雨隠れの里の最上層。鉄の塔を叩く雨音は、どこか弔鐘(ちょうしょう)の響きに似ていた。
連は預かっていた二尾のチャクラの封印を完了し、ペインへの報告を終えたところだった。そこへ、虚空から現れた「ゼツ」の半身が、粘つくような声で告げた。
ゼツ「……連。面白いニュースだよ。あの大蛇丸が殺された。……君のよく知る、うちはサスケの手によってね」
連の眉が、僅かに動いた。
連「……サスケが、大蛇丸をか」
一年前、自分にモモカの眼を移植し、永遠の万華鏡を与えた狂気の科学者。いつか自分の「器」を奪いに来ると公言していた男の死。連は無意識に、首筋に刻まれた三つ巴の「呪印」に指を触れた。
連(……大蛇丸が死んだのなら、この呪いは消えるはずだ)
しかし、指先に伝わってくるのは、以前と変わらぬ禍々しい熱量と、脈打つような不快なチャクラの波動だった。呪印は消えるどころか、主の死を嘲笑うかのように、より深く連の細胞へと根を張っていた。
連「……消えていない。……いや、むしろ俺の中に同化し始めているのか」
躯「あはっ! 大蛇丸様、死んじゃったの? つまんないのー。あの人の実験、痛くて最高だったのに!」
隣で躯(ムクロ)が、自分の腕に刻まれた術式を爪で引っ掻きながら笑う。
連「……サスケは、もうかつての弱者ではないということだ。……連よ、お前もいつまでも過去に囚われるな」
ペインの無機質な声が、広間に響き渡った。
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ペイン「大蛇丸の死など、我々の計画の些末な事象に過ぎん。……連、躯。休む間もなく次の命を下す」
ペインが印を結ぶと、背後の闇から二つの巨大な人柱力の幻影が浮かび上がった。
一つは、蒸気を操る巨躯の持ち主、土の国の**五尾・穆王(コクオウ)**。
もう一つは、巨大なカブトムシのような翼を持つ、滝の国の**七尾・重明(チョウメイ)**。
ペイン「五尾の人柱力・ハンは、岩隠れの里の外縁にて修行中だ。七尾の人柱力・フウは、滝の隠れ里にて厳重に保護されている。……この二体を、お前たち二人で同時に、あるいは迅速に順次捕獲せよ」
躯「二人で二体……? あはっ、連! 忙しくなるね! 蒸気で焼かれるのと、虫に刺されるの、どっちが痛いかなぁ!」
躯が歓喜に身体をくねらせるが、連は冷徹な瞳を崩さなかった。
連「……五尾と七尾。……了解した。……だが、滝の里は『英雄の水』で知られる難攻不落の地。……根こそぎ焼き払うことになるが、構わないな」
ペイン「目的は人柱力の回収のみだ。……それ以外のすべては、お前の『裁量』に任せる。……神の痛みを、世に知らしめてこい」
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数日後。土の国、常に霧と蒸気が立ち込める「煙突山」。
連と躯は、巨大な鎧を纏った五尾の人柱力・ハンと対峙していた。
ハン「……暁か。……この蒸気の檻から、生きて出られると思うなよ」
ハンが背中の煙突から超高圧の蒸気を噴射し、音速に近い速度で突進してくる。
ドォォォォン!!
大地が陥没し、衝撃波が山を震わせる。
連「……遅いな。……【比良坂】」
連は左眼で空間を僅かにずらし、ハンの突進を空振らせる。直後、右眼の紋様が激しく回転した。
連「【紅蓮雷鳴】!!」
漆黒の雷が、ハンの鎧の隙間を縫って内部へと侵入する。
ハン「ぬ、ぉぉぉぉっ!? 蒸気が……雷で分解される……!?」
連「躯、やれ。」
躯「はーい! **口寄せ忍法・遍身武装——『血釘』!!**」
躯が指先の術式から、数千本の極細の千本を弾丸のように射出する。それは連の雷によって帯電し、ハンの神経系をピンポイントで麻痺させていった。
躯「あはは! 凄い、鎧の中がアツアツだよ! もっと鳴いて、もっと蒸気を出して!」
数分後。五尾の巨躯は、連の漆黒の雷に完全に沈黙し、白煙を上げながら地面に伏した。連はハンの首を掴み、無造作に地面を引きずりながら、次の目的地——滝の国へと歩き出した。
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滝の国。巨大な滝の裏側に隠された、歴史上一度も他国の侵入を許さなかった難攻不落の里。
だが、連の「永遠の万華鏡」の前では、どんな秘匿された結界も無意味だった。
連「……九重。……少し派手に行くぞ」
九重「(『……心得ました、主よ。……この鬱陶しい滝の音、火の海で掻き消してやりましょう』)」
連が口寄せした九重は、三つの尾を扇状に広げ、連の漆黒の雷を吸収して巨大な火の鳥へと変貌した。
連「**紅蓮・九重流——『焦熱の滝落とし』!!**」
巨大な炎の塊が滝を蒸発させ、里の入り口を文字通り「消滅」させた。
里の忍たちがパニックに陥る中、七尾の人柱力・フウが空へと舞い上がる。
フウ「何をするのさ! 私の里を、みんなを傷つけないで!」
連「……死人に口なしだ。」
連はスサノオを顕現させた。
紅緋色の巨人が、背中から六枚の翼を広げ、空中のフウを追い詰める。
左手の「比良坂の大弓」が引かれ、右手の「雷槍」が矢としてつがえられる。
連「**『紅蓮・神産巣日』。……逃げ場はない**」
放たれた雷の矢は、空を切り裂き、フウの翼を根元から焼き切った。
墜落する少女。躯が空中で彼女をキャッチし、腹部から引き出した「大鎌」の峰で彼女の経絡を叩き潰した。
躯「あはっ! 捕まえた! 綺麗な羽だね、これも剥いじゃっていい?」
連「……連れて行くぞ。儀式が待っている」
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二体の人柱力を引きずり、連と躯は再び雨隠れの里へと戻った。
二尾、五尾、そして七尾。
連が関わった尾獣の回収は、すべてにおいて完璧な成功を収めていた。
ペインの前に、二体の生け贄が並べられる。
ペイン「……見事だ、連。……大蛇丸という『過去』を捨て、お前は真に神の使徒へと近づいた」
連は自分の手を見つめた。
身体は疲れを知らず、視界は永遠に明瞭だ。大蛇丸の死によって呪印が消えなかったのは、もはやこの呪いさえも「自分の力」として完全に取り込んだ証拠なのだと、連は悟った。
連「……次は何だ。……九尾か?」
ペイン「……九尾は最後だ。……次は、蛇(サスケ)が動き出す。……連よ、お前の兄弟子とも言えるサスケが、イタチを追っている。……それをどう見る?」
連の脳裏に、かつて競い合ったサスケの横顔が浮かんだ。
だが、今の連に宿るのは、懐かしさではなく、ただ一人の「万華鏡保持者」としての冷徹な闘争心だけだった。
連「……どちらが勝とうと、俺には関係ない。……残った方を、俺が喰らうだけだ」
連の眼の中で、モモカの八重桜が不気味に脈動した。
大蛇丸の死。尾獣の回収。そして、うちは一族の宿命の決戦。
すべての歯車が、連という「絶望の象徴」を中心に、狂ったように回転し始めていた。
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