演習場から緊急搬送された連の容体は、深刻なものでした。無理なチャクラ解放による毛細血管の破裂と、呪印による経絡への侵食。何より、戦闘中に流した血の量が、少年の小さな器が耐えられる限界を超えていました。
医療忍者1「血が足りないわ! 急いで、この子の型に合うストックを!」
医療忍者2「ダメです、連様の血液はバアルの影響で特殊に変質している……通常の血液では拒絶反応が起きます!」
医療忍たちの焦燥が漂う医務室で、出雲が苦い顔で壁を叩きました。
そこへ、息を切らせて駆け込んできたのはモモカでした。
モモカ「私の血を使ってください!」
出雲「モモカちゃん、何を……」
モモカ「わかってます、私の血も写輪眼の……うちはの特異な性質を持っている。でも、連と私のチャクラは、これまで九重を通じて何度も同調させてきました。相性は……他の誰よりも良いはずです!」
モモカは迷うことなく腕を捲り、ベッドで青白く横たわる連を見つめました。
モモカ「連のためなら、私の血なんて、全部あげたっていい……」
医療忍が出雲の顔を仰ぎ見ると、彼女は静かに頷きました。
出雲「……やりなさい。責任は私が持つわ」
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輸血が始まってから数時間。
モモカの体から連の体へと、ゆっくりと「紅い絆」が流れ込んでいきました。
連の青白かった頬に、わずかですが赤みが戻り始めます。モモカは自身も血を抜かれたふらつきを感じながらも、連の手を片時も離さず、もう片方の手で彼の額を冷やし続けました。
九重「(……クゥン)」
九重がベッドの足元で、連の足の冷えを自らの体温で温めるように丸まっています。
モモカ「連……私、勝手に貴方の中に私の血を入れちゃった。……起きたら、怒るかしら」
モモカは自嘲気味に微笑み、連の寝顔を見つめました。
演習場の方からは、次の試合を待ち侘びる大歓声が微かに響いてきます。それは、うちはサスケと、あの我愛羅の再戦を告げる前触れでした。
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連「……っ……ぁ……」
微かに指先が動き、連の瞼が震えました。
視界に飛び込んできたのは、白い天井と、すぐそばで涙を溜めて微笑むモモカの顔でした。
モモカ「連……! よかった、気がついたのね!」
連「……モモカ……? 俺は……」
連は自分の体の中に、自分のものではない「温かくて力強い熱」が流れているのを感じました。それはバアルの荒々しい雷とは違う、穏やかで慈愛に満ちた、モモカのチャクラの残滓。
モモカ「貴方の体、私の血でいっぱいよ。だから……もう勝手に死なせないんだから」
モモカの言葉に、連は驚いたように目を見開き、それから少しだけ申し訳なさそうに視線を逸らしました。
連「……すまない。借りが……できすぎたな」
その時、演習場の方からドォォォォン!! という、先ほどの自分たちの試合をも上回る衝撃音が響き渡りました。建物全体が揺れ、窓ガラスがガタガタと音を立てます。
連「……始まったのか。サスケと、あの我愛羅が」
連は点滴の針を抜き、痛む体にムチ打ってベッドから足を下ろしました。
バアル「(『連よ、まだ寝ていろ……と言いたいが、外の空気が変わったぞ。……不吉な「蛇」の匂いが里中に満ちておるわ』)」
精神世界のバアルが、かつてない警戒心を露わにしています。
サスケ対我愛羅の対決。それは、木ノ葉隠れの里が崩壊へと向かう、暗黒の序曲の始まりでもありました。
連「モモカ、九重。行くぞ……里の様子がおかしい」
連はモモカの肩を借りて立ち上がり、戦場へと続く窓の外、不気味に静まり返った里の空を見据えました。
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病院を飛び出し、連とモモカが辿り着いた先は、中忍試験会場の主賓席——その屋根の上でした。しかし、そこはすでに異様な熱気と紫の炎に包まれていました。
モモカ「……あれは、**四紫炎陣(ししえんじん)**!?」
モモカが写輪眼を凝らして叫びました。屋根の四隅に配置された音隠れの忍が、巨大な立方体の結界を展開しています。その内側では、三代目火影・ヒルゼンと、かつての教え子であり里を裏切った大蛇丸が、命を削る死闘を繰り広げていました。
連「火影様……! どいてろ、俺がぶち破る!」
連はまだ癒えぬ体に鞭打ち、右手に「千鳥(紫電)」を宿そうとチャクラを練ります。しかし、首筋の呪印がその瞬間に激しく脈打ち、連は膝をついて激しく吐血しました。
モモカ「ダメよ連! あの結界に触れたら、ただじゃ済まない……! 暗部の精鋭たちですら、手出しできずにいるのよ!」
モモカの言う通り、結界の周囲には立ち尽くす暗部たちの姿がありました。触れるもの全てを焼き切る紫の炎が、外からの干渉を一切拒絶していたのです。
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連「クソッ……! 目の前で里の長が戦っているのに、俺たちは見てるだけかよ……!」
連は、結界の内側で展開される「究極の忍術」を凝視しました。
初代、二代目の火影を穢土転生で呼び出し、かつての師と戦わせる大蛇丸の冒涜的な行為。そして、老体にムチを打ちながら、里を守るために「火の意志」を燃やすヒルゼンの後ろ姿。
バアル「(『連よ……無駄だ。あの結界は「理」を隔てておる。今の主がどれほど雷を放とうと、あの炎を抜ける前に、主の器が灰になるだけだ……』)」
精神世界のバアルも、静かに、しかし厳粛に告げました。最強の雷龍ですら、今の連の衰弱した体では、あの結界を突破する奇跡は起こせないと断じていました。
九重「……コン。」
九重が連の足元で、無力な自分を責めるように低く鳴きました。モモカもまた、写輪眼で捉えてしまう「死の予感」に、唇を噛みしめ、血が滲むほど拳を握り込んでいました。
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結界の中では、三代目火影が最後の手——**『屍鬼封尽(しきふうじん)』**を仕掛けようとしていました。その覚悟の表情が、連とモモカの目に焼き付きます。
出雲「……連。見てなさい。あれが、木ノ葉の忍が最期に見せる、誇りよ」
背後に音もなく現れた出雲が、二人の肩にそっと手を置きました。彼女の瞳にも、かつての師を失う哀しみが、しかしそれ以上に強い信頼の色が宿っていました。
連「先生……! でも、あのままじゃ……!」
出雲「加勢できないことを悔やむ暇があるなら、その目に焼き付けなさい。里を守るとはどういうことか……あんたたちが、これからの木ノ葉を背負うんだから」
連は、溢れ出そうになる涙を堪え、震える視線で結界の中の死闘を見つめ続けました。
激しい雷鳴も、自分の猛獣たちの咆哮も届かない、紫の炎に隔てられた静寂の戦場。
連の心に、これまで感じたことのない「無力さ」と、それを塗りつぶすほどの「強さへの渇望」が、深く、鋭く刻み込まれていました。
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