Fate/kaleid night プリズマ☆イリヤ 3rei!!   作:388859

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三日目~VSバーサーカー/もう、あなたが戦わなくても良いように~

ーーinterlude3-5ーー

 

 

 冬木に残る、最後の鏡面界。 その高層ビルの屋上では今、三人の少女達による決死の戦いが行われていた。

 

Anfang(セット)ーー!」

 

Zeichen(サイン)ーー!」

 

 凛とルヴィアの詠唱。 それで魔力の込められた宝石は一気に弾丸となり、敵へ散弾銃のように炸裂する。 例え相手がいかなる英霊であろうと、魔術協会総本山である時計塔で 、今期首席として名を馳せる二人だ。 その二人ならば、常識の外に居る英霊でも気を逸らす程度の事は可能ーーのハズである。

 が。 人間ならば受けた途端、蜂の巣になるであろう散弾銃では、

 

「■■■■■■■■■■■■ーーーーッッ!!!!」

 

 その山を切り崩すことは、不可能。

 撃ち込まれた箇所から出る土煙を、その手で払いながら咆哮するのは、最後の英霊となるバーサーカーだ。

 バーサーカー。 背丈はそこらの家屋の天井と同程度に、まるで鬼神のような婆娑羅(ばさら)髪、黒く塗り潰された岩のような肌。 腕は羽が伸びているようにも見えるが、その実鋭利な斧そのもの。

 その名の通り狂戦士を意味するが、凛達はバーサーカーをさほど強い相手だとは思っていなかった。

 何せ、只でさえ意識が飛んで戦っている黒化英霊達だ。 そこに狂化まで入れるとなると、最早暴走機関車と同じだろう。 故に、傷など気にしないだろうが、こちらの攻撃を避けるという思考回路も無いハズである。

 まぁ、その特攻が命取りになる可能性もあるが……少なくとも、三人で動けば的はバラけ、そして直線的な動きしかしないなら狙いも容易だ。 あとはそこを斉射でも、宝具でも何でも叩き込めば、簡単に倒せる。

 だがアサシンの件もある。 何があるか分からない、だが全力でやれば勝てない相手ではない。

 

砲射(シュート)!!」

 

 そう、思っていた。

 美遊はテニスのラケットを振るうかのように、サファイアから砲撃を放つ。 青い砲弾は凛とルヴィアよりも更に大きく、それだけ威力も高い。

 が。 あろうことか、バーサーカーはそれを突進することで突っ切る(・・・・・・・・・・・)と、その豪腕を美遊目掛けて振り抜く。

 

「、サファイア!」

 

 呼び掛けはそれだけで十分。 美遊は物理保護に回していた分の魔力のほとんどを、身体強化に費やし、美遊はギリギリのタイミングでその豪腕をかわす。

 直後、空間を切り裂いたのは轟音。 バーサーカーの拳によって、アスファルトの地面はいとも簡単に隆起すると、その破片を撒き散らした。

 

「美遊様」

 

「分かってる」

 

 ひらりと着地した美遊の頬には、一筋の傷が走っている。 先の破片で切れたのだろう、それは治癒促進ですぐに元通りになったが、事態は好転しない。

 強い。 腕力だけではない。 この英霊が何処の英霊かは知らないが、その体は岩というよりは山、いや大陸そのものか。 こちらの攻撃など触れる前に弾くその体は、やはり自分達には分からない神秘で編まれた宝具なのだろう。

 つまり、バーサーカーにはこちらの攻撃が届いていない無敵の状態。 更にはこの狭い屋上だ、故に先程のように馬鹿げていながら最短距離で詰められる。

 美遊が居る場所から向こう側、凛が苦虫を噛んだような表情を作ると、

 

「このままじゃ埒が空かないわ……ったく、英霊ってのはどいつもコイツも規格外すぎんのよ! よくもまぁ解呪(レジスト)もせずに、ホイホイ攻撃を消し飛ばしてくれるわ!」

 

「美遊、これ以上は私達の宝石が持ちませんわ! 次のアタックで決めますが、いけますわね!?」

 

 対岸のルヴィア達に、こくり、と頷く美遊。 凛とルヴィアは一級の魔術師ではあるが、英霊に届く攻撃魔術は、やはり限りがある宝石しかない。 一応魔術刻印に刻まれた呪い(ガンド)もあるが、一工程(シングルアクション)の魔術ではどんな英霊にも届くまい。

……それに。 美遊は懐にあるクラスカードを手に取ると、今度こそ物理保護などに回していた魔力を全て身体強化に回す。

 それに、昨日の疲れも相まって、動きが遅くなっているのが自分でも分かる。 何分経ったかは知らないが、次で決めなければすぐに勝敗は決まる。

 だから。

 

「……!」

 

 その前に、決める。

 獣のように屈む。 次の瞬間には、膨大な魔力による噴射で、美遊の身体は疾走していた。 流星のような軌跡を描いた美遊はそのままバーサーカーの懐へ行く……かと思いきや、すぐに方向転換して跳躍。 その下をバーサーカーの右腕がかすると同時に、美遊はその右腕を足場に更に踏み込む。

 だが、バーサーカーの手はもう一つある。 巨岩を削り取ったような左腕が、空中の美遊を薙ぎ払わんと迫るーー!!

 

「させるかっての!! Gewicht(重圧)umzu(束縛)Verdoppelung(両極硝)――――!」

 

 しかし、美遊は一人ではない。 バーサーカーの背中辺りに何かがコツン、と触れるなり、凛が詠唱。 瞬間、周りの空気が、バーサーカーをそこに押し留めた。

 黒曜石を使った、一種の拘束魔術。だがそれだけでは、あの化け物には足りない。 バーサーカーの動きこそ鈍ったが、それでも不完全だ。 故に。

 

「そこ、動いたら危ないですわよ!」

 

 ルヴィアが残った宝石を全て使い、その足場を崩落させる。

 効率よく、何より威力のある宝石を的確に使う凛だが、ルヴィアはどちらかと言えば、宝石の数で圧すタイプだ。 それには財政などの魔術師らしい理由があるが、その一つがこれだ。

 応用が効く。

 小粒であっても、束ねれば家屋一つを吹き飛ばすなど容易い。 そして逆に、小粒ならば威力を減らさねばならないときも対処しやすい。

 そうして、足場を取られたバーサーカーと、既に背後を取った美遊の勝敗は、決まったも同然だった。

 

「クラスカード・ランサー、限定展開(インクルード)……!!」

 

 ステッキがカードの情報を読み込み、英霊の座へアクセス。 くるりとステッキを回したときには、紅の魔槍が再現されていた。

 イバラの付いたそれの名は、言うまでもない。 真名を持って、美遊はその魔槍の力を解放する。

 

刺し穿つ(ゲイ)ーー死棘の槍(ボルク)!!」

 

 赤い閃光になった魔槍。 さながら雷のようにスパークしたそれは、最短距離でバーサーカーの心臓を貫いた。

 鮮血が飛ぶ。 深く深くその胸を抉った魔槍は、なお心臓を求めるように動いている。

 刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)。 アイルランドの大英雄、クーフーリンが師であるスカサハから授かったとされる魔槍。 その特性は、因果の逆転……すなわち、心臓を穿つために槍を放つのではなく、心臓を穿ったという結果を作るため、その槍を放つ。 それこそが、この魔槍に込められた呪いである。

 つまり、この魔槍は一撃必中。 この呪いから逃れるには、未来予知にまで匹敵する直感スキルに最上級の幸運。 その二つを併せ持つか、はたまた槍が繰り出される前に倒すか……その二つしかない。 バーサーカーに運命レベルの回避など出来るハズもなく、その心臓は魔槍に貫かれた。

 決着。 これ以上無い終わり。 フラりと揺れているこの巨体も、直に消えていくだろう。

 そう、背後から刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)を握る美遊は、少なくとも思っていた。

 

「……、美遊っ! 今すぐその場から離れなさいっ!!」

 

「え?」

 

 ルヴィアが慌てたように叫ぶが、もう遅い。

 まるで、羽虫を踏み潰すが如く。 もう動かないハズのバーサーカーの腕が、美遊を易々と吹き飛ばした。

 

「が、ぁ、っ……!?」

 

 一瞬、本当に。

 精神と身体が離れたかと思ったほど、認識がズレた。

 美遊の身体と同程度の腕は、その質量と膂力のおかげで、彼女が気づいたときには階段室へめり込むぐらい叩きつけられる。 だが美遊には、しっかり見えていた。

 遠くなるバーサーカーの身体ーーその心臓の傷ごと、その命が蘇生していく所を。

 

(そう、か……)

 

 バーサーカーの宝具。 それは一定ランクの攻撃を無効化させる宝具だと、そう思っていた。

 だが違う。 あのバーサーカーの宝具には、その続きがあり、それがこの蘇生なのだ。

……美遊達は知りもしないが、バーサーカー、大英雄ヘラクレスの宝具の名は十二の試練(ゴッドハンド)。 彼の逸話の中で、最も有名な十二の試練を宝具化したモノである。

 美遊達が後手に回るのは仕方ない。 何せ相手は英霊、かつてその時代にどんなカタチであれ、その名を轟かせた神秘の逸脱者だ。 数人程度の人間に殺されるならまだしも、こと彼らの戦場で負けるなどということは、決してありえないーー!

 

「、ご、ぶ、……!?」

 

 意識が飛ぶだとか、そんな生易しいのならどんなに良かったか。 身体が真横に折れ曲がるほど食い込んだバーサーカーの腕は、美遊にかなりのダメージを与えている。 少なくともAランクの物理保護を容易に突き破り、その口から多量の血を吐きださせるほどには。

 

「美遊っ!!」

 

「美遊様、ご無事ですか!?」

 

 近寄ってきたルヴィアとサファイアに、何とか手でジェスチャーすることで答えるものの、今の一撃は余りに痛すぎる。 あの戦闘では鉄面皮の美遊が、痛みに悶えているのだから。

 

「物理保護を全開にしても、あの威力を連続で放たれたら美遊様が持ちません……治癒促進したとして、流石に肉体のダメージは蓄積していくでしょう」

 

「チッ……あんなの反則も良いところですわ! 宝具レベルの攻撃でしか殺せない身体に、蘇生だなんて……!?」

 

 凛がバーサーカーを睨み付け、

 

「ええ……アイツ、自分の時間を巻き戻すわけでもなく……本当に自分を蘇生させてた。 それこそ、まるで傷自体が無くなってくようにね。 くそっ……」

 

 悪態をついたところで、何かが変わる訳ではない。 むしろそんなことをしている間に、バーサーカーの蘇生がほぼ完了しようとしている。

 凛は腰に携えたアゾット剣で、階段室の壁を切り抜くと、

 

「撤退よ! こんなの相手にしてたら、命がいくつあっても足りないわ!」

 

「あなたに賛同するのはシャクですが……そんなことを言っていられる場合ではありませんわ、ねっ!」

 

 そうと決まれば早い。 美遊を背負ったルヴィアは、凛と共に階段室から下層へといくと、そのまま廊下を走り抜ける。

 

「空間が続いてるのは助かったけど、それはアイツだって同じ。 サファイア、ここまで来れば離界(ジャンプ)出来る!?」

 

「……はい、無論です! 限定次元に反射路形成……!!」

 

 ヴン、と。 床に浮かび上がったのは、カレイドの魔法少女が展開する魔法陣。 離界するためのモノだが、今こうしているときですら、屋上からパラパラと粉塵が落ちてくる。 あと何秒かすれば必ず追い付かれるだろう……だから、

 

「……離界(ジャンプ)……!?」

 

 動けないハズの美遊が、その魔法陣から飛び出したのは、誰にとっても予想外であった。

 凛とルヴィアがこの世界から消える。 しかし背負われていた美遊は、静かにその魔法陣から出ていたのだ。

 

「美遊様……!? 一体何を!? これ以上は危険です、撤退しなければやられるのは……!」

 

「うん……私達、だろうね」

 

「なら!」

 

「だったら」

 

 前髪に隠れていた両目が、顕になる。

 鉄。 その目はまるで、鍛え上げられた一つの剣のように鋭く、美遊はあくまで敵だけを見据えていた。

 

「私が、アレを倒せる存在になれば良い」

 

 そう。 簡単なことだ。

 自分では確かに勝てない。 だが、英霊の宝具ならば貫通できた。 それの意味することは、英霊ならば勝てないわけではない、ということ。

 つまりは美遊が、そういう存在になれば良いのだ。

 彼女がすっ、と取り出したカードをサファイアに当てる。 それは手持ちで中で最優のクラスカードであるセイバー。

 やり方は知っている、見たこともある。

 

「やっと一人になれた……今からすること、秘密だから。 イリヤスフィールは何故か使えたけど、カードの本当の使い方」

 

 故にーー同じ機能(チカラ)を持つ美遊が、出来ないわけがないーー!!

 

「ーー告げる!!」

 

 触媒はカード。 それの情報を必死に身体へ押し込め、美遊は詠唱する。

 

「汝の身は我に! 汝の剣は我が手に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ!」

 

 揺れが更に大きくなる。 瞬間、美遊から五メートルほど後ろの天井が崩れ落ちた。

 バーサーカーだ。 恐らく、屋上を走り回った後、真下にあると感づいたのだろう。 そのままここまで、単純に腕力で壁をぶち破ったのだ。

 しかし、今の美遊には関係ない。 そんなこと、些細なことでしかない。

 

「誓いを此処に! 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!」

 

「美遊様っ!!」

 

 サファイアがほとんど悲鳴のような声を出すが、それでも美遊は詠唱を止めない。 そこにあるのは、たった一つの想いだけ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手ーー!」

 

 背後から迫るバーサーカー。 その岩盤を削ったような腕が、その階ごと美遊を崩落させる、その前に。

 詠唱は、完了した。

 

「ーーーー夢幻召喚(インストール)!!!」

 

 渦巻く。 美遊の身体を包む莫大な魔力は、彼女を守護するかのようにその身体を覆い尽くす。

 それを直感的に危険だと感じたのか、バーサーカーは更なる力を込めて腕を振るったが、美遊には届かなかった。

 剣だ。 黄金の剣、いや聖剣。 それが、これまで幾多の障害を一度で粉砕しきったバーサーカーの力を、真っ正面から受け止めていたのだ。

 月光のような絢爛な光を反射させるそれは、一体人間が作れるものなのか。 そう問わねばならないほど、その聖剣は美しく、そして何よりも輝いている。

 それも必然。 何故ならそれこそが、かつて星が鍛えたとされる、一つの幻想(ユメ)

 人の想いが剣を成すそれの名は、約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 その聖剣で、バーサーカーの腕を弾き返す者は、この場に一人しか居ない。

 

「……撤退は、しない」

 

 ざぁ、と風が舞う。 それに流された青いドレスと、そこから伸びた四肢は鉄の鎧を纏っていたが、身体は幼いまま。 さながら、騎士の真似事をする未熟者。

 

「全ての力をもってーー今日、ここで」

 

 だが未熟者であっても、みくびらないでもらおうか。

 今宵、その未熟者ーー美遊・エーデルフェルトは、

 

「全てを終わらせる!!!」

 

 英雄にすら牙を剥く意志を持って、この戦いに望んでいるーー!!

 

 

「■■■■■■■■■■ーーーーーーッッ!!!」

 

 

 吼える。 漆黒の巨獣が、英霊化した美遊をただの障害ではなく、敵と認めたのだろう。 鉄柱のような筋肉がミチミチと音を立て、弓を射るようにその力が一気に解放される。

 地を蹴る速さは、先と変わらない。 だが明らかに違う。 そこに込められたのは間違いなく、純粋な殺意。

 

「ふっ……!!」

 

 が。 そんなもの、美遊にはまるで関係なかった。

 鷲掴みにしてくるバーサーカーの手。 その全く見えないほど加速した手を、美遊は前に進みながら、態勢を低くして軽やかに回避。 そのまま聖剣をバーサーカーの胸に突き立てた。

 

「■■■■■■■■■■■■ーーッ!?」

 

 さしものバーサーカーも、まさかこんなに簡単に避けられるとは思っていなかったのだろう。 その身体を貫く痛みに、バーサーカーは絶叫し、引き剥がすべく暴れようとする。

 させるものか。 美遊は突き立てた聖剣を柄まで押し込むと、踏み込んだ勢いで一気に振り上げた。

 傷口から夥しい血が流れる。 それで死んだのか、バーサーカーは膝をついて沈黙した。

 まるで果物にフォークを突き刺したような、そんな風景を思わせる。 果汁が血だとすれば連想しやすいかもしれない。

 

「はっ、は、っ、ぁ、……!!」

 

 だが美遊とて、涼しい顔で一連の行動をしたのではない。 そもそも夢幻召喚(インストール)という行為が、美遊の疲れた身体に鞭を打ち続けているのだ。

 荒い息遣いのまま、美遊がバーサーカーを注視していると、

 

「美遊様……?」

 

「!……サファイア?」

 

 聞き慣れた声はサファイアだが、その出所に美遊は驚いた。 何故なら今持っている聖剣から、サファイアの戸惑う声が響くのだから。

 

「驚いた……その姿になっても、話せるんだね?」

 

「あ、はい……それで美遊様、この姿、この力は一体? まるで……」

 

 英霊ではないか。 サファイアはそう言おうとするが、丁寧に答えている暇はない。 美遊は早口で教科書を読むように、淡々と告げる。

 

「……通行証(カード)を介した、英霊の座への間接参照(アクセス)。 クラスに応じた英霊の力の一端を写しとり、自身の存在へ上書きする疑似召喚」

 

「え……?」

 

「つまりーー英霊になる。 それがカードの本当の使い方」

 

 突拍子が無さすぎる話だ。 そもそも、美遊がどうしてそんなことを知っているのか。 魔術協会ですら完璧には分析出来なかった、超一級の魔術品であるハズのクラスカード……その詳細を知る美遊は、一体?

 

「話は終わり、敵が起きる」

 

「!?、まさか……!?」

 

 が、そんなサファイアの疑問を取っ払うかのように、沈黙していたバーサーカーが活動を再開する。

 ビキビキビキ、と岩を無理矢理繋ぐような音は、バーサーカーの致命傷が治る音だ。 しかもその殺気は、最早相対するだけで弱小とはいえど英霊すら殺せるモノになっている。

 

「二度目の蘇生……! やはり相手は不死身です、美遊様!」

 

「いや」

 

 だが、美遊の心は折れていない。 そんなもの関係ないと、聖剣を握って答える。

 

自動蘇生(オートレイズ)なんて破格の能力、そう何度も出来ない。 必ず限りがある……だったら!」

 

 蘇生直後で動けないバーサーカー。 その隙をつき、美遊は即座に地を蹴って肉薄する。

 

「何度立ち塞がろうと、その全てを打倒するーー!」

 

 が。 既に美遊は、追い詰められていることに気づいていなかった。

 

「……!?」

 

 肉薄し、振るった剣。 絢爛な装飾を施された聖剣は先程、バーサーカーの強固な肉体を貫いたばかりだ。 なのにその聖剣は、その薄皮を一枚剥がしただけで、無惨に火花を散らした。

 さながら鈍器を、岩盤にぶつけたように。

 美遊はそれに目を見開き、動きが鈍ってしまう。 そこを逃さぬ英霊など居ない。 バーサーカーも例外ではなく、聖剣ごと美遊を弾き飛ばした。

 近くの壁を貫通し、転がる美遊。 デスクや椅子を巻き込んだところからして、何らかのオフィスだったフロアか。 何とか受け身を取るが、バーサーカーはその時点で美遊に接近しており、頭から潰さんと拳を振り下ろす。

 

「……!」

 

 甘く見るな。 美遊が今、夢幻召喚(インストール)した英霊は、あのブリテンの赤き竜、この国でも有名な騎士王だ。 その騎士王が持つ一級の直感スキルなら、どう対処すべきかなど一目瞭然。

 寸前で拳から顔を守るため、滑り込ませた聖剣で逸らすと、そのまま横に回転させるがごとく聖剣を一閃。 今度はバーサーカー自体の勢いもある、これで入らないわけがない。

 

「、また……!?」

 

 しかし、入らない。 星の聖剣は、バーサーカーの脇腹で金属音を掻き鳴らすばかりで、たった一人の英霊の肉にすら、その刃を食い込ませることが出来ない。

 すぐに美遊は不味いと直感したが、もうそのときには、バーサーカーの豪腕が背中を強打。 一気に端の壁まで叩きつけられ、ずるずると床に落ちる。

 

「美遊様!!」

 

「ぐっ……!」

 

 前頭部から流れる血。 英霊を宿した身体でも、これだけの威力とは……舌を巻く美遊に、サファイアは報告する。

 

「体表の硬度が異常すぎます……恐らくあの英霊の宝具は、蘇生だけでなく、一度自分を殺した攻撃は通じないのでしょう……神秘に編まれたあの肉体を突破するには、他の攻撃手段、しかも宝具級の攻撃でなければ不可能です!」

 

 サファイアの考察は正しい。

 バーサーカーの宝具、十二の試練。 その宝具の効果は、Bランク以下の攻撃の無効化、十一度(・・・)の蘇生に、既知の攻撃ではダメージを与えられないという、反則に等しい力。

 つまり、もうセイバーではダメージを与えることは出来ない。 これで、詰め。

 

「これ以上は本当に危険です! 美遊様、どうか撤退を……!!」

 

 悲痛な声は、美遊を思っての言葉だ。 サファイアにそんな思いを抱かれるのは嬉しいが、逆に悲しくもある。

 でも、だから。

 

「……撤退は」

 

 彼女は、立ち上がっていられる。

 

「絶対にーーしないッ!!」

 

 じっとりと頭から流れる血を吹き飛ばすように、美遊は突進。 そのまま、バーサーカーへと再度挑む。

 しかしバーサーカーは冷静だった。 いや、黒化している時点で冷静もないのだが、ここに来て死に体の美遊に対し、情けをかけることもない。 ただその剛力を存分に振るい、嵐のような拳を生み出す。

 肝心の美遊は、突進したは良いが、凌ぐので精一杯だった。 バーサーカーが嵐だとすれば、美遊は疾風……例えいくら速かろうと、嵐という力には消し飛ばされるしかない。 すぐにまた先と同じように、聖剣ごと壁に弾き飛ばされる。

 

「美遊様!!」

 

「ぐ、ぅ、……っ、……!」

 

 身体が重い。 心臓が張り裂けそうなほど、酸素を欲している。 だが肺は、今の一撃で潰れたのか、息をするだけで血がせり上がってくる。

 どうやっても無理だ。 セイバーを夢幻召喚しているままでは、美遊に勝機はない。 仮に殺せたとして、その先があれば美遊は死ぬ。 セイバーを夢幻召喚するのが精一杯な美遊では、他のカードを夢幻召喚したところで、どうなるかわかったものではない。

 

「美遊様、何故です!? 何故そこまで一人に拘るのですか!? 勝てないのであれば、撤退するのがセオリーです! 別に今日でなくとも、また後日挑めば……!!」

 サファイアの言う通り。

 この場は、撤退するのが一番だ。 そんなこと、サファイアに言われなくたって理解している。 こんなことを続けても、無駄死するだけだということも。

 それでも。

 

ーーうん! それじゃ、あらためてよろしくね、ミユ!

 

ーーだからワガママなんだろ? 別に嫌なら良い。

 

 それでも、傷ついてほしくない人が居たのではないのか?

 

「……そしたら、今度はイリヤが呼ばれる。 お兄ちゃんが呼ばれる……!!」

 

「!」

 

 振り絞る声は、懺悔にも見える。 失ってしまったモノと手に入れたモノ、その両方の天秤で、美遊は痛みに耐え続ける。

 

「イリヤは戦いたくないって言った……お兄ちゃんには、もうあんな顔をしてほしくないって思った……」

 

 握られた聖剣から、迸る光。 それは美遊の想いそのもの。

 

「分かってる……関わっちゃいけないことも、妬んじゃいけないことも。 全てがあるあの世界(家族)は、自分が触れて良いものじゃないって、そんなこと……!!」

 

「……」

 

 とっくにそんなもの、理解している。

 理解しているから、今こうして、この身を削っているのだ。

 サファイアには何を言っているのか、全く分からないに違いない。 けれど、想いだけは伝わってくれる。

 

「あの兄妹(二人)には、もう二度と戦わせない」

 

 光が増す。 最初は電球程度の光だったと言うのに、いつの間にかそれはフロア、そしてビルの外まで照らし、聖剣が十字架のように形を変える。

 

「例え私と言う存在が擦りきれたとしても……私は!!」

 

 その光は、人の光。 いつか何処かで、その身を散らした騎士の光、心そのものだ。

 故に、その光を束ねたそれはーー戦場においてはどんな逆境、どんな危機を迎えようと打倒するーー!!

 

「ーー私は、友達と兄を、絶対に守る!!」

 

 瞬間、聖剣が振り下ろされ。

 勝利の光が、鏡界面を埋め尽くした。

 美遊達が居たオフィスどころか、ビルすらも破壊せんとした光の斬撃は、一気に鏡界面を横断した。

 轟音などない。 何故なら轟音を発する前に、その光の前には全てが等しく塗り替えられるからだ。

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)。 それが美遊の夢幻召喚した英霊、アーサー……いや、アルトリア・ペンドラゴンの持つ最強の宝具だった。

 光が消え失せる。 光の斬撃をモロに受けたフロアは、美遊のすぐ近くから床すらない。 バーサーカーなど、消し炭になっただろう。

 その破壊を引き起こした美遊は、一応無事だった。

 カードも排出して倒れ、サファイアも手放しているが、何とかまだ意識も失っておらず、その服もカレイドサファイアのモノだ。 これなら戦える。

 

(私の魔力量じゃ、一発で限界か……でも、カレイドの魔法少女なら)

 

「美遊様、こちらです!」

 

 ステッキを探している美遊に、サファイアが名前を呼ぶ。 丁度消え失せた床のすぐ近くだ。 もし下に落ちていたらと思っていたが、これならまだーー。

 と、そのとき。

 美遊の元へ向かおうとするサファイアが、大きな岩肌の腕に捕まった。

 

「!?」

 

 そんな、馬鹿な。 そう言うことすら叶わないほど、美遊の思考回路は凍りついていた。

 その大きな腕は、そのままサファイアを床に叩きつけ、一気に登ってくる。

 バーサーカー。 全身が焦げたかのように、蒸気を発生させる彼は、登りながらその傷を回復させていく。

 

「あ、ぁ、……!」

 

 終わった。 今度こそ、終わった。

 美遊は確信する。 ステッキを握らなければ、魔術一つ発動できない。 限定展開すら使えないこの状況は、限りなく絶望的だった。

 

「美遊様っ、美遊様っ!!!」

 

 ジタバタともがくサファイアだが、その巨体を支える床と同然の彼女ではどうすることも出来ない。

 終わる、終わってしまう。

 

(……嫌だ)

 

 凍りついた思考回路、パニックになって、何も働かない脳。 だからなのか、美遊はそれを癖のように願ってしまう。

 

(嫌……いやっ、いやだよぉ……!!)

 

 その、禁断の願いを。

 

 

「ーーーー助けてよ、お兄ちゃん……!!」

 

 

 そして、願いは届く。

 まず異変に気づいたのは、バーサーカーだった。

 

「……■■ッ!?」

 

 バーサーカーがあげたのは、敵を討ち取った雄叫びではない。 単なる驚きだ。

 それに目を閉じて願っていた美遊がへたり込むと、目を開く。 と、目の前に広がる景色に、今度は美遊が驚く番だった。

 魔法陣。 カレイドの魔法少女のモノに似ているが、細部が雑なそれが、バーサーカーと美遊の間に展開されている。

 イリヤ……ではない。 だとすれば、

 

「……投影、完了(トレース、オフ)

 

 あの人しか居ない。

 簡素な呪文の後、即座にバーサーカーの前に出現した、五本の剣。 浮かんでいるそのどれもが宝具にも匹敵する性能を持つと分かったのは、一人として居ない。

 故に。

 

「全投影、連続層写」

 

 撃ち出された剣を迎撃しようとも、防ごうとも、関係のない話だった。

 矢のように飛んだ五本の剣は、振り払おうとしたバーサーカーの腕に食らいつくと、あっという間に切り飛ばし、串刺しにした。 美遊が何度やっても切れなかったあの身体をいとも簡単に、だ。 まるで最初から、切れて当然だと言うように。

 そうして、魔法陣から彼が姿を現す。

 

「……全く、先走るのは良いけど、諦めるのはどうなんだ? というか勝てなくたって別に良いのに、どうして撤退しないんだよ、お前は」

 

「あ……」

 

 こちらを見ずに、独り言のように呟く誰か。 その姿がかつて一緒に居た人と重なって、美遊は思い出した。

 その背中を、覚えている。

 その傷だらけな身体を、覚えている。

 振り返ることもなく、ただ泣きたいときがあっても励ましてくれたーーその、最愛の人の姿を。

 けれど彼と最後に会っても、別れにその顔を見ることは出来なかった。 生きてくれと、そう言って会うことはもうない。

 この人もきっとそう。 何かの為に、何かを捨ててきたこの人ならそうだと、思いたかった。

 

「……まぁ何にせよ」

 

 彼がこちらを振り返る。 それだけで、美遊は脱力した、してしまった。

 変わらないその瞳。 例え前だけを見ていたとしても、彼の目には今、自分が映っているーー。

 

「無事で良かった。 待ってろ、すぐに終わらせてやるから」

 

 衛宮士郎。

 この戦いを終わらせるべく、至高の贋作者が推参した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーinterlude out.

 






※注意※ ここから先はへんてこ振り返りコーナー、タイガー道場です。 本編のキャラやイメージを大切にしたい方、茶番などが嫌いな方は、ブラウザバックを推奨します。 しかし『SSFの意味は、そろそろ素敵なんて言葉も聞き飽きたぜ藤村の意味だからァ!』な方は、そのままゴー。



→1.はい

 2.いいえ


 タ イ ガ ー 道 場







タイガ「ヘイヘイヘーイ! 人の恋路とか大好き、でも私を褒めてくれる人はもっと大好き! タイガー道場、始まるわよ!」

ミミ「うす、師しょー! よろしくお願いします! ていうか、今回は思ったより遅れませんでしたね。 筆がノッたんですか?」

タイガ「あぁ、それねー。 何か単純に、次回の無印編最終話は、過去最長記録みたいでね。 単純にデータ容量で言えば、70KB越えるみたいな?」

ミミ「……前後編に分けたりしないんスか?」

タイガ「それ私に言わせちゃう? 今回凄いところで終わったからっていう建前は置いて、まぁめんどいんじゃない?」

ミミ「人柄が現れますよね、そういうの……」

タイガ「まま、そんなわけで今回の振り返り。 今回は美遊ちゃんがバーサーカーとタイマン張る話ね。 いやー、何て健気なんでしょう……!」

ミミ「好きな人には徹底的に尽くしますよね、美遊ちゃん。 まぁ覚えてない人は、いつも名前聞いてくるんですけどね……」

タイガ「ちなみに補足だけど、夢幻召喚の詠唱はコミックスのままよ。 一部違うのは誤字とかじゃなく仕様なのであしからず」

ミミ「あ、そういえば、それだけ書いたならもう無印は終わったんですよね? 更新早いんじゃ……」

タイガ「え?」

ミミ「え?」

タイガ「……戦闘は、ほら。 終わったから。 あとエピローグだけだから、ね? そんなに遅くは」

ミミ「一週間もかけませんよね、時間?」

タイガ「え? あー、うん、多分五日……いや四日かな? そのぐらいで終わると思いますはい」

ミミ「というわけで、お楽しみにー」

タイガ(コイツ、いつの間にこんな交渉術を……!?)


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