第四次忍界大戦の主戦場から離れた場所——「終焉の谷」。かつてうちはマダラと千手柱間が死闘を繰り広げ、ナルトとサスケが袂を分かったその地で、二人の少年は再び、互いの全てを賭けて激突していた。
連は、巨大な初代火影の石像の頭上で、ただ静かにその光景を見守っていた。左手に刻まれたアグニの「楔」は、今も時折不気味な熱を放ち、連の身体を苛んでいる。しかし、今この瞬間だけは、その痛みさえも、眼下の二人が奏でる「絆」の音にかき消されていた。
連「……ナルト。サスケ」
ボロボロになり、チャクラも底を突き、それでも拳を振るい合う二人。やがて、二人は互いの片腕を失い、横たわったまま朝日を仰いだ。サスケがナルトの「諦めない心」に屈し、涙と共に和解を認めた時、この長い、あまりにも長い忍界の夜が明けたことを連は確信した。
二人が残った片手ずつで「和解の印」を結ぶ。その瞬間、世界を覆っていた「無限月読」の術式が逆流し、神樹の繭から人々が解き放たれていく。連の右眼に宿るモモカの意志が、温かい風となって彼女の頬を撫でた気がした。
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連「……ぐ、ぁ……っ!」
無限月読が解除された直後、連の左手の楔が激しく脈動した。カグヤの消滅に伴い、彼女の内に閉じ込められていた尾獣たちの膨大なチャクラが、アグニが残した「門」である連の楔を介して、現世へと溢れ出したのだ。
バアル「(……連よ、堪えろ! 尾獣たちの魂を、現世へ繋ぎ止めるのだ!)」
バアルの声が響く。連は歯を食いしばり、暴走しそうなチャクラの奔流を自分の肉体という器で受け止め、それを一つずつ丁寧に切り離していった。
一尾から九尾まで。光の玉となった尾獣たちが、連の左手から解き放たれ、広大な大地へと降り立つ。
ナルト「……連、助かったぜ」
九喇嘛(クラマ)のチャクラが連に語りかける。
九羅嘛「……俺はナルトの中に戻ることに決めた。あいつの馬鹿さ加減には、俺がついててやらねーとな」
他の尾獣たちも、連の献身的な誘導に感謝の意を示した。
尾獣「俺たちはそれぞれの故郷へ戻る。だが……あのナルトという少年と、そして連。お前のチャクラは、いつでも俺たちの『待ち合わせ場所』だ」
尾獣たちは次々と姿を消し、それぞれの安住の地へと帰っていった。連は荒い息を吐きながら、左手を強く握りしめた。アグニの楔は、図らずも尾獣たちを救う道標となったのだ。
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戦場に戻った一行を待っていたのは、朝日の中で淡く光り始めた歴代火影たちの姿だった。穢土転生の術が解け、彼らの魂は本来あるべき「浄土」へと帰りつつあった。
二代目、三代目が次々と感謝の言葉を残して光の中へ消えていく中、四代目火影・波風ミナトは、満身創痍で笑みを浮かべる息子、ナルトの前に立った。
ミナト「……ナルト。本当によく頑張ったね」
ミナトの声は、どこまでも優しく、そして誇らしげだった。
ナルトは鼻をすすり、震える声で言葉を紡ぎ出した。まるで、ずっと言えなかった「日常」を、この一瞬に詰め込むかのように。
ナルト「……父ちゃん! 俺……飯も好き嫌いしねーで食べてるし! 風呂にも毎日入ってる! 友達だって……サスケも戻ってきたし、連も……連だってみんなを守ってくれたんだ! 里の奴らも、みんな俺を認めてくれた……! だから……」
ナルトの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
ナルト「……だから、母ちゃんに……クシナ母ちゃんに、伝えてくれよ……! 俺は、ちゃんと元気にやってるよって……! 俺のことは、心配いらねーよって!!」
ミナトは、ナルトの頭にそっと手を伸ばそうとしたが、その手は既に透き通り、触れることは叶わなかった。しかし、その慈愛に満ちた眼差しは、確かにナルトを包み込んでいた。
ミナト「ああ……。分かっているよ。全部、伝えておく。……誕生日、おめでとう、ナルト。……君の父親になれて、本当に良かった」
ミナトの姿が、黄金の光の粒子となって朝日に溶けていく。
ナルトはその光を掴もうとするように手を伸ばし、そして大声で泣きじゃくった。
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連は、少し離れた場所からその親子を、そして消えゆく先代たちを見送っていた。
ふと、隣に気配を感じる。
不知火出雲が、汚れた顔で、しかしどこか晴れやかな表情で立っていた。
出雲「……連。……約束、覚えてるわよね?」
連は少しだけ照れ臭そうに視線を逸らした。
連「……ああ。『説教ならいくらでも聞く』、だったか」
出雲「それだけじゃないわよ。……あんたが木ノ葉に戻ったら、私の山盛りの手料理と、一ヶ月分の掃除当番が待ってるんだから。……覚悟しなさいよ、バカ弟子」
連「……フン。お手柔らかに頼む」
連は、左手の楔をじっと見つめた。大筒木アグニという新たな脅威は去っておらず、自分の身体がいつ「器」として塗り替えられるかも分からない。だが、今の連には、それを分かち合える仲間が、そして守るべき「家」がある。
ナルト、サスケ、そして連。
かつての抜け忍たち、そして世界を壊そうとした修羅たちは、今、一人の「忍」として、昇る朝日に向かって歩き出した。
第四次忍界大戦、終結。
それは、数多の犠牲と別れを乗り越え、新しい「絆」の物語が始まるための、希望に満ちた幕引きであった。
連の右眼には、今、かつてないほど澄み渡った木ノ葉の空が映っていた。
連(……見てるか、モモカ。……俺、やっと……帰れるよ)
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