NARUTO -紫電の人柱力   作:ぐちロイド

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第53話 三年の月日と、狂犬の異変

 

 

第四次忍界大戦の終結から、三年の月日が流れた。

かつて世界を震撼させた「紫電の連」と「武装の躯(ムクロ)」は、今や木ノ葉隠れの里における「不知火出雲の家の居候」として、奇妙なほど平穏な日常に溶け込んでいた。

 

連は、左手の「楔」の侵食を抑える術を学びつつ、上忍クラスの任務をこなす「里の影の守護者」としての地位を確立していた。対する躯は、当初こそ里の住民をバラバラに解体しようとする物騒な癖が抜けなかったものの、出雲による徹底的な「教育(物理)」と、里の美味しい甘味処の魅力に屈し、今では「少し天然で、やたらと忍具に詳しい、いつも連の三歩後ろをついて回る変わった女の子」として、それなりに馴染んでいた。

 

そんなある夜。連はナルトやシカマル、チョウジといった同期たちに誘われ、「居酒屋・一楽」の隣にある店へと飲みに出かけていた。

 

出雲の家の居間では、出雲が書類の整理をし、その傍らで躯が縁側に座って、夜空に浮かぶ月をぼんやりと眺めていた。

 

躯「……ねぇ、出雲」

 

躯が、珍しくしおらしい声を出した。

 

出雲「何よ。お腹空いたなら、台所に余ったお団子があるわよ」

 

躯「……そうじゃないの。……あのね、連がいないと、ここらへんが……ドクドクして、キュンキュンするの」

 

躯は、自らの胸元をギュッと握りしめた。

 

 

躯「病気かな? どっか悪いところが壊れて、血が逆流してるのかも。……これ、切り開いて中を見た方がいい?」

 

出雲は、手にしていた筆を止めた。眼鏡を上げ、躯の真剣すぎる、しかしどこか赤らんだ顔を凝視する。

 

出雲「……躯。あんた、それ本気で言ってるの?」

 

躯「本気だよ。連が笑うと、頭の中が真っ白になるし。連が他の女の子……サクラとか出雲と楽しそうに話してると、その子たちを細切れにしたくなるくらい、心がザワザワするの。……これ、何の呪い?」

 

出雲は、呆れたように、しかし温かい溜息をついた。

 

 

出雲「……それは呪いじゃないわよ。……『恋』っていうのよ、それは」

 

躯「こい……?」

 

 

躯は、その聞き慣れない言葉を口の中で転がした。

 

出雲「そうよ。相手を独り占めしたくなって、一緒にいないと寂しくて、その人のためなら何でもしたくなる。……あんた、連のことを一人の男性として、好きになっちゃったのね」

 

躯の顔が、一瞬にして茹で上がった。かつて、自分の肉体を切り刻まれても笑っていた狂犬が、たった一つの単語で完全にオーバーヒートした。

 

 

躯「……っ! わ、私、連の……恋愛対象? ……えっ、ええっ!? ど、どうしよう!!」

 

その夜、躯は人生で初めて、興奮と困惑で一睡もできない夜を過ごした。

 

---

 

 

 

それから一ヶ月間。躯の行動はさらに不審を極めた。

連が帰宅するたびに顔を真っ赤にして逃げ出したり、連の脱ぎ捨てた服の匂いを嗅いでいるところを出雲に見つかって正座させられたり。

しかし、その裏で躯は、出雲から「普通の女の子の振る舞い」と「想いの伝え方」について、みっちりとレクチャーを受けていた。

 

出雲「いい? 躯。連はああ見えて、過去のしがらみやモモカちゃんの存在に、自分からブレーキをかけてるタイプよ。……あんたが強引にそのブレーキをぶっ壊して、責任取らせるくらいの気合いが必要なんだから!」

 

躯「……わかった、出雲! 私、やるよ!」

 

そして、決行の日は訪れた。

春の陽光が差し込む休日。連は庭で九重(ここのえ)のブラッシングをしていた。そこへ、いつになく気合の入った(出雲が選んだ)着物姿の躯が、ガチガチに緊張した面持ちで歩み寄った。

 

躯「……あ、あの! 連!!」

 

連「ん? 躯、どうしたんだ、その格好。今日は任務もないはずだろ」 

 

連が不思議そうに振り返る。その透き通った瞳に見つめられ、躯の心臓は再びドクドクキュンキュンと暴れ出した。

 

躯「……あのね! 私、決めたの! 私、連のことが……その、バラバラにしたい以上に……好きになっちゃったみたいだし!」

 

連「……え?」

 

躯「だから……私を、連の本当の『家族』にして!! 私と、結婚してほしいの!!」

 

躯の叫びは、近所の犬が吠えるほど里に響き渡った。

連は、持っていたブラシをポロリと落とした。隣で寝そべっていた九重も、耳をピクッとさせて起き上がる。

 

連「……結婚、って……俺と、お前がか?」

 

躯「そうだよ! 私、もう連のいない生活なんて考えられないし! 私のこの武装も、術式も、全部連を守るために使うって決めたから! ……だから、ダメかな……?」

 

躯の瞳に、不安と期待が混じる。

連は、言葉を失っていた。

三年前、大筒木アグニに「求婚」された時は、嫌悪感と恐怖しかなかった。だが、今、目の前で不器用に、しかし真っ直ぐに自分を見つめているこの少女との三年間は、連にとって紛れもなく「救い」の一部だった。

 

バアル「(……連よ。……そろそろ、前を向いても良いのではないか?)」

 

脳内で、バアルがニヤニヤと笑いながら囁く。

 

連は、右眼を閉じた。

そこには、今もモモカの意志が宿っている。彼女なら、何と言うだろうか。

 

---

 

 

連が沈黙していると、縁側の陰から、ずっと隠れて様子を伺っていた出雲が姿を現した。

 

出雲「……連。いつまで黙ってるのよ。女の子にここまで言わせて」

 

連「出雲先生……」

 

出雲は、腕を組んで連の前に立った。その瞳には、保護者としての厳しさと、愛弟子を想う優しさの両方が宿っていた。

 

 

出雲「いい? ここで『モモカちゃんがあーだこーだ』って理由で断るのは無しよ。……彼女は、あんたが一生独身で、過去に縛られて生きるなんて望んでない。……それは、あんたが一番よく分かってるはずでしょ?」

 

連は、ハッとした。

モモカが死の間際に言った「生きて」という言葉。

それは単に生物的に生存することではなく、誰かを愛し、誰かに愛され、幸せを享受することを含んでいたのではないか。

自分が罪の精算のために自分に課していた「幸福の禁止」こそが、実はモモカの願いに一番反していたのではないか。

 

連はゆっくりと目を開け、躯を見つめた。

躯は、泣き出しそうな顔をしながら、それでも逃げずに連の答えを待っている。

 

連「……躯。お前、俺がどんな奴か分かってるのか? 左手には神の呪いがあって、いつ化け物になるかも分からない。……過去には、数え切れないほどの人を傷つけた、戦犯だぞ」

 

躯「……そんなの、関係ないよ! 連が化け物になったら、私がその前に連を……じゃなくて、私が連を正気に戻してあげる! 連の罪も、私が半分持つよ! 私だって、相当悪いことしてきたんだから、ちょうどいいじゃん!」

 

躯の無茶苦茶な、しかし力強い理論に、連の口角が自然と上がった。

 

連「……ふ。……そうだな。……お前となら、退屈な老後にはなりそうにない」

 

連は一歩踏み出し、躯の小さな手を、アグニの楔が刻まれた左手で優しく包み込んだ。

 

連「……わかった。……俺で良ければ、よろしくお願いします、奥さん」

 

躯「……!!」

 

躯の顔が、これまで見たこともないような輝かしい笑顔に変わった。

 

躯「……やったぁぁぁぁぁ!! 連、大好き!!」

 

躯が連の首に飛びつき、勢い余って二人で芝生の上に転がった。

 

出雲「ちょっと! 躯、その着物高いんだから汚さないでよ!!」

出雲の怒鳴り声が響くが、その声はどこか弾んでいた。

 

---

 

 

その日の夜、出雲の家では、かつてないほど豪華な「婚約祝い」の夕食が並んだ。

ナルトたちにも連絡が回り、家の中は再び大騒ぎになったが、連の心は驚くほど穏やかだった。

 

連は、自分の右眼をそっと撫でる。

 

連(……モモカ。……俺、新しい家族ができたよ。……お前がくれたこの眼で、これからは彼女を、そしてこの里を守っていく。……いいよな?)

 

風が吹き抜け、モモカが愛用していた鈴の音が、幻のように耳元で鳴った気がした。

 

躯「ねぇ、連! 明日から私、何すればいい!? 毎日三食、連の好きなもの作る修行する!? それとも、連の敵を片っ端から……」

 

連「……まずは、その物騒な考え方を直すところからだな、躯」

 

躯「えぇー! 手厳しいなぁ、旦那様!」

 

笑い声が響く、木ノ葉の夜。

罪を背負い、死線を越え、神に呪われた少年は、ついに一人の少女の手を取り、新しい明日へと歩み出した。

左手の楔は消えていない。いつかアグニが再び現れるかもしれない。

だが、今の連には、どんな神の力よりも強い、確かな「愛」という名の盾があった。

 

連「……さあ、明日も早いぞ。……掃除当番、交代なしだからな、躯」

 

躯「はーい! 連と一緒なら、掃除だって祭りだよ!」

 

星空の下、二人の影は寄り添うようにして、静かに、そして力強く伸びていた。

第四次忍界大戦の真の終焉は、この、何気ないプロポーズの瞬間に訪れたのかもしれない。

 

---

 

 

 

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