落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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第二十六話

 

 

 波乱続きの《七星剣武祭》も、いよいよ残すところあと一戦となった。

 

 《雷切》東堂刀華 対 《天譴》甘木悠。

 歴代トップクラスの激戦となるであろうこの試合に、全国から数えきれない程の人々が湾岸ドームへ押し寄せている。決勝戦は野外モニターが増設される事も相まって、ドーム周辺は既にお祭り騒ぎとなっていた。

 

「うひゃー、凄い人っすねぇ」

 

 パフォーマンスを始めた大道芸人や、地元の商工会の出店などを見下ろし、桃井新香は感嘆の息を漏らした。

 

 湾岸ドームから続く人の列は、恐ろしい事にそのまま最寄り駅まで繋がっている。TV特番の視聴率は試合開始前の段階で既に40%を超え、録画含めた最高視聴率は約80%以上に達すると予測されている。文字通り、国民全員が《七星剣武祭》に注目しているのだ。

 

「いやー、しかし……これ、先輩が暁学園に入っていなかったらと思うとゾッとするっすねぇ」

『確かにな。その場合、破軍学園生徒同士で決勝戦になってた訳か』

「ヤバヤバっす。暁計画、初手から失敗しちゃってたっすよ。暁学園(うち)、例年なら全員が優勝狙えるレベルの生徒たちだったと思うんすけどね~……ちょっと今年だけ選手のレベルおかしいっすよ」

 

 己の相棒であるイグアナと雑談しながら、桃井は柔らかなソファに身を預ける。

 既に有料観覧席 (例年より値段が跳ね上がっている)を確保しているため、時間に余裕があるのだ。長く人混みに居るとトラウマで吐きそうになるため、入場列や混雑をショートカットできる有料席の存在は桃井にとって有難い限りだった。

 

『……そう考えるとアレだな、暁学園の優勝は間接的に飼い主(桃井)のファインプレーでもあるな。 甘木を引き抜くよう、月影を説得したのはお前だろ?』

「え~? そういう事になっちゃうんスかね~。いや、私が何もしなくてもあの推し活おじさん(赤座守)が何とかして()じ込んでた気もするっすけど……」

『あいつは本当に何? (オス)が他の(オス)の強さに見惚れてファンになるとか意味わかんねぇぞ。負け犬って言うには、あまりにも眼がドス(ぐろ)くキラキラしてやがるし』

「さぁ……。多分、グアちゃんは知らなくていい事っすよ」

 

 魔剣に魅入られた小太りの男、赤座守(あかざまもる)を脳裏に思い浮かべ、桃井は遠い目をした。

 "政治家として劣化する"とはああいう事を言うのだ。嫌がらせに関しての嗅覚は一級品のままであるため、総理が(みずか)らあの男を切り捨てる事はそうそう無いだろうが……万が一《天譴》が敗北した時、現実を受け止めきれずそのまま何処かへ消えてしまうだろうという謎の確信があった。

 

「ま、本人が幸せそうなので良いんすよ。というかグアちゃん、さりげなく先輩が勝つ事を前提に喋ってるっすね。東堂会長だって超一流の伐刀者っすよ」

『いやいや。甘木なら勝つだろ。逆にどうやったら負けるんだ? 異星人(エイリアン)が攻めて来たらか? いや、それでも勝ちそうだな』

 

 ペレットを齧りながら、イグアナが率直な思いを吐き出す。

 彼は甘木の勝利を確信している。生後5年にも満たない命だが、野生に生きる者として『喧嘩を売ってはならない相手』を見極める目だけは磨いてきたのだ。

 

『東堂が強いってのは分かる。たぶんどこかで大化けしたんだろう。珠雫よりも、ステラよりも、黒鉄よりも―――あいつが、()()()()()()なんだろうさ』

 

 《雷切》東堂刀華は、確かに強力な伐刀者なのだろう。

 雷を操る応用性の高い異能を持ち、《闘神》南郷に弟子入りした経験があり、高い身体能力や魔力制御を有している。彼女の実力の確かさは、その様々な経歴が証明している。

 

『だが。それとこれとは、全く話が別だ』

 

 ―――そして、だからこそ《天譴》には勝てない。

 

 

()()()()()だろ、甘木には』

 

 

 《天譴》甘木悠の実力には、何の理由も、積み重ねも無い。

 彼はただ単に、"天才"だから強いのだ。

 

『黒鉄が惜しいところまで行ってたけどな。甘木の剣を解析して、再現しようとしてた。だがそれでも、結局『惜しいところ』止まりだ。"分析できる"ようじゃダメなんだよ。本当の強者ってのは、そういう凡人の物差しが届く所には居ねぇもんだ』

 

 野生に生きるイグアナはそう語る。

 

 毛も牙も爪も無い人間が、ありとあらゆる獣を駆逐し『霊長』の座に立てた理由。

 それは彼らがありとあらゆる物を工夫し、改善し、悪辣に模倣してきたからだ。  

 

 

 『理解』とは、人間の持つ最も強力な武器だ。

 

 

 前例から共通項を見出し、仮説を立て、推論し、検証する。『科学』というその営みが人類の得意技である以上、言語化できる脅威はいつか必ず克服される。『これこれこういう理由があるから勝てる』というロジックは、いずれ超えられる運命にある。

 

 だが。本物の"頂点"とは、そんな物ではない。

 

 理不尽で。不条理で。共通項なんて微塵も見当たらない、人智の及ばない現象。

 何の対策も立てられない、(こうべ)を垂れるしかない絶対者。災害、大いなるもの。人間の枠組みから外れた強さを、《天譴》甘木悠は有している。

 

『○○だから強いとか、△△だから強いとか、そういう理屈のある物じゃない。"強いから強い"。そういうシンプルな奴こそ、真に最強を名乗るのにふさわしい。少なくとも、俺はそう思うね』

「……なるほど。確かに先輩、《魔人(デスペラード)》でも何でも無いっすからね」

 

 納得できるような出来ないような理屈を吐くイグアナに、桃井は一部同意を示した。

 

 《天譴》の才能には何の理由も無いと、彼の過去を調べた桃井はよく知っている。

 当初は『死産の運命を《覚醒(プルートソウル)》で打ち破った、本人さえ自覚の無い《魔人》ではないか?』という仮説も存在したが、彼が産まれた病院のカルテを洗う事でその仮説も否定された。現代の医療において、胎児の健康がたとえ一瞬でも危うくなるようなことがあれば、必ず検査機器に記録が残っている。甘木悠の出産は極めて順調であり、死産の痕跡など欠片も無かった。

 

「う~ん……どうっすかね~……」

 

 桃井は唸るような声を漏らした。イグアナの言葉に少し疑問があったのだ。

 なぜ《天譴》があのように隔絶した才能を持つのか、誰もその理由を把握できていない。言語化できる強さが、言語化できない強さに劣るという理屈も、筋が通っているように聞こえる。

 

 だが。

 

「……"それ"が東堂会長に無いか、ってのは、また別の話っすよねー……」

 

 イグアナに聞こえないよう、口の中でそうポツリと零す。

 桃井新香は【暁計画】において、一つ、明確に下手を打ったと自覚している。

 

 

 《雷切》東堂刀華を、もっと積極的に取り込まなかった事だ。

 

 

 軽く見ていた。侮っていた。《天譴》甘木悠に何度も敗れ、その度に心を折られてきた彼女。

 しかも彼女の取り巻きは敗北を直視せず、勝ち方のマナーが悪いと甘木を非難してくる。何一つ見るべき点の無い、『扱いにくい高位伐刀者』の典型だと思っていた。

 

 まさか幾度の敗北を経て、それでも諦めないなど。

 挫折から立ち直るたびに、新たな何かを手に入れるなど、想像もしていなかったのだ。

 己の計算違いを、桃井新香は強く後悔している。

 

『あ? んだよ飼い主、まさか甘木が負けるとか思ってんの? アホ?』

「いや? 先輩は勝つっすよ、絶対。私が思ってるのは……もっと楽な道を、先輩に用意してあげられたかも、ってだけっす」

『はっ。もしもの話とか何の意味があんだよ』

「んへへ。良いじゃないっすか、人間らしくて」

 

 野生に生きるイグアナにとって、IFの話はお気に召さないらしい。

 桃井はIF(もしも)を想像するのが大好きなので、サラリと流しておく。

 

「んー……試合は午後三時開始だったっすよね。先輩はもう起きてるみたいだし、はちみつレモンでも作るっすか」

 

 今日の試合は決勝の一戦だけ。

 戦闘に関する全ての事項において天才である《天譴》がまさか体調管理を誤るとは思わないが、《天譴》ではなく"甘木悠"のメンタルにはまだ何かサポート出来る事があるだろう。

 

『さっさとヤれよなぁ、マジで。前とは状況が違う、甘木の周りにメスが沢山来てんだぞ。順番待ちしてたら(はら)むもんも孕めねぇぞ』

「グアちゃんは相変わらず野生に生きてるっすねぇ。ダメダメ、先輩に悪いっす。そもそも、私と先輩はそういうのじゃないっすよ~」

『……? 優れたオスが複数のメスを囲って優れた遺伝子を次代に残す。これ以上の幸せがオスメス共にあるのか……?』

「うーん、種族差がすごい」

 

 月影獏牙が創案した【暁計画】において、《七星剣武祭》決勝は"前哨戦"である。本番はその後。そして今回のような難所を何度も何度も潜り抜けなければ、第三次世界大戦における日本の平穏は勝ち取れない。今後襲い掛かってくるであろう困難を脳内でシミュレートし、桃井はため息をついた。

 

「……会長と、先輩。二人は今頃どうしてるっすかねー……」

 

 《七星剣武祭》決勝まで―――残り、八時間。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 湾岸ドームの近隣には、日本国内(ナショナル)リーグが所有する訓練場が存在する。

 《七星剣武祭》期間中は選手に無償で開放されているこの施設のリング上で、二人の剣士が刀を振るっていた。

 

 《無冠の剣王(アナザーワン)》黒鉄一輝。

 《雷切》東堂刀華。

 

 一・二時間の話ではない。彼らは前日の試合後から、()()()()()()()()模擬戦を行っている。西京寧音による地獄の特訓(ヘルウィーク)を乗り越えたからこそ出来る荒業。強化石材で形成されているはずのリングは、彼らが刻む刀傷によって既にズタズタになっていた。

 

「シッ――――――ッ!!」

「ッ、ぁぁあああああ!!」

 

 風を切る鋭い加速で、黒鉄一輝が東堂へと突撃する。比翼の剣。鼓動さえ操作する極限の身体掌握が可能にする、0から100の急加速。その動きへと東堂刀華は"同じ動き"で対応し、リング上に甲高い刃音が幾度も響き渡る。

 

「流石です、会長―――だけど、まだ無駄が多いッ!!」

「グッ……!!」

 

 神速の踏み込みから放たれた黒鉄の袈裟斬りを、東堂は辛うじて《鳴神》の腹で受け止める。金属同士が軋む凄まじい反発力。東堂は衝撃を殺し切れず、タタタッと後方へ数歩たたらを踏んだ。速度・膂力は、黒鉄が合わせているため完全に互角。二人の趨勢を決定付けているのは、純粋な『剣術』の差であった。

  

 雷の如き踏み込みで右から薙ぎ払えば、既に左へ半歩ずれて攻撃を空振りさせる。

 超速の突きを放てば、《陰鉄》を蛇のように絡みつかせ、彼女の剣の軌道を逸らす。

 

 圧倒的な手数の差はない。

 しかし、黒鉄の動きには一切の無駄が存在しない。東堂の斬撃は全て予測の範疇として捌かれ、黒鉄の剣閃は常に東堂の最も受けづらい角度から急所を(えぐ)る。

 

 互角から防戦へ。防戦から劣勢へ。劣勢からさらに、窮地へ。

 一手ごとに、東堂の体勢は崩されていった。

 

「―――《雷鷗(らいおう)》っ、キャァッ!!」

 

 流れを変えるべく、東堂が金色の雷を生成するが―――

 

「遅いッ!!」

 

 ―――それよりも早く《陰鉄》の切っ先が閃き、神速の一撃が東堂の刀を撥ね飛ばした。

 東堂の手から《鳴神》が離れ、遠く離れたリング上に突き刺さる。

 

「……降参です。んむむ、やはり剣術では黒鉄くんに……ひいては甘木さんに分がありますね」

「それでも、前と比べれば打ち合えるようになって来ましたよ。《比翼》の剣の再現度もほぼ100%レベル。凄まじい上達ですよ、会長」

「むぅ……」

 

 刀を弾かれお手上げの体勢となった東堂が、口を突き出して悔しそうな顔をする。《無冠の剣王(アナザーワン)》が最も得意とする接近戦(クロスレンジ)縛りとはいえ、彼に連戦連敗しているのだ。これから《天譴》に挑む身としては、己の不甲斐なさに顔が歪むのも仕方ない事だろう。

 

 そんな彼女を見つめながら、黒鉄は現状の再確認を行う。

 

「《比翼》の剣の真髄は、心拍操作と戦闘用の脳信号。究極の身体操作。雷使いである会長には親和性のある技術です。模倣(コピー)する事は難しくない。事実、この数時間でみるみる吸収できている」

「…………」

「問題は、もう一人の超越者。《天譴》甘木悠の剣です」

 

 黒鉄一輝は、紛れもない剣の天才である。そんな彼でさえ、一度は何もできずただ斬られるしかなかった甘木悠の恐るべき剣術。黒鉄は何度も甘木悠の試合映像を見て、斬られた時を何度も想い返し、それでも真似できず、試合中にようやくそれを会得できた。

 

 才能によってのみ振るわれる、異形の剣。

 それを解析・再現した黒鉄は、その剣術の真髄を既に言語化できている。

 

 

「彼の剣の本質は―――と、です」

 

 

 物体の"一番弱い部分"が見える、類稀(たぐいまれ)なる浄眼。

 視覚で受け取った莫大な情報を処理する脳髄。空間の歪みさえ解析する圧倒的な演算能力。

 

 この二つこそが《天譴》の剣術の基礎を支えている、と黒鉄一輝は言った。

 

「相手の筋肉の僅かな収縮、重心の移動、呼吸のタイミング、魔力の流れ。そして、振るうべき剣の最適な軌道。それら全てが、彼にとってはスローモーションかつハイライト付きで見えている」

 

 力学と構造の完全な理解。

 それ故に、《天譴》の剣には一切の無駄がない。剣の軌道は常に最短距離を描き、そして相手の最も"脆い"場所へ吸い込まれていく。

 

「恐ろしい剣です。僕は《身体能力倍加》で視力を数百倍に跳ね上げ、脳細胞が沸騰するほど情報処理能力を高める事で、何とか模倣出来ました。これからの数時間で、出来る限りの事は会長に教えます。だから、()()()()()()()()()

 

 途方も無い無理難題を、当然のような声音で黒鉄は言った。

 

 この数時間で、黒鉄が解析した《天譴》の剣を模倣(コピー)しきれ、とそう言っている。

 だが、こんな物は勝負の場に立つための前提条件だ。《天譴》の恐ろしさは剣だけではない。黒鉄の魔剣《追影》を封殺した未知の伐刀絶技。彼にとって、剣術なんてものは『一番使いやすい手札』でしかない。

 

「甘木君に、言いたい事があるんでしょう―――この程度、涼しい顔でこなしてみてください」

 

 《天譴》に、神に、人が挑むのなら。

 

 ()()()()は成さなければ話にもならない。

 

「……ッ、はい!」

 

 悔しさに満ちた顔のまま彼女は手元に《鳴神》を再出現させ、正眼に構えた。言葉よりも雄弁な『もう一戦』の意思表示だ。

 それに応え、黒鉄もまた《陰鉄》を構えた所で―――

 

 

「―――おう、もう始めとったんかい!」

 

 

 聞き覚えのある関西弁の呼びかけが、二人の耳に届いた。

 二人が声のした部屋の入口へ視線を向ける。そこには、飄々(ひょうひょう)とした顔つきをした、バンダナを巻いた男―――東堂刀華に敗れた、《浪速の星》が立っていた。

 

「も、諸星さん!? どうしてここに!?」

「黒鉄からメール貰ったんや。『東堂会長の調整を手伝ってください』いうてなぁ。なんっで負けた相手に餞別(せんべつ)送らなあかんねん、舐めてんちゃうぞって言おうか思ったけど……ま、こっちも負けて暇してたしな」

 

 東堂の驚きにそう返し、諸星雄大は肩をすくめる。

 無論、それだけが理由ではない。東堂刀華や黒鉄一輝、超一流の伐刀者との模擬戦は己の糧になるだろうと考えた事が一つ。単に面白そうな催しだと思った事が一つ。そして。

 

「自分らはホンマにアホや。あの《天譴》に、本気で勝とうとしとる。"精一杯やる"とか"力を出し切る"とか、そんな生ぬるい言い訳(ポーズ)してへん。あの才能を誰よりも間近で実感しとるはずやのに、まだ諦めてへんほんまもんのアホや。……けど、まあ―――」

 

 同じ伐刀者として―――高み(天譴)へ挑む者を応援したいと、そう思ってしまった事が一つだ。

 

「―――そこにもう何人かアホが加わったって、バチは当たらへんやろ。な、負け犬のみんな?」

「誰が負け犬よ! ひと言多いわホッシー!」

「まあ実際その通りではあるんだがね。負け犬の親分であるホシが言うなら仕方ない」

「がっはっは。んだんだ、今更カッコつけてもしょーもないべ」

 

 諸星の声に従って、ガヤガヤと騒ぎながら伐刀者たちが入ってくる。

 諸星と同じ、武曲学園代表の《天眼》城ヶ崎白夜(じょうがさきびゃくや)と《鬼火》浅木椛(あさぎもみじ)

 狭そうに防火扉をくぐる巨体は、禄存(ろくぞん)学園代表《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)加我恋司(かがれんじ)

 

 それだけでは無い。

 

「イッキ! トーカ!! 酷いじゃない、アタシを抜きで二人で特訓なんて!!」

「全くです。お兄様の部屋を訪れて、誰も居なかったときの私の絶望が分かりますか? お兄様からのメールが無ければ脳が破壊されるところでした。許せません」

「おねーさんを抜いて話してんのも気に食わねぇな。くーちゃんのせいで"おあずけ"喰らってムラついてんだ。少しは発散させてくれよ?」

 

 《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン。《深海の魔女(ローレライ)》黒鉄珠雫。《夜叉姫》西京寧音。

 

「あら、先を越されましたわね。公共交通機関(新幹線)は札束で顔引っぱたいても速くならないから困りますわ」

「逆に何なら速くなるの、それ……?」

「ウッ、オェ……やあ、刀華。遅ればせながら、駆けつけさせてもらったよ」

 

 破軍学園生徒、そして生徒会メンバー達。彼らもまた、東堂刀華の力になるべく集まって来たのだ。吐き気を懸命に堪え、凛とした顔を作りながら、《観測不能(フィフティ/フィフティ)御祓泡沫(みそぎうたかた)が彼らを代表して東堂刀華に語りかける。

 

「前と同じだ。僕の異能なら、『特訓が上手く行く確率』を引き寄せる事が出来る。微力かもしれないけど……僕たちにも、刀華を手伝わせて欲しい」

「ウタくん……それに、皆さんも……!」

 

 目を見開き、東堂刀華が人々の顔を見つめる。

 東堂と黒鉄の二人だけだった訓練場は、既に数多くの伐刀者たちで埋め尽くされていた。

 

 彼らの中には、東堂刀華や黒鉄一輝と刃を交え、敗れていった者たちがいる。彼らにとって、東堂刀華への協力は"敗北の痛みを直視すること"でもあるはずだ。それでも彼らは己のプライドを呑み込み、あるいは昇華して、東堂刀華を勝たせるために集まってくれた。

 

「来てくれると信じていましたよ、皆さん。……さて、東堂会長」

 

 企みが上手く行ったことに内心安堵しながら、黒鉄が東堂に声をかける。

 彼らの"善意"に頼るしかない賭けだったが、それでもこれほど多くの伐刀者が駆けつけてくれた。これは間違いなく、東堂刀華という騎士が三年で積み上げてきた人徳の証だろう。

 

「貴女に贈る、最終調整がコレです。七星剣武祭出場レベルの伐刀者たちとの、乱取り稽古。西京コーチが来たのはかなり予想外ですが……どうしますか? 一度休憩を挟みますか?」

「いえ」

 

 黒鉄の気遣いを東堂は一言で辞退し、流れる汗を感謝の涙ごと拭った。

 嬉しくて仕方が無いのだ。己の道を、支えてくれる誰かがいる事。困った時に助けてくれる誰かがいる事が。そういった人々に巡り合えること、それ自体が東堂刀華の最も優れた才能なのだと、今なら胸を張って言える。

 

「すぐにでも……ッ、今すぐ、お願いしますッ!!」

 

 裂帛の気合と共に、東堂は戦意に燃える瞳を一同へ向けた。

 《七星剣武祭》決勝まで―――残り、五時間。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「あ、居た。お久しぶりです、同類さん」

「エーデルワイスさん! お久しぶり……というにはちょっと近い気がしますけど」

 

 《七星剣武祭》の何が凄いって、決勝戦のために丸ごと1日を使う事だ。初日は16試合やるのに、最終日は決勝戦のたった1試合。"ペース配分"という言葉は運営委員会の辞書に存在しないのだろうか。いやまあ、放映権とか盛り上がりの差とか色々理由はあるんだろうけど。

 

 そんなわけで、試合前の分析も終えた俺は昼食を取ろうと屋台を物色していたのだが……人混みの中をスイスイと通り抜けていると、エーデルワイスさんと偶然遭遇した。まあこの人だかりだ、避けるルートも自然と似通ったものになるのだろう。

 

「昼食ですか? 私もちょうどご飯にするつもりだったんです。良ければ一緒にどうですか?」

「あー、良いですね。どこも混んでますし、屋台で買って公園で食べますか」

 

 そんな会話をしながら、そこら中にある屋台の内から俺はケバブを、エーデルワイスさんはホットサンドを購入する。ケバブ、普通に生きてると中々食べる機会がないから見かけるとつい買っちゃうんだよな。

 

「うめ……(モニュ…)」

「作画が変わっていませんか……? とにかく、確かに美味しいですね。日本は全員が少し美食家(グルメ)というか、どこに行ってもハズレが無いから好きです」

「そんな事無いと思いますが……こういう場で食べるとまた格別ですね。特別感があるというか」

 

 よく晴れた青空。入道雲。周囲の喧騒と、静かで涼しい木陰のベンチ。

 この状況(シチュエーション)で食べれば、たとえ何の変哲もないただのおにぎりでも美味しく感じるだろう。肉と野菜がパンパンに詰まったケバブをこぼさない様に食べながら、俺は空を仰いだ。

 

「いよいよ決勝戦ですね。どうですか、調子は」

「うーん……"やや緊張"って感じですかね。『負けちゃいけない』戦いってのは、どうも全く性に合わないというか……もっとこう、八百長と忖度というか、全てがなあなあで済む世界で生きていたいというか……」

「私と同レベルに儚い願いを抱いてますね。無理ですよ、私達にそういうのは」

 

 唇の端についたチーズを舌で舐めとりながら、エーデルワイスさんが呆れた目でそう言った。

 

「予言しましょう。同類さん、しばらく世界は激動の時ですよ。解放軍(リベリオン)のニュースを知らないんですか?」

「あー……なんか、滅んだんでしたっけ。桃井から聞きました」

「ええ。未だ世界中に情報統制が敷かれていますが、末端からSNSを通じて徐々に漏れだしてきています。世界三大勢力の一角が崩れた事により、今後《同盟》と《連盟》間の対立はいっそう激しくなって行くでしょう」

 

 世界三大勢力、解放軍(リベリオン)

 『伐刀者による世界征服』を掲げて動くアホテロリストだったが、つい近日解放軍(リベリオン)の本部付近で大規模な魔力震動が観測され、それ以降解放軍から何の声明も発表されていないらしい。

 

 無人ドローンや調査員が本部へ急行したが、本部はおびただしい血痕だけを残してもぬけの殻。何らかの秘匿作戦の可能性も一応は在るが、今の所『《解放軍(リベリオン)》は内輪もめで崩壊した』というのが世界首脳陣の見解らしい。

 

「カ、カス……。日本(こっち)が色々大変な時にまた別のイベント起こさないで欲しいですよね。内輪揉めで崩壊とか、流石テロリストだなぁという気はしますが」

「ふむ……どちらかと言うと、順序が逆ですね。全世界が混乱の渦に叩きこまれる事を予見したからこそ、月影先生はこのタイミングで動かざるを得なかったのでしょう。先生が最短ルートを走って、それでも間に合うかどうかギリギリになるほど、日本(このくに)の情勢は元々(あや)うかったのです」

「う゛えぇ……」

 

 サラリとそう言うエーデルワイスさんに対し、うめき声を漏らしながら顔をしかめる。

 戦火の匂いが近づいてくると、本当にテンションが下がる。戦争、マジで起きんのかな……。《連盟》と《同盟》が本気で戦ったら十中八九《同盟》が勝ち、だからこそ月影総理は勝ち馬に乗る為に【暁計画】なんていう曲芸外交を成し遂げようとしている訳だが……。

 

「こう……俺、かなり責任の低い仕事を7割くらいの完成度でこなして、定時で帰ってそこそこの給料を貰うというのが理想なんですが……」

「うふふ。夢を見る分には自由だと思いますよ。私もパティシエになるのが夢でした。ですが、結果は世界最強の剣士(コレ)です。……早めに覚悟しておいた方が、楽になれますよ」

 

 そう語るエーデルワイスさんの顔に、表情は無かった。怒りではない。悲しみでもない。『そういうものだ』という諦めだけがある。

 

「………………」

 

 その顔には。

 彼女の今までの人生で積み重なって来た様々な諦念とか挫折とか、そういう様々な物が混じっている気がして、俺は思わず口をつぐんだ。

 

 同類さん、とエーデルワイスさんは俺の事をそう呼ぶ。

 生まれながらの、強さに何の理由もない超越者。その片割れが俺である以上、俺が辿る末路も己と同じだと思っているのかもしれない。平穏を失い、全世界の注目と監視を浴びて生きる羽目になる、と。

 

「……あっ、すみません。私、嫌な事を言いましたよね。ごめんなさい、気を悪くされましたか?」

「いえ。まあ確かに、俺も今後結構『日本の最終兵器(リーサルウェポン)』的扱いをされるだろうなぁとは思ってたので」

 

 少し黙ってしまったせいで誤解されたのだろう。我に返ったように謝るエーデルワイスさんに、首を振って訂正する。

 

「……まあ、きっと大丈夫ですよ」

 

 月影総理から、事前にその辺りは色々説明を受けている。

 《七星剣武祭》において起こり得るトラブルの可能性とか、その後の日本の動きとか、その際《天譴》という存在が日本の国防においてどれほど重要な存在になるか、とか。その辺りを、頭を下げられながら懇々と説明されたのだ。まあ正直、そこそこしんどい事を色々言われたが……最終的に、俺は『まあええか』の精神でその話を受け入れている。

 

 その理由は二つだ。

 新宮寺先生から学んだ、仕事への義務感が一つ。

 

 そしてもう一つは。俺よりよほど理不尽な目に遭いながら、それでも他者を気遣えるほど立派に生きている『同類』が目の前に居るからだ。

 

「……今、こうして普通に食事出来てるじゃないですか」

「え?」

「俺は学生最強の《天譴》ですし、エーデルワイスさんは世界最強の犯罪者、《比翼》ですけど。それはそれとして、キッチンカーの料理を味わう自由はあるじゃないですか。それと同じです。今後、まあ確かに色々あるとは思いますが……それでも、大丈夫です。何とかなります」

 

 別に、国防の要が有給を取っちゃいけない法律はない。責任の重さについては、まあ妥協するとして……。俺は将来公務員に就職しても、定時退社するし軽率に休むつもりでいる。カス。

 

 そして、それは彼女も同じだ。

 

「両立出来ますよ、何もかも。周囲から隔絶した超越者である事も、それはそれとして、ただの人として幸せになる事も」

 

 分かんないけどね。そこら辺は、総理とか頭の良い人に任せるつもりでいる。

 ただまあ、多分総理は部下のモチベーション管理をちゃんとしてくれる人だと思うし……。やりがい搾取みたいな真似はしないだろうと信じている。何もかもダメだったらマジでエーデルベルグに逃げ込ませてもらうけど。

 

「……ふふ。我儘ですね、同類さんは」

「えっへへ……すみません……」

「いえ。とても良いと思いますよ」

 

 そう言って、くすくすと笑うエーデルワイスさん。

 

 改めて思うが、めちゃくちゃ良い人だ。"世界最強の犯罪者"としてとんでもない汚名を受けている彼女がこれ程の人格者である事も、俺の『まあええやろ』という感覚を後押ししている。

 

 物凄く辛い目に遭っているはずの彼女が、こんなに楽しそうな顔をするから。

 なら、きっと俺も何とかなるだろうと思えるのだ。

 

「あは……ひどい勘違い」

「え? え、何がですか? すみません、俺なんか変な事言っちゃいました?」

「んー、いえ? ただ、『あなたのおかげですよ』って言いたかっただけです」

「は、あ……? 何の話ですか……?」

 

 俺が我儘なのが俺のおかげ……? まあある意味そりゃそうだろうけど、何だそれ? トートロジーって奴じゃないか……?

 

「まあまあ。良いじゃないですか、折角のごはんが冷めますよ」

「あ、はい」

「食欲がモリモリ湧いてきました。これを食べ終えたら次は出店のスイーツを冷やかしに行きましょう。あっちにカヌレとフルーツサンドがありました」

「よく見てますね……」

 

 滅茶苦茶食うな、エーデルワイスさん。この前のカフェでもケーキを全種類制覇してなかったか、この人? ダイエットの為に剣を始めた、なるほどね……。

 

「は? 斬りますよ?」

「ひえ、ごめんなさい……」

「言動には気を付けてくださいね。エーデルワイスがデス・エーデルワイスになるかどうかは同類さん次第ですから」

「そんな恐ろしい進化先あったんですか?」

 

 デス・エーデルワイスさんが「FATALITY…」ってなるのか。ヤバそう。

 残り少なくなっていたケバブを胃の中に収め、シュッシュと素振りを繰り返すエーデルワイスさんに付き従ってベンチを立つ。

 

 歩行者天国となった大通りは、まさにお祭り騒ぎの様相を呈している。

 

 道の両脇には隙間なく色とりどりの屋台が立ち並び、ソースの焦げる匂いや甘い砂糖の香りが漂ってくる。少し開けたスペースでは大道芸人たちが腕を競い合っており、鮮やかなジャグリングやテーブルマジックを披露して歓声を浴びている。

 

「……ところで。気付いていますか、甘木さん」

 

 そんな喧騒の中を縫ってスイスイと進んでいると、エーデルワイスさんが静かにそう言った。彼女の視線の先には、バイザー越しにこちらを()()()()男が居た。意識の間隙を通っているはずの俺たちを、その男は両目に捉えている。

 

「あー……さっきから見てますよね。彼以外にも、何人か」

「ええ。米国(アメリカ)の……《同盟(ユニオン)》のエージェントですね。先ほどまでは気付かれていませんでしたが、これだけ大勢の中を移動するとなると、さすがに気配遮断にも綻びが出ます。この大会は、国際社会からかなり"注目"されているようですね」

「ですねー……」

 

 アメリカだけではない。世界各国から派遣された諜報員が、俺たちを注視している。

 これも、月影総理が予見していた事の一つだ。《七星剣武祭》の会場には、様々な勢力のエージェントが入り込むと。

 

「大半は観戦が目的でしょうが……将来の脅威を排除すべく、()()()()をしないとも限りません。どうか気を付けてくださいね、同類さん」

「……ええ」

 

 真剣な顔で、エーデルワイスさんはそう忠告してくれる。

 それを受け止めて、俺は平気な顔で歩みを進めた。今後どうなろうとも、今はただ見られているだけだ。それも、俺とエーデルワイスさんが本気で隠れればどうとでもなる。その程度で臆していては、話にならない。

 

「……俺は、勝ちますよ。()()

「はい。心から、応援しています」

 

 隣を歩く彼女を安心させようと、俺は固い声でそう呟いた。

 

 ―――《七星剣武祭》決勝まで、あと三時間。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 そして。

 あまりにも多くの想い、あまりにも多くの策謀を抱えながら、それでも時は平等に進み―――。

 

 

 ―――ついに、《七星剣武祭》決勝の時刻となる。

 

 

 晴天。

 例年よりも早い時刻での開催となった会場周辺には、百万を超える民衆が集まっていた。

 

 大阪のこの会場だけではない。東京で、巨大モニターに映る中継を見る人々がいる。スポーツバーでテレビを眺める人々がいる。家で、職場で、たまたま入った飲食店で。スマホで。ありとあらゆる場所の日本国民が、この試合に注目している。

 

 《七星剣武祭》の枠を超えた、異常な熱狂。日本の未来を左右する試合の結末を、全国民が喧々諤々の議論と共に待ち望んでいるのだ。

 

 

『―――皆様。大変、大変長らくお待たせいたしました』

 

 

 湾岸ドームに、実況の言葉が響く。

 現地の人間は一言も声を発さない。冷めているわけでは無い。爆発の時を待っているのだ。グツグツと煮えたぎるマグマのような、そんな熱量を秘めた沈黙が周囲を覆っている。

 

『ご存じの通り、今年の《七星剣武祭》は熾烈(しれつ)を極めました。掟破りの八校目、【暁学園】の台頭。月影総理の堂々たる演説。《連盟》残留か、脱退か。その議論を決定付ける場となったこの祭典。……ですが、それもいよいよ決着の時です。数多の激闘、波乱、そして奇跡を()え……我々はついに、この場所へと辿り着きました』

 

 ドーム内に設置された無数のスピーカーから、実況の静かだが熱を帯びた声が響き渡る。

 誰もが、瞬きすら惜しむように空っぽのリングを見つめている。空気が張り詰め、ピンと張られた弓のように極限まで引き絞られていく。

 

 そして―――引き絞られた弦が、限界を迎える。

 自らの喉を潰すほどの絶叫と共に、実況はその熱源へ火を放った。

 

 

『―――二十五戦の激闘を超え! 敗退した三十名の涙を超え!! これより、日本最強の学生騎士を決定する、最後の戦いの幕が上がります!! 今年の大会は、まさに異例尽くし! しかし、だからこそ断言できます! 今から我々が目撃するのは、間違いなく大会史上最高の試合となる―――いいえ、この国の歴史に刻まれる、伝説の始まりとなると!!』

 

『『『『『ウオォォォォォォォォオォォオオォォオオォォォォォォッッ!!!!』』』』』

  

 

 爆発。

 

 静寂を打ち破り、空気を物理的に揺るがすほどの歓声が炸裂した。

 地鳴りのようなその音は、選手たちの待機する地下通路にまでビリビリと響いてくる。

 

 その熱量に背を押されるように、一人の少女がゲートへと姿を現した。

 

 

『まずは赤ゲートより選手入場です!! その身に宿すは、全てを斬り裂く雷光!! 彼女の歩みは、決して順風満帆な物ではありませんでした!! 幾度となく挫折と敗北を繰り返し、それでも何度でも立ち上がって来たこれまでの道のり!! それを成せたのは、彼女は一人では無かったからこそ!! 敗れていった者たちの想いを背負い、仲間の絆を力に変え、今、悲願の頂へと手を伸ばす! 破軍学園生徒会長! ―――《雷切》、東堂刀華ァァァアッ!!!』

 

『会長ーッ!!! 頑張れぇぇぇえぇえぇッ!!』

『応援してんぞーッ!! ぜってえ負けんなよーッ!!』

『東堂さん油断するなァァッッ!!!』

 

 

 割れんばかりの拍手と大歓声。

 その中を、凛とした足取りで東堂は歩いていく。

 

 歩みを進めるたびに、花道の左右からスパークが噴き上がる。決勝のみ行われる、会場を盛り上げる為の入場演出だ。大抵の選手はその派手さに気圧(けお)される所だが―――東堂の闘気に一切のブレは無い。

 

 東堂刀華は、強く()()している。

 《天譴》と―――甘木悠と、この《七星剣武祭》の決勝で戦う。それが、楽しみで仕方ない。

 あまりの(たかぶ)りで顕現を抑えきれなかった愛刀《鳴神》を強く握りしめ、東堂刀華がリングへと上がった。

 

 

『そして対するは青ゲート! 暁学園所属、Aランク騎士! 前年度《七星剣王》!! 圧倒的な実力はもはや今更説明するまでも無いでしょう!! 皆様の記憶にも鮮烈に残っているであろう、数多(あまた)の堂々たる勝利!! そして、全試合を通してなんと()()!! 冷徹に相手の隙を伺う、無慈悲なる断罪者! 神の怒りに恐れ(おのの)け―――《天譴》、甘木悠ゥゥゥウッ!!』

 

『あと一勝で二連覇だぞー! 絶対勝てーッ!!』

『甘木ィーッ!! どっちも頑張れェーッ!!』

『甘木さん油断するなァァッッ!!!』

 

 

 青ゲートから、まるで天上の雲を思わせる白いスモークが流れる。

 それを踏みしめながら、黒髪の少年が青ゲートからリングへと向かう。

 

 《天譴》甘木悠。

 戦闘に最適な精神状態へと己のメンタルを整えた彼は、豪華な演出や歓声に目を向けることなく、真っ直ぐに歩いていく。

 

 甘木悠に気負いはない。

 《雷切》と―――東堂刀華と、この《七星剣武祭》の決勝で戦う。ただその事実だけを見据え、油断なく慎重に相手の出方を伺う。胸に在るのは、仕事への義務感のみ。緩やかな足取りで、甘木悠が東堂の待つリングへと上がった。

 

「―――ずっと、この時を待っていました。貴方と、この場所で戦える日を」

「……前から思ってましたが……相当な負けず嫌いですよね、会長」

 

 両者が向かい合う。

 演出のためのスモークやカラーライトは既に切られた。日光に白く照らされた強化石材のリングで、日本最高峰の伐刀者同士が対峙した。

 

 決勝が始まる。

 

 七星剣王を。

 学生最強を。

 《連盟》残留か、脱退かを。

 

 日本の行く末を大きく左右する《七星剣武祭》が――いよいよ、最高潮(クライマックス)を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告。

 《七星剣武祭》における死者――――――一名

 

 

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