シド・カゲノー
クルムズ家と親交のあるカゲノー家の長男である。
最初に出会ったのは五歳とかそこらの頃だと思う。
父オトヤに連れられカゲノー家に遊びに行ったことがあった。
そこで出会ったのがオトン・カゲノーとオカン・カゲノー、そして二人の子供のクレアとシドだ。
ぶっちゃけ名前のインパクトが強すぎてあんまり子供たちに視線が行かなかった。
名は体を表すとはいうが現しすぎだろ()
そんなこんなで定期的に遊びに行ったりをして親交を深めていった。
歳を重ねるにつれ、ワタルも二人と剣を使った組み手…もとい模擬戦を行うことも多くなった。
クレアはカゲノー家のホープということもあり、結構な実力を保持していた。
突然だがこの世界の剣術はあまり洗練されていない。
前世でミノルとトレーニングしてそれなりの剣術をかじっていた自分ですら、それがわかってしまうほどだ。
その中でもクレアは十分な実力を持っているのは、さすがホープといったところか。
また、魔力の扱い方も上手いほうで、大きい岩も易々と刻むほどの実力者だ。
対する弟のシドは…模擬戦をしたときの印象はどうもパッとしない、というか何というか…
どうにも〝実力を隠してる〟素振りがあった。
クレアとの模擬戦も一本取れる部分が何度かあったのにそれを見逃して、なんてことが何度もあったのだ。
その時は流石に口に出すことはなかったのだが───
◇◇◇
「どうりで。だからクレアと模擬戦してた時わざと負けたりしてたんだ」
「うん。陰の実力者は普段はモブに徹するものだからね」
犠牲者を埋葬したのち、改めてシドと向き合う。
友人が異世界でも相変わらずで思わず笑ってしまった。
とりあえず周囲を飛び回るキバットにだんまりをお願いすると快く応じてくれた。
ありがとう相棒。
「亘…いや、ワタルのそれって…」
「おい! それって言うな! 俺様はキバットバット三世って名前があるんだ」
「ごめんごめん。そのキバットといいさっきの姿といい…やっぱりワタル、仮面ライダーになったんだ。いいなあ、夢叶えたんだ」
ミノル…もとい、シドに言われワタルはハッとした。
そういえばそうじゃん、夢叶っちゃったわ、と。
それもアクターでも俳優でもなく、まさか仮面ライダーそのものになっとるじゃんか。
やだ、始まりはいつも突然とは言うかもしれないが突然が過ぎるぜゴッド。
「そういえばミノル…もとい、シドは何しに来たの?」
「僕? 僕は最近作ったこのスライムソードとスライムスーツを試しに来たんだ、この辺の盗賊相手にさ」
そう言ってシドはスライムスーツとスライムソードを見せてきてくれた。
今着ているのがスーツで、持ってるのがソードらしい。
そういえばこの世界での基本的な武器の類は魔力伝導率が悪い。
鉄の剣で百パーセントを込めれば十パーセントしか通らず、ミスリルの剣でさえ五十しか通らない。
シドが開発したスライムスーツは伝導率驚異の九十九パーセント、スーツを纏っていればどこからでも刃が出せるし防御力も抜群、というか破損しても即時再生が可能とその辺の鎧より破格の性能なのだ。
「よく思いついたね」
「陰の実力者は常に研鑽を怠らないのさ。そんなわけで盗賊相手に試し斬りとかしようとしたんだけど…まさかワタルと会うなんてね」
ははは、と珍しく素な笑いを漏らすシド。
あそうだ、とシドは思い出したように盗賊がかっぱらった商人の荷物らを一瞥して
「ねえワタル、これどうする予定だった?」
「特に何も考えてなかったけど」
「それじゃあもらっていいかな。僕の陰の実力者になるための軍資金として」
「お前の友達倫理観終わってないか」
キバットが至極まっとうなことを呟く。
正直いつも通りであり、相変わらずで安心すらしてるワタルはははは、と笑いつつ、
「まぁいいんじゃない? このままほっといても回収されるか、朽ちてくかだ」
「流石僕の友達。話がわかる」
「とんでもねぇ再会を目撃しちまった気分だぜ。…? な、さっきは気付かなかったけど、あの檻の中なんか動いてないか?」
キバットに言われ、シドとワタルはキバットの視線の先を見た。
この世界奴隷なんて珍しくはない、もし本当に奴隷だったら檻を壊して自由にするくらいだが…檻の中にいたのは奴隷ではなかった。
「…なんだこりゃ、なんかうねうねしてる…腐乱死体?」
「〝悪魔憑き〟ってやつじゃない…?」
悪魔憑き。
ある日突然女性の全身に痣が広がり、腐敗していくという不治の病だ。
教会が治癒の名目で引き取ってはいるものの、それは民衆の支持を得るためであって裏では処分されているとかなんとか。
その時、その腐乱死体から迸る魔力の流れをシドは感じ取った。
「この波長、覚えがある。…魔力暴走と同じものだ」
「…これも魔力絡みなんだ」
「ねぇワタル、どうせ教会に渡すくらいなら、僕たちで引き取って色々実験しない?」
「そうだね、このまま処分されるならそっちのほうが温情かも。僕も魔力に関してはまだまだだし」
「お前らろくでなしって言われない?」
「やだなぁキバット。有効活用と言ってほしいなぁ」
キバットのツッコミを受けつつ、シドの案内で近くの小屋にこの悪魔憑きを運び、シドから魔力の扱いを教えてもらったり、空いた時間に剣のトレーニングをしたり、また悪魔憑きをいじったりなどを繰り返していくうちに、一か月の時が過ぎた。
結論から言うと悪魔憑きだったものは無事治り、人としての姿を取り戻したのでした。
しかも金髪のエルフ…すっごい可愛い。
「あれだけ腐り果ててた身体が…元に…!? な、何とお礼を言ったらいいかわからないわ…! この御恩は、生涯をかけてお返しします…!」
重い()
まぁ悪魔憑きになった瞬間から家族にも見捨てられてしまうのだからそんな感情抱いてしまっても仕方のないことではあるか。
どうしたもんかと首をひねっているとふむ、とシドはその辺の木箱に腰を落ち着けて急に語りだす。
「君にかけられていた呪いは解けた。今、君は自由だ」
「の、呪い…?」
金髪エルフが聞き返す。
っていうかワタルも聞き返したかった、何をいきなり言い始めているんだ。
「呪い、というのは…───、…君たち英雄の子孫にかけられた忌まわしき呪いだ」
今考えただろ。
「驚くのも無理はない…だが知っているだろう、君もかのおとぎ話を。〝魔人ディアボロスが世界を亡ぼしかけた時、三人の英雄が現れて世界を救った〟というおとぎ話。これは本当にあったことなんだ」
「───え…っ!?」
金髪エルフが息を飲む。
ワタルも息を飲むべきだろうか、少なくともそこら辺のおとぎ話が実は過去本当にあった、ということは父からちょくちょく話を聞いてマジっぽいなと思い始めてきたし。
「魔神は死の間際、呪いをかけた。それが悪魔憑きの正体さ。だが何者かが歴史を歪め、君たちを蔑ませる存在にした…その黒幕の正体は…───、」
凄い眼が泳ぎ始めた。
考えてないっぽいなこれ。
やがて何かを見つけたように。
「───ディアボロス教団。奴らは決して表には出てこない。我らの使命は、奴らの目的を陰ながら阻止すること。…───そう、我が名はシャドウ…隣にいるのは我が盟友スカー…陰に潜み、影を狩るモノ…、困難な道のりになるだろう。だがなさねばならない。英雄の子よ、我らと共に、歩む気はあるか」
アドリブが凄いなしかし。
さっきのディアボロス教団の話も実はこの世界にはあったりしている。
父の不在が最近多いから何となく母に聞いたらちょっと邪な邪教団と事を構えてるの、とか言っていたから、きっとそれのことなんだろう。
まぁ会ったことはないし見かけたこともないんだけどね。
っていうかしれっとワタルも巻き込まれている。
構わないんだけどネ!
一応そろそろこっちもアドリブをかますとしようか、とワタルもシドを倣い口を開いた。
「無論、無理にとは言わない。キミにはキミの人生がある」
これは紛れもない本心だ。
せっかく元の身体に戻れたのに、わざわざこんな永遠とも取れるような回り道などオススメはしない。
だが金髪エルフは首を横に張って
「…病に…いいえ、呪いに侵され、全てを失った私を救ってくださったのは貴方方です。…だから、貴方達がそれを望むのなら、私も命を賭けましょう。そして…罪人には、死の制裁を…!」
覚悟を示した金髪エルフに向かって、シドは手を差し伸べる。
差し出された手を受け取ると、シドは彼女に向かってスライムスーツを展開させ、その身に纏わせた。
そういえば彼女ずっと裸だったわ、考えないようにしてたけど。
「敵はおそらく、強大な権力者とかだ。真実を知らずに操られてるのもたくさんいる」
「だが、立ちはだかるのならば、容赦はできない…か?」
「ああ、我が盟友よ」
とかって言うな()
しかしよく調べてるなぁ、と心のうちで思う。
金髪エルフは立ち上がるとシドたちの方に歩み寄り
「他の子孫たちも探して、保護する必要があるわね。それに組織の拡張と並行して、拠点も整備していかないと。それと、その為の資金集めも」
「う、うん。ほどほどにね」
シド少し引いててウケる。
まぁやる気があるのはいいことだ、これから結構…いや、かなり長いナニカが始まりそうな予感がするし。
「えっと…そうだな。…僕らの組織は…〝シャドウガーデン〟…キミはこれから、〝アルファ〟と名乗れ」
びしっ、と金髪エルフ…もといアルファという名を命名する。
今日この日この時…陰に潜み、影を狩る者たち…シャドウガーデンは結成されたのだ。
◇
その時、ワタルは気配を感じた。
開けっ放しだった窓からパッタパッタとキバットが入ってくる。
「おい、外に例の盗賊の連中が集まってきてるぜ」
「きゃ、なにこれ…こうもり?」
パッタパッタと羽を動かすキバットに注目しつつ、アルファが声を出す。
いきなりこんなのが出てきたら驚くのも無理はないか。
「失礼、こいつは僕の…なんか、使い魔的な相棒だ」
「的ってなんだよ。まぁいいやそんなことより、盗賊だぜお前ら」
「ふむ。やはりな…、恐らく本隊だろう、仲間が戻らないことを不思議に思い、様子見に来たのだな」
一ヶ月時間が経っているし、連中にも仲間がいても不思議じゃないだろう。
マジでアドリブが強いなシドは、とワタルが感心していると、シドは言葉を続けた。
「アルファ、そしてスカーよ、気を付けろ、奴らはただの盗賊ではない」
「───まさかっ」
「なるほど、盗賊に扮していた教団の連中だったわけだ。恐らく本命は、悪魔憑きだったアルファ、といったところか」
「…まんまと騙されたわね…」
くっ、とアルファが悔しそうに顔を歪める。
「敵は強力だが…僕たちの戦力を知らない、奇襲を仕掛けてみようじゃないか」
「それなら奥の物陰に隠れましょう、入り口から死角になってて、こっちの視界は全て見渡せる、奇襲にうってつけの場所よ」
頭がいいなアルファ。
「そういえば、スカーは丸腰に見えるけど…武器は?」
「ん? ああ、問題ない…キバット」
「ほいきた───ガブッ」
飛んでるキバットに己の手を噛ませ、現れる赤い止まり木にセットする
「変身」
一瞬透明になった刹那、ワタルはキバへと変身する。
アルファは驚きながら
「…驚いたわ、それは…」
「この姿はキバ。まぁ、僕専用の鎧と言ったところかな」
「案ずるなアルファ。実力は我が保証する」
シドに言われ、キバは頷く。
ということで一行は奇襲ポジションにつき、盗賊の連中を待つ。
しばらくして盗賊の連中がやってきた。
「…どこからどう見ても普通の盗賊なのに、見事な変装ね。シャドウの指摘がなければ気づかなかったわ」
「う、うむ。では参ろうか───シャドウガーデンの初陣だ」
「えぇ、その身に刻み込んであげましょう、悪魔憑きによる復讐の刃を。そして罪人に、死の制裁を…!」
「あぁ。キバって行こうか」
その後、アルファとシャドウと共に、盗賊の連中を片づける。
アルファの剣筋は中々筋がよく、魔力の制御もかなり上手であり、シドも感心していたようだった
またアルファも改めてキバの格闘術を見て驚いていた。
この世界での素手の格闘術は剣技以上に洗練されていないみたいだから、驚くのも無理はないだろう。
◇
そんなわけであの小屋を一応の拠点とし、一度アルファと別れ帰路についてるシドとワタル。
「それにしてもよく調べたね。ディアボロス教団のこと」
「え? あぁ、あれ? あんなのその場のノリで適当にでっち上げただけだよ」
…
ん?
「え?」
「…え?」
『え?』
嘘でしょ?