騎士団員に連れてかれて、ワタルは椅子に縛られ拘束もされ、拷問紛いの尋問を受けていた…というか拷問だこれは。
向こうは一方的にこっちを犯人と決めつけているし、話を聞く気もたぶんない。
恐らくとっとと決めつけて早期解決を図りたいのだろう知らんけど。
疑わしきは罰せよのスタイルだ。
「おら! とっとと吐いて楽になっちまえよ」
そう言って持っている棒のようなモノでワタルを殴りつけてくる。
痛いけどそれだけだ。
相手はチンピラのようなものなので、衝撃を魔力で和らげても気付いていない。
アホでよかった。
「もう一度聞くぜ、アレクシア王女をどこに隠した? あ?」
「知らないもんは答えらんないっすよぉー」
「口の減らねぇガキだな! おら!!」
そう言ってまた拷問開始。
芸がないなこいつら、モブ的には頑張ってる方なのかもしれないが。
これいつ終わるんだろ、と適当に考えながらとりあえず痛がってるふりでもすることにした。
◇◇◇
アレクシアはふと、目が覚めた。
薄暗い室内、窓はなくロウソクが一本だけ火を揺らしている。
灯りはそれしかない。
壁は石造りで、頑丈そうな扉が一つ正面にある。
「…ここ、って」
学園からの帰り道、ワタルと別れてから記憶がない。
身体を動かそうとして見るとガチャリと金属がこすれる音がした。
「魔封の拘束具…自力じゃあ出られなさそう」
結論から言えば、自分は誘拐されたのだ。
だれが何の目的で連れ去ったのかは知らないが、頭に浮かぶ仮説にはどれも確証がない。
アレクシア自身に王位継承権はないが、王女という立場にはまぁまぁ利用価値はあるということを、アレクシアは知っている。
「…ワタル」
不意に彼の名前を呼んだ。
恐らく本人の前では言ったことのない、彼の名前。
彼は無事だろうか、最近できた友達…普段飄々としてる分遠慮なくアレクシアに物申してくる彼に、多少は好感を抱いていた。
でも───
(いいえ、考えるのはやめましょう)
最悪の想像をしてしまうが、頭を振って考えを散らす。
とりあえず状況の把握からだ。
石の壁に鉄の扉、そして燭台に…ゴミのような黒い塊がアレクシアの隣にある。
アレクシアと同様鎖に繋がっているそれはどうやら生きているようだ。
そしてよく見れば、それはボロ布を着た生き物だった。
「…ねぇ、言葉が分かって───」
言葉に反応したそれが振り返る。
化け物だ。
見たこともないような黒く痩せた化け物の首輪に鎖が繋がっていた。
なぜか右腕が長く、反対に左腕が細く、短く、何かを抱えるように胴に癒着してるみたいだ。
とりあえず刺激しないように一度視線を逸らす。
(…見られてる)
化け物の視線を感じる。
しばらくしてじゃらり、と鎖の音が鳴った後化け物が動かなくなる。
横目で見ると眠ったかのように呼吸をしている。
「ようやく、ようやく手に入れた」
不意に鉄の扉が開く。
入ってきたのは白衣の男。
「王族の血王族の血王族の血」
王族の血。
男はそんな言葉を連呼しながら細い針のついた装置…注射器を取り出す。
きっと血を抜かれるのだ。城の医師に何度か抜かれた経験もある…だが、王女を誘拐してまで血を求める理由が思いつかない。
「…聞いてもいい?」
「ん。…ん?」
「私の血を何に使うの?」
「き、君の血は魔人の血。現代によみがえらせるんだ、は、はは」
「まぁ素晴らしい考え」
意味不明だがこの男が正気じゃないということと、何かの宗教に入れこんでいるということは部屋に入ってきた時点で想像はついていた。
「だけどあんまり抜かれると困るわ、死にたくはないもの」
「わ、かってるさ。いっぱいほしいから、ちょっとずつ抜く。毎日、はは」
血に利用価値がある以上すぐには殺さないだろうとあたりを付け、ひとまず従順になることにする。
「こんなはずじゃない全部あの馬鹿どものせいだったんだ」
「そうね。私もバカは嫌い」
だって疲れるから、と口には出さず視線だけその男に向けて。
「僕の研究所を壊してって、オルバが最初に殺られたんだ…そこから次々に…もう少しで僕の研究は完成だったのに!! ちくしょうこの役立たず!! 役立たずがぁっ!!」
不意にキレたと思ったら、男は化け物を蹴っ飛ばし始める。
しかし化け物は特に反応を示さない。
ただ丸まっているだけで、何も動かない。
「…私の血を抜くんじゃないの?」
「そ、そうだ、君の血。君の血があれば出来上がる…」
「痛くしないでね」
ぶん殴りたくなるから。
やがて注射器に血が満たされると、それを大事そうに抱え男は去っていく。
扉の音が閉まると同時、アレクシアは深いため息をついた。
そんなアレクシアを、化け物の瞳が見つめていた。
◇
「おら、とっとと行け」
おおよそ五日後。
ようやっとワタルは解放された。
乱暴に背中を押され、次に荷物がその辺に投げられる。
下着姿だったので適当に服を着直すと見えないところで深い、深ぁいため息を漏らす。
爪と肉の間に針刺してきたりとバリエーションには事欠かない拷問だったな、と思い返す。
だがミドガルの騎士団がこの程度の資質だと…あんまり信用はできないだろうな。
「…尾行は二匹、か」
キバットはワタルが連行される前にカバンから脱出しており拷問してる姿を見ていただろう。
たまーに話し相手になってくれているから暇ではなかった。
そして別に王女誘拐の件は解決したわけじゃない、証拠不十分なだけで容疑はまだ晴れていないのだ。
めんどくせー、と内心で深いため息をまた漏らしながら歩いていると。
「───あとで」
囁くような声色が耳に届く。
そしてささやかな香水の匂い。
アルファだ。
夕焼けに染まったその場所は市民が行きかい、彼女の姿が見えることはない。
だが付いていたはずの尾行の姿もいつの間にか消えてしまっていた。
恐らくアルファが消してくれたのだろうが───今は些事だ。
◇
寮に戻って自分の部屋を開ける。
電気をつけるとまず視界に入ってきたのは椅子に座ってたシドだった。
「や。おかえり」
「ただいま」
シドの言葉に返すとふぅ、とベッドに腰掛ける。
そしてすぐ後、また部屋の扉が開かれもう一人の客人が入ってきた。
それはミドガルの制服に身を包んだアルファだった。
彼女はそのまま優雅に部屋に入ってくると、一つの個装された何かをワタルに手渡してくる。
それは王都の有名店〝まぐろなるど〟の肉厚マグロサンド…いやマグロバーガーというべきか?
「食べるでしょう?」
「ありがとう」
正直この五日拷問ばかりでろくに食べてない。
食事も水と固いパンだけだし腹も膨れないったらない。
「いやー、しかし大変なことになってきたなぁワタル」
パッタパッタと羽を動かしながら窓から入ってくるキバット。
カバンから出てる間はいつでもワタルに呼ばれて変身できるように、上空を気配を消して飛んでいるのだ。
「ホントだよ。ただの偽装恋人がとんだ貧乏くじだ」
「察してると思うけど、このままだと貴方が犯人よ」
もぐもぐとしているワタルに、隣に座るアルファが呟く。
まぁだろうな、と思いながら。
「結局そこそこ止まりだからね、ウチの家系は。見た目もそんなパッとはしないし、ちょうどいいのかな」
「中世サイコーだね、ホント」
ワタルの言葉に返事をしつつシドは椅子から立ち上がりつつ
「それじゃあ僕も一旦部屋に戻るね。ちょこちょこ準備とかもあるし」
「うぃー」
マグロサンドを食べ終え、シドに短く返事をする。
部屋を後にするシドを横目に、アルファから水の入ったコップを渡され一息に飲み干す。
生き返る美味さである。
「シャドウにも共有したのだけど、騎士団は信用できないわ」
「だろうね、教団が入り込んでる?」
「間違いないわ。誘拐も教団の仕業よ、目的は十中八九濃度の高い〝英雄の血〟ね」
「ということは、まだアレクシアは生きている、か」
「死んだら摂れないものね」
とりあえず安否確認は終わり。
ひとまず無事がわかっただけでもいいとしよう。
そんな時不意にアルファがワタルの手に自分の手を重ねてくる。
「…アルファ?」
「どうして貴方が王女さまとロマンスしてるのか、気にはなるのだけど」
「───ロマンスってほどじゃあ」
ただの罰ゲームだし、とちょっぴり視線を逸らす。
ちらり、とアルファの顔を見ると半目になって睨んできてる。
可愛い、などと思っているとそのままベッドに押し倒された。
碧眼がワタルを見据える。
「…私、今日まで頑張ってきたの」
「…う、うん」
「だから、ちょっとぐらいご褒美をねだってもいいと思わない?」
「ご、ご褒美ね───んむっ」
言うや否やアルファはそのままワタルの唇を奪いにきた。
抵抗などする気もなかったが、彼女の口付けをワタルは受け入れる。
「お、おー…」
やがて舌と舌を絡め合うディープなものをする二人を、キバットは羽で見ないようにしつつ見たりなどをしている。
ていうかもう見ている。
互いに顔が離れ、唇と唇から銀色の糸が紡がれ消えていく。
「…満足した?」
「半分は、ね。本当は続きもしたいけど…今は我慢するわ」
そう微笑むとワタルの身体から離れて窓の方へと向かう。
「そろそろ私も行くわね。貴方は休んでおいて」
「了解」
「作戦は追って伝えるから。デルタも呼ばないといけないし」
「デルタも来るんだ」
「えぇ。貴方やシャドウにも会いたがってたわ」
懐かしいとさえ思えてくる。
デルタは四番目に加入した七陰の一人であり、アホの子である。
あのシドが匙を投げたほどのアホの子なのだ。
「それじゃあ、また」
そう言って窓からアルファは飛び出していった。
彼女の気配がなくなると、なんとなく先ほど重ねた唇に触れる。
きっかけはなんだったか。
確かアルファたちが七陰となり、拠点を古都アレクサンドリアに構えて数か月経った頃。
獣人のゼータが発情期を迎えて一人辛そうにしてたのをどうにかしてあげたいと思い近づいて───襲われた(意味深)のが発端だったと思う。
シャドウガーデンはワタルとシドを除くと基本女性しかいない。
故にまぁ必然的にそういう〝欲〟の対象としての視線を感じなかったわけではない。
だから皆自制してこれたのだと思うが…先のゼータがワタルに手を出したことで少しだけ皆のリミッターが緩くなってしまったのだろう。
その日から数日経って他の七陰からもたまに熱い視線を感じたり、寵愛を受けたいと言ってくる子もいた。
そしてワタルはシドのように性欲を切り捨ててなどいないので───あとはお察しである。
幸いなのは七陰とそんな関係になっても彼女たちは今までと同じように接してくれる点である。
(…正直、目的のために色々捨てられるあいつを普通に尊敬する)
七陰もそうだがガーデンの子たちは基本的に美女美少女しかいない。
だというのに我らが友人シド・カゲノ―はそういった余分なものを捨てているという。
だから女性に迫られても何も感じないし反応もない。
「…とりあえず、まずは身体を休めるか」
とりあえず拷問で受けた傷は魔力を用いてすぐに治し、あとは軽くシャワーを浴びてひとまず眠ろう。
シドに倣い自身も魔力で身体を弄りショートスリーパーで短い睡眠である程度の回復はできるが…とりあえず本日は五時間ほど眠りたい。
◇
ワタルが解放されてからおおよそ二日。
シド・カゲノーはこれまでこっそり集めてきた陰の実力者コレクションをピックアップして自室に飾っていた。
一旦自室にあったものは部屋の外に置いてある…シドならすぐに戻せるから問題ない。
「なぁシド」
「ん? なぁに?」
ワインを選び、それに合うグラスもピックアップしていたころ、開けた窓から侵入してピックアップ作業を見学していたキバットが聞いてくる。
「お前さんだって七陰らの好意には何となく気づいてるだろ? なんでワタルばっかに向けさせるんだ? 矛先」
「んー。僕は陰の実力者になるために色々切り捨ててるからね。だいぶ昔から。でもワタルはそんな昔っから僕と友達をしてくれた、たった一人の…そう、親友とも言っていいやつなんだ。せっかく色々あって夢叶えたんだから、いい思いしてもいいかなってさ」
「…なんかよーわからんが、大事なダチだから、アイツには笑っててほしい、的な?」
「まーそんな感じ。それに、僕女心とかわかんないからね。ワタルならみんなちゃんと幸せにできると思うし」
それは流石に言い過ぎじゃあないかな。
キバットは思ったしこの場にワタルがいればそう言ったに違いない。
「それより見てよこの絵、これどの辺に飾ればいい感じになるかな」
「お? おま、ソレモンクの〝お叫び〟じゃん! どうやって手に入れたんだ!? すげー、生のヤツ初めて見たー」
◇◇◇
時間は夜…
ここから更に本来なら静かに時を刻む時間帯に進むときに、一人の女性がワタルの部屋を訪れた。
訪ねてきたのはベータだ。
「スカー様、お迎えにあがりました」
「ありがとう、それじゃシド…シャドウのところにいくか」
たっぷり休んで体力も万全、作戦の概要も大方聞いた。
ベータも合流したし、次はシドもといシャドウの部屋へ向かうだけだ。
歩きながらちらりとベータの姿を見やる。
漆黒のスライムスーツに身をまとった彼女は、幼い頃の記憶から美しく成長している。
成長期ってすごいなぁ、なんてどうでもいいことを考えつつ、シャドウの部屋の扉を開ける。
まず迎えたのは、風だった。
たまたま開けていた窓から吹いたものだが、タイミングいいなおいと内心でツッコむ。
というかシャドウの部屋はいつの間にか模様替えでもしてたのか様変わりしていた。
アンティークランプに高そうなワインに名画…おまけに名画の一つはかの有名な〝ガドヴァルド・モンク〟作の〝お叫び〟ではないか。
どうやって手に入れたんだろう、拾ったんかな。
「時はきた。今宵は陰の世界」
それがシャドウの第一声だ。
グラスに入れたワインを嚥下し、なぜかテーブルに立ってるキバットも小さいグラスに入れたワインを飲んでいる。
いないと思ったらここにいたんかい。
「月の隠れた今宵は、まさに我らにふさわしい世界ですね」
ベータが言う。
まあ漆黒は嫌いではない、やはり夜寝るときは真っ暗じゃないと。
「───それじゃあ改めて確認しようか」
今度はスカー。
彼に言われベータはこほん、と言葉を紡ぎ出す。
「準備が整いました。アルファ様の命により近場にいる行動可能な者は全て王都に集結させました。その数は百十四人」
「ふむ」
シャドウはそう頷く。
ガーデンの存在は認識しているが内容や全体の総人数までは認識してはいないのできっと〝え? そんないるの?〟とか思っているのだろう。
ベータは続ける。
「今回の作戦は王都に点在する教団のフェンリル派アジト同時襲撃、並行してアレクシア王女の魔力痕跡の追跡、居場所が判明次第確保に入ります。作戦指揮はガンマが、現場指揮はアルファ様で、私ベータはその補佐を。イプシロンには後方支援を担当し、先陣はデルタが切ることで合図とし───」
「その事なのだが…スカー、招待状だ」
不意にシャドウがベータの言葉を遮り、一枚の手紙を取り出した。
テーブルの上に置いてあった、封筒に入った手紙だ。
シャドウはソレをスカーに向かって投げ渡す。
受け取ったスカーは頭に疑問符を浮かべながらも手紙を開いた。
ベータもソレを覗き込む。
書かれていたのはあまりに拙い、幼稚な誘い文句。
スカーは聞き返す。
「…これをどこで」
「学校で騎士団の人に渡されてね。多分ワタルを拷問してたやつの一人だと思う」
拷問、という言葉を聞きベータは顔を怒りに染める。
そんなベータの頭をスカーは優しく撫でると。
「…それじゃあ、プレリュードとやらは僕が奏でさせてもらおうかな」
「うむ。構わないか? ベータ」
「はい、そのように手配を」
「僕はアルファと合流する。ベータはスカーと」
「わかった」「はいっ」
「今宵…世界は我らを知る」
闇夜の中で、シャドウの呟きが耳に聞こえた。
◇◇◇
手紙に書かれていた場所はアレクシアが誘拐されたと場所に近い林道だった。
そこにスカー…もといワタルは学生服で現れる。
ベータは少し離れた位置にある林の中に身を潜め、彼の様子を見守っている。
「っと…」
その時ワタルに向かって何かが投げられた。
片手で受け止めるとそれはアレクシアの靴だ。
「よう色男、王女の靴なんか持って何してんだ?」
「あーあ。魔力痕跡ばっちり残ってんな、犯人はお前だ、ワタル・クルムズ」
林道から二人の男が姿を現す。
そいつらはワタルを拷問した騎士団の二人だった。
「…そういうことか」
「あぁ。そういうことだ。さっさと口を割れば、こんなことにならなかったのによぉ」
悪びれもせず、一人の男が剣を抜いてニヤニヤと下品な笑みを浮かべている
「お前も痛い思いしなくてすんだのになぁ」
もう一人も剣を抜くと無造作にワタルに向かって間合いを詰めてくる。
(…なんて愚か)
ベータは胸中で呟く。
騎士団の二人はベータの存在に気づくことなく、ワタルに向かって剣を構えた。
「ワタル・クルムズ、王女誘拐の容疑でお前を逮捕する」
「抵抗はすんなよ? しても無駄だけどなぁ!!」
一人がワタルの腰目掛けて剣を突き出してきた。
だがその剣は貫かれることなく、ガキン! と何かに嚙まれたかのように遮られる。
「…は?」
「───残念れひは」
剣を受け止めていたのは、コウモリのような変な生き物だった。
あまりに突然の出来事に男は思考が一瞬フリーズし───ワタルに蹴っ飛ばされた。
「キバット」
「あいよーっ!」
同時に剣を離したキバットと呼ばれたそのコウモリはワタルの右手に嚙みつくと、そのまま腰に現れた赤い止まり木に自らをセットする。
「変身」
刹那、ワタルの姿は透明になった瞬間弾け飛び、キバの鎧をその身に纏う。
「な、なんだその姿…びゃっ」
一閃。
キバが手刀を繰り出すと男の首がごとりと落ちた。
「て、テメェ! 何しやがった───」
言い終わる前に、剣を握っていた男の腕が掴まれる。
ぐしゃり、と男の腕が潰れた。
力が入らなくなった腕から、からん、と剣が零れ落ちた。
「い、ぎぃぃぃ!? お、れの! おれのうでぇぇぇぇ!?」
パニックになりながら距離を取ろうとするが、キバの腕はさらに男の胸倉を掴む。
男はどうにか勇気を振り絞ってキバを睨むと
「こ、こんなことして、騎士団にこんなことしてただで済むと思うなよ…! 俺たちが死んだらお前が疑われる…! お前は終わりなんだよ!! ははっ、ざまぁみやがれ!!」
「そうだね。明日になれば騎士の死体は二つ見つかる…でも安心してくれ」
「…は?」
「ここから先は、君たちには関係ないことだから」
胸倉を離して、再びの手刀一閃。
またごとりと男の首が落ち、今この場に二人の騎士が物言わぬ骸と化す。
キバの鎧の変身を解除した時、そこにいたのはワタルの姿ではなく、スカーとしての姿だった。
漆黒のボディスーツに漆黒のブーツ…出で立ちはシャドウを参考にしたらしい彼は、唯一コートをしていない。
だがスーツにフードがあり、それを深々と被っているその姿は凛々しくもある。
(あぁ、スカー様…シャドウ様とはまた違うその美しさと凛々しさ…なんて神々しい)
忘れないように自筆のシャドウ様&スカー様戦記メモを取り出すとシュババとスケッチ。
そしてその隣に今日の語録を添えて完成。
その間五秒の早業だ。
「さて。行こうか、ベータ」
「は、はぁい、今行きますぅ!」
スケッチをしている間に響いた轟音を合図に、ワタルことスカーの声がベータを現実に引き戻す。
慌ててメモを胸の谷間に押し込むとベータは彼の後ろを追いかけるのだった。
余談だが。
ベータの自室はシャドウとスカーの絵画と語録で埋まっており、寝る前に彼らの戦記を執筆することが何よりの楽しみでもあったりする。
無論、そのことをシドとワタルは知らない。