お待たせしてて申し訳ないね。
ゼンゼロが思いのほか好評でしてね、びっくりだよぼかぁ()
次回で一旦一期分はおしまい、次回はいったんのエピローグ的なものになると思います。
自分を負かした男は、興味をなくしたように特別席の方をちらりと見やると、そちらの方に歩いて行った。
一瞬でその場に移動し、ローズを取り囲んでいた連中を片付けると黒の螺旋を身にまとい、その姿をシャドウへと変え、隣の男と並んだ。
目が見開いた。
今までジミナだと思っていた男の正体が、シャドウだったと。
「あ、れは…」
思い出したくない記憶が頭を巡る。
学園襲撃事件の時も、アレクシアが誘拐された時も、いつもあいつらは事件の中心にいて。
それらの事件は優秀な騎士を失うだけでなく、多くの民も混乱に陥れて、王都を騒がせた。
苦悩、怒り、屈辱が、アイリスの中で沸き上がり、混ざっていく。
「…おまえが。───ぉお前が…!! シャドォォォッ!!」
アイリスの叫びがこだまする。
◇
「来賓の皆様の避難は完了しました。ですが、城内だけでこの戦闘が収まるとは…」
「戒厳令の発動も考えねばならんか。ドエムはどうしてる」
「馬車で王都郊外へ移動中です、進路から察するに、直接オリアナ王国へ帰還するつもりかと」
「ゲールク陛下のご遺体は」
「無事、回収できました」
「扱いは丁重にな。グラント侯爵を通して、オリアナへの返還を行え」
「…内乱を誘発することになりかねませんか」
文官の言葉にミドガル国王は答える。
「我が国にも備える時間が必要だ。歴史に闇で蠢いていた存在が、深みを増している。…取り込まれるわけにはいかぬ」
そう、ミドガル王は呟いた。
◇
降り頻る雨の中、夜の闇と雷鳴が嘶いている。
対峙しているのは、一人と二人。
一人の方は武神ベアトリクス。
二人の方は、シャドウとスカー。
「まずは僕から」
スカーはいつの間にかもっていた安物の剣───外に出たとき兵士からくすねたのだろう───を構えてベアトリクスに接近する。
一太刀目をベアトリクスは受け止めた。
(…重い)
安物の剣なのに、この衝撃。
達人は得物を選ばないとはよく言うが、これほどの実力とは。
剣と剣がぶつかり、鋼の音が雨の中に響いている。
雨の中だというのに、スカーは足元を気にする様子もない、まるで舞うように、踊るようにかけている。
幾重にも剣がぶつかり合い、雨を置き去りにする。
相手は顔色を変えない、それもまた読みづらい。
「やっぱり強いね。剣聖は伊達じゃないや」
そういって一旦スカーは跳躍してシャドウの隣に立った。
攻め手交代ということだろうか。
シャドウはいったん笑みを浮かべたまま動かなかった…いいや、違う、こっちの体力が回復するのを待っていたのだ。
無意識のうちに、ベアトリクスはわずかに肩で呼吸をしていた。
余裕の表れか、或いは戯れか。
どっちにしろ、せっかくの厚意はもらうことにする。
「…」
気持ちを落ち着けて改めて構える。
それを見届けると、シャドウは一歩足を───消えた。
「っ!」
防げたのは運だった。
勘だけで防げただけだ。
どうにかその剣を滑らせて、背後のシャドウを切り裂いた。
そう思っていた。
だが、剣を振りぬいたはずなのに、シャドウは悠々とベアトリクスの隣を歩いて行った。
「───!」
息をのむ。
思わずその方向へ視線を向けて───振り向いた刹那、鋼が響く音がする。
「ぐっ!」
シャドウに弾かれ、たたらを踏んで後退した。
それでもすぐに構え直し、目の前の相手を見据えた。
だが目の前の相手はいつの間にか自分の背後にいて。
「ぐぅっ!」
がきん、とどうにか防御する。
雨の中、ベアトリクスは転がりながら体制を整え剣を構えた。
防御できたのは運が良くて、感が冴えただけ。
(…見えない)
速いだけではない、シャドウの剣は何かが違う。
スカーとは違う、彼も華麗ではあるが、気配はわかる。
だがこの男は…自然だ。
それはこれまでの人生で培った経験から導いた結論だ
幾多の剣を応酬する中で、速い剣は間違いなく脅威である。
だがいくら早かろうが、絶対に攻撃の前には予備動作というものが存在する。
それを見切れれば、対応はできる。
戦いの中で脅威となる剣はいつも意識の外側からやってくる。
そこに速さはいらない、ただ意識の外に出ればいいのだから。
だが、このシャドウの剣は自然…。
殺気も、淀みも、力みもない。
ただ、自然。
自然なものに、人は意識を向けないし、注意を向けることはない。
この雨と同じだ、目の前で降っているのに、意識できないのと同じように、動いていることが認識できない。
「流石剣聖。初見でシャドウのあの剣に対抗できるなんて」
スカーから賞賛の声が上がる。
彼はシャドウの隣へと移動しながら
「経験はやはり強い味方だ。僕も生身で防げるようになるまで苦労した。…どれ、小休止でもいれようか」
そういって安物の剣を構える。
ちょっぴりベアトリクスは安堵した、防ぐ保障がないシャドウの剣よりは、まだスカーのほうが防ぎやすいからだ。
だが、力量は上かもしれない。
勝てる見込みは正直低い。
「待ってください」
そんな時だった。
凛とした声が、三人の戦いに割り込んでくる。
「私も混ぜてもらいます」
視線を声の方へ向けると、そこにはアイリス・ミドガルが見慣れない剣を持って立っていた。
シャドウが呟く。
「ミスリルの剣…」
「しかも古代文字…アーティファクトだ」
スカーが付け足した。
アイリス・ミドガルが鞘から引き抜いた剣の刀身に古代文字が書かれている。
そして古代文字が刻まれた部分が赤い光を放っている。
どういう能力かはわかんない…そういえばとワタルは思い出す、あんな剣が特別席のどっかに飾ってあったような気がした。
「…卑怯と思いますか」
「いいや」
まずはシャドウ。
「実力の足りないやつがアーティファクトで足りない分を補おうとする。よくある話だ」
次にスカー。
アイリスが歯を砕かんばかりに食いしばる。
それは分かり易い嘲笑だった。
嘲りだ、もっとわかりやすく言えば───バカにされた。
「黙れえぇ!!」
アイリスがそのアーティファクトに魔力を込める。
すると莫大な炎が展開される。
あれは炎を展開するアーティファクトなのかな? とスカーは頭の中で考えてると結構範囲広くない? と思い出す。
万が一があってからじゃあ遅いかもしれない、判断は早かった。
「キバット」
「よっしゃー! 呼ばれてとびでてーっと! ガァブッ!」
現れたキバットを右手に持ち、左手に噛ませる。
腰に赤い止まり木…キバックルが顕現し、スカーはキバットに緑色のフエッスルをかませ、その手を突き出し
「変身」<バッシャー! マグナムッ!!>
キバックルにキバットを装着した。
瞬間、スカーの体が透明になり、はじけ飛んだかと思った時、キバの鎧を纏ったスカーが現れ出でる。
今回は最初からバッシャーフォームだ。
キバは右手に持ったバッシャーマグナムで狙いを定めると莫大な炎を打ち消しにかかる。
大きくアイリスはその炎を纏ったアーティファクトの大剣を振るってくる。
っていうか範囲ヤバ、とワタルは思った。
マグナムの引き金を引く、大体三回。
水の弾丸は炎を打ち消し、ただの大剣に戻された。
「なっ!?」
だがすかさず彼女は魔力を込めて、炎を戻す。
今度はシャドウに向かって振りかぶった。
シャドウは普通にその攻撃を避けると
「なるほど見栄えは悪くない」
「余興には良さそうな感じ?」
「あぁ」
喋りあうキバとシャドウの間に、ベアトリクスが切り込んだ。
そのままシャドウとベアトリクスは剣戟を交わしながら移動をしていく。
「っ! 待て!」
アイリスは追おうとした、が、水の弾丸に阻まれる。
目線を向けると、バッシャーマグナムを構えたキバがいる。
「安いのは僕が相手してやるよ」
「やすっ…!!!!! おぉまぇぇぇぇぇぇえっ!!」
アーティファクトにまた莫大な魔力が込められた。
わかりやすいなぁホント、とキバは思う。
移動しながら戦いを続けるシャドウとベアトリクスを追いかけつつ、キバは適度にアイリスに向かってバッシャーマグナムの引き金を引く。
接近戦が得意なわけではない、ができないわけではないし、そもそも今現在外は大雨。
バッシャーフォームの時代なのだ。
その証拠に今もアイリスは足を動かして走っているのに対し、バッシャーフォームであるキバはスライド移動といえばいいのか、しゃーっと水面というか地面を突っ立ったまま動いているのだ。
端から見ればシュール極まりない。
相手の接近をバッシャーマグナムで牽制、いざ接近されると左手のキバフォーム部分でいなす。足もだけど。
その時、シャドウの方からキラリと何か光るものがこちらに向かって投擲された。
いや、投げ渡された、と言っていいのだろうか、キャッチできる速さ…よく見ればこいつは。
キババッシャーは再度接近してきたアイリスを蹴り飛ばし距離を取ると、こちらに向かって投げられたそれを左手でキャッチ、そしてもう一回接近してきたアイリスの剣を魔力を流したそいつで受け止める。
「───ばっ…!!?」
かな、とか言いたかったのか、それとも別の単語を言いたかったのか。
まぁ両方あるのかもしれない、なぜなら今アイリスの斬撃を受け止めたのは、一本のバールなのだから。
バール。
生前のころのシドが好んでよく使っていた武器…武器? 正確には工具か。
ぶっちゃけ生前の世界では武器ではなく凶器である。
けどまぁここでは武器になりえるか。
「ポテンシャルねぇ。確かに、楽しそうだ」
左手でバールをクルクルと回しトンファーのように構えると、右手のバッシャーマグナムで狙いをつける。
何だこの組み合わせ。
ぎりっ、と歯を食いしばったアイリスの斬撃をキバはまたいなしていくのであった。
◇
「…これから、どうする」
ひとまず追っ手を振り切り、ローズはふぅ、と一つ息を吐いた。
だがこれからのビジョンが見えない。
様々なことが頭の中で絡み合う、父のこと、国のこと、未来のこと。
それらすべてが螺旋を描いて絡まりあい、ローズの心をかき乱す。
どんな理由があったとしても、現在の自分は国王を殺した大罪人だ。
それを否定する気もないし、その責から自刃して逃れる気持ちも今やない。
殺した責任と王女としての責任、そのすべてを背負うつもりだが、あまりにも大きい。
覚悟と信念が、責任と重圧に押し潰されていくのを感じる。
ローズはまだ戦える。
戦えるが、齢十七の子供にいったい何ができるだろうか。
「貴女には二つの選択肢がある」
美しい声が背後から届いた。
振り返ると、そこには漆黒を身にまとったエルフの女性…アルファがそこにいた。
「貴女は…」
アルファはローズを見据えていった。
「一つは、一人で戦うこと。そしてもう一つは、我らシャドウガーデンと共に戦うこと。───選びなさい」
確かにローズとシャドウガーデンの敵は同じだ、共通の大敵と言ってもいい。
だがだからと言って共闘できるというわけではない。
けれども他に選択肢もないのも事実。
追ってはすぐにかかるだろう、しかし一人でいるならば、山中にでも潜伏しなければならない。
無法都市、という選択肢もあったが、今のローズは凶悪犯、賞金目当てに襲われる可能性もある。
「…あなたたちは、オリアナ王国を救う意思はありますか」
「我らが今のあなたのために動くことはない。国を救いたいと思うのならば、価値を示しなさい」
「価値…」
「あなたの価値、そして、オリアナ王国の価値を」
「王国を、救えるのですか…?」
「あなた次第よ」
彼女の答えはシンプルで、簡潔だった。
ただアルファは道を提示しているだけなのだ、ローズを導くことも、オリアナ王国を救うこともない。
答えは、結局自分で出すしかない。
「…スレイヤーさん…いいえ、シャドウたちがあなたたちの組織の長なの」
「そうよ。そしてスカーも」
頭の中で、幼いころ自分を救ってくれた彼の姿を思い出す。
そして、自分にガルルセイバーを貸し与えてくれた彼の姿も。
───ごめんなさい。お父様
「…共に戦うことを、誓います」
ローズ・オリアナは、シャドウガーデンの手を取った。
それが、オリアナ王国を救うことにつながると信じて。
◇◇◇
どうして、と頭の中でそんな声が繰り返される。
接近して攻撃しても、手に持ったバールであっさり対応されなんども蹴り飛ばされる。
そして離れると手に持っている緑色の銃で狙い撃たれる。
「ほらほら、足が止まってるよ」
オマケに向こうはどういう原理か知らないが足を動かすことなく、縦横無尽に動いている。
なんでもありか、とアイリスは思った。
だが何としてでも食らいつかねばとも思う。
あそこまで馬鹿にされて、あげくに安いなどと言われては、プライドが許さない。
何がなんでも、一撃叩き込んでやらないと気が済まない。
だっていうのにキバを纏ったスカーは今もなお戦っているシャドウとベアトリクスを見る余裕を見せている。
「おぉぉぉぉぉっ!!」
渾身の一撃、並の相手なら確実に意識を奪いかねない一撃を、キバは片手間にバールで防いだ。
キバはそのままバッシャーマグナムを上に放り投げると両手でバールを構え、アイリスに連撃を叩き込む。
まずは唐竹、逆風、そこから袈裟斬りに右切り上げ、そして左切り上げ、逆袈裟、右に左にと二連薙ぎ、そして最後にL字のバール部分で思いっきり突きを繰り出す。
九連撃を一気に食らったアイリスは体制を大きく崩して、肺の中の空気を吐き出した。
ちなみにバールはさっきの連撃で折れ曲がったらしく、その辺に捨てている。
ちらりとキバはシャドウらの方を見た、時計塔の方へ向かっている。
(向こうもそろそろクライマックスか?)
体制が戻ればアイリスも追ってくるだろう、そう判断したキバはバッシャーマグナムをキャッチしながらシャドウのほうへ向かっていく。
(いやー…いけそうだから実写るろ剣の九頭龍閃やってみたけど、いい感じにできたな)
そんなどうでもいい事を考えているとはつゆ知らず、体制を立て直したアイリスはキバを睨みつけながら、今日何度目かと思うほどに歯を食いしばる。
「…スカァァァァァァっ!!!!!」
(うるさ)
後ろから聞こえてくる絶叫など意にも介さず、スカーはシャドウと合流すべく移動していく。
◇
時計塔へ辿り着くと、ベアトリクスとシャドウが幾重にも剣を交えていた。
すたっと着地すると、再びシャドウが自然の剣でベアトリクスに攻撃する。
だが彼女は今度は確信をもってその攻撃を防ぐ。
お、とキバは思った。
「慣れた」
「お見事」
普通にすごい。
剣技だけならばシャドウガーデンに匹敵するかもしれない。
鍔迫り合いをしながら、シャドウは続ける。
「だが惜しい。魔力の使い方がまるでなってない。教えてやろう…正しい力の使い方を───」
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
そんなシャドウに向かって、アイリスが気合いを込めた一撃を繰り出す。
剣から放たれる炎のオーラはまるで光線のようだ。
<バッシャーバイト!>
だがその一撃がシャドウに届くことはない。
ぐねりと生き物のように蠢く水の本流は、アイリスのアーティファクトの炎を瞬く間に鎮火する。
「なっ!」
全身全霊の力を込めて注いだ炎があっさり消えたことで、アイリスはその表情に驚愕を浮かべる。
そのまま、アイリスに向かってアクアトルネードが放たれた。
意識が剣に向かっていたゆえに、回避はできないと判断し、なんとかアーティファクトの腹でその水の弾丸を防いで見せる。
しかし衝撃は防ぎきれず、壁に激突し空気を吐き出した。
「がっ…!!」
同じタイミングでシャドウもベアトリクスの体制を崩し、腹部に一撃を叩き込む。
彼女の顔が苦痛に歪み、一度地面に膝をついた。
キバはバッシャーフォームを解除し、シャドウの横に並び立つ。
ひとまずは決着、だろうか。
さてさて、ここからどうしたものか、とキバが考えていると
「こんな、好き勝手…に! 王都で、暴れまわって…っ! ただで済む、と思ってるのか…!!」
アイリスが剣を杖代わりに立ち上がろうとしている。
「今頃、王都中の騎士に、動員が、かかってる…! この国総ての騎士が…ミドガル王国すべてが、お前たちの敵だ…!!」
ぎりり、とアイリスは睨みを利かせた。
「もうお前たちに、逃げ場はない!!」
そう大声で言い放つ。
ベアトリクスもそんなアイリスをチラ見しつつ、こちらの動向を伺っているようだ。
「…ふふふ」
シャドウが答えた。
「ふははっ…」
雨の中で、シャドウは笑う。
「はーっはっはっはっはっは!!」
声高らかに。
時計塔の上で、一人の男が笑っている。
めっちゃ笑うやんとキバが心の中で思ったのは内緒である。
ひとしきり笑うと不意に黙り込む…そしてまた、先のアイリスの言葉に応えるように
「…逃げる?」
ベアトリクスが息を呑んだ。
「誰が」
アイリスが呆然と見ていた。
「何処へ?」
キバは(楽しそうだなぁ)とシャドウを見守っていた。
「…何故ぇぇぇぇぇっ!!」
刹那、ミドガル国全体を、紫色のオーラが包んだ。
そしてわずかに迸る魔力の奔流。
このオーラが何を意味するのか、嫌でもアイリスとベアトリクスは察した。
「…これは」
「まさか、そんなっ…」
彼が本気を出してしまえば、この国ごと消し飛ばせる。
想像をはるかに超える力に、ベアトリクスとアイリスは立ちすくんだ。
それらを見ながら、キバもまた前に出る。
彼はその左腕に呼び出したタツロットを着装し、しれっとエンペラーの姿を取った。
「っ!」
アイリスらの視線がキバエンペラーにも注がれる。
シャドウに匹敵する圧倒的な力を、二人も感じているのだろう。
「たまには、アイツに合わせようかな」
そう言ってキバエンペラー…ワタルは意識を集中させる。
少し人を辞めるあの姿を取る。
刹那、エンペラーの背中から大きな翼が顕現した。
その翼が、彼を包み込んだと思ったその瞬間、翼が開かれる。
そこにいたのはキバではなかった。
一言で言うのなら、コウモリの異形とも言うべきその姿。
キバ飛翔体と一般的に言われているその姿は、アイリスらを一瞥すると、空を飛んだ。
そんな彼の頭に、シャドウがすたり、と着地する。
「…遊びは、終わりだ」
そんなシャドウの呟きに応えるように、飛翔体が叫びを発した。
それに呼応するかのように、稲光がシャドウと飛翔体の顔を照らすのだった。
◇◇◇
王都が青紫の魔力で覆われている中。
アレクシア・ミドガルは外で剣を振っていた。
その場所はつい先日、アイリスが素振りをしていた場所と同じだ。
基本の通りに構え、無心で剣を振るう。
人からは凡人の剣と言われた、その剣。
よく言えば堅実、悪く言えば凡庸、そんな剣。
アレクシアはかつてこの自分の剣が大嫌いだった。
どこに行っても姉と比較され、天才には勝てないと何度思ったことか。
けど、今は違う。
追うべき
そして───
(ワタル…)
こんな自分の剣を、好きだと言ってくれた人がいた。
そうしてやっと自分の剣を、好きになれたから。
「…こんなことをしても、きっと意味はないのでしょうね」
ぶん、と剣を振るい、また構える。
二度、三度と繰り返す。
「でも私は、この道を進むのをやめない」
たとえ、ここで死んで生まれ変わったとしても、同じ道を選ぶだろう。
そしてきっと───同じ人を好きになる。
剣先が弧を描き、空を斬る。
握りしめたその剣を、彼女は離すことはないだろう。
◇◇◇
アイリスの手から、アーティファクトの剣が滑り落ちた。
本能的に、彼女は敗北を認めたのだ。
空には大きい、コウモリの化け物と、それの頭に乗る、一人の男。
からん、と地面に落ちる剣になど目もくれず、アイリスは黙って空を見上げるしかなかった。
「仰ぎ見よ!! そして知るがいい…! 地を砕き、天を穿つ…! 我が至高にして、究極たる、最強無比の一撃を!!!!!」
(楽しそうだなこいつ)
魔力が迸る。
「アァァイ…!!」
シドの中で、様々な記憶が思い出される。
前世のこと、転生したこと、ワタルと再会したこといろいろエトセトラ。
実はあの名前にする前に、もう一つ候補があったのだ。
ワタルに話したら「語呂悪くない?」って言われたので変えたけど。
「アァァァンムッ…!!」
<(ねぇ、わかってると思うけど本当に撃たないでよ?)>
聞こえてきた飛翔体のワタルの声にシャドウはうなずく。
もちろんだ、今回は本当に見るだけだ。
───テポドン
瞬間、世界は白に包まれた。
◇
アイリスが目を開けたとき、見えてきたのは真っ新な青空だった。
雲一つない、文字通りの晴天、太陽が眩しいと感じるほどの。
シャドウとキバの姿は見えない、まるで最初からそこにいなかったかのようだ。
「…行ってくれた」
ベアトリクスが呟いた。
「───あ、あぁぁっ…!! ぅ、く、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
こみ上げてくる怒り、悲しみ、そして屈辱。
アイリス・ミドガルは、生まれて初めての敗北を味わった。
多分きっと、最低の敗北を。
彼女は八つ当たりのように魔力を迸らせながら膝をついて嗚咽を漏らす。
「ぅぁぁぁぁぁああああああああああっ…!!!!!」
彼女の声は王都中に響き渡った。
ベアトリクスは、彼女に声をかけれなかった。
なんかアレクシアのヒロイン力高くなってて自分でも書いてて草生えました。