落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

40 / 41
END① 【天雷】(東堂刀華√)

 

 

 《七星剣武祭》、《エキシビション》、そして《第三次世界大戦》。

 目が回るほどに様々な事が起きた夏が過ぎ去り、暦は十月となった。

 

 結局、第三次世界大戦はおよそ一か月で終結した。

 

 《同盟》が順調に侵攻できていたのが約1週間。

 頑強な《連盟》の抵抗に苦戦し、上層部が予想外の戦費に顔色を悪くしていたのが約3週間。

 そして、《超人》と《天譴》が《連盟》本部へ強襲したことによって電撃的に終戦。

 大体このようなスケジュールだ。

 

 戦後交渉にかかった数週間はカウントされず、ニュースやネット上では概ね『一ヶ月戦争』と呼ばれているらしい。TVではコメンテーターが『兵器開発が進んでなお、戦争の行方を左右するのは伐刀者であると明白に示した』等と訳知り顔で語っている。アメリカのプロパガンダ映画は超強行(ダイ・ハード)スケジュールで来月末に公開予定、興行収入100億ドルを目指しているらしい。バカ?

 

「……まあ、平和な証(あかし)か」

 

 校門に立ち、再建された校舎を見ながらそう呟く。

 破軍学園。一度は転校し、崩壊させてしまったこの学園へ、俺は戻ってきていた。

 

 というのも、結局【暁学園】は廃校となったのだ。

 元々、脱《連盟》を掲げて《七星剣武祭》を荒しまわる為だけに作られた特命組織だ。目的が完璧に果たされた以上、維持しておく意味も無い。暁学園生徒たちは皆元々の仕事へ戻ったり、総理のエージェントとして就職したり、王馬さんは黒鉄家に戻ったりと、それぞれの進路へ進む事となった。

 

 そして―――俺は、破軍学園へ戻る事にした。

 

 意外と嬉しかったのだ。

 あの《七星剣武祭》決勝で、『戻ってきて欲しい』と言われたことが。

 日常と俺を繋ぎとめる、居場所になってくれるという宣言が。

 

 総理に進路を聞かれた時、真っ先に彼(・)女(・)の顔が思い浮かんでしまったから。

 俺の『なりたいもの』は、案外悩まずに決める事が出来た。

 

「あ、甘木だ。お疲れ~。もう帰って来たん? 渉外交渉とか行かなくて良いの?」

「うっす。月影総理が影武者立ててくれたから平気。俺の10000倍口が回る、役者出身のエージェントだって」

「へ~。まあお前、もう日本の英雄だもんなぁ。今後マジで辛そうだけど、頑張れよ……特に手助けとかはしないけど……」

「最悪」

 

 道中、ゲーム部にも顔を出しておく。破軍学園の吹き溜まり、意識低い奴らの掃き溜めだ。

 当然ながら、未曽有の大活躍を果たした(自分で言うのもなんだが)俺に対して、羨んだりといった事は微塵も無い。ただ『今後コイツは一生マスコミに追われる人生なんだなぁ』と、養豚場の豚に向ける視線を向けてくるだけだ。舐めんなよ。

 

「え、甘木来た? 頼む~、総理の力で部室の回線もうちょい強くしてくれ」

「ポケットマネーで冷蔵庫もう一個頼むわ。 エナドリスペースが足りん」

「俺のこと、総理に『無二の親友です』って紹介して♡ コネで就職させて♡」

「アホ死ね」

 

 カス共め。ありえない話!!

 

「チッ……良いのか、影武者のことネットに書き込むぞ。『ヘアメイクアップアーティストでタレントのIKKOこと、甘木悠は2017年10月24~28日の間に全くの別人と入れ替わっている。証拠は山ほどあるので調べて下さい。』ってな」

「甘木悠のどこをどう抽出したら芸名がIKKOになるんだよ」

 

 もうちょいまともに改変できんのか。サボるなよ。

 

 思えば、俺が《七星剣王》になった時もこんな感じだった。『なんか色んな人からヘイト買ってて大変そうやね……』と憐れまれて、それだけだ。後は、生徒会との交渉で部室にネット回線と冷蔵庫を導入した時だけ崇められたくらいか。相手の地位で態度を変えないと言えば美点だが、素直に褒め難い何かがコイツらにはある。

 

「まあいいや。APEXやろうぜ、甘木の席そのままにしてあるから」

「いや、ちょっと寄っただけだから。他に行くとこあるし」

「え~」

 

 平常運転の意識低い系どもから離れ、別の場所へと向かう。

 

 廊下を歩き、階段を上がり、二階の奥に在る豪奢な扉―――生徒会室へ。

 

「………………」

 

 深呼吸。

 事前に連絡は付いているが、それでも何故か緊張してしまう。

 

「失礼します」

 

 コンコン、と短くノックをしてから、重厚な木製の扉をゆっくりと押し開ける。

 カチャリという小さな金属音と共に、ゲーム部の喧騒とは対極にある、凛と澄み切った静謐な空気が顔を撫でた。

 

 秋の陽光が、大きな窓から生徒会室の床に長い影を落としている。

 その光の差し込む窓際に立っていた彼女が、扉の音に気付いてゆっくりと振り返った。逆光を背に受けて、亜麻色の髪がふわりと揺れる。眼鏡の奥にある優しく凛とした瞳が、真っ直ぐに俺を捉えた。

 

「……甘木さん!」

 

 弾むような、耳心地の良い声。

 破軍学園生徒会長、《雷切》東堂刀華。彼女はこちらへ振り返ると、花が咲くような柔らかい笑みを浮かべた。柔らかな笑みを浮かべたまま、俺の方へ向き直り―――静かに、頭を下げた。

 

 

「―――おかえりなさい」

「はい。……ただいま、帰りました」

 

 

 たったそれだけの、ひどくありふれた短いやり取り。

 万感の想いが込められたそれを交わして―――俺はようやく、破軍学園(日常)に戻って来たのだった。

 

 

「……ヘヘ、ヘッヘヘ」

「エヘヘ…………」

 

 ……そして沈黙。お互いに照れ笑いを浮かべながら、曖昧に頭を掻いたり身体を傾けたりする。

 

 おかしい。

 幾度となく顔を合わせ会話しているのに。試合もしているのに。LINEでは普通に話せたのに。 

 なぜ彼女と顔を合わせるとここまで恥ずかしい?

 

「そ……その、無事で良かったです。心配しました。それに、ちゃんと破軍学園に帰ってきてくれたのも……すごく、嬉しいです」

「い、いえ。東堂会長が、頑張ってくれましたから……」

「……半分以上は私欲です。私が……甘木さんに、もう一度逢いたかったので……」

 

 互いに顔を真っ赤にしながら、たどたどしく言葉を重ねる。

 

 おかしい。

 彼女の顔を見るだけで、心臓の鼓動が跳ねて止まらない。耳の裏が焼け付くように熱い。

 

 東堂会長って、こんなに可愛かったか?

 

「あっちが、ぇと……お、お茶入れますね! 甘木さん、どうぞお座りになってください……!」

「ああはいすみません、う、嬉しいです……!」

 

 ぎくしゃくとした動きで東堂会長が再起動し、一昔前のロボットのような動きで戸棚に向かう。俺も同様に、ばね仕掛けの人形のように一跳ねするとソファへ座る。背筋が異様にピンと伸びているのが自分でも分かるのだが、何故かどうにもできない。なにか俺以外の力が働いている。

 

「お、お茶のお好みは……!?」

「……ッ、ブラックで……!」

「分かりました……ッ!」

 

 砂糖とミルクが山ほど入れられた紅茶が俺の前に置かれる。よく分からんけど取りあえず飲み干しておく。舌が灼けるように熱いが、この際味とかもうどうでも良い。

 

「……おいしいです」

「お、お粗末です」

 

 テーブルを挟んで、ほぼ睨み合っているに等しいレベルで互いを見つめる。

 可愛い。何も無いのに、東堂会長の周りだけが光って見える。とうとう眼も変になったか。

 

「……その」

「は、はい!」

 

 長い沈黙の後、俺が口火を切る。東堂会長はビクリと肩を跳ねさせ、おずおずと俺を見つめた。

 緊張で乾く口を回し、言葉を絞り出す。

 

「……御礼を言いたかったんです。俺が《暴君》に勝てたのは、会長のおかげなので」

 

 《暴君》アダムス・ゲーティア。数万のクローンに、無制限の模倣(コピー)能力。《連盟》を荒らし尽くした超越者を打倒する事が出来たのは、あの戦いの中で俺が一回り大きく成長出来たからだ。

 

 なぜ成長できたのか。モチベーションを、戦う理由を得たからだ。

 では、その理由とは。それを考えた時、頭に思い浮かぶ顔はただ一つだけだった。

 

 《七星剣武祭》決勝。

 全身から雷を奔(はし)らせ、いっそ神々しいまでに真剣な顔でこちらを見つめる会長。

 あの顔に魅せられた。彼女から、今まで俺の中に無かった、内心うっすらと馬鹿にしていた『心の強さ』という物を学んだ。彼女の語る一つ一つの言葉が、俺の胸を強く打った。

 

「決勝戦。会長が最後に使ったあの大技は、どう考えたってあの時の会長に扱える物じゃなかった。でも、そんな道理を貴女は無茶で押し通した。あの時の会長は……凄く、綺麗でした。眼に焼き付くほどに」

 

 一(・)目(・)惚(・)れ(・)したのだ、あの瞬間に。

 今自覚した。俺は、東堂会長のことが好きだ。

 彼女の強さも優しさも、可愛くてたまらない。

 

「誰かの為に戦う強さを、会長が俺に教えてくれました。痛いのも怖いのも大嫌いですけど、幾度となく諦めようと思いましたけど。貴女のためなら、どんな地獄にも耐えられた」

 

 顔が赤くなっているのが分かる。

 正直、自分が何を話しているのか半分以上分かっていない。無我夢中で舌を回しながら、俺以上に顔が真っ赤になっている会長を正面から見据える。

 

「だから……ありがとうございました。かいちょ――」

 

 東堂会長の瞳から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。

 ガタンッ! と、テーブルに脚が当たる音。会長はテーブルを乗り越え、俺の目の前まで駆け寄って来たかと思うと。

 

「―――――ッ」

 

 そのまま、勢いよくソファに座る俺を抱き締めた。

 

「!?!??!?!!?!?!?!!!??!?!?!?!!???!!!」

「……っ、う、あぁ……っ! 甘木さん、甘木さん、甘木さん……! ズルいです……そんな事言われたら、私……!」

 

 俺の肩に、彼女の小さい顔が完全に乗っている。

 鼻腔をくすぐるふわりとした甘い香り。密着した身体から伝わってくる信じられないほどの柔らかさ。俺の背中に回された腕は驚くほど熱く、彼女の体温が伝わってくる。

 

「ヒホッ!? と、東堂会長―――!?」

「……しばらく、このままでいさせてください」

「無茶言わないでください」

 

 抱きしめ返す事も引き剥がす事も出来ないまま、俺の両手がウロウロと空を彷徨う。口では拒否しているが、正直に言えば引き剥がしたくなんてなかった。好きな女の子に抱き着かれて嬉しくない訳が無い。

 

「ぐすっ……甘木さん」

「ハイ」

「決勝戦で私が言った事、覚えていますか」

「一言一句」

 

 心臓の音がうるさい。俺だけではなく、彼女の物も。

 

「……仲良くなりたいって、言いましたよね。今度、映画でも観に行きましょうって。あれって……まだ、有効ですよね」

 

 ギュッと、抱き締められる力が強くなった。

 首筋から襟元にかけて、彼女の涙が滲んでいくのが分かる。色々な意味が含まれている言葉なのだと、今の俺には理解できた。分かったうえで、きちんと返事をする。

 

「……はい。俺も、東堂会長と仲良くなりたいです」

「なら……刀華って、呼んでください」

 

 宙を彷徨っていた俺の両手は、少しだけ迷った後。

 壊れ物を扱うようにゆっくりと、その震える小さな背中へと回された。彼女の華奢な肩に、そっと自分の頭を乗せる。

 

「刀華」

「はい」

「刀華」

「はい……悠、さん」

 

 会長の声が震える。何度も何度も、互いに名前を呼び合う。

 互いの肩に頭を乗せ、支え合うような体勢。彼女の亜麻色の髪が頬をくすぐる。

 

 このまま時が止まればいいのにと思いながら、俺と会長はしばらくそのまま抱き合っていた。

 

 

 

◆

 

 

 

「まだ付き合ってないまだ付き合ってないまだ付き合ってないまだ付き合ってないからセーフ」

「時間の問題ですわ~。ふふ……刀華ちゃんを選ぶとは、甘木さんもお目が高いですわね」

「ま、まだ僕が逆転するチャンスはある……ッ 可能性は無限大、未来は僕らの手の中……ッ!」

「無さそうで草ですわよw。ふーむ、どうしましょう。このまま第二夫人狙っても良いですが……ま、無理そうですわね。あそこに割って入れる気がしませんわ~。オホホ、あの二人がくっついたら貴徳原グループのベビー用品大量に送りつけてやりますわよ」

「あっ頭割れそう。《観測不能(フィフティフィフティ)》で受け流せないレベルのダメージ来て脳髄漏れそう」

「全く、この情けない男は……放っておけませんわね。おらっ、シャキッとしなさい」

 

 

 ……扉から覗かれていた事に気付くのは、この数分後の事である。

 結論から言うと、生徒会室は雷に焼かれて半壊した。貴徳原グループが金持ちで良かった~。

 

 

 

 その後。

 俺は、"会計監査"として生徒会に入る事となった。臨時役職であり、殆ど刀(・)華(・)の私情によって急遽作られた役職だ。仕事はほぼゼロ、だいたい刀華の話し相手と、時々生徒会室に押しかけてくる立ち合い希望者(主に王馬さんや黒鉄など)の相手をするのが業務内容といえば業務内容か。

 

 貴徳原さんからはずっとニヤニヤした生暖かい目で見られるし、逆に御祓さんとは一度も目が合わなかった。俺と話す時は常に目がブレているというか、焦点が合っていないのだ。怖いよ。その他の生徒会メンバーとは、まあ放課後にファミレスへ寄るなどする程度にはそこそこ親しくなれたんじゃないだろうか。

 

 少なくとも。刀華が俺を学園に馴染ませようと気を遣ってくれなければ、俺が三年になって生(・)徒(・)会(・)長(・)になる事は無かったはずだ。他の生徒会メンバーが、それを祝ってくれる事も。『学園最強の生徒が生徒会長になる』という、破軍学園の伝統。だが、もしも俺が異物のままであれば、俺の生徒会長就任は誰一人歓迎しなかっただろう。いや、そもそも断っていたか。新宮寺先生が祝ってくれたのは、中々心に沁みた。

 

 生徒会長になってからも、意外とやる事は変わらなかった。黒鉄、ステラさん、珠雫さん、桃井。政治に関わる名家に王族、そして言わずもがなの桃井と集めたメンバーが皆超優秀であったため、俺の仕事はほぼ無いも同然だった。もちろん、書類仕事は出来る限りやったが。

 

 《七星剣武祭》を三連覇して、次期生徒会長となった珠雫さんへ引継ぎして……そして、俺も破軍学園を卒業した。

 

 

 刀華とは、この日に告白して正式に付き合った。

 貴徳原さんたちから散々せっつかれたのだが、最後の最後まで俺がヘタれていた形だ。

 

 

 満開の桜の下、泣きながら笑う彼女の顔は俺の脳裏に焼き付いている。

 両想いだと半ば確信していながら、此処まで待たせてしまった事に申し訳ないと思うばかりだ。

 

 生徒会メンバーやゲーム部部員などとそれぞれ写真を撮り、最後に『俺 対 破軍学園全員』というレクリエーションをやって、俺は破軍学園を去った。新宮寺先生や西京さん、どこから嗅ぎ付けたのか王馬さん達も乱入して、阿鼻叫喚ながらも全員が笑っていた。いい催し物だったと、今になっても思い出す。

 

 卒業後の進路は、刀華と同じ《侍局》を選んだ。

 《連盟》崩壊後、日本にあった連盟支部が名前を変えた物だ。『国内の伐刀者』を統括するという役割は変わらず、黒鉄巌が初代《侍局》局長となるなど、中身はほぼ変わっていない。通常は防衛大学等を卒業してから入局するのが通例だが、俺や刀華には特例措置が与えられた。『どう考えても4年早く働いてもらった方が得』、という事らしい。

 

 刀華が《侍局》を選んだのは、実は少しだけ意外だった。

 意外と剣客としてのメンタリティを持っている彼女は、恐らく卒業後は新設された国際リーグへ進むだろうと思っていたから。そう問うと彼女は、『一番勝ちたい人は、もう隣に居ますから』と幸せそうに笑って俺の手を握った。

 

 そのカリスマ性と人徳から、《侍局》の若きエースとしてメキメキと頭角を現す刀華。

 黒鉄巌の後継者だと噂され始めた彼女についていくために、俺もわりと頑張って仕事に励んだ。

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……悠……もう、悠?」

 

 呼びかけられる声に、ビクッと肩を跳ねさせる。

 昼休み中にうっかり寝てしまっていたらしい。久しぶりに昔の事を夢見たな、と思いながら一つ伸びをする。

 

「ああ……ごめん、ちょっと寝てた」

「ふふ、可愛い寝顔でしたよ」

 

 そう言って、刀華はくすくすと笑う。可愛い。

 彼女と付き合い始めて、4年が経過した。今年23歳となる彼女だが、最近ますます可愛くなってきている。同じ時を過ごせば過ごす程に可愛く見えてくるから恐ろしい物だ。

 

「三時からは監査部の赤座さんが来ますから。居眠りしないでくださいね、次(・)長(・)?」

「あの人なら何だかんだ見逃してくれそうだけどな……分かりました、部(・)長(・)」

 

 悪戯っぽく笑う刀華に、こちらも冗談めかして返す。

 《侍局》広報部部長。それが、今の刀華の役職である。紛れもない花形部署のトップに、齢23で既に就いているのだ。彼女が《侍局》でどれほど出世しているのか分かるだろう。今俺たちが居る部屋も、彼女の為に用意された広い個室だしな。

 

 ちなみに俺が次長になれたのは、半分はとある『映画』のおかげである。

 そう、途方も無い予算をじゃぶじゃぶ注ぎ込まれたあのプロパガンダ映画だ。莫大な予算と豪華な俳優、そして元々の偉業のスケールのデカさも相まって、あの映画は爆発的にウケた。続編が何度も出て、今や『アマギ・ユウ』といえば《超人》エイブラハム・カーターと双璧を成す現代最新の英雄である。

 

 ちなみにその映画の熱狂的なファンの一人が赤座さん。グッズは当然のように全部揃えているし、映画も全通。なんなら最近放映会社の株を買い始めたらしい。私物化しようとしている……?

 

「……赤座さんが広報部(ウチ)来るのってほぼ私用だよな。何枚サイン書かされた事か……」

「ちゃ、ちゃんと埋め合わせはしてくれますから……仕事は出来る人ですし……」

 

 《超人》が戦争の後遺症で能力を喪失して引退した(という事になっている)以上、現世界最強は俺という事になっているのだ。国威向上の面でも、俺が《侍局》広報部に居る事には多大なるメリットがあるらしい。月影総理談。あの人何年総理やってるんだろうな。そろそろ10年超えるぞ。

 

「……それよりも。せっかくの昼休みですよ。ぎゅーの時間です、もっと私に構ってください」

「勿論。寝ててごめんな、刀華」

「……もっと頭撫でてくれたら許します」

 

 そう言って俺の膝の上に座る刀華。彼女の頭を撫でながら抱き締め、優しい声で許しを乞う。

 毎日の恒例行事だ。部長になって個室を与えられて以降、刀華は休み時間を使って俺に甘えてくるようになった。最初は普通に話したり、軽く手を繋いだりする程度だったのだが、少しずつ歯止めが利かなくなって今に至る。

 

「今日、久しぶりに昔の夢を見たよ。破軍学園に居た頃の夢」

「ん……懐かしいですね。《七星剣武祭》ですか? あの頃の悠も恰好良かったです」

「今は?」

「ふふ、も~っと格好良くなりました」

 

 スリ、と後ろに首を伸ばして刀華が頬を擦りつける。可愛い。

 選抜試合(セレクトマッチ)に《七星剣武祭》、そして第三次世界大戦。今もなお鮮明に思い出せる、数多の情景。それらを脳裏に浮かべながら、刀華の事をより強く抱きしめる。

 

 思い返せば、高校1年と2年の頃の俺はかなり酷かった気がする。試合開始直後に断頭したり、そのせいで後遺症を与えたり。カスじゃん。刀華はよく、こんな男の事を好きになってくれたものだ。感謝しかない。

 

「高校の頃の刀華も可愛かったよ」

「……今は?」

「もちろん、今の方がずーっと可愛い」

「えへへ……ね、制服、まだ取ってありますよ? 着てあげましょうか……?」

 

 ぽしょぽしょと、恥ずかしそうに刀華が耳元で囁く。はいはい、また夜に話そうな。

 

「……破軍学園も、暁学園も。皆、今頃どうしてるかね……」

「また同窓会したいですね。黒鉄さんも、今度は来てくれると良いですけど」

「ヴァーミリオン皇国の王配(おうはい)だもんな。一昨年(おととし)来れたのが奇跡だろ」

 

 そう言って、卒業後の進路をそれぞれ思い浮かべる。

 

 黒鉄は言わずもがな。ヴァーミリオン皇国へ国籍を移し、ステラさんと結婚。王配として忙しい日々を送っている。欧州の要地として、今は交易をもっと盛んにしようと頑張っているらしい。

 

 珠雫さんと王馬さんは、その後黒鉄家に戻った。連盟が崩壊した今も《侍局》の主軸は黒鉄家であり、日本の伐刀者を統括する名家として仕事に励んでいる。王馬さんは政治的都合でアメリカの令嬢と結婚したが、再び出奔して武者修行の旅を継続中。珠雫さんが半ギレになりながら次期当主として家中を取りまとめているそうだ。最近、『兄の嫁に貞操を狙われているんですが』と泣きながら相談が来た。強く生きてくれ。

 

 結婚といえば、貴徳原さんと御祓さん。未だ付き合う気配のない二人だが、俺と刀華はこの二人の間には何かあるんじゃないかと睨んでいる。貴徳原さんは御祓さんを事あるごとに『情けない男』と貶しながら、『わたくし意外とダメンズなのですわ~』と傍に居る。御祓さんが貴徳原グループに就職したこともあり、いよいよ何か進展があるんじゃないかと目が離せない所だ。

 

 元暁学園の面々、それに桃井やナジームさんは、その後月影総理の下で働くエージェントとして就職した。一応は国家公務員なので、時々顔を合わせる事もある。自由に動かせる超級の伐刀者であるナジームさんは、総理から滅茶苦茶にこき使われているらしい。『砂漠の渇きにも限りはあるわ』と疲れ切った顔で言っていた。桃井とは卒業式に写真を撮って以降会っていないが、年賀状は毎年送られてくる。元気に暮らしてはいるのだろう。

 

 私兵を得た月影総理は、前にも増してその権力と政治手腕を向上させている。ストレスが無くなったせいか最近さらに若々しくなり、だんだんと妖怪染みて来た。総理の事は尊敬しているが、寄付金や免税処置など、いまだにありとあらゆる手段で俺に金を渡そうとしてくるのだけは止めて欲しい。

 

 その他にも、破軍学園で仲良くなった人たちの事を想像する。大体の進路は知っているが、中には少しずつ疎遠になって来た人も居る。時の流れは寂しい物だ。

 

「……黒鉄さんの結婚式、綺麗でしたね」

 

 ポツリと、俺にもたれ掛かりながら刀華がそう呟く。

 ヴァーミリオン皇国で行われた黒鉄とステラさんの結婚式を思い出したのだろう。何かを期待するような目線を向ける彼女に、心からの笑みを返す。

 

「ん。俺たちの結婚式も、同じくらい豪勢にやろうな」

「……はい」

 

 顔を真っ赤にして刀華が俯く。照れるくらいなら言わなければいいのに。

 

 付き合って四年、同棲して三年。

 そろそろ結婚しようか、という話は当然出てくる。というか、俺が三ヶ月前にプロポーズした。そこから結婚が延びているのは、俺ではなく刀華に原因がある。

 

「早く、俺に勝ってくれよなー。もしくは普通に結婚しようよ」

「だ、ダメです。これは一つのけじめというか、区切りでもありますから……」

 

 『俺に勝つこと』。それが刀華が結婚の前に己へ課した条件だ。霊装も焔も解禁した俺に勝って、隣に並べる事を証明してから、胸を張って俺と結婚したいのだと。心根が剣客の彼女らしい言い草で、俺は何とも可愛らしく思っている。

 

 手を抜くと刀華は本当に怒るので(その夜は一緒に寝させてもらえない)、俺は魔力斬りも視線斬りもフルで使う。俺としては、あと数年イチャイチャとした恋人生活が続いても別に悪くないからな。

 

 それに、多分そ(・)ろ(・)そ(・)ろ(・)だろうとも。

 《同調雷装(レゾナンスメモリ)》を極めつつある彼女は、この数年で飛躍的に成長し続けている。雷が天へ並ぼうとしているのだ。それに本質的に彼女は奇跡を起こす者であり、常に1%の勝率を握り続ける理屈を超えた強さがある。今の所は俺の全勝だが、いつかは負ける時も来るだろう。

 

「刀華は白無垢が良い? それともウェディングドレス?」

「……どっちも着たいです。今日こそ私が勝って、堂々と甘木さんを娶(めと)りますから」

「早めにお願いね。じゃないと、俺が我慢できなくなって刀華を貰っちゃうから」

「んっ、あ、ダメです、ちょっと……」

 

 軽く首筋を撫でて、可愛らしい刀華の反応を楽しむ。

 ここ数年で俺も随分と阿呆(バカップル)になった気がする。個室が用意されてるのが悪いよ。刀華も嫌がらないというか、そもそもコレは元々彼女の要望だし。此処で止めるとすごく絶望した顔するし。

 

「……悠。昼休み、まだ時間ありますよね」

「あと20分くらいは」

「じゃあ、その……ちゅ、ちゅーしてください」

 

 スイッチが入った刀華が、そう言って目を潤ませて俺を見上げる。

 

「……勤務中にそれは流石にダメじゃない?」

「きゅ、休憩時間は勤務時間に含まれません。誰も来ませんから、ね……?」

 

 体勢を変えてこちらへと向き直った刀華が、俺の襟をくいくいと引っ張る。可愛い。"少しずつ歯止めが利かなくなっている"と言った意味を分かっていただけただろうか。先に我慢出来なくなるのは刀華の方だし、そして俺はつい彼女の要望に応えてしまう。

 

『あ、東堂部長に書類確認してもらわなきゃ……』

『バカ新人、お前まだここのルール知らないのか? 昼休み中は、絶対に部長室へ近寄るな』

『え。何でですか』

『砂糖吐くぞ、マジで。あれ見て東堂部長に惚れてた若手が何人か辞めたからな』

 

 遠くで、新入社員と先輩社員の喋り声が聞こえる。

 段々と侍局内部で公認バカップルのような扱いをされている事を察しながら、それでも目の前で何も知らずに眼を閉じた彼女に抗えず。

 

「……大好きです、悠」

「……愛してるよ、刀華」

 

 ゆっくりと、俺は彼女と唇を重ねたのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

※フリー百科事典『ウキペディア(Ukipedia)』より抜粋

 

甘木 悠 (伐刀者)

 

甘木 悠(あまぎ ゆう)は、日本の伐刀者、役人、公務員。異名は《天譴(てんけん)》。第六十一回、第六十二回、第六十三回《七星剣武祭》優勝者(七星剣王)。

第三次世界大戦において、当時世界最大勢力であった《連盟》の本部を《超人》と共同で制圧し、戦争をわずか1ヶ月で終結させた最大の功労者。彼の戦勝が、戦後の東南アジアを中心とした日本の貿易網(環西太平洋経済圏)の確立に繋がったとされる。

 歴史上、最も強大な力を持った伐刀者の一人と評価される。

 配偶者は、破軍学園生徒会長を務めた東堂刀華。

(映画・漫画・ゲーム『オペレーション:エデン』におけるアマギ・ユウはこちら)

 

 

 

東堂 刀華

東堂 刀華(とうどう とうか)は、日本の伐刀者、国家公務員。異名は《雷切》。

破軍学園生徒会長として第62回七星剣武祭の決勝に進出。のちの夫となる《天譴》甘木悠との激闘は、現代伐刀者史に残る名勝負として知られている。

戦後は日本の治安と防衛を担う《侍局》に入局。大戦後の混乱期において『旧《連盟》過激派・首都報復テロ(黒い三日間)』や『マラッカ海峡海賊連合討伐戦』等において功績を挙げ、後に「《侍局》の再興者」と称えられる歴史的偉人となった。

夫は《天譴》甘木悠。

 子孫には《聖人》甘木咲など、有力な伐刀者が多数存在する(→甘木家)。

(ソーシャルゲーム『オペレーション:エデン』における東堂刀華はこちら)

 

 

 




獲得称号:【天雷】【《侍局》の再興者】【君が待つ、平凡な日常へ】【バカップル】【脳破壊見習い】【脳破壊駆け出し】【脳破壊マスター】 etc...
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。