ほんとはまだ書かない予定だったけどコンシューマーゲームになると聞いて書いちゃいました。
一応ゼンゼロメインではありますのでのんびりになるかも出しだいぶ不定期ですが、楽しんでくれたのならうれしみ。
本日は何回かあるメインの幹部が集まっての報告会的なやつである。
定期報告?
なんでこんなメンバーがいるのかは謎だ。
なんで的なやつ、と濁しているかというとあんまりワタルとシドは参加しないからである。
基本七陰のうち誰かひとりやってきて報告してくるパターンが多いし。
「先日のブシン祭での一件以来、ミドガルのディアボロス教団に動きはありません」
そう報告するのはベータ。
主であるシドはシャドウの姿であの玉座に座っており、そんな玉座に背を預けてワタルことスカーは立っている。
「中小の派閥はもとより、再編中のフェンリル派も混乱で身動きが取れない様子」
「全ては主様たちの計画通り」
「これで我らは、背後を気にせずオリアナでの事変に戦力を集中できます」
ベータの報告に続いたのはガンマとイプシロンである。
彼女たちの言葉の後で、また一人言葉を発する。
今度はゼータだ。
「しかし、気になる情報も」
「最近、無法都市への資金の流入が加速している」
ゼータの呟きに続いたのはイータ。
ちなみにデルタはなんでかいない。
まぁあの子はこういう会議的なのは苦手そうだからぜひもなし。
「…金」
シャドウが呟く。
あ、これ何か思いついた的なやつだ。
「あの区域はどの国家にも属さず、世界的な悪と富、そして力が集約する巨大スラム。一度緊張状態が発生すれば、表への影響力も計り知れません」
「計画の遂行に力を尽くしたい我等としては、遺憾ですが増員し一気に───」
「───臭うな」
ベータ、ガンマの言葉を遮りシャドウが一言。
それを聞いたアルファが何やらハッとした表情をする。
彼女に釣られてベータたちも何やら己の体臭を確認すべく身体の匂いを嗅ぐ。
多分違うよ?
そんな内心のワタルのツッコミを知ってか知らずか、ゼータも尻尾の臭いをすんすんしている。
そしてイータはどこに持ってたのか消臭スプレー的なのを自分にぷしゅーと吹きかけている。
今更だがデルタはいない。どこで何をしてるのかワタルも知らない。
まぁそのうち戻るでしょ知らんけど。
「無法都市…血の臭いだ」
まぁ当然比喩か何かなのだろう。
というか血の臭いなんて正直茶飯事だ。
血の臭い、という言葉を聞いて七陰の何人かは安堵したように息を吐いた。
「嵐が来る。…血の嵐だ」
そうまたシャドウが言うと、オメガが手で×を作ってカイに指示。
指示されたカイは開け放っていた窓を閉じたのだった。
何回も言うが、たぶんそういうことじゃない()
窓越しに見える空模様が、偶然か知らないが変化していく。
雲が割れた先には、〝朱い月〟が見えていた。
「月が…?」
「いつもより…」
「…朱い」
ベータ、ガンマ、そしてイータと呟いていく。
確かに言われてみればなんか妙に赤い気がするとワタルも思った。
何かの前触れだろうか。
「あれではまるで、伝説の…」
イプシロンが呟いた。
やっぱりなんかあるんだ、しかも伝説ときた。
「朱き月」
誰かが呟いた。
陰の間に緊張が走る。
まるで稲妻が奔ったかのような衝撃。
「…千年前の惨劇」
ラムダがつぶやいた。
なにそれ()
「だとしたら無法都市は…このままだと周辺国家に壊滅的な被害が…」
次はニューだ。
そんなヤバい状況なんだ。
そんな二人のつぶやきを皮切りに、ガーデン全体でひそひそと言葉が漏れていく。
みんな知ってるってことはかなりメジャーな伝説なのかもしれない。
多分知らないのワタルとシドだけだこれ。
「静まりなさい」
陰の間に凛、とした声色が響き渡る。
アルファの声はよく通る。
だから怒った時も怖いのだが、そんなアルファも好きだ。
そして彼女は組織のナンバースリー…っていうか基本放任してるシドや定期的にしか手伝えないワタルに代わってガーデンを統括しているためガーデンのメンバーにとっては実質トップのようなもの、そんな彼女が言えばあっという間に静かになる。
「あれが〝朱き月〟の前触れだというのなら、悠長に監視だけに留めることはできない。七陰の総員をもって───」
「いや」
アルファの言葉を、シャドウが遮った。
「金のこ───この件は任せろ」
今金って言おうとした?
「まさか、シャドウ様自らが…!?」
「不服か?」
「それが最も確実であることは、このガンマも承知しております。ですが、御身に何かがあったら…」
「心配はいらない。僕も行く。───ね、キバット」
「おうともよーっ」
今までワタルの肩にいたキバットがひらりと彼の周りを飛んで、また肩に戻っていく。
「それに、案ずることはない。…ただ月が朱いだけの話だ」
そうしてシャドウは手に青紫の魔力を灯し、それを握りつぶす。
余裕たっぷりの二人を見かけたアルファは小さく微笑みを浮かべる。
「伝説の朱き月も、あなた達の前では形無しね」
「まぁ、朱い月も、綺麗だと思わない?」
ちらりとワタルは窓の外に見える朱い月を視線に捉えながら呟いた。
やがてガンマが膝をつく。
「主様たちがいらっしゃるからこそ、私たちも美しく感じることができるのです」
それにイプシロン、ゼータと続き
「ご武運をお祈りいたします」
「すべては、主たちの御心のまま」
「龍の涙のことでも調べて待ってる」
イータも少しだるそうに皆を習って膝をついた。
やるタイプじゃなさそうだしね。
「最初は普通の月と変わらない、少しだけ赤みがかった月でしかなかった。だからそれが、血の女王の復活の前触れであるということは、誰一人気付かなかった、ただ、シャドウ様とスカー様を除いて…!!」
何やらベータがすごいメモってる。
血の女王ってなんだ。
どこからか、デルタの遠吠えが聞こえてくる。
何をしてるのやら。
◇
ブシン祭はクレア・カゲノーが優勝した。
ローズの乱入で色々と問題はあったらしいが、滞りなく大会は終わった。
シドとしてはあの咄嗟のアドリブで見せ場を作ることができて満足しているみたいだ。
世界は常に動いている、そしてその世界に住むいろんな人も、思惑や考えをもって日々を過ごしている。
臨機応変、という言葉はこういう時にこそ相応しいものだ。
そんなわけでブシン祭が終わったミドガル学園にはいつもの日常が戻ってきていた。
当然ながらオリアナ王国のゴタゴタで色々あったらしいが、家にそんな交流もないので特に何が起こるでもなく普通に二学期が始まった。
オリアナではなんか派閥に分かれてバチバチらしいが詳しい事は知らないし興味もない。
シドが面白そうとか言ってたので、絡みに行くならシドの付き添いで行くだろう。
ローズのいない学園は特に何も変わらない。
まぁこれは致し方なし、いなくなった人に割いてる余裕など学園やその生徒にはないのである。
痴情のもつれとか、王位継承権争いとか言われてるが、真相はそのどれもとは違っている。
まぁ、事態がどうなるかはワタルは今のところ見守るしかできないので、彼女を応援していよう。
クレアは優勝してしばらくは多方面に引っ張りだこだった。
挨拶とかパーティーとかインタビューとかエトセトラ。
時の人とはこういうのを言うのだろう。
そんなわけで落ち着いてきたので、クレアが毎日シドとワタルに絡んできてうっちゃしいので祝勝会をする流れになった。
なったのだが、最初は普通に三人で行くものだと思ってた。
だがクレアは何か知らないが───
───さ、最初は姉弟水入らずでするわ! ワタルとはそのあとね!!
なんて言ってきた。
なんでだろう、まぁ家族で過ごすのはいいことだからその時のワタルは「ほーん」と超適当に返事をして了承した。
とりあえずシドと同じようにガンマのコネを使ってミツゴシでのディナーを予約しておく。
流石に料金は払った。子供のころから盗賊とかしばいてかき集めた貯蓄はたくさんあるので、問題はないのである。
そんな訳でクレアとの祝勝会?当日。
出かける前にシドに肩を叩かれて「頑張ってね」と苦笑い八割微笑み二割のなんかよくわからない笑みを浮かべた彼に見送られ、待ち合わせ場所に向かう。
そこにいたのは真紅のドレスを着こんだ一人の女性がいた。*1
っていうか一瞬誰かわからなかった。
普段おろしている髪を後ろに纏め、大きく背中を出したそのドレス。
スリット、っていうのだろうか、少し動くとおみ足がチラリズムしてる。
剣も携えて一応戦闘も想定してはいそうだが、果たしてそのドレスで戦えるのか。
「! ワタル」
こちらに気づくといつもと変わらない笑みを浮かべてこっちに歩いてくる。
「…なんか気合入ってる?」
「え? な、何のことかしら。そりゃ貴方とのディナーなんだからそれなりにちゃんとしてるつもりだけど? えぇ」
なんだかほんのりご機嫌な気がする。
まぁ本人が笑ってるならなんでもいいか。
◇
ミツゴシ商会グループのレストランで、ワタルとクレアのディナーは始まった。
「ミツゴシの料理って大好き。ローストビーフって初めて食べたの。斬新で美味しいものばっかり。シドとの時とは違う料理で飽きないわ」
「ね」
アイデア出しにも自分が関わってる。
そう思ってくれるならちょっぴり嬉しい。うれしみ。
「アンネローゼは敗退。アイリス様は途中棄権、ジミナとかいう変なのは失格。私が優勝何て運がよかっただけよ」
「そうだね」
「否定しなさいよ」
なんでや。
「クレアなら全然上位に食い込める実力だもんね」
「絶妙な褒め具合なのが腹立つわね。まぁいいわ。えぇ、もちろん実力もあるわ。けど世間はそう思ってない」
「仕方ないよね」
「やり直し」
めんどくせぇ!
「世間も見る目ないよねぇ」
「まぁ世間なんてそんなものよ。だけど、私は見縊られて黙ってるような女じゃない」
「クレアはもう少し落ち着いたほうがモテると思うのに」
「アンタ以外に好かれても───って何言わせんのよ!!」
「ちょっと理不尽じゃない?」
なんだか小声で言ってノリツッコミみたいな感じでクレアが投げてきたフォークをキャッチしてクレアに返す。
向こうもキャッチすると分かって投げてきたのだろう、普通にそれを受け取った。
「シドにも約束を取り付けたけど、ワタルにも協力してもらうわ」
「何を?」
「始祖の吸血鬼の討伐が始まるの。秋休みの予定は空けといてね」
◇
ディナーを終えて夜の王都を歩いていく。
代金は事前に払っていたのでそこら辺の会計はなし。
「ワタルは将来どうするの?」
「んー? …そういえば深く考えたことはないなー」
とりあえずガーデンのみんなにもう少し寄り添うとは思う。
とはいえ表の職も大事だから…
「父さんに倣って、ヴァイオリニストとかになろうかな」
「アンタ音楽上手いもんね。ぴったりだと思うわ。…やっぱりアンタとならシドを守っていけそう」
なんか最後ぼそりと気がする。
よく聞こえなかったけど。
「ところで門限過ぎてるけど」
「シドの時もそうしたけど、パーティーに出席するってことにしといたわ。つまり許可済みよ」
「やるね」
しかしこの夜道は不自然に感じるくらい静かである。
ふと空を見上げると、いつもより月が赤く見える気がする。
朱き月、か。
そういえば最近聞いた単語だな、意味は知らないけど。
「ところで、始祖の吸血鬼ってなんなの?」
「あぁそれね。始祖の吸血鬼…〝血の女王〟のことよ」
「血の女王」
ちょっとカッコいい響き。
「近頃その配下が無法都市の外に出て事件を起こしてるのは知ってると思うけど」
「うん」
全然知らん。
「それを重く見た周辺国は、魔剣士ギルドに血の女王の討伐を依頼したの」
「へむへむ」
「一流の魔剣士を集めたチームが結成される。我の強い連中が多いからチームといっても連携は期待できないでしょうね」
そもそも何か起こったら瓦解も早いと思われる。
急ごしらえのチームなんてそんなものだ。
「だからこそシドもついでに連れて行けるの。そしてそこにワタルも加われば完ぺき。アンタの実力は気に食わないけど私に匹敵、ないし上だわ。本当に気に食わないけど!」
「褒めてるのか貶してるのかどっちなの」
「褒めてるわよ。そんで、シドには私たちのフォローをしてたことにして手柄を作るの」
どんだけシドが心配なんだこの姉は。
早い話将来が心配なシドのために実績つくりに向かおうというわけだ。
弟想いなのは全然いいのだけれども。
「なるほど。それで手柄があれば騎士団にねじ込むくらいはできるもんね」
「えぇそうよ。前のパーティーで近衛騎士団の団長と親しくなったから、あとはいつシドが頷いてくれるか。まぁいざとなったら勝手にねじ込むわ」
「さすがにそれはやめたげて」
そういえばシドは学園を卒業したら何をするんだろう。
まぁ陰の実力者活動により一層力を入れるのだろうけど、それでも表の職は必要だが…まぁそれはその時になったら考えるだろう、アイツだし。
「ディナーの時も言ったけど、討伐は秋休みになるはずよ。だから予定は空けといてね。まぁ気の早い連中は先に行ってるかもだけど、焦らなくても問題ないわきっと」
クレアがそんなことを言った刹那だった。
風が血の臭いを運んできた、しかも濃い臭い。
近くでだれか死んだかもしれない。
臭いの元は路地裏にいるようだ。
ワタルは自然にクレアの前に出る。
「そのドレスじゃ動きにくいでしょ。僕が前に出るよ」
「…、ありがと」
腰にある安物ソードを抜くと路地裏に入っていく。
進んでいくと、誰かがうずくまって何かをくちゃくちゃ食べていた。
クチャラーだ。
「っ…!!」
驚愕の悲鳴をクレアは殺す。
剣を手に彼女自身も臨戦態勢だ。
気配に気が付いたのかその誰かが、こちらを見やった。
それは血塗れの人間だった。
いや、それは人間ではない。
瞳は赤く、その口には鋭い牙。
唾液が滴り地面に落ちる。
足元にはそいつが喰い散らかした人間だったものが転がっていた。
「ガァァァァッ!!」
多分話をしても無駄だと判断したワタルは躊躇なく首を落とす。
グールってやつだろうか、でもゾンビではなさそうだ。
ごろんと転がったそいつの首を一突きしてトドメを刺す。
カチカチと空気を噛んでいたがやがて沈黙した。
クレアがちらりと前に出てきて、口を開いた。
「…グール…? まさか血の女王の…?」
見てくれは人だが、肌は青白く血の気がない。
瞳も赤くて歯も鋭かった。
速攻で首を落としてしまったので耐久はわからないが、少なくとも常人のそれではないだろう。
「…グールも、元は人間だったのよね」
「? まぁ多分」
「最近、なんだか怖くなるの。いつか私もこんな…理性の無い化け物になるんじゃないかって」
「クレアに元から理性なんてしりかっ!?」
腹部に肘を打たれた。
ちょっと正直が過ぎたかもしれない。
今更か。
「こほん。…ローズ王女は〝悪魔憑き〟だったらしいわ。噂だけど。…誰にも言ってなかったけど、私、〝悪魔憑き〟かもしれないの」
昔シドと一緒にストレッチしてた頃治したやつだろうか。
「昔ね、背中に黒い痣ができて、言い出せないうちにそれがどんどん広がっていったの。でもある日を境に急に調子がよくなって、気が付いたらその黒い痣は消えてて、治ったんだって安心した。でも最近詳しく調べたら〝悪魔憑き〟って治ることがないらしいわ。もしあの痣がそうだとしたら、私も…」
「ま、そこまで心配することじゃないと思うよ」
もう治癒してあるしね。
「…そうね。冗談よ。私が〝悪魔憑き〟なわけないじゃない」
そう言ってクレアは微笑み夜空を見上げた。
「さて、騎士団を呼びましょう。…そしてワタル、その後時間あるかしら?」
「? あるけど…」
「よかった。…その、ほら。外はこういう危険があるかもだから、ね。今日はどこかで夜を越さない?」
「…え?」
不意に顔を赤くしながらこちらの腕をつかんでくるクレア。
夜の闇に照らされた彼女の顔は少し大人びて見える。
「実はパーティに出席するって言ったとき、今日は実家に泊まるって言ってあるの。…だから、ね」
◇
クレアはミツゴシ系列のホテル優待チケットを持っていたようだ。
いつ貰ったんだろう、シドと祝勝会言った時かな。
最初はシングルで別々に取ろうと思ったのだが有無を言わさぬ剣幕でダブルベッドで同じ部屋にされた。
どうして。
そして今。
部屋に着くや否や、ワタルはベッドにクレアに押し倒された。
「…クレア?」
「…シドから聞いたけど、アンタ関係持った女性いるみたいね」
「ぶふっ!? え、な、なに、なんのことかな!?」
「とぼけないでいいわ。別に構わないもの。…きっと最後には私が一番なんだから」
お前もラオウみたいなことを言うのか()
ぐい、と顔を近づけられる。
整った顔、そして紅い瞳がワタルを見据える。
「私ね、少なくとも付き合うとかそういうのは私より強い人がいいの」
「だろうね」
「…悔しいけど、アンタはきっと私に匹敵、ないし強いわ。…私が頑張っても、アンタはいつも少し先を行ってる」
「…はぁ」
「でも気づいたの。…アンタが一緒なら、これからもシドを守っていけるって」
「ま、守る?」
少し微笑んでクレアは頷いた。
「そして同時に思ったのよ。…私、アンタなら大丈夫って」
ずい、と更に顔が近づく。
普通に近い、あと少しでキスができるくらいの距離。
「他の有象無象なんて嫌。…身を捧げるならアンタがいいの」
「な、何言ってるかわかってる…?」
「当たり前じゃない。…冗談でこんな事言わないわ。でも、流石の私でも無理強いはしない。…だから、本当に嫌なら撥ね退けて」
そういって少しずつ顔をさらに近づけてくる。
最後の部分の声色がわずかに震えてるのを、ワタルは気づいてしまった。
あれだ…ゼータの時とおんなじだ。
少しだけ潤んだ瞳を見て、そんな選択肢は吹き飛ぶ。
だから、ワタルは受け入れた。
また大切な人が増えた、なんて思いながら彼女の背中に手をまわすのだった。
◇◇◇
無法都市。
それは一言で言えば巨大なスラム。
路上生活者…いわゆるホームレスがたむろし、掘立て小屋が並び腐った匂いが充満する掃き溜め。
それが無法都市の全てと言えるかもしれないが、実際はそうではない。
何故ならば、無法都市には三本の塔がそびえ立っている。
「…あれが〝血の女王〟の城、〝紅の塔〟か」
夕陽の中に聳え立つ、その赤い塔を見てつぶやくのは、褐色のガタイのいい男、クイントン。
「怖気付いたか? クイントン」
そんな彼に話しかけるのは金髪の青年、ゴルドー・キンメッキ。
「そんなんじゃねぇ。ただ、こんなでけぇ建物は見たことねえからよ」
「確かにな。こいつは立派な塔だ。上るだけで一日はかかるぜ」
〝紅の塔〟を見て二人は軽くため息をついた。
螺旋を描きながら天へと聳え立つ〝紅の塔〟
どうやって建てられたのか、何の目的があるのか、それは二人にも皆目見当もつかない。
「ま、塔が立派だからってそこにいるやつが強いとは限らねえ、行くぜゴルドー」
「あぁ。〝血の女王〟の首は俺たちが頂く」
対照的な二人だが、どういう訳か初対面で話した時から妙にウマが合う。
同じ相手に敗れた、という共通点があるからかもしれないが、不思議と仲良く行動してきた。
やがてスラムを抜け、塔の近くへと歩みを進める。
道行く奴らもホームレスから、二人を狙うギラついた視線が襲う。
雑魚は一人もいない。
いつでも戦えるように警戒しながら二人はさらに先に進んだ。
やがて、塔の入り口へとたどり着く。
住人はなぜか見当たらない、しかし家でうごめいてる気配はわかる。
「開けるぜ」
クイントンが扉に手をかけようとしたその時だった。
「待ちなぁ」
ヒヒ、と言う笑い声とともに誰かに声をかけられた。
かすれた、少し聞き取りずらい声色。
視線を向けると扉のわきに薄汚れたボロ布を纏った、一人の男がいる。
「お前らには開ける資格がない。こいつを開けていいのは、下僕か、客人か、強者だけだぁ」
瘦せぎすの男はそう言った。
背は高いが、頬はこけ、目はくぼみ、骨と皮だけかと思うその男。
例えるなら、生きる屍、だろうか。
「…ふん。確かに俺たちは下僕でも客人でもねぇ。〝血の女王〟を倒す強者だ」
クイントンは男を見つめてニヤリと笑った。
そして男もまた、クイントンを見つめると嗤うのだ。
「…ッヒッヒッヒ。ヒヒヒヒヒ」
「…何がおかしい」
「おかしいさ。俺は自分を愚者だと思っているが…己以上の愚者を見るのはいつだって面白い…!」
「なんだと!?」
ゴルドーが語気を強めて睨んだ。
だが瘦せぎすの男の嗤いは止まらない。
「身の程を知れ、こうなってからでは遅い」
瘦せぎすの男が布の一部をはぎ取った。
あらわになるのは右半身…しかし右肩から先がない。
「これが四年前に〝血の女王〟に挑んだ愚か者の末路だ…今や利き腕を落とされ、無様に飼われる番犬よぉ」
よく見るとその男の首には頑丈な鎖で繋がれた首輪がある。
クイントンは鼻で笑った。
「はっ、俺ぁブシン祭の猛者クイントン。こいつは常勝金龍のゴルドー。テメェみたいな雑魚とは違うんだよ」
「ヒッヒ! 知らないねぇ、自分より弱いやつのことなんて」
「…ならテメェは、どこの誰だ?」
「今はしがない〝番犬〟さ。昔は〝白い死神〟と呼ばれたこともあったなぁ…」
「…知らねぇな。ゴルドー、知ってるか?」
「…いや。それよりも気をつけろ、クイントン。…こいつ、力の底が見えない…!」
「っは、馬鹿言え、こんな瘦せぎすの片腕野郎が───」
そう言った刹那だった。
ばきん、と大剣が半ばで折られ、同時に血しぶきが舞った。
「…あ?」
「クイントンっ!!」
叫びと倒れる音が同時に響く。
「次はお前か…?」
「き、さまっ…!!」
ゴルドーには相手の剣筋が見えなかった。
かろうじて見えたのは、血しぶきと折れた大剣程度。
利き腕を奪われ、片腕だけの番犬は、それでも自分よりはるか上の高みにいることをゴルドーは理解した。
「なあに、安心しろ。死んではない。使えなくなるからなぁ」
「よくもっ…!!」
ゴルドーは魔力を込め、自身の究極の技を放った。
「邪神・秒殺・金龍剣っ!!」
技を放つ刹那、ゴルドーは番犬の目と交差した。
血走ったその眼光に、その真っ黒い瞳に、ゴルドーは記憶の底にあった〝死神〟の記憶を思い出す。
「っくそ!」
ガァン! とゴルドーは技を地面に叩きつける。
もし記憶の通りなら、自分ではどう足掻いても番犬に勝てないことをゴルドーは悟った。
「んん?」
地面に技が叩きつけられ、土煙が視界を奪う。
いわば目眩し。
「クイントン! 必ず、必ず助けに来るっ!!」
そう言って遠ざかる気配、そして声。
なるほど、理に適った判断だと番犬は心の中で口にした。
「…俺は追わない。番犬だからなぁ」
土煙を適当に剣の一閃で薙ぎ払うと、遠ざかるゴルドーの背中を見やった。
「だが、果たして無事に逃げられるかなぁ?」
ヒヒヒ、と笑いながら番犬は家の扉が開け放たれ、〝奴ら〟がゴルドーへ襲いかかる姿を見守る。
嗤いながら、番犬は徐に聳え立つ塔の一つを見上げた。
三本の摩天楼が聳え立ち、圧倒的な三人の支配者が君臨するこの場所が、世界の掃き溜め、無法都市。
世界中から悪、富、力が集う弱肉強食の世界。
そこには王も、騎士と、魔物も。
誰も手を出すことはない。
その場所の名は無法都市。
この場所では、力こそが法なのだから。