陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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一期の終わりが近づいてまいりました
ただ自由に書いてるだけなのにいつの間にかこんなにお気に入りも増えるとわ()

ただ区切りつけるまで長くなっちゃうんだよね(下手くそ)
大分前に書いたとある二次(リメイク前)の妹達編よく五回に纏めたなと今でも思う



22 刹那に駆ける

膨大な魔力を感じてアレクシアとナツメの二人はそこへ向かって走っていた。

察知したときナツメの方が一足早く気づいていたような気がするが、今はどうでもいいものとする。

瓦礫とかを潜り抜けて、たどり着いたのはの聖堂だった。

そして、そこにローズ・オリアナはいた。

辺りには黒ずくめと思われる、死体があって…───

 

「ローズ先輩…」

「アレクシアさん」

 

以前とは雰囲気の違う彼女を前に、思わずアレクシアはほんの少し後ずさる、がすぐに一歩前に出す。

 

「こんなところで何をしてるんですか…! 先輩!」

「こんなとこまで来てくれたのですね。…ありがとうございます」

 

短い謝辞と共に、ローズはアレクシアの隣を通り過ぎた。

アレクシアは彼女の背中を視線で追いながら、言葉をかける。

 

「待ってください! どういうことなんですか、どうして婚約者を!」

「話せば巻き込んでしまいます。…貴女を巻き込みたくないの」

 

こちらを見てくるローズの眼は、どことなく眩しいものを見るようだった。

 

「なんですかそれ…! それじゃ何もわからない! 理由を話してください!!」

「言ったでしょう。話せば巻き込むことになる」

 

ローズの視線を、アレクシアは睨み返す。

 

「…どうしてそんな目で私を見るんですか。約束したじゃないですか、私たちで大切なものを守ろうって! それなのに、結局貴女も私を傍観者でしかないと思ってるんですか!!」

「ごめんなさい」

「答えて!! 答えろローズ・オリアナッ!!」

 

彼女はどこまでも悲しそうな表情(かお)をしている。

 

「私はもう戻れない。だから、羨ましいの」

「何も知らない傍観者の、どこが羨ましいっていうの」

「そんなつもりじゃないの。私は色々なものを失って、これからも失い続ける。私が皆を否定して、悪と罵るでしょう」

「何をするつもりなの」

「ごめんなさい。…もう往くわ」

 

歩き出すローズに向かって、ついぞ堪忍袋の緒が切れたアレクシアは剣を抜いた。

 

「もういい! 力づくでもたたき伏せて聞き出してやる。…私は傍観者になりたくない」

 

アレクシアはローズの前に立ちふさがった。

応えるように、彼女も手に持っていた胸像に魔力を込めて、その胸像を剣の形に変形させた。

アレクシアはその胸像に見覚えがあった、かつてゼノンが使おうとしたものだ。

あの時はワタルが速攻で叩き落としたから何なのかわからなかったが、まさか剣だったなんて。

 

じり、と互いがにらみ合い───同時に二人が動いた。

反応も剣の速さも同じ、技量も同等…

ローズは一瞬驚いた、仮にもローズは学園最強の魔剣士、入学当初は明確な技量の差があったはずだ。

この短い期間で彼女の剣は見違えるくらいに成長していた。

そして、彼女の剣は彼らの剣に酷似している…シャドウと、スカーの剣に。

 

二人の剣がぶつかる、魔力が迸り聖堂が染まる。

互角に近い二人だったが、結果は明白だった。

アレクシアの剣が空を舞う。

すかさずローズの掌底がアレクシアの腹部に叩き込まれる───しかし寸前で後ろへと飛んでアレクシアは威力を和らげていた。

だがそれでも、衝撃は完全に緩和できなかった。

その勢いのまま吹き飛び、アレクシアは地面を転がった。

辺りには土煙が舞い、地面を叩きながらアレクシアは歯を食いしばる。

 

勝てない…!

 

ローズに一体何があったのか、少し前の彼女ならいい勝負ができると思えるくらい、アレクシアの剣は成長したと思っていた。

魔力の量が、違いすぎる。

せめて、せめてこの魔力の差を埋められる何かがないと今のアレクシアでは勝てない。

ふと、視界の端に白いナニカが入ってきた。

それは、ゼノンやワタルが使用していた、あのベルトとナックル。

アレクシアはすかさずそれに手を伸ばす。

これがあれば、もう少し足搔けるかもしれない。

アレクシアは傷ついた体を気合で奮い立たせると、ベルトをどうにか腰につける。

ワタルがしてたみたいに、アレクシアはナックルを掌に押し付けてみた。

 

<レ・ディ・イ>

 

◇

 

土煙が晴れたとき、ローズの耳に聞こえてきたのは、低く、くぐもったそんな音声。

目の前のアレクシアは、いつの間にか腰にワタルが巻いていたようなベルトを巻いていた。

もしかして、黒ずくめが使用しようとしていたあのベルトを拾った…?

 

「アレクシアさん…っ!」

「───変身!」

 

ワタルがしていたように、勢いのままアレクシアはナックルをベルトにセットした。

 

<フィ・ス・ト・オン>

 

ナックルから赤い色の幻影がアレクシアに重なる。

装着が完了したアレクシアは掌を確かめるように開閉すると

 

「…いい着心地とは言えないわね」

 

イクサとなったアレクシアは、カリバーを構えながら、ローズを見据える。

 

「…第二ラウンドと、行きましょうか!」

 

再びローズのガルルセイバーとアレクシアイクサのイクサカリバーがぶつかり合う。

 

◇

 

そんな彼女らの戦いを、気配を少し隠しながらベータは眺めていた。

ローズの魔力の高まりに、とても覚えがある。

あれはおそらく、七陰の皆と同じように、シャドウかスカーに〝悪魔憑き〟を治癒してもらったのだろう。

そしてアレクシアへと今度は視線を移す。

まさか土壇場でイクサのシステムを身に纏うことを選択するなんて、変に度胸はあるというか。

胸はそんなにないくせに。

けれど今アレクシアが使用しているシステムは教団が作った、スカー曰く粗雑なシステム。

今スカーが使用しているイクサシステムはスカー自身やイータの手によってほとんど別物といえるくらいに改修が施されている。

とはいえ、上手い具合に使いこなしているのを見ると、アレクシアもまぁまぁやるということか。

 

「───」

 

ふぅ、とベータはため息を吐く。

ここはローズを少しだけ援護するとしよう、きっと彼女は〝シャドウガーデン(こちら側)〟に来るはず。

つまり未来の部下…に、なるかもしれないということなのだから。

ベータはスライムで少し小さめの弓を形作る。

アレクシアが纏ってるベルトを破壊ないし外せばその変身は解除されるだろう。

破壊は流石に可哀想かな、だから───ベルトを外すくらいで勘弁してあげよう。

 

◇

 

ピシュン、とどこからか一瞬そんな音がした。

 

「えっ…?」

 

飛来してきたそれは視認できなかった。

だがアレクシアのイクサベルトの結合部分にそれが当たり、イクサベルトがどういうわけか、外れてしまった。

 

「え、ちょっと…!」

 

無情にもイクサの鎧は解除されてしまった。

アレクシアは動揺する。

動揺してしまう───当然ながら、それは明らかな隙となった。

ドスッ、とガルルセイバーの柄尻でアレクシアの鳩尾に叩き込まれた。

がはっ、と大きく息を吐きながら意識が明滅する。

 

「ろーず、せんぁ…」

 

名前を言おうとどうにか彼女に手を伸ばす。

ローズはアレクシアを抱き留めながら、意識を失うアレクシアに最後まで寄り添っていた。

 

「…ごめんなさい。でも、ありがとうございます…アレクシアさん」

 

こんな自分を友と思ってくれて。

道はきっと別々になってしまうだろう…だけどきっと、目指すべきところは同じだと思うから。

かつかつ、と後ろから足音が聞こえた。

そこにいたのはナツメだった。

不思議なことに、彼女の存在はどういうわけか意識の外にあったのだ。

 

「ナツメ先生…。すみません、私は行きます」

「止めませんよ。私にはその資格がありません」

 

どこか表情が読めない顔で、ナツメはそう言った。

ローズの記憶にある彼女は、いつも柔和な顔をしていた。

 

「ちょっと意外でした。色々この子も悩んでるんですね。国も組織も、性格も信念も違っていたかもしれないのに、目指すところは一緒だった。…もしかしたら、そんなに悪くない組み合わせだったのかも」

「ナツメ先生…?」

「どうかご武運を。きっと私たちの道は、いつか交わるでしょう。それまで私は、もうちょっと子守でもしてますね」

 

そう言ってナツメは膝をつき、アレクシアを介抱しだす。

 

「…貴女は…」

「さ、行ってください。気を失っただけですから、すぐに起きちゃいますよ」

 

ナツメはそう言って微笑んだ。

聞きたいことはたくさんある…だけど、時間がそれを許してくれないし、ナツメもこれ以上は何も喋ってくれなさそうだ。

 

「それでは」

 

ローズは踵を返し、その場から姿を消した。

ナツメはよいしょ、とアレクシアを膝枕してあげ、ふぅ、と息を吐く。

 

「…これが、シャドウ様とスカー様の選択なのですね」

 

ステンドグラスに描かれた模様をちらりと見やる。

三人の英雄と、斬り裂かれた魔人の絵。

それが、何かを暗示しているようにも見えて。

 

「…いいなぁ。ローズ王女」

 

そして、誰もいないことを確認して、ふとベータは呟いた。

ローズが持っていたのは、恐らくガルルセイバーだったはず。

経緯はわからないが、たぶんスカーから貰った、或いは借り受けたモノだろう。

 

ちょっぴり嫉妬するベータなのだった。

 

◇

 

「寮の前であんたたちを待ってた時、私が何を考えていたかわかる?」

「わがんない」

 

今いる場所はワタルの部屋だ。

シドは早々に首を絞められてダウンしてしまった。

正確にはとっとと締め落とされて逃げたのだ、彼は。

ゆるさねぇ()

 

現在ワタルは馬乗りでマウントを取られながら首に手をかけられている。

とりあえず今のところ命の危機はないので、何もしないでされるがままにされておく。

 

「あんたたちをボッコボコにしてやったのよ。それはもう何度も繰り返し繰り返しね。でもそのたびに私の怒りは増していったわ。っていうかなんでアンタ頭の中でも強いのよ」

「そんなん僕に言われても」

 

さすがにクレアの脳内でワタルが強いのは知らん。

ワタルはシドみたいに実力を隠すムーブをしていない。

だからといって目立つような真似もしていない。

数年前のクレアとの模擬戦では割とイイ感じに勝負していたと思うし、その時はシドから習ったこの世界の剣の復習に彼女との模擬戦を使っていたのだ。

侮ってたわけではないが、少なくとも勝負にはなっていた、はず。

 

「どうでもいいとか思ってない?」

「それなりに───いだだだだだ」

 

ぐぃーっ、と首を程よく絞められる。

一歩間違ったら死んでるかもしれない。

全然耐えれはするが痛いもんは痛い。

もっかい手の力を緩めると、徐に紙切れを取り出してワタルに見せつけてくる。

 

「なにそれ」

「ブシン祭特別席のチケットよ。普通じゃあ手に入らない代物。あげるから私の試合を見に来なさい」

「えー───いだいいだいっ」

 

きゅいー、と首が絞められる。

っていうかちょっとつねってるかもしれないさっきから。

 

「当然シドとあんたの二人分あるから。そして私の試合を見て勉強なさい。…いえ、アンタは私に匹敵するくらいだから十分かもだけど、シドにはそう伝えといて」

 

まぁクレアからは学ぶことないしね()

 

「シドは見込みがあるし、アンタだって十分強いんだから。二人とも真面目にやればゼッタイ強くなるはずよ。むしろなりなさい」

「そんなこと言われても」

「いい? 絶対に見に来なさいよ」

「わがった」

 

めんどくさくなって思考停止しながらそう答えると、クレアは満足したのかやっとマウントポジションをやめてくれた。

今更だけどクレアも成長して普通に綺麗なスタイルになっているから目に毒ではある。

スタイルいい子たちに耐性持っててよかった。

ベッドからよいしょ、と立ち上がりつつ

 

「っていうか、クレアって今年出ないんだっけ?」

「ローズ王女の代わりに学園代表になったのよ。…っていうかなんで知らないの?」

 

そうだったんだ、と思うのも束の間またクレアに接近され、首をつかまれた。

顔が近づいて睨んでくる、不良がよくあるあれ…っていうか面がイイどうでもいいが。

 

「シンプルに知らなかったんだ色々あったから」

「ふぅーん。信じてあげる。…ちなみに私の誕生日は覚えてる?」

「それは覚えてるよ」

「私の大会成績は? 暗記してる?」

「ごめん覚えてないや」

「…私が初優勝した日は」

「覚えてない───いっだっ!!?」

 

こんなとこで嘘ついてもあれなので正直に答えていたらいきなり首に嚙みつかれた。

がりっ、と少し肌に食い込み血が少し出る。

 

「なにすんの」

「世の中には決して忘れてはいけないものがあるの。正直なのも悪くないけれど。それと、ほかの女の匂いがしたから上書きしてやったわ」

 

怖。

それで嚙みつくという発想に至るのも怖い。

クレアは昔から想像できないことをしでかすから、見てて不安だった時もある。

シドも見ててハラハラだったらしく赤ん坊の頃からフォローしていたとかなんとか。

ワタルも交流するようになってからもちょくちょくそんなことがあったんでシドがその場にいないときとかは、ワタルもフォローしていたことがあったのだが。

 

「いい? ワタル。今年こそ優勝するから見てなさいよ、絶対」

「うい」

 

そう言ってドアを開けて、ワタルの部屋を去って───

 

「絶対よ」

「うん」

 

今度こそドアを閉めて去って───

 

「絶対だからね」

「わかったってば」

 

足音が離れていったから今度の今度こそ離れていった。

あーづかれた。

さすがに疲れた、今回は早よ寝よう。

本戦は明日からだ、シドにもチケット渡しとかないといけない。

まあ今は寝ようかな、軽く体拭いて。

 

「…クレアってあんな好感度高かったか…?」

 

仲良くはしてたと思うので友好度とかならそこそこだと思うけど。

とはいえ今考えても仕方ないのでどうでもいいや、と思考を放棄するととりあえず寝る支度をするのだった。

 

◇◇◇

 

ブシン祭本戦。

クレアは先に会場入りするみたいで、シドとワタルは彼女からもらったチケット片手に席を探していた。

豪華な金箔がついたチケット。

いらんとこに金かけてんな、と思いながら案内を頼りに進んでいくと、やけにゴージャスな扉があった。

 

「…ここじゃないよね」

「いや、でもチケットの案内に書かれてるのはどう見ても…」

 

シドが呟き、ワタルがチケットの案内を何回も確認して確かめる。

確実に確かめるため近くのスタッフに聞いてみるとやっぱりここだった。

二人はかなり丁寧な案内をされ、室内に入場。

そこは特別、という言葉が霞むレベルでハイパーVIP席であった。

シドとワタルは思わず帰りたくなった。

どっかで見たことのある貴族にそのご家族、ブシン流上級の授業で一緒になった騎士団長の娘に侯爵家の次男坊、どっかで見たことある顔ばっかりだ、名前は知らん。

案内された席に着くと、その近く…というか隣には王族の人がいたっていうかこの赤い髪色ってもしかしなくても───

 

「あら。あなたたちは」

 

アイリス・ミドガルその人が座っていた。

 

「私はシド・カゲノーと申します。席を間違えてしまったようで───」

「いや無理があるって。あ、僕はワタル・クルムズって言います」

「あぁ、クレアさんの弟さんと、お友達ですか。クレアさんはあなたたちにチケットを譲ったのですね」

「? 姉をご存知で」

「えぇ。妹の誘拐事件をきっかけに。クレアさんは卒業後は〝紅の騎士団〟に入団の予定です。どうぞ席に」

 

そう言われてシドと隣同士席に座る。

席の並びは、シド ワタル アイリス な感じになっているので、シド的にはちょっと安堵しただろう。

 

「クレアさんからはよくお二人の話を聞いています。シドくんとはとても仲のいい姉弟なようで、羨ましいです」

「いえいえ、そんな事はない、はずです」

 

シドが愛想笑い百パーセントで答えた。

 

「ワタルくんは、アレクシアとも仲良くしてくださってるようですね」

「え、えぇ。まぁ」

「本当は今日、アレクシアも来る予定だったのですが、急に来たくないって言いだして…」

「そうだったんですか」

 

受け取ったドリンクを飲みつつ、そのままいったん三人で適当にお話しする。

っていうかドリンク美味っ、後で作り方聞こう。

商品とかだったら買おう。

 

「アイリス様の今年の注目選手は誰でしょう」

「ボクも知りたいですね」

 

団長の娘と次男が話に混ざってくる。

この二人は王都ブシン流の繋がりでアイリスとは知り合いのようだ。

 

「本戦に出場する選手は皆注目しているのですが…敢えて挙げるなら元ベガルタ七武剣のアンネローゼさんですね。彼女は今年初出場です、予選の決勝も見ましたが、確かな実力があります。勝ち進めば二回戦で私と当たりますが、楽しみですね」

 

微笑むアイリスの顔には確かな自信があった。

適当に相槌を打ちつつ、ワタルはなるべく自然な様子で会話に混ざる。

 

「そうだ、今年初参加といえばジミナもいますね。どうです、アイリス王女的には」

「ジミナ、ですか。彼の試合はまだ見ていないので何とも…」

「あ、私は見たよ。剣は速かったけどそれだけ、かな。運良く勝った感じ」

「ボクも見たが…彼は本戦の場に相応しくないね。勢いだけだよ」

 

見えないところでシドがガッツポーズしているのが想像できる。

アイリスはまだ知らず、娘と次男は無事雑魚とジミナを認識している。

これで大体の準備は整っただろう、後はシドが好きにやるはず。

 

「選手ではありませんが、一人注目している人がいます」

 

ふいにアイリスが口を開いた。

 

「ブシン祭初代優勝者で、〝武神〟と呼ばれたエルフの剣聖が王都に来てるみたいなんです」

「エルフの剣聖…もしかして!?」

「まさか! 彼女はもう十年以上表舞台にはっ…!」

「ベアトリクス様の動向に、本戦出場者は誰もが注目しています」

 

あの人そんな有名人だったんだ。

シドは誰? というような顔をしていたが。

 

◇

 

時間が近づいているので、トイレに行くシドに連れ添ってワタルも一旦席から離れた。

実際ああいう場にいると少し窮屈で適わない、適度な気分転換は大事なのだ。

 

「ワタル」

 

不意に声をかけられた。

振り返るとそこにはなんとベアトリクスがいた。

なんでかまぐろなるどの紙袋を持っている。

 

「…誰?」

「さっきアイリスさんが言ってたベアトリクスって人」

「ホントに? ワタルいつ会ってたの」

「まぁ偶然ね…」

 

シドと小声で話しているとベアトリクスが近づいてくる。

 

「あれから私と似てるエルフとは会ってない?」

「あいにくだけど」

「そっか。…ここは人が集まるから、見つけられるかもって」

「まぁ、人気の剣術大会だから。ところで、そのまぐろなるどの奴は?」

 

ワタルの視線を受けて、ベアトリクスは首をきょとんとしつつ

 

「買った。買いすぎた」

「自覚あるんかい」

「一個あげる」

「こりゃどうも」

 

そう言ってベアトリクスは紙袋からマグロサンドを一つワタルに手渡す。

 

「君にも」

「ありがとう」

 

シドにも一つ。

 

「それじゃあ、また」

「うん。また」

 

会う機会があるかは知らない。

互いにそのまま隣を歩いていく。

 

「…何だか変わった人だね。でも強いね、あの人」

「でしょ? …ちょっとキャラはわかんないけど」

 

天然、なんだろうか。

 

◇

 

アイリス・ミドガルは特別席で試合が始まるのを待っていた。

特別席からは会場全体が見渡せて、専用の階段からは直接試合場へ降りることもできる。

試合の場にはすでに二人の魔剣士がいた。

一人はアンネローゼ・フシアナス。

アイリスも注目している水色の髪の女性魔剣士。

もう一人はジミナ・セーネン。

今まで無名だった、初めて見る黒髪の男性魔剣士。

 

「ちょうど始まりますね」

 

す、とアイリスの隣に一人の男性が座った。

そこはワタルの席だ。

 

「その席は」

「何か」

 

アイリスは男の顔を見て言葉を止める。

同時にワタルに心の中で謝罪した。

 

「ドエム・ケツハット殿」

「アイリス王女。ご機嫌麗しゅう」

「ここは学生たちの席なのですが」

「それはいい。我らの交流を見せるのも、学生たちにとってはよい勉強となるでしょう。アイリス様のような美しいお方を楽しませる術は、持っておいて損はないですからな」

「お戯れを。ドエム殿には婚約者がおられるではないですか」

「ご承知の通り、痴話喧嘩の最中でしてね。じき戻るとは思うのですが」

 

優雅に、ドエムは微笑んだ。

三十歳前後の端正な顔立ち、だがアイリスは彼の笑顔がどうも好きになれない。

 

「国王の具合は優れませんか」

「残念ですが、本日も欠席されるそうで。明日は必ず出席すると。ご手配頂いてる警備が、無駄になってしまうこと、誠に申し訳なく思います」

「それは構いませんが…」

「ところで、お父君…クラウス陛下はおいでにならないのですか?」

「クラウス陛下は、明日から観覧されると」

「それは奇遇ですな」

 

アイリスはドエムの目から何かを探ろうとする。

だが、彼の笑っていない目からは、何も読み取ることができなかった。

 

「…彼女が噂のアンネローゼ、ですか」

 

ちらり、と会場を見てドエムが言った。

既に彼女の準備は整っており、集中しているのが遠目からでもわかる。

 

「ええ」

「いま最も勢いに乗ってる魔剣士ですな。修行の旅の途中らしいのですが、ぜひ我が国にお招きしたい」

「そうですね。彼女ほどの剣士であれば、ぜひミドガルにもお招きしたい」

「なんと贅沢な。ミドガルにはすでに、優秀な魔剣士がたくさんいるではないですか。それに比べて我が国は、舞剣士*1などと現を抜かし」

「そのための同盟です。必要あらば、わが精強なる騎士団は、貴国を覆う闇を払うでしょう」

「それは心強い。ところで、対戦相手のジミナについてはどうですか」

「彼の試合を見るのは今日が初めてですが…強そうには見えません」

「では、アンネローゼの勝利、と」

「いえ…彼は少し、不気味です」

 

曖昧な口調で、アイリスは答えた。

予想外の答えに、少しだけドエムは面食らったように

 

「不気味、ですか」

「はい。決して強そうに見えない、しかし、弱者にはあり得ない特徴がある」

「特徴?」

「絶対の自信、です。私には、彼は勝利を確信しているように見える」

「ふむ…自惚れの可能性は?」

「かもしれません。ですが、彼の眼には迷いがない。ゆるぎない勝利が、彼には見えているのです」

「ふむ…私にはわかりかねますな。何しろ剣に関してはさっぱりでして」

 

ドエムはとぼけた。

だがアイリスはそのドエムの鍛えられた手を静かに一瞥する。

 

「───フフ、さすがに、アイリス様をごまかすことはできませんか。何しろ、オリアナでは剣は蔑まれていますのでご容赦を。正直に申し上げますと、それなりに使えますよ」

「それなり、ですか」

「えぇ、それなり、に」

 

ドエムは笑う。

しかし変わらず、眼は笑ってない。

 

「さて、絶対の自信とやらが如何ほどか…見せてもらいましょうか」

 

そして───試合が始まる。

 

◇

 

「試合、開始ッ!!」

 

戦いが始まった刹那、アンネローゼはジミナの間合いに飛び込んだ。

この男の強さは、圧倒的な速さ。

しかも、まだ底を見せていないときた。

だが、速さに反して技量は低いとアンネローゼは見抜いた。

これまで彼は相手と剣を交えずに勝利してきた、なぜか?

相手が速度についてこれなかったのもあるかもしれないが、ジミナの構えや姿勢は素人のそれだ。

ゆえに、ジミナ自身が剣を交えることを恐れているとしたら?

嫌っている、とも言ってもいい。

拙い剣技が露見するのを恐れたとしたら。

拙いその技量を隠すために、剣を交えずに勝利を収めてきた。

 

(なら、速さに惑わされなければ勝てるっ!!)

 

それがアンネローゼの出した結論。

だが憂いがあるとしたら、それはジミナが外した重り。

枷を外した彼が自分の反応速度を超える速さを出せるのだとしたら、アンネローゼですら敗北の可能性がある。

だがそんな憂いは、試合が始まったと同時に潰しに行った。

速度で勝るなら、その足を止めればいい。

間合いを詰めたアンネローゼはそのままジミナに斬りかかる、完全に不意を突いた一撃───しかし、その斬撃はジミナに防がれる。

 

(やはり速いっ)

 

普通ならこの速度は防御など間に合わない。

そんな一撃を、ジミナは容易く防いでみせた。

 

「ハァァァッ!」

 

アンネローゼの剣が再びジミナに襲い掛かる。

速さを生かすことができなければ、いずれ体制は崩れるはず。

三、四、五と剣を振るって、ジミナはそれらを防いでいく。

そして六回目───ついにジミナの体制が崩れる。

 

(取ったっ!)

 

確信したアンネローゼはジミナの胸を斬り裂く───はずだった。

 

「えっ?」

 

手ごたえはない、それどころか視界からもジミナの姿は消えていて。

 

「───残像だ」

 

背後から声が聞こえた。

ぞくり、とアンネローゼの背筋が震える。

 

「っ!!」

 

アンネローゼは動揺を悟られないようにあえてゆっくりと振り返った。

きわめて落ち着いて、冷静に…冷静に。

 

…どうすればいい。

 

ジミナの速さはアンネローゼの予想を遥かに超えている。

どうすればこの状況を…そう考えていた刹那、また視界からジミナの姿が消えた。

 

「っ!」

 

考える前に体が動いた。

その時、反応できたのはきっと幸運だったろう、衝撃とともにアンネローゼは吹っ飛ばされた。

想像以上に速い───これを覆すには。

 

ずぅん! と地面に叩き落され、土煙が舞う。

攻撃に魔力が乗っていたなら、アンネローゼはとっくに死んでいただろう。

 

「認めましょう…。貴方は強い、理不尽なまでに」

 

視線の先で、彼は立っている。

構えはしておらず、追撃もなかった。

けれど、傲慢だとは思わない、彼にはそれをやれるだけの強さがある。

力も速さも上を行かれているなら、アンネローゼに取れる手段は一つしかない。

 

カウンター。

 

勝算は低いが、ゼロではない。

相手の攻撃の瞬間こそが、自分がとれる唯一の勝機。

問題は、反応できるかどうか。

タイミングが合えば…積み上げてきた技術で斬り伏せるだけ。

 

前触れはない、ジミナの姿が忽然と消えた。

瞬間、アンネローゼは剣を振るう。

振った先には、まだ誰もいない。

だが次の瞬間、ジミナが現れる。

 

(勝ったっ!)

 

確信する。

アンネローゼの剣は、ジミナの動線にある。

この速度で避けることなどできるわけがない…そう思っていた。

 

「ぇ…?」

 

ただ茫然と、アンネローゼはジミナの動きを眺めていた。

彼は動きを止めたのだ、まるで最初からそう決めていたみたいに、間合いの寸前で。

アンネローゼの剣はジミナの鼻先を掠め、空を斬る。

それは極限の間合い管理、見切りの極致。

合わせたと思っていたが、実際には合わせられていた。

 

あぁ、そうか。

 

彼女は理解する、この一瞬の攻防ですべて確信に変わった。

ジミナは、その技量も高みにあったんだ、と。

アンネローゼにジミナの剣が迫ってくる、その剣は今日一番遅かった。

だが、その一振りはもはや芸術の域にまで昇華された、極。

 

あぁ…なんて…美しい───

 

◇

 

「強い…」

 

アイリスの口からそんな呟きが漏れた。

そんな彼女の言葉を、ドエムは隣の席で聞いていた。

試合場は今、ジミナがアンネローゼを下し、立ち去っていくところだ。

 

「絶対の自信。アイリス様の勘が当たりましたね」

 

内心の動揺を隠しつつ、ドエムはそう言った。

 

「私も、まさかこれほどとは。彼ほどの魔剣士が無名でいたなんて、信じられません」

「ジミナ・セーネン…。聞いたことがない、流派も既存のものではありませんね」

「でしょうね…剣筋も見たことありませんでした」

 

ドエムはかつてあれほど美しい剣の流れを見たことがなかった。

アイリスもそうだろう、まだ知られていない流派の使い手が、初めて表舞台に現れた、ということだ。

 

「彼の話を聞いてみないことにはわかりませんが、恐らくそうでしょう。…本当に驚きました」

 

ふぅ、とアイリスは座席にもたれた。

緊張をほぐすように息も吐いて。

特別席の観衆はみな、その予想外の結果に騒いでいる。

皆の興味は、今やジミナに移っており、何よりも次の対戦相手の話題になる。

 

「二回戦は、アイリス様とジミナですね」

「えぇ」

 

ドエムの言葉に、アイリスが答えた。

彼女の顔は微笑んでいた。

 

「自信がおありのようですね」

「もちろん。勝つつもりです」

「ほう」

「彼の剣は速く、鋭く、何より美しい。剣の美しさは、私では及ばないでしょう。ですが、美しさで勝負が決まるわけではありません。あれが全力だとしたら、まだ私には届かない」

「同感ですね」

 

ドエムは頷き、肯定する。

あれがジミナの全力なら、まだアイリスに分があるだろう。

だが、全力でなかったとしたら?

その疑問をドエムは心の中で問いかけた。

 

「彼は何かを隠している。姿勢も、構えも、剣筋も。全てを偽り、ここまで勝ち進んできたのです」

「それをわかっていて、勝つ、と?」

「はい、それらを含めて断ち切ってみせます。何を隠しているはわかりませんが。私、負けず嫌いなので」

 

アイリスは笑って立ち上がる。

その笑みはとても好戦的な笑みだった。

 

「では、試合があるので失礼します」

 

立ち去る彼女を見送って、ふぅ、とドエムは息を吐いた。

計画の障害となりそうなものを、ドエムはこれまで調べ、調査していた。

そこには当然、ジミナの名前はない、彼はノーマークだったからだ。

計画の妨げになるようなら、早期に始末すべきだが…判断するのはアイリスとの試合が終わった後でいいだろう。

 

ジミナ・セーネン。

 

美しく、完成された剣の使い手。

あれほど使い手なのに、これまで無名だったのが理解できない。

実力を隠さないとならない理由があったのか、表舞台に立てなかった理由があったのか。

どんな理由があるのか、ドエムにはわからなかった。

 

ドエムは一度特別席を後にする。

後ろには部下も追従している。

 

「ジミナ・セーネンの素性を洗え」

「承知しました」

「おそらくは裏世界の住人だろう、無法都市が背後にあるとしたら、少々厄介だ」

 

どこの国にも属さない無法都市。

そこで構想を繰り広げる三人の支配者とその側近には、まだ教団も入り込めてない。

 

「シャドウガーデンの可能性は」

「外していい。奴は男だ。それに、シャドウガーデンがブシン祭で目立つ必要があるとは思えない」

「わかりました。では」

 

部下の気配が消える。

ドエムは虚空を睨みながら

 

「摘める芽は摘んでおきたいが。…奴は、何者だ…?」

 

◇

 

結構見応えのある試合だったなぁ、とワタルはシュウの格好をしながらジミナのもとへ向かっていた。

シドもやりたいこと結構やれてたんじゃないだろうか、客観的に見てもそれぐらいいい試合だったと思う。

歩いていると小走りでこちらに向かってきた人とエンカウント…アンネローゼだ。

 

「貴方は」

「アンネローゼ殿。いい試合だった、お疲れ様」

 

シュウの声を出してそう言う。

 

「ありがとう。…完敗だったけどね」

「恥じることはない。経験は強さになる」

「そう言ってくれると嬉しいな。これからジミナのところへ?」

「あぁ。君もか?」

「えぇ。色々お礼とか言いたいし」

 

そんな訳でアンネローゼと一緒にジミナのところへ向かう。

 

「貴方も、ジミナくらい強いの?」

「彼には及ばないさ。だが、まぁまぁ強いと言っておこう」

 

道中、そんな他愛のない話をする。

シュウとは戦ったことはないが、初めて会った時も冷静にジミナの怪我を見ていた所を見ると、彼もかなりの強者の部類に入るのだろう。

ジミナの隣にいる彼のことが、なんだか少し羨ましい。

 

やがてジミナを見つけた。

彼は控室に戻っている最中だった。

その背中に向かってアンネローゼは呼びかける。

 

「ジミナっ」

 

呼ばれたジミナは振り返る。

アンネローゼは彼のもとへ駆け寄った。

シュウは彼女の後ろをついていく。

 

「完敗だったわ。何もできなかった」

 

ジミナに向けてアンネローゼは微笑んだ。

 

「強くなるために国を出て、あの時より強くなった気でいた。でも、いつの間にか慢心してたのかもね」

 

そう言って彼女は手を差し伸べた。

ジミナはそれに応えるように、その手を握る。

 

「いい勉強になったわ。ありがとう」

「枷を外したのは初めてだ、恥じることはない」

「似たようなのを彼にも言われたわ。嬉しい言葉ね」

 

お互いの手を強く握り合う、認め合う握手。

 

「…どうやって、それほど強くなったの?」

「…すべてを捨て、ただひたすらに強さを追い求めた愚か者さ」

 

そう言う彼の微笑みは、どことなく寂しそうに見えた。

彼の瞳は、どこか遠くを見ているようだった。

そのどこか、孤高な横顔に、アンネローゼは胸が締め付けられる想いになった。

そうしなければならない過去が、彼にはあったのだろう。

 

「もし、貴方が望むなら、ベガルタ帝国へ仕官しない? 相応しい席を用意できるわ」

「嬉しい申し出だが、遠慮しておく。俺には少し、眩しすぎる」

 

ジミナは微笑んで踵を返した。

アンネローゼは、何となく断るんだろうな、と思っていた。

 

───離せ!! 離して!! お願い!! あと一回!! あと一回あれば勝てるから!! だからどうかお願いします!!

 

「私は明日、旅立つわ。もし気が変わったら、私を訪ねてきて」

 

彼はもう立ち止まらなかった。

その背を追いかけるように、シュウもまた歩き出す。

 

「ありがとう、アンネローゼ殿」

「シュウ…」

「彼にとって、もう君は友だ。二人目の、ね。だから…いつか縁があれば、また会えるだろう。その時を楽しみにしているよ」

 

そう言って彼もジミナを追って歩いていく。

この世界には、上には上がいる…ジミナと戦い、彼の剣を見られたことは、きっとかけがえのない経験になった。

 

───次!! 次は勝つ!! 次絶対勝てるから!! だからお金!! お金貸してくださいっ!!!!!

 

きっとジミナは優勝し、いずれ世界に名を轟かせるに違いない。

遥かな高みに昇るだろう。

今は見上げるしかできない、けどいつか、強くなってジミナと再会するのだ。

その時は、シュウとも手合わせしてみたい。

その日まで、アンネローゼは戦う事を誓うのだ。

 

───親友!! 俺の親友二人身代わりにしていいから!! だからどうか待ってくださいっ!! どうかお慈悲をぉぉぉぉぉ!!!!!

 

◇◇◇

 

一撃。

アイリスの一回戦はそれで終わった。

全力の魔力を乗せた、文字通りの一撃。

相手には悪い事をしたとは思う、だがこれは真剣勝負…命までは奪っていないので許してほしい。

 

「勝者、アイリス・ミドガル!!」

 

歓声がアイリスの耳に届く。

 

「…必要なのは勝利よ」

 

持っていた剣はアイリスの魔力に耐え切れず、自壊した。

だけど、些事だ。

自分がいれば、ミドガルは安心なのだと民に思わせなければならないから。

ふと、選手入場口を見やると、一人の魔剣士のエルフが見えた。

 

もむもむとまぐろなるどを食べていたあの姿を、アイリスは覚えがあった。

 

彼女を追いかけて、声をかけた。

 

「ベアトリクス様!!」

 

声をかけられた彼女はきょとんとしながら振り向いた。

 

「?」

「突然呼び止めて、すみません。武神ベアトリクス様とお見受けしたもので…」

「だれ?」

「私は、この国の第一王女アイリス───」

「食べる?」

「はい…?」

「食べると元気が出る」

 

急にベアトリクスが一つのまぐろなるどの包み紙を差し出す。

不意すぎるその行動の意味がよくわからず、アイリスもキョトンとした顔をして

 

「え、っと…遠慮、させていただきます…」

「…そうか」

 

◇

 

「いやーよかった。かなりよかったね。シャドウではやらない、スタイリッシュなスタイルを見せることができたし」

 

帰路についたシドが言う。

魅せることを意識したスタイリッシュな剣を追及してた時期がそう言えばあったな、と思い出す。

 

「アンネローゼさんのおかげで、もうやりたい事の七割くらいは達成できたと思うな」

「正直見応えあったよ、ジミナとアンネローゼさんの戦いは」

「でしょう? 自分で言うのもなんだけど、割とかなりいいって思うんだよねあの試合」

「そんで、残すところ後は締め、かな」

「それなんだよねぇー。シンプルに行くならやっぱり優勝なんだけど、トーナメント表見た感じだと次のアイリス戦が一番の山場っぽいよね。彼女を倒して行方をくらます、とかでもいいね。目的は達した…なんて言って忽然と姿を消す感じとか、凄い謎の実力者っぽくない?」

「そうすればクレアも優勝できるかもしれないね」

「他には悪落ちパターンも熱いと思うんだ、〝俺は影の組織の暗殺者…貴様の命もらい受ける〟とか言ってルール無用のマジバトル。自然に退場できるのもポイント高いし」

 

やがて二人は寮の近くへと歩いていく。

 

「もう見てるこっちも結構楽しくなってきたからね」

「そう言ってくれると嬉しいなぁ。僕もやりがいがあるよ、優勝して終わるのが一番やり切った感あるけど…他にも色々なアツいルートがあるから、よく考えて」

 

「なんだか楽しそうね」

「そりゃ楽しいさ───え」

「───あ」

 

不意にそんな声が聞こえて、二人の前を一人の女性がクレアだった。

 

クレハは笑顔だった。

クレア は 笑顔 だった。

 

なんだよもう。

またかよ。

 

◇

 

薄暗い夜の闇の中、月に照らされた女性が一人。

廃墟と化したそこで身支度を整える彼女の名前は、ローズ・オリアナ。

彼女はまぐろなるどの包み紙を大切に見て、それから仕舞う。

月が雲に隠れ、ローズを影が包んでいく。

 

「どうか、私に…」

 

陰に包まれる中、彼女の瞳は、覚悟と決意に満ちている。

そんな彼女を、胸像のガルルセイバーの瞳が、優しく見守っていた。

*1:
無駄に跳躍や回転を多用する機能美よりも演出美に特化したオリアナ王国における魔剣士。〝無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き〟をする魔剣士。




舞剣士のくだりはニコニコ動画のコメントを参考にしました
アプリだと武剣士って言ってんですけど美しさを重視する芸術の国、とかならやっぱこっちのがしっくりくるかなって
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