コードギアス 教導のルルーシュ‐Archive Stories‐ 作:ライト鯖
「何これ?!一体どういうことなの?!」
奪った書類を読んだセリカは机を勢いよく叩き、激昂していた。
「現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万円集金したとある。私達の学校に来たあの輸送車で間違いない」
シロコも怒りと、混乱を滲ませながら書類の情報を纏めていく。
「…でも、その後直ぐにカタカタヘルメット団に対して任務補助金500万円提供って記録がある」
「…ということは、それって…」
「私達のお金を受け取った直後にヘルメット団のとこに直行してお金を渡したってことだよね?!」
「本当に、カイザーローンが背後に…」
アヤネはルルーシュの推測が正しかったことを知り、愕然とする。
「ど、どういうことでしょう?!理解出来ません!学校が破産したら貸し付けたお金も回収出来ないでしょうに…どうしてそのようなことを…?」
ノノミがそう混乱を顕にした。
「…十中八九、カイザーローン単独の仕業ではないだろうな。カイザーコーポレーションの息がかかっているのだろう」
シロコとヒフミがルルーシュの言に首肯する。
「そして恐らく、カイザーコーポレーションはアビドスの借金なんかよりも重要なナニかを狙っているのだろう。
現状、考えられるのは二つ。まず一つ目、アビドス自治区の掌握」
結局、Whyは見えてこなかったな。Howは大部分が明らかになったが…。
何故か奴らはアビドスを狙っている。その狙いは、学校そのものなのか、自治区なのか。
或いは、他の何かの為に、アビドスが邪魔だったからか──。
「自治区そのものを掌握して、カイザーにとっての天国、まあカイザー自治区とでも呼ぼうか?、を作ろうとしている。
二つ目は、アビドスを借金と学校の存続に意識を向けさせ、自治区の他のあらゆる問題に対処出来る力と意識を分散させる為、だな。
自分達のアビドスでの目的を悟らせないようにするため…」
或いは"カイザー自治区"を作り、後者をゆっくり実現する為、要するに二つの複合型か。
何にせよ、結局理由は曖昧なまま、だな。
結局、会議で結論は出ず、陽も傾き始めていたため、一先ず皆でヒフミを見送ることとした。
「皆さん、色々とありがとうございました」
「巻き込んでしまってすまなかったな」
「あはは…」
「今度遊びにいくから、その時はよろしく〜」
「はいっ。勿論です!」
元気よく笑ってから、ヒフミは表情を引き締めた。
「…まだ詳しいことは明らかになっていませんが…これはカイザーコーポレーションが犯罪者や反社会勢力と関連があるという事実上の証拠になります」
「戻ったら、この事実をティーパーティーに報告します!…それと、アビドスさんの現在の状況についても…」
ヒフミの言に、ホシノは微妙に眉を動かしつつも、殆ど表情は動かさず、言う。
「まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけどね」
「は、はいっ?!」
「確かに、アビドスがかつては巨大な学園であったことも考えると、ある程度は把握していると見るのが自然だろうな」
「でしょ?あんな規模の学園の首脳部が遊んでばかりなわけないだろうしさ」
ヒフミはショックを受けたようで、愕然としながら呻く。
「そ、そんな…知っているのに皆さんのことを…」
「うん。ヒフミちゃんは純真で良い子だね〜。
でも、世の中そんなに甘くないからさ〜」
「……」
「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、そっちに知らせた所でこれといった打開策が出るわけじゃないし、かえって私達がパニクることになりそうな気がするんだよね〜」
「そ、そうですか…?」
ほら、とホシノはアビドスの他校と比較すると小さな、旧い校舎を一瞥する。
「今のアビドスって廃校寸前じゃん?トリニティとかみたいなマンモス校からのアクションをコントロール出来る力がないんだよ〜。
言ってる意味、分かるよね?」
「…サポートする、という名目で悪さをされても、それを阻止できない…ってことですよね」
そうですね…とヒフミは目を落とす。
「その可能性もなくはないですね…。あうう…政治って難しいです…」
「でも…ホシノ先輩、悲観的に考え過ぎじゃないでしょうか?本当に助けてくれるかもしれませんし…」
ノノミがそう言ったが、ホシノは「うへ〜」お茶らけた声を出しつつもそれを否定する。
「他人の好意を素直に受け取れない汚れたおじさんになっちゃってね〜。"万一"ってことをスルーしたから、アビドスはこうなっちゃったんだよ」
「……」
沈黙。
ヒフミが気まずさを打ち消すようにして声を出す。
「えっと…本当に、1日で色々な出来事がありましたね」
「そうだね。凄く楽しかった」
シロコはそうフッと笑い、満足気に頷いた。
「…楽しかったのはシロコ先輩だけじゃないの?」
「あ、あはは…私も楽しかったです」
「いやあ〜ファウストちゃん。お世話になったねえ」
「そ、その呼び方はやめてください!」
「よっ!覆面水着団のリーダーさん!」
ホシノがからかい、それをきっかけに皆がワイワイと盛り上がり始めたのを利用し、ルルーシュはそっとホシノの近くに寄り、囁いた。
「ホシノ。良いか?」
「…どったの、先生」
ホシノは笑顔を維持しつつも、真面目なトーンで囁き返す。
二人はそのまま皆の輪の後ろへと自然に下がり、声を潜める。
「君の判断は正しいと思う。楽観視は余力が無ければ致命になり得るからな。最悪を想定する事は重要だ。だが…」
「だが?」
「カイザーの事は伝えてもらっておいて損はないだろう。連中に牽制の一つでもしてくれれば、此方への注意が散漫になるやもしれん」
「それでアビドスがカイザーの食い物にされてるって知られるんじゃない?」
ルルーシュは頷きつつも、「大した不利にはならんさ」と言ってみせる。
「カイザーコーポレーションはキヴォトス中に根を張る大企業だ。様々な学園が様々の形で繋がりを持っていることだろう。
カイザーに全く金を落としていない学園なんてないんじゃないか?
だから、カイザーとの取引関係自体は注目されないだろう」
「んん…そうかも…」
「アビドスの窮状をつぶさに報告されるのは不味いだろうが、カイザーが健全な取引の金を悪事に使っている、とだけ伝われば此方にデメリットがない」
「…それでカイザーの動きを少しでも牽制できれば、こっちが動く時間を作れるかも、ってこと?」
ああ、とルルーシュは頷いた。
「…じゃ、そこは先生に任せるよ。私が今から、やっぱりカイザーの事だけはちゃんと伝えてよ、なんて言えないし」
「了解だ」
丁度盛り上がりも落ち着いたようで、シロコ達はホシノとルルーシュの方に視線を向けて来る。
「二人で何話してたの?」
「ファウストちゃんをセンターにしたアイドルユニットなんてどうかなって話してたんだ〜」
「あ、アイドル?!どうしてそんな話が?!」
「詳しく話すと長くなるんですけど…復興政策の迷走の果てにそんな案が出まして…」
ヒフミの驚愕にアヤネがすみません、と苦笑しつつホシノの発言に説明を加える。
「あはは…と、とにかくこれからも大変だと思いますが、頑張ってくださいね。応援してます」
ヒフミはそう締めて、ペコリと会釈する。
「それでは、皆さん、またお会いしましょう」
去り際、ルルーシュはヒフミに少しだけ付いて行く形を取った。
「あれ、先生?どうかされたんですか?」
「いや。少しな。カイザーコーポレーションの件、裏社会に表の金を流しているという事実だけは、確実な報告を頼みたいんだ。
トリニティにもカイザーは出張っているだろう」
「え、ええ。コンストラクションやカイザーマートなんかはよく見ますね」
「トリニティにとってもこれは貴重な情報となるだろう。連中、怪しい噂は数あれど、尻尾は中々出さんからな」
「わ、分かりました。…ええと、では…アビドスさん達の窮状は強調せずに、カイザーコーポレーションの裏社会との繋がりだけをお伝えすれば良いんですよね…?」
「頼めるか?」ルルーシュはそうヒフミに目を合わせる。
「は、はい。私に上手く出来るかは分かりませんが、頑張ってみます」
「悪いな。この埋め合わせは必ず」
「い、いえ!困っている皆さんのお役に少しでも立てるならこのぐらい…!」
フッとルルーシュはヒフミの言葉に肩の力を抜いた。
「本当に純真だな。…そのままでいてくれ。
いや──」
そのままでいさせるのが、俺の役割、か。
「ありがとう。それじゃあ、ヒフミ」
「は、はい。それでは、また」
「ああ。気を付けて。変な所には寄り道するなよ?」
「あ、あうう…はい…」
アビドス生達の下へ戻ったルルーシュへ、シロコが「今度はヒフミと内緒話?」と寄っていく。
「いや?また今度、トリニティへ挨拶に行かせてもらうからよろしく、とな」
「ふーん」
「まあまあシロコちゃん。ジェラシーはそのぐらいにしとかないと。先生はウチだけの先生じゃないんだから」
「…なっ。そんなんじゃない。私はただ──」
「照れちゃって〜」
ホシノはシロコをからかい場を有耶無耶にするのだった。
「ま、まあとにかく、皆さんお疲れ様でした。今日はゆっくり休んで、また明日改めて集まりましょう」
最終的にはアヤネが場を収める形で解散を告げるのだった。
翌日。
アビドス校舎
ルルーシュは前日の夜にエンジェルマートの本社へ顔を出し、空き時間に練り上げていた経営方針と今後のプランを幹部陣に示してから、シャーレに戻って仮眠を取った後、午前中にアビドスへと来ていた。
アロナには睡眠時間の事を言われたが、ルルーシュとしては、まだカイザーの手の者による襲撃が起きる可能性が高い現状では、可能な限りアビドス内にいた方が良いと考えていたのだ。
L.Lとしての仕事の方が多くなってきたな…。
しかし、まだまだだ。
今までの非合理的な人事システムを改善するのは良いが、低賃金長時間の劣悪な労働環境を前提としたシステムで長くやっていたせいで、改善によって売上が落ちてしまっている。
出店地の見直しや商品開発でどうにか凌ぐ他ないが…。
全くバカバカしい。より多く儲けるために今の低賃金環境を作ったのだろうが、それが当たり前となってしまった結果、劣悪な労働環境で"なくてはならなく"なってしまうとは、本末転倒も良い所だ。
だが、逆に、一度まともな労働環境を前提としたシステムに変えてしまえばある程度落ち着くだろう。
─目下のエンジェルマートの問題は値上げが必須になるということだが、これもある程度までは抑える目処が立っている。
次回に幹部共に命じるべきは、各店舗に課された非合理的な仕入れノルマ。
これを撤廃…は、店長が愚者であった場合むしろマイナスになるから無いとして、引き下げだな。
仕入れコストが下がれば値上げをせずに済む。
同じく製造工場も大量廃棄を前提とした廉価な粗製乱造で対応しているようだから、此方も改善が見込める。
はあ、とルルーシュはため息をつく。
まあ、人の権利や健康を無視すれば稼げるシステムである事は事実だが。
本当にバカバカしいという感想以外、出てこないな。
悪循環を止めようともせず目先の利益にばかり目が眩む経営陣だったのだろう。
大人として最低な連中ばかりだ。
ともかく、経営さえ立て直せば、あそこは私にとっての強力な基盤となる。
そうなってから漸く始められる。
"騎士団"計画を。
思考を脳内で処理しつつ、ガラリ、とルルーシュは対策委員会室の扉を開ける。
「おはよー、先生」
入ると、ホシノがノノミの膝を枕にしてぐでんと寝転んでいる様子がまず目に入った。
「おはようございます。先生。今日は早いですね」
「まあな。しかし、随分リラックスしているな。ホシノ」
「ノノミちゃんの膝は柔らかくてサイコーなんだよ〜。私の特等席だもんね〜」
「先生もいかがです?はい、どうぞ〜★」
ノノミのからかいに、ルルーシュは「遠慮しておくよ。ホシノの特等席なのだろう?」と余裕のありそうな返答をする。
「そうだよー。ここはおじさんのの場所なんだから。先生はあっちの座り心地悪そうな椅子にでも座ってね〜」
「はいはい」
「私の膝は先輩専用じゃないですよう」
苦笑するノノミだったが、ルルーシュが傍を通る時、ぼそっといたずらっぽく囁いた。
「今度、誰もいない時にしましょうね、先生」
「は?お、おい!そういう事を軽々しく…」
「フフ…。先生も照れるんですね。かわいいです★」
「かわいいってお前なあ…」
余裕のある返答が出来る状態は脆くも崩れ去り、変わらぬ慌てっぷりを晒してしまうルルーシュ。
「みんな朝から元気だなあ」
ふわりとあくびをしながらホシノが起き上がる、
「のんびり出来るのは久しぶりですから。
今は皆、やりたいことやってるんでしょうね」
ノノミはそう言いながら、皆のいつもの定位置を順に見渡していく。
「シロコちゃんはトレーニング、アヤネちゃんは多分勉強に図書館…」
「ノノミちゃんは学校の掃除と教室の整頓をしてくれたよね〜」
「へえ。真面目だな。それで、先輩のホシノ委員長は何をしてたんだ?」
「私?うへ〜、意地悪な聞き方するね〜。私はちゃーんとここでダラダラしてたよー」
「ちゃんとって…先輩も何か始めみてはどうでしょう?バイトとか筋トレとか」
ノノミの苦笑しつつの提案に、ホシノは無理無理ーと手を横に振る。
「おじさんは年齢的に無理が聞かない身体になっちゃったからさ〜」
「歳は私達と大差ないだろ」
「うへ〜。とにかく、先生も来たし、他の皆もそろそろじゃない?
そんじゃ、わたしゃこの辺でドロン」
ホシノは言いながらゆっくりと立ち上がる。
「何処に行くんだ?」
「おじさんは今日はオフだからね〜。
適当にサボってるから、何かあれば連絡ちょーだい。ノノミちゃん」
ホシノはノノミにそう言い含め、ルルーシュに一瞬目を向けてからさっさと対策委員会室を立ち去っていった。
「ホシノ先輩、またお昼寝しにいくみたいですね」
「…そうみたいだな」
ルルーシュはホシノの去っていった扉を見つめ、腕を組みながらノノミに生返事を返す。
「先生?どうかされましたか?」
「……少しは信用してくれたものと思っていたが。
─どうも、私はまだホシノから完全に信頼されてはいないようだな」
「そう、でしょうか?」
「─いや、何でもない。忘れてくれ。
…ところで、ホシノは前からあんな感じなのか?」
ルルーシュはつい漏れ出てしまった言葉を振り切るようにして話題を切り替えた。
「いえ。随分、以前とは変わりましたよ」
「そうなのか」
ルルーシュは、やはり、というフレーズの方は口にはせず、呑み込む。
「今はいつも寝ぼけてるような感じですが、初めて会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」
「追われていた、か」
「はい。ありと、あらゆることに」
「それは、前の、アビドス最後の生徒会長がいなくなったから、という事か?」
ノノミは驚いたように目を上げ、頷く。
「よくご存知ですね。そうです。その人が去ってからは全てを、当時1年生だった先輩が引き受けるようになった、と」
…前の、最後の生徒会長が退学したのか転籍したのか、形式的には卒業をしたのかは掴めなかった。
アビドスはホシノや前生徒会長以前から廃校寸前だったようで、公的な記録が殆ど見当たらず、調べにくい。
だが凡そ調べた通りの話ではあるな。
ノノミの説明を聞きつつ、ルルーシュはアロナも手伝ってくれた情報収集の結果と照らし合わせていた。
「詳しくは私も知らないんですけどね…。
でも、今は先生や他の学園の生徒さんとも交流できますし…」
「以前なら、私は追い返されていたかな?」
「かもしれません。他の学園との交流も嫌がっていた筈なので、かなり丸くなりましたね」
きっと、とノノミはルルーシュに笑いかける。
「先生のおかげですね★」
「だと良いんだけどな」
ルルーシュは何処ぞ校舎の外へと歩いて行くホシノの後ろ姿を窓辺から見つめるのだった。
ここにいた時とは打って変わった様子だな。
……。いや、付いて行ったとしても、私は撒かれてしまうか。純粋に身体能力が違いすぎる。
ホシノ。
君にとってここは、心の底から安心出来る場所ではないのか?
いや、恐らく逆だな。それ故に、想いが強過ぎる故、なのか。
ホシノ、それが君の、守る為の距離、ということか?
ホシノは一人、アビドスの外れにあるビル、かつては何かの企業が入っていた、既に新たな主人を迎えたビルにやって来ていた。
いつにない堅い表情で。
「おや、これはこれは」
わざとらしい声を上げながらホシノの前に現れたのは、黒いスーツに身を固めた上、真っ黒い身体の、その表皮から顔のようなヒビ割れ、或いは光、オーラのようなものを漏れさせている、如何にも怪しげな存在であった。
「お待ちしておりましたよ。暁のホル…いや、ホシノさんでしたね。失礼」
いやはや、と黒スーツはホシノに椅子を勧め、自らも執務机に着席する。
「キヴォトスにはまだ馴染めていなくて」
ホシノは勧められた椅子には座らず、警戒心を顕にしながら口を開く。
「黒服の人、今度は何のようなのさ?」
「ふふ…。状況が変わりましてね。
今回は、再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」
"黒服の人"は書類を何枚か取り出し始めるが、ホシノは「ふざけるな!」と先んじて一蹴した。
「それはもう…!」
「まあまあ、落ち着いてください」
黒い服の人、黒服は余裕綽々に言う。
「お気に入りの映画の台詞がありましてね。今回はそれを引用してみましょう」
黒服は机に両肘を付き、顎の前で両手を組む。
そして、書類を纏めてホシノに向けて置いてから"引用"した。
「あなたに、決して拒めないであろう提案を一つ」
「どうかご清聴下さい」
黒服は、クックックッと楽しそうに、ホシノの食いしばる表情とは真逆にも思える声色で笑うのだった。
第十八話です。
次回更新日は変わらず未定です。
今回も読んで頂きありがとうございます。
また次回もよろしくお願い致します。