第41話 恐怖の伝播、闇の完成
鉄の国の五影会談が壊滅し、世界が「忍連合軍」結成に向けて激動する中、うちはサスケはイタチの眼を馴染ませるために深い闇の中で眠りについていた。
その沈黙の時間を、連と躯(ムクロ)は、世界の「希望」を摘み取るための蹂躙に費やしていた。
躯「……連、次の獲物はあっち! 雷の国へ向かう兵站(へいたん)部隊だよ。大きな荷物の中に、たくさんの『痛み』が隠れてそう!」
北方の渓谷。雪混じりの風が吹き荒れる中、連は漆黒の外套をなびかせ、崖の上から眼下の連合軍部隊を見下ろしていた。
一年前、木ノ葉の病室で一度だけ流した涙は、今や完全に乾ききっている。清潔になった身体に纏うのは、かつての「暁連」という少年が持っていた甘さではなく、純粋な破壊の意志だけだった。
連「……始めよう。躯、お前の『武装』をすべて解き放て。一人も生かして国境を越えさせるな」
躯「あはは! 了解! **口寄せ忍法・遍身武装——『千手抜刀・狂乱』!!**」
躯が崖から飛び降りる。空中で彼女の背中、腕、脚、あらゆる術式から刀の柄が突き出し、文字通り「刃の球体」となって連合軍の真っ只中へと突っ込んだ。
「なっ……暁だ! 迎撃しろ!」
「ぎゃああああ! 腕が、腕がああ!!」
躯の戦闘は、戦いではなく「解体」だった。彼女は自らの肉体が切り裂かれる苦痛に恍惚とした表情を浮かべ、血を撒き散らしながら踊るように刃を振るう。
連は、その凄惨な光景を冷徹な瞳で見つめながら、静かに指を組んだ。
連「……露払いは終わったな。【紅蓮雷鳴】」
連の視線が向けられた瞬間、渓谷全体を真っ赤な雷光が埋め尽くした。
逃げ惑う忍たちが、術を発動させる暇もなく、細胞レベルで焼き切られていく。連の漆黒の雷は、呪印の力を取り込んだことで、より重く、より「死」に近い性質へと変質していた。
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連と躯による強襲は、一度では終わらなかった。
ある日は土の国の物資貯蔵庫を、ある日は水の国の暗部連絡線を。
彼らが通った後には、生存者は一人も残らず、ただ「黒い焦げ跡」と「バラバラに解体された鉄屑」だけが残された。
忍連合軍の総本部では、各地から届く凄惨な報告に、五影たちが顔を歪めていた。
エー「またか……! 今度は『霜の国』の駐屯地が全滅だと!? 犯人は例の二人組か!」
雷影・エーが机を叩き割る。
「……ええ。目撃証言すらありません。ただ、漆黒の雷で山が消え、辺り一面に忍具の破片が降り注いでいたと……。木ノ葉の抜け忍、暁連。もはや一介の忍の手に負える存在ではありません」
その恐怖は、前線の忍たちの士気を著しく低下させていた。
「暁連が来る」
その一言は、死神の宣告と同義だった。かつて彼を知っていた木ノ葉の忍たち、特に同世代のナルトやサクラ、シカマルたちにとって、それは胸を締め付けられるような恐怖と悲しみだった。
だが、連に迷いはない。
彼は襲撃の合間、誰もいない荒野で口寄せした九重(ここのえ)を撫でながら、昏い瞳で月を見上げていた。
連「……九重。世界が震えている。俺たちの撒いた恐怖が、連合軍という名の脆い絆を蝕んでいる」
九重「(『……主よ。彼らの恐怖は、モモカ様の受けた苦しみの万分の一にも満ちませぬ。……もっと、もっと深い闇を、この世界に与えてやりましょう』)」
九重は連の汚れた――いや、今は清潔だが血の匂いだけが染み付いた手を舐めた。連の指先には、今朝殺した忍の体温が微かに残っている。
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サスケが目覚める前日。
連は最大のデモンストレーションとして、連合軍が結集しつつあった「湯の国」の最前線基地を、真っ向から強襲した。
そこには数千の忍がひしめいていたが、連は逃げ隠れすることなく、正面玄関から堂々と歩み寄った。
「止まれ! 貴様、何者だ!」
数門の大型忍具砲が連に向けられる。
連「……名前など、死ぬ間際に思い出す必要はない」
連の両目が、永遠の万華鏡の紋様を鮮烈に描き出した。
連「**須佐能乎(スサノオ)!!**」
巨大な紅緋色の武神が、基地を押し潰さんばかりの威容で顕現する。
連のスサノオは、甲冑をさらに重厚なものへと進化させていた。左手の「比良坂の大弓」には、右眼の熱量を限界まで圧縮した「三本の雷矢」がつがえられる。
連「『熾盛・神鳴矢・参連(しじょう・かみなりのや・さんれん)』」
放たれた三本の矢は、空間を裂き、基地の三箇所で同時に爆発した。
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
爆風だけで数キロ先まで森林がなぎ倒され、基地にいた数千の忍は、戦うどころか「何が起きたか」を理解する前に、その存在をこの世から消された。
炎上する瓦礫の中、連はゆっくりと着地した。
躯「……あは、あはははは! 凄い、最高だよ連! この匂い、この熱! 全員が『絶望』して死んでいった! 私、こんなに幸せなのは初めて!」
躯が、死体の山の上で血まみれの服を脱ぎ捨て、全裸に近い姿で雨のように降る火の粉を浴びて笑っている。彼女の全身の術式は、過剰な供給を受けたチャクラで不気味に赤黒く光っていた。
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連は、燃え盛る基地の中央に立ち、天を仰いだ。
その視界の端、時空間が歪み、トビの姿が現れる。
トビ「……素晴らしい成果だ、連。連合軍の足並みは完全に乱れた。……そして、吉報だ。サスケが目覚めたよ」
連の口角が、僅かに上がった。
連「……そうか。ようやく、準備が整ったか」
トビ「ああ。彼の眼は、イタチ以上の闇を宿している。……連、君とサスケ、そして私の白ゼツ軍団。これで第四次忍界大戦の役者は揃った」
連は、一年前から一度も着替えていなかったあの血塗れの服を、心の中で完全に焼き捨てた。今の自分は、清潔な服を纏いながらも、内側は誰よりも黒く、汚濁に満ちている。
連「躯、行くぞ。……アジトへ戻る」
躯「はーい! サスケくんに自慢しなきゃ。私たちがどれだけ綺麗に人を壊したか!」
連は最後にもう一度、紅く燃える基地を見つめた。
そこにいた忍たちの叫びも、家族への想いも、連にとってはただの雑音だった。
永遠の万華鏡写輪眼。
その瞳が捉えるのは、すべてが灰になり、誰もいなくなった静寂の世界。
連(……モモカ。……もうすぐだ。……お前のために、俺がこの世界を墓場にしてやる)
漆黒の雷光が弾け、連と躯の姿は戦場から掻き消えた。
翌朝、忍連合軍は「最強の二人組」による最前線基地の壊滅を知り、未曾有のパニックに陥ることになる。
そしてその日、アジトの奥底で、一人の男が「永遠」の光を宿した瞳を、ゆっくりと開いた。
第四次忍界大戦。
それは、二人の「永遠の眼」を持つ復讐者たちによって、地獄以上の惨劇へと塗り替えられようとしていた。
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