雨隠れの塔の深部、湿った空気と冷たい石の壁に囲まれた広間で、連は新しい装束――「暁」の外套を羽織っていた。一年前からこびり付いていた血と泥、そして己を縛っていた木ノ葉の残り香を洗い流した連の肌は、死人のように白く、無機質だった。
ペイン「……連。今日からお前のパートナーとなる者だ。……出てこい」
ペインの重厚な声が響くと、部屋の隅にある巨大な石柱の影から、一人の人影がふらりと現れた。
連の「永遠の万華鏡写輪眼」が、その姿を捉える。
そこにいたのは、連の肩ほどまでしか背丈のない、驚くほど小柄で華奢な少女だった。艶やかな黒髪を無造作に切り揃えたショートボブ。そして、左右で色が異なる鮮やかなオッドアイ。右目のエメラルドと左目のサファイアが、暗闇の中で異様な光を放っている。
躯「……あは。あなたが、新しい『おもちゃ』?」
少女――**躯(ムクロ)**は、連を見上げるなり、口角を吊り上げて笑った。その瞳には、知性よりも先に、剥き出しの狂気と「同類」を見つけた歓喜が宿っていた。
連は無言のまま、冷徹な視線で彼女を観察した。彼女が着ている暁の外套は、その小柄な体にはあまりに大きく、肩がはだけて鎖骨のあたりが露出している。そこには、皮膚に直接彫り込まれた黒い術式が、血管のように這い回っていた。
連「……子供が、俺の相棒か」
躯「子供? あはは! 面白いこと言うね。ねぇ、その眼……素敵。たくさんの人を、絶望させて、引き裂いてきた眼だ。私、一目でわかっちゃった」
躯は連に歩み寄ると、躊躇うことなく彼の胸元に鼻を寄せ、クンクンと匂いを嗅いだ。
躯「……くんくん。……あぁ、いい匂い。外套は新しくても、あなたの魂からはまだ『肉が焼ける臭い』がする。最高。ねぇ、私を壊してくれる? それとも、一緒に誰かを壊しに行く?」
連は彼女の無礼な振る舞いを無視し、出口へと歩き出そうとした。だが、躯の狂気はそれだけでは収まらなかった。
躯「……ねぇ、無視しないでよ」
背後で、金属が擦れる嫌な音が響いた。
連が振り返るよりも早く、躯の腹部の術式が黒く光り、そこから巨大な、血に汚れた**「大鎌」**の刃がせり出してきた。
連「っ……!」
連は瞬時に跳躍し、距離を取る。
躯は、自らの皮膚を切り裂いて出現した鎌の柄を、快楽に満ちた表情で握り締めた。彼女の腹部からは鮮血が滴っているが、彼女はそれを拭おうともせず、逆にその痛みを噛み締めるように体を震わせている。
躯「あぁ……っ、熱い♡……最高♡。この『産声』、聞こえる? 私の中に、何千もの刃が眠ってるの♡」
連「……頭のイカれた女だ」
連の右眼に、紅い雷光が宿る。
連「【紅蓮雷鳴】。……死にたいなら、今ここで灰にしてやる」
躯「いいよ、やってみて! あなたの雷で、私の術式を全部焼き切ってよ!」
躯は巨大な鎌を振り回し、連に向かって突進した。その動きは小柄な体躯からは想像もできないほど速く、かつ不規則だ。連は「永遠の万華鏡」でその軌道を見切るが、躯の攻撃には「自衛」という概念が一切存在しない。自分を切り裂くことも厭わない、文字通りの特攻。
連はスサノオの腕を具現化させ、その巨大な掌で鎌の刃を受け止めた。
ガギギギィ!!
金属とチャクラが激しくぶつかり合い、火花が散る。その至近距離で、躯は連の顔を覗き込み、恍惚とした表情で囁いた。
躯「……ねぇ、連。あなたのその『冷たさ』、ゾクゾクする。もっと……もっと私を蔑んで、無残に殺すように戦って。そうすれば、私たちは最高のパートナーになれるわ」
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連はスサノオの力で躯を突き放した。
躯は軽やかに後方へ着地すると、何を思ったのか、その場で暁の外套を脱ぎ捨てた。
連「……おい、何をしている」
躯「あはは、暑苦しいし、邪魔なんだもん。それに……見せたいの。私の『全て』を」
連の前に晒された彼女の肉体は、あまりに凄惨だった。
鎖骨、腕、脇腹、脚の付け根に至るまで、全身にびっしりと口寄せの術式が刻まれている。華奢なAカップの胸元にも、忍具を出し入れするための鋭い術式が走り、先ほど自ら鎌を引き出した腹部の傷からは、未だに血が流れている。
彼女にとって、裸を見せることは羞恥ではなく、自らの「兵器としての完成度」を誇示することだった。
躯「私の体は、全部が武器の倉庫。どこからでも、何でも出せるよ。連の雷で、この鉄たちを熱くして。一緒に、世界中に痛みをバラ撒こうよ」
連は、彼女のオッドアイの奥にある、一切の救いがない「純粋な破壊衝動」を見た。
そこには、かつてのモモカが持っていた慈愛も、出雲が持っていた厳しさもない。ただ、自分と同じように「壊れてしまった」者だけが持つ、共鳴(シンクロ)があった。
連「……勝手にしろ。ただし、俺の邪魔をするなら、その時はお前ごと敵を焼き払う」
躯「あはは! それ、約束だよ? 私を焼き払ってくれるって、約束したからね!」
躯は嬉しそうに笑い、脱ぎ捨てた外套を適当に拾い上げると、再び肩をはだけさせたまま連の隣に並んだ。
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連「……行くぞ。最初の仕事だ」
連は背後を振り返ることなく、雨の降りしきる外へと歩き出した。
永遠の万華鏡写輪眼を宿し、血塗れの過去を捨てた少年の隣に、全身を刃の術式で埋め尽くした小柄な狂い犬が付き従う。
躯「連、連! 最初の獲物は、どんな鳴き声で死ぬかな? 私、喉を裂く時の『シュッ』て音が一番好きなんだ」
連「……黙って歩け」
躯「あは、冷たい! でも、そんな連が大好き!」
雨隠れの冷たい雨が、二人の足跡を消していく。
最強の瞳術と、最凶の遍身武装。
光を失った二人組の影が、戦乱の予感に満ちた忍界へと伸びていく。
それは、五大国が未だかつて経験したことのない、凄惨な「芸術」の始まりでもあった。
連は、万華鏡の奥でモモカの声を探した。だが、聞こえてくるのは、隣で跳ねるように歩く少女の、狂気に満ちた笑い声と、彼女の体内から響く「鋼の産声」だけだった。
バアル「(『……ククク、主よ。相変わらず、主は奇妙な女に好かれるな。だが……あの娘の狂気、妾は嫌いではないぞ』)」
バアルの笑い声と共に、連の右手に黒い雷が宿る。
暁の新たなペア、「紫電と狂犬」。
彼らの行く先には、もはや平和の二文字は存在せず、ただ紅い雲と、深紅の電光、そして鉄の臭いだけが支配する未来が待っていた。
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