コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「勿論、今直ぐに、とは行かないがな。
今、金を貯めている所だ。…まあ、半年もあれば借金の大部分を返済可能な額集まるだろう」
そうなれば利息も減るし、完済の目が──。そこまで言って、ルルーシュは皆の唖然とした様子に気付き「ん?」と言葉を止めた。
「いや、いやいやいや!九億円だよ?!」
「そんな額を引き受けるだなんて、幾ら先生でも…それに──」
スッと、混乱する皆の一歩前にホシノが歩み出る。
その表情は、声色とは裏腹に、目だけが笑っていなかった。
「─うへ、ごめんね。先生。それは受けられないや」
「…理由を聞いても良いか?」
「理由…。うーん。シャーレに助けを求めておいて言える事じゃないのかもしれないけどさ。
借金は、私達の問題だから。
─カタカタヘルメット団の件は、確かに借金が遠因とは言え、そうじゃないっていうか」
「─ふむ…何となく言いたいことは分かる。
確かに、武装勢力に襲われていた件は、借金による困窮で苦戦していたとは言え、そうでなくとも連邦生徒会へ助力を依頼してもおかしくない話だな」
「借金は間接要因ではあるが、武装勢力の件は別物、と考える事も出来る。
しかし、借金はそうではない。─そういう事か?」
「そんな感じ」
ふむ、とルルーシュは考え込む様子を見せる。
「納得出来ない?」
「いいや?しかし、本当にそれだけかと思ってね」
「…………」
「あの、私も前に、ホシノ先輩に言ったことがあるんです」
ノノミがそうおずおずと割って入る。
「あったね。ノノミちゃんのゴールドカードで払うだけ払っちゃおっかって」
「はい。その時も、先輩は反対されました」
「そうなのか」
「うん。…ちゃんと"私達"が返さなきゃ、アビドスは、アビドスじゃなくなっちゃう」
そうか。ノノミは確か実家が──。
なるほど。そういう事か。
「"カイザーローン"が他の何かに変わるだけなら確かに意味はないかもな」
「うへ、ま、そういうこと。やっぱり先生は話が早いね」
「それは、俺が君達を支配下に置こうとしているわけでなくとも、か。
まあ、口では何とでも言えてしまう事だな」
「先生が悪い人じゃないのは分かってるけど、でも、学校は実質先生のモノになってしまう。違う?」
そうだな。了解した、とルルーシュは頷く。
「では、私の提案は忘れてくれ。悪かったな。妙な事を言ってしまって」
「いやいや〜先生が私達を心配してくれてるのは分かってるよ〜」
ホシノはそうひらひらと手を振るが、ルルーシュは彼女の貼り付けたような笑顔に気が付いていた。
何の代償も要求せず、九億円を引き受ける?
話が美味しすぎる。
今まで散々連邦生徒会へ支援要請を出してきて受理されなかったのに、突然やって来て何の見返りもなしに私達を助ける"シャーレの先生"。
確かに、カタカタヘルメット団の件では助かった。
けれど、ルルーシュ先生には悪いけれど、正直先生は見返りなく何かをするタイプには見えないんだよね。
…どうなんだろう。本当は私の考え過ぎで、ルルーシュ先生は本当に私達を助けてくれてるだけなのかな。
でも、先生は私のこと警戒してるのは間違いない。
よく目が合う。──多分、観察されてるのかな。
だから分からない。先生が何を考えているのか──。
どんな"大人"なのか──。
まだ、"黒服"の方が理解出来る。出来てしまう。
だってあいつが求めてるものは、はっきりしてるから…。
ホシノは全てを押し殺し、にへっと気の抜けた笑みを、ルルーシュへと向けた。
「……しかし、そうなるとアイドルかな?」
彼は静まり返った場の空気を変えるように、そう冗談めかす。
「いや、何でそうなるのよ?!」
「わあ★先生なら分かってくれると思いました♧」
「私がプロデュースすれば間違いなくかなりの知名度まで押し上げられるだろう」
「ええっ!?」
「いや〜先生、凄い自信だね〜」
「アイドルの隆盛を決するのは結局の所、宣伝だよ。
中身も大事だが、それよりも印象、認知度が肝要だからな。広告媒体を押さえてしまえば自然と…」
「そんな身も蓋もない」
ルルーシュの冷めた視点にアイドル案を拒否していたセリカも困惑が勝っているようだった。
「方々から怒られそうだね〜」
「む…。だが、皆は5人だけだが其々個性的だ。売れる素養はある」
「ノリノリですね★先生!」
「要するに売り方の問題だよ。例えばシロコなら──」
「………皆さん!良い加減にしてください!」
アヤネの一喝。
これをきっかけに、その日の会議はそのまま流れる事になった。
─夕方。
柴関ラーメン。
「いや〜悪かったってば、アヤネちゃん。怒んないでよ〜」
「…怒ってません」
「…今日は私がご馳走するよ。な?」
「怒ってないですから!」
ルルーシュとホシノがアヤネに謝する光景を見、セリカが店の制服姿でため息を吐いた。
「なんでも良いんだけどさ、何でまたウチに来たの?」
「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」
シロコは気にせずアヤネにチャーシューを差し出し、アヤネもそれを大人しく口に含む。
その時、ガラガラッという音が店内に響き、来客を告げる。
「あ、あのう…」
入店してきたのは、自信なさげに銃を抱える軍装、のような服装の少女であった。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
セリカは、即座に営業スマイルを作り、飛んでいく。
「…こ、ここで一番安いメニューって、おいくらですか?」
「一番安いのは…580円の柴関ラーメンです!
看板メニューなので、美味しいですよ!」
メニューの書かれた木札を手で差しつつ、言う。
「あ、ありがとうございます!」
軍装の少女はセリカに頭を下げてからそそくさと店を出てしまった。
「ん?」
かと思えば、一分も経たず、再び店の扉が来客を告げる。
先程の少女の他に、三人の少女が加わって入店してきた。
「えへへっ、やっと見つかった600円以下のメニュー!」
小柄な、黒と赤を基調とした服とコントラストを為す真っ白な髪をこれまた黒のリボンで纏めている少女が嬉しそうに飛び跳ねる。
「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部、想定内だわ」
赤いロングヘアの側頭に立派な角を持ち、ブラウスの上にコートを羽織る少女が自信たっぷりに言ってみせた。
「そ、そうでしたか。さすがは社長。何でもご存知ですね」
「はあ…」
黒と白の入り混じる影のある雰囲気の少女がため息を付きつつ最後に入店する。
「4名様ですか?お席にご案内しますね」
「んーん、どうせ一杯しか頼まないから大丈夫」
セリカが席に案内しようとすると、小柄な少女に断られてしまう。
「一杯だけ…?でも、どうせならごゆっくりお席にどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」
「おー、親切な店員さんだね!ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて」
あ、と小柄な少女は席へ向かう前にセリカへ言った。
「わがままついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん」
「えっ?4膳ですか?ま、まさか一杯を4人で分け合うつもり?」
「ご、ごめんなさい!貧乏ですみません。お金がなくてすみません!」
さすがに驚きを隠せなかったセリカの反応に、軍装の少女が少々過剰なほどに謝罪され、セリカは困惑してしまった。
「あ、い、いや…別にそう謝らなくても」
「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!
虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません…」
「はあ…ちょっと声でかいよハルカ。周りに迷惑…」
軍装の少女、ハルカは白黒髪の少女に注意されたが、セリカがむしろ更に大きな声になる。
「お金が無いのは罪じゃないよ!胸を張って!」
「へ?…はい?!」
「お金は天下の回りモノってね。そもそもまだ学生だし!それでも小銭集めて食べに来てくれたんでしょ?
そういうのが大事なんだよ!」
セリカはそう言ってから、見守っていた大将の方へチラリと視線を向け、彼が頷くのを見てからハルカ達に言った。
「もう少し待っててね。すぐ持ってくるから」
「…何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」
「まあ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」
目を向けたられた赤髪ブラウスの少女はムッとした表情となる。
「アルちゃんじゃなくて社長でしょ?ムツキ室長。肩書はちゃんと付けてよ」
「ん?だってもう仕事終わった後じゃん。
ところで、社長のクセに社員にラーメン一杯おごれないなんて」
「………」
くふふ、と"ムツキ"にいたずらっぽく笑われ、痛いところを突かれた"アル"はうっ、と黙り込んでしまった。
「今日の潜入任務に投入する人材を雇うためにほぼ全財産使っちゃったし…」
「でもこうして実際ラーメンは口にできるわけでしょ?それぐらい想定内よ」
かなりの苦し紛れを言い張るアルだったが、「せめて4杯分は確保しておこうよ…」と正論で返されてしまうのだった。
「ぶちゃけ、忘れたんでしょ?ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」
「─ふふふ」
「はあ、まあ。リスクは減らした方が良いしね」と、白黒髪の少女、カヨコが言う。
「今回のターゲットはヘルメット団みたいな雑魚には扱えないってことには同意する。
でも、全財産をはたいて人を雇わなきゃいけないほど、アビドスは危険な連中なの?」
「それは…」
何とも言えない表情となるアル。
「多分アルちゃんもよく分かってないと思うよ。だからビビっていっぱい雇ってるんだよ」
「誰がビビってるって?!全部私の想定内!」
「失敗は許されない。あらゆるリソースを総動員して臨むわ。…それが我が"便利屋"68のモットーよ!」
「初耳だね、そんなモットー…」
「今思いついたに決まってるよ!」
そうしてワイワイと話す4人の下へ、セリカがラーメンを運んできた。
「お待たせしました!お熱いのでお気をつけて!」
机が揺れる程の音を立て置かれたのは、どんぶりから溢れんばかりの具材と麺が山となっている巨大ラーメンであった。
「ひぇっ!?何これ?!超大盛りじゃん!」
「ざっと10人前はあるね…」
「こ、これはオーダーミスなのでは…?こんなの食べるお金、ありませんよう…」
困惑する彼女らを他所に、セリカはあっけらかんと笑って見せる。
「これで合ってますよ。580円の柴関ラーメン並。ね?大将」
「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」
「大将もこう言っていることだから、気にしないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞー」
厨房へと去っていった二人を見送り、ハルカ達はラーメンを見上げる。
「わ、わあ…」
「よく分かんないけどラッキー!いただきまーす」
「これはさすがに想定外だったけれど、厚意に応えて、ありがたく頂かないとね」
お、美味しい!という4人の感動の声を聞きつつ、始終を見守っていたルルーシュはフッと微笑した。
こういうのを"粋"、というのかな。
しかし、小さくアビドスという単語が聞こえた気がしたが…。彼女達は、まさか…?
──。いや、それにしてはどうも間の抜けた、というか力の抜ける集団だが…。
考えるルルーシュだったが、アビドスの面々が件の少女達の方へと向かったので、丁度良いとばかりに付いて行くこととした。
「でしょう?でしょう?美味しいでしょう?」
「あれ…?隣の席の…」
「ここのラーメンは本当に最高で、遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」
「分かるわ。色々な所で色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンには中々お目にかかれないもの」
「えへへ…私たちここの常連なんです。他の学校の方達に食べていただけるなんて、なんだか嬉しいです」
アヤネが自分事のように喜び、言う。
「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」
アルとアビドスの娘達が談笑を始めた横で、便利屋の方ではムツキとカヨコがヒソヒソと言葉を交わす。
「連中の制服…」
「あれ、ホントだ」
アビドスの方では、ルルーシュがその様子を観察していた。
二人の様子をみるに、やはり、か?
アビドスに送られてきた刺客。
それで間違いなさそうだ。
「うふふっ!いいわ!こんな所で気の合う人たちに会えるなんて!
これは想定外だけど、こういう出来事こそが人生の醍醐味よね!」
アルちゃんは気付いてないみたいだけど?、というムツキの囁きに、カヨコはため息を付きつつ、「言うべき?」とムツキに確認する。
「面白いから放っておこ」
二人のヒソヒソとしたやり取りを読み取ろうと不自然でない範囲で彼女らに目線を向けつつ、ルルーシュは思考する。
……。いや、本当に刺客なら、これは演技か?
そうは見えんな。何が目的だというのだ。
人違いなのか?
カタカタヘルメット団が壊滅したとの報せを受けたルルーシュは、それでアビドスの襲撃が無くなるとは考えていなかった。
バックに何者かがいる以上、邪魔者、役立たずとして処分されたのだろうと予想していたのだ。
そして、新たな、より強力な刺客が立てられたのだろう、と。
アビドスがどうこうと聞こえた故に、アル達がそれだとルルーシュは疑った。
しかし、どうもそうは見えない、というのも、率直な感想であった。
やはり、演技なのだろうか──。
心底喜ばしそうな笑顔を見せるアルのそれが、演技であるとするならば、大したものだと、一先ずアビドスと彼女らの交流を見守るのだった。
「それじゃあ、気を付けてね!」
「お仕事、うまくいきますように!」
すっかりアルと意気投合したアビドスの面々は笑顔で彼女達を見送る。
「あははっ!了解!あなた達も学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!
じゃあね!」
殆ど確定だとは思うが、やはり信じられんな…。
ルルーシュはアビドスの皆に言うべきかを悩みつつ、彼女らの背を見送った。
まあ、どうせ直ぐに知ることになるのだし、折角の今日の後味を悪くするよりは、良いのだろうか…。
彼女達の余りに満面の、嬉しそうな笑顔を見てしまったルルーシュは、ついぞ、言い出すことは出来ずにその日を終えてしまうのだった。
「ふう…良い人達だったわね」
ラーメン屋を出てから満足そうなアルの言葉に、カヨコは唖然とし、ムツキは面白そうだ、という顔をする。
「…社長、あの娘達の制服、気付いた?」
「えっ?制服?何が?」
「アビドスだよ、あいつら」
数秒の沈黙。
「ななな、なっ、何ですってーーーー!」
カヨコの言葉の意味を咀嚼したアルは、天に響く叫びを上げるのだった。
第十一話です。
変わらず次回更新日は未定です。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。