陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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また長くなったのですが(謝罪)

シェリーさんどうなるかわかんないですが、もし本編に再登場して敵みたいなムーブしたらシャドウに大切なもの奪われたっていう似たような設定のオリキャラを生やして、そいつに全部任せたいと思います(


12 偽りの果てに

暗い部屋の中で誰かが手を動かしていた。

その誰かは本棚から数冊本を抜き取っていき、床にそれらを捨てていくと、ライターで火をつけて燃やしていく。

薄暗い部屋を、朱色の炎が照らしていく。

炎の明るさで浮かび上がったその影は瘦騎士と呼ばれる男だった。

 

「そんなところで何をしてるんですか。…ルスラン・バーネット副学園長」

 

瘦騎士の足が震えた。

一人だと思っていたその部屋に、いつの間にか一人の少年がいた。

彼はこの部屋が三階にも拘らず、窓枠に腰掛け、本を読んでいる一人の、どこにでもいる少年だった。

その少年の視線は本にのみ向けられており、ページをめくる音だけがやけに大きく響いていた。

 

「よく気付いた…シド・カゲノーくん」

 

瘦騎士が応える。

その言葉の後、瘦騎士は顔を隠していた仮面を取った。

仮面の下に現れたのは、初老の男性の顔だった。

白髪をオールバックに整えたその顔は、ルスラン・バーネットだった。

彼は取った仮面も火の中に投げ入れると、今まで着ていた瘦騎士の衣装も脱ぎ捨てそれらも燃やしていく。

明るさが、また増した。

 

「なぜわかったのか、聞いてもいいかな。参考までに」

「…見ればわかります」

 

視線を少しだけルスランに向けるとそう答え、また本に戻す。

 

「…見ればわかる、か。なるほど、いい目をしているね」

「僕も聞いてもいいですか。参考までに」

「聞こう」

「何でこんなことをしたんですか。僕には、あなたがこんなことに興味があるように見えなかった」

 

普段の飄々とした感じとは違う、少しだけ真面目な声色。

ルスランはソファに座り天井を仰ぎ見ながら

 

「少し、昔の話になる」

 

そうして彼は語り始めた

 

「かつて私は、頂点に立った。君が生まれる前のことだ」

「ブシン祭で優勝したと聞いたことがあります」

「ブシン祭など頂点には遠いものだよ。本当の頂点というものは、ずぅっと先にあるものだ。言ってもわからないだろうがね」

 

そう言ってルスランは笑った。

それはどこか疲れたかのような笑いだった。

 

「頂点に立ってすぐ、病にかかってね。そこで一線を退いた。苦労して上り詰めた私の栄光は、一瞬で終わってしまった。それからは、病を治す術を探し求めて…ルクレイアというアーティファクト研究者に可能性を見出した」

「長くなりそうです?」

「少しね」

 

 

その部屋の外───僅かに開けられた扉から彼らの話し声を聞いている一組がいた。

スカーと名乗った男と、シェリーである。

そしてシェリーは母の名前が出てきたことで、息を潜めながらも話に聞き入っていた。

 

(…お義父さま…?)

 

 

「ルクレイアはシェリーの母だ。賢すぎて学会に嫌われた不幸な女でね、だが研究者としては最高峰の知識を持っていた。私は彼女の研究を支援し、様々なアーティファクトを収集した。彼女は研究し、私はその研究を利用する。ルクレイアは富も名声も興味がなかったからねぇ、実にいい関係だった。そしていつしか、私は〝強欲の瞳〟に行き着いた。私が探し求めたアーティファクトだ。しかしね、あの愚かな女は、そのアーティファクトが危険だと言って国に管理してもらうように申請を出そうとしたんだ。───だから殺した」

 

炎に照らされたルスランは嗤った。

 

「〝強欲の瞳〟は残ったが研究は途中だった。だが、私はすぐにまた都合のいい研究者に出会ったのだよ。君も知ってる、娘のシェリーだ。彼女は何にも知らず、何にも疑わず、私に尽くしてくれた。私が仇だと知らずにね。可愛い可愛い、愚かな娘だ。そんな愚か者たちのおかげで、〝強欲の瞳〟は完成した。あとは魔力を集める舞台を整え、ちょうどいい隠れ蓑を用意するだけ。今日は私の最高の一日になる」

 

ルスランは嘲笑う。

シドは本から目を離しルスランを見た。

 

「参考になったかな、シド・カゲノーくん」

「そうですね。一つ確認が」

「聞こう」

「シェリーの母を殺し、彼女を利用したという事実は、本当ですか」

「もちろん。怒ったかな?」

「…どうでしょうね。僕は自分にとって大事なものと、そうでないものを明確に分けるんです。脇目を振らないために。僕には成し遂げたいことがある、それはとても遠くにあるから。だから、削っていったんです」

「削って?」

「えぇ。みんなは生きるにつれて大切なものを増やしていく。友達は仕事、恋人…僕は逆に削っていったんです。あれも、これも、それも、いらないって。そして、捨てていった先に、どうあっても捨てられないものが残った。僕はその僅かなもののために生きてるから、それ以外がどうなっても、割とどうでもいいって思えてしまう。───だけど、そんな僕でも…今は不愉快です、副学園長」

 

シドは本を閉じ、ルスランを見やった。

 

「そんな僕が不愉快なんです。…僕の友達は、きっとそれ以上だなって」

「なに…?」

 

そうルスランが答えたとき、ぎぃ、と扉が開いた。

そこにいたのは漆黒の男と───シェリーが立っていた。

流石にルスランの血の気が引いた。

 

「っ!! しぇ、シェリー…!」

 

シェリーは瞳に涙を浮かべ、信じられないといった様子で

 

「…うそですよね…! だって、だってわたし、わたっ」

「───そうだよシェリー。君のお母さんを殺したのはこの私だ」

「いや、やですっ…! やだ!!」

「君は大変私の役に立ってくれた。この子達を殺したら、君も送ってあげようじゃないか」

「お義父さまっ…!」

「愚かなルクレイアのところにね」

「いやぁぁぁぁぁっ!!」

 

吹っ切れたのかどうなのか、ルスランは開き直った。

やがて許容量が越えたのか、処理しきれない情報が一気に浴びせられ、そして信じていたたった一人の家族の裏切りがよほどショックを受けたのか、そのままぱたりと気を失い倒れてしまった。

そんな彼女を、漆黒の男───スカーが抱き留める。

フードの下で、スカーは…ワタルは苦い顔をしていた。

彼の下に、シドが歩いてきた。

 

「シェリーをお願い」

「わかった。ひとまず任せたよ」

 

シドは彼から気を失ったシェリーをよっこいしょと担ぐとそのままドアから出ていく。

彼が言った先にガーデンの誰かの気配がしたから、大丈夫だろう。

いなくても彼なら問題ないが…肩に担ぐとは思わなかった。

そして…スカーはフードを取ってワタルとしての姿をルスランへと晒す。

 

「…ワタル・クルムズくん…? そうか、その漆黒の衣装…君が」

「おかしいな。アンタみたいなマジモンの悪党が出てきたとき、言ってみたいセリフとか、そういうのたくさん考えてたはずなんだ」

 

彼は学生服へと戻るとゆっくりとルスランへと歩き出す。

そのまま生成したスライムソードを振るい、その風圧で炎の勢いを弱めると、改めてルスランの前に対峙する。

訳の分からない言葉を言うワタルにルスランは戸惑っている。

 

「けどシンプルな怒りで頭がいっぱいになると、そういうの全部抜け落ちるみたいでさ。かろうじて頭ん中に残った、アンタに言うべき言葉は一つ」

 

そう言ってワタルは手を掲げた。

それを合図に、彼の周りを一匹のコウモリのような何かが飛び回った。

彼は右手でキバットをつかむと

 

「〝お前には、罪を数える資格もない〟」

「やってやろうぜワタル…! こいつを野放しにはできねぇーっ! ガブッ!!」

 

キバットを己の左手に嚙ませると、顔にステンドグラスの文様が浮かび上がり、腰には赤い止まり木…キバックルが表れる。

右手のキバットをルスランに突き付けると、あの言葉を口にした。

 

「変身…!」

 

右手のキバットを、キバックルにセットする。

刹那、ワタルの身体が透明になり、弾け飛んだと思えばその身はキバへと変身していた。

その姿を見たルスランは、表情を驚きに染め

 

「それは、キバの鎧…! 実在していたというのか…!」

「…、」

「そして私も剣に生きた身…その姿が見掛け倒しでないことも分かる…! こちらも、最初から全力で行かせてもらおう」

 

ルスランは懐から赤い錠剤を取り出すとそれらを飲み込み、そして〝強欲の瞳〟とその制御装置を取り出した。

 

「このアーティファクトの真価は二つ組み合わせて発揮されるものだ、こんなふうにな!」

 

かちり、と二つのアーティファクトが組み合わさる。

組み合わさったアーティファクトは眩い光を放ち、古代文字の羅列が光りのように広がった。

そしてルスランは最後に、そのアーティファクトを己の胸に押し付ける。

 

「今この場で───私は生まれ変わる…! ぐ、オォォォォォっ!!!!!」

 

彼の胸の中にアーティファクトが埋まる。

水の中に沈んでいくかのように、服も、肌も通り、文字通り体内へ。

 

「ォォォォオオオオオオッ!!」

 

咆哮。

光の古代文字が彼を廻り、その部屋の中を染め上げる。

光が収まった矢先、そこには文字通り生まれ変わったかのようなルスランがいた。

こちらを向くその顔には、何やら細かい光の文字が刺青のように刻まれている。

 

「素晴らしい…力が滾る、病が癒える…! 今ならば、こいつも使いこなせる…!」

 

そう言ってルスランは懐から一つの胸像を取り出し、そこに魔力を込めると変形していく。

緑色の銃のようなそれも構え、剣を改めて抜き放つと、ルスランは嗤った。

 

(…バッシャーマグナムでは?)

 

仮面の下で、シリアスな空気を壊さないようにワタルは胸中で呟いた。

使いこなせるとか言ったけど多分キバじゃないと完全にはどう足搔いても使えないが…まぁここは黙っていよう。

 

「わかるか、この荒れ狂う力がっ! 人を超えた、この魔力がっ!!」

「構わない。どんな小細工でも好きなだけ使え。僕はそれを、真っ正面から打ち砕くだけ」

 

ルスランの言葉を聞き流しながら、キバは徐に一つのフエッスルを取り出した。

赤と金のそれを、キバットに噛ませるとそれを吹き鳴らす。

 

「<タツロット!!>」

 

 

七陰が一人、ガンマは外の地上で他のガーデンのメンバーと一緒に待機していた。

校舎はまだ燃えているが、三階の、今ガンマが見えている部屋だけは少し前から火の勢いが弱くなっていた。

我が主であるシャドウは、メンバーの一人に担いでいたピンクの髪の女性を預けると、じっとその部屋を見つめていた。

 

今あの部屋にいるのは、もう一人の我らが主、スカーなのだ。

負けるなどとは微塵も思っていないが…それでも不安にはなってしまう。

 

「ビュンビューン! ごーきげんよーう!」

 

そんな不安やらを消し飛ばすように、テンション高い声がガンマやシドの耳に届いた。

それらはどこからともなく現れてシドやガンマの周りを飛び交う。

ガンマはそれの名前を知っていた。

 

「た、タツロットさま!」

「やだなぁガンマさんっ、様付けなんていりませんよぉ! シドさんもお久しぶりですねぇ! お二人ともカッコよく、そして綺麗になりましたねっ!」

 

魔皇竜タツロット。

それはワタルの使い魔の内の一体で、普段はワタルの実家にいる。

ワタルの呼びかけに応じて、タツロットはどこにでも駆け付けてくれる。

だが基本的にワタルはタツロットを呼ぶほど苦戦などしないため、最近あまり見かけなかったのだが。

 

「呼ばれたの?」

「はいシドさんっ、おかげで私のテンションフォルテッシモ! そして感じます、ワタルさんの怒りも…! それではっ!」

 

そのままびゅーんとタツロットはワタルのいる部屋へ窓から入っていった。

 

 

いきなり窓から入ってきたその金色の小さい竜のような存在は、瞬く間にキバの両肩の封印を解き放つ。

ゆっくりとキバの肩から羽のような何かが広がっていき、そこから黄金の輝きが迸る。

そしてタツロットが左腕に収まり、叫んだ。

 

「変、身っ!」

 

叫び、そして輝きと共に小さな光の粒子のようなコウモリが、キバの体の各所の封印を解放する。

両脚、両腕、胸部、肩…キバットの瞳も、赤一色から虹のような輝きが現れ、最後にキバの顔が変わる。

額にはクレッセントを思わせる装飾、ヒロイックな面影があった黄色い複眼から、全てを見透かすかのような、それでいてどことなく禍々しい面影を持つ、真紅の複眼へと変化していた。

最後に、炎ととも左手を払うと、背中から紅きマントが顕現し、風にたなびいた。

 

エンペラーと呼ばれる黄金のキバが、ここに再臨した瞬間だった

 

その皇帝のペルソナに睨まれ、パワーアップしたはずのルスランでさえ身震いした。

 

「───舐めるなぁ!」

 

ルスランの剣が振るわれる。

だが黄金のキバは大して避ける動作もなく、腕だけで容易く防いで見せる。

 

「ならば、これはどうだぁ!」

 

ルスランの姿が消える。

そしてまた現れ、エンペラーへと剣を振るう。

しかし結果は変わらず。

動いている間に、ルスランは緑色の銃を連射するが、どれもこれも今一つ。

おまけに相手はまだ武器も出していない。

 

「でやぁぁぁぁっ!」

 

上段に構えた剣に、より強い魔力を込め、振り下ろす。

本気の剣だ、いくらなんでもキバの鎧だろうがこれを食らえばひとたまりもないはずだ。

しかし、エンペラーは避けるでも防ぐでもなく、普通にその体で剣を受け止めた。

キン、と甲高い音がしたがそれだけだった。

 

「バカなっ!」

「終わりか? なら今度は僕だ」

 

がしっ、とルスランの胸倉を掴み、エンペラーの反撃が始まった。

まず一撃目の蹴りは足、そこから二撃、三撃へと増えるにつれ、体の上へと攻撃の位置が上昇していく。

最後にルスランの胸倉を放し、一瞬中空にいた彼を、エンペラーは身体を回転させ勢いをつけた蹴りで吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされたルスランは窓を突き破り、外の地面と叩きつけられた。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 

そんな叫びと共に、部屋から誰かが吹っ飛んできた。

どしゃり、と背中から地面に叩きつけられたのはルスランだ。

そしてもう一人、あの部屋から降りてくる。

まるで階段から降りてくるかのように、空中から歩を進めているのは、黄金のキバ…エンペラーである。

ガンマはその黄金の姿を見て「まぁ」と声をあげた。

 

「あの黄金の輝きをまた拝見できるなんて。…今日作戦に参加できた子たちは幸運ね」

「…ガンマ様。大変失礼なのですが、スカー様のあのお姿は…」

 

おずおずと言った様子でニューが聞いた。

ガンマは笑みを浮かべながら

 

「あら。そういえばニュー…というか、ほとんどの子達はスカー様のあのお姿は見たことなかったわね。まずスカー様が普段纏われるキバの鎧のお姿は見たことあるかしら」

「はい、時折アレクサンドリアの闘技場でトレーニングなさる姿を何度か」

「それじゃあ、あのお姿…あなたから見てどう感じるかしら」

「どう、ですか…」

 

ちらり、とニューは地上に降り立った黄金のキバへと視線を向けた。

現在彼は炎とともに刀身が白銀色の剣を召喚し構えている。

ルスランも満身創痍ながらも剣を振るっているが、圧倒的に黄金のキバが優勢だった。

 

「…見た感じでは、やはりあのお姿は、キバの鎧をより上位に強化したもの、でしょうか」

「ふふ。まぁそう考えちゃうわよね。私や他の七陰もそうだったもの」

「と、言いますと…」

「あの黄金のお姿は…普段纏っておられるキバの鎧の、〝本来の姿〟なのよ」

「───えっ」

 

素でそんな声が出た。

その話を遠目で聞いていたほかのガーデンの子らの空気が固まった気がするのをニューは感じた。

普段なっているあのキバの姿でも十分すぎる強さなのに…?

 

「ま、待ってください、つまりスカー様が普段纏うあのお姿は、力を抑えているのですか…!?」

「そうみたい。私も初めて聞いた時は驚いたもの。あの神々しくも雄々しいあのお姿…普通は強化を思っちゃうもの」

 

剣を振るうエンペラーは完全にルスランを手玉に取っている。

相手も咆哮をあげて抵抗しているが、それもいつまで持つかどうか。

 

「相手も運が悪いわね、あのお姿となったスカー様に勝てるのなんて、この世にシャドウ様しかいないもの」

 

 

ザンバットソードで、相手の剣を防ぐ。

もう相手は虫の息だ、傷を与えてもアーティファクトの力かすぐ再生してしまうが…正直大したものでもない。

体力が減ってきたのか、ルスランも肩で息をし始めている。

顔にも焦りが見えてきた。

だがこれでいい。

彼自身今日は最高の日とかほざいていたが、今までの準備や費やした時間、資金など全部無駄だったと思い知らせてやるのだ。

 

「…ザンバット」

 

呟きながら、エンペラーはソードの刀身の下から上へと右手の二本の指でなぞっていく。

すると白銀の刀身が赤く魔力で染まっていく。*1

このザンバットソードは原典と違いザンバットバットがない。

正式に受け継いでいるからかはわかんないが、暴走の可能性がないのである。

つまり原典と違い、あのまっさらなザンバットソードをエンペラーフォームのまま使えるという感じになっており、地味にレアな形態なのだ。

その代わりに研げないので指でバットの代用をしているわけだ。

刀身に魔力や魔皇力を込め、ソードを顔の横に構える。

これはワコクのリシン流、霞崩しの構えだ。

いや正直構え方はなんでもいいのだが…これが一番しっくりきた。

仮面の下で深呼吸を行い、精神を研ぎ澄まし、己の剣と魔力に集中する。

ルスランも防御すべく剣を構えた…その防御ごと刻むのみだ。

 

 

対峙するエンペラーが一歩踏み込んだ刹那、残像が何体も見えた。

どこから斬り込んでくる、致命を避ける事ができれば、まだ戦えるとルスランは判断し全力で防御に集中した。

だが気づいた時には、もうエンペラーは目の前の離れたところに再び立っていた。

片手で剣先を上にし、顔の前で構えている。

もう片方の手でゆっくりとまた刀身を今度は上から下へなぞっている。

なぞる指と一緒に、赤い刀身も戻っていく。

 

(なんだ、もう攻撃は終わったのか…!? どちらにせよ、背後を見せるなど、余裕の現れか…! いずれにせよ、好機っ!)

 

ルスランは再び全力を剣に込めるべく、緑の銃を放ると一瞬で距離を詰め、背後から斬りかかろうとした。

だがそれより早く、エンペラーの指は刀身を最後までなぞりきり、刀身が完全に戻った…その瞬間だった。

 

まるで世界が斬り刻まれた感覚とともに、ルスランの体からは大量に血液が噴き出した。

剣も砕かれ、両手や足が斬り落とされる。

 

「お、ごぉぉぁぁ…!?」

 

アーティファクトも両断されたルスランは、誰が見ても虫の息だった。

そのままルスランの体は、地面へと倒れたのだった。

 

 

絶ザンバット斬。

バットがなく、ファイナルザンバット斬が放てないためワタルが生前にプレイしていたとあるゲームを参考にして編み出したエンペラーの必殺技である。

いや指でなぞることで代用できるからその気になればファイナルザンバット斬は打てるのだけど。

 

最も、この技は〝あの人〟が放っていた物と比べると正直完全再現とは言い難い。

ただ実戦でも問題ないレベルにまでは少しずつ研鑽を重ねて、今、ぶっつけ本番で繰り出した。

結果は概ね成功、と言った感じだろう。

 

エンペラーはザンバットソードを仕舞い、ルスランへと視線を向ける。

シドはルスランへと歩み寄りながら、シャドウへとその姿を変えた。

 

「無様だな。ルスラン・バーネット」

「───き、きみが…シャドウだったとはね…世間とは、存外狭いものだ…」

「何年かけたか、いくら使ったかは知らないが…呆気ない終わりだったな」

 

シャドウは言う。

ルスランはくくく、と力なく笑いながら

 

「貴様らがいくら強かろうが、もうおしまいだよ」

「ほう?」

「一連の、事件はすべて…〝シャドウガーデン〟の仕業になるよう、手配してある…。証拠も、証言もすべて、用意してある…。いくら貴様らが強かろうが、どうにもならんよ」

 

くくく、と死の間際ルスランは嗤った。

しかし、シャドウもまた嗤っていた。

 

「な、なにが、おかしい」

「それで終わると思っているのなら、貴様は思い違いをしている。滑稽だぞ」

「なん、だと…?」

 

笑みを消して、ルスランはシャドウを睨んだ。

シャドウは嗤いを止め、続ける。

 

「もとより我らは正義の道を往くでもなく、悪の道を往くでもない。我らはただ、我らの道を往くのみ」

 

シャドウはコートを翻す。

 

「死に際の貴様に出来るなら、世界中の罪を持ってくるがいい、我らはそのすべてを引き受けよう。だが何も変わらない、ただ、為すべきことを為す。それだけのこと」

「───く、くく…世界を敵にして恐れぬ、か。傲慢だぞ、シャドウ…」

「それが、我が運命ならば」

「は、ははは…それを貫けるか、どうか…先にあの世で見ていると、しよう…」

 

その言葉を最後に、ルスランは完全に息を引き取った。

シャドウの隣に、変身を解除しながらワタルが並ぶ。

 

「ごめんね。結局始末も取っちゃった」

「いいよ。言いたかったこと言えたしね」

 

前言ってたやつだろうか。

なんにせよ本人がいいのならそれでいい。

 

「そろそろ騎士団も来そうだし、撤退の準備かな」

「はい、スカー様」

 

ワタルの言葉にガンマが返事をする。

ついでに、ワタルはシャドウ以外に言うように言葉を紡ぎだす。

 

「先も言った通り、僕たちの道は栄誉も賞賛もない、真っ暗い闇の茨道だ。…引き返すなら、今だよ、きっと。咎めはしない」

 

少しだけトーンを落として、ワタルが言った。

だが、誰一人として引き返そうとするものはいなかった。

皆を代表するかのように、ガンマが言った。

 

「スカー様の慈悲の心、大変有り難いです。ですが、我々ももう選んだのです。我らが仕えるのは、永劫にシャドウ様とスカー様なのです。今更ですわ」

 

そう言ってガンマは微笑んだ。

シャドウは顔を見せぬまま笑みを浮かべ、スカーはガンマらの方に周囲を見渡し、笑みを浮かべる。

 

「ありがとう」

 

たった一言、スカーは言った。

何でもない一言だったが、十分だった。

何名か涙を浮かべているような子たちもいる。

忠誠が重いよ()

 

「あ、シド。一応君死んだ設定だから校舎戻った方がいいんじゃない?」

「そだね。でもワタルも似たようなもんじゃない? 大丈夫そう?」

「そういやそうだった。僕も適当に騎士団に保護されよう」

 

◇◇◇

 

救護テント。

シドは騎士団に保護されたのち、そこに運ばれた。

ワタルも怪我はひどくない…というか無傷ではあるが念のため彼もここで休んでいた。

そんなテントに一人、金髪の女性が突撃してくる。

 

「すみませんっ! 背中に傷を負った少年を保護されたって聞いたのですがっ…!」

「おわ、ローズ先輩」

「! わ、ワタルくん…シド…シド・カゲノーくんは…!?」

 

ローズに言われて、ワタルは指をさし場所を教えた。

その視線の先にシドを見つけるとローズは涙を浮かべながらタックルめいた勢いで彼に抱き着いていた。

何やら熱い想いは確かに受け取りました、とか色々言っている。

…多分フラグ立てちゃったかもしれないな、とワタルは水を飲みながら思うのだった。

 

 

数日後

シドはシェリーと一緒に壊れた校舎を歩いていた。

気分転換したらいい、とワタルに言われ先にシドと一緒に歩いていたのだ。

彼は後から合流するらしい。

しかし、シェリーの気分は優れなかった。

大切な家族の裏切りに、酷く憔悴してしまっていた。

幸いかはわからないが、言葉を失うほどではなかった。

もしかしたら…無意識にそうかもしれないと思っていたのかもしれない。

ずっと地面を見つめていると、おもむろにシドが一枚の手紙のようなものを差し出してきた。

丁寧に折りたたまれ、ところどころ煤けている。

 

「これは…?」

「副学園長室で見つかったんだって。多分キミ宛かもって、ワタルが騎士団の人から受け取ったらしいんだ。それを渡されてたのを思い出して」

 

ルスランから…? と半信半疑にシェリーは手紙を開く。

それは確かにルスランの文字だった。

 

 

~…シェリーへ

  この手紙を読んでいるということは、原因はどうであれ私は死んでいるのだろう

  許してくれ、とは言えないが、それでもあえてこの手紙を書いておく

  すまない、とは言わない。私は私の野望のために君の母を殺したことに間違いはない

  もちろん、君のことも利用していた。…利用していたはずだった

  だが、過ごした時間に、嘘はつけなかった

  何を今さら、と思うだろうが、私はいつしか情を抱いていたのだ

  親を殺したくせに、親心を抱くとはおかしいものだ

  …シェリー、君はもう一人で歩ける

  私のことは忘れて、君は君の道を歩んでくれ

  偽りとは言え、君にしてあげられる、父親としての最期の言葉だ

 

  

読んでいる途中で、シェリーは涙を手紙に垂らしていた。

シドの前にも関わらず、ぼたぼたと大粒の涙を流している。

 

「おどうざま…! ぐすっ…!」

「…きっと、ルスラン副学園長も誰かに止めてほしかったのかもしれないね」

「お義父さま…! う、うぅぅぅ…っ、うわぁぁぁんっ!!」

 

いつしかシェリーは手紙を抱きしめながら大声で泣いた。

たっぷりと泣いて数秒…彼女は何かを決意したような顔になっていた。

ぐしぐし、と制服の袖で涙を拭うと

 

「…シドくん、私、急用ができちゃいました」

「急用?」

「はい。…ずっと断っていた留学の話を受けてきます。たぶん、色々準備しないとだから、ワタルさんにお礼言えないかもですし、よかったら、ありがとうって伝えてくれますか…?」

「いいよ。もちろん」

「ありがとうございます。…お義父さまのやったことは許せませんが…私も、過ごした日々は本物だったと思いたいから…私も、頑張って前に進みますから…!」

 

ありがとうございますっ、とシェリーはシドに大きく頭を下げると踵を返し走っていった。

その道中で、ワタルと遭遇した。

ぶつかりそうになりながらも、ワタルだと気づいたシェリーは

 

「あ、ワタルさんっ」

「おっと、なんか急いでたね、どしたの?」

「いえ、ちょっと急用ができてしまったんです。…ワタルさんも、ありがとうございましたっ」

 

少しだけ晴れやかな顔をした彼女はそのまま走っていく。

遠くになっている彼女の背中を見送りながら、ワタルの隣にシドが歩いてくる。

 

「その様子だと、シェリーに手紙、渡せたみたいだね」

「うん。ちょっと笑顔になってよかったと思うよ。それにしても、よくこんな手紙見つけたね。やっぱり副学園長も、人の心あったのかな」

「ははは、何言ってんの。そんなの僕が適当に作ったに決まってんじゃん」

「───え」

「ちょっとアフターケアのためにでっち上げようと思ってね。少しアレクサンドリアに行ってたんだ」

 

 

数日前のアレクサンドリア。

ナンバーズであるシグマはその日、何もなく休日だった。

 

「…ふっふっふ。今日は何にもない完全にオフの日…! こんな日は…ナツメ先生の新刊を読むに限るっ!!」

 

それもベッドの上でっ! 優雅に寝ながら!! とゴロゴロと転がる。

ナンバーズ、シグマ…彼女はワコク出身のニンジャである。

いろいろあって悪魔憑きとなり、里に追われ、治療方法を探しにミドガルに来ていたところをディアボロス教団に囚われて、シャドウガーデンに救助され、そのまま加入。

治った当初は無気力な状態が続いていたが、ナツメ・カフカの本と出会い、生きる気力を取り戻すことができた彼女は、元々の実力も相まってナンバーズ入りを果たし、シグマの名をもらったのである。

 

「何から読もうかな…〝スパイダーマンイーター〟もいいけど…ここはやっぱり新作の〝機動戦士ガンガル〟かなー…あー、でも、ワコク出身の身としては、このワコクベースな世界観の〝るろうの騎士〟も悪くないなー! んー、なんて贅沢な悩みっ!」

 

何から読むかを悩めるなんて、なんて贅沢な悩みだっ、とベッドの上でゴロゴロしながら考える。

新作もいいが、既存の続巻もいい。

そうだ、読書のオトモとして何か飲み物を───

 

「シグマー! いるー!?」

「おわぁぁぁぁぁぁ原作者ぁぁぁぁぁ!!!?」

 

ふいに現れた偉大過ぎる主の一人、ワタルことスカーが訪問してきてシグマはなんだかよくわからない絶叫を上げた。

 

 

「落ち着いた?」

「はい。大変申し訳ございません、頭領」

 

私服といえど主の前で恥ずかしい姿など見せられない。

 

「っていうか、原作者って。ナツメもといベータでしょ原作は」

「い、いえっ、まぁそうなのですが…その、ナツメ先生、もとい、ベータ様がお書きになる物語は、お館様…シャドウ様と、頭領…スカー様にお教えして頂いたお話が元、だと聞きました」

「そうだね。今はシャドウはわかんないけど、僕はちょくちょくお話に付き合ってるかな」

「つまり、頭領もまた原作者なのです。えぇ」

「…そう、かな?」

「はい」

 

シグマの真剣な目がワタルを見る。

まぁ本人がそういうのならいいだろう、うん。

 

「その、いきなり押しかけて悪いけど時間ある? ラムダから今日はお休みだって聞いたから」

「頭領の頼みとあらば休日など関係ありません。何なりとご命令下されば」

「ありがとう。ちょっと変なお願いするんだけど…こいつに今から見せる文章を、筆跡を模倣して紙に書いてほしいんだ」

 

そう言って一枚の紙と、色々書かれた紙をシグマの前に見せる。

 

「構わないのですが、誰の筆跡を模倣すれば」

「待ってて…と、あったあった、この人」

 

そう言ってワタルはルスランのサインが入った一枚の紙を取り出す。

この紙は適当にルスランが副学園長として何かの書類にサインしたものを持ってきたものだ。

何の書類かは知らないし、もう本人もいないのでどうでもいいだろう。

シグマはそれを受け取るとじっ、とそのサインを見やる。

 

「わかりました。模倣に少々お時間をください。数時間後にまた来ていただければ」

「ありがとう、お礼にお菓子持ってくるから」

「い、いえそんなお気遣いなさらず…」

 

とりあえずそう言ってワタルはシグマの部屋から退出していく。

一人残されたシグマはしばらく硬直したのち。

 

(───お゛ぉぉぉぉぉぉっ!! まさかっ、まさかあの頭領から頼りにされるなんてぇぇぇぇ…!! 嬉しすぎるぅぅぅ…!! 頭領時たまアレクサンドリアに訪問されるから何回か話したことはあるけど…まさか直々に命をくださるなんてぇぇぇぇぇ…!! う、うぉぉぉぉぉんっ!!)

 

心の中で悶えていた。

 

(これは気合を入れなければっ…! 早速取り掛かる…! 失敗は許されないぞそれがし…!!)

 

そんなわけで無事ルスランの手紙が完成したのでした。

 

 

「…僕がちょっぴり引いたのなんて久しぶりかもしれないよ」

「いいんだよ、あの子が前を向いたなら」

 

ルスランの偽造手紙に関して、ワタルも罪悪感がなかったわけではない。

けどまぁ死人に口なしと言うしこれくらいは許されるだろうと判断して実行したわけだ。

 

「例え偽りでも、それがきっかけで、彼女は前を向いて歩きだした。それでいいんだよ。よく言うでしょう? 女の一番の化粧は笑顔って」

「…そうだね」

 

ワタルの言葉にシドも少しだけ微笑み肯定する。

これが救いとなってくれたかはわかんないが、過程はどうあれ今シェリーは前を向いたのだ。

 

何はともあれ、ミドガル魔剣士学園で起きたテロリスト事件は、こうして幕を下ろしたのだった。

 

あ、バッシャーマグナムはちゃんと回収しておきました。

*1
身も蓋も無い言い方をすれば宇宙刑事のレーザーブレードを想像してもらいたい




エンペラー再登場、みたいなニュアンスで書いてますがこの世界での初登場はセルゲイ・ゴーマン戦のマラクと戦うときに初披露した感じです
つまりカイとオメガも見てますね
いつ書くかは…ナオキです(未定)
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