陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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なんだかんだで次回で多分一期の分が終わります
こんな暇つぶしにお付き合い頂き感謝の極み

アイリス対ジミナは大体同じなのでほぼ省略してます。



23 踊る人形

深夜。

アイリス・ミドガルは外で一人、剣を振っていた。

ただ、無心で、何度も。

その度に風を斬る音がして、深紅の髪が夜風に揺れる。

 

何度かそう繰り返していると、ふと幼い時の記憶が蘇った。

 

◇◇◇

 

「大隊長殿を一撃で! 流石ですアイリス様!」

「やはり姫様は類稀なる才をお持ちだ」

「すごいわ! ねえさま!」

 

───

 

「そこまで! 優勝は、アイリス・ミドガル!」

 

ブシン祭で勝つことは、アイリス・ミドガルは使命だと捉えている。

彼女に政治的な才能はないし、それを本人も認めている。

できるのは、ミドガルの強さの象徴であることだけ。

アイリスがいれば、ミドガル王国は安心なのだと思わせることが、アイリスの使命、役割なのだ。

たとえ神輿として担がれていようが構わなかった、力しかない自分が政治的に利用されていようと、それで民が守れるのなら、と最近までは思ってた。

 

───客は客らしく、舞台を眺めていればいい

 

アルファの言葉が思い出される。

 

───無茶を言わんでください、魔力がなければ、アイリス様とて無力なのですぞ

 

学園の襲撃事件の時も、アイリスは何もできなかった。

 

 

「何故ですお父様!」

 

バン、と机を叩きながらアイリスが言った。

 

「殺された大司教も、殺した男もディアボロス教団の手の物だったのですよ! 聖教はもう…!」

「証拠はないのだろう?」

「それを押さえるために、王家の狂犬が必要だと!」

「性急なやり方は敵を作りすぎる。たとえ正しくても、事情を知らぬ者たちがそれを理解してくれるとは限らん」

「それは…」

「ましてや、今はブシン祭を控え、他国の来賓を多く招く時期。そんな時に、我らが聖教と対立している姿など、見せられるはずもない」

「ですが、このまま見過ごすなど…!!」

「アイリス」

 

低い声が響き渡る。

 

「お前は、自分の証を立てるために、国を犠牲にする道を選ぼうとしていないか?」

 

 

自分の足で立とうとして、初めて露呈した。

国の未来を憂いて〝紅の騎士団〟を立ち上げたものの、人も予算も集まらず、結局何も変えることができなかった。

時間をかけて少しずつ人を集めたが、それでも望む形には遠く、あげく優秀な騎士を亡くしてしまった。

今更政治になど手を出しても、あしらわれ利用されるのが目に見えている。

なら自分は得意分野である力で戦うしかない。

国民からの人気は大きな力であることを、アイリスは理解している。

騎士団の頭脳を任せられる人も、揃ってきた。

あとはブシン祭で優勝し、国民からの人気を不動にする。

そうすれば、いい結果が待っているはずだ。

 

「───私は…勝つ…!!」

 

◇◇◇

 

翌日。

ワタルとシドは今回も特別席にいる。

今飲んでいるのはモーニングコーヒー、というやつだ。

コーヒーはまだミツゴシでしか作れないらしい、陰の叡智様々だ。

ちなみにシドは砂糖とミルクたっぷりぶち込むタイプ。

ワタルはそれなりに入れたら入れなかったりする…言ってしまえば気分で変えるタイプ。

シドみたいにぶち込むのも悪くはないが、そうするとコーヒーじゃなくなってしまう。

コーヒーはコーヒーで楽しみたいのがワタルだ。

 

「おはようございます」

 

そうこうしているとアイリスがやってくる。

とりあえずカップから口を離し挨拶。

 

「おはようございます」

「はよざいます」

 

二番目はシドだ。

フランクすぎるだろ()

アイリスはワタルが持ってるカップをちらりと見やると

 

「コーヒーですか。最近流行ってますよね。私は香りは好きなのですけど、苦いのが苦手で」

「カフェオレを頼んでみては如何です? 苦みが少なくて飲みやすいと思いますよ」

「カフェオレ…」

 

ブラックコーヒーに牛乳をぶち込んだものがオレだった気がする。

あとは気分でガムシロップとか入れると飲みやすいものになると思う。

アイリスは行動力が高いのか、さっそく近くのメイドさんにカフェオレを頼んでいた。

 

「…あ、飲みやすい。これならいけそうです」

「お口にあって何よりです」

 

特別席は慣れると結構便利だ。

大体のものは頼めば持ってきてくれる、セレブな気分を味わえていい。

今度は朝食としてトーストとマーガリン、牛乳のコンボを決めて舌鼓。

朝なんてこんなのでいいんだよこんなので。

 

朝ごはんを終えたタイミングでいろんなセレブ達が入ってくる。

そしてそのまま社交辞令じみたセレブ達の高貴なる世間話。

ワタルは別に興味ないので隣のシドと雑談でも交わしていると、特別席の扉が開いた。

ちらりとそっちに視線を向けると、そこには色褪せたローブを着込んだ一人の女性。

顔が見えないけど間違いなくベアトリクスで間違いないだろう。

彼女はワタルに気が付くと小さくを手を振ってくる。

それに頷いて笑むことでワタルは返答した。

 

「…なんかワタルあの人に気に入られてるね」

「覚えないんだけどね」

 

まぁ交流が増えるのは問題ない。

だが特別席のセレブたちにはやはり小汚いローブ着込んだ浮浪者みたいに見えるのだろう、さっさとつまみ出せ見たいな無言の圧力を感じる。

近くのメイドが彼女に向って歩いて行った。

 

「あの、お客様、大変失礼なのですが」

「いいのです。その方は私が招待しました。こちらへどうぞ」

 

メイドの近くまでアイリスは歩くとベアトリクスに声をかけた。

彼女に連れられ、ベアトリクスはアイリスの反対側に座る。

そこは元はアレクシアの席だったらしい。

 

「アイリス様、そのお方は」

「〝武神〟ベアトリクス様です」

 

一人の問いにアイリスが答えるとおお、と特別席全体がどよめいた。

 

「彼女が…?」

「あの伝説の剣聖…」

 

剣聖とまで言われてたのは知らなんだ。

 

「いいね、僕も、あいつが伝説のシャドウ…とか言われてみたい」

「二つ名みたいなのは憧れるよね」

 

小さい声でシドと会話をするワタル。

伝説の、とか古の、とか、心惹かれる響きである。

 

「表舞台に出られるのは久しいですね」

「うん。人を探してる」

 

セレブの問いにベアトリクスはローブを外しながら答えた。

 

「私とよく似た顔の姪だ」

 

多分最初にワタルと会ったとき突っ込まれたことを覚えているんだろう、二の轍は踏まないと言わんばかりに、今回はローブもちゃんととって顔を晒す。

 

「おぉ、これは美しい…」

「見覚えはないか? この国では、最近よく似たエルフを見た人がいるらしい」

「この国で、ですか。貴女ほど美しいエルフであれば一度見たら忘れませんが…」

「見覚えない、か」

「残念ですが…」

 

セレブの面々はみな首を横に振る。

彼女は「そうか」と残念そうに呟くともう一回ローブを戻した。

アイリスが彼女に謝罪する。

 

「ごめんなさい、皆顔が広い方ばかりですから、ここで聞けば何かしらわかると思ったのですが」

「構わない。時間はたくさんある」

「ところで、ベアトリクス様はブシン祭の試合はご覧になられたでしょうか」

「あんまり見ていない」

「そうなのですね。わかる範囲で構いませんので、注目の選手などがいたらお聞かせ願えませんか?」

「注目の…うーん」

 

アイリスにそう言われたベアトリクスは特別席全体を見回しながら少し考えた。

っていうか見てる、スゴイ、ミテル。

 

「ワタル」

 

びっと彼女は案の定ワタルを指さしてきた。

知ってた。

 

「えと、ベアトリクス様…?」

「彼に注目してる。きっと強くなる。うん」

「いえ選手じゃありませんから僕」

 

やんわりと否定する。

周囲の視線が刺さる。

シドはそそくさと離れて逃げていた。

おのれポルナレフ。

 

「この少年が…?」

「一応ボクの後輩ですが、普通っていうか…」

「クレアさんの友人らしいですが…なんかパッとしないっていうか…」

 

次男と騎士の娘が好き放題言ってくる。

まぁあんたらよりは僕のがもう一兆倍強いんだけどね。

そんなんなったら色々ダメなので言わないし言う気もないが。

でも心の中で思うのはセーフ。

 

「ベアトリクス様がそうおっしゃるなら間違いないのでしょう」

 

とりあえずアイリスの一声で何とか収まった。

とは言えあんなことを言ったからか、やはりセレブらの視線はどこか彼女に懐疑的。

本当に本物なんだろうか、という感情が心のどこかで生まれているのだろう。

きっと彼女はここにいるほとんどの連中からは薄汚いホームレスか何かに見えているはずだ。

ワタルやシドから見ると、あの人は良い意味で自然体。

姿、性格、肩書き、強さ…そのすべてに飾りがない。

だからみんな、その日秘めたる実力に気が付かない。

気が付けない、と言ったほうがいいだろうか。

 

「では、試合の中で気になったことがあれば、お聞かせ願えますか?」

「わかった」

 

アイリスの手前、ベアトリクスを立てる感じにはなったみたいだ。

とまぁそんなちょっと微妙な空気の中で、本戦の二日目が始まる。

 

 

やがて何やらお偉い人が来るみたいなので席で礼儀正しくワタルは待っていた。

シドはもう少しでジミナとしての出番があるので、少し用事を思い出したということにしてなるべく自然にこの場から離れてもらっている。

本当はワタルも離れたかったが、連日は怪しまれるかな、と今回はこの席にいることを選んだ。

シドがいた所には何故かベアトリクスが座った。

 

やがて扉が開きそこからミドガルの国王とパッと見どこぞの時臣みたいなナイスミドルが入ってきた。

…ていうかあのクッソ顔色悪いのが国王なのだろうか、心ここにあらずって感じである。

───僅かに匂う甘い香り。

そういえばそんな報告聞いた気がする。

なるほど、もはやあの国王は人形だ。

 

「くさい」

 

不意に横のベアトリクスがそんなことを言った。

鼻が効くのか、視線は僅かに国王の方に向いている。

 

「へ、陛下に向かって失礼だろう!!」

 

そう言ってナイスミドルが国王を突き飛ばす。

突き飛ばすのは失礼に当たらないのか()

 

「衛兵! この不届きものを摘み出せ!」

「ドエム殿!!」

 

ミドルの言葉をアイリスが遮った。

ていうかこいつがドエムかよ、声良すぎない?

本当に時臣の声ではないか()

フルネームは確か、ドエム・ケツバット(誤字にあらず)だっただろうか。

そんなんだった気がする。

 

「あ、アイリス王女…」

「この方は、私がお招きした、武神ベアトリクス様なのです…」

「───っ!」

 

一瞬の間はやはり疑いが勝ってしまったのだろうか。

 

「ごめん」

「い、いえいえ。知らぬこととはいえ、失礼しました。ブシン祭をごゆるりとお楽しみあれ」

 

ベアトリクスが謝罪をし、ドエムが言葉を紡ぐ。

先のくさい発言はドエムへ向けての言葉と処理されたみたいだ。

そのままドエムは国王と一緒に歩いていった。

何かしでかすつもりなのだろうか、妙に顔色が悪かった。

ついでにちらりと試合の方を見やる。

今しているのはクレアの試合だ、普通に強い。

相手が少しかわいそうである。

っていうか剣技の中に掌底とか混ぜてる?

素手での戦いはためにクレアとの模擬戦で披露していた気がするが、いつの間にラーニングしてたんだろう。

試合は普通にクレアが勝利した。

優勝するかは知らんけどいい成績だったらシドと一緒に美味しい物でも食べに行ってもいいかもしれない。

そんなわけで今度はいよいよアイリスとジミナの試合である。

果たしてアイリスがどこまでの相手なのか…特等席で見させてもらおう。

 

 

アイリスが試合場に入ると、色々な歓声が浴びせられる。

その言葉の一つ一つが、アイリスの勝利を信じて疑いもしない声。

けどそれで構わない。

アイリス・ミドガルがいればこの国は絶対に安全なのだ、ということを国民に知らしめないといけないのだから、むしろこれでいいのだ。

 

向かい合っているのは、ジミナ・セーネン。

間違いなく強敵だ、相対しても底が見えないし、強さを感じ取れない。

だが勝てないとも思わないし、何よりも勝たねばならない。

相手には悪いが、初手から全力で向かう。

何を隠していようと、それを繰り出す隙も与えない。

 

「続いて第二試合、アイリス・ミドガル対ジミナ・セーネン、試合開始っ!」

 

刹那。

アイリスの首が飛んだ。

 

 

「───えっ」

 

アイリスはハッとした。

今、間違いなく首を斬られた。

だがまだ自分の首は繋がっている。

けど今の刹那、ジミナの剣がこちらの首を断つのが見えた。

 

「な、ぜ…」

 

思った疑問をそのまま呟く。

確かに相手の剣を見た、斬り込んだ刹那、ジミナがこちらの首を斬るのが確かに見えた。

それは幻だったのか、今一瞬確かに死を覚悟した。

 

アイリスは剣を構えなおし、じりじりとにじり寄る。

 

「来ないのか」

「…っ!!」

 

恐れるな。

恐れずに、相手の間合いに踏み込め。

剣を構え、踏み出そうとして───足が斬られた───ような気がした。

それは錯覚だったのか、確かに斬られた感覚があった。

それなら、この会場全体が相手の間合いだとでもいうのか。

 

かつて師に教えられた言葉が、アイリスの頭の中で思い出された。

 

〝達人の虚は真実と錯覚する〟

 

言葉通り、幼いアイリスはそのフェイントに何度も振り回された。

だが今ジミナのそれは師の何倍も真実だった。

 

だが、本当にそんなことが可能なのか。

アイリスは自分が世界最強なのだという自負はない、上には上がいることも理解している。

けど客観的な事実として、自分は上位にいるはずなのだ、それも最上位の位置に。

 

ただフェイントだけで翻弄することができるのなら、それは間違いなく、最強の───

 

 

傍目にはアイリスが一人で転んだり下がったりしてるように見えてるだろう。

ジミナ…もといシドの方からキャッチボールしたいがためのフェイントのようなものを繰り出してるのがここからでも察することができた。

けどなんでだろう、なんか思ったほどでもない気がする。

 

…なんか弱くない? あの人。

 

実際相対してるわけではないからさすがに断定はできないが。

経験が足りないのだろうか。

今もまた一人でのたうちまわる姿が遠目からでも見て取れる。

シドのフェイントを感じ取れても、それに対応できていないのだろうか。

 

(…よく見たらあいつまだ剣抜いてないな)

 

毎度ながら意味わからん技術である。

さすがのワタルもまだあそこまではいけていない。

やがてアイリスは恐怖心やらを払拭するためなのか、己の魔力を全開にしてそれらを本能的に相殺するような手段に切り替えた。

早い話ゴリ押しである。

 

「…、」

 

アイリスには悪いがもう彼女が勝つ未来は見えなくなった。

思いの外呆気なかった戦いだ、アンネローゼとの戦いのほうがまだ見応えがあった。

もうこの試合に見る価値はないかなー、と思っているとコツコツ、と足音が聞こえてきた。

その足音の主は、金色の髪をしていた。

足音は歩みを止めて、オリアナ国王の前で止まった。

 

(ローズさん…)

 

その女性の名は、ローズ・オリアナ。

 

「ただいま戻りました。父上」

 

彼女は今し方決着がついたジミナとアイリスの試合など目もくれず、真っ直ぐにオリアナ国王を見据えていた。

 

 

アイリス・ミドガルが一太刀で敗北した。

その事実に、特別席の玉座に座るミドガル国王の隣にいたドエムの表情は驚愕に染まっていた。

裏の世界にアイリスを超える魔剣士の存在を知っている、だが一撃で降せる存在ではない。

そんなのは不意をつかない限り不可能だ。

あってはならない事が起きている。

 

アイリスを一太刀で破ったジミナこそが、自分が知る限り最高の魔剣士ということになってしまう。

あんな若造が、だ。

 

下から抜かれるその瞬間ほど誇りを傷つけるものはない。

ドエムの心にある驚愕はすぐに嫉妬に塗り潰された。

何か原因があるはずだ、アイリス・ミドガルが一太刀で破れるだなどあり得ない。

偶然でなくても、相性の問題だ。

たまたまアイリス・ミドガルがジミナにとって戦いやすかった可能性だってある。

 

「すごい技…挑んでみたい…」

 

ふとベアトリクスの声がドエムの耳に入ってくる。

その表情に入っていたのは、感嘆だ。

考えてることは正直わからない、本音を言えば否定の言葉が漏れてくれないかとも期待していた。

どうしようか思考しようとしたとき、特別席がどよめいた。

見るとそこには、コツコツと歩いてくる、一人の女。

ローズ・オリアナがそこにいた。

 

 

「ようやく戻られたのですね。我が愛しのローズ王女」

 

ドエムが少し演技がかった言葉でローズを迎える。

ワタルは席からこっそり移動し、彼女の動向を見守っていた。

彼女は普段の剣を帯刀してるのに加え、何やら袋に入った何かを手に持っている。

サイズ的にワタルが貸したガルルセイバーだろう、胸像サイズは思いのほか小さいので持ち運びしやすい。

そこに魔力を込めれば特撮サイズになるから、便利なものである。

 

「陛下もお待ちかねですよ」

「ろぉーず…よくぞぉ、もどったぁ…───こっちにぃ、おぃでえ…」

 

あんなんでよくバレなかったなとワタルは胸中で思った。

あるいは、あんなんでも大丈夫なくらいオリアナは教団に蝕まれているのか。

ローズはその場に膝をついて、言葉を発する。

 

「父上。私は謝罪に参りました。今までのこと、そしてこれからのこと。…私は間違いを犯し、そしてこれからも間違うでしょう。ですが、私はオリアナ王国の王女として、そしてあなたの娘として。…私の信じる道を歩いていきます」

 

彼女の言葉はわずかに震えていた。

だが遠目からでもわかる、ローズには決意があった。

確かな決意、覚悟が。

 

「───其方の罪を赦そう」

 

とてもやさしい声色だった。

ローズの目が見開かれる。

そして、一筋の涙も。

 

「───ありがとうございます。父上」

 

それからは一瞬の出来事だった。

袋の中のセイバーに魔力を注ぎ、剣となったガルルセイバーが袋を破って現れる。

彼女はそれを手に持ち、ドエムの配下が動く前にオリアナ国王の前に行き、その心の蔵を貫いた。

 

「なっ!!?」

 

ドエムの声が響く。

刺し貫かれたその背に、オリアナ国王は力を振り絞り手を添えた。

 

「ローズ…───ぉ前、を…愛、し───」

 

ガルルセイバーを引き抜いた。

鮮血が舞い、力なくオリアナ国王が倒れた。

その顔は、どことなく安らかだった。

 

「た、躊躇いもなく、親を殺すだとっ!!? 貴様! 人の心がないのかっ!!」

 

それをお前が言うんだ、とワタルは思った。

全世界お前が言うな選手権なんてものがあったらナンバーワンだと思う。

ローズはガルルセイバーを己の頸動脈へと添えて

 

「…これが私の、最後の務め」

「! いかん! やめろ!! 捕えろーっ!!」

 

自刃を決断したローズに対し、ドエムが叫んだ。

 

あれはちょっとまずいかもしれない。

幸いにもこの場にいる皆の視線はローズやオリアナ国王、ドエム等に集中している。

ワタルは気配を消して姿を隠すとまず天井へと飛んだ。

そのまま一瞬のうちにスカーの姿へとなると今まさに襲い掛かろうとしているドエムの部下を蹴散らしながら、ローズの近くに降り立った。

 

「! あ、貴方は…」

「それが君の、選んだ道か」

 

 

ローズ・オリアナは覚悟していた。

自らが捕えられ、利用されてしまったら父の死が本当に無意味になる。

それだけは絶対に許せなかった。

 

当然、死は恐ろしかった。

 

だが切り抜けるのはそれしかない。

王女として生まれ、わがままもたくさん言った。

それでもローズが思う王女の務めは果たしてきたつもりだった。

だから、これが最後の務め。

そう覚悟を決めていた、はずだった。

 

「それが君の、選んだ道か」

 

綺麗な一閃と共に、彼が降り立った。

それは自分に狼の一振りを貸し与えてくれた、スカーだった。

 

「貴方は…」

「辛い選択をしたのだろう。まずはお疲れ様」

 

のんびりとそんなことを言ってくるスカー。

しかし敵の追撃は緩まない…だがスカーは態度を崩さなかった。

何故ならもう一つ、美しい剣戟がその追撃してくる黒ずくめを斬り裂いたからだ。

ガラスを破壊しながら現れた彼…ジミナはそのまま剣に付着した血液を払いながら、スカーの隣に並ぶ。

 

「余興は楽しめたかい?」

「あぁ。偽りの時は終いだ」

 

黒き液体の螺旋がジミナを包み込み、その姿を変える。

螺旋が収束したとき、現れたのは漆黒のロングコートを纏った、あの男。

 

「我が名はシャドウ…(緑川光)。ん、んっ。我が名はシャドウ、陰に潜み、陰を───」

「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさんっ!」

「───え」

 

ローズの声が、シャドウの言葉を遮った。

 

 

「スタイリッシュ…?」

 

スカーとなったワタルは頭の中で頭を抱えた。

っていうかどういう事? もしかして小さい頃シドは彼女を助けていたことがあったということ?

ワタルの混乱を他所にローズは捲し立てていく。

 

「貴方だったのですね、あの美しい剣の持ち主は…。貴方の剣を見たその時から、私は剣の道を突き進むと決めました」

 

絶対にこれは幼い日助けられた感じのやつである。

多分誘拐かなんかされたとき、当時のシドに助けられたのだろう。

色々実験とかを兼ねて盗賊狩ってたとか言ってた気がするし。

そのついでで助けられたのかな。

ワタルと知り合った後も二人で行ったり、シドがソロで盗賊狩ってたこともあったし。

いやそれはそれとして。

 

「(…もっとマシな名前なかったの?)」

「(いや、まさか覚えてるなんて思わなくて…。普通に想定外だよ。…あれー。獣人の子じゃなかったっけ…ワタルもいたと思ってた)」

「(いたっけ…知り合ってから一緒に盗賊狩りした記憶は何度もあるけど…自分の研鑽しか映ってなかったからなー)」

 

小さい声でシャドウとスカーは会話する。

せめてスレイヤーとかにしとけばもう少しマシだったかもしれない。

そんな二人をしり目に、ローズは言葉を続けていく。

 

「シャドウ…貴方はあの頃から、孤独を恐れず戦っていたのですね。それなのに私は、死に逃げようとして…」

「顔を上げろ。貴様の戦いは、まだ終わっていない」

「その剣はまだ預けとくよ。だから、行け」

「───はいっ!」

 

シャドウとスカーから言葉をもらったローズは目尻の涙を拭う。

その顔つきにもう迷いはなかった。

道中、次男と騎士の娘と遭遇する。

 

「か、会長…!」

「あなたたちも、早く逃げなさい!!」

 

そう言ってローズはこの場から走り去っていく。

彼女を追おうとしたところで、ドエムの前に一振りの剣が向けられた。

シャドウの剣だ。

すぐ近くにはスカーもいる。

 

「スカー…! そしてスタイ…あいや、シャドウ…! ええい、誰か!! 増援はどうした! 誰かいないのか!!」

「───私がやる」

 

そう言って割り込んできたのは、一人のエルフ。

刀を抜いたベアトリクスの一撃に、シャドウはその剣で受けた。

余波が特別席全体へと、広がり、ガラスが割れ、席などがひっくり返る。

 

どさくさに紛れてドエムがその場を離脱したが、まぁいいだろう。

 

シャドウがベアトリクスの剣をいなすと、そのまま外へと脱出する。

今度はスカーが拳に魔力を込め、ベアトリクスへとパンチを打った。

当然、ベアトリクスは刀で受ける。

 

「…強いね」

「お前も」

 

スカーもまた、ベアトリクスを反対の手で軽く押して体制を崩すとシャドウを追って外に出る。

いつの間にか外は雨が降っていた。

大粒の水滴が、叩きつけるように降り注いでいる。

雷鳴が轟いた。

激しい稲妻は、外で対峙した三人の姿を照らしているのだった。

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