ・プリマ)》、《絶滅領域(マイナーチェンジ版)》、etc
 
 
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