陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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R18版思いのほか希望されてて笑う
アンケート取っておいてなんだけどマジでいつ出るかは未定だけど前向きに考えはします
きっかけのゼータ編くらいは書きたいね

っていうかこの数日でお気に入り増えすぎでわ(

前も言いましたが基本好きに書いてるので…


6 王都襲撃の夜

「何だ、何なんだお前ぇぇぇっ!」

 

断末魔と共に斬り裂かれる男。

辺り一面はもう血の海としか表現できないくらい、夥しい死体の山

〝それ〟はいきなり壁をぶち抜いて現れると、是非を問う間もなく一方的な虐殺を開始した。

最初こそ応戦しようとしたが、挑むたびに息をするかの如く叩き斬られては戦意などなくなるというもの。

 

「俺たちが、俺たちが何をしたんだよぉ!」

「あんたに何もしてないだろぉ!?」

 

男の言葉に〝それ〟が振り向いて笑みを浮かべた。

逃げ出そうにも、出口はそいつの後ろにある。

逃げるには、どうあっても前に出ないといけなくて。

闇夜の中に浮かび上がる狂気的な嗤いが脳裏に焼き付いて離れない。

 

「た、たすけっ」

 

言葉の途中で男の身体は縦から真っ二つに両断された。

それは文字通り、頭から股下までさっくりと分かれ、断面からは血が吹き出し地面を染めていく。

見てくれは女性のはずなのに、やってることはまさしく悪魔と言っていい。

 

「…もう獲物はいなそうなのです」

 

誰にでもなく呟くと悪魔は剣を〝伸ばした〟

比喩でもなんでもない、本当に剣を伸縮させたのだ。

壁を突き破るくらいに伸びたその剣を、悪魔は大きく振りかぶり

 

「や、やめろっ!」

 

建物ごと全てを斬り裂いたのだった。

 

◇

 

「始まったわね」

 

建物が切断され倒壊していく様をアルファは時計台の上から眺めていた。

眺めているのだが…はぁ、と短いため息をつき

 

「あの子はいつもやりすぎよ、デルタ」

 

とはいえやってしまったら仕方ない。

金髪を靡かせて、アルファは時計台から王都全体を見回した。

慌ただしく動いている…予定通り始まったのだ、全てが。

 

「だが、デルタのおかげで動きやすくなるのも事実、だろう」

 

不意に自分に投げかけられた言葉に、アルファは振り向いた。

そこにいたのはシャドウだった。

闇夜の中に、黒いコートが風に揺れている。

 

「シャドウ、こっちに来ていたの?」

「うむ。ノクターンは任せてきた、我が相棒に」

 

彼がそう言うのなら大丈夫だろう。

そして確かに、周囲の被害に目さえ瞑れば揺動としてデルタの働きは最高だ。

 

「シャドウ、そろそろ私は動くわ。貴方はどうする?」

「我はここにいよう。急に我が現場にいては、場が混乱するだろうしな」

「わかったわ。それじゃあ」

 

そう言うとアルファは金髪を翻し、時計塔を飛び降りていった。

シャドウはそんなアルファを見送りつつ

 

(…やっぱ高いところから見下ろすって、憧れるよね)

 

うんうん、と満足げに腕を組んで頷く。

概要は軽く聞いてはいるが一応自分はトップの立ち位置。

それに仕事とか奪わない方がいいだろうし。

 

(…多分もう少ししたらワタルが王女を助けに行くかな…ちょっとそれだけ様子見に行こ)

 

王女が監禁されてる場なんて何かが起こるに違いない。

ただ流石にワタルの活躍を横取りする気もないが…二段構えぐらいなイベントとか起きないかなぁ、などと考えながらシャドウはまた街を見下ろした。

 

◇

 

「私たちも、さっさと任務を片付けましょうっ」

 

一方で街にて襲撃を指揮しているガンマもまた、目の前の敵と戦っていた。

スライムで大太刀を精製すると襲い来る三人の教団員を真横から叩き斬る…が、勢い余って近くの柱に大太刀が突き刺さってしまった。

チャンスだと思い別の団員がガンマに攻撃しようとするが…

 

「ふんぬーっ…っ!」

 

あろう事かガンマは突き刺さった大太刀ごと柱を引っこ抜いた。

華奢な外見からは想像もつかないようなパワーに、団員は恐れ慄く。

ガンマは敵を見据えて、大太刀(柱付き)を振り上げて。

 

「おりゃあーっ!!」

 

柱の部分で叩き潰すように振り下ろした。

哀れ、団員は柱の餌食。

はふぅ、と一息ついたところに、突き刺さった大太刀部分に誰かが飛来した。

 

「ガンマはドジなのですー!」

 

そう言うのは少し前に建物をぶった斬ったデルタだった。

彼女は笑みを浮かべながらガンマに言うとまた接近してくる教団員に向かって跳躍する。

着地をしながら両手に爪を精製すると獣人特有の素早さで瞬く間に教団員を斬り裂いた。

しかし教団員の中にも多少タフなモノもいるようで、その一人の大柄な教団員がデルタを斬ろうとその戦斧を振り下ろす 。

しかしデルタは軽やかにその一撃を回避し、再び剣を精製するとその大柄な教団員に一撃を叩き込み、ダウンを奪った。

 

「ふふーん! 楽勝なのですーっ!」

 

仕留めたと〝思い込んだ〟デルタは背を向ける。

だが浅かったのか、その大柄な教団員はまだ生きていた。

油断するデルタにその戦斧を振り下ろそうとし───トスッ、と頭に矢が突き刺さった。

 

「獲物を仕留めたかどうかは、ちゃんと確認しないとダメですよ」

 

矢を射ったのはベータだった。

傍にはスカーもいる。

 

「わ、わかってるのです…」

「しかし、派手にやったね。デルタ」

 

なでりなでり、とデルタの頭を撫でるスカー。

むふー、と得意げな顔をするデルタを見つつ、スカーは背後から接近してくる教団員を見逃さない

攻撃を仕掛けようとしてくるそいつらに向かって、スカーも足にスライムソードを精製し、薙ぐように斬り払う。

 

「流れるような動き…流石ですスカー様」

「ありがと。君の弓も良かったよ」

「勿体なきお言葉!」

 

嬉しそうにするベータを尻目に、スカーの元にパタパタとキバットが舞い降りてくる。

彼の手に降りたキバットは

 

「アレクシアの居所がわかったぜ、ワタル」

「サンキューキバット。…そんなわけで、僕はアレクシアの方に向かうね」

 

アレクシア、という言葉を聞くと少しだけムッとしたようにベータが言う。

 

「お言葉ですが、わざわざスカー様が出向くほどでは…」

「かもしれないけど…一応今は〝恋人〟だからね」

 

ずがーん、とベータの頭に衝撃走る。

「それじゃあ後で」とこの場を歩き去るスカーの後ろ姿をベータは見送ることしかできない。

いや報告でそんな状況になってるって聞いてはいたけどやっぱり実際言葉にされると敗北感もあるというか側から見ると仲良さそうにしてるあの王女ムカつくとか思ってるわけでは決して

 

「大丈夫なのです?」

「うぇ!? う、羨ましくなんかないんですからーっ」

 

デルタの言葉に我を取り戻したベータはそのままぴゅーっと走ってしまった。

疑問符を浮かべながらデルタはガンマを見やると彼女は微笑んでくる。

とりあえずデルタも笑うことにしたのです。

 

◇◇◇

 

何やら外が騒がしい。

アレクシアは数時間振りに目を開ける。

ここにやってくるのは世話係の女性を除けばあの白衣の男しかおらず、四肢も拘束されているためやることが何もない。

ぶっちゃけて言えば暇である。

横の化け物とも仲良くしている、相互不干渉という形で。

何やら外の喧騒はどんどん大きくなっているみたいで、アレクシアは救助を期待した。

 

「いっそ派手に壁ぶち破ってくれないかしら」

 

理由のない呟きから最高にストレスがマッハだというのがわかる。

ふぁっきゅー。

特に意味もなく、しかし動かなすぎるというのも体に悪いのでガチャガチャと鎖に繋がる手足を軽く動かす。

 

「…! ごめんなさい、起こしたかしら」

 

鎖の音に反応したのか、同居人の化け物が顔を上げた。

 

「だけど起きてた方がいいわ。そっちの方が楽しいから」

 

返事は来ないとわかっていてもアレクシアは言葉を漏らす。

退屈は人をおかしくする、だから無理にでも良い方向へと考えないと。

それから少しして慌ただしく扉が開けられた。

白衣の男が入ってきた、それに何やら大きめな赤い何かが入った注射器を携えて

 

「ちくしょう! ちくしょう!!」

「あら。ごきげんよう」

「もう少しなのに!! もう少しなのに!!!!!」

 

いつにも増して男は発狂している。

いつも発狂してるが、今日はさらに、だ。

 

「奴らが、奴らが来やがった。もうダメだ、おしまいだぁ…」

「抵抗は無駄よ。拘束を解いてくれれば、貴方を助けてもらうよう頼んであげるわ」

 

頼むだけでどうなるかは知らないけど、と胸中で愚痴る。

 

「奴らが見逃すハズがない、皆殺しだ、皆殺しなんだっ!」

「騎士団は無用な殺生はしないわ、抵抗しなければ命まではとらないはずよ」

「騎士団なんてどうでもいい! 奴らは、皆殺し…! 皆殺しなんだよ!」

「…騎士団じゃない?」

 

なんだか話が嚙み合わない。

この男が錯乱し、発狂してるのはいつものことだと思うのだけれど。

てか同じ事しか言わないなこいつ。

 

「どっちにしろもうおしまいよ。諦めなさいな」

「いやだ。いやだいやだいやだ!! あれさえ完成すれば。…そうだ、試作品は作ったんだ、これなら出来損ないでも役に立つ」

 

血走った視線を化け物に向けながら白衣の男は大きめな、赤い液体のは入った注射器を持ち、化け物の腕に押し付けて

 

「…やめた方がいいわ。なんだか嫌な予感がするの」

「さぁ見せてみろ───ディアボロスの片鱗をぉぉ!!!!!」

 

先の忠告は割と真面目だった。

だが当然聞き入られるはずもなく中の液体は化け物に注入されていく。

刹那、化け物が変異した。

筋肉は発達し、大きく身体が膨張していく。

太く長かった右腕はさらに大きく肥大化し禍々しい爪が生えていた。

 

「オォォォォ───!」

「は、はははは! 素晴らしい!! 素晴らしい──」

 

ぐしゃり、と。

膨張した身体は拘束具を容易く弾き飛ばし、白衣の男は自由になった化け物の右腕であっけなく潰された。

 

「うわぁ、ピザみたい」

 

具体的にはその生地にかけられるケチャップソース。

だから言ったのに、と心の中で愚痴りながらここからどうしようと考える。

巨大化した化け物は今度はゆっくりとアレクシアの方を見た。

 

「…バカの巻き添えで死ぬのはごめんなんだけど──!」

 

振るわれた右手は意外にもアレクシアではなく、アレクシアを拘束していた台座を破壊してくれていた。

流石に衝撃は回避できずアレクシア自身は壁に叩きつけられてしまったが幸いにも目立ったケガはなく、五体満足だ。

化け物はそのまま壁を破壊してどこかへと歩いて行ったようだ。

 

「…助けてくれたの?」

 

一緒そんな考えが過ぎる。

まさかね、と結論付けてアレクシアはソースになった白衣の男から鍵を探し出すと手足に付いていた鎖のカギを外す。

魔封の拘束を外せば魔力が練れる。

とりあえずずっと寝たきりに近い状態だったから、身体を軽く動かして調子を整えると化け物が破壊した壁から外に出た。

外に出ると薄暗い廊下に出た。

見える範囲にはおそらく化け物に捻り潰されたであろう兵士が折り重なって死んでいる。

 

「この剣、借りるわよ」

 

遺体の一つからミスリルの剣を拝借する。

安物だがないよりマシだろう。

どうせだから靴も借りよう、返す予定はないけれど。

 

「もう大丈夫だ、アレクシア」

 

不意に聞こえてきた、いけ好かないあの声。

言葉のほうに振り向くと、そこにはあの男がいた。

 

「───ゼノン先生」

 

◇

 

(一体何が起こってるって言うの…!?)

 

アイリス・ミドガルは赤い髪をなびかせながら王都を走っていた。

最初の報告は建物が斬れた、という耳を疑うものだった。

しかし半信半疑で現場に向かえば本当に建物が斬れていて、そこからどんどん新たな報告が届く。

 

王都で大規模同時襲撃事件が発生している。

 

その結論にたどり着くのに時間はかからなかったが、襲撃先がまるで統一性がないのだ。

計画的な犯行で間違いはないのだが、目的がわからない。

 

「不必要な外出は控えて! 家に戻って!!」

 

出歩く市民に家に戻るよう呼びかけながら現場へと向かう。

騎士団に緊急出動がかかり、要人の避難も始まっている。

こんな深夜にも拘らず、やはり好奇心は勝ってしまうもので野次馬に向かう市民も少なくないのだ。

 

「化け物だぁ! 応援をっ!」

 

悲鳴がアイリスの耳に届く。

場所は遠くない、方向を変えて悲鳴のところに向かう。

そこには文字通り、化け物の姿があった。

 

醜悪な、巨体の化け物

 

肥大化した右爪をふるい、騎士たちを物言わぬ肉塊に変えていく。

 

「な、なによこれ…くっ!」

 

呟きつつも、アイリスは動く。

アイリスは剣を抜き放ち、化け物の身体を一閃した。

倒れ行く化け物を尻目に、アイリスは騎士団たちに声を掛けた。

 

「怪我はない?」

「あ、アイリス様っ! ありがとうございますっ…!」

 

アイリスは騎士たちを見やり、生きてる者は無傷だと確信する。

そう、〝生きてる者〟は無傷だ。

 

「…八人、殺られました」

 

苦い顔で一人の騎士が呟く。

報告を受けてアイリスも目を伏せた。

 

「遺体を回収して離れてください。あとは隊長に報告を───」

「アイリス様っ!!」

 

不意に一人の騎士がアイリスの背中を指差して叫んだ。

何事か、と思い振り向きながらもう一度剣を構えるとそこには。

 

「なっ、再生してる…!?」

 

うねうねとさっき斬り落とした断面から化け物が再生している。

数秒もしないうちに化け物はまた五体満足の状態で咆哮する。

その叫びには、僅かながら悲しみのようなものが混じっているのだがその場の者たちは気づかない。

化け物は右爪を振り上げてアイリスへと攻撃してくる。

ガキン! とアイリスはその一撃を受け止め、魔力を込めて弾き飛ばす

そのまま反撃とばかりに何度か化け物を斬りつけるが、いずれも決定打にはならない。

 

「所詮化け物…でも、時間はかかりそうね」

 

アレクシアが気にはなるが、この化け物も放っておく事はできない。

アイリスは時間をかけてでも化け物を撃破することを選んだ。

いつしか雨が降り出していた。

雨の一つが化け物の血に触れると白い煙となっていく。

手に持つ剣にありったけの魔力を込めて、目の前の化け物に振り下ろす…その時だった。

 

ガキン、と剣が弾かれた。

先程の化け物の一撃を受けた時とは違い、その衝撃はアイリスの腕を痺れさせる。

飛んでいく剣を尻目に、アイリスは己の剣を弾いた乱入者を睨んだ。

そして乱入者もまた、アイリスの視線を受けて一瞥する。

少しの沈黙…先に口を開いたのは乱入者だ。

 

「それがあの子を傷つけてると、何故気づかない」

 

漆黒のボディスーツを纏った女だった。

顔は髪に隠れよく見えないが、声は若い。

 

「…何者だ」

「アルファ」

 

アイリスの問いかけに女は返した。

そうするとアルファと名乗った女はアイリスを背に向けて化け物の方に歩き出す。

 

「待て! 何をするつもりだ、騎士団に敵対するというのなら…!」

「───ふふ」

「! 何が可笑しい…!」

「これほど滑稽なことがあるかしら。何も知らぬ愚か者が、敵対などとおこがましい」

「なんだと…!」

「客は客らしく、舞台を眺めていればいい」

 

アイリスの魔力が膨れ上がる。

周囲の雨をかき消すほどの魔力の奔流を、アルファは一瞥すらせず化け物に歩み寄る。

 

「可哀想に。痛かったでしょう?」

「──オ」

「もう苦しむことも、悲しむこともないわ」

「オ、ドォ…」

「だから…もう泣かないで」

「──オドォーザマァ…──!!」

 

瞬間、アルファは化け物の体を両断した。

その自然な動作に、誰も反応できなかった。

殺気も何もなく、ただ斬られるのが当然の結果と言わんばかりに。

巨体が倒れる、白い煙を上げながら小さく萎んでいき、少女ほどの大きさに戻っていた。

その時、からんと一つのペンダントが零れ落ちる。

それには写真が納められていた。

一組の父と娘が、仲睦まじく写っていた写真だった。

 

「願わくば来世で、安らかな人生を」

 

煙の中で、アルファがつぶやくとその場から跳躍し、姿を消した。

アイリスはそれらの光景を見ていることしかできなかった。

遠くから雷の音がする。

雨が体を濡らし、僅かに身体を震わした。

この震えが寒さから来るものなのか、それとも別のから来るものなのか、今のアイリスはわからなかった。

ただこの騒動の中心に、妹がいるような、そんな予感だけはした。

だからアイリスは走り出す。

 

「…無事でいて、アレクシア」

 

◇

 

薄暗い道をゼノンと共に練り歩く。

アレクシアの視線はゼノンを常に視界に入れて、警戒も怠らなかった。

 

「君が無事でよかったよ、君のお姉さんも無事を喜んでくれるだろう。外に馬車がある、それで送ろうじゃないか」

「随分準備がよろしいのですね。なんで私の居場所が分かったんですか?」

「君の魔力を感じたからさ。そうしたらいきなり化け物が出てきて驚いてね。相手をいったん騎士団に任せ、その隙に急いで来たんだ」

「───そうですか。でもね、先生。私、さっきまで魔力を封じられていたの。痕跡を辿ったとして、こんなピンポイントに見つけられるとは思えない。いくらなんでも早すぎる」

 

魔力が練れるようになったのはほんのついさっき。

しかしゼノンは迷うことなくアレクシアのほうへ歩いてきていた。

そう───まるでこっちの居場所を最初から把握していたかのように。

 

「…本当に私を助けに来たんですか?」

「───」

 

ゼノンは大きく息を吐き…そして醜悪な笑みを浮かべた。

 

「やれやれ。面倒な王女さまだね。大人しくついてくればいいものを。ああそうさ、ここは私の施設だからさ。私が、あの男に投資した。それだけのことさ」

 

ようやく…アレクシアはこの男の素顔を見れた気がする。

そして自分の見る目はたぶん、間違ってない。

一歩一歩下がりながら距離を取る。

恐らく外に通じる階段がゼノンの後ろにあるのが難点だが。

 

「一緒に来てもらうよアレクシア。君の血があれば、私はラウンズに内定する。剣術指南なんかというくだらない地位から解放されるんだ」

「どいつもこいつも血の話。それにラウンズ? 変人の集まりか何かかしら」

「教団に選び抜かれた十二人の騎士、〝ナイツオブラウンズ〟…地位も、名誉も、富も…すべてが約束される…! 実力はすでに認めれているが、あとは実績だけ。それも君の血と研究成果で手に入る」

「…頭可笑しいんじゃないの?」

「本音を言えば、アイリス王女の血が良かったのだが…まぁ君でもいいさ」

 

その言葉が、開戦の合図だった。

 

「ぶっ殺すっ!!」

 

半ば頭に血が上ってしまった一撃は、流石に容易く防がれた。

 

「失礼、君は姉と比べられるのが嫌だったね。怖い顔だ、猫被ってたのかい?」

「それはお互い様でしょうっ!」

 

そのまま何度も剣と剣が火花を散らす。

がいん、がいんと鉄と鉄がぶつかる様は、傍から見れば互角といっていいのだろう。

だが実際はそうではない、アレクシアは遊ばれていると感じていた。

こっちが苦い顔を浮かべているのに、対するゼノンは余裕の表情、汗一つ掻いてない、ムカつく。

 

「はは、さすがは私が教えただけはある。けど、安物の剣ではね」

「あら。達人は剣を選ばないって言うじゃない」

「達人ならそうさ。でも、君は凡人だ」

 

ぎり、とアレクシアは歯を食いしばった。

頭に血が上るのがはっきりとわかる。

泣きそうになりながらもその感情を怒りでかき消しながらゼノンを睨む。

 

ああそうだ、わかっているのだそんなこと。

凡人なんかが天賦の才を持つものには敵わないということぐらい。

でも、それでもアレクシアはアイリスの剣をずっと間近で見てきたのだ。

ただ漠然と剣を振っていたわけじゃない、姉を目標に足りないモノを埋めるようにただひたすら努力して。

だから、今ならば。

 

「だったら見てなさい…!! 本当に私が凡人かどうか!」

 

言葉と共に魔力を乗せる。

安物の剣でも、多少は持ってくれるハズ。

そのまま一息に踏み込み、思い描く姉の一撃を彷彿とさせる一閃を繰り出した。

初めて、ゼノンの顔から余裕が消えた。

ゼノンは剣に魔力を込めてアレクシアの一撃を受け止める…しかし、防ぎきれずゼノンの頬に傷ができた。

つぅー…と頬から血が垂れる。

 

「へぇ…これは驚いた」

「私を侮ったこと…後悔させてあげる」

 

ゼノンは軽く流れた血を拭うと、再び余裕の笑みを見せる。

その余裕っぷりが気に入らず、アレクシアはまた顔を怒りに歪ませた。

 

「…何がおかしいの」

「いや何。驚きはしたが所詮は猿真似…本物には遠く及ばない」

「…言ってくれるわね」

「そのお礼というわけではないが…私も少し本気を見せよう」

 

ゼノンが剣を構え直す。

そして、はっきりと纏う空気が変わったのが肌でわかった。

魔力が、より濃密に、鋭く。

 

「一つ教えておこう。私は今まで部外者の前で本気を出した事はない。今から見せるのが本当の私の剣であり、次期ラウンズの剣だ」

 

大気が震える。

ゼノンが繰り出した一撃は間違いなく見た事もない一撃だった。

反射的に受け止めたのも束の間、アレクシアの剣は真ん中からあっけなく折れてしまった。

同時に、心も折れてしまったかもしれない。

天才と凡人の圧倒的なまで差が、そこにはあった。

 

「…うそ」

 

手からこぼれ落ちる破損した剣を見ながら、アレクシアは呟いた。

格が、違う。

どこか、記憶の遠くで姉と一緒に剣を振るっていた時の記憶が、走馬灯のように思い出される。

 

「君は、〝姉のようにはなれない〟」

 

その言葉が、ひどくアレクシアにのしかかる。

自分には負けないつもりだった。

アイツが言ってた通り、負けてはないと思ってた。

だけど、現実はとてもザンコクで。

 

「一緒に来てもらうよ、アレクシア」

 

アレクシアの瞳から透明な雫がこぼれ、頬を伝う。

結局のところ、自分みたいな凡人は天才には敵わないんだ。

諦めかけたその時だった。

 

カツ、カツ、カツ、と誰かが階段を降りる音がした

 

思わずそちらに視線を向けて…アレクシアは目を見開いた。

こちらに降りてくるその人は、死んだと思い込んでたあの人だったから。

カツカツ、と男は歩みを止めない。

やがて階段を降り切り、彼はアレクシアを視界に入れて。

 

「元気そう、とはいかないかな。とりあえず…助けにきたよ、アレクシア」

 

まるでいつもと同じように、ワタルはアレクシアに向かって微笑むのだった。

そして今度はゼノンへ視界を向ける。

 

「そのツラが本性なんです? ゼノン先生」

「…君がここに来たことも驚いたが。敢えて聞こう、何しに来たんだい、ワタルくん」

「言ったじゃないですか、アレクシアを助けに来たんだって」

 

ツカツカと特に気にするでもなく、ワタルはゼノンの隣を通り過ぎると、アレクシアの隣に立つ

まるで眼中にないと言わんばかりのその態度に、ゼノンは少しイラついた。

 

「彼女を助けに来たのなら心配はいらない、私がアレクシアを保護するからだ」

「女泣かしてるようなやつの言葉を信用する気はありません。それに、おばあちゃんから教えてもらってないんですか」

 

ワタルは片膝を地面につけながらアレクシアの涙を右手で拭う。

いったい何を言っているのか、ゼノンは理解ができない。

そもそも、なぜここまで平然としていられる…?

涙を拭い終わると立ち上がり、優しくアレクシアの頭を撫でて、ゼノンの方へ向き直る。

 

「男がやっちゃあいけない事が二つある。食べ物を粗末にする事と───女の子を泣かせる事だ」

 

そのまま鞘から剣を抜き放ち、ゼノンへと突きつけるのだった。

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