木ノ葉病院の個室。遮光カーテンの隙間から差し込む朝日は、今の連にとって、あまりにも眩しすぎて吐き気を催すものでした。
全身に巻かれた包帯。経絡系を焼き切られたような疼き。そして何より、首筋に残る「呪印」の痕が、脈打つたびに連のプライドを抉ります。
出雲「……目が覚めたようね」
窓際に立っていたのは、いつもの酒瓶を持たない、真剣な眼差しの出雲でした。彼女の手には、先ほどまで連の首に施していたであろう封印術の残り香が漂っています。
出雲「呪印は『五行封印』で抑え込んだわ。……大蛇丸の残した毒が、あんたのチャクラとバアルの力を無理やり混ぜ合わせたせいで、細胞がボロボロよ」
連は震える手を見つめました。
死の森で感じた、あの万能感。他里の忍を紙屑のように吹き飛ばした、暴力的なまでの力。あれを知ってしまった今、元に戻った自分の体が、ひどく頼りなく、脆弱な檻のように感じられました。
連「……先生」
出雲「何よ、弱音なら今のうちに聞いてあげるわよ」
連「……もっと、強い力が欲しい」
連の声は低く、そして深く沈んでいました。
出雲が息を呑むのが分かりました。連はベッドから身を乗り出し、激痛に顔を歪めながらも、出雲の瞳を真っ直ぐに射抜きました。
連「呪印の力じゃない。……あんな偽物の毒に頼らなければ、バアルのチャクラすら制御できない自分が、……俺自身が許せない。あの時、俺は力に振り回されて、ただの壊れた人形だった」
出雲「連……」
連「俺は、盾にも、道具にもならないと言った。……だが、今のままじゃ、誰かを守るどころか、自分の首を絞めることしかできない。……先生。バアルを、龍を完全に支配するための術を、俺に叩き込んでくれ」
出雲は黙って連の傍らへ歩み寄り、その熱を持った額を、大きな掌で力強く押さえつけました。
出雲「……バカね。あんたは十分強いわ。でも、そう言うと思ったわよ」
出雲は少しだけ寂しげに笑い、それから鋭い「忍」の顔に戻りました。
出雲「いい? これからあんたが求めるのは、チャクラの量じゃない。『質』の究極よ。龍のチャクラを、あんたの細胞一つ一つに完全に馴染ませる、命懸けの修行になるわ」
出雲は窓の外、演習場の方を見据えました。
出雲「中忍試験の予選まで時間は少ない。……でも、あんたがその地獄に耐えるって言うなら、私の『秘蔵』を全部あんたにぶつけてあげる。……死んでも、文句を言わないことね」
連「……望むところだ」
連の瞳に、再び紫の火花が宿りました。それは呪印の禍々しい赤黒い色ではなく、自らの意志で全てを切り開こうとする、高潔で鋭い雷の光でした。
バアル(『ククク……連よ、面白い。主が妾を完全に呑み込むと言うか。……よかろう、その気概、試してやるわ!』)
精神世界のバアルも、連の覚悟に呼応して咆哮を上げました。
病室の空気が、連の放つ静かな、しかし確かな闘志によって震えていました。
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退院からわずか数日。連の体にはまだ痛々しい包帯が巻かれていましたが、彼は出雲に連れられ、里の奥深くにある禁足地の滝へと向かっていました。
出雲「いい、連。今のあんたの器じゃ、バアルのチャクラをそのまま流せば、また内側から焼き切れる。だから今回は、龍の十本の尾のうち、わずか『一、二本分』のチャクラだけを、あんたの特定の経絡に『限定接続』させる訓練をするわ」
出雲が印を結ぶと、滝の周囲に強固な結界が張られました。連は激流に打たれながら、精神世界の奥底に眠るバアルの意識に手を伸ばします。
連「(……バアル、約束だ。二本分だけ、その力を寄越せ)」
バアル(『ククク……欲のない小僧よ。だが、その慎重さが主の命を繋ぐことになるだろう……。持っていけ、紫の雷を!』)
ドォォォォン!!
連の背後から、実体化したかのような巨大な紫電の尾が二本、猛然と噴き出しました。滝の水が瞬時に蒸発し、周囲の岩盤が電磁波によって砕け散ります。
連「ぐっ……、あ、あああぁぁ!!」
凄まじい密度のエネルギー。二本だけでも、これまでの「バアルの力を借りる」とは次元が違いました。それは連自身の脊髄を新たな神経系として上書きするような、激しい苦痛と高揚感を伴います。
出雲「制御しなさい、連! 龍に飲まれるな、あんたが龍を操るのよ!」
出雲の怒号が響く中、連は必死に歯を食いしばり、暴れる二本の尾を自らの意志で「形」へと変えていきました。
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修行開始から数時間。連は滝壺に膝をつき、激しい息を吐いていました。背後の雷の尾はすでに霧散していますが、連の全身からは煙が立ち上っています。
連「……ハァ、ハァ……。これなら……呪印に頼らずとも……」
出雲「……そうね。今のあんたなら、一瞬だけなら中忍を優に超える火力を出せるわ。でもね、連。よく聞きなさい」
出雲は連の前にしゃがみ込み、その顔を覗き込みました。その目は、いつになく厳格な師の目でした。
出雲「今のこれは、言ってみれば究極の『一夜漬け』よ。あんたの細胞がこの出力に耐えられるのは、せいぜい数分……いえ、数撃が限界ね。それ以上使えば、チャクラ切れどころか、あんたの精神が焼き切れて廃人になる」
出雲は連の肩を強く掴みました。
出雲「いい? この『二本』は、本当に死ぬか生きるかのピンチか、あるいは絶対に負けられない強敵が相手の時以外、決して使うんじゃないわよ。これは今のあんたにとって、最強の武器であると同時に、自分を殺す刃でもあるんだから」
連「……分かっています。切り札は、最後まで隠しておくものですから」
連はふらつく足で立ち上がると、傍らで見守っていたティアラの首筋に手を置きました。ティアラは主人の新たな力を感じ取ったのか、畏怖と敬愛の入り混じった瞳で連を見つめています。
バアル「(『……連よ、楽しみだ。中忍試験の舞台で、誰が主にこの『二本』を使わせるまで追い詰めるか……』)」
精神世界のバアルの不敵な笑い声を聞きながら、連は中忍試験予選の会場——地獄の入り口へと、再び歩みを進めました。不完全な「龍の尾」をその身に宿して。
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