第四次忍界大戦の終結から数週間。五影会談の襲撃、暁への加担、そして世界を破滅の淵へと追い込んだ大罪。本来であれば死罪、あるいは永遠の幽閉を免れないはずのうちはサスケと連に対し、忍連合軍から下された沙汰は、誰もが予想しなかった「放免」であった。
連「……いいのか、六代目」
木ノ葉隠れの里、その入り口である大門の前。
火影の笠を被ったばかりのはたけカカシに対し、連が静かに問いかけた。その隣には、片腕を包帯で巻いたナルトと、同じく左腕を欠いたままのサスケが立っている。
カカシ「ナルトが五影全員に頭を下げて回ったんだ。それに、君たちがマダラやカグヤを止めなければ、今のこの平和な風さえ存在しなかった。……これは特例中の特例だ。文句はナルトに言ってくれ」
カカシは困ったように笑いながら、二人の教え子と一人の「元」部下を見つめた。
ナルトは、初代火影・柱間の細胞で作られた精巧な義手を、慣れない手つきで動かしている。対してサスケは、その左袖を虚空に揺らしたまま、義手の装着を拒んだ。
ナルト「……サスケ、本当に行っちまうのか? 義手があれば、もっと楽になるってのによ」
ナルトの言葉に、サスケは静かに首を振った。
サスケ「……この欠けた腕は、俺が行った過ちの重さ、そしてお前とぶつかり合った痛みを忘れないための刻印だ。……俺は、この眼で世界がどう変わったかを見届けたい。そして、カグヤ……写輪眼のルーツについても、独りで調査する必要がある」
サスケは一度だけ、里の奥を、そして桜色の髪をした少女が待つ場所を見つめた。
サスケ「……行ってくる」
その背中は、かつての憎悪に満ちたそれとは異なり、どこか静かな決意と、世界への贖罪の意志に満ちていた。ナルトはその背中を、信頼の眼差しで見送った。
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サスケが旅立った後、連は一人、里の門を潜るのを躊躇っていた。
左手に刻まれたアグニの「楔」が、時折チリチリと皮膚を焼く。自分の存在そのものが、里にとっての火種になるのではないか。そんな不安が、かつての修羅の足を止めさせていた。
出雲「……何突っ立ってんのよ、バカ弟子」
聞き慣れた、そして誰よりも聞きたかった声。
振り返ると、そこには腰に手を当て、不機嫌そうな顔をしながらも、その瞳を真っ赤に腫らした不知火出雲が立っていた。
連「……出雲先生」
出雲「先生じゃないわよ。今はただの監視役。……カカシ様から言われてるわ。あんたの身柄は、この私が責任を持って管理するって。……ほら、行くわよ」
出雲は連の腕を無理やり掴むと、里の中へと引きずり込んだ。
連の隣では、躯(ムクロ)が物珍しそうに里の街並みを眺めている。
躯「あはっ! 連、ここが君の故郷? すっごく平和そうで、すっごく壊し甲斐が……あ、ダメなんだよね、もう。えへへ」
出雲「……躯。貴方もよ。連と一緒に、罪を償ってもらうからね?」
出雲の凄まじい「圧」に、流石の狂犬・躯も「はーい……」と大人しく引き下がった。
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連を待っていたのは、木の葉の英雄としての歓迎ではなかった。
出雲の自宅。その一室に正座させられた連の前に、山のような資料と、一本の「竹尺」を持った出雲が座った。
出雲「さて……。連くん。これから、あんたが里を出てから今日までに犯した『非行』の数々を、一つずつ精算していくわよ」
時計の針が午後二時を指した。
そこから、連にとっての「第四次忍界大戦」以上の地獄が始まった。
出雲「まず第一! 暁への加担! 自分がどれだけ多くの忍を恐怖に陥れたか分かってるの!? あの時、五影会談で雷影様に喧嘩を売った時の心理状態を述べなさい!」
連「……それは、世界を変えればモモカの無念が……」
出雲「**言い訳禁止!!** 自分の弱さを死んだ子のせいにするのは、モモカへの冒涜よ! 次! 食生活! 旅の間、ちゃんと野菜食べた!? 目の隈が酷いわよ! お風呂は!? その爪の汚れは何!?」
連「……いや、戦場ではそんな余裕は……」
出雲「**余裕がない時こそ清潔にするのが忍でしょ!** 汚い身体には汚い心が宿るのよ! 次! その躯って子! 懐かせてる場合じゃないわよ! ちゃんと社会復帰させる責任が、飼い主……じゃなくて、あんたにはあるの!」
説教は、日が暮れても、月が天高く昇っても終わらなかった。
出雲は連が戦場で犯した戦術的なミスから、人格的な歪み、そして不衛生な生活態度に至るまで、文字通り「丸一日」かけて一睡もせずに叱り飛ばした。
連は、永遠の万華鏡写輪眼を持っていながら、出雲の怒涛の説教に反論する隙さえ見つけられなかった。深夜三時を過ぎた頃には、連の意識は朦朧とし、正座した足の感覚は完全に消えていた。
出雲「……わかった? 連。あんたがどれだけ強く、神に近い力を得たとしても、私の前ではただの、手のかかる出来の悪い教え子なの。……いいわね?」
連「……はい。……すみませんでした、出雲先生……」
朝日が窓から差し込み始めた時、出雲はふっと表情を和らげ、連の頭を優しく、しかし力強く叩いた。
出雲「……おかえり、連」
その一言に、連の二十四時間の疲労と、一年以上の闇が、静かに溶けていった。
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説教の翌日、連と躯には最初の「任務」が課せられた。
それは戦場へ行くことでも、敵を倒すことでもない。大戦で壊れた里の石垣の修復と、戦没者慰霊碑の清掃。そして、負傷した忍たちの介助であった。
躯「あはは! 雑巾掛けって、意外と指の筋肉使うね、連!」
躯が楽しそうに廊下を磨いている。彼女の首には、出雲の手によって「里を傷つけたら爆発する(という触れ込みの)鈴」が付けられていた。
連は、自らの『高天原』の力を、瓦礫の撤去や、資材の温度調節といった地味な作業に使っていた。かつては万物を焼き尽くし、凍らせたその神の如き力。今は、人々の生活を再建するための道具となっていた。
作業の合間、連は左手の「楔」を見つめた。
アグニという脅威は、依然として自分の内側に潜んでいる。自分がいつ、あのギャル風の神に肉体を奪われるかは分からない。だが、今の連には、もし自分が理性を失ったとしても、全力で叱ってくれる、止めてくれる師匠が、そして共に歩む仲間がいる。
出雲「……連」
昼休み、おにぎりを持った出雲がやってきた。
連「……出雲先生。俺、決めたよ」
出雲「何を?」
連は、里の向こうに見える山々を、そしてそこで遊ぶ子供たちの姿を見つめた。
連「……俺が犯した罪は、一生かけても消えない。……サスケが独りで贖罪の旅に出たように、俺は、この里の中で贖罪を続ける。……出雲先生の監視下で、里を守る『盾』として。……そして、この楔が世界を脅かす前に、俺自身がそれを制御してみせる」
出雲は、少しだけ誇らしげに笑った。
出雲「……当たり前でしょ。あんたをこれ以上、一人にするつもりはないわよ」
木ノ葉隠れの里に、穏やかな風が吹く。
一人の少年が修羅になり、絶望を経験し、そして再び一人の「人間」として里に戻ってきた。
左手の楔、右眼の万華鏡。それらは今や呪いではなく、大切な人々を守るための、そして過去を忘れないための「絆」となっていた。
出雲「……さあ、午後も作業よ! 躯、遊んでないで手を動かしなさい!」
躯「えぇー! もうお腹空いたしー!」
賑やかな日常の音の中に、連の新しい物語が刻まれ始めた。
消えない罪を背負いながら、それでも光を求めて。
紫電を纏った少年は、今度こそ、本当の「忍」としての道を歩み出したのだった。
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