落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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第二十二話

 

 

 

 言うまでも無く、今年の《七星剣武祭》は波乱続きである。

 

 そもそも、大会の始まりからして異例だったのだ。

 【暁学園】の発足。現《七星剣王》甘木悠の電撃的移籍。

 《連盟》からの脱退か、残留か。国民の意見が真っ二つに割れる議題。《七星剣武祭》がその最終的な結論を下す場になった時点で、まず異例。

 

 第二回戦前に私闘を行い失格処分となった《風の剣帝》や、トーナメント表への違和感、《連盟》による《七星剣武祭》運営委員会の買収容疑など、今年の《七星剣武祭》は例年と比べてはるかに異常事態(イベント)が多い。

 

 日本国民全員が、大いなる運命のうねりを感じている。もはや、この大会は『学生最強の騎士』を決める戦いなどでは無いのだ。日本の行く末を占う場となった《七星剣武祭》を、国民中が固唾を呑んで見守っている。

 

 

 そして。

 観客たちにはもう一つ、全員が共有している"異例"が存在した。

 

 

 今年の《七星剣武祭》は、異様に()()()()()()()()()

 

 

「(おい、おいおいおいおい……!!)」

 

 ギィンギィン、と刃を弾く音が響く。

 怜悧な太刀筋が、何度も急所を正確に狙う。虎をモチーフにあしらった槍がそれを何とか捌くが、あまりの刃の鋭さと絶え間ない連撃に、徐々に体勢を崩されていく。

 

 激しい金属音が連続して弾け飛び、火花が視界を白く染める。

 本来、武器の相性において刀と槍では、リーチの長い槍に圧倒的な分がある。槍の必殺の間合いを潜り抜けなければ、刀は決して届かない。それが武の鉄則であるはずだった。

 

 しかし、現実の光景は真逆だ。

 

 

「(コイツ、()()()()()()()()……!?)」

 

 

 《雷切》東堂刀華 対 《浪速の星》諸星雄大。

 《七星剣武祭》準々決勝第三試合は、圧倒的に《雷切》優位で進行していた。

 

 

「~~~ッ、《ほうき星》ッ!!」

「シッ……ッ!!」

 

 猛攻に耐え兼ね、諸星が肩を切り裂かれながら槍を繰り出す。肉を切らせて骨を断つ事を目的とした、乾坤一擲のカウンター。

 

 《ほうき星》は、身体に染み込ませた反射によって突きの途中で軌道を変え、槍の軌道がグニャリと曲がったように錯覚させる技だ。並の剣士であれば、防御の死角を突かれ間違いなく貫かれている。

 

 だがそれを、《雷切》東堂刀華は容易く避ける。僅かに首を傾けるようにして皮一枚で躱し、すれ違いざまの更なる追撃が諸星の身体に浅からぬ裂傷を刻む。振り返った諸星が、攻めを継続させようと槍を振りかぶるが―――。

 

「―――《雷鷗(らいおう)》」

「ッ、《暴喰(タイガーバイト)》ォ!!」

 

 翼を広げた鳥のように疾駆する、金色の雷。それを、諸星が繰り出す虎型の魔力が食い破る。《魔力破壊》を司る諸星の異能は、魔術戦においてほぼ無敵だ。東堂刀華の魔術が彼に傷を負わせる事は無い。

 

 しかし。魔術を構築する一瞬の隙で、既に東堂刀華は体勢を整えていた。

 攻守は再び入れ替わり、諸星がひたすらに攻撃を耐え凌ぐターンがまたやって来てしまう。

 

「(……クソ、これや……!! )」

 

 内心、諸星雄大はそう歯噛みする。

 試合開始直後からずっと、戦いのリズムを思うように掴めていない。《雷切》東堂刀華が時折挟んでくるこのような魔術によって、《浪速の星》諸星雄大はことごとくペースを崩されていた。

 

 諸星雄大の魔力は、他の伐刀者による魔術を"捕食"する。彼自身の異能により、そのような性質を帯びているのだ。無効化(キャンセラー)系能力の極北、《暴喰(タイガーバイト)》。魔術戦において一方的な優位を築けるはずの伐刀絶技。

 

 それが、東堂刀華の手によって覆されている。

 

 相性的に絶対的な優位にあるはずの諸星が、東堂刀華によって押されているという現状。

 それが一体、何を意味するのか。

 

「(『雷を生成して→射出する』っちゅう二工程(ダブルアクション)がある東堂に対し、ワイは『魔力を放出する』だけの一工程(シングルアクション)……!! なのに、東堂の方が出が早い上に、隙も短い!! つまり、それは―――!)」

「―――《雷鷗(らいおう)》」

「グぉおおおおぉおぉお……ッ!!」

 

 

 つまりそれは、相性を無視するほどの圧倒的な()()()が、両者の間に存在するという事だ。

 

 下段からの斬り上げが諸星の槍を大きく弾き飛ばし、防御の要である《虎王(とらおう)》が一瞬宙を泳ぐ。

 ついに生まれてしまった致命的な死角。迎撃の術を失った諸星のみぞおちに、東堂が無慈悲に放った雷がクリーンヒットした。

 

 有り得ない事態に、客席の《浪速の星》ファンからは悲鳴が上がる。

 

「(魔術も、剣術も……ッ!! およそ全てが、ビデオで分析した《雷切》とはかけ離れとる……ッ!! 戦闘論理もや!! 容赦なく有利(アドバンテージ)を稼いでくるこの()()()は、東堂刀華の物と言うより、むしろ《落第騎士(ワーストワン)》や《深海の魔女(ローレライ)》のソレに近い……ッ!!)」

 

 諸星雄大は超一流の伐刀者だ。技術、精神、肉体。その全てが円熟(えんじゅく)の極みにある、異なる世界においては《七星剣王》となっていたはずの男。追い詰められながらも、その思考は止まることなく敵を分析し続けている。

 

 全身を《暴喰》の魔力で覆えば、東堂刀華の魔術など恐れるに値しないはずだった。しかし、そうすれば魔力消費が激しく、長期戦に持ち込まれれば負けてしまう。それを匂わされた時点で、諸星は強制的に読み合いの場へと引きずり込まれたのだ。

 

 相手の手札を剥ぎ、そしてこちらの有利は何度でも活用する。一年前は確実に無かったはずの、戦略で絡めとる手練手管。それを、《雷切》東堂刀華は新たに習得していた。

 

 魔術の直撃(クリーンヒット)。雷撃によって筋肉が麻痺し、諸星の身体がぐらりとゆらぎ―――そして、踏みとどまる。

 

 

「……ッ、やけど、なァ……! ワイは、負けられへんのや……ッッ!!」

 

 

 (かし)いだ身体を強靭な体幹によって立て直し、諸星が血に塗れながらも眼光を輝かせた。

 彼には、この大会に懸ける並々ならぬ想いがあった。彼の妹、諸星小梅。彼女に弱い自分を見せたくない。騎士としての喜びを分かち合いたい。その執念が、消えそうになる彼の意識を繋ぎとめているのだ。

 

 しかし。

 闘志を燃やし、再び槍を構え直そうとした諸星の視界から、既に東堂刀華は消えていた。

 

 

「……流石です、諸星さん。あなたなら、持ちこたえると信じていました」

 

 

 刹那、諸星は周囲から音が消えたように錯覚した。

 諸星の間合いの(うち)。水を打ったように静まり返る中、東堂の言葉だけがやけに響く。

 

 彼の動きが完全に止まったその間に、東堂刀華は()()していた。腰を深く落とした彼女が、己の刀にそっと手を添える。

 

 東堂刀華の代名詞。

 降り落ちる雷すらも切り裂く、神速の居合。

 《天譴》以外誰一人として逃れられなかった必殺の刃が、抜き放たれる。

 

 

「―――《雷切》」

 

 

 キン、と涼やかな音色が鳴った。そして、それが全てだった。

 袈裟懸けに深く斬られた諸星は、『……負けんなや』と最後にこぼして、地面へと崩れ落ちた。

 

「……ありがとうございます、諸星さん」

 

 最後に一礼し、東堂刀華は(きびす)を返してリングを降りる。

 

 《七星剣武祭》準々決勝、第三試合。《雷切》東堂刀華の勝利。

 一度たりとも主導権を譲らぬ、"強い"勝ち方であった。

 

 

 ◆

 

 

 続く第四試合は《万華鏡(カレイドスコープ)》サラ・ブラッドリリーが問題なく相手を下し、準決勝へ危なげなく進出。この時点で、今年度《七星剣武祭》のベスト4は決定した。

 

 《天譴》甘木悠。

 《無冠の剣王(アナザーワン)》黒鉄一輝。

 《雷切》東堂刀華。

 《万華鏡(カレイドスコープ)》サラ・ブラッドリリー。

 

 暁学園と破軍学園の生徒が、それぞれ二名ずつ。

 国民の間では反《連盟》運動が盛り上がっているが、それと破軍学園(これ)とは話が別。武断的な性格を持つこの世界の日本国民は、準決勝まで(のぼ)り詰めた彼ら全員に声援と期待を送っている。

 

 《天譴》 対 《無冠の剣王(アナザーワン)》。

 《雷切》 対 《万華鏡(カレイドスコープ)》。

 

 国民全員が、彼らの試合を息を呑んで待ち望んでいた。

 

 

 ◆

 

 

 ―――日本中が熱狂の渦に包まれているであろう、そんな夜。

 明日の準決勝を控えた俺は、自室で頭を抱えながら書類を読み込んでいた。

 

「うーむむむ。なんか《七星剣武祭》も複雑になって来たなあ」

 

 自室で、ぺらぺらと資料を(めく)りながら呟く。

 月影総理から渡された、今回の《七星剣武祭》で起こり得る事態について詳細に記された書類だ。誰を殺して誰を殺しちゃダメかとか、《連盟》が動くとしたらどう動くかとか、そういう予測が載せられている。当然部外秘。

 

「め、面倒~~~~~~~~……」

 

 桃井も言ってたけど、政治の世界ってマジで伏魔殿なんだな……。月影総理が可能な限り簡潔に纏めてくれているとは思うのだが、それでも読んでいると頭痛がしてくる。利害関係が複雑すぎて訳分からんし、見ているだけで気が滅入(めい)る。嫌な気分になる~(犬のかがやき)。

 

「……………」

 

 ……でも、あれだな……とはいえ、『じゃあ政治力を鍛えなきゃ』って気は一切起きないな……(カス)。

 

「人間、適材適所って言うかァ……置かれた場所で咲きなさいってどっかの本で読んだし……」

 

 これがまさに、以前言っていた『才能の無い事に取り組もうなんて欠片も思えない』という奴である。簡単に出来る事しかやりたくない。月影総理や桃井など、そういう頭の良い組の人の言う事に従っていた方が100倍楽だし。

 

 文民統制(シビリアンコントロール)万歳。へっへへ、アッシは国家さまの忠実な犬でヤンス。

 

 資料を鍵付きの棚にしまう。もう諦めよう、こういう難しい話は。内容はちゃんと頭に入れたし、後は桃井か総理の言う事を聞いてればいいでしょ。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応してくれるはずでヤンス。

 

「黒鉄の試合記録でも見るか……次の試合相手だし」

 

 そう。なんと黒鉄はあの紫乃宮を下し、準決勝へ進出しているのだ。

 ありえん。凄すぎ。試合見てた時、『マジで!?』って思わず声が漏れちゃったもんな。なんか紫乃宮にめちゃくちゃ怖がられていた事にショックを受けていると、いつの間にか試合は決着していた。

 

 黒鉄に勝てる要素なんか一ミリも無かったと思うんだが、なんか気づいたら勝ってたのだ。なぜ……? いや本当に、どうやって……?紫乃宮に憑いてる女神さんの力があれば、心停止でも脳梗塞でも好きに起こせたと思うんだが。

 

 それにしても黒鉄、イケメンで、実家が太くて、才能抜群で、外国の皇女が彼女で、性格も良くて、更に本人も強いって……なんだコイツ、完璧超人すぎるだろ。長所で数え役満できそう。どれか一つ寄越(よこ)せよ(嫉妬)。

 

「うーん……あ、エーデルワイスさんの剣技(やつ)使ってる。あれ良いアイディアだよな……。他は……。うーん……? ……何だ……? ()()()()()()()()()()()、黒鉄って……?」

 

 準決勝まで勝ち進み、紫乃宮を下した時点で黒鉄は紛れも無い強者だ。しかし、じゃあ"どこが強いのか"と言われると、途端に何も出て来なくなる。

 

 剣術が上手い。身体能力が高い。魔力制御能力が高い。要素は幾らでも思い浮かぶ。

 しかし。では、それをひたすらに列挙して繋ぎ合わせれば、黒鉄一輝という伐刀者の強さが見えてくるのか。網羅した各要素を全て上回れば、黒鉄一輝に勝てるのか。そうではない気がする。

 

 魔力量Fランクの《落第騎士(ワーストワン)》が、たかが"それだけ"で準決勝まで上り詰められる訳が無い。

 彼の試合は全て、圧倒的格上との対峙の連続だったはずなのだ。単なる出力(スペック)では、黒鉄を評価することは出来ない。

 

「………………」

 

 『分からない』事自体が怖いな。"理解"とは、人間が持つ最も強い力だと聞いたことがある。それが通じない相手には、常に『万が一』の危険が伴う。どう盤面をひっくり返して来るか分からないのだから。

 

「……うーん……」

 

 対策を演算(シミュレート)しながら真剣に黒鉄の試合を観ていると、ふとコンコンというノックの音が響いた。

 来客? 俺に……? 珍しい事もあるものだとドアを開き―――硬直する。

 

 

「ど、どうも……甘木さん。お、お邪魔してもいいですか……?」

「美少女二人のカチコミっすよ~。おらっ、10分くらい待ってあげるから部屋を整えるっす」

 

 

 桃井新香。そして東堂刀華。

 二人が、パジャマ姿で廊下に立っていた。 

 

「…………………」

 

 バタン、とドアを閉じ、そしてまた開ける。

 

「いや、一回閉じたらいなくなってるとか無いっすから」

「え、は!? ななななな、なぜ桃井と東堂会長がここに!?」

「す、すみません……廊下で、ちょうど桃井さんと会いまして……目的地は同じだったようなので、なら一緒に行こうという事になって……」

「いや、一緒に居る理由を聞いてるわけじゃなくて……!」

「まあまあまあまあ。そこら辺は中で説明するんで。とりあえず入れてくださいよ~。少しの間外で待ってますから」

「いつにも増して強引だな桃井……!」

 

 部屋には見られちゃマズい物が沢山ある(暁学園関係)から、片付けるのは片付けるけども……! なんか、それを前提に"二人を部屋に入れる事"自体は吞ませようとしてないか!?

 

 夜に女子二人と同じ部屋にいるなんて俺の心が持たない。ここは文明的に、三人のグループ通話でスマホ越しに話しましょう……と、お茶を濁そうとした時。会長が、ぺこりと頭を下げた。

 

「……突然押しかけてしまい、申し訳ありません。ご迷惑でしたら、どうぞ仰ってください」

「……………」

 

 そう(かしこ)まられると、こちらとしても困ってしまう。

 なぜなら、別に迷惑でも何でもないからだ。女子が自分の部屋に来てくれるの、シンプルに嬉しい。ここからとんでもない無礼をやらかさないか、自分が怖いだけで。

 

「美少女二人が部屋に来てくれてるのに、迷惑な訳無いじゃないっすか。迷惑そうなのは見かけだけで、内心喜んでるっすよ。ね、先輩?」

「桃井、お前な……人をあまり見くびるなよ。合ってるけど」

「合ってるんじゃないすか」

 

 そう言って、俺はドアを閉める。

 もちろん、片付けのためだ。暁学園関連のあれやこれやがあるからな。普通に危ない。

 

「……5分で片付けるので、申し訳ないですが少し待っていてください」

「……! は、はい! ありがとうございます、甘木さん!」

 

 パァッと顔を輝かせ、東堂会長はそう再び頭を下げたのだった。

 

 …………ところで。

 ドアに背を預け、二人の姿を回想する。

 

 東堂会長は、もこもことしたピンクの可愛らしいルームウェア。

 桃井はサテン生地のキャミソールの上に、ぶかっとしたパーカーを羽織っていた。

 

 なんか……なんか、二人とも露出がダメじゃないか!?!??!?!!?

 桃井は言わずもがな、肩とか二の腕とかの素肌が見えてたし、東堂会長も何だアレ!? ショートパンツ着て男の部屋に来るんじゃねぇよ!!!!!

 

「…………オエッ………」

 

 緊張で吐きそう。だから才能が無い事に取り組むのって嫌いなんですよ。こう……怖い!! 人生のステージが上がりすぎると、失敗した時が怖い! 高所恐怖症に似た恐怖!! 今すぐ俺にコミュ(りょく)の才能を寄越せ、黒鉄……!! お願いします! 土下座しますから!! 俺の産廃伐刀絶技(ノウブルアーツ)と交換でどうだ!? (シャークトレード)

 

 

 ◆

 

 

 現在の部屋配置図を説明しよう!!

 宿舎備えつけの椅子に座っている俺!! マットの敷かれた床に座り込んでいる東堂会長!! ベッドに腰かけている桃井!! 以上だ!!

 

「…………………」

「…………………」

「…………………」

 

 い、以上だ!!(震え声)

 二人を部屋に招き入れて数時間が経過した。いや、実際には数十秒のはずなのだが、なんかここだけ時空の流れがおかしい。

 

 だーれも喋らねぇでやんの。終わりです。終わり。全部。

 

「……あ「あの」あ、先「あ、お先」に「どうぞ……」、あ……」

 

 俺と東堂会長の声が重なり、互いに何も言えず再び沈黙。

 終わりです!!!!!!!!! 全部!!!!!!!!!!!!

 出来ないんだ……っ、"コミュニケーション"! (ハチワレ) 人間レベルがまだまだ足りてなかった……ってコト!?

 

 三分の二が置き物と化した部屋の中で、救世主(桃井)がパンと手を打ち鳴らした。

 

「……気まずいッ!!! 何なんすか、全員思春期っすか!? いや思春期っすけど!! いつまでもモジモジしてんじゃねーっすよ!! おらっ、先輩!! ホストとして客人をもてなすっす! ジュースとかお菓子は持って来たから、ローテーブルとコップを持ってくるんすよ!!」

「は、はい!!」

 

 弾かれたように立ち上がり、宿舎備え付けの戸棚へと向かう。折り畳みのローテーブルが、確かこのあたりに……。

 

「ど、どこだっけ!?」

「下から二段目! あとその右扉にある紙コップも持ってきてくださいっす!」

「ありがと!!」

 

 バタバタとテーブルを持って戻ってくると、桃井がテキパキとその上にお菓子やジュースのペットボトルを並べていく。桃井……お前がナンバーワンだ……。

 

「ふぅ……まあまあ、先輩もジュースどうぞ。ホントはお酒だったら良かったんすけど、流石に明日試合の人には呑ませられないっすからねぇ」

「……前から思ってたけど、桃井って既に飲酒経験あるよな? それも結構呑んでるだろ」

「ふふん、伐刀者の成人年齢は15歳からっすよ。私の飲酒は法に(ゆる)されてるっす」

 

 ゴクリとジュースを飲みながら、桃井がうっすらドヤ顔を浮かべてそう語る。何だろうな、将来安居酒屋でビールジョッキを飲み干す桃井の姿が容易に想像できる。いや桃井の器量(スペック)的にはどんな高級店でもバーでも通える稼ぎがあるだろうけど、それはそれとして。

 

「ささ、会長もどうぞどうぞ。といっても、会長が持ってきてくれた奴っすけど」

「あ、ありがとうございます……。あ、あの……」

 

 床に体育座りをしたまま(青少年の何かが危ない)、両手でコップを受け取った東堂会長。彼女は、少し言葉に詰まった後、こう切り出した。

 

 

「あの……お二人は、お付き合いされているんですか……?」

 

 

 は?

 

「ゴフッ……!げほっ、ゴホッッッッ!!! な、なんて!? なぜそんな事を!?」

「だ、だって……そもそも桃井さんは、甘木さんを追って暁学園に入学されたんですよね……? 先程も、甘木さんの部屋なのに桃井さんの方が詳しかったですし……態度も仲良さげというか、気安い感じですし……」

「いや、それにはそれぞれ理由があって……」

 

 桃井が転入したのは、俺の話術がカスだったので【暁計画】について全部バレたせい。

 ローテーブルについても理由がある。王馬さんへの対応で話し合っていた時、桃井は一度俺の部屋に入っている。その時に物の配置を覚えたのだろう。桃井ならその程度の事は出来る。

 

 気安い態度については、えー……まあ……。それに関しては、特に何の理由も無いが……。

 

 どう弁解しようか脳内で言葉を練っていると、ベッドから立ち上がった桃井が俺の背後へと回り込み、椅子の背もたれごと俺の首元に手を回した。ふわりとした甘い匂い。

 

「えっへへへ……いやー、分かる人には分かっちゃうもんっすねぇ? ねー、先輩?」

は!?

「……では、やはり……」

 

 こ、コイツ……恐怖心というものが無いのか!? ブレーキぶっ壊れてんのか!? 

 神経が何本千切れてたら、この状況で『ここで話に乗っかったらウケるやろなぁ……』って思える!?

 

「んふふ……そこのベッド、選手用に結構良いの備え付けてるっすよね~。なんで選手じゃない私がその寝心地を知っているかは……まぁ、言えないっすけど~?」

「そんな……! 甘木さん、貴方、《七星剣武祭》中に一体何を……!?」

「何もしてません!! 無罪! 無罪です!! 桃井も誤解されるような言い回しするんじゃねぇよ、メンタル限界になったお前が倒れ込んだだけだろうが!!」

 

 首元に回された手を引き剥がしながら、慌ててそう弁解する。

 うわっ、手ちっちゃ。肌柔らかっ。何の引っ掛かりもなくすべすべしている。男女でこんなに違うものか? ゴッツゴツだぞ俺の手。素肌だから体温が良く分かるし、青少年の何かが危ない。

 

 一度桃井とは真剣に話し合うべきかもしれない。

 思春期の男子高校生をからかうという行為が、いかに罪深いか。その理解が足りないから、このような凶行に及んでしまっているのだろう。まだコイツを裁く法が日本に存在しないのだ。

 

「……ベッドに横になった事は、否定しないんですか……?」

「オ゛ッ……いやそれも、王馬さんの……いやどこまで言って良いか分からないんですけど、とにかく色々あってェ……」

「えー? あんなに激しい夜を過ごしたのに、誤魔化さないで欲しいっす」

「そうだね王馬さんとの戦闘が激しかったね!! そろそろ黙っておこうか!! なッ!!」

「ん~……? 今は嬉しくないんすか、先輩ー。ほらほら、良い匂いとかしてこないっすか~?」

「あまり人の事をみくびるなよ桃井!! 嬉しいけども!!!」

「うーん、嘘を吐かないのは先輩の美徳っすね……」

 

 このままでは俺の風評が著しく悪化してしまう。"選手宿舎に女を連れ込むカス野郎"と思われてしまう。許してください、俺は普通に東堂会長のことを尊敬してるんです。

 

 そして、数分後。

 

「……すみません、取り乱しました」

「いえ……こちらこそ、変な誤解をしてしまい、申し訳ありません……」

「申し訳ありませんでしたっす……」

 

 三者三様に謝罪。

 何とか誤解が解かれ、やっと本題に入る事が出来る雰囲気になってきた。

 

「……それで。東堂会長は、どうして此処に?」

 

 その言葉に、東堂会長は一瞬だけビクリと身体を震わせる。

 

「あ、私、席外した方が良いっすか?」

「……いえ。桃井さんも、ぜひ聞いてください」

 

 先程までのワタワタと慌てていた雰囲気は、完全に霧散していた。《雷切》の異名に相応しい気迫を放つ東堂会長に当てられ、その場の空気がピンと張り詰める。

 

 彼女は、席を立とうとする桃井を引き留め。 

 正座へと床に座り直し、深々と頭を下げた。

 

 

「―――用件は二つ。まず第一は、()()です。貴方を……『甘木悠』を、今まで(ろく)に見ていなかった事。選抜試合(セレクトマッチ)で一度伝えましたが、改めて謝罪させてください。

 ……本当に、申し訳ありませんでした」

 

 

はい!??!!?!?

 

 すっとんきょうな声が出た。

 しゃ、謝罪……? なぜ……? なんかステラさんとかがそれらしい事を言っていた気がするが、本当になぜ!? 東堂会長に何一つ嫌な事をされた覚えなんて無いぞ!

 

「あ、頭を上げてください東堂会長。な、は、ええ? 何も気にしてないです、何も怒ってないです!! やめてくださいそんな事!!」

「……謝罪を、受け入れてくださいますか」

「受け入れます! 一切覚えが無いですが!!」

 

 慌てて東堂会長の肩に手を添え、起き上がらせる。 

 どこをどう考えても、謝るなら俺だろ。試合で手抜きしたり、断頭したり、後遺症を残してしまったり、遂には彼女が通う学園を木っ端みじんにしちゃったんだぞ。カス野郎にも程がある。いや、俺も一応事情はあったんだけど……!

 

「……ふふ、"会長"。学園が変わっても、会長と呼んでくれるのですか?」

「え? ああ、なんかこの呼び方がしっくりきてて……すみません。不快でしたよね」

「いえ。嬉しいです」

 

 そう言って、彼女は柔らかく笑う。

 

 そしてそのまま、謝罪の理由について詳しく教えてくれた。

 

 破軍学園での俺の悪評。

 《七星剣王》にはあまりにも相応しくない、今は消えた《最も努力しなかった男》という侮辱的な異名。そして、それらに何の対策も施さなかった事。それどころか、己が《天譴》の排斥を助長する一因に期せずしてなってしまっていたと、震えた声でそう語るのだ。

 

「…………………」

 

 彼女が語る間、俺はずっと下手くそな笑みを浮かべていた。

 彼女の話を全て聞いて、きちんと理解した上で、『いや、別に東堂会長何も悪くないだろ……』しか感想が浮かばなかったからだ。この人、いくらなんでも良い人過ぎる。さっきまで「俺にも事情があってェ……」とか考えていた己が恥ずかしい。

 

 ふと、ベッドに大人しく座っている桃井を見る。

 東堂会長の真剣さを察して、口を挟まず壁役に徹しているのだろう。彼女もまた、表情の無い、真面目な顔で東堂会長を見つめていた。

 

「……あの、東堂会長は何一つ悪くないと思いますよ……? 学園一人一人の悪名に対処するなんて、そんなの生徒会の仕事じゃないですし。そんな事してたらキリが無いと言うか……」

「いえ。私は、そういう生徒会長で()りたいのです。学園一人一人、全ての支えとなれる、皆の誇りとなれる騎士に。……だからこそ。貴方を、そこから外してしまった事が。貴方に対してだけ、『生徒会長』として在れなかったことが。私には、どうしても許せないのです。……申し訳ありませんでした」

「……分かりました。貴女の心が少しでも軽くなるよう、ここで断言します。一切、心から、何も気にしていません。謝罪を受け取りました。これ以上は不要です」

 

 少しでも誠意が伝わるよう、心を込めてそう告げる。

 

 暁学園へと転校した俺だが、破軍学園で嫌いな人なんて居ない……あ、御祓副会長くらいだ。あの人はしょっちゅう俺に皮肉を言ってくるから嫌い。だが、それだけだ。その責任を東堂会長に問うなんて、考えた事も無い。

 

「……良かったです。肩の荷が下りました」

 

 そう語る彼女は、確かに言葉通りの清々しい顔をしていた。

 ……こんなに気にしてくれていたなら、此方(こちら)からも早くコンタクトを取るべきだったな。申し訳ないことをした。

 

 いや、そもそも。暁学園についての話を持ち込まれた時に彼女へ相談していれば。暁計画を(ことわ)り……はしないだろうが、別の手段を総理へ提案する等、また違う展開があったのかもしれない。彼女以上に、俺の不手際が大きいだろう。

 

「こちらこそ、申し訳ありませんでした。そんなに想っていてくれたのに、まるで気付かず……」

「……いえ。今、こうして話す事が出来ました。それだけで十分です」

 

 そう言って、互いに頭を下げ合う。

 別に、彼女と喧嘩した事など一度も無いが……それでも、もし"和解"と呼べる物が成立したとするなら。それはきっと、この瞬間を於いて他にないだろう。

 

「ありがとうございます、東堂会長。今日は、その為に来てくれたんですね」

「あ、……えーっと……それで、ですね……。用件は、もう一つありまして……」

 

 東堂会長が、フラフラと視線を左右に彷徨(さまよ)わせる。

 さっきまでとは打って変わった、弱々しい態度。そのまま彼女は、上目遣いでこう言った。

 

 

「……その……お互い、普通の生徒として……甘木さんと、一から、仲良くなりたいな、と……そう、思うんですが……」

ン゛ッ

 

 

 ちなみにもう一度説明すると、今の東堂会長はもこもことしたピンクのルームウェアを着ていて、胸元が大きく開いていたり、ショートパンツの丈が短すぎるせいで太ももがほぼ全て見えている。緊張からだろうか、彼女が時折身をよじるたび、開いた胸元がふわりと揺れる。

 

 そんな格好の美少女が、うるんだ瞳、かつ上目遣いで『仲良くなりたい』と言ってくるのだ。

 Q.さあ、果たして俺は一体何と言えるだろう。

 

「アエヘヘ、ッスネ……ヘヘヘ……イッヒヒ」

「甘木さん……?」

「エオユ」

 

 A.雑魚。

 

 脳内では『ええ。勿論、喜んで。光栄です、東堂会長』とか言ってるんだけどね。なんかこう、脳から声帯、そして舌に届くまでのどこかでエラーが発生してるというかね。なんなんですかねこれ? 俺だってワケを教えて欲しいですよ。俺だって被害者なんです。

 

「ッスー……や、俺も、仲良くなりたい、ッスね……」

「―――! ありがとうございます、甘木さん! で、ではですね……信頼できる文献に、『一緒に映画を見ると仲良くなる』と書いてありまして……!」

「お、良いっすね~。ステルスしてた私も、やっと輪の中に入れそうな話になって来たっす。折角ですし、自分もご同席していいっすか……?」

「もちろんです、桃井さん。それでですね、甘木さん……! 男性は、とにかく血が出るスプラッターを好むとこの本には書いてあったのですが……!」

査読(さどく)通ってなさそうな本ですね……」

 

 その後。

 東堂会長が持って来た『廃園となった遊園地でひとりでに動き出す着ぐるみの化物をマッチョが返り討ちにしていく映画』を見ながら、三人でお菓子を食べた。

 

「ヒエ~……」

「先輩って意外とホラー苦手っすか? この程度、先輩なら瞬殺だと思うんすけど」

「それとこれとは話が別だろ……ですよね、会長」

「は、はい……! ひゃッ……!」

「おお……おお……? なんか普通に主人公が勝ってるっすね……」

「ニコラスケイジって強いんだなぁ……」

 

 こう……ベッドの左右にそれぞれ桃井と東堂会長が座っているせいで、俺の手は妙に湿っていたが……それでも、映画自体の面白さもあって、普通に楽しい時間を過ごす事が出来たと思う。

 

 手に汗握る展開と、『ええ……?』と戸惑うようなシュールな絵面。

 無敵のマッチョ清掃員が着ぐるみの化け物たちを物理で全て破壊し尽くし、清々しい朝日と共に車で去っていくエンディングロールが流れる。ちょうど、時計の針は深夜へと差し掛かっていた。

 

「ふう……、面白かった……! あ、もうこんな時間ですね。長々と居座ってしまって、申し訳ありませんでした」

「戦術:ニコラスケイジみたいな映画だったっすね……確かに面白かったっす」

 

 東堂会長が、ハッとしたように立ち上がる。彼女に釣られ、桃井も大きく伸びをした。

 

「ふわぁ……あ、すみません。つい気が抜けちゃって」

 

 小さくあくびを漏らして口元を押さえた後、東堂会長が気恥ずかしそうにはにかむ。

 

「私、一足お先に戻らせていただきますね」

 

 気疲れしていたのか、そもそも早寝早起きなのか。彼女の顔には、ほんのりと眠そうな気配が漂っていた。もこもこパジャマで目をこする姿は、破壊力が極めて高い。

 

 東堂会長、なんとなく朝型のイメージがあるしな。まだ眠るには早い時間だと思うが(夜型)、彼女にとってはもうすぐ就寝時間なのだろう。

 

「いえ、俺も楽しかったです。会長は……じゃない。この呼び方も、もう変ですかね」

「ふふ、構いませんよ。もう口に馴染んでしまったのでしょう? 私としても、別に悪い気はしません」

 

 パタパタと帰り支度をしながら、東堂会長が鈴を転がしたように笑う。

 眠気も相まっての事だろうが、普段の彼女よりもずっと気安い様子だと思えた。今日で少し彼女と仲良くなれたのなら、俺としても嬉しい限りだ。

 

「では。おやすみなさい、甘木さん。明日の試合、お互い頑張りましょうね」

「はい、おやすみなさい」

 

 ペコリと頭を下げ、東堂会長は自分の部屋へと帰っていった。

 パタン、とドアが閉まる音が響き、足音が遠ざかっていく。

 

 背後の桃井が、少し崩れたキャミソールを直しながら口元に手を当てた。

 

「んー……じゃあ、私も帰るっすかねー。先輩も12時までには寝なきゃダメっすよー」

「え、ああ。……ん? あれ、桃井の用件は? なんかあったんじゃないのか?」

 

 ふと疑問に思ってそう聞いてみる。

 確か、東堂会長は『廊下でちょうど桃井と会った』と言っていた。つまり、桃井も何らかの用事があって俺の部屋を訪れていたんじゃないのか?

 

「え? ああいや、単に暇だったんで先輩の所に行こ~って思ってただけです。そしたらなんか、東堂会長が"一世一代の大勝負"みたいな顔で先輩の部屋の前をウロウロしてたっすから……面白くてつい声かけちゃって、そこからは強く当たって後は流れでって感じっす」

「相撲の八百長?」

「まあ、運が良かったっすね~。おかげでこんな面白イベントに立ち会えたっす」

 

 そう言いながら、桃井が廊下へと歩んでいく。

 

「お前のせいでだいぶ荒れたけどな」

「……? 記憶に無いっすね……。今日一日、嘘を()いた事なんて一度も無いっす」

「こいつ……」

 

 こいつ、生粋のトリックスターか? いや、序盤死ぬほど気まずかったから、結果的に俺にとっても桃井が居てくれて有難かったんだが。あのまま数分経過してたら再起不能になってた。

 

「まあいいや。居てくれて助かった面の方がたぶん多いし。ありがとな、桃井」

 

 そのまま見送ろうとすると、ドアの前で桃井が唐突に立ち止まる。

 

「ん、どうした?」

「……ね、先輩」

 

 こちらに背中を向けているため、桃井の顔は見えない。 

 その体勢のまま、桃井は軽い調子でこう聞いてきた。

 

「……先輩の中で、『一番仲のいい女の子』って誰っすか?」

「え゛え?」

「女の子……いや、範囲は"女性全体"にします。家族抜きで、一番仲のいい異性って誰になりますか?」

 

 思わぬ質問に、一瞬俺の思考が硬直する。

 いや声色(こわいろ)的に、桃井はあくまで雑談として聞いてきたんだと思うが……この質問って普通に良くないよな。なんで"仲のいい異性"がいる前提なんですか? (半ギレ) 聞かれた側に沈黙か嘘かの二択しかなくなる場合だってあるんだぞ。例えば一年前の俺とか。

 

 しかし、一番仲のいい異性ね……。これを本人に言うのは何とも気恥ずかしいが、しかし嘘を吐いてバレた時がもっと恥ずかしい。桃井なら見抜きそうだし。

 

「……まあ、えー……桃井になるんじゃないのか?」

 

 一番付き合い長いし。俺が敬語で喋らない異性って、マジで桃井だけだし。

 しかしこれを本人に直接言うってどう? あんま仲良し度とか数値化しない方が良いよ。

 

「んー……んふふ。そっすか」

「せめてもうちょっとリアクションしてくれ」

「ふふ、んーん。しっかり噛みしめさせてもらうっす……はい、噛みしめ完了~」

 

 そう言って、桃井が振り返る。いつものような、ニヤニヤとした笑みを浮かべて。

 

「私も、先輩が一番仲のいい異性っすよ」

「ヘオ」

「おお、新パターン。じゃ、おやすみなさいっす~!」

 

 そう言って、桃井は手を振りながら部屋を出ていった。

 ドアが閉まり、室内に完全なる静寂が訪れる。

 

「………ふぅ」

 

 夜型の俺としては、本来まだまだ寝る時間では無いのだが……今日はもう、なんか良いかという気がしてきている。凄く頑張ったよ、俺。人間5年生くらいには飛び級出来てるんじゃないか?

 

「……明日は、黒鉄との試合か。その次は……どうだろうな。サラさんが勝ってくれれば随分楽になるんだが、無理そうかな……」

 

 タブレットの中に入った試合映像を思い返し、そう呟く。

 

 去年の《七星剣武祭》で1回。決闘で3回。選抜試合(セレクトマッチ)で1回。

 合計で5回か、東堂会長と戦ったのは。そして恐らく明後日、俺が黒鉄に負けなければ、6()()()になる。サラさんには申し訳ないが。

 

 これだけ同じ相手と刃を交えるのは、初めての経験だ。奇妙な縁を感じる。

 

「不安だけど……まあ、精一杯頑張るか」

 

 部屋の明かりを消し、ベッドに寝転がる。会長や桃井が座っていた所からは出来る限り離れて。

 真っ暗闇の静寂の中。明日への期待と重圧だけが、確かに俺の胸の中で脈打っていた。

 

 

 

 

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