コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐   作:ライト鯖

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Archive-017 "手段"と"結果"

 

「息苦しいー。もう脱いでも良いよね?」

「ああ。むしろここからは覆面を脱いでおいた方がバレにくい」

 

セリカは覆面を勢いよく取り、深く息を吸う。

ルルーシュ達は煙幕を利用して銀行やマーケットガードの追跡の目を晦ませ、上手く逃走に成功したのだ。

 

「でもまだ安心は出来ないよね〜」

「そうだな。急がなくては道路がマーケットガードに封鎖されるかもしれん」

 

予想通り、幹線道路は封鎖されつつあったが、煙幕の影響もあって上手く犯人の情報を共有出来ていないようで、覆面を脱いだアビドスの面々とヒフミは難なくマーケットガードの警戒を突破することに成功した。

 

「やった!大成功!」

 

人目に付きにくい場所へと逃れた一行はセリカの歓呼と共に漸く息を付いた。

 

『本当にブラックマーケットの銀行を襲っちゃうなんて…ふう…』

「全くだ。侵入するプランを立てていたというのに」

「そうなの?なら早く言ってくれれば良かったのに〜」

「お前達が聞かなかったんだろう…」

 

はあ、とため息を付くルルーシュに、ホシノは「ごめんごめん」と苦笑する。

 

「気付かなかったよ。…それでシロコちゃん書類はちゃんと持ってるよね?」

「う、うん──」

 

シロコは若干気まずそうに頷きながら、バッグを開けた。

 

「…へ?なんじゃこりゃ?!カバンの中に札束が?!」

 

ホシノが目を見開いて驚きの声を上げ、皆もバッグを覗き込み、同じく目を丸くさせた。

 

「うえええ?!シロコ先輩、現金を盗んじゃったの?!」

「ち、違う。目当ての書類はちゃんとある。

このお金は銀行の人が勝手に入れただけで…」

「まあ…。銀行強盗に金を渡すのはある意味常識的と言えるだろうな」

「うっ…」

「うへ、確かにねえ。……うわ、軽く一億はあるね…本当に5分で一億稼いじゃったよ…」

 

バッグの中身をざっと勘定したホシノの言葉を聞き、セリカは飛び上がる。

 

「やったあ!何ぼーっとしてるのよ!運ぶわよ!」

『ちょ、ちょっと待ってください!そのお金、使うつもりですか?!』

 

アヤネはポカンとしていたがバッグに飛び付かんばかりのセリカの様子を見て我に帰ったようだった。

 

「…なんで?借金を返さなきゃ!」

『そんなことしたら…本当に犯罪だよ!セリカちゃん』

「は、犯罪だから何?!私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!

それがあの銀行に流れてったんだよ!それに、そのままにしていたら犯罪者の武器や兵器に変えられてたかもしれない!

悪人のお金を盗んで、何が悪いの?!」

「私はセリカちゃんの意見に賛成です。

犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方が良いと思います」

 

ノノミが加勢し、セリカは勢い付く。

 

「ほらね!これさえあれば、学校の借金をかなり返せるんだよ!」

「んむ…それはそうなんだけど…シロコちゃんはどう思う?」

 

ホシノがそう、バッグを見つめるシロコに水を向ける。

 

「……自分の意見を述べるまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」

「へ?!」

 

セリカの驚愕の表情と、ホシノのどこか嬉しそうな笑顔は対照的にも見えた。

 

「さすがシロコちゃん。私のことわかってるね。

私たちに必要なのはお金じゃない、書類だけ」

 

ホシノはセリカを見据え、言う。

 

「今回は悪党の資金だから良いとして、次はどうする?その次は?」

「……」

「こんな方法に慣れちゃうと、ゆくゆくはきっと、平気で同じ事をするようになっちゃうよ」

 

そしたら、とホシノはいつになく神妙な面持ちで続ける。

 

「この先またピンチになった時…仕方ないよね、とか言いながら、やっちゃいけないことに手を出すと思う」

 

そして、うへ〜といつもの緩く冗談を言っているかのような笑顔へ戻る。

 

「おじさんとしてはカワイイ後輩がそうなっちゃうのは嫌だな〜」

「そうやって学校を守ったって何の意味があるのさ」

 

ホシノは今度はノノミに目を向ける。

 

「こんな方法を使うくらいなら、最初からノノミちゃんの燦然と輝くゴールドカードに頼るか、先生の申し出を受けてるよ」

 

確かに、人は一度してしまった選択には直ぐに慣れてしまう。

良くも悪くも。順応出来てしまうものだ。

結果だけを追い求めるのならば、それでも構わないのだろう。

だが、しかし──。

"手段"と"結果"。

何方も軽視してはいけないのだと俺は学んだ。

"結果"ばかりに囚われ、手段を蔑ろにしては、周りの人間がついてこれなくなる。

そうなれば、"結果"に辿り着く前に歪みが爆発する、してしまう。

 

だが、だからといって"手段"に拘泥し過ぎては、望んだ"結果"を得ることが出来なくなる。

"手段"は単なる道筋、"結果"を保障するものではあり得ない。

だから、双方を大切にしなくてはならないんだ。

 

結局の所、"結果"に説得力や納得感、或いは善悪を付与する事もあるファクターとしての"手段"。"手段"に意味を持たせるための"結果"、何方も欠かす事が出来ないもの。

ただそれだけのことだったんだ。

 

俺はそれに至るまで、随分時間がかかってしまったし、多くの"結果"によって思い知らされても来た。

 

─だというのに、俺はまた"結果"だけを見た提案をホシノ達にしてしまっていた、ということか。

繰り返さないようにしなくてはな…。

 

「──フッ」

 

となれば、ホシノが言ってくれている以上、ここは余り口出ししない方が良いか。俺が口を差し挟める事じゃない。

 

「何さ。先生」

「しっかりとした先輩をしている、と思ってな」

「あれ?私バカにされてる?」

「いいや?むしろ今のは私自身への自嘲さ」

「…?まあ良いや。とにかく、このバッグは置いていくよ。頂くのは必要な書類だけね。

これは委員長としての命令だよー」

 

しかし、セリカは納得出来ない、とばさりに声を張り上げる。

 

「もどかしい!意味分かんない!こんな大金を捨ててく?!変なとこで真面目なんだから!」

「うん。委員長の命令だから」

 

シロコはそう頷きながらバッグから書類だけを抜き取った。

 

「わ、私はアビドスさんの事情をよく知りませんが、このお金を持っていると何か他のトラブルに巻き込まれかねません」

 

ヒフミの言に、ルルーシュも首肯する。

 

「ヒフミの言う通りだ。何も紙幣の番号は連邦生徒会(発行者)にしか見えない魔法の数字ではない。

闇銀行でも、いや、なればこそ、全てではないにせよある程度管理、把握はしているだろう。

それを踏まえた上で起きうる最も分かりやすい危険性は、その金で返済した結果、闇銀行と繋がりのあるカイザーに変な言いがかりを付けられてしまう可能性が高くなる、という所か。

そして、そうなっては元も子もない。違うか?」

 

ルルーシュは自らの自省もあり、道徳的な面からの忠告はホシノに任せたが、現実的な観点からの忠告を行う。

 

「うう…それは…」

「仕方ないですよね。このバッグは私が適当に処分します」

「ほい、頼んだよ〜」

 

ノノミがバッグを担ぎ上げようとした時、アヤネの慌てた様子での通信が入って来た。

 

『何者かがそちらに接近しています!』

「追っ手のマーケットガード?!」

『い、いえ、敵意は無さそうです…人数も…ちょっと調べますね』

「とりあえず全員覆面を被り直したほうが良いだろうな。私は少し離れておく」

 

全員に覆面を被るよう言ってから唯一顔を隠せる物を持っていないルルーシュは物陰へと身を潜める。

 

『あれは…便利屋のアルさん?!』

「はあ…ふう…。や、やっと見つけた…」

 

アルは彼女達が銀行から飛び出した時には既に後を追い始めていた為、逃走方向だけは銀行の追っ手と違い把握出来ていた。

それ故に、後は逃げた方向、そして封鎖地点を突破した先を探すだけだったのだ。

 

「…!!」

 

アビドスの面々は当然アルの事を警戒していたが、彼女は「私は敵じゃないから!」と息を切らしながら手を振る。

 

「あ、あの…大したことじゃないんだけど…」

 

アルは相手がアビドスの生徒と知らずに、先程までの華麗な強盗さばきへの抑えきれない感動を伝えに来たのだ。

 

「銀行の襲撃、見させてもらったわ。

ブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略、見事に撤収…。貴方達、稀に見るアウトローっぷりだったわ」

「正直、すごく衝撃的だったというか…あんな大胆な事が出来るなんて感動的というか…」

 

しみじみと語るアルに、全員が困惑を浮かべていた。

 

「わ、私も頑張るわ!法律や規則に縛られない、本当の意味で自由な魂!そんなアウトローになりたいから!」

 

そ、そういうことだから、とアルは少し気恥ずかしそうに言う。

 

「な、名前を教えて!」

「名前…?!」

「組織っていうか、チーム名とかあるでしょ?正式名称でなくても良いから。

…私が今日の雄姿を深く心に刻んでいけるように!」

 

ホシノ達は顔を見合わせ、ボソリと呟いた。

 

(何か盛大に勘違いしてるみたいだね〜)

 

どうしたものか、という状況であったものの、ノノミが率先して前に出る。

 

「仰ることはよーく分かりました!

私たちは…人呼んで…覆面水着団!」

「覆面水着団?!」

 

さすがにそれはふざけてると思われるだろ…。

 

物陰からルルーシュは内心でツッコむ。

 

「や、ヤバい!超クール!カッコ良すぎるわ!」

 

う、嘘だろう…。

 

「うへ〜本当はスクール水着に覆面が正装なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで今日は仮面だけなんだ〜」

 

しかも何だその変な設定…。

 

「そうなんです!普段はアイドルとして活動していて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!…そして私はクリスティーナだお♧」

「だ、だお♧?!き、キャラも立ってる…」

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に孤高に我道を征く。…これが私達のモットーだよ!」

「な、何ですってー!」

 

あいつも相当変わったセンスをしているな…。

ルルーシュは自身のセンスに関しては棚に上げ、アルの独特なセンスに困惑していた。

 

しかもまだアイドルを諦めていなかったとは…。

 

しかし、そこでルルーシュはふとある思い付きを得ることになった。

 

覆面…。夜になると悪人を…。正義の…。

 

そして、便利屋68…、アウトロー。

…フッ。生徒の望みを叶えるのも、大事な仕事だよな。帰ったら準備を進めるとしよう。

 

思わぬ所で思わぬ閃きを得たルルーシュは、ニヤリと一人、笑うのだった。

 

丁度その頃、そろそろ逃げようとセリカに急かされたノノミがアルに向かって二本指を立て、ピッと軽く振る。

 

「それじゃあこの辺で。アディオース♧」

「行こう!夕日に向かって!」

「夕日、まだですけど…」

 

そそくさと立ち去る覆面水着団を見送ったアルは「よし」と一人意気込む。

 

「我が道の如く魔境を…胸に刻むわ。私も頑張る!」

 

漸く走り去ったアルに追い付いていた便利屋社員のカヨコとムツキはヒソヒソとアルの背中を見ながら囁きあった。

 

「いつ言う?」

「面白いから暫く放置で」

 

「あ、あの…」と、ハルカが一人、近くの茂みに隠すように置かれたバッグを持って出てくる。

 

「このバッグ、あの人たちが置いてったみたいなんですけど…」

「ん?これはまさか…覆面水着団が私の為に?」

 

アルのセリフに「それはないわ」とツッコミつつ、カヨコは忘れ物じゃないかと中身を確認した。

 

「!?」

「ひょええ!」

「こ、これは…」

 

 

数時間後。

アビドス高校へと戻ってきたノノミははたと立ち止まり、あ、と口にした。

 

「そういえば現金の入ったバッグ、置いてきちゃいました…」

「うへ〜。まあ良いんじゃない?どうせ捨てるつもりだったんだし、気にしない気にしない」

「うん。誰かに拾われるでしょ。きっと」

「でもその人が因縁を付けられたりしないでしょうか…」

 

「大丈夫じゃないか?」とルルーシュは言う。

 

「さっきはああ言ったが、幾ら闇銀行トップとは言え、一度使われてしまった金の使い主を追及した所で、出所なんて分かりっこないだろう。

流通してしまえば、それで終いだ。普通の人間は釣銭だとかレジに入れるだとかの紙幣番号なんて一々見ないからな」

「じゃあどうしてあんな脅かし方したのよ!」

「アビドスの場合は事情が違う。カイザーは闇銀行とも取引があり、アビドスの返済金を闇銀行に支払うような連中なんだ。万一にも盗まれた紙幣と同一の番号があると見つけられてしまえば、それを種に何を言うか予想出来ない。

カイザーと裏社会の繋がりが明らかになったんだ、取引のあるアビドスに他のどんなリスクがあるか分からない。

だから危険だと言ったんだ」

 

それに、とルルーシュはホシノを一瞥する。

 

「今のはリスクヘッジの話に過ぎない。

一番の理由は、ホシノが言った通りだろうさ」

「そだね。ちゃんとした返済方法で返さなきゃ、アビドスがアビドスじゃなくなっちゃうから」

 

結局、最後までセリカは納得しきれていない様子であったが、渋々と諦め、皆と教室へ戻るのだった。

 

 

同時刻。

──便利屋オフィス。

 

「覆面水着団がアビドスだったですってえええ?!」

 

真相を告げられたアルの叫びが、響いていた。

 

「あはははーアルちゃんショック受けてる〜超ウケる〜」

 

結局、バッグを拾ったのはアル達で、ハルカがご飯を抜かなくて良くなることを喜んだ為、アビドス生達の願望は奇しくも妙な形で叶うこととなったのである。

 

 

──アビドス高校。

対策委員会の教室へは戻ったものの、皆疲れてるだろうから、とりあえず一旦休憩しようと決め、アビドスでは束の間の休息が取られていた。

 

ルルーシュは人気がない教室でギアスによって配下とした後ろ暗い事のある金持ち達の一人へ電話をかけていた。

 

「ああ。その通りだ。それを出来るだけ早目に欲しい。無論、私の名は出すな。君自身も足跡を辿られないよう注意しろ。計画書は詳細な設計図と共に送る。それに従え、良いな?」

 

電話向こうの了承を聞き、ルルーシュが電話を切ると、アロナが話しかけてきた。

 

『先生、図面の出力は完了しましたけど…。これって一体何なんですか?…お面?…それにしては…』

 

アロナは、ルルーシュに頼まれて出力した"それ"の図面を見て訝しげに首を傾ける。

 

「ありがとう。まあ、来てからのお楽しみだよ」

 

とにかく、今はアビドスが最優先だしな、とルルーシュは電話をしていた相手へ暗号化したメールを送付してからシッテムの箱をしまい、アビドス生達の待つ対策委員会室へと戻るのであった。

 






今回も誠にありがとうございました。
次回更新日は変わらず未定です。

次回もまた、どうぞよろしくお願い致します。
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