陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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また一万を超えてしまったぞ…


19 最弱なのかもしれないが、声が強すぎる

ブシン祭の季節である。

ブシン祭とは分かり易く言うと天下一武道会みたいなものである(雑)

ミドガルの生徒や、ありとあらゆる魔剣士が国を越えて集い、その中で最強を決める大会。

そんな街中をシドと二人で歩いていく。

この季節になると街を歩く顔ぶれも普段とは少し違うものになる。

人種や国籍、職業もバラバラであり、共通しているのはこの祭を楽しみたい、という目的のみ。

まぁお祭りとはそういうものである。

 

「んで、今回はどんな目的?」

「ふふふ。よくぞ聞いてくれたねワタル…。僕がやりたいのは、そう…! 〝パッと見実力のなさそうなモブみたいなやつだけれど、戦ってみるとかなりの実力者で驚愕されるやつ〟さ!」

 

ちょっと何言ってるかわかんないんですけど()

まぁ意図は察した。

早い話実力を隠した強者ムーブ的なのをやりたいわけだ。

 

おいおいおい、なんだアイツ、あんなのが大会に出るのか? → いや、なんだアイツ、強ぇぞ…!? → 何なんだアイツ! あんな奴が隠れてたのか!!

 

みたいな。

 

「変装とかはするの?」

「もち。流石にシドとしては出れないし」

「それもそうか」

 

そんなわけで二人はガーデンの皆の知恵を借りるため、ミツゴシの商会王都支店に到着。

 

「…顔パスでいけるかな」

「…念の為近くの店員してる人に頼むか。今繁盛期で忙しいだろうし…と、ニュー発見」

 

そんなこんなでニューを通して裏口から入り、またあの豪華な椅子のある部屋に案内される。

ちなみに陰の間って言うらしい。

シドはまた豪華椅子に座り、今回は立って待つのもしんどいのでスライムで適当に椅子を作りそっちにワタルも座る。

そして氷の入ったジュースを手渡された。

シドはりんご、ワタルはオレンジである。

っていうか好みだ、シドはりんご派で、ワタルがオレンジ派なだけのこと。

濃縮還元百パーセントジュースはなんにしたってうまいのだ。

 

「…何か食べたいな」

「すぐにご用意します」

 

シドの呟きに近くのガーデンメンバーが応える。

テキパキしてるなぁ、とワタルはオレンジジュースを飲みながら雲を眺めるのだった。

 

 

敬愛する主たちが来訪された、と聞いたガンマは一旦仕事を部下に任せて駆け足で〝陰の間〟へと急いでいた。

転ばなかったのは多分奇跡。

 

「失礼します」

 

扉を開けるとまず目に入ってきたのは空を見る第一の主シャドウ。

その視線の先にあるのは入道雲か、はたまた別の何かか。*1

そしてちらりともう一人の主を見やる…視線の先にいるのはスカーだ。

彼はオレンジジュースに舌鼓を打っている、普段の凛々しい彼も素敵だが、ゆったりしている今の姿もどことなく品があるように見える。

 

「頼みがあって来た」

 

視線をガンマに移し、シドが言った。

ガンマはひざまづいて

 

「何なりとお申し付けください」

「ブシン祭に正体を隠して出場したい」

 

ガンマの頭脳は考える。

考えて、思考するが…答えには辿り着けなかった。

どうしてそうする必要があるのだろうか。

聡明なガンマをしても、彼の頭脳にはたどり着けそうもない…

謎がどう足掻いても解けそうもない…恥を忍んでガンマは問いかけた。

 

「それは…一体」

「まああれさ。ブシン祭に出ることで、今の魔剣士のレベルを図ろうとしてるのさ」

 

不意にオレンジジュースを飲み終えたワタルが言ってくる。

彼はグラスを近くのガーデンメンバーへと渡すと

 

「時に剣を交えることで見えてくる何かがある。シドはそれをしようとしてるんだ」

 

なんと、とガンマは思った。

主であるシャドウが強いのは当然のこと、正直わざわざブシン祭に出る必要などあっただろうか、とは思っていたが…やはりシャドウは先を進んでいる。

そしてそんなシャドウを理解している、スカーもまた、凄まじい。

ガンマなど、まだまだ足元にも及ばないということを理解する。

 

「わかりました。ただ主の望むがままに」

 

 

当然ながら適当である()

とはいえ割と的外れ、とも言えないような気もする。

実際シド以外に強敵が埋もれている可能性も否めないのだ、こういうのに。

 

「例の物を」

 

ガンマは近くの部下に指示を出し、何かを持ってこさせた。

見た目はなんだろう、ワックスのようなものに見える。

丸い手のひらサイズの容器に入っているから尚更それっぽい。

気になったワタルは聞いてみた。

 

「こいつは?」

「主様たちの陰のごとき叡智を参考に開発したスライムです。魔力を通すことで、本物と同様と思えるほどの質感に変わります」

 

ぱっと見ニベアクリームみたいなスライムをガンマはシドの肌にぬりぬりしていく。

 

「誰にでも使えるのはいいな」

「イータに量産を任せているところですわ」

 

そんなイータだが、何やら彼女も裏で準備している。

今もなんかのプラグをガッチャーンコ。

そしてその近くではカイが自転車のような…発電機? に跨ってオメガと何やら話している。

 

「今のところ粘土を貼っただけって感じだね」

「ここからスライムを削り、塗装して別人に仕上げます」

 

ガンマが鏡を見せて、シドが現在の状態を確認する。

今のシドは顔が膨れている…ここからどう変わるのだろうか。

ニューがリストをシドに見せつつ

 

「どのような感じがよろしいでしょう?」

「なんか…弱そうな感じで」

「弱そう、ですか?」

「でしたら、これなんてどうでしょう」

 

ガンマがニューに断りを入れると、そのリストを受け取りパラパラとめくっていく。

そしてあるページで止めると一枚の写真を指差してシドに見せながら

 

「名前は〝ジミナ・セーネン〟アルテナ帝国の貴族で二十二歳、怠惰で魔剣士としての実力も低く、五年前に勘当、その後は傭兵などで各地を転々とし、最期は任務で、〝悪魔憑き〟の馬車の護衛中死亡…骨格も似てますし、ちょうどいいんじゃないでしょうか」

 

どんな名前やねんと流石に思った。

地味な村に住んでそうだな、とめちゃくちゃ適当にワタルは思った。

ついでに覗き込んで顔写真を見てみるとまぁなんと地味な顔立ち。

名は体を表しまくるやつである。

 

「顔立ちだけじゃなく、肩書きも申し分ない。このジミナくんで行こう」

「では、始めます」

 

ガンマがスイッチを動かす。

すると椅子の上でスタンバイしていたなんか美容室で女性の髪をすっぽり包めるような機械がウイーン、とシドの頭を覆うように降りてきた。

そしてカイがチャリのような発電機を動かすと近くの機材が煙を噴いて動き出す。

…これ大丈夫なやつかな? と一瞬ワタルは思ったが、やがて機械が停止し、シドの頭から機械がまた上げられて解放されると…

 

「…おー」

 

そこにはシドの顔ではなく、ジミナの顔があった。

不健康そうな隈に無精ひげ…いかにも雑魚って感じだ。

こんな時にリアクションしてくれそうなキバットは現在お休み中である。

エンペラーアトミック分で消費した体力は回復してるが、二度寝というやつだ。

ガンマが再び鏡を見せる。

 

「いかがでしょう?」

「なるほど…、これは…すごく…弱そうだ…」

 

いろんな角度からジミナフェイスを確認するとそうシドは呟いた。

よっこいしょと椅子から立ち上がると

 

「どうせなら、猫背のほうがそれっぽいかな…なで肩にして…」

 

ごき、ごきと変な音を身体からさせながら姿勢を矯正している。

そこまでするか? とも思うがシド的には必要なのだろう。

 

「んで、表情と、声も…」

 

ん、んっ、とシドは表情を作りつつ咳払いをして

 

「無気力な方がいい(緑川光)」

「ちょっと待て」

 

友人からトップゲイラーみたいな声がしたんだが???

 

「どうしたの?(緑川光)」

「どうしたのじゃない、お前声はめちゃくちゃ強くなってない? そんなモブはいないよ?」

「そうかな(緑川光)」

 

明らかにメイン級の声だ、見た目が地味なのも相まってなんか凄まじい。

 

「でもこれはこれで面白いとは思うから大丈夫だよ(緑川光)」

「いや、まぁシドがいいならいいけどさ」

 

スゴイ気になるだけだ、ワタルが()

この世界ではあまり気にならないし、なまじ転生前の知識なんぞ持ってるから違和感が働いてしまうのだ、問題ない問題ない。

問題ナイル川。

 

「せっかくだからワタルもやってみたら?」

 

いつもの声に戻ったシドがワタルにそう言ってきた。

 

「そうだね、ついでだからやってみようかな」

 

ガンマから資料を貰うとペラペラペーラと紙をめくり読んでいく。

そうこうしてるうち数秒後、ビビッと来た顔がいたのでこいつをチョイス。

 

「この人は…ビシュウ・ロウ、という人物ですね。コエテク帝国の貴族で、二十五歳。あまり表に出てこない人物だったのか、たいした情報はないのですよね。最期は病に侵され、眠るように亡くなった、と」

 

そんな名前だったんだ()

そう、パラパラしてるうちに見えてしまったのだ、すっごい無双系列のゲームでよく見たあの顔を。

大した情報ないなら適当に情報盛っても問題ないだろう。

だが髪型は少しいじらせてもらう、リストにあった時の髪型はポニテスタイルだった。

ワタルとしては初期作や後期作あたりのあのなんかふわっとした、センター分けロングスタイルな髪形が好みだ。

 

そんなわけでスライムをぬりぬりして、シドと同じようにあの機械がワタルの頭にすっぽり入る。

そしてまたその機械が起動して、終わったころには───

 

「いかがでしょうか」

「…ふむ」

 

鏡を見るとそこには確かに某三国で無双する系のゲームの登場人物の姿がいた。

なかなかなクオリティだ、シドも「おー」って言ってる。

こっちは別に背筋や立ち方を気にする必要はない…が、声は変えないといけないので…

 

「あ、あ。あー…。わ、我が名は。我が名は───。我が名はシュウ・コーキン。───そう、我が名はシュウ・コーキン!(吉水孝宏)」

 

シドを真似て声色も変える。

名前もちょっと変えた、まぁきっとビシュウを知ってるやつに会うことはないだろうが、念のためだ。

 

「いいね、ワタルとはわかんないよ」

「ありがと。意外と楽しいねこれ。潜入とかする時に使えそう」

 

会話をする二人を見て、ガンマは微笑ましい気持ちになった。

隣にいるニューもどことなく満足気だ。

 

「よし、ブシン祭の登録に行って来よう、ワタルもついてきて(緑川光)」

「わかった。どんなものか様子は見てみたいしね(吉水孝宏)」

 

二人は改めて声を変えると歩き出していく。

事前に用意されていた安物の鎧と剣をシド、もといジミナは装備。

ワタル、もといコーキンはスライムで無双八のような衣服を作り上げると、武器には棒のような棍をセレクト。

そして扉へ向かった時、ふいにワタルがシドに促され、彼もそうだ、と言うとくるりとガンマの方を見やると

 

「その髪型、似合ってるよ。普段のやつも好きだけどね」

「───」

 

ガンマの思考が停止する。

普段とは違う髪型を今は確かにしていた…そんな些細なことを、スカーが気づいてくれたことが嬉しくて。

 

二人が扉を開けて出ていく。

ばたんと扉が閉まった時、なぜかガンマのヒールが折れた。

 

「ぺぎゃっ」

「が、ガンマ様!?」

 

ニューの声が聞こえる。

けどガンマの顔はどことなく幸せそうだった。

 

 

というわけでやってきたのはブシン祭の登録をしている闘技場だった。

そこの受付でしているらしい。

ついでにどんな魔剣士がいるのかワタルはシュウ・コーキンとしての表情を崩さず、見回していく。

シド、もといジミナの前にいる選手は鍛えられているが重心が不安定、後ろにいる男は重心は安定してるが太っている、たぶん酒の飲み過ぎか何かか。

 

「…どう? 今はジミナが弱そうに見えてる?」

「うん。今僕の中で誰が一番弱そうに見えるかトーナメントしたけど、僕が一番弱そうに見えるはずだ」

 

何を勝手に開催してるんだ()

とか言ってると後ろから不意に声をかけられた。

 

「やめときなさい、そこの貴方」

 

声をかけてきたのは…なんか見たことある女性だった。

そうだ思いだした、ちょっと前に女神の試練で古代戦士の誰かを呼び出したアンネローゼ・フシアナスという女性だ、この人は。

 

「それとも、貴方が出るの?」

「いいや。私は付き添いだ」

「じゃあ貴方が出るのね。…そんなんじゃ死ぬわよ」

 

声を変えてワタルは言った。

っていうか、これはあれでは? 実力のなさそうなものがこういう大会に参加すると起きがちな、そういう感じの出来事では?

 

「そっちの貴方は素人でしょう。見ればわかるわ、その安物の剣と鎧…舐めてると死ぬわよ」

 

きっと睨むアンネローゼ。

シド、もといジミナは彼女の眼を見つめ返して一瞬考える。

やがてジミナは言った。

 

「人を見かけで判断するのはやめておけ」

 

そう言ってアンネローゼから目を離し、再びエントリーすべく歩き出す。

弱そうなくせに生意気な態度がちょうどいいとシドは判断したのだろう。

アンネローゼはそんな彼の態度にムカッと来たのか

 

「ちょっと、人が心配して…!」

「オレには必要ない」

「そういうことだ、レディ。ご忠告痛み入る」

 

ジミナに続き、シュウが口を出す。

いつの間にか一人称もオレになっている、シュウとしては原作よろしく私を選んだ。

そんな二人の前に一人の大柄な男が割り込んできた。

 

「人の忠告は素直に聞いとくもんだぜ、兄ちゃんよお」

 

例えるなら大柄な悪役のプロレスラーだ。

だがその大剣は使い込まれており、顔の傷や眼帯からも歴戦の猛者のような雰囲気が伺える。

この中ならアンネローゼの次くらいには強そうだ。

 

「俺ぁクイントン。ブシン祭にゃあ何回か出場してるが、毎度お前みたいな雑魚が場を白けさせるんだ。頼むから帰ってママのおっぱいでもしゃぶっててくれねぇか」

 

こんな典型的なザ・かませ犬みたいな喋りをするやつかいるんだ、とシュウの仮面をかぶったワタルは思った。

そんな露骨な嘲りにクイントンだかクリキントンの周りの奴らも賛同の声と笑い声が響く。

 

「少なくともお前よりは強いさ」

 

横目でクイントンを見つめながらジミナは言った。

クイントンの顔が紅潮していく。

 

「おい、言われてるぞクイントン!」

「言われっぱなしでいいのかぁ!?」

 

周囲がヤジを飛ばしていく。

クイントンはジミナの胸倉をつかみ上げ

 

「…おい、口の利き方は覚えたほうがいいぜ? 誰が、誰より、強いって?」

「───ッ」

 

ジミナは何も言わなかった。

代わりに唇の端で嗤ったのだった。

 

「てめぇ…躾が必要みたいだなっ!!」

 

そう言ってクイントンはジミナを殴り飛ばした。

腰が一切入ってないゴミみたいな拳。

だが吹っ飛ぶくらいにはパワーがあったようで、ジミナは地面を転がった。

 

「謝んなら今のうちだぜ」

「…やれやれ。本当に程度が低いな」

「───ぶっ殺す!!」

 

激高したクイントンが拳を振り上げてジミナに殴りかかっていく。

その姿はど素人そのものだ。

大分前に言ったかもしれないが、この世界は素手での戦いはまるで進歩していない。

まぁ武器を使ったほうが強いので、余裕があるかピンチにでもならない限り素手での戦いには発展しないからなのだ。

素手の格闘技大会があったら間違いなくシドとワタルでワンツーフィニッシュできる自信がある。

大振りな拳に対して幾千もパターンが浮かぶだろうが、シドとしてはまだ戦う気がないのだろう、特に何するでもなくクイントンのパンチを顔に受けた。

何度か殴られ、ジミナは壁に叩きつけられる。

上手いこと受け身とかも取っているし、殴られる時僅かに大袈裟に動いてダメージを受けているように見える。

モブをこなす為に習得したのだろう、毎度思うが凄まじい執念だ。

 

「おいおい! こいつ弱ぇぞ!!」

「なんだよ! クソ雑魚じゃねぇか!」

 

ギャラリーが嘲笑する。

きっと今のシドには心地がいいものだろう。

ベートーベンの第九ぐらいに聞こえてるはずだ知らんけど。

 

「なんだぁ? ビビッて手も足も出ねぇのかよ、根性なしが」

「オレの拳はこんなところで振るうほど安くないんでね」

「テメェ…まだ殴られ足りねぇみたいだな!!」

「その辺にしておきたまえ」

 

振りかぶるクイントンの拳をシュウの手が止めた。

クイントンはシュウの方へ睨みつつ

 

「んだよ…! なんならテメェが相手してくれるか!?」

「生憎だが私の拳もこんな場で見せるほど安くないんだ。それよりこれ以上は千日手になると思ってね、どう足掻いても君の拳では私の友人を倒せない」

「なんだと…!?」

「よく見たまえ。君が殴った私の友を」

 

クイントンが不愉快そうに顔をしかめジミナを見た。

アンネローゼもシュウの言葉が気になって改めて吹っ飛ばされたジミナを見やった。

そして僅かに表情が変わる。

二人共だ。

 

あれだけ殴られたはずなのに、目立ったダメージが見当たらない。

強いてあるなら、口の中を切ったぐらいか?

クイントンは僅かに冷や汗をかいた。

シュウはそんな一部の視線を受けつつもジミナの方へ歩いていき

 

「やれやれ、誰にでもその不遜な態度…。君の悪い癖だ」

「すまない。だが思い出したかった、血の味を」

 

シュウの手を取ってジミナは立ち上がる。

いつしかギャラリーの声は静かになっていった。

そのまま口の端に滲んだ血を指で拭いながら、人垣へと歩いていく。

 

「待って! ───アナタたちの名前は!?」

 

アンネローゼが不意に大き目な声で問いかけてくる。

ジミナは少しだけ目線を彼女に向けて

 

「…ジミナ」

 

その名を呼んでまた歩き出す。

シュウはそんな彼に苦笑いをしつつ、アンネローゼの方へ身体ごと視線を向け

 

「私はシュウ・コーキン。彼の友人だ。以降、お見知りおきを」

 

そう言って彼もジミナを追って歩いていく。

そのまま二人は人混みの中へ消えていくのだった。

 

 

「…やったよワタル、これたぶん成功だよ、〝誰もが侮る弱者…だけど一部の人間はその異質さに気付く〟ってやつ」

「シドが成功っていうならそうなんだろうね。僕は適当にアドリブかましただけだけど」

「いや、逆によかったよ。〝なんであんな奴があいつの知り合いなんだ〟っていうのは、意外とジミナくんの異質さを際立てせくれたと思うんだ、流石は僕の親友だよ」

「今回に限っては本当にそんなつもりなかったんだけど。でもこっちも周瑜といえばの〝君の悪い癖だ〟って言えたから僕はもう満足」

 

ちょっと無理やり感があるけど。

 

「次ー、ジミナ・セーネンさーん?」

「あ、はーい。それじゃちょっとエントリーしてくるね」

 

起用に緑川光の声と素の声を使い分けながらワタルに言うとジミナは受付に向かっていく。

同時に生前よく読んでいたマンガのワンシーンを思い出す…それはドラゴンボール魔人ブウ編の天下一武道会のエントリーするくだり。

一見普通の人間にしか見えない連中がパンチングマシーンでえげつない記録たたき出すあのシーンだ。

 

…なるほど、確かにこの大会のどっか、一番盛り上がるところであいつすげーつえーじゃん、ってなったら気持ちいいのかもしれない。

 

 

ブシン祭はまもなく始まる。

来週から予選のスタートだ。

まずシドは闘技場を下見して演出パターンを模索しているらしい。

とりあえずまぐろなるどで自分の分のサンドとシドの分のサンドを購入し、合流場所である学園へ向かう。

学園に近づくにつれ、蝉の声がうるさくなる。

夕日に染まった学園は大分復旧が進み、この調子なら夏休みが終わるタイミングで完成するだろう。

ヒョロが〝全部燃えとけよ〟と愚痴をこぼしていたが、ちょっぴりそれには賛成である。

延長は全校生徒が思ってそうだ、学生なんてのはそんなもん(偏見)

 

「…そういえばクレアがシドと一緒に帰省しなさいとか誘ってきたな、シカトして聖地行ったけどあの後どうなったんだろ」

 

まぁ本戦が始まるころには戻ってくるだろう知らんけど。

そんなこんなでシドと合流、サンドの入った袋を渡す。

そのまま適当にベンチに座りのんびりタイム。

 

「んー…実力を現したときは普段通り戦えばいいとして…予選の対応も侮れないんだよね。手を抜きすぎるのもいけないし、全力で行くわけにもいかないし」

「そこらへんはなんとも言えないな。戦うのはシドなわけだし」

 

マグロサンドをモグモグしながらシドの話をに相槌を打つ。

余談だが大会にはどっちが勝つかの賭けが行われるみたいだ、シドに賭けて小銭を稼ぐ気は満々である。

 

「ワタル、優勝候補って誰かわかる?」

「ん? そうだね…」

 

そういってワタルは事前にニューに調べてもらった紙を取り出してそれを見る。

 

「候補一番はアレクシアの姉アイリスさんだね。今年優勝すれば久しぶりの連覇誕生とかで盛り上がってる。次は学園選抜でシード枠を勝ち取ったローズ・オリアナ会長。オリアナ初のブシン祭優勝になるかもって話題になってる。他にはベガルタ帝国から元ベガルタ七武剣の女魔剣士のアンネローゼ…昨日エンカウントした人だね、強そうなのはこれくらいかな」

「昨日の女の人そんなすごい人だったんだ。どうりでいいリアクションだったわけだ」

 

リアクションと関係あるかはわかんないけども。

そんな時だった。

 

「あら、そちらにいらっしゃるのは」

 

声がかけられた。

視線を向けるとそこには練習用の細剣を持った、ローズ・オリアナの姿があった。

シドはサンドの食べかけにかじりつきつつ

 

「や。練習かい?」

「はい、時間が空いたので、少し剣を振りに。お二人は、まぐろなるどに行ったのですか?」

「うん。小腹空いちゃったからね」

「私も先日、三人で行ったんです。とても美味しかったですよ」

「三人?」

 

シドとワタルの目線が交差する。

 

「はい、ナツメ先生とアレクシアさんと」

 

そういえば聖地で一緒だったな、とワタルは思い出した。

たまーにナツメとしてベータはアレクシア、ローズと会いに行っているみたいなようなことを聞いた気がする。

友達が増えて良きかな。

 

「ナツメ先生ととっても仲良くなれました。アレクシアさんもいい子ですので、きっとすぐ仲良くなれますよ。…ちょっとまだギクシャクしてますけど」

 

なれるかなぁ()

聖地で一緒にいたとき互いが互いに視線を送りまくっていたような気がするけど。

同族嫌悪とかなのかな。

 

「まぁそのうちなんとかなるでしょ、ね、ワタル」

「だったらいいんだけどねぇ」

「…もし、私がいなくなったとき二人が仲良くできるか心配で。これからみんなで協力するんです。何ができるかはわかりませんが、少しでも世界が良い方へと向かうように」

 

三人で何をするんだろう、とワタルは思った。

ボランティアとかでもするのかな。

 

「まあ、世界平和は大事だよね」

「だね」

「はい」

 

シドの言葉にとりあえず同意しておく。

辺りも少しずつ暗くなってきている、そろそろお開き時かもしれない。

 

「…あの」

 

不意にローズが口を開いた。

彼女の視線は、主にシドに注がれている。

しかしほんのちょっぴりワタルにも向けられている気もする。

 

「これからお父様と会うんです。そこで、婚約者のドエム・ケツハット殿が紹介されるんです」

「そうなんだ」

 

ワタルは何も言わなかった。

っていうか何も言えなかった───どんな名前やねん()

何となくそのローズの表情から察するに、政略結婚の類なのだろう。

…もうちょっとマシな名前の人はいなかったのかなぁ()

 

「…おめでとう、は言わないでおくよ」

 

表情からそれを察したシドも、そう言葉を発した。

 

「…私はオリアナの王女です。多くの期待を背負い、生きてきましたが、私のわがままでそれを裏切りました」

「うん」

「また、多くの人の期待を裏切るかもしれません」

 

彼女は悲しそうな顔で笑った。

 

「…剣を振って、泥に塗れて何になる、とお父様や国の皆にも反対されました。だけど、私は忘れらなかった。あの日見た、美しいモノを…」

 

そういえばオリアナ王国は魔剣士の地位が低いらしい。

芸術の国と言われているくらいだから、ここまでローズは、必死に努力を重ねてきたのだろう。

 

「私は、自分の理想を捨てられなかった。それは今も変わっていません。…シド君は、何かあったら、私を信じてくれますか」

 

これ完全に僕蚊帳の外じゃない? 

ワタルはサンドを食べながら思った。

シドは食べかけのサンドを食べきって、ローズに向かって言う。

 

「わかった。いいよ」

「───」

 

ローズは微笑んだ。

彼の顔を見て、何かを決意したかのような、そんな感じの何かが見えた。

 

「…ありがとうございます。シド君に信じてもらえるなら、もうそれ以上は望みません」

「一応僕もいるんだけどね」

「あっ、えとっ! わ、ワタル君のことも忘れてたわけでは、なくてですねっ」

「大丈夫だよ。微力ながら僕も信じてますから」

 

わたわたしだすローズを軽く揶揄いながら、ワタルもサンドを食べ切った。

むぅ、と言うような顔をした後落ち着いたローズに、シドは自分のサンドを手渡す。

 

「あげるよ。少し肩の力を抜いた方がいい」

「───ありがとうございます」

 

ローズはそう笑みを漏らして、サンドを受け取ると再び歩いて行った。

彼女の背中が見えなくなるのを確認して、ワタルは言う。

 

「珍しいね。シドが他人を気に掛けるだなんて」

「理想を捨てずに追い求めた、って言ってたからね。ちょっと僕たちに通ずるところもあるかなって思って」

「確かにね。僕は仮面ライダーになるって夢は叶いはしてるけど、満足はしてないし」

「うん。それに、彼女はなんだか大きなことを成してくれるかもしれない…。僕の勘がそう言ってるんだ」

「だといいんだけど。あともし色々あったらシド、ローズさん娶ってあげなよ? あれ確実にお前にフラグ立ってるじゃん」

「えー」

 

そんな他愛もない話をしながら、二人もまた帰路を歩き出すのだった。

 

 

翌日、何気なく読んだ新聞に〝ローズ・オリアナが婚約者のドエム・ケツハットを刺して逃亡した〟との見出しが目に入ってきた。

大きなこと成しすぎだろ()

 

 

 

*1
入道雲です




クイントンさんも今回はちょっぴり気づくパティーン
まぁ活躍は変わんないで悪しからず
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