陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

18 / 23
ここすきの数がこの作品そこそこ多いんですよね
もっとふえろ(強欲)

もしかしたら不定期で今度ゼンゼロもの書くかもしれない
次回でアウロラ編はおしまい、になるといいなぁ(願望)


17 消滅に捧げる血闘

デルタが駆ける。

数体のネルソンの横を通り抜けたと思ったら、そのネルソンの胴が斬られた。

そう思ったらデルタの背後からまた三人のネルソンがハンマーを振りかぶってくる。

デルタはそのまま爪でそのネルソンらも切り裂いた。

 

「…?」

 

デルタは違和感に気づく。

スライムで自分の手に作った爪がなんだか変な感じだ。

横合いから凪ぐように振るわれたネルソンのハンマーをその爪で防ぐ。

普段なら攻撃に出るデルタだが、違和感は拭えず、いったん距離をとることにした。

 

「…何かおかしいです。魔力が吸われてるような感じがするのです」

「…なるほどね」

 

アルファがつ呟く。

対するネルソンは嗤みをうかべながら

 

「聖域の中心に近づくにつれ、貴様らは力を失う…誘いこまれていることに気づかなかったのか?」

「貴方は逆に、近づくにつれ力を得る…かしら?」

「もう少し近づいたあたりで仕掛けたかったが…このあたりでも十分だろう」

 

そしてネルソンはまた増えた。

パッと数えるだけで数十人。

そんなネルソンを見て、デルタは笑みを漏らすのだ。

 

「獲物が…たくさあんっ!!」

 

 

「ねぇ」

「うん?」

「何してるの?」

「いやここ、上下の間隔がないなって」

 

真っ暗い空間を、シドとアウロラは歩いている。

シドが言ってた通り、上下の間隔がないようで試しにやってみたらできた、というのがシドの言い分。

 

「…覗かないでね」

「覗かないよ」

「あぁ、天に誓ってもアダルティな紫色とは言わナ゛ナ゛リ゛ィ!!」

 

キバットがべちーんと叩き落された。

これはキバットが悪い。

わざわざシドと同じ状態になってまでぶっ叩いてきたアウロラに少し微笑ましいものを感じつつ、クラクラしているキバットを見やる。

上下逆の状態だけどキバットどんな感じなんだろう。

とりあえず進んでいくと、茜色の光に包まれる。

 

「あっぶな」

 

予感はしたので咄嗟に歩き方を戻し無事着地。

セーフ。

キバットもクラクラしながらシドの肩に下りてきた。

見回すとここは戦場のようだった。

 

「…みんな死んでるね」

 

大地は死んだ兵たちばかりである。

そこかしこに血が沁み込んでいて、それが果てまで続いている。

 

「行きましょう」

 

アウロラが先を行く。

見渡す限り本当に死体、死体、死体。

いつかシドもこんな戦場で大暴れしたいな、と考える。

しばらく進むと、死体の上でまた泣いている女の子を発見した。

顔を見ずともそれがアウロラとわかる。

 

「また泣いてるね」

「泣き虫だったのよ。剣、貸してくれない?」

「どうぞ」

 

剣を貸すと、それを引きずりながら女の子の前に進んでいく。

これを見るとか弱い、と自称してたのが本当だったんだ、と納得する。

今この場では魔力が使えないから、地力しかないんだ、と適当に考えつつ、周囲をまたぐるりと見まわす。

その時、たまたま見てた兵士の死体の指がぴくり、と動いたのが見えた。

察したシドはアウロラに近づくと彼女の腰を抱きながら後方に飛んだ。

 

「っ! 死体がっ」

 

アウロラも気づいた。

案の定死体が動き出して、アウロラを斬ろうとしてたのだ。

 

「聖域が拒んでる。厄介ね」

「…君はここで死ぬとどうなるの?」

「最初の部屋で拘束されるでしょうね」

「面倒だ。剣は使える?」

「使えない、こともないくらい」

「僕が使った方がよさそうだ。…キバット、手伝ってよ」

「あいよーっ」

 

シドに言われてキバットが羽をパタパタと動かして高速に飛び回る。

忘れそうだがキバットも意外と戦えるのだ、少なくとも牽制するぐらいには強いし、速度だけなら本気になればナンバーズも捉えられない。

七陰ですら苦労するのだ、捕まえるだけなら。

 

「そんなわけで援護すっから、頼んだぜシドーっ」

 

牙や羽のクローで死体達を怯ませていく。

実質二人で戦えるこの状況は多少楽できる。

 

「ていうかタっちゃーん! お前も手伝えよーっ!」

「おや、起きてるってバレてました?」

 

キバットの呼びかけにバッグからタツロットも出てくる。

タツロットはアウロラの周りを軽く飛びながらキバットに加勢し、戦線に加わった。

 

「…貴方のお友達の使い魔? は愉快ね」

「賑やかだよね」

 

少なくとも退屈はしないだろう。

とりあえずシドも持っている剣を振り上げて改めて戦列に加わるのだった。

 

 

ワタルはよくわからない所を一人歩いていた。

シンプルにどこだここ、知らないところに取り残されるとかマジで勘弁してほしい。

このまま帰れなかったらどうしよう、キバット達もいないし…いやその気になれば色々ぶっ壊してけば出れそうではあるが、それは本当に最終手段だ。

ふと瞬きすると、また世界が変わる。

オリヴィエの記憶かはわからないが、どうやら彼女は旅の中で二人の仲間と出会ったみたいだ。

ていうか、あれでは? オトヤの昔話に出てきたリリとフレイヤという奴。

よく見るとリリはゼータにとっても似ている…、瓜二つと言ってもいい。

そしてフレイヤとやらもアレクシアにクリソツだ、血液狙われたらしいからもしかして、とは思っていたがやっぱり子孫だったんだ。

この三人が三英雄として語り継がれている、という事なのだろうか。

ふとオリヴィエとやらが、少し離れた位置にいる誰かの所に向かっている。

もう一人仲間がいるのだろうか、とその視線の先に目を向けると一人の男性がいた。

…あれなんだろう、なんかどこかで見た記憶がある…ような?

そんなワタルの記憶を裏付けるようにその男の周りを黒いキバットが飛び回っててか二世じゃんあれ!!

よく見ると男もどこかオトヤに似ている。

百年くらいは確か寿命があるとかだった気がするが…そっくりな別人…人…? 別キバットの可能性もある。

今のダークキバの所有者はオトヤなので、間違いなくかなり前からダキバの鎧はあった、ということなのだろうか。

…ディアボロスと戦った記述にあまりキバのことが書かれてないのはあんな感じに裏方に徹していたのと、もしかしたらディアボロスと戦う時に〝ウェイクアップスリー〟を使用して命を賭けたからなのかもしれない。

推測でしかないけれど、可能性はもしかしたらあるのかも。

 

とか考えてたら不意にまた扉が現れた。

とりあえず進めるのなら進むのみ。

 

 

「キバット達が手伝ってくれてるとはいえ、魔力がないと微妙だね」

「でも貴方、動けてるじゃない」

「子供の頃から肉体改造には余念がなかったからね。ちょっと前にもワタルにも教えたんだ」

「普通はそんな発想思いつかねーんだけどな」

「ひたむきな努力は素晴らしいですよ」

 

パタリパタリとキバットとタツロットがシドの肩に降りる。

タツロットはよいしょとバッグに戻ってく。

 

「けどどーすんだ? 流石にキリねーや」

「そうだね。…ヴァイオレットさんには悪いけど、ここは僕が行こう」

 

無限湧きするゾンビを魔力なしで狩り続けるのも限度がある。

記憶を終わらせればいい、と言っていたので今回はシドがその役を担うとする。

でも流石にいくらなんでも子供を斬るのはシドでも躊躇いが勝る。

とはいえ出れないのも困るので、ここは心を鬼にすることにしよう。

 

「…ごめんね」

 

一言謝り女の子を貫く。

するとまた、世界が割れた。

そしてまた、暗闇の世界。

 

「無事?」

「おかげさまでね。使い魔くん達もスケベなだけじゃなかったんだ」

「私も一纏めにされては心外です! スケベなのはキバットさんだけです!」

「んー反論に困る。てかスケベではねーんだけど!?」

 

愉快かどうかわからない話をしつつ、一行はまた進んでいく。

するとまた光に包まれ…聖域の中心に辿り着いたのだった。

 

 

デルタの戦い方は、一言で言えば暴れる、である。

今までアレクシアやローズが見てきたシャドウガーデンたちの太刀筋は、大小あれど洗練されていた。

だが、デルタはそれがない。

シンプルに、暴力。

ただそれだけなのだ。

アレクシアが思い描く理想とは、また別のモノ。

 

「バカなっ…!」

 

呟く声はネルソンのもの。

おそらく本体であろう彼は歯を噛み締めながら

 

「魔力が封じられているのになぜ戦える…!? まさか本当に自力で覚醒したというのか…! だがその手法は失われているハズっ…!」

 

アルファはその問いに微笑むことで答える

デルタはスライムを手づかみで胸と下半身に貼り付けて簡易的なビキニアーマーにするとよし、とご満悦。

 

「まぁよい、こんなものは想定内…! 本番はこれからだぁ!」

 

そう言ってまたネルソンが増える。

増える、増える、増えていく。

ざっと数えただけでもおおよそ百はいるだろう、数的有利はネルソンにある。

そう、数だけ、なら。

 

「獲物がいっぱいぃぃぃぃぃっ!!」

 

デルタはその群れに突っ込んでいく。

真っ正面から突っ込むと、数十体が冗談みたいに吹っ飛んだ。

 

「るぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

デルタが吠える。

いくら数が増えた所で、結局デルタの暴力には敵わない。

チリも積もれば、とは言うが結局のところチリでしかないのだ。

 

「な、なぜだ!? なぜこうもっ、こうも簡単にっ!」

「きっと貴方は研究者だったのでしょう。コピーが増えても頭は一つ。人間は複数の頭を制御できるほど万能じゃないもの。それが百体となったら、もはや案山子ね」

 

さっくりとアルファも増えたネルソン数体を斬り捨てると、そう彼に向かって言い放つ。

そしてデルタもネルソンに向かって視線を向けた。

 

「ははは…っ、あと一匹ぃ…」

「ひぃ!」

 

ネルソンが悲鳴をあげた。

後退りながら、ハンマーを構えるがもう戦う気力は残ってなさそうだ。

 

「無限に分身できる、というわけでもなさそうね」

 

アルファの言葉は事実だった。

もうネルソンには分身できるだけの力はない。

いつのまにか白い空間から最初の薄暗い空間に戻ってしまっていた。

後退る先で、ネルソンの背中はオリヴィエの像にぶつかる。

そして思い出したように

 

「そ、そうだ、オリヴィエっ」

 

像の台座の部分を叩きながら、ネルソンは叫んだ。

 

「来いっ! オリヴィエぇぇぇぇっ!!」

 

叫びと共に何やらまた魔法陣のようなものが展開される。

そこから現れたのは、英雄オリヴィエその人だった。

いや、その人とというのは間違いだろう、彼女の目には光がない。

複製された偽物だ。

そんなオリヴィエがデルタの前に立ち塞がる。

ネルソンは安堵から嗤った。

デルタもまた嗤った。

新しい獲物を前に、少し警戒している感じだ。

ネルソンを守るように立ちふさがる彼女を前に、アルファは呟いた。

 

「…オリヴィエ、やはりあなたは」

 

その時だった

 

「アルファさまっ、調査が終わりました! いつでも出口が作れますっ」

 

イプシロンの声がした。

距離が遠いのは、白い空間に引きずり込まれたときイプシロンも別の場所にいたからだろう。

 

「そう。なら下見は終わり、ね」

 

踵を返して引き返す。

 

「に、逃げるのか…?」

 

安堵混じりのネルソンの声。

 

「小物に興味はないの。我等の目的は力の源を断つこと。ここの防衛がどんなものかもわかったし、次は無理やりこじ開けに来るわ」

「に、逃がすと思うのかっ…!」

「あら。追ってきてくれるの?」

「ひっ…」

 

ネルソンは悲鳴をあげる。

そう、本音を言うなら逃がしたくはない、ここで確実に捕らえないとならない。

だが連中は魔力を封じられているのにも関わらず、ネルソンを圧倒してみせたのだ。

追う、ということは連中の魔力も使える場にこちらが赴く、ということ。

こちらのアドバンテージもなくなってしまい、勝てない可能性が跳ね上がるのだ。

 

「デルタ。行くわよ」

「がぁぅ…!!」

「───デルタ」

「ぴゃいっ!? ごめんなさいなのですアルファさまっ!!」

 

アルファの低く、ドスの利いた声色に我に返ったデルタが彼女の後を追う。

イプシロンが出口となる魔法陣を作り、そこにアルファたちは入っていった。

 

「皆さまもどうぞ」

 

そういってイプシロンの部下…カイもまた、アレクシアたちの前に魔法陣の出口を作り出した。

果たして素直にくぐっていいものか、とアレクシアやローズは一瞬警戒したが

 

「私はついていきますよ。アレクシアさまは残られては? こういう薄暗い場所、お似合いですしね」

 

アレクシアに向かって嘲笑しつつ、魔法陣へと入っていく。

というか根に持ちすぎである()

 

「は、はぁ!? なんであんなハゲの隠れ家に残んないといけないのよ!」

 

アレクシアも追いかけて魔法陣へ入っていく。

ローズもまた、その魔法陣へと入っていくのだった。

残されたのは、ハゲとオリヴィエのみ。

 

「…ま、まあいい。アルファとやらの顔は覚えた。奴の血を得れば完成に近づく…! 想定の内だ。まずは、上に報告だ…聖域に誘い、罠にハメてアルファの正体を暴いたということにして、手柄としよう…他派閥への言い訳もそれで十分だ…!」

 

即座の己の保身へと切り替える。

勝利など、とうに彼は諦めていた。

 

「ん…?」

 

そんな時、ネルソンは違和感に気づいた。

そしてその違和感を裏付けるように、ネルソンの前に〝侵入者発見〟とウィンドウが現れる。

 

「中枢に鼠が紛れ込んだ、だと? ちょうどいい、憂さ晴らしに───」

 

デルタの暴れっぷりを思い出す。

叫びとともに、あっさりと自分が蹴散らされる様を思い出してネルソンは恐怖に包まれた。

 

「お、オリヴィエ、ついてこいっ!」

 

オリヴィエにそう促すとネルソンはブツブツと呟く。

 

「まったく…なんでわしのいるときに限って面倒ごとが…っ」

 

 

聖域の中心についたはいいものの、シドたちはそこで足止めを食らっていた。

何やら大きい扉に、鎖が雁字搦めになっており、そしてその鎖は、〝選ばれし者にしか抜けない剣〟じゃないと斬れない、というものだった。

試しにシドが引き抜こうとしたが、ダメだった。

いや抜けそうになれば抜けたかもしれないがそんなのモブの仕事ではないので、抜こうとしなかった、が正しいのかもしれない。

 

とりあえず時間を〇×ゲームで潰しながら、シドはアウロラと話してみる。

 

「君は、消えたいの?」

「消える?」

「核を壊したら、消えるんでしょ?」

「消える、というよりは、解放される、って言ったほうが近いわね。ここはずっと繰り返される記憶の牢獄。私には少し、辛すぎるもの」

「…そっか。なら、もう少し待とうか」

「待つ?」

「もう少し待ってれば、何とかなるよ。多分」

 

いつの間にか背中合わせになってるシドとアウロラ。

なんか距離ちけーな、とキバットは思いながらも言葉には出さなかった。

そんな時だった。

 

「…あれ。どこここ」

 

聞き覚えのない第三者の声。

反射的にそちらのほうに皆が視線を向ける、向けた先には───

 

「あれ、シド。…と、アウロラ、さん?」

 

ワタル・クルムズが戸惑いながら立っていた。

キバットとタツロットがバッグから飛び出しながらワタルのほうへ向かっていく。

 

「ワタルぅー! お前もこっちにいたのか!」

「おっと、キバット。タツロット」

「なんだかお久しぶりって感じですねぇワタルさんっ!」

「そんな長く会ってないでしょ…っていうか何してんの?」

 

キバットたちを肩にやりながら、ワタルはシドたちに歩いていく。

 

「僕としては、ワタルがここにいたことのほうが驚きだけど」

「なんか最初はベータたちといたんだけどさ、ハゲが戦闘態勢になったと思ったら変なとこ飛ばされて、色々歩いてたらここについた感じ」

「…それはきっと、聖域の防衛システムのせいかもしれないわね」

「変な防衛システム。で、改めて何してんの?」

 

シドはこれまでの経緯を搔い摘んで話してくれた。

かくかくしかじか。

その時に名前も交換しておいた。

 

「なるほど、アウロラさんの解放ね、んで、そのいかにもな扉巻いてる鎖は、この剣じゃないと斬れない、か。僕も別に選ばれしものでもないしな…キバになってぶっ壊すとかでもいいのかな」

「いいねそれ。一番分かりやすい」

「そんな脳筋でいーのかよ…」

 

キバットの呆れた言葉とともに、シドとワタルは扉の反対方向を見た。

そこに魔力の流れ? 的な何かを感じたからだ。

赤い魔法陣の後、そこから二人歩いてくる。

一人は金髪エルフのオリヴィエ、というやつ。

そしてもう一人はハゲ…手には大きい紫色の拳を模したあれドッガハンマーやないか!!!!!

テメェが持ってたのかこのハゲ!

このハゲェェェェェェ。

 

「ほう。どこにいたかと思えば、こんなところにいたか。そして迷子か知らんが、アウロラを連れ出したか小僧…」

 

ハゲがアウロラを見てそう言ってきた。

シドはアウロラへと視線を向けて

 

「知り合い?」

「見たことないわね。でも私の記憶は不完全だから、どこかであったのかも」

「ワタルは?」

「来賓席でちょっとね。まぁとりあえず教団側みたいだからブチ殺し確定かな」

 

すごい物騒なこと言ってて笑う。

 

「しかし残念だったな、その扉は開けられまい。災難だったな、小僧ども」

「え? 僕?」

「僕も入ってる?」

「魔女に誑かされたか迷い込んだかは知らんが、お前たちは死ぬことになる。このオリヴィエに刻まれてな」

 

ハゲの前にオリヴィエが歩いていく。

ハゲはどうでもいいが、やはり英雄オリヴィエ、こっちはまぁまぁ強そうである。

 

「シド、僕が行こう」

「いいの?」

「闘技場でシドは暴れたでしょ? 僕そんな動いてなくてさ、〝処刑人〟より強そうだし、楽しめるかもって」

「! ま、待ってワタルくん、彼女は人じゃあ───」

 

刹那、オリヴィエが剣を構えてワタルに突っ込んでくる。

ワタルは剣を抜き防御するが、衝撃は抑えきれず吹っ飛び壁に激突してしまう。

それが戦いの始まりだった。

そのままオリヴィエは追撃をする、狙うのは首である。

咄嗟に地面へ壁を蹴って地上に立つ…が、オリヴィエの方が速かった。

地上に向かうワタルを迎え撃つように、オリヴィエが剣を構えている。

とりあえず反撃すべく、ワタルが落ちながらも剣を構えて振りかぶった。

カキン、と打ち合う音が響いたと思ったら次いでバラリ、とワタルの持ってた剣が半ばで折れてしまった。

ワタルは内心で(所詮安物か)と納得するも束の間、そのままオリヴィエの放った蹴りがワタルを捉え、再び地面を転がった。

だが、少し考えればこれは当然の事。

技術とか、そういう話ではない。

シンプルに地力の問題だ。

大人と子供とでは戦いが成立しないように、魔力の使えない少年と魔力の使える英雄が戦えば、こうなる事は必然。

そのハズなのに。

 

「何をしているオリヴィエっ! そんな雑魚に手こずるなっ!」

 

ネルソンが不満げに呟いた。

オリヴィエもまた、再度剣を構えて一瞬で距離を詰めてくる。

戦いはまだ続こうとしている。

アウロラは声を荒げて止めようとした。

 

「やめ───っ!!」

「大丈夫だよ」

 

叫ぼうとするが、隣のシドに止められる。

珍しくアウロラは表情と言葉に感情を乗せて

 

「何が大丈夫なのっ!? このままじゃあ貴方のお友達が!」

「見てて」

 

す、とシドは指先で彼を指す。

そこには転がった体制からのんびりと立ち上がるワタルの姿があった。

どういうわけか、余裕そうだ。

彼の顔は、無表情…というか、呆れ…?

 

「…なんだ貴様、その顔は。今がどういう状況か理解しているのか?」

「…いや、つまんないって思ってさ。そのオリヴィエって人、アンタの操り人形なんだろ? だから心がない。だからつまらない」

 

そう言いながらワタルは歩き出す。

手に持ってた折れた剣をその辺に放り投げて、その手を掲げた。

 

「心のある、しっかりした英雄その人だったら、僕自身がどこまでいけるか試したかった。けど、人形相手なら遠慮はいらない」

 

掲げたのを合図に、キバットとタツロットが彼の周囲を飛び回る。

そして掲げたその手に、キバットが収まった。

 

「一気に行くよ、キバット。タツロット」

「よっしゃー! キバって、いくぜーっ!」

「はい! ドラマチックに行きましょう!」

 

「ガブっ!」

 

開いたキバットの口元に、ワタルは己の手を嚙ませる。

鎖が腰に巻かれると同時に、それは赤い止まり木に変わり、一つのバックルとなる。

そしてキバットを突き付けるように前に出し、叫んだ。

 

「変身」

「テンションフォルテッシモ!」

 

キバットを止まり木にセットしたと同時、彼の左手にタツロットが装着される。

初っ端からワタルはエンペラーへとその身を変えた。

 

アウロラはどこか、その姿に見覚えがあるような気がした。

でもいつだったかはわからないし、記憶が不完全なのも相まってそれが本当かもわからない。

だけどなんでか、あの姿を知ってる気がしたのだ。

 

姿が変わる様を見て、ネルソンの顔から血の気が引いた。

 

「な、なんだ小僧、その姿はっ…!? いや、待て…それは、まさかキバの…っ!?」

「言う義理はないんだよね。大人しく帰ってくれるなら一旦命は保証してあげるよ」

 

そのうち殺すけど(無慈悲)

 

「ば、バカな事言うなっ! オリヴィエ! あんなもの見かけ倒しだ! とっとと殺せ!」

 

ネルソンが叫ぶ。

オリヴィエが駆け抜けて、剣を下ろす。

その剣を片手で白刃取りすると、握り潰してから先ほど自分が食らったように回し蹴りでオリヴィエを壁に蹴っ飛ばした。

ドゴォン、と大きな音が響きオリヴィエが壁に張り付く。

そんなオリヴィエの頭に先ほど壊された剣の先が突き刺さり、力無くそのまま壁からずり落ちると光となって消え去った。

 

ネルソンは開いた口が塞がらなくなる。

あり得ない、と言わんばかりにパクパクしながら

 

「ば、バカなっ!! こんな、お、オリヴィエがっ!?」

「次はハゲが相手してくれるのかな。ん?」

 

キバエンペラーは優雅に指を指しながらネルソンに言った。

真紅のペルソナが、静かに、そして確実にネルソンを射抜いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。