陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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4 凡人の剣

まず1部の教室に入って感じたのは(広いなぁ)だった。

体育館を思わせる屋内に、軽食堂、お風呂、更衣室等々が完備であり、扉はメイドの人が開けてくれるという人力自動ドア仕様。

余談だが、9部…下級のクラスは雨だろうと風だろうと屋外である。

 

「今日から、新しい仲間が入った」

 

なんだかメガブルーを思わせるような声色で顧問の教師にワタルは紹介された。

とりあえず適当にお辞儀でもして

 

「ワタル・クルムズです。よろしくお願いしまーす」

 

帰ってくるのは毛ほども仲間と思われていない視線の数々。

とはいえ下級とは空気が違っており、皆びしっと決まっている。

そして流石は最上級の1部のクラス、侯爵家の人や、現役の魔剣騎士団長の娘さんなど有名どころがたくさんだ。

そして現在、ワタルの隣にいるゼノン・グリフィもこの国の剣術指南役であり、年齢もまだ二十八歳とかなりお若い。

早い話相当の実力者ということだ。

 

「皆も知っての通り、ここで学ぶ〝王都ブシン流〟は伝統のあるブシン流から派生した新しい流派…いわば、彼…ワタルくんと同じ新顔だ。もちろん最初は風当たりが強かったが…ここにいるアレクシアの姉、天才魔剣士と名高いアイリス王女のおかげで今や本家に迫る勢いだ。つまり、力さえあれば周囲の好奇の目線なんてはねのけられる、ということだ。君はどうかな、ワタルくん」

「───ゼノン先生も、王都ブシン流を盛り立てた一人だと聞いてますが」

「アイリス王女に比べれば微々たるものさ。それでも、王都ブシン流は私が育てたと思っている。だから、この流派を好きになってもらえたら嬉しいんだ」

 

◇◇◇

 

あの後ゼノンは「練習の邪魔をしたね」と苦笑いと共に別の生徒の練習を見に行った。

瞑想魔力制御などの基礎を全員で行った後、みんなが打ち合いに入る。

こちらも軽くストレッチや準備体操をして体をほぐしたのち、組み手を開始。

刃を抜いてはあるが、鉄製である。

そこかしこで鉄と鉄とが打ち合う音が聞こえてくる。

基礎を疎かにしていないのは良いことだ、これが下級だと少し素振りしたらチャンバラに移行してしまうのだ。

強者は基礎を大事にする。

周りの一般生徒のレベルも高いし、世辞抜きでいい環境だ。

 

ワタルもアレクシアと周りの生徒と同じように打ち合い、アレクシアの剣を見やる。

こちらが打ち、彼女が捌き、彼女が打ち、こちらが捌く。

彼女は攻撃を当てないし、魔力を使わない、そして動きも緩慢だ。

周りでは魔力を使ってガンガン打ち合っているところもあるが、アレクシアはこちらに合わせてくれているように感じた。

もしかしたらこれが普段通りなのかもしれない。

マスはあくまでも技の確認、そこに速さや強さはいらない。

この稽古の目的───技や返しの確認を、ただこなしているのだ、実直に。

思い返せばワタルのストレッチを「面白いわね」と真似していたし。

 

「はっ!」

 

ガキン、とアレクシアの剣を受け止める。

彼女の剣は良い剣だ。

無駄がなく、それでいて研ぎ澄まされていて、基本に忠実。

よく言えば堅実、悪く言えば地味。

王国最強と言われる姉に大きく劣る、なんてのが世間の評判みたいだが。

だけど、ワタルには何となくわかる、ここに至るまで彼女がどれだけ努力してきたのかが。

ワタル自身もシドから剣や拳を習ってきて、空いた時間に反復練習することもあったし。

だからこそ、一歩一歩確実に基礎を積み上げてきた彼女の剣は嫌いではないのだ。

 

やがてリンゴンと授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。

それを聞いたゼノンはパンパンと手を叩きながら

 

「ようし。今日の授業はこれまでだ」

 

そう全体に聞こえる声量で言った。

打ち合いしているワタルとアレクシアも剣を治め、軽く一礼。

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございしたー」

 

軽く伸びをするワタルに、アレクシアが呟く。

 

「いい剣ね」

「褒められてる? ならありがと」

「…だけど、嫌いな剣。まるで自分を見てるみたい」

 

上げてから落としていくスタイル。

そう言ってアレクシアは片付けに入る。

なんだかんだと授業を切り抜けることができたみたいだが…片付けしている最中に、話しているアレクシアとゼノンの姿を見てしまった。

好奇心からちょっとばかし聞き耳を立てる。

 

「それが、君の答えなのかな」

「えぇそうよ。彼と付き合うことに決めたの。ゼノン〝先生〟」

「やれやれ。まるで子供だな、いつまでもそう逃げられるわけではないよ」

「大人の事情は、子供には理解できませんの」

 

なんとなーく話の流れを聞いて、なぜアレクシアがワタルとの付き合いを了承したのか、予想がついてきた。

 

「まだ公にこそなってないけど、私たちの婚約は───」

「まだ候補でしょう?」

「君が頷けば話は進む」

「自分の相手は自分で決めるわ」

 

ま、とりあえず今は片付けに集中しよう。

 

◇◇◇

 

「帰りにミツゴシ寄ってかない?」

「いいね」

 

そんな女性たちが話し合う校庭の裏庭で

 

「つまり、当て馬が欲しかったわけだね。ゼノン先生と結婚するのが嫌だから。だから扱いやすそうな僕を選んだわけだ」

「ええそうよ。あと一応言っておくけど、まだあの人は婚約者候補、よ」

「まぁこの際どっちでもいいんじゃない?」

「良くないわ。強引に話を進めてきて困ってるのよ。まだ決まってもいないのに。それに、貴方だって罰ゲームで私に告白してきたみたいだし?」

「…一応聞くけど誰からかな」

「ヒョロくんとジャガくんから。もう一人のシドくんは捕まらなかったけど、その分二人が色々言ってくれたわ。聞いてないことまで全部ペラペラしゃべってくれた」

 

想像通りだった。

まぁシドはともかくアイツらに関してはそこまで信じてはいなかったし問題はないか。

ほんの少しとはいえほぼ初対面…というかあまり話したことのない人間から告られても迷惑だし、多少なりとも罪悪感はあったから、ここは潔くするかぁと観念する。

 

「…期限は?」

 

ワタルがそう聞くとアレクシアはきょとんと言った顔をする。

それに対してワタルも首を傾げながら。

 

「…どしたの」

「色々言っておいてなんだけど、すんなり頷いてくれるとは思わなくって。一応脅しの体裁を取ろうとしたのよ?」

「別に。どうせもう断れないだろうし、一応僕もほんのすこーし罪悪感はあったからね。だから付き合ってあげる。それで改めて、期限は?」

「───ん、んっ。そうね、期限はあの男が諦めるまで。とりあえず恋人のふりを続けてくれるかしら」

「諦めるかなあの人。下手したら本当に卒業するまでいるかもしれないよ」

「わかっているわ、時間が稼げたらいいの。あとはこちらでなんとかするから」

「りょうかーい」

 

とりあえず立ち上がってもう一度背伸び。

これはなかなか面倒な展開になってきたな、と背伸びを終えると不意にアレクシアはこちらに向かって一枚の金貨を差し出してきた。

これは一枚で十万ゼニーの価値があるすげぇ金貨だ(語彙力)

 

「なにこれ」

「報酬よ、愚図ってきたらこれを餌に従わせるつもりだったけどね」

「…いらないよ、例え〝ふり〟とはいえ、金のために付き合うような男になんかなりたくない」

 

シドだったら絶対貰ってただろうが。

 

「───っ」

「心配しなくても言った以上君に協力する。他言もしない。父の名に誓って、だ」

 

オトヤも若いころは色々と遊んでいたと聞く。

本編の音也ほどじゃないだろうが…それでも基本的に女性には優しくするのが、我がクルムズ家。

とりあえず帰ろうとして…振り返って彼女の顔を見る。

 

「どうする? 今日は別々に帰る?」

「え、っと…そ、そうね。今日はいったんそうしましょ」

「わかった。それじゃあまた明日」

 

そう微笑んでアレクシアの視線を背にワタルは歩き出す。

ふむ、と顎に手をやりながら、一人思考に埋没する。

 

(…あの金貨、やっぱ貰っといた方がよかったかな)

 

ぶっちゃけお金は欲しいっちゃ欲しい。

ま、今回は我慢しよう。

人の気配がいなくなったのを見計らうとカバンのジッパーを開けて適当にキバットと雑談でも交わしながら、寮へと帰っていくのだった。

 

 

そんな彼を見送ったアレクシアは報酬用として用意した金貨を仕舞いながら

 

「…何よ。調子狂うわね」

 

そんなことを呟きながら、彼女も自宅へと歩を進めるのだった。

 

◇◇◇

 

偽装恋人関係となってから二週間。

とりあえず特に大きな問題もなく、傍目からはごく普通…かは知らないが、どこにでもいそうなカップルが出来ているとは思う、というのがワタルの内心。

ただ相手が相手なので、ごくまれに一部の男子からしょうもない嫌がらせを受けるときがあるが…あまりにも度を越えているもの*1以外は基本的に我慢できている。

そんでもってゼノンの方もこっちを短絡的、かつ暴力的な手段を実行してこなかったのもにも安堵した。

いわゆる、〝大人の余裕〟というやつなのだろう。

授業中でもいつも通り丁寧に教えてくれている。

前みたいに気軽に話しかけてくることもない、公私を弁えた人物なのだろう。

 

「…ムカつくわね少し剣が上手いからっていい気になって」

「一応お仕事だからね」

 

無論表ではアレクシアは猫を被っているが基本的に裏では割とキツイことを言う

おそらくこっちが素なのだろう

 

「これは素朴な疑問なんだけど、ゼノン先生の何が嫌なの?」

 

授業や実技を終え、帰り道を歩く道すがら、ワタルはふとした疑問を問いかけた。

彼女は歩く速さをワタルの隣に合わせながらふんっ、と不機嫌そうに。

 

「全部よ全部。アイツの存在全てがヤなの」

「客観的に見るなら地位も名誉もあって、金もあるし公私を弁えてるイイ人に見えるんだけどね。見た目も悪くないし」

「だからこそ、よ」

 

ずい、とアレクシアはワタルのほっぺに指を押し付けつつ

 

「上辺だけなら私みたいに取り繕えるわ」

「…まぁ確かに」

 

普段猫被っているのでアレクシアの男性人気は高い。

 

「だから、私は上辺だけで判断はしないの」

「…なら、何で見極めるの」

「〝欠点〟よ」

「…なるほど」

 

ドヤぁ…としてやったりな顔をするアレクシアにふむぅ、と頷く。

欠点…欠点かぁ。

ちょっとわからんでもない気がする。

 

「ちなみにだけど、私は貴方のこと嫌いじゃないわよ。美点ばかりでもないけど、程よく欲が垣間見える貴方は一番らしいもの」

「褒められてる?」

 

アレクシアはくすりと笑った。

 

「ちなみにゼノン先生の欠点は?」

「私が見た限りないわね」

「へぇ、そりゃすごい。うまく隠してるのか…それとも本当にないのか」

「あり得ないわ。欠点がない人間なんていない。もしいるのなら、それは大ウソつきか、頭のおかしい人のどっちか、ね」

 

ちょっと心当たりがいるのが悔しい。

シドっていうんですけど()

まあ、彼も欠点がないわけではないのだが。

 

◇◇◇

 

今日もアレクシアと剣術の授業。

ここのところほぼ毎日打ち合っているから、彼女の癖かなんかもわかりつつあった。

しかし今日に限っては、なんでか彼女の剣は荒れていたように見える

ゼノンとの打ち合いにも集中できていないように見えたし、なんだか〝らしくない〟

付き合いの浅い人間にそんなこと言われたら癪に触るだろうから流石に〝らしくない〟と言葉にするつもりはないけども。

 

とりあえず今日の授業も終わり、今は帰りの列車の中。

流石に多少の距離は開いているが隣り合って座っている。

 

「不思議ね。貴方の剣」

 

不意に彼女が口を開く。

 

「基礎はできてるのに、それ以外には何もない。なのに、眼を奪われる」

「…ありがとうって返すところ?」

「でも、やっぱり嫌いな剣」

 

また上げてから落とされた。

 

「今日は剣も荒れてたね。どうしたの」

 

そうアレクシアに問いかけると珍しくその瞳に感情を乗せてこちらをキッと睨んできた。

 

「気を悪くしたなら謝るよ。けど、ここ最近は毎日剣を交えてるんだ、多少の変化には気づくよ」

「───私は、ずっとアイリス姉さまに追いつきたいって思ってた。だけど、持ってる物が何もかも違ってた。だから私なりに強くなろうと考えて。頑張って。その結果、なんて呼ばれてるか…アナタは知ってる?」

「…〝凡人の剣〟」

「そう。ちなみにアナタも、私と同じ凡人の剣。残念だったわね」

 

まぁワタル自身はそこまで剣を使うスタイルではないのだから、あまりピンとこないが。

 

「そこまで残念ってわけでもない。僕は、君の剣は嫌いじゃない」

「…昔似たような言葉を言われたわ。ブシン祭で無様に負けた時、アイリス姉さまが言ったの。〝あなたの剣が好きよ〟って」

 

ぎゅ、と手を握り締め、唇を噛む。

 

「…あの人には私の気持ちなんてわかりゃしないのよ。私だって生まれつき魔力は多かったし、私なりに努力だってしてきた。…だけど、結局天才には叶いっこない。私は姉さまと同じようにはできなかった。待ってるものが最初から違うんだもの…ホンモノの天才には敵わないのよ」

「…、」

 

力強く拳が握られ、言葉が歪む。

顔は見てないからわからないが、涙が浮かんでいるように見えた気がした。

…なんか言った方がいいのかな。

 

「…今から言うのは独り言だよ。聞き流して構わない」

 

不意に口を開いたワタルに、アレクシアは視線を向けた。

ワタルはあえてアレクシアに視線を合わせずに言葉を紡ぎだす。

 

「…まずさっき言った君の剣は嫌いじゃないって発言。これは本気でそう思ってる。だって今日までほぼ毎日打ち合ってるんだもん。君の剣がどれだけ頑張って練られてきたかいやでもわかるよ。その剣に込められた想いは本物だと思うよ。その努力が秘められた剣を、嫌いだなんて思えない」

「───ッ」

 

剣を褒められたことがないからか、珍しくアレクシアが息を吞んだような感じがした。

 

「僕も凡人の剣かもしれないけど、それでも自分に負けたくないから頑張ってるところもあるしね」

 

凡人だろうと何だろうと、今まで培ってきた技量はウソをつかないと思う。

必死こいて努力すりゃあエリートを超えることもあっかもなってどこぞのサイヤ人も言っているし、天才だからって努力しないやつなんていないだろうし。

 

「だから、ひたむきで、真っ直ぐで、頑張ってる君の剣を、僕は好きだと胸を張って言える」

 

そしてアレクシアの方を見る。

彼女はどういうわけかこっちに目を合わせようとしておらず、ずっと向かいの席の窓を見ている感じだった。

 

「───今日は、一人で帰る」

 

その言葉と列車が停止したのは同時だった。

ワタルはそれに「そう」と短く返事した。

アレクシアは席を立ち、出口の方まで歩いてく。

 

「…ありがと」

 

呟いた短いながらのその言葉。

ちょっとは届いてくれたのかな、と軽く息を吐きながら思うのだった。

 

◇◇◇

 

「いやぁ、こうしてみんなで食べるのも久々ですねぇ」

「ワタルは毎日王女と食ってたからな」

 

翌日のお昼時。

ワタルは久しぶりにシドも交えてモブ友の二人合わせて四人で昼食を食べていた。

 

「結局、王女さまとはどうなってるの? 今」

「おう。それは俺も気になってたぜ、どうなんだワタル」

「別に。まぁまぁ普通で良好な関係を築けてると思うけど」

 

シドとヒョロの言葉にカレーを食べながら応える。

別に昨日のは最悪な別れでも何でもないし。

そういえば今日はなんだかんだで彼女の姿を見ていない気がする。

とりあえずモグモグしていると。

 

「すまない、少しいいかな」

 

ゼノン先生が騎士を引き連れながらワタル達のテーブルに現れた。

 

「ふぁいっ!」

「じぇひどうぞっ!?」

 

速攻で置物になるヒョロとジャガをスルーしつつワタルが反応した。

 

「僕ですか?」

「あぁ。もしかしたら聞いているかもしれないが、アレクシア王女が昨日から戻ってない」

 

初耳である。

あのあと戻っていない? 旅にでも出かけた…という線はないだろう流石に。

仮にも王女だ、そんな勝手は許されないだろう。

となると誘拐でもされた線が濃厚だろうが。

 

「今朝から捜索していたところ…こんなものが発見された」

 

そう言って取り出したのはローファーだった。

片方だけだが、それはアレクシアのものだ。

 

「付近には争った形跡もあってね、騎士団は誘拐事件と見て捜査を始めた」

「やっぱり、誘拐ですか」

「あぁ。そして容疑者を絞り込んでいくうちに、最後にアレクシア王女と接触した人物が浮かび上がった」

 

…ん?

 

「騎士団が君に話を聞きたいそうだ」

 

んん?

 

「協力してくれるね」

 

あれこれ僕疑われてる?

*1
度を超えていると判断したら見えないところできっちりやり返している

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