Fate/kaleid night プリズマ☆イリヤ 3rei!!   作:388859

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古戦場お疲れさまでした(一週間遅れ
英語はとても苦手な中、色々調べて頑張ったので、多目に見ていただければなと思います……




理想世界/不完全平和

 世界が、悲鳴をあげる。

 それは何に対しての悲鳴だろうか。

 炎に燃やされるから? 親しい人を亡くしたから? 自分では想像もつかない何かを前にして?

 それとも。

 暴かれたくない真実を、白日の元に晒されて、か。

 だけど、確実に言えることがある。

……その全てが、ここで同価値だということ。

 

「この世界が……お兄ちゃんの世界、ですって?」

 

 は、と嘲笑するクロ。

 それはそうだろう。笑いたくもなる。もしそれが本当なら、俺はクロ達を殺さなくちゃいけない。

 

「とある昔話をしよう。と言っても、むかしむかしなんてもんじゃない。そうだね、大体四ヶ月ほど前のことさ」

 

 まるでマジシャンがマジックの種明かしをするように。軽薄に、何処までも喜悦を交じらせてギルガメッシュは話す。

 

「美遊を巡って、とある世界で戦争が起きた。そりゃそうさ、何せ美遊は小聖杯……いや、瞬間的には大聖杯にも劣らないとびっきりのレア物。それを欲しがらない魔術師なんて何処にも居ない。当然、人類の救済を掲げるエインズワースと、妹を守るため、君とは違う衛宮士郎ーー美遊の兄、そしてこの世界を滅茶苦茶にしたエインズワースの企みを阻止するため、この世界の遠坂凛が参戦した」

 

「……遠坂が?」

 

「ああ。この冬木でもちょっといざこざ、というより姉妹喧嘩があったりしたんだけど、まあその話は後に任せるとしてだ」

 

 足を組み、肘を膝に置いた黄金の少年は、

 

「聖杯戦争は混乱を極めた。エインズワースだけでなく、聖杯戦争の勝利者であるマスターまで参加すれば、拗れもする。更には美遊のお兄さんが最短距離で美遊を狙うんだ、主催者兼監督役のエインズワースとしてはこれ以上面白くない筋書きはないだろう?」

 

 さながら俯瞰して劇を見る観客のように。

 

「見物だったよ。片や世界の救済を語り、片やただ一人だけを守ると誓い。どちらも間違いであり、正しくあり、止まることはなかった。鮮烈な死闘、熾烈な舌戦、平和と理想のぶつかり合い。僕はただの観客だけど、正直驚いたよ。現代の人間がそこまでやるとはね」

 

「……で? 誰が勝ったんだ、その戦争は?」

 

「そんなの、優勝商品がここにある時点で知れたことさ」

 

 美遊に幸せになってほしいと、美遊の兄は願った。つまりその男は勝ったのだ。美遊を闘争のない世界へと送って。

 だが、それは間違いだった。

 奴は言った。エインズワースがこの世界を滅茶苦茶にしたと。なら奴らこそこの世界をこんな風にいじくり回し、そして美遊を閉じ込めたのだ。甘い夢を見せて。そう考えれば辻褄が、

 

「ああ、この世界をこんな風にしたのはエインズワースじゃないよ?」

 

「……なに?」

 

「考えてもごらんよ。それならエインズワースがすぐに美遊を回収するハズさ、だって自身で起こしたことだからね。制御が効いてないなんて三流の真似はしない。なのに四ヶ月も放っておくなんて、小心者でも気取らなきゃ無理な話だろ?」

 

「……なら、誰が」

 

「居るじゃないか、たった一人。この世界を誰よりも望んだ人間が」

 

 ねえ、とギルガメッシュは指を鳴らす。するとギルガメッシュが乗っていた巨人の胸がぶくぶくと泡立ち、とある人間を溺れさせるようにして、浮かび上がらせた。

 

「美遊。君だろう? 君がこの世界を作った、張本人だ。違うかい?」

 

 絶望に表情を凍りつかせ、心が砕けてしまった。美遊・エーデルフェルトが、そこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この世界が、元は士郎達の世界、だって?」

 

 凛の推測は、余りに突飛なモノだった。

 確かに以前からこの世界は何かが可笑しいと、切嗣も聞いていた。士郎や美遊のように平行世界からの来訪者まで存在する以上、世界そのものに干渉することだって机上の空論ではない。

 しかし、だとしてもこの世界が士郎が生きていた世界だなんて、そんなこと。

 頬はひくつかせたまま、切嗣は否定しようとして、

 

「本当にあり得ないと思いますか? 他ならぬ、あなたが?」

 

 だが凛は、その言い訳を許さない。

 あくまで冷静に、だが忌憚ない口振りで、

 

「この世界は確かに、衛宮くんの世界と差異がありすぎます。けれど、逆に言えばそれを反転させれば全て衛宮くんの世界と同じ要素でしかない」

 

「……確かに。シェロにとって、この世界は全てが揃っている。聖杯戦争が途中で破綻していれば、似たような結末になるかもしれませんが……」

 

「それが可笑しいのよ」

 

 いい?、と更に弁舌を続ける。

 

「普通平行世界っていうのは、余りかけ離れた世界は生まれない。例えあったとしても、そんな世界は剪定されてしまう。それこそ大木から葉枝を切り落とすみたいにね」

 

「剪定事象のことですわね? しかし、それは別に何ら可笑しいことでも……」

 

「いいえ、可笑しいわ。だって、衛宮くんの世界とはかけ離れてる(・・・・)じゃない、ここ」

 

 ルヴィアが目を見張る。それは事実を知ったことへの驚き、ではない。そんな簡単なことすら気づけない、気づかされないようにされた自身への驚きだ。

 そう。

 平行世界とは、あくまで些細な選択肢で枝分かれするモノだ。それこそ鏡にあるヒビや、シミ、または手垢のように、選択したことで色は違えど、そこまで結末に変化はない。

……だがこの世界はどうだ?

 全てが生き残った世界。結構、それは素晴らしいことだ。しかしそれでは鏡にならない。

 

「でもそれを言うのでしたら、美遊の世界だって同じですわ。それだけで決めつけるのは……」

 

「ええ。だからわたしも最後まで断定しなかった。でも、大聖杯が起動したことであることに気が付いたの」

 

 凛は指をピストルのようにして突きつける。

 世界の真理を、暴く。

 

「一つだけ教えてほしいんです、切嗣さん。どうして、この十年で大聖杯を破壊しなかった(・・・・・・・)んですか?」

 

 それは。

……それは、衛宮切嗣には答えられない問いだった。

 理由なんていくらでもでまかせを言える。

 全てを救う夢を諦めきれなかったから。破壊するには全財産を擲つ必要があり、子供達の未来のためには出来ないから。破壊した後、聖杯関係者などに追われる可能性を排除したいから。

 けれど、衛宮切嗣は分かってしまった。

 きっと本当に自分が、全てを救えたのなら。

 そんな不確定要素は残さない。大聖杯を破壊して、どんな障害でも更地に変えて。

 それが出来なかった時点で、それはまやかしでしかなかったのだ。

 大聖杯に作られた、偽物の平穏だった。

 

「……最近、夢を見るんだ」

 

 切嗣はか細い声で、されど凛の推測などよりはっきりと、

 

「冬のことだ。満月の夜で、僕は縁側に座っていた。静かでね、でも寒かった。温かくなりたくて、楽になりたくて、だから眠くなったんだと思う」

 

 五年も聞いていた呪いの声が、一体となって久しい。耳を叩くその声こそ衛宮切嗣の罪過であり、往くべき場所だった。

 

「とても、とてもとても眠くてね。きっと、一度目を閉じたらもう起きられないと思って。だから、こんなことを話したんだっけ」

 

ーー子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた。

 

 なんてことはない。ただの遺言だ。

 最初に何をしたかったのか、それを思い出したかっただけ。後悔しか残ってなかったけれど、何か他に話すことがあったのかもしれないけれど。

 ただ、言って聞かせたかったのだ。

 いつか誰かに言えなかったから。

 最後に救われた(助けた)、自分の子供に。

 

「ヒーローは期間限定でね。大人になると、名乗るのが難しくなるんだ」

 

 そっか。それじゃあ、しょうがないな。

 あの子は、そんなことを言ってくれたか。

 だってしょうがない。

 理想のために、全てを失った。愛も、対価も、罪も。誰かのためにと行ったことの代償として失った。それは自業自得で、当たり前で、だからこそこんな結末になった。

 こんな地獄(理想)に、この子を向かわせてはいけない。

……言えることは、言った。だから眠ろうとして、

 

ーーうん。しょうがないから、俺が代わりになってやるよ。

 

 少年は、自分が口に出来なかったことを、容易く宣言した。

 

「……自分が正義の味方になってやるんだって。そう、言って、くれたんだ」

 

 顔を両手で覆う。濁流のように押し寄せる感情が、雫となって瞳から滴る。

 

「僕は……僕、は。全部、守れていたと、思い込んでいた。やり遂げたんだと。救えたのだと。温かい世界を守り抜けたと。けど、違ったんだ……」

 

ーー爺さんの夢は、俺が。

 

 寒い夜だった。静寂は体の隅々を麻痺させるようで、たった二人の夜が温かいだなんてとても言えなかった。

 理想と現実なら、きっと理想の方が良い。

 でも、

 

「僕はその夢を見て……この十年間で過ごした幸せよりも。心が、満たされてしまったんだ……」

 

 どんなに悲惨な現実であっても。

 どんなに求めた理想でも。

 心を何よりも満たしてくれたのは、現実から受け取った言葉だった。

 それだけで、衛宮切嗣は救われたのだ。

 本当の意味で。

 熱い涙が、止めどなく溢れ落ちてしまうほどに。

……そしてそれは、同時に。

 理想は理想のままだったのだと、認めざるを得ない瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨人に取り込まれた美遊は、答えない。いや答えられない。あの顔は全てを知ったが故の、顔だった。

 

「美遊!? どうしてここに!? さっきまで家で安静でしてたハズじゃ……!?」

 

「そりゃあ君、この泥が深山町まで届いた(・・・・・)からに決まってるだろ?」

 

 クロが瞠目する。

 それも当たり前か。ギルガメッシュの言うことが正しければ……今、冬木市全域であの泥の猛威が奮っていることになるのだから。

 でも奴にとって、そんなことは些事らしい。

 

「さて、美遊のことだけど。この子だよ、この世界をこんな風に作り変えたのは」

 

 あっけらかんと、これまでのことを全てひっくり返してくる事実。

 思考がぐちゃぐちゃに引き裂かれそうになるが、深呼吸する。深呼吸して、それでも落ち着けないほど魔術師として劣化した己に失望しかけるが、努めて冷静に、

 

「……美遊に神稚児としての力はもうない。あるのは小聖杯程度の力だろ、そんなこと出来るわけが」

 

「確かに今の美遊には出来ないね。けど、四ヶ月前の彼女なら、話は変わってくる」

 

 さながら出来の悪い教え子に丁寧に解説する教師のように、ギルガメッシュは告げる。

 

「美遊はね。朔月家、いやこの世に生まれた全ての神稚児でも類を見ない、七歳を越えても(・・・・・)力を持ったまま生きている神稚児……そうだね、正しく言えば神様なのさ、この子は」

 

「……美遊が、神様だって……?」

 

 そんなハズはない。

 だって美遊は、何処からどう見てもただの女の子にしか見えない。

 

「今の彼女はね。だがそれは、今も無意識にこの世界を修正し続けて弱体化しているからさ」

 

 順を追おうか、なんて楽しそうにギルガメッシュは、

 

「美遊を巡った聖杯戦争は、美遊の兄が確かに勝者となった。そして願いを美遊に叶えさせ、それで幸せとは行かずとも、少なくともマシな結末にはなった……ハズだった」

 

 本当ならそれで終わるかもしれない。

 だがそうはならなかった。

 そうはならなかったとしたら、それはきっと。

 

 

「願いを叶えた直後、美遊のお兄さんは殺されたのさ。エインズワースに、それこそ美遊の目の前でね」

 

 

 最悪の結末が待ち受けていることに、他ならない。

 

「……美遊のお兄ちゃんが、死んだ?」

 

 クロが呆然とする。それも当たり前か。

 いつかもう一度会えると、美遊は信じていた。だが、それはあり得ないことで、事態は更に悪化していたのだから。

 なんとなく、それで話の結末は分かったが、それを止める術は俺に持ち得ない。

 傷を回復させながら、クロはかぶりを振った。

 

「嘘よ……嘘、嘘でしょ? だって、ミユはそんなこと知らないじゃない。なら生きてるに決まって、」

 

「確かに美遊は覚えちゃいない。けどそれも当たり前さ。だって、必要ないからね、そんな記憶は」

 

「……必要、ない?」

 

 それでクロも、美遊が犯した禁忌に思い当たったらしい。

 

「……ミユ。あなた、まさか……」

 

「そうさ」

 

 とん、とギルガメッシュは肩から降りて、取り込まれた美遊の近くの窪みに体重を預けた。

 

「美遊のお兄さんは死んだ。だがその現実を美遊は認められなかったのさ。否定しなければ、心が壊れてしまう。だから、作った(・・・)

 

 ここは理想の世界だと、俺は思っていた。

 だが違った。それが一番誰にとっての理想だったかと言えば、それはきっとーー。

 

「一度受諾した願いは変えられない。朔月美遊が幸せになる世界という願いはね。だから方向性を変えたのさ。朔月美遊が幸せな世界、つまりそれは美遊の兄が生きている(・・・・・・)世界……とね」

 

……。

 

「位相……ああいや、現代だとテクスチャと呼ばれていたっけ? ともかくそれをお兄さんの世界に貼り付け、その上で美遊の兄と朔月美遊が幸せな世界が作られたんだが……そこで、美遊にとって予想外なことが起きた」

 

 ギルガメッシュが俺を指す。

 

「そう、君さ。本来死んだ美遊の兄を美遊は作ろうとした。だがそれよりも手っ取り早い相手が居た。それが君さ。そうして君をこの世界に呼び、元々生み出していたこの世界のエミヤシロウと融合させた。君を魔術師から遠ざけるために、ね」

 

 理解しがたいことだが、それはつまり、

 

「……つまり、イリヤやクロ、切嗣やアイリさん、セラやリズは」

 

「無論、美遊と君にとって都合の良いテクスチャを貼るためのピースさ。この世界は代わりとなる君、衛宮士郎が幸せな世界なんだ。君の記憶から作られたんだから当たり前だけどね」

 

 何処までも癇に障る言い方だった。

 つまり、こういうことか?

 美遊が兄を失った悲しみを忘れるために、俺の世界はこんな世界になってしまったのか?

 俺の記憶から死んだ人間すらも別人に作り変えられて、それでごっこ遊びのようにこの四ヶ月が行われていたと?

 あんなに楽しかった日々がーー全て、一つのボードゲームのように、幻でしかなかったと?

 

「……そうか。殺されてぇのか、テメェ……!!」

 

「熱くなられても困るなあ。それをぶつける相手は僕じゃない。この子だろ?」

 

 そう言って、ギルガメッシュは美遊の髪を乱雑に掴んで持ち上げた。

 すかさず、クロは眉を吊り上げて怒鳴る。

 

「ミユ!! アンタも何とか言いなさいよ!! 言われっぱなしで良いの!? これは理想なんかじゃなく、現実なんだって、そう、言ってよ……お願いだから……!!」

 

 励ますつもりだったろうに、クロはいつの間にか懇願していた。

 もしそれが本当ならば、イリヤやクロは、友達どころか美遊の作り出した人形でしかない。美遊の意思でどうにでも操れる、その気になればきっと、命とて例外じゃないのだから。

 

「……、……」

 

 それは恐らく、意識して出た言葉ではなかっただろう。

 だから、それは美遊が心から思っていることだった。

 

 

「……ごめんなさい、……ごめんなさい……ごめん、なさい……」

 

 

……恐らくクロの話を聞く限り、思い出したのはついさっきなのだろう。

 絶望して、でもこれまで築いたことが過って、だから受け止めきれなくて、パーツが取れた機械みたいに、本音だけは口にしている。

 クロがハッとなり、そして悔しくなったのか、涙を溢した。

 どうしようもなかった。

 どんな言葉も、クロでは美遊にもう届かない。

 

「……さて、ここからが本題だけど」

 

 そして。

 英雄王は、最も避けていた問いを投げてきた。

 

「君はどうする、衛宮士郎? 元の世界を諦める(・・・・・・)か、この世界を破壊する(・・・・・・)か。どちらかがある限り、どちらかはあり得ないんだけど」

 

 さあ、と。

 世界の命運を無理矢理握らせて。

 奴は、手を広げて挑戦を待つ。

 

 

「現実か、理想か。正義の味方はどちらを選ぶんだい?」

 

 

……そんなこと、答えられる人間が存在するのか。

 悩むところがスタートラインだとして、その選択にゴールなんてない。選ぼうが選ばまいが、どちらかを選べば後悔しか残らない。

 生きている理想か。

 死んだ現実か。

 更に、俺は失念していた。

 今この場に、彼女が居たことを。

 

「わたしが、死んで、る?」

 

 何も知らなかったハズの、イリヤが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かの間違いだと思った。

 でも何処までも現実は非情で。

 理想は砂糖のように溶けていく。

……その全てを、聞いていた。

 分からないことなど一つもなかった。ただ何となく、ああ、そういうことだったのか、と頭で納得している。してしまっている。

 だから、心が壊れそうになる。

 現実の重みに、魂が折れる。

 

「……、」

 

 イリヤスフィール・アインツベルンは、全てを聞いていた。

 蚊帳の外で、でも身動きなんて出来ないまま、事実だけをねじ込まれた。

 だから、

 

「……わたしが、死んで、る?」

 

 巨人の手の中で、そう呟いてしまった。

 

「……ああ、君も居たね。忘れかけてたよ、ごめんごめん」

 

 金髪の少年は眼中になかったのか、向き直る。そこで、いつの間にか居た兄が声を張り上げた。

 

「やめろ、ギルガメッシュ!!」

 

「おおっとこりゃ失礼。君の相手もしなきゃ、ね?」

 

 少年ーーギルガメッシュが目配せし、巨人が左腕を振り上げる。士郎は後ろで倒れていたクロを抱え、転がるように飛んだ。

 遅れて、振り下ろされる左腕。轟音と共に有り余る破壊力は地面だけでなく、周囲の建物まで落盤。イリヤも目を開けていられないほどだ。

 そんな中。

 

「そうだよ、君は死んでる。君も毎日見てただろう? 殺される夢?」 

 

 それがこの世界の常識とでも言うかのように、

 

()に殺された過去をさ」

 

 何度も味わったあの悪夢を、現実だと言った。

 

「……は、」

 

 笑った。それは普段と比べても歪で、いっそ滑稽だった。

 許容量なんかとっくに越えていて、瞬間的に漏れたモノだった。

 イリヤスフィール・アインツベルンは死んでいた。

 しかも今の自分は偽物で、友達だと思っていた子に画用紙を糊で貼り付けたようなまやかしとして作られた。

 無邪気に疑えたなら、どんなに良かっただろう。

 これまで感じてきた日々を思い出して、これが本当の自分だと、そう思えたら、どんなに良かっただろう。

 けどこの胸を穿った痛みが、ずっと消えてくれなくて。

 痛くて、涙が出て。

 じくじくと、これまで自分を構成してきた人生全てに風穴を開けていく。

 イリヤ(わたし)が、わたし(イリヤ)でなくなっていく。

 

「……そ、っか」

 

 全て理解した。

 だから、その結論に達するのも当然だった。

 イリヤは投影魔術を使おうとした士郎へ、告げた。

 

「じゃああなた(・・・)は。

 

 

ーーーーわたしの、本当のお兄ちゃんじゃないんだね」

 

 正義の味方は、凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、それを」

 

 投影がキャンセルされる。

 今……イリヤが、言ったのか。イリヤが、俺のことを、本当の兄じゃないって。

 妖精じみた顔は、もう疲れきっていた。放っておけば飛び降り自殺でもしそうなほどに。

 

「……だって、ここはお兄ちゃんの世界なんでしょ。なのに、わたしは偽物で。死んでて。……だったらもう、わたしにだって分かるよ」

 

 イリヤの言葉は最もだった。

 もう隠し通せるハズがなかったのに、まだ隠せると浅はかにも思った自分が、酷く醜い。

 

「……イリヤ。俺、は」

 

「前に言ってたもんね。隠してることがあるって。うん、その時はね。最後まで言ってはくれないんだろうなって思ってた。そうまで言いたくないんだもん、きっとわたしを心配してくれてたからだよね」

 

「……それは」

 

「だから墓場まで持っていって、わたしを傷つけないようにしてくれる。それを知らないことは、信じてくれないようで悲しかったけど、でも無理に聞き出したいとは思わなかった。今日まで」

 

 何か言わないと。矢継ぎ早に口を動かすイリヤの間に割って入ろうとして。

 妹が、音もなく泣いていることに、ようやく気づいた。

 

「……どうして?」

 

 答えられるわけがなかった。

 口を開けるハズがなかった。

……ここまで来て、何も言えない男に。兄を語る資格なんてなかった。

 

「なんで、言ってくれなかったの?」

 

 散発する問いが、心を抉る。

 

「俺はお前の兄貴じゃないんだって。なんで、一言でも、言ってくれなかったの?」

 

 抉られた穴から、ずっと底にあった後悔が流れる。

 

「言ってくれたら、何か事情があったんだろうなって、そう思えたのに。受け止めてくれるって信じてくれれば、それだけで良かったのに」

 

 ねえ、なんで?と。

……燃える新都に、嗚咽が響き渡る。

 

「もう、何もかも知った後じゃ、あなたのこと信じられないよ……!!」

 

 血を吐くようなそれは、怨嗟の声であり、信頼の声であり、そして決別の声だった。

……例えどんな橋でも作らせない、そんな、拒絶だった。

 

「……ねえ、本当のお兄ちゃんはどこ?」

 

 肩を震わせる。

 そんなものなかったと、そう言うことは許されない。偽物であったとしても、それはイリヤにとって、何よりも代えがたい家族だったのだから。

 

「イリヤ……お兄ちゃんは……」

 

「いい、クロ。俺が言う」

 

 クロを遮ると、俺はそのまま、この世界で最初に犯した罪を告白した。

 

 

「ーーーー俺が、お前の兄貴を殺した。そして、兄貴に成り代わった」

 

 

「…………………………」

 

 

 イリヤは一瞬だけ、顔をひくつかせ。

 

 

「ーーーー辛そうな顔して。また、わたしにそうやって嘘つくんだね」

 

 

 そう、くしゃ、っと苦く笑った。

 

 

「……感動のご対面のところ、悪いんだけどね」

 

 ギルガメッシュはそう断りを入れて、イリヤを捕まえている右腕を動かす。美遊が取り込まれた胸元まで。

 

「言ったろ、壊すって」

 

「、させるか……!!」

 

「良いのかい、動いて? 後ろのそれ、守れるの?」

 

 それとはクロのことだろうか。人をそれ呼ばわりすると良い、本当に神経を逆撫でするのが得意な英霊だ。

 ならば動かなければ問題はない。

 

投影(トレース)開始(オン)!!」

 

 投影するのは五十四の大剣。クレイモア、バスタードソード、グレートソード、野太刀、ありとあらゆる刀剣を空中に出現させて弓矢のごとく射出する。

 弾丸よりも早く、鋭く。

 しかし、

 

「なーんだ。それっぽっちか、贋作者(フェイカー)

 

 巨人の背後から、その倍の剣が殺到する。

 

「っ!?、まず、……!?」

 

 剣を目視した瞬間、寒気が走った。

 全てがBランク、ないしCランクの宝具が百本以上。

 投影した剣が壊されるだけではない。降ってきた剣は致死の雫となって、襲いかかってくる……!

 目視した剣を馬鹿の一つ覚えのように投影したのでは遅い。先のように大剣を複数本投影してバリケードにし、あぶれた宝具を即時投影して迎撃。

 そこまでして、なおまだ届かない。

 体を掠める死の雨に、背筋が震える。

 

「ふぅん、少しはマシになったね。前よりは乱造が上手くなったじゃないか。ま、数だけか」

 

 姿は少年だが、その実、これだけの武器の射出は前の奴より数段速さも威力も高かった。対抗出来たのは、一重にこの世界のーー理想の世界のエミヤシロウのおかげだ。

 雨が止む。 

 回路が全開の魔術行使に焼き付かないのが不思議だった。手の痺れを払い落としながら、巨人へ視線を向ける。

 

「イリヤ、美遊!!!!」

 

「………………、」

 

 美遊は何も言わなかった。

 そしてイリヤも。

 何かを言いかけて、そのまま巨人の体内に取り込まれた。

 

「……くそっ……!!」

 

 何も出来なかった。

 何もしてやれなかった。

 また俺は目の前で……!!

 

「さて。じゃあ始めようか」

 

 そんな煩悶を知らず、ぱちん、とギルガメッシュが指を鳴らして。

 目の前で、魔力が爆発した。

 

「なん、!?」

 

 それは魔力の氾濫だった。瀑布のごとく波を作った魔力は実体を伴って、俺とクロを押し流す。新都を燃やしていた炎すら消す勢いだ。

 急ぎクロを抱き寄せたが、足が地面についていない。奇妙な浮遊感に巻き込まれ、ずるずると道路を転がっていく。と、クロが、

 

「……嘘、なんで……」

 

「どうした!?」

 

「……大聖杯が、あの巨人の中に、二つ(・・・)ある……」

 

「な、!?」

 

……そうか。

 俺の世界の大聖杯。そして美遊の世界の大聖杯。その二つがこの世界に転移されたのか。それを起動する小聖杯も、奴はもう二つ確保している。

 つまり、盤面は既に埋まっていた。

 

「ははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!」

 

 奴の高笑いと共に、撒き散らされていた魔力が集束する。恐らく掛け値なしに、世界一つを創造するほどの莫大な魔力は凝縮されたことで、巨人の輪郭が崩れ始める。

 そして、ギルガメッシュは自身の身体すらも巨人に呑み込ませ。

 それが、生まれた。

 

「、な、んだ……!?」

 

 魔力の放出が止まった瞬間。数百メートルは奴との距離が離れたハズなのに、只でさえ煙で曇天だった空が更に暗くなっていく。

 いや違う。これは空が可笑しいんじゃない。これはーー影か?

 空を仰ぐ。

 そこに居たのは、

 

「……なんだ、あれは……!?!?」

 

 推定五百メートルにまで達した、神話の巨人だった。

 外観は泥人形に近い。だがとんでもなく形が歪んでいる。まるで達磨だ。頭と足がないくせに、上半身だけの姿で雲を突き抜けている。

 全身を構成する泥はぶくぶくと泡立つほど高熱を発しているようで、空から落ちてきた泥の一部は地面を溶かし、腐敗し、痕跡すら残さないと燃え上がる。しかし泥人形と言っても質量、硬度は桁違いであり、触れたビルや道路がーー新都が、瓦礫と化していく。

 歩いてすらいない。

 ただ顕現しただけで、この被害。

 

「……こんなのが、英霊……?」

 

 愕然としたクロに頷く。

 禍々しく、そして何と異様なことか。それは最早存在するだけで災害だった。それこそ世界すら容易に壊してしまうほどに、圧倒的な力。力の化身とでも言うべき、原初の大地にかつて立っていた巨人ーー神話の再現そのものだった。

 

「醜いね、確かに。こんな不出来なことになるとは流石に思わなかったけど」

 

 何処からか聞こえてくる、ギルガメッシュの声。奴の宝具か。

 目を魔術で強化すると、奴の胸部ーーイリヤと美遊が取り込まれた場所が見える。

 例えるなら、それは壁画だった。美遊と同じように、彫刻に似た見た目になった奴は、上半身を浮き上がらせて、

 

「けどま、脚本の都合って奴さ。クラスカードの劣化品なんかじゃ、いくら僕とはいえ聖杯二つを抱え込めばこうもなる。更にほら、美遊も居る。実質大聖杯三個となれば許容量も越えるさ」

 

 そんなことはどうだっていい。

 本当に、どうだっていい。

 会話が通じるなら聞きたいことは一つだけ。

 

「……イリヤと美遊は何処だ」

 

「な、……!?」

 

「……へえ?」

 

 クロは目を見開き、ギルガメッシュは感心する。対称的だが二人ともこう言いたいのだろう。

 まだやるのかと。

 この巨人を相手にまだ、お前は戦うのかと。

 

「何言ってるの……? もしかして、戦う気? 無茶よこんなの、英霊とかクラスカードとか、そんな馬鹿げた領域からも突出してるじゃない!?」

 

「そうだな」

 

「そうだなって……!? なんでそう、あなたは、いつも他人事なの!? お兄ちゃんのことなんだよ!? なのに!!」

 

「でも、勝たなきゃイリヤと美遊が死ぬ」

 

 その言葉に、クロは虚を衝かれた。

 正直に言うと、予感はしていたのだ。

……結局こうなってしまうんじゃないかって。どんなに手を尽くしても、あの時、この世界でエミヤシロウを殺した瞬間、俺は矛盾を抱えた。

 九を守るために一を殺す、正義の味方としての理想(現実)と。

 十を守り、一の犠牲すら許さない、正義の味方としての現実(理想)を。

 どちらも正しくて、どちらも間違っていて。

 お前が理想を裏切る限り。

 お前が現実を裏切る限り。

 その裏切ったツケは、全てお前と世界が支払うことになると。

 

「ごめんな、クロ」

 

 少女の髪を撫でる。

 告げる。

 

 

「泣いてる奴が、あそこに居る。だから、助けないと。だって俺は。

 

 

ーーみんなを守る、正義の味方だから」

 

 

……それをクロはどう思っただろう。

 一つの感情なんかでとてもでは言い表せない。悲しみ、怒り、同情、呆れ、そのどれでもあって。どれでもない気がした。

 しかし、最後に出てきたのは。

 仕方ないという、泣き笑いだった。

 

「……ずるいなあ……っ」

 

 クロだって、分かっていたのだ。

 俺に死んでほしくない。けどイリヤにだって、美遊にだって、死んでほしくないのだ。

 だから、止められるハズがなかった。

 

「全部理想でしかなかったのに……まだ、全部守ろうとするなんてさ……ほんと、馬鹿っていうか、お人好しっていうかさあ……」

 

「だな。自分でも、ちょっと驚いてる」

 

「加えて止まる気なんて全然なさそうだし……うん、じゃあ、仕方ない」 

 

 懐に居たクロを力一杯、抱き締める。

 この熱を心から忘れないように。

 この呼吸を耳から忘れないように。

……この少女と同じ二人が、待っていることを、魂から忘れないように。

 

「勝っても、何か得られるわけじゃないよ」

 

「分かってる」

 

「この世界がある限り、元の世界にはどうあっても帰れないんだよ?」

 

「それでも」

 

 自分に、クロに言い聞かせるように、

 

「俺は、もう二度と。目の前で誰かを失いたくない」

 

「……分かった」

 

 たん、とクロが小さく背中を叩く。

 それで離れた。

 

「いってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

「おう。そこから一歩も動くなよ。ここから、ちょっと激しくなるからな」

 

 最後に手を振り、それで優しい兄はおしまい。

 翻す。

 敵を目視する。

 それだけで、衛宮士郎は正義の味方になっていた。

 

「……流石にでかいな」

 

 雲を突き抜けるほどの巨重、何よりイリヤと美遊が取り込まれた箇所を目標と定めると、胸部まで三、いいや四百メートルはあるか。

 更にこの泥。掛け上がるにしても、ギルガメッシュの宝具ーー王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の妨害が来る可能性や、泥自体の侵食もある。矢筒から出すように投影したところで、土台ここまでウェイトに差があるとまず目標までたどり着くことすら難しい。

 で、あれば。

 こちらも全てを費やして、道を作らなければいけない。

 

 

I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

 

 俺が出来る魔術なんて、元よりこれだけ。

 なら他の魔術など何も要らない。

 魔力ならある。この世界の遠坂ともいざというときに備えて、ラインを繋いでおいた。

 だから怖いのは、もう戻れないということ。

 

ーーその黒い火傷。それが全身を埋め尽くしたとき、あなたは人間として、衛宮士郎として死ぬ。

 

 体は剣で出来ている。

 それ以上の言葉を重ねた瞬間もう、後戻りは出来ない。

 地獄の業火がお前を蝕むだろう。

 そう修道女は忠告した。

 その言葉は真実だ。

……今の俺はアンリマユの呪い、同じく固有結界持ちだったエミヤシロウの魂との融合、それらの極めて不安定なバランスの上で成り立っている。

 そんな中で心象をこの現世で塗り替えるという行為は、博打が過ぎる。

 何より忘れたか。

 そんな危険を冒したところで勝てるかも分からず、全てを守れるハズがないというのに、それでもお前は。

 

 

Steel is my body,(血潮は鉄で)and fire is my blood(心は硝子)

 

 

 勝手に言っていろ、と理性に唾を吐いた。

 そんなこと知ったことじゃない。

 お前こそ忘れたか。

 あの日。

 姉だと知った誰かの墓で、一日中泣いたことをーー!

 

 

I have created over a thousand blade(幾度の戦場を越えて不敗)

 

 

 守れなかった。

 また家族を、守れなかった。

 その無念でお前は学んだハズだ。

 全てを守るのなら、命くらい懸けろ。

 魂くらい燃やし尽くせ。

 それも出来ない正義の味方は、さっさと死んでしまえばいい。

 

 

Unaware of Death.(ただの一度も息が出来ず)Not aware of life(ただの一度も感じ取れない)

 

 

 導火線に火が点く。

 腹の火傷が惨めに警鐘を鳴らす。

 その冷や汗が出る事柄を、思考の外へ蹴り出した。

 

 

Stood pain with counterfeit weapons(遺子はいつも独り)

 

 

 目を凝らせ。

 回路を限界まで回転させろ。

 限界のその先を越えて、無限の理を掴め。

 

 

My hands will never unreachable anything(凍海に呑まれて溺れ逝く)

 

 

 脳が魔術行使に悲鳴をあげる。

 代償だと、脳を舐め回る賤しい呪い。

 いいだろう、脳みそでも目玉でも鼓膜でも鼻でも、みんなを助けられるなら喜んでくれてやる。

 だが、忘れるな。

 

 

If(それでも)

 

 

 記憶は誰にも渡さない。

 例え誰かの代わりだとしても。

 例えそれが罪の証だとしても。

 それは俺のモノだ。

 みんなが俺にくれたモノだ。

 だから、呪いなんぞに一片たりともくれてやるつもりはないーー!!

 

 

My flame someday ends(この生に意味があるのなら)

 

 

 そのとき、世界に異変が起きた。

 聖杯の魔力で満たされた新都に、不純物が混じる。その変化に気づいた巨人が何事かと、首をもたげた。

 

 

My whole life was(偽りの体は)

 

 

 地に、世界に、ガラスのように亀裂が走る。

 それはある種の革命だった。

 王様気取りのクソガキへ、またはこんな筋書きを用意した魔術師への。

 予定調和のバッドエンドなどクソ食らえ。

 俺がここに居る限り、そんな結末には絶対させない。

 

 

somebody(誰かのように)

 

 

 そして、世界が塗り替えられる。

 

 

 

unlimited blade works(きっと、剣で出来ていた)ーーーー!!」

 

 

 

 走る炎は夕焼けのような赤。

 天と地、正義と悪。その全てを心の境界へと連れていく。

 固有結界。

 心象で世界をひっくり返し、塗り替える大魔術。最も魔法に近いとされる魔術の最奥。

 そうして見えた世界は、赤銅色の荒野……ではなかった。

 まず、世界全てにノイズが走っていた。さながらブラウン管の砂嵐で、ざざ、と世界そのものが揺れている。

 そして世界も、その姿を一秒にも満たない速度で次々と変えていた。見覚えのある夕焼けの荒地、灰と火の粉を散らす歯車、凍りついた海……そしてそれらが混じってあべこべになった状態。

 まともではない。

 無論、俺自身の体もそうだ。

 

「づ、……ッ!!」

 

 腹が熱い。いや、全身そうか。立つことすらやっとだ。シャツを捲ってみると、腹は勿論、指先まで黒ずんでいた。

 固有結界を発動するだけで、呪いがここまで。

 しかし、休む暇などない。

 ず……という轟音の後、目の前に聖杯の巨人が着地した。

 

「……こりゃ驚いた。前とは随分様変わりして、相応になったじゃないか。特にツギハギなところが」

 

「言ってろ、英雄王。忘れたか、アンタご自慢の財宝は俺が全部叩き伏せたことを」

 

「ああ。ま、確かに認めるよ。この世界は僕と相性がいい。が、相性くらいで相手を選り好みする者を英雄だなんて呼ばないさ。それにね、一つ教えてあげないと」

 

 パキキ、と奴の口にあたる部分が三日月の形に裂かれる。

 

 

「ーーーー贋作者(フェイカー)風情が、蝿のように(オレ)の前を飛ぶな。不敬にもほどがあるだろう」

 

 

 それは、かつての奴を彷彿とさせる、絶対零度の殺気だった。

……今固有結界がどうなっていようと、それでも変わらないモノがある。

 大地に刺さる、無限の剣達。

 数多の剣はこの世界全てを埋め尽くし、俺という創造主を迎えてくれている。

 この固有結界の名は、無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

 俺がこれまで見たありとあらゆる剣は勿論、剣に限らず武具をこの丘に登録し、蒐集した世界。

 例えどんな姿になろうとも関係ない。

 近くにあった長剣を抜き取る。

 この重み、そして刀身。それだけあれば、この世界が剣の世界であることは何も変わらない。

 

 

「いくぞ、英雄王」

 

 

 だから今一度、問い掛けよう。

 あのときなし崩しに終わってしまった、戦争の続きを。

 世界の命運を分ける、本当の戦争を。

 

 

「武器の貯蔵は充分か?」

 

 

「ーーーーは」

 

 

 英雄王は嗤笑した。

 そして、背後に自身と同じ高さまで、数百メートルも王の財宝を展開した。

 

 

「思い上がったな、雑種ーーーー!!」

 

 

 巨人の咆哮が世界に響いた。

 それが合図。

 絶望的な戦力差の中、俺は手にある剣を振るった。

 

 

 

 

 

 








※注意※ ここから先はへんてこ振り返りコーナー、タイガー道場です。 本編のキャラやイメージを大切にしたい方、茶番などが嫌いな方は、ブラウザバックを推奨します。 しかし『SSFの意味は、そこまでにしておけよ藤村の意味でもう固定だからァ!』な方は、そのままゴー。



→1.はい

 2.いいえ



タ イ ガ ー 道 場 二 之 巻


タイガ「はーいみんな、おはこんばんちゃ!いつまでも心は18歳のボーイズ&ガールズ達に送る振り返りコーナー!タイガー道場、始めるわよ!今回も師しょーと!」

ミミ「弟子二号です、よろしくお願いします!」

タイガ「つーわけで本編、色々謎が明らかになったりならなかったりするわけだけど、弟子二号は分かる?」

ミミ「まあ何となくは。ただ分かりにくいですよね」

タイガ「つーわけで今回はみんなのために分かりやすく解説よ!」

Q.つまりどういうことだってばよ?

タイガ「はーい師しょー答えちゃうわよー。つまるところ、時系列的にはこうなるわけね」 

1.美遊、七歳を過ぎても神稚児としての力は所持、それが現在まで続く。

2.士郎達の世界でなんやかんやあーだこーだある(ここは今後のお話)

3.エインズワース、美遊兄、遠坂凛withバゼットとカレンで第六次聖杯戦争。

4.美遊兄、勝利して美遊に願いを叶えさせる。美遊、世界の移動開始。

5.直後、美遊兄がエインズワースの手により死亡。美遊はそのことを受け入れられず、美遊兄の願いの方向性を変更。

6.SNの世界に美遊転移。同時に美遊が幸せな世界=衛宮士郎が幸せな世界となり、士郎の記憶を基に真逆であるこの作品のプリヤ世界に改変。士郎を自分の作った理想の士郎と融合させる。

7.本編開始

ミミ「や、ややこしい……!」

タイガ「うん、大変ややこしい。つまりプリヤなどなかった、これに尽きるわね!」

ミミ「二次創作なので許してください……」

Q.あらすじと一話はなんだったの?

タイガ「美遊ちゃんの改変力のおかげよ☆」

ミミ「つまり詐欺です。ミスリードです。あ、完全な詐欺じゃなかったりするので、そこは一つ」

タイガ「あと宝石剣なぞなかったのだ!魔法などそう簡単にあるわけあるめぇよ!」

Q.そこが詐欺なら士郎の融合って第二魔法のトラップでもなんでもなくない?

タイガ「そうね。士郎は結局、美遊ちゃんが作った理想の世界の士郎、つまり家族と共に居る士郎と融合した結果、自己が崩壊しかけてて、更にそれを無意識に美遊ちゃんが理想の士郎へと徐々に改変していってたっていうのが大体のあらましかしら」

ミミ「師しょー。じゃあ凛さんやルヴィアさんはどうなるんですか? あの二人は?」

タイガ「お、いい質問ね、流石我が弟子。そこはまあ今後のお話で明らかになるわ! そう遠くない内に分かるからちょっと待っててね!」

ミミ「大体解説し終わったかな……? あ、あと英語のところは細かいこときにしないでください。ニュアンスが伝わればもうそれでいいってことで……」

タイガ「次回は皆さんおまちかねのバトル!まあそう簡単に勝てる相手じゃなかろうよ!」

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