建設途中の大橋は、濃霧と不気味な静寂に包まれていました。
第七班が白の「魔鏡氷晶」に閉じ込められ、絶望的な戦いを強いられる中、出雲班はタズナを護衛しつつ、その「瞬間」を待っていました。
モモカ「……連。ナルトとサスケのチャクラが乱れているわ。特にナルト……これは、嫌な予感がする」
モモカが写輪眼を輝かせ、氷の鏡の奥を凝視します。その肩で、九重も毛を逆立てて低く唸りました。
連「……ああ。バアルが騒いでいる。九尾の力が漏れ出しているな」
連が呟いた直後、氷の鏡を内側から粉砕する凄まじい「赤い咆哮」が響き渡りました。
サスケが自分を庇って倒れた(仮死状態)ことに激昂したナルト。その全身から溢れ出した禍々しい九尾のチャクラは、白の神速を上回り、圧倒的な力で彼を打ち破りました。
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一方、霧の向こうでは、カカシと再不斬の決着が始まろうとしていました。
カカシ「……再不斬、これで終わりだ。**口寄せ・追尾の術!**」
カカシが呼び出した忍犬たちが、霧の中に潜む再不斬を臭いで捕らえ、その動きを封じます。
再不斬「くっ……! 霧隠れの鬼神ともあろう者が、犬ごときに……!」
カカシ「お前の野望も、ここで潰える。……忍の戦いに、慈悲はない」
カカシの右手に、千の鳥の地鳴きのような雷鳴が宿りました。
カカシ「**雷切!!**」
青白い雷光が霧を切り裂き、再不斬の胸元を狙って一直線に突き進みます。
しかし、その刃が再不斬に届く直前——。
白「——させません」
ナルトに敗れ、ボロボロになりながらも、白は最期の力を振り絞って再不斬の前に立ちはだかりました。
グシャリ……。
カカシの「雷切」は、再不斬を庇った白の胸を深く貫きました。
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静寂が、大橋を支配しました。
再不斬「……あ、あぁ……。白……お前、なぜ……」
再不斬の瞳に、初めて動揺の色が走ります。
白「……再不斬さん……。僕は、あなたの……道具になれましたか……?」
白は口元から鮮血を零しながらも、満足げに微笑み、そのまま息絶えました。
その様子を、少し離れた場所から連は静かに見つめていました。
ティアラが悲しげに「グルゥ……」と鳴き、アローが空で静かに旋回します。
バアル(『ククク……見たか連よ。あれが人の「絆」という名の呪いだ。あのような美しい死を、主も望むか?』)
連「……黙れ、バアル。俺に、あんな顔はできない」
連は冷たく言い放ちましたが、その瞳には白の最期が焼き付いていました。主人のために盾となり、微笑んで死ぬ。それは、連がかつて「道具」として教え込まれた究極の形でありながら、今の彼にはあまりにも「眩しすぎる」光景だったのです。
モモカ「……連。あの子、幸せそうだったわね」
モモカがそっと連の手に触れました。その手は、少しだけ震えていました。
連「……ああ。だが、俺たちの戦いはまだ終わっていない」
連は空を見上げました。
白の死を悼むかのように、波の国には珍しい、白く清らかな雪が舞い始めていました。
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ガトーの卑劣な裏切りと、白の亡骸を足蹴にする所業。
「忍は道具だ」と言い切っていた再不斬の心は、ナルトの叫びによってついに決壊しました。
再不斬「小僧……それ以上は言うな。……白は、心も体も傷つくだけでなく……最後にお前の心まで求めた。……俺も、負けたよ」
包帯に隠された再不斬の目から、大粒の涙が零れ落ちます。
両腕を折られ、動かぬ体にムチを打ち、再不斬はクナイを口に咥えてガトー軍団へと突っ込みました。その姿は、まさに修羅。数多の刃を背に受けながらも、彼は元凶であるガトーを海へと叩き落とし、道連れにしました。
降りしきる雪の中、カカシの手によって白の隣へと横たえられた再不斬。
再不斬「……できるなら……お前と同じところへ……行きたいなあ……」
震える手で白の頬に触れようとし、そのまま鬼神は静かに瞳を閉じました。
白く、あまりに清らかな雪が、血に汚れた大橋を覆い隠していくようでした。
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数日後。
再不斬と白を、見晴らしの良い丘に葬った一行は、完成した大橋の上に立っていました。
タズナがこの橋を「ナルト大橋」と名付けるのを、ナルトは照れくさそうに、しかし誇らしげに見ています。
モモカ「……行くよ、連。みんな待ってるわよ」
モモカが、旅支度を整えて声をかけました。
連「ああ。……だが、その前に一つだけ」
連は橋の欄干に歩み寄り、静かに印を組みました。その背後では、ティアラが静かに座り込み、アローが欄干に止まって空を見つめています。
連「……バアル。あいつへの手向けだ。力を貸せ」
バアル(『ククク……よかろう。道具として生き、道具として散ったあの少年に、最強の光を見せてやれ』)
連の全身から、これまでにないほどの高密度の紫電が溢れ出しました。
それはもはや火花ではなく、物理的な圧迫感を持った雷の奔流。
連「**紫電流・極——『紫電龍(しでんりゅう)』!!**」
連が突き上げた右拳から、巨大な紫の龍が咆哮を上げながら天空へと昇り詰めました。
龍は波の国の曇天を突き破り、遥か高空で紫色の光となって弾けました。それは、まるで雪の空に咲いた一瞬の、しかし力強い華のようでした。
モモカ「……連。今の、白に届いたかしら」
モモカが連の隣に並び、消えゆく紫の光を見つめます。
連「届いたさ。……あいつも、あの再不斬って男もな」
出雲が酒瓶を傾け、空に向かって一口捧げました。
連は、自分の右手の震えを見つめました。白の生き様は、同じ「道具」としての教育を受けてきた連の心に、消えない楔を打ち込みました。
連「……俺は、誰の盾にもならない。俺自身が、全てを貫く雷(いかずち)になる」
その決意を胸に、連は一度だけ丘の上の墓標を振り返り、木ノ葉の里へと続く道を歩み始めました。
肩に乗るアローの重みと、隣を歩くモモカの体温。
孤独な「道具」であったはずの連の背中には、今はもう、独りではない者の影が強く、確かに伸びていました。
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**波の国編・完**